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    「咸鏡北道と羅先市少年団代表平壌到着」(2012年5月30日 「朝鮮中央通信」)

    飛行機に乗って平壌にやってくる少年団員の様子が「朝鮮中央通信」の動画で紹介された。

    動画を紹介する記事によると、「咸鏡北道と羅先市の代表、1600名が30日飛行機で平壌に到着した」とのことである。航空便を利用したのは、「平壌から最も遠い」からということであるが、島嶼でもない地域からやってくる子供に航空便を利用させるというのは異例である。動画には、高麗航空の旅客機から降りてくる子供たちが映っているが、皆興奮している様子である。一生を通して、平壌に来ることもさることながら、飛行機に乗ることができる朝鮮人民はほんの一握りであろうから当然であろう。

    私はむしろ、羅先市に旅客機が発着できる空港なんてあったのということに驚いたのだが、軍用空港を利用したのかもしれない。「朝鮮中央通信」も「この日、何回も特別飛行が組織された」と書いているので、軍用空港を利用して臨時便を飛ばしたのかもしれない。そもそも、平壌国際空港(順安空港)へは北京や瀋陽から(もしかするとロシアからも?)来る定期便しかなく、国内定期航空路など存在しないのではないだろうか(それに、平壌以外に民間空港などないのでは)。

    <追記:2012.5.31.>
    昨夜のKCTV「20時報道」を見ていたら、清津市の少年団が平壌に向かう様子が伝えられていた。

    清津市内から空港に向かうバスの中でインタビューを行っている。この小学生は、「飛行機で早く行くのはいいけれど、長く乗れればいいです」と話している。
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    Source:KCTV,http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2012-05-30-19.flv

    「清津空港」なのか軍用空港なのか分からないが、高麗航空機に少年団員が乗り込んでいる。よく見るとみな大きなリュックサックを背負ったまま乗り込んでいる。清津市内の出発式の映像では傘を差していた人もいたのでこの日は小雨。空港の地面も濡れているので、市内からさほど離れていないところにあるのであろう。
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    Source: KCTV,http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2012-05-30-19.flv

    少年団員が乗った飛行機を見送る人々
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    Source: KCTV,http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2012-05-30-19.flv

    <追記2:2012年6月2日>
    5月31日のKCTV「20時報道」を見ていたら、平壌ソンボク小学校での少年団関連の報道があった。その中に出てきたのが下の絵である。驚いたのは、その中に描かれている遊園地の電車である。これ、どう見ても日本の0系新幹線である。万景台創作社の画家が何をイメージして描いたのか分からないのだが、どこかの遊園地にこのような乗り物が実在するのであろうか。そうだとすると、これも制裁前に総連が中古品を日本から輸出したのであろうか。主体の国としては、車体の色を青と赤にするとか、一工夫あっても良さそうなものだが。

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    Source, KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2012-05-31-17.flv

    北朝鮮憲法:核保有国と明記

    北朝鮮の憲法改正については、4月に最高人民会議において「国防委員会委員長を永遠の委員長とする」、「第1委員長を創設する」などという点で改正されたという記事は書いた。しかし、その時に自分が書いた記事を振り返ってみると、nenaraに掲載された憲法条文は同サーバーの関係で確認することができないので、「後で確認する」としたまま、放置してあった。

    日本のメディアを見ていたら、北朝鮮の憲法に「核保有国」ということが盛り込まれたという記事が出ていたので、早速確認してみた。

    当該箇所は憲法の序文であるが、

    「김정일동지께서는 세계사회주의체계의 붕괴와 제국주의련합세력의 악랄한 반공화국압살공세속에서 선군정치로 김일성동지의 고귀한 유산인 사회주의전취물을 영예롭게 수호하시고 우리 조국을 불패의 정치사상강국, 핵보유국, 무적의 군사강국으로 전변시키시였으며 강성국가건설의 휘황한 대통로를 열어놓으시였다.」

    (金正日同志は、世界社会主義体系の崩壊と帝国主義連合勢力の悪辣な反共和国圧殺攻勢の中で、先軍政治で金日成同志の高貴な遺産である社会主義戦利品を栄誉として守護され、我が祖国を不敗の政治思想強国、核保有国、無敵の軍事強国に転変させ、強盛国家建設の輝かしい大きな道を開かれた。)

    となっている。

    憲法序文全体からすると、2009年憲法では金日成さんと金日成主義についてのみ書かれていたが、2012年憲法では「朝鮮民主主義人民共和国社会主義憲法は、偉大な首領金日成同志と偉大な指導者金正日同志の主体的な国家建設思想と国家建設事業を法律化した金日成-金正日憲法である」と書かれているように、「金日成-金正日主義」という、ある意味新しい概念を取り入れた憲法ということができよう。

    その意味からすれば、金正日さんの大きな業績の一つが核開発であるので、「核保有国」を盛り込むことは特段不思議ではないし、だからといって北朝鮮の核開発が進展したという証左にもならない。

    ともあれ、nenaraに新憲法が掲載されたのであれば、全文、目を通しみる必要はある。

    nenaraの2012年北朝鮮憲法条文(朝鮮語):
    http://naenara.com.kp/ko/great/constitution.php?1

    「朝鮮と中国間の協力に関する合意書調印」(2012年5月29日 「朝鮮中央通信」)

    事実関係だけを伝える短い記事であるが、「朝鮮民主主義人民共和国商標および意匠、原産地名事務所と中国国家工商行政管理総局との間で協力に関する合意文が平壌で調印された」と「朝鮮中央通信」が報じた。

    知的財産権保護や商標の扱いについて依然として大きな問題を抱える中国と北朝鮮が何を協力するのだろうかと考えてしまうが、中朝経済関係の一端を伝える報道である。

    <追記>
    北朝鮮側組織の名称だけに注目していたが、中国の「国家工商行政管理総局」について調べてみた。JETROのHPによると、同局は、

    「中華人民共和国国家工商行政管理総局(State Administration for Industry and Commerce of the People's Republic of China) (SAIC)(国家工商総局と略称)は中華人民共和国国務院が市場監督管理と関連する行政法執行業務を主管する正部級国務院直属機関であり、原中華人民共和国国家工商行政管理局から昇格した機関である。」

    JETRO:
    http://www.jetro-pkip.org/html/sfxz_64.html

    とあり、中国の市場経済システムの正常な運営を管理することもその主要職責としているようである。そうだとすると、今回の北朝鮮訪問は、知財権などの話をしに来たのではなく、中国の市場経済制度に関するレクチャーをするために訪朝した可能性がある。これが中国側からの求めなのか北朝鮮側からの求めなのかは分からないが、いずれにせよ、中朝経済協力を象徴する以上の内実があるのかもしれない。

    ウリミンジョクキリにアップロードされた動画を見ると、ここ数ヶ月の間に「朝鮮中央TV」は、金正日さんの中国訪問の記録映画を何編か放送したようであるし、5月29日にも金正日さんの「2000年5月29日-31日の非公式訪中」の記録映画が放送されたようである。単純に時期が重なるということだけなのかもしれないが、金正恩訪中に向けての準備が進んでいるのかもしれない。

    中国としては、金正恩訪中を受け入れる前提として、最低限、3回目の核実験を当分の間しないという約束を取り付ける必要があろう。さらに、中国が北朝鮮に求めてきた経済の改革・開放に向けて北朝鮮が肯定的な動きに出ることにも期待しているであろう。

    北朝鮮としても、干ばつにより食料生産が大きく減少することは確実な状況の中で、中国からの支援を取り付けることや中国の仲立ちで国際社会からの支援を取り付けること、さらには米国との対話の再開に期待を寄せているはずである。

    干ばつで再び朝鮮人民を苦しめないためにも、これを契機に北朝鮮が柔軟な態度を示し、国際社会がそれを受け入れるような流れはできないものであろうか。

    「<記録映画>敬愛する金正恩同志を頂き父なる首領様誕生100周年を盛大に慶祝」(2012年5月28日 「朝鮮中央TV」)

    ウリミンジョクキリにこのようなタイトルの「記録映画」が掲載された。約1時間半のとても長い記録映画であるが、4月15日を前後した金正恩さんの活動を動画で再確認できる。

    実は、金正恩さんが第4回次代表者会で第1秘書に推戴され、それと同時に党中央政治局員、政治局常務委員、党中央軍事委員会委員長に就いたのであるが、中央軍事委員会委員長についてはVOAのサイトから入手した党規約上で「総秘書」を「第1秘書」と読み替えて確認できたものの、党中央政治局員と政治局常務委員については何に基づいているのか分からなかった。ただし、「第4次代表者会進行」と題する「朝鮮中央通信」の記事の中で第1秘書以外にもこれら3つの職責に就いたと書かれていたので、その事実だけは確認できていた。

    今回、この動画の中のナレーションで、これら3つの職責について「労働党規約と最高指導機関選出細則により」と言っているので、政治局員と常務委員についてはこの「選出細則」によるものであると考えられる。どこかで公開されているのであれば、見てみたいものである。

    その他に、この動画には、金日成・金正日銅像の開幕式で、金正恩さんが涙する場面が大きく映し出されている。以前見た動画で、この場面が映し出されたか記憶は曖昧であるが、このブログ内を「金正恩 涙 泣く」などで検索してみたがそれらしい記事が出てこなかったので、もしかするとこの記録映画で新たに公開された映像なのかもしれない。

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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=9952

    また、金日成さんの若い頃の写真も出てくるが、髪型をまねていることもあり、金正恩さんはお祖父さんによく似ている。よく見ると、眉も剃るなどしてお祖父さんの眉の形に近づけているようでもある。

    若き日の金日成さん
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=9952

    党代表者会で第1秘書に推戴され手を振る金正恩さん
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=9952

    このところ、金正恩さんが遊園地や動物園を視察する動画が多く紹介されており、彼がテーマパーク・フリークのような記事も見受けられるが、その事実如何はともかく、朝鮮少年団創立66周年を記念し、全国各地から飛行機まで動員して2万人の子供たちを平壌に招くという行事が進行中なので、それとの関連もあるのであろう。事実、モランボン遊技場であろうか、テーマパークのアトラクションに乗っている子供たちの姿も「20時報道」で紹介されている。

    前にも書いたかもしれないが、私がモランボン遊技場の前を通りかかったとき、稼働している遊戯施設はなく、客の姿も見えなかった。案内員ドンムの説明では、「昼間は人が来ないので、労働者の仕事が終わった夕方から夜にかけて稼働させる」ということであったが、夜にその場所に行かなかったので分からない。確かに、電力が逼迫している中、人も乗っていない観覧車を回し続けるというのは浪費であることは間違いない。

    それにしても、やはり地方の子供たちは痩せている。平壌に招待されるくらいの子供なので、家族がそれなりの身分なのであろうが(報道では、平凡な労働者の子供と紹介はするものの)、それでも痩せているので、そうではない子供たちはもっと栄養状態が良くないのであろう。

    「朝鮮で干ばつ被害を防ぐための事業に総動員」(2012年5月26日 「朝鮮中央通信」)

    「朝鮮中央通信」が干ばつ被害防止対策の様子を伝えている。

    政府としては、「内閣と農業省では干ばつ被害を防ぐための緊急対策を樹立し、全ての部門、全ての単位でこの事業を群衆的に展開するよう組織政治事業を行っている」としているが、スローガン以外には事実上無策のようである。万景台遊技場の雑草などどうでもよいので、金正恩最高司令官は、内閣や農業省に押しつけるのでなく、緊急対策本部でも組織し、なぜ陣頭に立てないのか。最高司令官が陣頭に立ったからどうなるという話ではないことは分かりきっているが、少なくともそういう姿勢を朝鮮人民に示すことは、遊技場の草取りよりも信任を得られることは間違いない。

    「農村では、井戸などを整備保守し、揚水設備、畑の冠水施設をフル稼働し、圃場を覆ったり、河川の底を掘ったりするなどして、流水を全て圃場に向ける事業を展開している」としているが、これらの施設をフル稼働させるための資材や燃料は十分に供給されているのであろうか。さらにいえば、万景台遊技場の改良工事を行っている軍人建設者をこうした事業に向けるべきではないのだろうか。人民軍は、揚水機など、それなりの装備を持っているはずである。

    続いて、各地での干ばつ対策を紹介しながら、「灌漑体系をうまく利用する」、「干ばつの被害が著しい、トウモロコシ、ジャガイモ、小麦、大麦などに優先的に水をやる」、「農業労働者と支援者も毎日、多くの面積の圃場に水をやる」、「労力組織を実情に合うようにうまく使い、水源泉を効果的に利用し」、「アミノ酸複合肥料の散布」などを挙げているが、いずれも限界があろう。

    朝鮮半島での干ばつに関する、韓国建設技術研究院の趙鏞柱院長の参考になる資料があった。

    JICE REPORT vol.15/ 09.07 「干ばつ対策に関する小考」:
    http://www.jice.or.jp/report/pdf15/jice_rpt15_06.pdf#search=%27%E5%B9%B2%E3%81%B0%E3%81%A4%20%E5%AF%BE%E7%AD%96%27

    「持続する干ばつ現象」(2012年5月26日 「朝鮮中央通信」)

    「朝鮮中央通信」が農場における干ばつの被害を伝える動画を配信した。

    見るも無惨に乾いた地面はひび割れ、トウモロコシは茶色く枯れている。菜種油を採取するための菜の花はかろうじて枯れていないが、成長は止まっている。

    干ばつの被害を語る農場員の表情は非常に暗い。朝鮮中央通信の記者を「記者ドンム」と呼ばずに「記者先生」と呼んでいることからして、本当の農民であろう。彼は、今回の干ばつが今後、農村にどのような事態をもたらすのか分かっているのであろう。

    北朝鮮は、干ばつの被害をここ数日、繰り返し報じている。北朝鮮当局者もことの重大性を認識しており、「帝国主義者の食料支配」などと虚勢を張りつつも、国際社会に援助を求めているのであろう。動画に登場する農民は、「この干ばつ被害を防ぐために、最大限の努力をしている」と語っているが、こればかりは思想や努力ではどうにもならない。

    干ばつ関連の記事で何回も繰り返すが、金正恩政権は「朝鮮中央通信」を通じて惨状を訴えるだけではなく、より直接的に国際社会に援助を求めるべきである。国際社会も政権と朝鮮人民を明確に区分し、90年代のように「手遅れ」になる前に行動に出なければならない。「北朝鮮にはない」、「民主主義」と「人道主義」が我々が共有する価値観であるとするならば、手遅れになる前にそれを発揮すべきである。

    もちろん、まだ備蓄している食料がすぐに底をつくという状況ではないであろう。しかし、今干ばつで枯れてしまったトウモロコシの収穫期前にどうするか決めておかなければならない。

    枯れたトウモロコシ
    干ばつflv_000019118
    Source: KCNA, http://www.kcna.kp/goHome.do?lang=kor

    干ばつの被害を語る農場員
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    Source: KCNA, http://www.kcna.kp/goHome.do?lang=kor

    枯れたトウモロコシを指さす
    干ばつflv_000047118
    Source: KCNA, http://www.kcna.kp/goHome.do?lang=kor

    成長しない菜の花
    干ばつflv_000066118
    Source: KCNA, http://www.kcna.kp/goHome.do?lang=kor

    「50年ぶりの干ばつ現象」(2012年5月25日「朝鮮中央通信」)

    昨日書いた記事の続報が「朝鮮中央通信」に出ていた。

    それによると、こうした干ばつは50年ぶりということで、「4月26日から現在まで、西海岸地方で、30日間ほとんど雨が降らなかった」としている。そして降雨量は「平壌2mm、海州市5mm、平城市4mm、新義州市1mm、沙里院市0mmであり、克服できないほど少ない」と報じている。そして、「1日平均蒸発量は4~8mmで、土壌湿度は60%と非常に低い状態である」としている。

    また、「今月末まで雨が降らなければ、西海岸の大部分の地域の5月の降雨量が1962年以来、最も少なくなり、土壌湿度は55%程度と干ばつはさらに深刻になる」と予想している。

    「今、干ばつを克服するための事業が全群衆的運動として展開されている」としているが、雨だけは動員だけではどうにもならないということは明白である。

    食料不足が深刻になることを予想してか、「帝国主義の食料支配戦略を覚醒しよう」という記事を同じく「朝鮮中央通信」が配信している。非常に長い記事であるが、結局、米国を中心とした「帝国主義勢力」が食料市場を独占し、価格操作などを通じて食料価格を引き上げ、さらに開発途上国において農産物を収奪しており、その結果としてアフリカなどで深刻な食料危機が発生したという内容である。斜め読みしただけであるが、北朝鮮の苦難の行軍については直接的に触れられていない。しかし、予想される干ばつによるさらに深刻な食料不足の一因が、あたかも「帝国主義勢力」によるものであるというインプリケーションを持つ。

    そして「他人の米で腹を膨らますことはできないということだ」と結論づけ、その方法としては「ただ自給自足することにある」とし、「共同の努力で帝国主義者の挑戦に立ち向かうことが」必要であるとしている。実に、北朝鮮が採用してきた「自主・自立」の精神を正当化しようとする主張であるが、こんな主張でいつまで朝鮮人民を騙し続けるつもりであろうか。

    90年代の苦難の行軍では、朝鮮人民は飢餓で黙って死んでいった。しかし、2回目はそうは行かないのではないだろうか。金正日さんは、苦難の行軍の時代、陰に隠れて、亡くなった金日成さんを正面に立ててしのいだ。だから、朝鮮人民も偉大な首領様のために黙って死んでいったのであろう。ただ、今度は事情が違う。金正恩さんが正面に立っている。いくら、金日成さんのコピーをしても、限界がある。

    金正恩政権は、事態ををきちんと認識し、再び朝鮮人民を餓死させるような最悪の状況を招来させてはならない。「アラブの春」はIT技術により到来した。北朝鮮ではそれはないというのが私の主張であるが、「2度目の飢餓」はアラブの春よりも強力に、そして悲惨に北朝鮮の体制を崩壊させる可能性をはらんでいる。

    「朝鮮労働党中央委員会政治局常務委員会委員崔龍海朝鮮人民軍総政治局長は22日万景台遊技場改良事業を現地で視察した」(2012年5月23日「朝鮮中央TV」)

    金正恩さんが訪れ、その管理状態の悪さについて苦言を呈した万景台遊技場に崔龍海人民軍総政治局長が出向き、軍人建設者たちに指示をしたという報道である。

    KCTV:
    http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2012-05-23-16.flv

    「労働新聞」の関連記事:
    http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2012-05-23-0009&chAction=L

    金正恩さんが視察し、自ら草取りをするなどした万景台遊技場であるが、その際した「軍人建設者を派遣して改善させる」という公約どおり、改良工事が進行中のようである。その責任者として崔龍海さんが任命されたのかどうかは分からないが、現地に出向いて様々な指示を与えたようだ。

    その様子を見せる静止画が「朝鮮中央TV」で流されたのであるが、その大きさ、崔龍海さんが写真中央にいて「金正恩さんのように」指示を飛ばしている様子、そして紹介された写真の枚数が異様に多い。崔永林内閣総理もしばしば工場などに出向いて視察をしているが、これほど大きく映し出されないし、写真の数も多くない。

    やはり崔龍海さんは、金正恩体制の中で相当に核心的な位置にいるようである。崔龍海さんが失脚した際に彼の復権に尽力をした張成沢さんとペアで金正恩さんを支えているのではないだろうか。張成沢さんは、どちらかというとあまり正面に出ることなく、そして崔龍海さんは正面に出ながらという役割分担なのかもしれない。張成沢さんも金正恩さんの現地指導などに同行はしているが、あまり大きく映し出されることはない。金正恩さんと大きく映し出されたのは、金正日さんの葬儀の車列の写真だけのはずである。

    崔龍海さんも張成沢さんも軍人ではない。その意味では、発想的にペアを組みやすいのかもしれない。一方、人民軍側で金正恩さんを支えているのが李英鎬総参謀長であるが、崔・張ペアとこの人との関係はどうなのであろうか。李英鎬さんも、軍事(経済)視察団として、シンガポール・インドネシアに派遣するなど、金正恩さんは活用しようとしているが、棲み分けはどうなっているのだろうか。

    以下、万景台遊技場を視察する崔龍海さんの写真を掲載しておく。

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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2012-05-23-16.flv

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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2012-05-23-16.flv

    以下は、同時に紹介された万景台住宅建設現場視察の様子
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2012-05-23-16.flv

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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2012-05-23-16.flv

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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2012-05-23-16.flv

    「農作物に与える干ばつ被害状況」(2012年5月24日 「朝鮮中央通信」)

    北朝鮮で、4月中旬からの降雨量が少なく、干ばつによる農作物への被害が憂慮されている。

    朝鮮中央通信の報道によると「北朝鮮の東海岸地帯と北部高山地帯を除いた地域で、5月24日現在まで40日間、雨が殆ど降らず、40%の農耕地が干ばつ被害を受けた」としている。特に黃海南道の甕津郡などでは「トウモロコシの圃場当たり2~3株がしおれて枯れてしまい、枯れてはいないトウモロコシも種からの生育が停止するなど、その被害面積は数万町歩にも達している」としている。

    そして、この雨が降らない状態は6月中旬まで全国的に継続するであろうとし、農業生産への深刻な影響を憂慮している。

    平時でさえ食糧不足が深刻な北朝鮮で、干ばつによる被害が拡大すれば、第2の苦難の行軍という深刻な事態に陥らないとも限らない。あのときも金正恩さんが金日成さんから体制を引き継いだ直後であったので、もしかすると朝鮮人民は今回の世襲にそのときの恐怖を投影しているかもしれない。

    最終的に今回の干ばつが北朝鮮の食料生産にどれほどの影響を与えるかは分からないが、主食であるトウモロコシに大きな被害が出たとすると、カロリーベースで相当に深刻なことになるはずである。米国と北朝鮮が再び秘密接触を始めたという報道もあるが、是非とも2.29の精神に立ち戻り、米国は人道援助に踏み切って欲しいものである。北朝鮮国内での配分については、モニタリングの機会をできるだけ拡大するように北朝鮮に求め、必要な人に栄養援助が行き届くような工夫も必要であろう。北朝鮮側も特に核に関する2.29合意を積極的に推進するような態度を示し、失いかけている信頼を取り戻さなければならない。

    「北ミサイル発射前、米特使が平壌を極秘訪問」:「中央日報」
    http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120524-00000021-cnippou-kr

    金正日さんの遺訓が4月13日のロケット発射以外にないのであれば、それを明確に米国に伝え、前向きの交渉に入るべきであろう。

    「20時報道: 南浦市車両監督署で自動車安全技術検査場を新たに建設した」(2012年5月24日「朝鮮中央TV」)

    北朝鮮の南浦市に車検場が新たに建設されたというニュースを「朝鮮中央TV」が伝えた。

    http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=9913

    自動車保有台数が少ない北朝鮮、しかも地方都市と車検場という何とも言えない組み合わせに思わずこのニュースを見て笑ってしまった。ともあれ、自動車があれば、定期検査を行って安全に運行させるにこしたことはないし、北朝鮮とて、今後の展開次第ではモータリゼーションが進行しないとも限らない。

    検査場に入ってくるマイクロバス。検査場の雰囲気は、小規模ながらも日本の検査場と似ている。私はユーザー車検派であるが、昨年夏の車検を思い出した。マイクロバスは右ハンドルなので、朝鮮総連が制裁前に持ち込んだ中古車ではないだろうか。
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    Source: KCTV,http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=9913

    スピードメータとブレーキのテストをするマイクロバス
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    スピードメーター検査のやり方は同じようである。40km/hまで加速するところは分かるが、次に「押す」ものの朝鮮語の意味が分からない。「遠隔鍵」なので、やはり日本と同様にヘッドライトでパッシングをするのであろうか。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=9913

    排ガステストもやっている。日本から持ち込んだ中古車の排ガスは相対的にかなりクリーンであろうが、旧ソ連時代にソ連から持ってきた車や北朝鮮製と思われる古いトラックなどの排ガスは相当に汚いであろう。このマイクロバスはディーゼルエンジンを搭載しているはずであるが、ディーゼル用とガソリン用の排ガス検査装置がそれぞれ設置されているのかなどと考えてしまう。

    平和自動車が製造している新車はベースがフィアット等なので、排ガスはそこそこクリーンなのか。そういえば、平和自動車は南浦市にあったはずだ。南浦市は自動車の町なのか。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=9913

    平和自動車製のミニバンらしき車が下回りの検査ラインにいる。北朝鮮でも係官が穴の中からコンコンとハンマーで検査部位を叩くのであろうか。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=9913

    車検場の係官
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=9913

    私は日本と米国(ハワイ)以外でいわゆる「車検」を受けたことはないが、少なくともハワイのsafety check(だったか、正式名称は失念)はこのようなラインではなかった。日本と北朝鮮だけを比較した話ではあるが、両国の車検場のフローは実に類似しているような気がしてならない。朝鮮総連関係者が持ち込んだアイディアなのであろうか。

    「朝鮮外務省スポークスマン 朝鮮を不当に非難するG8宣言を排撃」(2012年5月22日 「朝鮮中央通信」)

    北朝鮮外務省スポークスマンが、朝鮮中央通信の記者の質問に答えるという形で、5月19日にキャンプデービッドで採択されたG8首脳宣言に反発する談話を発表した。

    2012 G8 Camp David Declaration:
    http://www.g8.utoronto.ca/summit/2012campdavid/g8-declaration.html

    G8宣言の北朝鮮関連部分であるが、「政治・安保問題」の部分に書かれている。それによると「北朝鮮の挑発的行動が地域の安定を脅かしている」とし、「2012年4月13日の弾道ミサイル技術を用いた発射」を安保理決議違反であると非難している。この部分では、訳出したように「発射」と書かれているだけで、それが衛星ロケットか弾道ミサイルかは明記していない。

    そして、北朝鮮に対し「核と弾道ミサイル計画の破棄」と「全ての国連加盟国がG8(宣言の実施)に参加」することを求めている。「全ての国連加盟国が」という言い回しではあるが、これは主として北朝鮮に対して大きな影響力を持つ中国に向けたメッセージであろう。これを受けてか、中国は米国のグリン・デービス特別代表との会見後、「米国と北朝鮮は、2.29合意を尊重するように」というメッセージを発している(下記、米国務省定例記者会見での記者の質問より)。この中国のメッセージは、北朝鮮に対して核実験を思いとどまらせるのが精一杯なのでボールを米国に投げたのか、あるいは核実験を思いとどまることとの交換条件として北朝鮮が米朝対話再開の下地を作ることを中国に求めてきたことの反映であろうか。

    また、「北朝鮮の、弾道ミサイルの発射と核実験を含む追加的な行為に対し、国連安保理が行動に出る」ことを求める意思を確認したとしている。ここで「追加的な」と書かれているが、これは4月13日のロケット発射については国連安保理議長声明で一応終わりとし、北朝鮮がさらなるロケット発射や核実験を実施することがないようにという警告であろう。さらに、北朝鮮の人権状況にも憂慮を示している。

    北朝鮮外務省スポークスマンの談話は、これを受けたものである。談話ではまず、G8宣言に対し「我々の平和的な衛星発射と自衛的な核抑止力を不当に非難することを断固として糾弾し全面的に排撃する」としている。そして米国の敵対政策が存在する限り「核抑止力は瞬間も止まることなく、拡大・強化されるであろう」と今後も核開発を拡大・推進するとしている。これは、米国が再び北朝鮮との対話に臨まなければ、その間に核開発、特にウラン型核爆弾の開発は推進されるという警告であろう。

    そして、「対話と交渉を通じて朝鮮半島の核問題を平和的に解決する道は依然として存在する」とし、「平和的発展に総力を集中させることに必要な朝鮮半島の平和と安定を保障するために、我々は米国側が提起した憂慮事項も考慮し、我々が2.29朝米合意の拘束からは脱したが、実際の行動は自制しているということを数週間前に通告した」とし、「行動は自制している」という表現を使いながら、米国に対して北朝鮮との協議再開を求めている。

    ところで、「数週間前に通告」としているが、これは何を意味しているのであろうか。これに関して、米国務省定例記者会見で記者と報道官のやりとりがあった。

    http://www.state.gov/r/pa/prs/dpb/2012/05/190621.htm

    記者は、「数週間前」を意識してかどうかは分からないが、「北朝鮮のロケット発射の前に米国政府の人間が北朝鮮を訪問したという報道があるが」と質問している。ヌーランド報道官は、「コメントすることはない」と逃げているが、もしかするとこの時に北朝鮮側から米国に対し「ロケットは発射するが、核実験はやらない」という「通告」があったのかもしれない。

    それを暗示するかのように北朝鮮は、「そもそも我々は、初めから平和的な科学技術衛星発射を計画したのであり、核実験のような軍事的措置は考えてもいなかった」と主張している。

    ヌーランド報道官は、これまでの主張どおり、北朝鮮がロケット発射という約束違反をしたので、これ以上同国を信頼することはできず、2.29合意の実現は不可能になったとしている。米国は、北朝鮮のロケット発射が金正日さんの遺言に基づいて「やむを得ず」実行されたと知りつつも、国内的にも国際的にもそれを見過ごすような弱腰な態度はとれないのであろう。北朝鮮もこれが「遺言」でなければあのタイミングで発射する必要もなかったであろうし、ましてやこれまでにない大失敗をするような準備不足の状態での強行をする必要もなかったであろう。ロケット発射の失敗について関係者が免責されているのは、金正恩さんの「恩情」強調するためであるという指摘もあるが、「大失敗」に至ったことについて「やむを得ず」ということを認めているのかもしれない。だからこそ、失敗をすんなりと認めているのであろう。もしかすると、外国人記者の前で失敗により恥をかいたことよりも、北朝鮮の「透明性」を強調する方に意義を見いだしているのではないだろうか(しかも、北朝鮮は金日成生誕100周年という、一大イベントの最中だったので、その様子もついでに報道してくれる)。

    この北朝鮮外務省スポークスマン談話は、米国を強く非難しつつも、その内容には米国に対するラブコールが含まれているということを見落としてはならない。

    「労働新聞」に掲載された同内容の記事:
    http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2012-05-23-0028

    「朝鮮-ノルウェーの親善発展に寄与した合同音楽会」(2012年5月17日 「朝鮮中央通信」)

    KCNAにこう題した動画が掲載された。ノルウェーで北朝鮮のアコーディオン楽団がA-ha!の"Take on Me"を演奏したということは過去記事に書いたが、今度はノルウェーの演奏者チームが平壌を訪問し、朝鮮人民を招いて演奏会を開催したという話である。

    http://www.kcna.kp/userAction.do?action=videoindex&lang=kor&newsyear=2012&newsno=538861

    とにかくこの動画をご覧頂きたい。会場で曲を聞いているのは、大学生や高校生ぐらいの朝鮮人民である。KCNAのカメラで撮影されていることは分かっているので、表情は若干硬いが、それでもTake on Meを楽しんでいる様子は伝わってくる。二人の高校生らしき女性が腕を組みながら聞いている。KCNAに撮影されて恥ずかしいからなのか、こんな音楽があったのと思っているからなのかは分からないが、楽しそうに見える。

    動画の終わりの方で、ノルウェー楽団の演奏者がインタビューに英語で答えている。朝鮮語字幕もほぼ正確に訳されているが、朝鮮語字幕にとらわれずに彼が言っている言葉をそのまま訳せば「ノルウェーと北朝鮮は、共に理解するための窓を創造していると思います。関心がある人がお互いに窓をのぞき込み、お互いを見て、理解をし合う」と言っている。この人の言っていることは、北朝鮮と我々がつきあっていくための本質ではないだろうか。会場でTake on Meを聞いて若い朝鮮人民は良い曲だ思ったに違いない。ただし、彼らの中には北朝鮮音楽があり、「それ以外にも」あるいは「それに加えて」ノルウェーにはこんな良い曲があるのだと思ったに違いない。北朝鮮とつきあうためには、北朝鮮を否定するところから入っては決してうまくつきあえない。北朝鮮の音楽も聞く、だけどノルウェーの音楽も聞いてもらう。北朝鮮と政治・経済的な利害関係や摩擦がほとんどないノルウェーだからできる態と言えばそれまでだが、それでも小さな窓からでも北朝鮮に風を吹き込む。その風は北朝鮮の体制を崩壊させる毒のある風ではない。一方で、北朝鮮側からの風にも当たる。

    この演奏会の模様が朝鮮中央TVで放映させるのか分からないが、より多くの朝鮮人民に見て欲しいものである。

    「成功裏な投資機会を作るであろう 平壌春期国際商品展覧会の参加者のための投資説明会開催」(2012年5月17日 「労働新聞」) 

    第15次平壌春期国際商品展覧会の機会に投資説明会が開催されたと「労働新聞」が伝えている。

    http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2012-05-17-0053

    この記事では、投資説明会で演説した朝鮮民主主義人民共和国合営投資委員会課長の金イルスンさんの演説内容を紹介する形を取りながら、北朝鮮の対外経済政策を紹介している。

    演説ではまず、「我が共和国政府は、協力と交流を基本的特徴としている世界経済発展の要請に合うように、国の社会主義自立経済の土台をたゆまなく強化・発展させる基礎の上で、外国と経済合作と協力を通した対外経済協力を拡大・発展させることにも強い関心を持っており、有利な投資環境を作るために積極的に努力している」とし、北朝鮮は「社会主義自立経済」を基本とした上で、世界的な潮流に合うように外国企業との関係を強化し、対北朝鮮投資がしやすい環境造成に努めているとしている。

    その法的根拠として、共和国社会主義憲法第2章37条の「国家は、我が国の機関、企業、団体と外国の法人あるいは個人との企業合営と合作、特殊経済地帯での様々な企業創設、運営を奨励する」という規定を挙げ、北朝鮮が1984年9月に「合営法」を制定して以来、1990年代の外国投資と関連した基本法である「外国人投資法」、「合作法」など、「20あまりの外国人投資関係法、規定を新たに制定したり、修正・補充することで、外国人の投資及び企業経営のための法的土台」を整備したとしている。最近では、過去記事で紹介した「朝鮮民主主義人民共和国羅先経済貿易地帯法」の補充・修正や新たに制定された「黄金坪、威化島経済地帯法」もその一環でといえよう。

    続いて、合営投資委員会の機能として「投資対象に対する審査承認、外国投資企業の経営活動に関する協力、海外投資管理、特殊経済地帯事業のような共和国の外国投資事業全般を管理」を挙げ、「国家の外国投資戦略を樹立し、それを執行する政府機関である」としている。また、同委員会は「国家の投資環境を改善することにおいて生じる問題を最高人民会議常任委員会と内閣、関連機関に建議」するとしているので、最高人民会議常任委員会や内閣に直属した高位の委員会であるといえる。

    また、今回のような投資説明会を通して外国企業に対北朝鮮投資を呼びかけることも同委員会の仕事で、「投資家に必要な情報を提供し、彼らの求めに応じて国内の会社、団体に対する信用確認をするという投資諮問サービス」も行っているという。

    そして、北朝鮮の海外との経済協力の現状について触れ、「共和国政府は、既に世界の数十カ国と双務的な投資奨励及び保護に関する協定、10カ国あまりと二重課税防止協定などを締結」しているとした上で、さらに多くの国々とこうした協定を締結していきたいという希望を示している。

    金課長は北朝鮮の経済を「独自の資源と技術を土台に、金属、採集(鉱業のことか?)、電力、機械、皮革工業と造船業、農業、水産業をはじめとした多方面な経済構造と大きな発展潜在力を持った自立経済」と評価している。教育が行き渡っており、国家プロジェクトのような部門(例えば、核・ミサイル開発)では北朝鮮の技術水準は決して低くないことは確かであるが、その「潜在力」を動員する資金と、それを「非軍事」に向ける政策が欠如しているのが最大の問題といえよう。皮肉なことにも、現状では北朝鮮は経済を非軍事化させる意向はなく、それが経済発展の潜在力を動員する資金導入の足かせとなっている。

    金課長の演説は、続いて投資企業に対する安全の保障と税制における特恵について説明している。その一つ一つの条項ということではなく、全体的な印象としては、実に90年代初期の中国政府による「開発区」内における外国企業に対する優遇条件と類似しているような観がある(そのころ、私は「中国の産業」に関する研究プロジェクトのメンバーとして、中国各地の企業や政府機関を訪問して聞き取り調査をしていた)。北朝鮮も「合営法」などの制定については、相当に中国の法律・制度をを研究したはずである。金課長は、北朝鮮のインフラについても高く評価しているが、実態をそのまま反映した発言だとは考えにくい。しかし、90年代初期に中国の「開発区」での説明もおしなべてその傾向が強く、現実的には土地・建物と労働者、そして水だけを提供し、その他は外国企業に任せようという考えなのであろう。

    いずれにせよ、上に書いたように「政治・軍事」と「経済」のジレンマを如何に脱却するのかが、北朝鮮の課題であろう。

    「平壌春期国際商品展覧会開幕」(2012年5月14日「朝鮮中央通信」)

    平壌では「第15次平壌春期国際商品展覧会」が開催されている。KCNAに動画が紹介されているが、北朝鮮企業の出展と中国企業の出展が殆どのようである。北朝鮮との経済関係を考えれば当然であるが、十分な購買力もなく展覧会を訪れる外国人も少ない北朝鮮で展覧会を開催するということは、「国際化」という象徴的な意味以外にないであろう。

    下の写真が会場の様子であるが、東京ビッグサイトの小展示場ほどの規模であろうか。
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    Source: KCNA, http://www.kcna.kp/userAction.do?action=videoindex&lang=kor&newsyear=2012&newsno=537677

    中国「長城汽車(Great Wall Motor)」のブース
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    Source: KCNA, http://www.kcna.kp/userAction.do?action=videoindex&lang=kor&newsyear=2012&newsno=537677

    中国製自動車のパンフレットを見る朝鮮人民(金日成バッジ着用)
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    Source: KCNA, http://www.kcna.kp/userAction.do?action=videoindex&lang=kor&newsyear=2012&newsno=537677

    2007年に北朝鮮と取引を始めた丹東の家電製品を扱う貿易会社の副社長(中国人)
    朝鮮語字幕には「朝鮮が強盛国家建設で成果を上げている時期に、我々はもっと優秀な製品を販売して朝鮮の消費者に喜びを与え」たいと書いてある。「有限公司」なので小規模な企業であろう。
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    Source: KCNA, http://www.kcna.kp/userAction.do?action=videoindex&lang=kor&newsyear=2012&newsno=537677

    オーストリアFHBヘンデルツ有限会社のブース。オーストリア人と思われる男性の横にいる女性は朝鮮人民の通訳か。このオーストリアの企業が何を扱っているのか分からないが、ポスターが貼ってあるだけのブースのようである。この企業をKCNAが大写しにしている点からして、中国以外の唯一の外国企業なのかもしれない。
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    Source: KCNA, http://www.kcna.kp/userAction.do?action=videoindex&lang=kor&newsyear=2012&newsno=537677

    「春の香り合作会社」の開城高麗人参化粧品の説明を聞く中国人女性。「合作」ということは中国との合弁会社であろうか。
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    Source: KCNA, http://www.kcna.kp/userAction.do?action=videoindex&lang=kor&newsyear=2012&newsno=537677

    冷蔵庫の説明をする朝鮮人民の女性(バッジ着用)。上の写真にある丹東の輸入業者が持ち込んだ中国製冷蔵庫(河南新飛電器製)であろうか。音声が途切れているのでよく分からないが、朝鮮人民の客は価格について質問しているようである。
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    Source: KCNA, http://www.kcna.kp/userAction.do?action=videoindex&lang=kor&newsyear=2012&newsno=537677

    北朝鮮企業(リョンハ機械)はCNC旋盤を展示している。
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    Source: KCNA, http://www.kcna.kp/userAction.do?action=videoindex&lang=kor&newsyear=2012&newsno=537677

    この展示会に際して、北朝鮮は投資説明会も実施している。これに関する「労働新聞」の記事については、別記事で紹介する。

    「朝鮮民主主義人民共和国最高人民会議常任委員会委員長金永南同志とシンガポール共和国大統領トニー・タン閣下会談」(2012年5月12日「労働新聞」)

    北朝鮮ナンバー2の金永南委員長一行がシンガポールとインドネシアを歴訪中である。

    http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2012-05-12-0005

    このところ、北朝鮮は対東南アジア外交を活発に展開しており、今週もラオスと高官の相互訪問を行っている。北朝鮮側からは、序列5位、朝鮮人民軍内では金正恩最高司令官に次ぐ実力者の李英鎬次帥がラオスを訪問している。ラオスは、北朝鮮同様、地下資源が豊富な国かつ社会主義国なので、その経験を視察するためにの目的も含まれていたと考えられる。朝鮮人民軍は、地下資源ビジネスも展開しているので、李英鎬さんが団長であったとしても、軍事交流以上に経済交流に重点が置かれているとみるべきであろう。

    「労働新聞」:「ラオス人民民主主義共和国民族会議代表団到着」
    http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2012-05-03-0029&chAction=S&strSearch=%EB%9D%BC%EC%98%A4%EC%8A%A4
    「労働新聞」:「朝鮮民主主義人民共和国高級軍事代表団ラオス人民民主主義共和国を訪問するために平壌を出発」
    http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2012-05-09-0007&chAction=S&strSearch=%EB%9D%BC%EC%98%A4%EC%8A%A4

    金永南委員長は、昨日シンガポール大統領と会談したとのことであるが、シンガポール大統領は象徴大統領で、実権は首相にある。少なくとも金正日時代までは、金永南さんにも強力な実権があるわけではないので、二人はバランスがとれているのかもしれない。北朝鮮側としては、シンガポールとの経済協力関係、特に対北朝鮮投資を誘致したいところであったのであろうが、シンガポール側は首相が出てくることもなく、どちらかというと冷遇をしている。「超資本主義国」、何事もビジネスと割り切っているシンガポールにとっては、北朝鮮は実に魅力のない国なのかもしれない。シンガポールの主要紙「ストレート・タイムス」のウェブサイトで確認したが、金永南さん一行がシンガポール・インドネシア歴訪に向けて出発したという「ソウル発」の記事が出ているだけで、大統領と会談したという記事は今朝の時点で見当たらなかった。

    金永南さんも李英鎬さんも、金正恩さんの指示でビジネスミッションとしての外遊であろうが、その成果はいかなるものか。今回の訪問でビジネスの話がまとまる可能性はほとんどないが、社会主義市場経済(ラオスではそう呼んでいるのかは分からないが)国であるラオスの経験と「超資本主義国」シンガポールとの人的交流を促進することで、北朝鮮の経済改革の道筋を探っていこうとしているのかもしれない。もう一つ考えられるのは、中国一辺倒から脱却するために東南アジア諸国との協力関係を深めようとしているということであるが、中国のように(特に経済的な)利益を度外視して北朝鮮とつきあってくれるような国は、その政治的立場や経済力からしても東南アジアには存在しないと考えた方が良い。

    これも金正恩さんの第2の労作にある「外国や国際機関との科学技術交流事業も活発に推進しなければなりません」という言葉の一環なのかもしれない。

    「童心を騙そうとするネズミ朴の嘘」(2012年5月8日「ウリミンジョクキリ」)

    北朝鮮の李明博さん攻撃は久しい前からピークに達しており、ここに書くような新たなネタもつきてしまった感がある。本ブログの過去記事に北朝鮮を「悪い子」に例えて書いたが、奇しくも李明博さんがこどもの日に500人の子供たちを前に北朝鮮は「悪い子」と発言したそうである。当然、北朝鮮はこれに反発し、標記のような記事をuriminzokkiriに掲載した。

    http://www.uriminzokkiri.com/index.php?ptype=gisa1&no=53398&pagenum=1

    それによると、李明博さんと子供たちのやりとりは次のようだったそうである。

    李:「言うことを聞かない子供は悪い子でしょ。」
    子供たち:「はい」
    李:「北が言うことを聞きません。悪い子でしょ。」
    子供たち:「???」

    同記事では、このようなやりとりを紹介した後で「子供たちを集めるのならば、遊戯娯楽で楽しませ、おやつの袋でもやれば『よいおじいさん』と言われるのに、『北』に対する認識さえない無分別な子供たちに『ネズミ朴観』(対決観)から植え付けようとするのは、意地悪なノルブですら泣くに違いありません。」と書いている。ノルブとは、朝鮮半島の童話「フンブとノルブ」に登場する意地悪な人であるが、李明博さんはそれ以上ということである。

    そして、上の李明博さんと子供たちの対話に対抗するかのように、

    父母:「お父さんが、悪い子の中でも一番悪い子はどんな子だと言った?」
    子供たち:「嘘をつく子供だと言いました。」
    父母:「歯なしのオオカミが良い羊だと言ってウサギを騙すように、MB(李明博)が嘘を言いながら子供たちを騙そうとしています。本当に悪い子でしょ。」
    子供たち:「はい。」

    話はこれだけであるが、例によって北朝鮮固有の表現は翻訳するのに苦労をする。今回は上の対話の3行目に「이발」という言葉が出てきたのであるが、韓国では「理髪」である。初めは「髪のないオオカミ」なのかなとも思ったのだが、韓国では「歯」のことを「이빨」とも言うので、あれこれ調べていたら「文化語」(北朝鮮の標準語)では「이발」がそれに該当することが分かった。

    ともあれ、子供たちをあまりこういうことに巻き込むのは良くないと思う。「5.1節」(メーデー)には、北朝鮮の各地で運動会が開催されたと「20時報道」が動画で紹介していたが、その中に李明博カカシに子供たちがいっせいに石を投げつける競技があった。軍人が李明博カカシをロケット弾で粉砕するのならまだしも、子供たちに石を投げさせるというのは全くいただけない。

    そんなことを書いていたら、実にグロなオンラインゲームがuriminzokkiriに出ていた。お子様には絶対にお勧めしないが、こんなものもあるということで紹介しておく。北朝鮮の学校では、子供たちにこのゲームをやらせているのであろうか。

    http://www.uriminzokkiri.com/contents/game/20120508.swf

    首にかけられている板には「名前:ネズミ明博、学名:ネズミ科ハツカネズミ族、罪名:世紀の大罪」と書かれている。背景にあるのは青瓦台である。いいのであるが、なぜBGMはウェスタンなのだろうか。

    「金正恩同志が万景台遊技場を回られた」(2012年5月9日「朝鮮中央通信」)

    明日の「労働新聞」の記事になると思うが、「朝鮮中央通信」でこのような記事が配信された。まず、文字による配信があり、その後、写真の配信があった。もしかすると、数日後にはKCTVの動画の配信があるかもしれない。

    「国土管理事業」の一環であろうが、金正恩さんが万景台遊技場を現地指導したという記事である。日本のメディアでも早速この記事は報じられ、「遊園地の雑草に正恩氏激怒…絶叫マシン建設指示」(「読売新聞」http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120509-00000987-yom-int)などというタイトルで金正恩さんがずさんな管理に「激怒」したことを強調しながら伝えている。

    「朝鮮中央通信」の記事には、「激怒」という文言こそ使われていないが、金正恩さんが現地指導をして「満足をしなかった」という内容の報道が実に珍しい、さらに言えば初めてであることは間違いない。そもそも、金正日さんや金正恩さんの現地指導の対象となる施設は、予め万端の準備をしているはずなので、金正恩さんが本当に「激怒」したのであれば、金正恩さんが抜き打ち的な訪問をしたのか、当該施設が金正恩さんを馬鹿にしたということになる。しかし、国営メディアが敢えて金正恩さんの不満を伝えていることからすると、これも何らかのメッセージを伝えるために仕組まれたものであると考える方が妥当である。

    では、記事の内容を見ていくことにする。

    まず、万景台遊技場は「過去、数十年間、人民と青少年・学生に喜びとロマンを与え、休息の一時を心ゆくまで楽しむことに積極的に寄与してきた」場所であると記事には書かれている。つまり、決して最近作られた新しい施設ではなく、金日成(あるいは金正日)時代に作られた施設である。

    「2階段遊技場」で金正恩さんは、「遊技場構内の道路が激しく割れているのをご覧になり、道路の舗装を最後にしたのがいつなのかを尋ねられ、道路管理をきちんとしていないことは情けないと指摘された」としている。写真の説明はないが、下記の写真がその部分に該当するのではないだろうか。ちなみに、金正恩さんが麦わら帽子をかぶっている姿は初めてである。確か、金日成さんも夏期に麦わら帽子をかぶって現地指導をしていたはずなので、これもそれを意識してのことであろう。

    万景台指さす金正恩
    Source:KCNA,http://www.kcna.kp/goHome.do?lang=kor

    次に、「二階回転観覧列車の出入り口が広すぎるので、まるで飛行場に来たようだ、何も考えずに大きくしたと指摘されながら、遊戯施設の区画が明白になるように分離帯を造れば、見た目もよく利用にも便利であると仰った」とこちらでも改善を指示している。

    また、「遊技場構内の歩道ブロックの間に雑草が生えているのをご覧になった敬愛する金正恩同志は、残念な表情をされ、一本ずつご自身で草を抜かれながら、管理者の目にはこのようなことが見えないのか、遊技場管理者が主人らしい立場と職場に対する愛着、人民のためにサービスしようとする良心があれば、このような仕事をすることができるのか、設備改善のようなことはできないとしても、人の手がありながら雑草もなぜ抜くことができないのか、遊技場がこんなに情けないとは考えも及ばなかったと、灯台下暗しとはまさにここのことを言うのだと激しい語調で語られた」とし、「激怒」したかのような様子が書かれている。

    草を抜く金正恩
    Source:KCNA,http://www.kcna.kp/goHome.do?lang=kor

    しかし、通常であれば、金正恩さんが上の写真のような姿勢で草を抜こうとしたとき、周囲の人間がやめさせて自らが草を抜くはずである。また、草が生えている場所や生育状態は、日本の公園や遊園地の基準からしても、決して「酷い」といえるようなものではない。ここからも、金正恩さんの行動が意図的なものであることが分かる。

    金正恩さんの指摘はさらに続き「芝生が整備されておらず、雑草が生えており、木々の背が高くなり遊戯器具に覆い被さっているのをご覧になって、遊技場の木々の管理が情けない」、「遊戯器具のペイントもきちんとしないまま運営している」とし、「管理者の人民に対するサービス精神がゼロどころかそれ以下であり、これは実務的な問題以前に思想の観点における問題であると厳しく指摘」したりしている。

    また、噴水が稼働していないことについて、さまざまな条件により稼働できないにしても「きれいにしておくこともできないでいるのか」と指摘している。確かに、電力不足の北朝鮮で噴水のために電動ポンプを常に稼働することは難しいのかもしれない。

    水遊び場にやってきた金正恩さんは、ウォーター・スライダーの着地点の水深が浅すぎて危険なので、水深を170cm以上にするように指導もしている。

    そして、金正恩さんは今回の万景台遊技場の現地指導が「我々の党の活動家の中に残っている古い思想観点をさらけ出す契機、古い仕事に対する考え方に終止符を打つ機会」としなければならないと指摘し、実のある仕事をするように求めている。

    そして最後に、朝鮮人民軍を万景台遊技場の改良工事に動員するよう現地指導に同行した崔龍海朝鮮人民軍総政治局長に指示をしたとしている。

    前をはだけて指導する金正恩さん
    はだけた金
    Source:KCNA,http://www.kcna.kp/goHome.do?lang=kor

    この記事は、決して万景台遊技場の不備を指摘し、担当者を処罰するためのものではない。むしろ、北朝鮮社会全般に蔓延している、実のない虚偽の報告や人民のことを考えない党幹部への戒めの意味が大きいのではないだろうか。金正恩さんが、こうした現実を直視しそれを改善しようとしているのか、それとも単なる人気取りのためのパフォーマンスなのかという判断を現時点でするのは尚早であるが、社会主義体制で為体した部分にメスを入れようとしているのかもしれない。

    それにしても、北朝鮮で命令通りに機能するのは朝鮮人民軍しかいなくなってしまったのであろうか。すると、「先軍政治」なしにはやっていけないのかもしれない。

    <追記:2012年5月10日 09:23>
    「朝鮮中央TV」が動画ではないが、さらに何枚かの写真を加えて金正恩さんの現地指導を伝えている。

    http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=9749

    これらの写真を見ると、明らかに老骨化したり管理状態が悪い様子が伝わってくる。

    ペイントのはがれた遊戯施設
    2012-05-09-11-yflv_000151640.jpg
    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=9749

    雑草が生えた噴水と思われる施設
    2012-05-09-11-yflv_000222040.jpg
    Source:KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=9749

    照明が十分でない射撃場
    2012-05-09-11-yflv_000300040.jpg
    Source:KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=9749

    また、視察の日は相当に暑かったのかもしれないが、肌着を露出しながら歩いている様子も映し出されている。今回の現地指導でも「人民に対するサービス精神がない労働党の活動家が1000万人いても役に立たない」と金正恩さんは述べているように、「労働党の活動家は人民の中に」というスローガンを意識した演出かもしれない。金正日さんは人民とは一線を画した位置にいつも立っていたが、金正恩さんは「人民の中へ」というスタンスなのかもしれない。どちらかというと、おじいさんの金日成さんがそのようなスタンスだったので、それにあやかろうとしているとも考えられる。若くして北朝鮮の最高権力者になった金正恩さんは、傲慢ではない人民に親しい指導者という人物像を造り出そうとしているのかもしれない。

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    Source:KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=9749

    「金正恩 社会主義強盛国家建設の要求に合うように国土管理事業で革命的転換をもたらすことについて 党・国家経済機関、勤労団体の責任者とした談話」(2012年5月9日「労働新聞」) 

    金正恩さんの「労作」第2作が「労働新聞」に掲載された。

    http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2012-05-09-0001

    「国土管理事業」ということで、農地、山林、水産、道路、環境問題など広範な国土開発事業について述べている。金正日さんがこのような問題について「労作」を残していれば、それと読み比べる必要があろうが、その作業をせずして敢えて述べるのであれば、北朝鮮が抱える問題を率直に認めながら、実現が相当に困難であると思われることも含めて、いろいろな提案がなされている。ここでは、そのいくつかを見ていくことにする。

    まず、平壌市の開発と地方都市の開発について述べている。平壌市の開発は「革命的首領観が打ち立てられた都市」として開発を続けなければならないとし、公園や遊園地の建設や緑地の造成を進めるべきであるとしている。最近、「朝鮮中央TV」は金正恩さんが、ルンラ人民遊園地の建設現場で強風によるほこりが舞い上がる中での現地指導の様子を伝えたが、これも国土管理事業の宣伝キャンペーンの一環であろう。

    KCTVの動画:
    http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?categ1=12&no=9661

    一方、「いま、地方がうまく開発されておらず」とし、地方の開発が遅れていることを認めて、さらに「道都所在地の開発を見ても地方別の特色がない」としながら、中央の指示に盲目的に従ってきた地方都市の開発を問題視し、「地方の特色が生かされるように」しなければならないとしている。そして、「地方の建設に対して中央で統制しすぎないようにし、地方毎に建設を地方の特性に合わせてできるようにしなければならない」と指示している。このことからすると、金正恩さんの構想としては、中央集権型の国家開発を弾力化し、地方の自治権を拡大しようという意図があるのかもしれない。もちろん、中央で負担しきれなくなったので、地方へ押しつけているという解釈も可能であるが、超中央集権体制の変革への兆しとみたい。

    次に、「いま、地方を回ると、土がむき出しになっているところが多く、見た目も良くないし、風が吹くとほこりが舞う」という地方都市の現状を描いている。そして、こうした状況が洪水を引き起こし、農地に大きな被害を及ぼしているとしながら、「荒れ地を一坪の農地にでもしようと努力している人が、本当の愛国者である」とし、さらなる土地活用を求めている。また、耕地整理が十分に行われていない点も指摘し、「人目に付かない農地」まで整理するようにと指示している。北朝鮮の農地改革・耕地整理は、金日成さんが韓国に先だち実施し、成功させたということになっているが、このような指示は金日成さんが実施した事業に不十分な点があったことを認めて、それを改善しようとする姿勢にも見える。

    山林保護については、「いま、我が国には、はげ山になった山がたくさんあります。地方に行くと、『山林愛護』、『青年林』、『少年団林』などと書かれた山でも木がほとんどない山が少なくありません」とキャンペーンと実態の乖離を指摘している。そして、10年以内にはげ山を全て緑の山にすることが「党の確固たる決心であり意思である」としている。山林を伐採し、農耕地を増やすという政策も金日成時代に「主体農法」の一環として進められた(はずである)が、結局、丘陵地の表土を流出させ、丘陵地での農耕が困難になっただけではなく、流出した表土により河川が浅くなり洪水を引き起こすなどの被害をもたらす原因となった。金正恩さんは、形式的な「かけ声」ではなく実質的な形での国土緑化を考えているのかもしれない。

    その例として、こんなことも言っている。「植林は、適地・適種の原則で行わなければなりません」。至極当然のことのように思われるが、北朝鮮のような超中央集権的な国家では、中央の指示で無条件同種の植樹がなされることは十分に考えられる。金正恩さんも金正日さんがどれそれの木が良いと指摘したが、他にも良い木はあるとして数種類の木を紹介している。この指示は、指導者の言うことに無条件、教条的にしたがうのではなく、各自が合理的な判断をすることを勧奨しているようにも読める。

    山林保護との関連で、「山林を保護するには、人民の燃料問題を決定的に解決しなければなりません」とも述べ、北朝鮮の特に農村地帯の燃料が蒔きに依然として依存していることを認めている。その解決の方策として、炭鉱の開発、メタンガスの開発、超無煙炭の活用などを挙げているが、いずれも北朝鮮の深刻な燃料問題の抜本的な解決策となり得るとは考えられない。

    交通インフラについては、「木の橋をコンクリートの橋に改造しなければなりません」、「高速道路の両側にガードレールを作らなければなりません」、「道路標識を国際的に通用する規格で作らなければなりません」などと述べている。平壌から開城に通じる高速道路を走ったことがあるが、中央分離帯も中央線もないだだっ広い直線道路である。走っている車もほとんどなく、運転ミスで道路から飛び出す以外には交通事故など考えられない道である(道路から飛び出したところで、周囲に通行人はいない)。そんな道になぜガードレールが必要なのか分からないが、要するに近代化をしたいということであろう。北朝鮮の道路案内標識はほとんど記憶にないが、高速道路に「ソウルxxKm」と書かれていたのだけは覚えている。

    水産資源については、「いかなる機関も魚種別に漁を禁止されている期間に漁をしたり、水産資源に被害を与える禁止された漁具や方法で漁をしながら、魚の生育条件を破壊し、幼魚を捕ることが絶対にないように厳格にに監督しなければなりません」とし、北朝鮮でこうした問題が発生していることを認めている。特に、水産物は対中国輸出の重要な産品の一つであるので、漁場を抱える沿岸地方で組織ぐるみの密漁が行われているのかもしれない。

    地下資源については、「国家の地下資源を大切にし、積極的に保護しなければなりません。今、わずかな外貨を稼ごうと国家の貴重な地下資源をむやみに開発し、輸出しようとしていますが、これは遠い未来を考えず目先のことだけを見ている近視眼的な態度であり、愛国心もないあらわれです」と現在行われている対中国地下資源輸出を批判している。そして「国家の地下資源開発を国家資源開発省と非常設地下資源開発委員会で検討・承認する手続きを厳格にし、地下資源をむやみに開発したり地下資源開発に無秩序さを作り出すことがないようにしなければなりません」と戒めている。何の輸出産業もない北朝鮮は、対中地下資源輸出を中止することはできないはずである。すると金正恩さんは、党組織や軍の利権と結びついている地下資源利権にもメスを入れようということであろうか。

    国土管理事業を推進するにあたり「外国や国際機関との科学技術交流事業も活発に推進しなければなりません」のべ、「国土管理と環境保護部門でも世界的な発展趨勢と外国の先進的で発展した技術を受け入れることが多いです」としながら、北朝鮮としては珍しく「ウリ式」よりも進んだ技術を進んで受け入れることの必要性を認めている。さらに「私がかねてから言っているように、インターネットを通して世界的な趨勢資料、外国の先進的で発展した科学技術資料を多く見られるようにし、代表団を外国に派遣し必要なことを多く学び、資料も収集してくるようにしなければなりません」と、北朝鮮の国境を越えたインターネットの活用や技術者の海外派遣も積極的に進めようという意思を示している。これは「労働新聞」の記事であり、金正恩さんの「労作」であるので、原則的には全ての朝鮮人民が「学習」すべきものである。そこでインターネットに言及し、その開放を思わせるような文言が並んでいるわけだが、読んでいてとても驚いた。この辺に金正恩時代の新しい風が感じられる。

    プロフィール

    川口智彦

    Author:川口智彦
    「크는 아바이(成長するオッサン)」

    ブログの基本用語:
    「元帥様」=金正恩朝鮮労働党委員長(上の絵の人物)、2016年12月20日から「最高領導者同志」とも呼ばれる
    2021年1月11日から「総秘書同志」
    「首領様」=金日成主席
    「将軍様」=金正日総書記
    「政治局員候補」=金ヨジョン(「元帥様」の妹)、2018年2月11日から「第1副部長同志」とも
    「白頭の血統」=金一族
    「大元帥様達」=「首領様」と「将軍様」
    「女史」=李雪主夫人(2018.07.26より「同志」に)

    우 그림은 충정 담아 아이가 그린 경애하는 김정은원수님이십니다.


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