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    「万民賞賛の大宝物庫として輝く国際親善観覧観に抗日の女性英雄金正淑同志の蝋人形館が新たに建てられ開館」(2012年4月25日「朝鮮中央TV」)

    金日成、金正日さんに加え、金正日さんのお母さんである金正淑さんの蝋人形ができたというニュースを「朝鮮中央TV」が伝えた。これも金日成生誕100周年の記念事業の一つであろうが、金正恩さんのお母さんである高英姫さんをこれからどのように朝鮮人民に紹介していくのかという関心もあり、動画を見た。

    http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?categ1=12&no=9520

    蝋人形自体は、北朝鮮が作ったのではなく、中国の「中国偉人蝋人形館」が贈呈した。開幕式には、同館の館長も招待され挨拶をしている。

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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?categ1=12&no=9520

    中国偉人蝋人形館館長
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?categ1=12&no=9520

    このニュースはそれだけの話なのだが、映像を見ていたら身長の低い軍人たちが映し出された。

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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?categ1=12&no=9520

    右横に立っている男性の背が高いので余計に目立つのかもしれないが、この軍人の一団の身長が極端に低いことが確認できると思う。恐らく、軍帽を脱げばもっと身長は低く見えるであろう。この映像にこだわるのは、実に、私が北朝鮮の検問所で目撃した軍人がそうだったからである。冗談ではなく、小学校高学年か中学校低学年の子供が銃を抱えて立っているのかと思ったほどである。これが、まさに「苦難の行軍」の後遺症である。この軍人の年齢は、二十歳を少し超えたぐらいではないだろうか。すると、北朝鮮で飢餓が発生した後期に生まれたということになる。幼少時代の栄養不足で身長が伸びず、大人になっても140cm~150cm前後にまでしかならないのであろう。

    北朝鮮の衛星発射で、米国は「栄養援助」を中断したままである。核・ミサイルと人道援助は切り離すとさんざん言ってきたのだが、結局「北朝鮮のように、ミサイルを発射しないと言っておきながら発射する、信用のできない政府では、栄養援助がきちんと必要としている人々に行き渡るか確信が持てない」という理由で中断した。北朝鮮による転用を難しくするためにわざわざ、食料ではなく栄養としたはずなのだが、それでも支給を見合わせた。

    結局苦しむのは、朝鮮人民であるわけだが、彼らに「アラブの春」のような革命を期待するのであれば間違いである。北朝鮮はアラブ諸国以上に閉鎖された国である上、携帯電話が平壌を中心に100万台普及したといっても、アラブ諸国とは比較できないほど少ない。また、アラブ諸国の神様はアラーで、指導者であるムバラクさんやカダフィさんは神様ではない。ところが、北朝鮮の神様は金日成さんである。神の言葉を伝える一人目の預言者、金正日さんは神と並び(銅像を見れば分かる)、今、若い予言者である金正恩さんが登場した。生まれてからずっと「父なる神は偉大なり」と教えられてきた彼らは、そう簡単に神を否定することはできないのである。

    ある学会で、北朝鮮の経済に関する発表を聞いて、フロアから「では、北朝鮮の人々というのはみんな馬鹿なんですか」という質問が出された。私もフロアにいたのだが、私が答えるのであれば、朝鮮人民は馬鹿ではないし、ごく普通の人々である。ただ、我々と唯一絶対的に違うのは、金日成という神様を固く信じているということである。

    米国対アラブ諸国、あるいはキリスト教対イスラム教という対立の構図は冷戦構造の中で築かれたものではない。一方、北朝鮮対米国、言い換えれば資本主義対社会主義という構図は、明らかに冷戦構造の中で築かれたものであるし、まさに、朝鮮半島の分断などはその落とし子のようなものである。しかし、冷戦が崩壊し、表面的には社会主義対資本主義という冷戦の構図を維持しつつも、実はキリスト教的倫理観に基づく民主主義と金日成教的倫理観に基づく独裁主義の対立へと変質したのではないだろうか。

    現状、金日成教的倫理観を短期間で転換させることは非常に困難であるといわざるを得ない。あるとすれば、甚大な被害を覚悟した上での戦争しかない。しかし、中長期的には金日成教を尊重しつつ資本主義の風を吹き込ませるという方法はある。その小さな例が、開城工業団地で働く北朝鮮労働者が韓国側経営者がおやつに出した「チョコパイ」を奪い合うように家に持ち帰った話である。「チョコパイ」のパッケージと共に、資本主義の風が北朝鮮に自然に吹き込んだのである。「チョコパイ」は金日成教を否定しないが、美味しいことも間違いない。では、金日成教の枠組みの中でどうやってこんなに美味しいものを作れたり食べられるようになれるのか、そんな微風である。その意味で、南北朝鮮関係が極度に悪化している中、双方に政治・経済的な理由があるにしても、開城工業団地を閉鎖しなかったのは南北双方の英断であると私は考える。

    悪い子はお尻をたたくだけではいい子にならない。「いい子にならなくてもいいじゃん」といって叱っても突っぱねる。ではどうするか。悪い子がそのまま悪い大人にならないように、いろいろと策を講じる必要があるのではないだろうか。その一方で、いい大人と思っている自分は、ほんとうにいい大人なのかということも自らに問い直さなければならないであろう。

    <追記:2012年5月10日 06:37>
    奇しくも、李明博さんがこどもの日に子供たちを前に、北朝鮮は「悪い子」と発言したそうである。それはそれでよいが、次期大統領への引き継ぎも含めて、この機会に「自分は、ほんとうにいい大人」だったのかも十分に回顧しておいて欲しいものである。

    「産経ニュース」:「北朝鮮、韓国大統領の「悪い子」発言に反発」
    http://sankei.jp.msn.com/world/news/120506/kor12050622050003-n1.htm

    「人民愛に支えられ完成した現代的な商業サービス基地 敬愛する金正恩同志が万寿橋魚・肉商店に来られて竣工を祝われた」(2012年4月26日「労働新聞」)

    金正日さんの指示で平壌の万寿橋に建てられた魚や肉を販売する大型店舗を金正恩さんが訪問したという記事が「労働新聞」に掲載された。

    http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2012-04-26-0008

    軍部隊の視察を中心に行ってきた金正恩さんだが、とりあえず第1秘書と第1委員長の肩書きを得たので、金正恩さん初の「労作」の中でも強調されている「人民生活の向上」に踏み出した様子をアピールしたいのであろう。

    販売店には、各種の魚、調味料、肉類(鳥、豚、牛など)が「豊富に並んでいる」と報道は伝えている。魚介類についていえば、北朝鮮は日本にも輸出していたほど魚介類が豊富な国であることは間違いない。経済制裁を課されている現在も中国には北朝鮮産の魚介類が並んでいるという。ただし、漁船の老骨化や燃料不足が原因で漁獲量が大きく減少しているのではないだろうか。また、せっかく漁獲した魚も中国向けに回されてしまい、国内にはあまり流通してないという話を聞いたことがある。それだけではなく、漁港から消費地までの輸送手段すら十分に確保できていないというのが現状であろう。

    そのような状況の中で、商業施設だけ大々的にオープンして稼働するのだろうかということを心配してしまう。これも、4月のお祭りに合わせた「花火」であろうから、「その後」についてはあまり考えていないのかもしれない。今のところ「労働新聞」に出た数枚の写真だけである。この記事のを紹介する動画はuriminzokkiriに出てきていないが、そのうちに掲載されるであろう。そうすれば、店舗内の様子がもう少しよく分かるかもしれない。

    しかし、その「数枚の写真」が実に興味深い。この日は雨であったのだが、金正恩さんに同行した党幹部などにはおつきが傘を差し掛けているが、金正恩さんには傘を差し掛けていない。記事には確かに「降る雨に当たり商店に到着された敬愛する最高司令官金正恩同志」と書かれているが、写真でそれを裏付けようとしている。「降る雨に当たり」という表現は、過去の北朝鮮指導者の視察でも使われていたが、私が「本当に雨に当たっている様子」が紹介される写真を見たのは初めてである。実に巧妙であるが、この話は間違いなく「神話」となっていくであろう。

    雨に当たる金正恩
    Source: 「労働新聞」、http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2012-04-26-0008

    雨に当たる金正恩さん、テープカットの後方中央の黒い服を着た人
    雨に当たる金正恩2
    Source: 「労働新聞」、http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2012-04-26-0008

    ところで、北朝鮮の記事は朝鮮語で読んでいるのであるが、時々分からない言葉が出てくる。後で書こうと思っている金正日さんの母である金正淑さんの蝋人形ができたという記事で、「랍상」という言葉が蝋人形であるかを確認したくて「朝鮮中央通信」HPを日本語に切り替えてみた。そしたら「蝋像」と書かれており意味は確認できたのであるが、ついでに他の記事のタイトルも見ていたら、実に日本語がまずい。

    なにが「まずい」のかというと、金正恩さんに対する敬語がきちんと使われていない。朝鮮語では、これでもかというほど金正恩さんに敬語を使っているのに、例えばこの記事のタイトルは「金正恩同志、万寿橋魚・肉類商店に出向いてしゅん工を祝う」(ママ)となっている。漢字が書けてないのはまだしも、「出向いて」とは何事か、と日本人民が怒る話ではないのであるが、せめても私の翻訳ぐらいにはしておかないと「まずい」のではないだろうか。朝鮮総連のイルクン(活動家)は、もっと日本語指導をした方が良い。平壌を案内してくれた外語大(日本語科)卒の案内員ドンムたちの日本語は非常にうまかったのであるが。

    いつもは朝鮮語で見たり聞いたりしているのだが、「李明博逆徒」を攻撃する中傷誹謗の雑言の日本語訳は傑作である。思わず笑ってしまった。

    <追記: 2012年4月27日 16:53>
    やはり、uriminzokkiriに視察の様子を伝える「朝鮮中央TV」の動画が掲載された。

    http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?categ1=12&no=9534

    上の記事に書いた「雨に当たる」部分も出てくるが、動画では店内の様子をいろいろと伝えている。

    「North Korea redefines 'minimum' wage」(2012年4月24日「Asia Times Online」)

    「Asia Times Online」に韓国・国民大学のAndrei Lankovさんが書いた記事が掲載された。

    http://www.atimes.com/atimes/Korea/ND25Dg03.html

    タイトルは「北朝鮮が『最低賃金』を再定義する」であるが、そもそも最低賃金だけではなく、北朝鮮は賃金体系など明らかにしていない。Lankovさんの記事を読むと、どうやらLankovさんが北朝鮮の賃金について分析をするということのようである。

    現在の北朝鮮は配給と市場が混在する「二重経済」の状態にあることは間違いないであろう。ただし、その時その時の政策、むしろ命令といった方が良いかもしれないが、により市場の規模や自由度が伸縮している。ここまでは、理屈として分かっているのであるが、その中で朝鮮人民が配給と賃金を使い分けながら、どのように生活しているのかというのは、ほとんど想像がつかない。ましてや資本主義の世界でしか生活をしたことがない私にとってはそうである。

    しかし、Lankovさんは、Wikipedia情報が正しければ、1963年にレニングラードで生まれている。したがって、青年期ぐらいまでは、社会主義を身をもって経験しているわけで、私がする想像以上の実感をもって北朝鮮の経済状況、とりわけ庶民の暮らしについて語ることができるのであろう。

    http://en.wikipedia.org/wiki/Andrei_Lankov

    もちろん、そのLankovさんにとってすら、朝鮮人民の経済生活の実態は、脱北者情報などを通じて知る以外にないのが現状のようであるが、彼は恐らくそれとソ連社会主義の実体験を結びつけて分析しているので、客観性も説得力もあるように思える。

    私は、Lankovさんと面識はないのだが、機会があれば是非お目にかかってお話を伺ってみたい方の一人である。英文の記事であるが、一読する価値は十分にある。

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    「Three messages from Pyongyang's party」(2012年4月24日「Asia Times Online」)

    「Asia Times Online」に久しぶりに「北朝鮮の非公式スポークスマン」であるKim Myong Cholさんの記事が掲載された。

    http://www.atimes.com/atimes/Korea/ND25Dg01.html
    http://www.atimes.com/atimes/Korea/ND25Dg02.html

    過去にKim Myong Cholさんの記事が出た際にも、その記事に関する私の記事を書いたが、今回も基本的には北朝鮮がアメリカの複数の都市を「蒸発させる」ことができる「何百発」もの核爆弾と車両による移動型も含む弾道ミサイルを保有していると主張している。

    Kim Myong Cholさんは、何でも「世界戦略軍司令部(the command of the global strike force)」に連れて行かれて、自分の目で移動型も含む複数のICBMを見たそうである。これは、太陽節の閲兵式で登場したICBMのことを言っているのであろう。このICBMについては諸説あり、ドイツの専門家が分析した結果「模型」であることが判明したという報道もある。

    「聯合ニュース」:「「北朝鮮のミサイルは実物大の模型」=ドイツ専門家」
    http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120424-00000038-yonh-kr

    北朝鮮は、衛星発射に失敗した。移動型のICBMを閲兵式で公開したのは、衛星発射を前提に「衛星ロケットだけではなくミサイルもあるんだぞ」ということを誇示しようと準備されたものであろうが、結果としては「衛星ロケットは失敗だったが、ミサイルはいっぱいあるんだぞ」ということになってしまった。今回、Kim Myong Cholさんが「自分の目で見た」ことを強調しているのは、その流れであろう。考えようによっては、衛星発射に失敗したので、急遽ミサイル模型を作らせたともいえようが、ミサイルの模型は作れたとしても、実際に動く運搬車両まで数日間で作り上げるのは、さすがの北朝鮮でも不可能であろう。

    Kim Myong Cholさんは、米国を攻撃する兵器として、高高度核爆発(HANE:High altitude nuclear explosion,)によって発生する強力な電磁パルス(EMP:electromagnetic pulse)を用いた兵器について色々と述べている。米国上空でそれを引き起こす実力は現時点で北朝鮮にありようもないが、過日の「特別作戦行動小組」が開始するという「「革命武力の特別行動は、いったん開始されれば、3~4分、いやそれよりももっと短い瞬間に今まであったことのない特異な手段と我々式の方法」とはこのことを言っているのかなという気がしてならない。HANEについてほとんど知識がないので想像の話ではあるが、北朝鮮が持っている核弾頭を装着した短距離ミサイルをソウルの上空に打ち上げて、そこでHANEを引き起こせば、理論上、ソウルの機能はストップしてしまうはずである。

    もちろん、現在の北朝鮮の技術ではそれが成功する確率は相当に低いと思われるし、そんなことをすれば全面戦争に繋がる可能性が大なので、実施するとは考えにくいが、「できますよ」と言って威嚇するには十分に迫力があるし、EMPで武装解除させられた韓国に朝鮮人民軍が乗り込み、無傷の韓国民や生産施設(EMPのダメージは受けているにしても)を手に入れることができるというシナリオを北朝鮮が描いている可能性は十分にあり得る。今日の「朝鮮中央通信」や「労働新聞」でこのことについて述べているかはまだ確認していないが、Kim Myong Cholさんの発言は、「非公式」とはいえ北朝鮮当局とリンクしてなされているので、公式メディアにも近々登場する可能性はある。記憶が定かではないが、前にKim Myong Cholさんが書いた「水爆」の話も後に公式メディアに登場したような気がする。

    日本との関係では、米国攻撃に先だち「日本列島でEMP兵器のテストをする」とも言っており、日本を威嚇することも忘れていない。そのとき、日本のMDシステムは役に立つのであろうか。

    「朝鮮民主主義人民共和国スポークスマン談話」(インドのICBM発射)(2012年4月23日「朝鮮中央通信」)

    「朝鮮中央通信」が、また「外務省スポークスマン談話」を伝えた。再び李明博政権非難かと思ったら、今度はインドの長距離弾道ミサイル発射と北朝鮮の衛星発射を比較しながら、米国のダブルスタンダードを排撃する声明であった。

    まず「終始一貫して透明性を持って進められた我々の平和的衛星発射を『長距離ミサイル発射』だと悪意に満ちた非難をして強圧的な『糾弾』騒ぎを主導した米国が、他の国が公然と進めた長距離ミサイル発射は庇護し、国際的な物議を醸している」中で、「米国は誰それは国際法をよく守るので問題ないが、我々はそうではないから問題するという詭弁を持ち出した」、「問題の本質は、彼らの言うことを聞かない国は国防力強化はもちろん、平和的発展までもさせないようにしなければならないが、彼らと関係が良い国は核兵器であれ長距離ミサイルであれ全て持っても問題ないという米国の二重基準適用にある」とし、インドとの関係に配慮しながら具体的な国名は挙げていないものの、インドの長距離ミサイル発射に対する米国のダブルスタンダードを非難している。

    そして、国連安保理決議1718と1874は、「『宇宙はいかなる処罰もなく全ての国家により自由に開発・利用』されなければならないという普遍的な国際法も国連憲章にも明記された主権平等の原則も乱暴に踏みにじり、不法に作り出された二重基準の極致である」と主張し、こうしたダブルスタンダードは米国の「我々に対する敵対視政策の産物である」と結論づけている。

    また、「国連安保理事会が米国の強権と横暴に振り回され、対朝鮮敵対視政策実現に悪用され、庇護者の後押しで再選された国連事務総長が下手人の本性を露わにして、我々を攻撃する突撃隊役を演じているというのが、今日の遺憾千万の現実である」と、韓国出身の国連事務総長である潘基文さんも非難の対象としている。

    そして、「力があればこそ正義を守護し、世界の自主化も力強く主導することができ、我々が選択した自主の道、先軍の道が正当であるということを千回も一万回も立証している」と先軍政治の正統性を主張している。

    確かに、インドの長距離弾道ミサイル発射実験に対し、米国も日本も非難をしていないようである。「ようである」というのは、この点についてきちんと確認していないからであるが、後で、米国の国務省報道官定例記者会見などをもう一度読み返してみようと思う。明らかに言えることは、日本はインドの長距離ミサイル発射に際して「破片迎撃対策」は全く講じなかった。確かに、インドと北朝鮮では日本からの距離も違うし、ロケット発射の実績もインドのが北朝鮮より上である。だから「安心」ということなのかもしれないが、北朝鮮の衛星ロケットの破片が「百万分の一の確率」で日本に落下するのであれば、インドの長距離弾道ミサイルが「千万分の一の確率」で日本に落下する可能性への対処はしないで良いのであろうか。もしかすると、今回の長距離弾道ミサイル発射実験は、関係国に事前の通告なしで行われたので、ミサイルが日本の上空を飛び越したとしても打ち落とす準備さえできなかったのかもしれない(そもそも、「順調に」飛翔していればPAC3が届かない高度なのかもしれない)。

    米国は、インドの軍事力増強は自国に対する脅威ではなく、むしろ領土問題などを巡り歴史的にインドと微妙な関係にあり、また経済的にも競争関係にある中国に対する対抗勢力と捉えているのであろう。インドは事実上の核保有国であり、その国が米国に到達する長距離ミサイルを保有することになれば、本当は米国にとって北朝鮮どころではない脅威になるはずである。さらに、それは米国のみならず国際的にも核の脅威のレベルを高める、いいかえれば、オバマ大統領が目指す「核なき世界」実現への逆行であると考えるべきではないだろうか。インドが「民主国家」ではなく、北朝鮮のような「独裁国家」であったならば、間違いなく北朝鮮に対して出されたような安保理決議が出されるであろう。

    北朝鮮の「核・ミサイル」問題に対処して行く上で、このようなダブルスタンダードの繰り返しは絶対に好ましくない。その意味で、北朝鮮の衛星発射直後のインドの長距離弾道ミサイル発射というのは、最悪のタイミングであったといわざるを得ない。

    北朝鮮の先軍政治や核・ミサイル開発に賛成するわけではないが、今回の「談話」には納得する部分が少しはある。

    <追記:2012年4月24日 15:31>
    4月18・19日の米国務省報道官定例記者会見のインドの弾道ミサイル発射関連部分を読み直してみた。トナー報道官は、インドの弾道ミサイル発射に関する質問に以下のように答えている。

    http://www.state.gov/r/pa/prs/dpb/2012/04/188105.htm#India
    http://www.state.gov/r/pa/prs/dpb/2012/04/188120.htm

    1.米国とインドは非常に強力な戦略・安全保障におけるパートナーの関係にある。しかし、インドとの協議でこの問題について取り上げたとは認識していない。

    2.しかし、インドが4月18日から20日の間に弾道ミサイル試験を計画しているという「レポート」は確かに見た。また、それが延期されたというマスコミの報道も見た。

    3.我々は、全ての核能力国(nuclear-capable states)に対して、核能力に関する自制を求めている。

    4.インドは、確実な核不拡散の記録を有しており、核不拡散において国際社会と協力している。

    5.インドのシン首相は、ワシントンとソウルの核安全サミットに出席した。

    国連安保理決議1874という錦の御旗が掲げられているので、それ以外の事情については捨象されているが、仮に1874がなかったらとして考えてみよう。

    まず、1の米国とのパートナー関係は、当然北朝鮮にはない。パートナーどころか、敵対関係(休戦中)である。しかし、核やミサイルについては、機会があるごとに「協議」は行っている。

    トナー報道官は「レポート(report)」と言っているのだが、それが何なのかは分からない。インド政府はどのような形でミサイル発射試験を発表し、北朝鮮がしたと主張しているように「透明性ある」通告を国際機関に行ったのであろうか。

    トナーさんはNPTの枠組み内での「核保有国」と分けるという意味であろうが、インドを「核保有国(nuclear-weapon states)」と呼んでいない。その系で行けば、北朝鮮も「核能力国」である。

    インドは、「確実な核不拡散の記録を有している」し、米国をはじめとする国際社会と協力的なので、信頼できる国である。だから、国際の平和に脅威となり得る弾道ミサイルを核兵器とセットで開発することを容認するということであろうか。

    核安全サミットには、北朝鮮は出席したくてもさせてもらえなかったであろう。

    関連記事:「“核能力国”北朝鮮がソウル核安全保障サミットに招待されない理由」(2012年3月14日 「中央日報」)
    http://japanese.joins.com/article/172/149172.html

    「歌 首領様命令を下して下さい」(2012年4月23日「労働新聞」)

    「労働新聞」に新しい歌が紹介された。

    http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2012-04-23-0006

    この「命令だけ下してださい」というのは、他でもなく「李明博逆徒」を叩きつぶすのを待ちわびている全軍・全人民の言葉である。「20時報道」に登場する労働者も将兵も怒りが高まり、金正恩最高司令官の「命令さえあれば」、人民軍将兵は銃などの武器を持って、労働者や農民は工具や農具を直ぐにでも武器に持ち替えて、「李明博逆徒」を叩きつぶすと言っている。

    ただし、この歌は「首領様の命令」の歌であり、最高司令官でも将軍様でもない。しかし、「首領」は「唯一の首領である金日成」さんしかいないはずであったのだが、最近の北朝鮮の文献では「首領」が「最高指導者」のような使われ方に変質してきている。「最高指導者」であれば、現段階では金正恩さんである。これも金正恩さんを金日成さんと重ね合わせる、いわば「首領化」の作業の一環なのかもしれない。とはいえ、金正恩さんを「首領」に祭り上げれば、父である金正日さんの上に立ってしまうわけである。

    若干、言おうとすることがずれてしまったが、「命令だけ下して下さい」という新曲まで紹介していることからすると、一つ前の記事にも書いたように、対南武力行使の可能性に繋がるという予測がさらに強まってしまう。

    この歌は、KCNAで聞くことができるが、その動画もなかなかである。

    <追記:2012年4月23日 22:18>
    この記事を投稿して、「朝鮮中央TV」の動画を見ていた。

    http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?categ1=12&no=9474

    金策工業大学の学生たちが「李明博ネズミ野郎」に激怒している様子が映し出されているが、この動画だけからは攻撃のターゲットは、南朝鮮人民ではなく「李明博逆徒」である。一つ前の記事に書いたように、もう一つのターゲットは「李明博逆徒」と徒党を組んでいる「保守言論」ということになるが、それでも南朝鮮の人民大衆ではない。事実上、南朝鮮人民大衆と「李明博逆徒」や「保守言論」だけ切り離して攻撃することは困難である。思えば、ヨンピョンド攻撃でも民間人の死者は2名、それもこの2名は韓国軍の基地で働いていたという。実は、米軍が使うような精密誘導兵器ではなく、旧式の武器で北朝鮮軍がこれほどにも民間人に被害を出さぬような攻撃ができたことについて、私は若干以外であった。

    今回、攻撃をするにしても南朝鮮人民にできるだけ被害を出さぬような方法を選択するであろう。

    「産経新聞」は、韓国治安政策研究所、柳東烈・先任研究官の節を引用しながら、「(1)短距離ミサイル発射(2)韓国へのサイバーテロ(3)韓国漁船などの拉致」などを挙げている。

    http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120423-00000594-san-int

    しかし、北朝鮮は衛星ロケット発射前に北朝鮮は短距離ロケットを発射している(韓国国防筋)。この件については、過去の拙記事で「短距離ミサイルは弾道ミサイル技術を使わないのか」という視点から検討している。サイバーテロはあり得るが、「サイバー」など朝鮮人民へのアピール力は小さい。それは、彼らが実感として「サイバーがテロ」に遭うとどれだけ困るかということが分かっていないからである。「韓国漁船の拉致」は手軽だし効果がある。ただ、「拉致」もそんなには簡単ではないし、こういう状況でのこのこと南北間の危ない海域に出て行く漁船も少ないであろう。

    「朝鮮人民軍最高司令部特別作戦行動小組革命武力の特別行動がすぐに始まると通告」(2012年4月23日「朝鮮中央通信」)

    昨日出された「朝鮮民主主義人民共和国外務省スポークスマン声明」に続き、今日「朝鮮人民軍最高司令部特別作戦行動小組革命武力の特別行動がすぐに始まると通告」がなされた。

    昨日の声明では、李明博政権を激しく非難した後、「朝鮮民主主義人民共和国外務省は、今、朝鮮半島で何かことが起こる場合、その責任は全的に李明博逆徒にあることを厳粛に宣言する」とし、さらに「万が一、同盟者や同伴者だといい、人類道徳まで無惨にも踏みつけた人間のくずの肩を持ちながら、我々民族内部のことに干渉しようとする国があれば、天に達する我が軍隊と人民の憤怒の矛先は免れないであろう」と北朝鮮が韓国を攻撃した場合、他国がそれに干渉することに対する警告を発している。

    これだけでも、危ない雰囲気を感じていたのだが、さらに今日、「最高司令部通告」がなされたわけである。「最高司令部通告」でも、「逆賊一味の分別のない挑発を叩きつぶすための我々の革命武力の特別行動がすぐに開始されることを知らせる」とし、「特別行動の対象は、主犯である李明博逆賊一味であり、公正な言論の支柱を揺るがしている保守言論媒体を含んだネズミ野郎一味である」としている。また、「革命武力の特別行動は、いったん開始されれば、3~4分、いやそれよりももっと短い瞬間に今まであったことのない特異な手段と我々式の方法で全てのネズミ野郎一味と挑発の根源を燃え上がる火の中で焦土と化してしまうであろう」としている。

    このような「外務省談話」のみならず「最高司令部通告」が出されたことからして、北朝鮮が韓国に対し何らかの実力行使に出る可能性が排除できなくなった。私はこれまで、北朝鮮のこうした威嚇は、11月の大統領選挙に向けての民心誘導を主たる目的としたものと考えていたが、「最高司令部」が「通告」を出したとすると、これは金正恩さんの「命令」ととらえられうので、危険の度合いは高まったといえよう。ただし、上に訳出した「通告」で述べられている具体的手段を見ると、「今までにあったことのない特殊な」とか「3~4分で」などという表現を使い、あたかも攻撃が「核」によって行われるようなことを連想させている。確かに、青瓦台と保守言論機関は、核爆弾を使用すれば一瞬にしてまとめて燃え上がらせることはできるが、そんなことに北朝鮮が核をはずがない。核の使用は自滅を意味するからである。こうした実施不可能なことをいっていることからすると、単なる脅しのような気がしないでもないが、十分な警戒が必要であることには違いない。

    また、昨日出された「談話」は「労働新聞」にも掲載されているので、そろそろ「李明博逆徒に懲罰を下す」というかけ声だけではなく、「行動」として人民軍兵士や朝鮮人民に示さなければ、金正恩さんが腰抜け扱いをされてしまう段階に達しつつあることも事実である。

    今週は、実は、ミサイル発射予告がされた週以上に韓国のみならず、日米も北朝鮮の軍の動きなどを注視する必要がありそうである。特に、朝鮮人民軍創設80周年の15日を中心に前後数日間が最も危険ではないだろうか。

    「労働新聞」の「外務省声明」
    http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2012-04-23-0020

    「最高司令部通告」はKCNA

    「米日反動とその追随一味がいくら吠えても我々の衛星はさらに力強く打ち上げられるであろう 朝鮮宇宙空間技術委員会スポークスマン談話」(2012年4月20日「労働新聞」)

    「労働新聞」がついに朝鮮人民に衛星の「軌道進入失敗」を認める記事を掲載した。なかなか出ないので、「朝鮮中央TV」で速報だけ出しておき、終わるのかなとも思ったのだが、この「スポークスマン談話」で「力強く」失敗を認めている。

    http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2012-04-20-0013&chAction=L

    北朝鮮の衛星発射に際して「真理に共感し正義を愛する人々は、一様に声援と期待の声を高めた」にもかかわらず、「敵対勢力は不当な主張と詭弁で世論をごまかし」、「その先頭には米日反動が立っており、李明博特等下手人がうるさく吠えている」とし、米国、日本と共に李明博政権を非難している。これまでの衛星発射に関する北朝鮮の主張では、米国と韓国がその非難対象となり、日本はほとんど無視されていた。しかし、今回の記事からは日本が米国と同列の非難の対象に昇格されていることが特徴的である。その理由の一つは、これまでの議論では衛星発射と2.29米朝合意の関係が中心であったが、既にそれが「米国により破棄された」という北朝鮮の認識の下、安保理議長声明に焦点が移り、衛星発射に強く抗議してきた日本が浮上したのであろう。もう一つは、2.29合意破棄で米朝対話が一時停止している状況の中で、北朝鮮が日本へのシグナルを送っているのではないだろうか。北朝鮮は、硬軟織り交ぜたラブコールをしばしば送るが、今回は衛星発射についての日本の対応を非難しておきながら、一方では「日本からの訪朝団に宋日昊朝日国交正常化交渉担当大使が伝え、日本側から収集や返還の要請があれば応じる考えを示」すなど融和的な姿勢も見せている。

    「終戦前後の残留邦人の遺骨返還も 北朝鮮大使、訪朝団に」
    http://www.47news.jp/news/2012/04/post_20120420020101.html

    北朝鮮は、衛星発射についてこれまでの主張を繰り返しているが、「我々は、そもそも敵対勢力の不純な企ての産物である国連安保理決議というものを認めていない。さらに、そこには我々の衛星発射を禁止するという条項はない」としている。北朝鮮が「国際機構としての公正性を失ってしまった」と主張する安保理決議を認めていないことは分かるが、「衛星発射を禁止する条項はない」と主張しているということは、北朝鮮としては衛星運搬ロケットに「弾道ミサイル技術」が使われていないと考えていることの証左であろう。

    こうしたことを前提に朝鮮宇宙区間技術委員会は、3つの原則を示した。

    第一に、「民族の宇宙科学と技術を知識経済時代の要求に合うように高めることもするが、李明博逆賊のような特等下手人どもからまず一時も早く除去しなければならない」と無関係な二つの案件を並べている。以下では李明博さんに対する罵倒が繰り広げられるが、そこからも分かるようにこれは衛星発射の話ではなく、李明博政権への非難である。一昨日の記事にも書いたように、北朝鮮はより強化された李明博非難モードに入っている。そして、

    「そもそも李明博逆賊は、科学と技術の見地での知能指数が2MBしかない無知で夢想する白痴であり、初歩的な科学的分別の力もない低能児である」

    「衛星と長距離弾道ミサイルもまともに区別できず、我々の衛星発射を『軍事競争』の産物であると騒いでいることもやなり、彼が政治と軍事の最も初歩的な問題も理解できない低能児であるからである」

    「日本の地で育ち、特有のずる賢さと商人気質が骨身にしみこんでおり・・・」
    (日本人がおしなべて「ずるがしこい商人」であるという「神話」は、北朝鮮では依然として健在のようである。80年代の韓国では、この話をよく聞かされたが、最近の韓国ではこの「神話」はどうなってしまったのであろうか。)

    「歴代の青瓦台『主人たち』さえ、李明博逆徒のような『未熟な大統領』、『馬鹿大統領』、『無知な大統領』はいなかった」

    などとあらゆる悪態を使いながら罵倒した上で、民心に従い「李明博逆徒は、既に時遅しという感がないわけでもないが、自ら」身を引くことを要求している。

    第二に、「宇宙科学と技術を軌道に乗せるためであれば、科学技術分野でも敵対勢力の強い妨害策道を粉砕し、自主権を徹底して守護しなければならない」と主張し、衛星発射が「宇宙条約」で認められた「自主権」であり、それを踏みにじられることは、過去において朝鮮が植民地化されたのと同じであるという文脈で、衛星発射の正統性を強調している。

    第三に、「我々軍隊と人民は、米日反動とその追随勢力の強い妨害策道を粉砕し、先軍の道に従い宇宙の平和的利用のためにさらに力強く前進するであろう」とし、続いて「我々の科学者、技術者は、既に『光明星3』号を軌道に乗せられなかった原因について具体的かつ科学的な解明を終えた状態にある」とし、衛星の軌道進入失敗を認めている。しかし、失敗を後ろ向きにとらえるのではなく、「今回得た全ての科学技術的資料と貴重な経験は、今後の宇宙開発のためのまたとない貴重な材料として、さらに大きな成功の心強い担保となるであろう」とした上で、「我々には宇宙開発システムを最先端の要求に合うように拡大強化し、国家の経済発展に必須的な実用衛星を継続して打ち上げることを含む総合的な国家宇宙開発計画がある」とし、さらなる衛星発射の可能性を示唆している。

    そして、米朝2.29合意との関連で「今、米国がわずかな食料『支援』の風呂敷を振り回しながら、我々の宇宙開発の権利を奪おうと画策しているが、それは愚かな妄想に過ぎない」とし、米国からの援助などなくても「社会主義の富貴と栄華を心置きなく成就することができる土台が十分に作られている」としている。

    この記事を一度投稿し、「朝鮮中央TV」の「政治低能児の許せない反民族的妄動」という対談型の番組を見始めたが、こちらでも李明博さんが「北朝鮮の衛星発射や太陽節に使った費用がいくらでそれでどれだけのトウモロコシが買える」などと発言をしたことに対して強く反発している。李明博さんも「犬野郎」から「ネズミ野郎」さらに、「虫のような奴」にまで格下げされ、さらに「20時報道」に登場した憤怒に満ちた若い兵士は「李明博のような野郎に銃弾を使うのは勿体ない。この銃剣で切り裂いてやる」と発言している。まだ見ていないが、反李明博大会の様子を伝える動画もダウンロードできたので追ってみることにするが、こちらでは何を言っているのであろうか。それにしても、今からこんなに爆発させてしまうと、11月の選挙まで反李明博モードが持たないような変な心配をしてしまうほどである。材料がなくなり、韓国に対して実力行使をするようなことだけはやめて欲しいのだが。

    「政治低能児の許せない反民族的妄動」
    http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?categ1=12&no=9442

    「20時報道」
    http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?categ1=12&no=9439

    「反李明博大会」
    http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?categ1=12&no=9435

    「政治低能児の許せない反民族的妄動」で映し出された「李明博逆徒」
    2012-04-20-19flv_000146880.jpg
    Source: KCTV,ttp://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?categ1=12&no=9442

    「金正恩 偉大な金正日同志を我が党の永遠の総秘書として高く頂き、主体革命偉業を輝かしく完成しよう 朝鮮労働党中央委員会責任者たちとした談話」(2012年4月19日「労働新聞」)

    昨日の「労働新聞」にこのように題する記事が掲載された。

    http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2012-04-19-0001

    これは、4月6日に金正恩さんが朝鮮労働党幹部と行った「談話」ということであるが、今日の「朝鮮中央TV」では、金正恩さんの「労作」として紹介されている。そうだとすると、これは金正日さんの初めての「労作」ということになる。「労作」とは、金日成、金正日さんなどの書いたことや、語ったことで、それが党や政府の活動指針となるので、非常に重要である。そして、それがある程度集まってくると「労作集」として出版され、それを朝鮮人民が「学習」する。この「労作」も非常に長文で、読むのに苦労したが、いくつかポイントとなりそうな部分を拾い出してみた。

    まず、「我が党と革命は、金日成-金正日主義を永遠の指導思想」とするとしているが、「金日成-金正日主義」についての説明が興味深い。「談話」によると、「金日成-金正日主義」は、「金日成主義を時代と革命発展の要求に合うように発展・拡大させた将軍様の特出した業績であり、以前から我が党員と人民は首領様の革命思想と将軍様の革命思想を結びつけて金日成-金正日主義と呼んできており、金日成-金正日主義を我が党の指導しそうとして認めてきました。しかし、限りなく謙虚であられる将軍様は、金正日主義はいくら掘り下げても金日成主義以外の何物でもないとおっしゃりながら、我が党の指導思想をご自分のお名前とと結びつけることを強く拒まれました。」としている。実際に北朝鮮国内で「金日成-金正日主義」という用語が使われていたのかどうかについて私は確認するすべを持たないが、少なくとも公式文書にそうした用語がこれまで登場しなかったのは、金正日さんがその使用を拒否したからということで説明が付く。しかし、金正日さんが「拒否」した北朝鮮では非常に重要な「主義」のような言葉を勝手に党員や人民が使っていたとは考えにくい。したがって、過去記事にも書いたが、形式的には主体思想と先軍思想を受け継ぐことを宣言している金正恩さんあるいは彼のアドバイザーたちが、「金日成-金正日主義」という「新しい主義」としてまとめ、そこに自らの解釈を付け加えることで独自の「主義」や「思想」を作り出しているのではないかと推測される。それは、「金日成-金正日主義」についてい記されている最後の部分で「全社会の金日成-金正日主義化は、我が党の最高綱領です。全社会の金日成-金正日主義化は、全社会の金日成主義化の革命的継承であり、新たな高い段階への進化発展であります。」という言葉にも表れているのではないだろうか。

    次に、朝鮮労働党と労働党員のあるべき姿について述べているが、その中で党員を選ぶに際し「経済道徳生活において健全で、群衆の心棒がある人々をとうに受け入れなければなりません。」と述べている。2月頃であったか、「朝鮮中央通信」が中国共産党の汚職追放キャンペーンのニュースを盛んに配信していた時期があったが、朝鮮労働党でも同様のキャンペーンが展開・強化されていくのであろう。しかし、「経済道徳生活において健全」ということが、「汚職追放」なのか「資本主義的思想」の追放なのか、あるいはその両方なのかは分からない。

    また、私が金正恩さんのお母さんである高英姫さんを意識しすぎているだけなのかもしれないが、党と人民の関係を説明するために「オモニ(母)」という言葉を次のように繰り返し使っている。「党組織は、母になった心情でいつでも人々を心から大切にして愛し、彼らの政治的生命について最後まで責任を持ち光り輝かせてやらなければなりません。母が出来の悪い子供、問題が多い子供であるといって捨てるのではなく、より心配して接するように、党組織は全ての人々を党の懐に抱き、将軍様と情で繋がるようにしなければなりません。」

    次に、国防について、「国力が弱ければ、自己の自主権と生存権も守ることができ」ないとし、「軍事力を強化するための事業を一貫して推進していかなければなりません。」と述べ、「国防工業の主体化、現代化、科学化を高い水準で実現し、国家の国防力を物質・技術的にしっかりと担保しなければなりません。」とし、軍事力増強路線と軍事産業を発展させる方針を明示している。

    人民生活については、「我々は、人民生活の向上と経済強国建設において決定的転換を引き起こさなければなりません。」とし、「将軍様が大変苦労され作って下さった元手から銀を出すようにし」と述べているが、「決定的転換」なるものが何なのかについては具体的に触れられていない。

    そして、「我々は人民の食べる問題、食料問題を円満に解決しなければなりません。」と述べ、その施策として「農業生産に対する国家的投資を決定的に増やす」、「農業を徹底して科学技術的に行」うことで増産を目指すことなどを挙げている。そして、これらの施策を通して「人民に対する食料供給を正常化しなければなりません。」と述べているが、「科学技術的」なるものが「主体農法」のようなまやかしではなく、真の意味で「科学技術的」であって欲しい。過去記事に書いたような記憶もあるが、「科学農法」はFAOのような国際機関と協力しながら進めていけば、少なくとも間違った方向には向かわないであろう。そういえば、過去記事にも書いた、ジャンボタニシという「生物兵器」で水田の雑草駆除を行う有機農法はうまくいっているのであろうか。

    軽工業の発展については、「原料供給対策を徹底して樹立し、軽工業工場での生産を正常化させ、人民消費品生産を増やしその質を高め、誰もが我々が作った製品を選ぶようにしなければなりません。」と述べている。「誰もが我々が作った製品を選ぶ」というのは、どういうことだろうか。北朝鮮製品の質が悪いので、朝鮮人民が中国製品を欲しがっているという現実を吐露しているのであろうか。「誰もが」が外国のお客さんで、輸出を目指しているということはないと思うが。

    そして、経済問題を担当する部署を「内閣に集中される」とも述べている。金正日さんも経済問題を内閣に押しつけ、自らは一定の距離を置いて失敗したときの非難をかわしてきたが、金正恩さんもその路線を踏襲するのであろうか。それとも内閣には実務をやらせ、経済政策を自らが陣頭に立って指揮していこうとしているのだろうか。これまでの現地指導を見ると、極端に軍部隊に偏っているが、北朝鮮では軍を把握することが政権の安定に繋がるという事情からしてやむを得ぬことであったであろう。しかし、ともかくも第1秘書と国防第1委員長のポストを手に入れたこれからは、これまで内閣首班にやらせていた経済部門の指導に金正恩さんが出向かなければならないであろう。

    金正恩さんの初めての労作、「談話」とはいえ実態としては秘書が書いた作文に決済を下した上で読み上げただけであろうが、誰のアイディアでそれを金正恩さんがどのように受け入れているのかを知りたいところである。

    「天を嘲る者は誰であれ処罰を免れないであろう 朝鮮人民軍最高司令部スポークスマン声明」(2012年4月19日「労働新聞」)

    太陽節が終わるやいなや、北朝鮮は再び李明博非難モードに入ったようだ。2月末から3月初旬にかけて行われたキーリゾルブなど、韓国軍や米韓合同訓練が行われていた頃、北朝鮮は李明博政権を強く非難していた。ところが、太陽節が近づくにつれ、李明博政権に対する非難はいったん後退し、「労働新聞」には散発的に記事が出たものの、今回のように「最高司令部スポークスマン声明」というような大々的なものではなかった。

    今回、北朝鮮が怒っているのは、「大韓民国の父連合」の関係者がソウルの光化門広場で「我々の最高尊厳を傷つけ」たことは、「李明博逆賊一味」が指示によるものだということである。韓国の国内政治の記事をきちんとフォローしているわけではないが、「大韓民国の父連合」は保守系の団体であり、北朝鮮に融和的な野党候補者に対する抗議行動などを行っている団体である。その意味では「李明博逆賊一味」の支持者であるかもしれないが、当然のことながら、李明博さんが操っているわけではない。

    このような事態に対し「朝鮮人民軍最高司令部は、傍観することはできない重大な事態が連続して発生している」ので「李明博逆賊一味を叩きつぶすための全軍、全人民の汎民族的な聖戦を既に宣布しており、より強力に推進することを内外に再び厳粛に明らかにする」としている。そして「たとえ、ソウルの中だとしても、我々の最高尊厳を傷つける挑発の原点となっているその全てを吹っ飛ばすための特別行動措置がとられるであろう」と威嚇している。

    また、「新たな主体100年代」を「一方では強盛復興の歴史的な進軍を推進し、もう一方では取るに足らない逆賊一味をきれいに清算するための聖戦を同時に展開するであろう」と経済建設と軍事力強化を同時に行うという政策を示唆している。

    「労働新聞」の記事:
    http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2012-04-19-0002

    今回、北朝鮮がこうした声明を出したのは、太陽節が一段落し、4月25日の「建軍節」、すなわち朝鮮人民軍創設記念日に向けて対内的には戦時の雰囲気を醸しだし、朝鮮人民軍の存在意義を強調すること、韓国に対しては「李明博は戦争を導く」という恐怖心を韓国民に与え、12月の大統領選挙で北朝鮮に対して融和的な候補が有利になるような雰囲気を作るためであろう。特に、4月11日の韓国総選挙で野党は議席を増やしたものの、与党セヌリ党が過半数を維持する結果に終わり、北朝鮮が期待した結果にはならなかったので、今後さらに李明博非難キャンペーンは強化されるものと予想される。ただし、上に書いたように経済建設と軍事力強化を並立し、「聖戦」を実際に始めなくても経済建設で説明が付くような余地をきちんと残してあるので、ヨンピョン島砲撃のような実力行使には出ないのではないだろうか。

    この記事を読んでいて、久しぶりに出会った朝鮮語(韓国語)の表現がある。上に書いた「大韓民国の父連合」の尊厳冒涜に動員されたのが「피도 마르지 않은 깡패대학생무리들」、「血も乾いていないチンピラ大学生たち」とでも訳そうか「青二才のチンピラ大学生」ということである。朝鮮半島は儒教の影響を強く受けている。韓国こそ「経済発展と世界化」の波にのまれ「古式ゆかしき儒教的伝統」が消滅しつつあるが、少なくとも私が韓国にいた80年代中頃は「피도 마르지 않은 놈이」(この青二才が)というような言葉はよく耳にした。もちろん、「古式ゆかしき儒教的伝統」がそのまま残る、より正確には主体思想に取り込まれて残る北朝鮮では、当然のことながら「血も乾いていない」輩は目下の扱いを受けるのが習いのはずである。「労働新聞」では同じ記事の中で「南側の人民も非凡特出な『青年指導者出現』」したと言っていると書いているが、「青年」は「血も乾いていない輩」である。何か非常に矛盾を感じるのであるが、「白頭の血統」の特別な血は生後28~9年で乾いてしまったということかもしれない。しかし、儒教的伝統は伝統である。金正恩さんが失政をしたとき、「血も乾いていない」は、必ずや朝鮮人民の間でささやかれるであろう。

    「20時報道」(2012年4月17日「朝鮮中央TV」)

    今朝見た「20時報道」でも、引き続き太陽節関連行事の様子が伝えられている。各地では、「集団体操」(マスゲーム)が開催され、それを見に来る市民も映し出されている。

    恵山市にて
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?categ1=12&no=9396

    恵山市の市民であろうか、あでやかな洋服の女性も見られる。市民の様子は一様に明るい。娯楽の少ない北朝鮮では、こうしたマスゲームを見ることは楽しいことであろうし、自治体単位での開催であろうから親戚や友人が踊っているのかもしれない。

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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?categ1=12&no=9396

    さて、今朝の「20時報道」を見ていておもしろかったのは、金日成花展を訪れたインドネシア大使館駐在武官の英語によるインタビュー場面の字幕である。「主体」式翻訳ともいうべきかなり装飾された翻訳であったので、おもしろかった。米朝協議に出席した金桂寛第1外務次官は英語も分かる人なので、たとえ通訳を介して話をしたとしてもデービスさんの話は英語で理解できたであろうが、英語が分からない朝鮮高官に対してこのような通訳がなされているとすると空恐ろしい。こちらは、朝鮮人民向けのテレビ放送なので装飾したのであろうとは思うが。

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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?categ1=12&no=9396

    放送ではインタビューが編集されてはいるが、字幕と彼の英語の発言を重ねてみると、次のようになる。

    "Kimilsungia flower exhibition is very good."
    「今日、金日成花の展示会場に来たが、花が本当に美しい。」

    "Because I know that Kimilsungia is very difficult to grow up even though in Indonesia."
    「金日成花をこのように素晴らしく育てるのを見れば、朝鮮人民の心の中にインドネシア人民と全く同じ敬慕の情が込められていることが分かります。」

    "Yes, I know that, the time is 1950s in Bogor, our first President Sukarno gave the flower to Kim Il-sung as a present."
    「金日成花はインドネシアの初代大統領であるスカルノが、限りない敬慕の情を込め金日成主席に差し上げた花です。」

    "Yes, I hope so. We can be good friends forever."
    「この花と共に朝鮮とインドネシアの親善は永遠であることでしょう。」

    まったく違うことが字幕に書かれているとはいわないが、やはりかなり「主体的」であるといえるのではないだろうか。

    「朝鮮外務省共和国の合法的な衛星発射権利を踏みにじろうとする国連安保理の処置を排撃」(2012年4月17日「朝鮮中央通信」)

    北朝鮮外務省が、国連安保理の議長声明に対しする非難声明を出したこと「朝鮮中央通信」が報じた。

    「労働新聞」の同記事
    http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2012-04-18-0024

    声明では、安保理議長声明を「米国とその追随勢力が再び盗用して我々の衛星発射の権利を蹂躙する敵対行為を強行した」とし、議長声明が「米国による敵対行為」であると断じている。そして「安保理決議1718と1874号は、我々を敵対視し押さえ込もうとする強権の産物であり、普遍的な国際法まで無視して無理に作り出した不法の極致ある」と今回の北朝鮮非難に繋がった「根拠」を否定し、「今日の事態は国連憲章に明記された主権平等の原則というのは言葉だけで、正義は自らの力で守護しなければならないということを明博に示している」と北朝鮮の軍事力増強の正当性を強調している。

    そして、第一に「民族の尊厳と国家の自主権を蹂躙し、侵害しようとする小さな要素もぜったに許さない」ことを原則とし、第二に「国連安保理決議より上位にある普遍的な国際法に基づき公認された宇宙利用の権利を継続して行使」し「国家の経済発展に必要な各種の実用衛星を継続的に発射する」、第三に「米国の露骨な敵対行為により崩壊した2.29米朝合意に我々もこれ以上拘束されない」としている。

    特に、第三の点に関しては、「我々ははじめから平和的衛星発射は、2.29米朝合意と別個の問題であり、米朝合意は最後まで誠実に履行するという立場を繰り返し明らかにし、実際に履行措置も執った」、「しかし米国は、我々の衛星発射計画が発表されるやいなや、それを理由に米朝合意による食料提供過程を中止し、今回は国連安保理議長の地位を悪用し、我々の正当な衛星発射の権利を侵害する敵対行為を直接主導した」と主張している。

    最後に、「我々は米朝合意から脱し、必要な対応措置を思うがままに執ることができるようになり、それにより生じる全ての結果は米国が全的に責任を取らなければならない」とし、「平和は我々にこの上なく貴重であるが、民族の尊厳と国家の自主権はそれ以上に貴重である」と締めくくっている。

    やはりここでも、「衛星発射」と安保理決議1874の「弾道ミサイル技術を使った発射」が問題となっている。過去記事にも書いたが、なぜ2.29合意でこの部分をきちんと文書化しなかったのであろうか。「衛星発射もしてはいけない」ということを北朝鮮側が受け入れた受け入れないで(「言ったのか言わなかったのかで」という方が正確かもしれない)、米朝の主張は真っ向から対立している。確実に合意文書には、「弾道ミサイル技術を使った発射」とも安保理決議1874に直接的に結びつく記述もない。可能性としては、北朝鮮側から「衛星発射も含むことは分かったから、文書化するのはやめてくれ」という要請が出され、米国がそれを飲んだのかもしれない。そうだとしたら、米国は北朝鮮にまんまと騙されたことになる。

    ともかくも、結果として不完全な「合意」文書ができてしまった。このような不完全な「合意」文書が出されてしまった背景は米国と北朝鮮双方の事情から推測することができる。まず米国は、北朝鮮の新しい指導者に対する期待とオバマ大統領の再選に向け朝鮮半島情勢を悪化させたくなく、あわよくば好転させようという目論見があったのではないだろうか。一方北朝鮮は、外務省と軍部の意思疎通、もっといえば金正恩さんによる政策一元化機能しておらず、本当に米国と「衛星発射もしない」と交渉担当者が口約束をしてしまったものの、本国にそれを持ち帰ったら「金正日将軍の遺訓」を理由に軍部にひっくり返されてしまったのではないだろうか。

    現時点では、北朝鮮はこれまでのパターン同様に次に核実験をやるのではないかという観測が圧倒的である。そして、米国はその場合、制裁内容をさらに強化すると警告している。しかし、これ以上何をどう強化しようというのであろうか。そして、何回も書いているが、制裁を強化したところで中国というバックドアが存在する限りは、制裁の効力はいくらそれを強化したところで発揮されない。そもそも、過日の閲兵式に登場したICBMと思わしき物を搭載した車両は、どの国で作られたものなのだろうか。

    中国は、北朝鮮の衛星発射について、「憂慮」を表明しながらも、伝統的な中朝友好関係を重視しながら、金正恩さんに対して祝電などを送っている。一方で、安保理議長声明が直ぐにまとまったという状況からしても、それを出すことについて中国は特に反対をしなかったのであろう。安保理議長声明は、「これ以上何かをしたら大変なことになるのよ」という北朝鮮に対する警告のメッセージである。表面的には、制裁の対象となる物品や人物が追加されることが検討されているが、前にも書いたとおり、そんなことは別に北朝鮮にとっては「大変なこと」ではない。北朝鮮にとって本当に「大変なこと」は中国だけが引き起こすことが可能であり、議長声明を通して中国は北朝鮮に対してその明らかな警告を発しているのではないだろうか。中国は衛星発射までは容認しても、3度目の核実験は中国の対面からしても容認しないであろう。

    一方、米国にとっても3度目の核実験はいろいろと都合が悪い。ロイターの報道では、「アジア太平洋の米軍を統括するロックリア米太平洋軍司令官は17日、北朝鮮による3度目の核実験を阻止するため、『あらゆる選択肢』を検討している」とのことであるが、米国が北朝鮮の核施設に対する軍事攻撃をするようなことがあれば、北朝鮮は間違いなく限定的であれ韓国を攻撃するであろう。そのようなプランに韓国が賛成するはずがない。また、3度目の核実験がウラニウムを使った原爆の初の実験となる可能性も十分にある。これが成功すると、北朝鮮は核爆弾製造の2つの道を手に入れることになり、特にウラン鉱山を有する北朝鮮では、ウラン型核爆弾がいくらでもできることになる。

    ロイター記事:
    http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120417-00000114-reut-int

    では、北朝鮮にとってはどうかというと、こちらも色々と都合が悪い。まず、中国が確実に安保理決議の制裁の隊列に加われば、北朝鮮の経済は完全に麻痺する。人民生活の向上どころか、燃料が切れて軍用トラックさえ走らせることができなくなるであろう。また、米国に核施設を限定攻撃され、それに反撃もせずに黙っているとすれば、金正恩政権どころか、朝鮮人民の精神的なよりどころである先軍政治や朝鮮人民軍の威力も否定されることになり、政権崩壊に繋がる。一方、反撃をして戦火が拡大、全面戦争に至ったとしても敗戦により政権は崩壊する。上記の理由から、どうせ核爆弾など使えないのであるから、プルトニウム型の「実戦で使える」核爆弾を「持っていること」にしておき、「核保有国」と宣伝するのが政権維持には最も都合が良いのである。

    韓国を除く主たるアクターについて書いたが、ついでに「アウトサイダー」の日本について書いておけば、「朝鮮半島を不安定化させない」ように努力することにつきる。それは、朝鮮半島で戦争が勃発したときに、200発あるといわれいているノドンミサイルがどこに飛んでくるのか想像するだけで分かるであろう。発射を予告された人工衛星ロケットの破片を打ち落とすだけであれだけ大騒ぎをし、しかもシビリアンコントロールの中枢部がきちんと機能しなかった日本が、次々と飛来するノドンミサイルを全部迎撃することができるなどと夢にも思わない方が良い。日本にノドンミサイルを撃ち込んだ「憎き」北朝鮮はどのみち米国に敗れる。残されるのは、日本本土の被害と混乱し破壊された朝鮮半島。韓国経済の崩壊による世界経済の大混乱。

    こう考えると、結果における有利不利はあるにせよ、大きなベクトルは同じ方向を向いているのではないだろうか。結局は、外交と交渉により問題を解決していく以外に方法はないと思うが、さてどうすべきか。

    「偉大な首領金日成大元帥様誕生100周年慶祝閲兵式でなさった我が党と人民の最高指導者金正恩同志の演説」(2012年4月16日「労働新聞」)

    uriminzokkiriにアップロードされた閲兵式の動画のダウンロードを何回も試みているが、800MBの大型ファイルで途中でダンロードが中断してしまう。今、この記事を書きながらも230MBダウンロードできたが、どこまで行けるのか分からない。金正恩さんの演説が聞けなくて困っていたら、You Tubeに「朝鮮中央TV」から演説部分を切り出しアップロードされたものがあったのでそちらで聞いた。

    演説のスクリプト「労働新聞」
    http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2012-04-16-0001

    聞き始めてすぐに感じたのは、「ずいぶん下手な演説だなあ」ということである。このところ、北朝鮮の重要な演説といえば、同国序列2位の金永南さんのものばかり聞いていた。金永南さんも、高齢のためか、咳払いをするなど癖はあるが、それでも演説らしく読んでいる。一方、金正恩さんは、早口で原稿を棒読みしているだけで、とても朝鮮人民に感銘を与えるような演説とは言いがたい。

    しかし、金正恩さんの演説が金日成さんのそれと似ていると指摘する報道もあったので、やはりYouTubeにアップロードされていた金日成さんの最後の「新年の辞」(1994年)と聞き比べてみた。確かに、金日成さんの演説も棒読みに近く、しかも早口である。金正日さんの朝鮮人民を前にした唯一の肉声である「英雄的朝鮮人民軍将兵たちに栄光あれ!」という一言も早口でフラットな感じであった。金正日さんの肉声は、韓国の金大中大統領などとの会見の映像でも聞くことができるが、普通の話をするときも高めの声で早口で話しているようである。金正日さんまでお父さんをまねているとは考えられないので、もしかするとあれは金ファミリーの遺伝なのかもしれない。

    とはいえ、金正恩さんは明らかにお祖父さんの演説スタイルをまねている。今朝、uriminzokkiriにアップロードされた「朝鮮中央TV」の「20時報道」の中にも、金正恩さんの演説を聴いた平壌市民が金日成さんにそっくりだというようなことを語っている場面があったが、平壌市民が本当にそう思っているのかは別とし、金正恩さんはそうしようと努めているはずである。

    金正恩さんは、お祖父さんの演説のマネはできたとしよう。問題は、演説の中身をどれだけ理解し、事態をどのように把握しているのかということである。金日成さんの演説であれ、金正恩さんの演説であれ、原稿は秘書によって書かれ、それに彼らが決済を下して読み上げているのであろう。少なくとも金日成さんは、何を言っているのか自分で十分に理解し、自らのメッセージとして朝鮮人民と世界に発していたのであろう。

    しかし、金正恩さんはどうであったのか。何の根拠もないが、この演説を視聴して感じたことは、形式的な権力継承は国防委員会第1委員長就任により完了したが、実質的な権力を金正恩さんは殆ど把握していないのではないかということである。若いということと実績がないということが分かりきっているだけに、余計にそう感じるのかもしれない。これは、朝鮮人民とて同じではないだろうか。

    すると、側近の張成沢、李英鎬、崔龍海さんあたりがいろいろとアドバイスを与えながら、金正恩さんはそれにしたがって動いているだけなのではないだろうかなどと考えてしまう。そうであるとすると、側近間の力関係がとても重要になってくる。側近から異なったアドバイスがなされた場合、それを取捨選択する能力は金正恩さんにないと思われるので、彼には一元化されたアドバイスがなされなければならない。今のところは、金正日さんの既定路線で進んできたので、大きな混乱もなかったのかもしれないが、このお祭りが終わった後、「金日成-金正日主義」の解釈を巡る論争が起こる可能性がある。

    やはり金正恩さんは若すぎる。一つ期待できるとすれば、「金日成-金正日主義」の表面的な標榜は維持しつつも、側近がとうてい容認できないような大胆なアイディアを第1委員長の権威を使って出すことができるのかである。「中央日報」に金正恩さんが「資本主義方式を主張しても批判はするな」と指示したという記事が出ていた。この記事は、日本の「毎日新聞」の記事を引用したものであったが、「毎日新聞」は恐らく同じソースから金正恩さんが「改革・開放的志向である」という情報を得て、何度か報道してきている。

    http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120417-00000008-cnippou-kr

    このソースがどれだけ信用できるかは分からないが、少なくともそれを受け入れる器が彼にあるのか、そうでなくても政権内にそれを望む雰囲気ができてきているのかもしれない。

    若者の悪い方向への暴発を防ぐために老人がきちんとアシストをするのがよいのか、それとも新たな方向へ進むために老人は一歩引き下がった方が良いのか。悩ましいところである。

    そういえば、新聞だったかテレビだったか忘れたが、金正恩さんが演説中に体をくねらせた数を数えたら111回だったそうだ。北朝鮮は、日本や韓国同様に縁起の良い数字が好きな国である。111とは実に縁起の良い数字だ。これも演技だったとしたら凄い。私は、彼が演説中に舌を出したのが気になったのであるが。

    それにしても、体をくねらせる数まで数えられる国家的指導者は世界広しといえども金正恩さん以外にはいないであろう。

    <追記:2012年4月19日 08:22>
    やはり金正恩さんは世界的に注目されているようである。

    「金正恩氏選出、日本人なし=「影響力ある100人」―米誌」
    http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120419-00000017-jij-int

    そして、なんと日本では「女性自身」の記事にもなってしまった。
    「金正恩 欠陥ミサイル強行発射の裏に「祖父に捨てられた過去」」
    http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20120419-00000307-jisin-soci

    「金正恩同志に日本の猪木・ゲノム・フェデレーション株式会社会長が贈り物を差し上げた」(2012年4月15日「朝鮮中央通信」)

    「朝鮮中央通信」によると、猪木・ゲノム・フェデレーション株式会社の猪木寛至会長(アントニオ猪木)が、金英日さんを通じて贈り物を贈呈したとのことである。

    猪木会長は、金正日さんとも親交があったといわれ、たびたび訪朝をしているので、この機会に訪朝をするのは不思議ではないし、また礼儀として国防第1委員長に就任した金正恩さんに贈り物をするのも当然であろう。国と国との関係が冷え込んでいる、もっといえば、特に日本側が機能不全に陥っているときに、猪木さんのように知名度の高い民間人が北朝鮮とのパイプを残しておくことは重要であると考えている。

    ただ、問題となるのは、日本の外為法との関係である。猪木さんが金正恩さんに何をプレゼントしたのかは伝えられていない。ただ、猪木さんの旅行鞄に自分用に入れてあったハンカチや100円ショップで買ったボールペンではないことは容易に想像できる。もしかすると、猪木さん関連の著書かもしれないという気がしないでもないが、一国の最高指導者への贈り物が贅沢品であっても不思議ではない。贅沢品を日本から持って行ったとすれば、対北朝鮮経済制裁に伴う外為法の対北朝鮮輸出禁止措置に抵触するであろう。もちろん、中国で購入して北朝鮮に持ち込んだというパターンはあり得る。外為法をきちんと読んでいないので、後者の扱いがどうなるのかは分からないが、最終目的地が北朝鮮であるにもかかわらず100万円を日本から現金で持ち出し、91万円を中国で使ってしまい、北朝鮮に持ち込むのは9万円であるが、中国で91万円で買った贅沢品を北朝鮮にそのまま持ち込み誰かに贈呈するというケースの扱いはどうなるのであろうか。現状、万景峰号の入港も禁止されており、北朝鮮への航空直行便はないので、訪朝するには絶対に第三国を経由しなければならない。もし、中継地である第三国で使うという理由で10万円以上の持ち出しが許されているのであれば、外為法はザル法になってしまう(領収証などで、確認するのかもしれないが)。朝鮮総連関係者が金正日さんの葬儀に参列するために訪朝した際には、出国検査の段階で非常に厳しくチェックされ、太陽節(4月15日)のお祭り用屋台の道具なども没収されたという報道があったが、携行する現金についても当然調べられたであろう。

    経産省の「く北朝鮮輸出入禁止措置を継続について」
    http://www.meti.go.jp/press/2012/04/20120403001/20120403001-1.pdf#search=%27%E5%8C%97%E6%9C%9D%E9%AE%AE%20%E8%BC%B8%E5%87%BA%E7%A6%81%E6%AD%A2%E5%93%81%27

    政府広報オンラインの「ご存じですか? 外国への輸出や技術提供に関する新ルール」
    http://www.gov-online.go.jp/useful/article/201004/1.html

    繰り返すが、私は猪木さんの訪朝は意味があると考えているし、金正恩さんへの贈り物も礼儀だと思う。さらに、猪木さんが外為法に違反したなどと主張するつもりは全くないことは明確にしておく。

    「朝鮮民主主義人民共和国最高人民会議第12期第5次会議進行」(2012年4月14日「朝鮮中央TV」)

    uriminzokkiriに「朝鮮中央TV」で録画放映された最高人民会議の様子を伝える約1時間の動画が掲載された。

    http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?categ1=12&no=9341

    正直、私は最高人民会議の様子を日本のテレビで放映される数秒の映像以外で見たのは初めてである。日本にいても衛星の受信設備があれば「朝鮮中央TV」は受信できるというが、そこまでして見ようとはしなかった。しかし、昨年夏頃からurimizokkiriがYouTubeや独自のサイトで動画を配信するようになり、衛星放送のようにリアルタイムではないものの、1日遅れ程度で見られるようになった。北朝鮮国内での情報収集が非常に困難な北朝鮮研究にとって、「朝鮮中央TV」が見られたり「労働新聞」がオンラインで読めるようになったということは実に画期的なことだと思う。

    さて、配信された動画を見て正直「感動」した。会議の様子は、「朝鮮中央通信」などで配信された文字メディアで読んではいたが、大体斜め読みをして、意味がありそうな部分だけを注意深く読んでいる。そうでもしないと、いつもいつも繰り返される指導者の来歴や彼らを称賛する言葉のオンパレードで読むのが嫌になってしまうからである。動画の場合はダウンロード後、一応はじめから最後まで映像を見ながら音声も聞いている。大体は文字メディアで伝えられたものと全く同じであるが、それでも音を聞いているので目で文字を読むよりも疲れない。しかし一方で、飛ばし聞きというのもなかなか難しい。

    話がそれたが、最高人民会議の様子を見てなぜそんなに感動したのかというと、「推戴」の意味が生々しく伝わってきたからである。つまり、北朝鮮のいう「推戴」というのはこういうことなんだなと。最高人民会議では、形式的であるにせよ、きちんと議決はしている。明らかに全会一致でも、議長は一応「反対の人はいるか」と聞く。また、三百数十人の出席者と言っていたが、彼らの前には一応、発言用のマイクロフォンも設置されている。ほとんど空席はないようだったが、若干の欠席者もあったようである(正確な人数は失念)。

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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?categ1=12&no=9341

    今回の最高人民会議では、過去記事にも書いたとおり、「金正日さんを永遠の国防委員長にする」ことと「第1委員長職責を創設する」 ための憲法の修正・補充などが「議決」された。議決は、「代議員証」を掲げることで意思表示をし、日本のテレビにもよく映し出されるが、金正恩さんも代議員証を掲げている。

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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?categ1=12&no=9341

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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?categ1=12&no=9341

    「第1委員長職責創設」が議決された後、誰を国家の最高指導者、すなわち第1委員長にするのかについて最高人民会議常任委員会委員長の金永南さんが演説をし金正恩さんを「推戴」した。演説が途切れた瞬間、代議員が一斉に立ち上がり、万歳を唱え始めた。

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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?categ1=12&no=9341

    これが「推戴」であった。そしてこの様子は、文字メディアでは絶対分からないと思った。この後、議決はなく金永南さんは金正恩さんを第一委員長とする旨の宣言をした。もちろん、シナリオどおりの進行ではあるが、その迫力には圧倒された。

    さて、その金正恩さんであるが、会議場に入ってきたときは若干不安な様相であったものの、代議員の拍手喝采の中では嬉しそうな顔も見せた。何の大会であったか忘れたが、過去記事にも書いたとおり、金正恩さんは演説の原稿を見ながら演説を聞いている。ほとんどの代議員が演説原稿を読んでいないのに対し、非常に対照的である。

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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?categ1=12&no=9341

    金日成誕生100周年の祝賀行事で流れた金正恩さんの肉声を日本のテレビ報道で聞いた。多分、明日にはこの中継のフルバージョンがuriminzokkiriで配信されることであろう。20分の演説をしたそうであるが、それを聞くのが楽しみである。

    「敬愛する金正恩同志に中国共産党中央委員会総書記が祝電を送ってきた」(2012年4月14日「労働新聞」)

    金正恩さんが朝鮮労働党の第1秘書に推戴された11日付けで祝電を送ってきたと「労働新聞」が報じている。

    http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2012-04-13-0002

    祝電では中朝関係について「両国は山と川で接している親善的な隣国です」とし「伝統的な中朝親善協力関係をたゆまなく発展させていくことは、中国の党と政府の確固不動の方針であります」と伝統に基づく確固たる中朝協力関係を確認している。

    しかし、その次で伝統的な親善関係を深めつつも「様々な分野で実務的な協力を拡大し」と「実務的」という言葉を使いながら、パトロンとその被保護者の関係から普通の国と国との関係への転換を希望するともとれる表現を用いている。

    「米国務省報道官定例記者会見」(2012年4月13日「US Department of State」)

    北朝鮮の衛星発射を受けて米国は北朝鮮に対する栄養援助をどうすることにしたのか。昨日、ホワイトハウスが声明を発表した。

    http://www.whitehouse.gov/the-press-office/2012/04/13/statement-press-secretary-north-korea-s-missile-launch

    声明では、「北朝鮮のいつもの行動パターンであるので驚くことはないが」とした上で、「ミサイル」発射を強く非難している。

    しかし、「大統領は建設的に北朝鮮と対話をして行く準備があることを明確にした」とし、その条件として「北朝鮮側も約束を守ること、国際的義務を履行すること、近隣諸国と平和裏に交渉すること」を上げている。

    このホワイトハウス声明では、栄養援助についての具体的な言及はなかった。

    13日に行われた米国務省報道官の定例記者会見では、栄養支援について多くの質問がなされたが、トナー報道官は栄養援助の現状について、「suspended(中断、一時中止)」であると答えている。記者が敢えて「void or null(無効)」であるのかとたたみかけた質問をしても、「suspended」と繰り返している。そして「一時中止」する理由として、北朝鮮政権のような信用できない政権の下で、栄養援助がそれを本当に必要としている人々に届けられるという保証が得られないことを上げている。

    http://www.state.gov/r/pa/prs/dpb/2012/04/187884.htm#DPRK

    ホワイトハウス声明からしても、国務省報道官の「一時中止」という言い回しからしても、米国は今回の衛星発射で北朝鮮との関係を完全に遮断する意図はないようである。国連安保理ではさらなる制裁決議をすることはなく、議長声明を出すことになるという報道が流れてきているが、形式的には「中国の意向をくみ」としておきながら、米国としても消極的ながら衛星発射を黙認し、これ以上事態を悪化させない、つまり北朝鮮が核実験に走らないようにする道を選んだのではないだろうか。

    北朝鮮は、引き続きIAEAに対して査察を受け入れるというシグナルを送り、失った信頼を取り戻す必要がある。米国務省報道官は、北朝鮮に対する査察に関するIAEAでの動きについての質問に対して「それはIAEAに問い合わせること」と逃げているが、もしかすると何かが進行中であるのかもしれない。

    もし上記の状況判断が正しいとすれば、ボールは北朝鮮のコートに戻ってきたことになる。北朝鮮のお祭りが終わった後で、具体的な動きが見えてくるのであろうが、金正恩さんはどう出るのか。

    「万寿台の丘に高く頂いた偉大な首領金日成同志と偉大な指導者金正日同志の銅像除幕式進行」(2012年4月13日「朝鮮中央TV」)

    uriminzokkiriに「朝鮮中央TV」の動画が掲載された。現時点で最高人会議の動画は配信されていないので、この動画が北朝鮮系webで見ることができる唯一の衛星発射失敗後の金正恩さんであろう。

    http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=9335

    日本のテレビ報道では、最高人民会議に出席した金正恩さんの表情を数秒間出しながら、ミサイル発射に失敗したので「表情が暗い」というような解説を付けていたが、銅像開幕式に出席した金正恩さんを見ている限りでは、特にいつもと変わりがないようである。下の写真も一部を切り出しただけなので、数秒間の映像を見せて「暗い」と決めつける日本のテレビ報道と同じになってしまうが、このカットでは金正恩さんは拍手をしながら笑顔を見せている。

    2012-04-13-12-yflv_000162560.jpg
    Source:KCTV,http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=9335

    銅像の除幕式については、もう少し後に書くが、金正恩さんの表情と関連して気になることがある。というのは、今日の「労働新聞」がwebで見られるようになったが、衛星打ち上げ失敗の記事が出ていない。明日の太陽節が過ぎてから新聞には出すつもりなのかもしれないが、検索もかけながら調べたものの出てこない。北朝鮮は、「朝鮮中央通信」を通じて対外的には失敗を認め、それは私自身も確認できた。ただ、対内的に「失敗を認めた」というのは、日本のテレビ報道で「主体思想世界大会の中継を中断して失敗についての放送をした」ということになっている。確かにテレビで見ていた限りでは、そのようになっている。ただ、このテレビ局が使った朝鮮中央TVの電波は、衛星発射取材のために平壌に行っている特派員が平壌の(敢えて言えば、普通の市民の家の)テレビ画面を撮影したもではなく、対外向け衛星放送の電波であったはずである。だとすると、そちらの電波にだけ、失敗を告げる臨時ニュースを流したことも考えられる。

    それがなぜ金正恩さんの表情と関係があるのかというと、イメージに大変気を遣っている彼としては、「打ち上げ失敗」を朝鮮人民が知った後に見せる表情には気をつけるはずである。もし、国内向けに「衛星打ち上げ失敗」が伝えられた後も笑顔まで見せる堂々とした態度を貫き通したのであれば、朝鮮人民は過ぎたことを「일이 없다」と片付けてしまう、さすがの大物と彼を見るかもしれない。もし国内報道がなされていなかったのであれば、不安な表情を見せないように敢えて笑顔を見せたとも考えられる。

    いずれにせよ、衛星打ち上げの結果は何らかの形で「労働新聞」に掲載され、朝鮮人民に伝えられると思うので、しばらく注意してチェックしていかなければならない。

    話を銅像除幕式に戻すが、時間は夕刻、銅像の後ろに太陽がさしかかるような時間帯を選んで行われている。普通に考えれば逆光ということになるのであるが、人民の太陽像の背景に太陽があった方が望ましかったのであろう。この銅像で特徴的なのは、二人とも眼鏡をかけているということである。金日成さんの銅像でも金正日さんの肖像画でも眼鏡をかけたものは見た記憶がない。

    そして、銅像の除幕を行った人物であるが、金日成像が金永南、崔龍海、崔泰福、金正日像が崔永林、李英鎬、張成沢であった。ここでも次帥、党中央委員会政治局常務委員会委員、党中央軍事委員会副委員長に昇格した崔龍海さんが序列2位の金永南さんの次に紹介され、金日成像の除幕をしていることからして、彼が大抜擢されたことが分かる。また、張成沢さんも序列が高い2名と共に除幕に当たっているので、今回の人事で事実上相当上位に数えられるようになったのではないかと想像できる。

    また、万寿台地区建設もこの時を意識していたのではないだろうか。動画には万寿台地区に建設された高層住宅が背景に何回も映し出される。これは北朝鮮の経済発展、しかも住民用の住宅ということになっているので、人民生活の向上の象徴としたかったのであろう。

    「20時報道」(2012年4月14日「朝鮮中央TV」)

    衛星打ち上げ失敗について触れるのではないかと思い、今朝uriminzokkiriにアップロードされた「20時報道」を見たが、少なくともアップロードされた動画ではこれには触れていなかった。「労働新聞」はまだ土曜日(14日)のものに更新されていないが、こちらには何か記事が出るのだろうか。

    「20時報道」では、昨日の記事に書いた外国人訪問客が「白頭山密営故郷の家」訪れたことについてもかなり時間を割いて紹介している。日本語でスピーチをしていたのは、日本朝鮮学術教育交流協会の中村元気会長であったようだ。もちろん、Benosさんも登場するが、金日成・金正日・金正恩さんに対する朝鮮語での万歳三唱は、朝鮮人民をさぞ「微笑ませた」ことであろう。

    「朝鮮民主主義人民共和国社会主義憲法を修正・補充」(2012年4月13日「朝鮮中央通信」)

    「朝鮮中央通信」が社会主義憲法の修正・補充部分についての解説を配信した。

    それによると、「第一に、憲法序文で金正日同志の不滅の国家建設業績を法文化した」とし、金日成さんをこれまで通り北朝鮮の「始祖」、金正日さんを「共和国を不敗の強国に導いてこられた」国家建設者と位置づけ、「金日成同志を共和国の永遠の主席とし、金正日同志を共和国の永遠の国防委員会委員長と」した。このように、憲法序文の中でも金正日さんの業績が「不敗の強国の建設」として、つまり「核保有国」として台頭したということが明文化されたわけである。

    「第二に、国家機構部分を修正・補修した」とし、「朝鮮民主主義人民共和国国防委員会第1委員長の職責を新たに規定した」としている。そして第1委員長という職責を新たに設けた理由について「共和国の最高指導者が誰であるかということを明確にし、国家事業全般に関する首領の唯一的指導を確実の保障できる」ようにしたとし、「第1委員長が国家の最高指導者として対内外事業をはじめとする国家の全般事業を総指揮できるよう規定した」というように、事実上、委員長の権限をそのまま第1委員長に委譲したことを示している。

    そして「社会主義憲法修正・補充案では、国防委員会第1委員長職制を新たに規定したことに合わせ、憲法第6条第2節の題目と第91条、第95条、100条から105条、107条、109条、116条、147条、156条を整理した」としている。

    北朝鮮系のウェブサイト「ネナラ」には憲法条文が掲載されているので、そちらで条文の変更を確認しようと思ったのだが、更新作業中なのか、接続できなくなっている。

    「金正日同志を朝鮮民主主義人民共和国の永遠の国防委員会委員長に高く頂いた」(2012年4月13日「朝鮮中央通信」)

    「朝鮮中央通信」は、最高人民会議で国防委員会委員長は「永遠化」されたことと、金正恩さんが第1委員長に推戴されたことを伝えた。

    国防委員長の永遠化については、「金正日同志を朝鮮民主主義人民共和国の永遠の国防委員会委員長として高く頂くことについて『朝鮮民主主義人民共和国社会主義憲法』に修正補充し、最高人民会議の法令として採択したことを内外に厳粛に宣言する」としている。

    しかし、奇妙なことに国防委員会に「第1委員長」という新たな職責を設け、それに金正恩さんが推戴されたことを伝える記事の中では、憲法を修正したことについては一切触れていない。私もこの記事を書きながら一瞬勘違いしたのだが、国防委員会には副委員長の筆頭である第1副委員長という職責があり空席であるので、その職責に金正恩さんが就くのかと思っていた(「鄭明鶴さんという病気がちの高齢軍人が就任している」と書いたが、これは間違いであった。よって、第1副委員長は引き続き空席である)。しかし、国防委員長を「永遠化」するのと同時に「第1委員長」に「国防委員長」規定に定められていた事項をそのまま委譲する(そうしたのかどうかも分からないが)ことを明文化して、第1委員長である金正恩さんがはじめて国防委員長同様の最高権威者になれるはずである。

    過日の記事に書いた朝鮮労働党規律も社会主義憲法もいずれ、北朝鮮による公開であれリークであれ見ることができると思うので、そこで確認してみる必要がある。

    uriminzokkiriには「衛星打ち上げ失敗」を報じる「朝鮮中央TV」の動画はまだ公開されていないが、日本のメディアによると、「朝鮮中央通信」が海外向けに「失敗」を認めたのとほぼ同時刻に国内向けに「朝鮮中央TV」が正規放送(主体思想世界大会の中継)を中断して、失敗を伝える臨時ニュースを報じたという。日本のTVで見た限りでは、報道内容は「朝鮮中央通信」の配信をそのまま読み上げる形であった。

    金正恩さんの第1委員長推戴については、衛星打ち上げ成功失敗にかかわらず、できあがっていたシナリオに基づくものであろう。2009年11月に北朝鮮でデノミを実施し失敗し、金正日さんはその責任を労働党の経済部門に押しつけたとされている。この時のみならず、金正日さんは特に経済問題で失敗をしてもみな人のせいにしてきた。経済問題ではないが、今回の打ち上げ発射も金正恩さんは誰かのせいにして自分は逃げるのであろうか。

    これだけ早いタイミングで「勇敢にも」世界に失敗を公表した背景には、もしかするとその責任を金正恩さんみずからが取る覚悟があるからかもしれない。お父さんのように、自分は完全無欠ではないことを予め認めておいて、失敗覚悟、しかも自分の責任で何かをしようという意思の表れかもしれない。

    既述のように、単純に「失敗」としておいた方が中国が国際社会からの非難を遮ってくれるということだけかもしれないが、ここは踏み込んだ読みをしておきたい。

    とはいえ、「14日発射説」も「失敗隠蔽説」もことごとく外されているので、自信があるわけではない。

    「国際祝典参加者参加者、白頭山密営故郷の家訪問」(2012年4月12日「朝鮮中央通信」)

    下の過去記事にも書いたのでフォローアップしておく。

    http://dprknow.blog.fc2.com/blog-entry-78.html

    スペインの親北朝鮮人士であるBenosさんは、必ずや北朝鮮の一大祝典に参加するために訪朝していると思っていたが、やはり来ていた。「朝鮮中央通信」で配信された動画を何となく眺めていたら、突然登場したので思わず吹き出してしまった。

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    Source: KCNA, http://www.kcna.kp/userAction.do?action=videoindex&lang=kor&newsyear=2012&newsno=426322

    「白頭山密営故郷の家」というのは、金日成さんの生家である「万景台」と並んで、外国人や朝鮮人民がたびたび訪れる場所で、金正日さんの生家である。たぐい漏れず、祝典参加者も訪れたわけだが、各国の代表と思われる人々がスピーチをしている様子が映し出されている。日本にある「チュチェ思想国際研究所」の「研究員」であろうか、日本語でスピーチをしている人もいた。

    参加者たちは自国語でスピーチを行っていたようだが、最後の場面でBenosさんが登場し突然朝鮮語で「위대한 령도자 김정일동지 만세!(偉大な指導者金正日同志万歳!)」とやりはじめたので、吹き出してしまったというわけである。Benosさんは、朝鮮語ができないということであったが、手の挙げ方も含めてなかなか堂に入った朝鮮語であった。

    「地球観測衛星『光明星3号』軌道進入に成功しなかった」(2012年4月13日「朝鮮中央通信」)

    私の予想は全く外れた。

    今、「朝鮮中央通信」が、光明星3号の打ち上げ失敗を認めた。発射は、7時38分55秒で米国NORADが発表した時刻と秒単位の誤差はあったが、さすがにNORADは正確であった。現在、北朝鮮の科学者や専門家が失敗原因を究明中であるとしている。

    さて、金正恩さんは出鼻を大きくくじかれた形になった。しかし、外国の報道陣を招いていたからかもしれないが、私の予想が外れたのも非常に驚いた。まだ、国内向けにどのようなメッセージを発するのか分からないが、少なくても対外的には失敗を認めたわけである。この「勇気」は何を示しているのであろうか。

    失敗にせよ成功にせよ北朝鮮は発射ボタンを押してしまったので、米国をはじめ各国の非難にさらされるであろう。過去記事にも書いたが、国連安保理で中国がどのような態度を示すのかも注目しなければならない。中国としては、「失敗したのだから」という、国際的には全く筋が通らないが北朝鮮に対しては「同志の哀れみの情」ととらえられるような理由をつけて、安保理での厳しい対応に反対するのではないだろうか。

    金正恩さんは、顔に付いた泥を払い落とすために、新たなロケット発射や核実験に走るという予測もされているが、とにかく「自主権を行使するために米帝の反対を押し切って」衛星を打ち上げたのだから、一度ここで踏みとどまって欲しいものである。

    ボールは米国のコートにある。

    北朝鮮衛星発射か?(川口のコメント)

    今朝、7時40分頃、衛星らしきものが発射され、日本政府の情報では空中分解したと。一方、平壌の外国人記者プレスセンターでは、大型スクリーンに何も映し出されていないというNHKラジオでのレポートあり。

    衛星発射は、やはりライブではなく時間差をつけて外国人記者に公開するつもりであったのか。1分間飛行したということなので、目に見える範囲での爆発はなかったのか。だとすれば、北朝鮮は「成功」と発表し、今夜にでも衛星から受信したという音声を公表するであろう。ただし、発射の映像が1時間以上経っても公開されていないことからすると、目に見える範囲で爆発し、それを隠すための映像加工をしているのかもしれない。あらかじめ、「万一」に備えての映像を準備していなかったとすれば、そうしたSFX技術がなかったのか、よほど発射に自信があったのかいずれかであろう。

    ともかくも日本も含む周辺国に影響がなかったのは幸いであるが、ラジオを聞いていたら「100万分の一の確立のために配備した」などといっている人がいた。明日にでもミサイルが飛来するかのように騒ぎ立てて、国民の恐怖心を煽っておきながら、その豹変ぶりにもあきれてしまう。

    また、発表のタイミングからして、今回の日米合同「実戦訓練」の最大の目的である、発射情報の共有がどれほどうまくいったのか。現段階では、意図的に発表を遅らせているだけかもしれないが、現在進行中であろう安全保障会議後の記者会見で何らかの情報が公開されるであろう。

    <追記:2012年4月13日 11:14>
    NORADが下記のような発表をした。

    http://www.norad.mil/News/2012/041212.html

    「NORADはテポドン2ミサイルの発射を米国東部時間6:39分(日本時間午前7時39分)に探知し、追尾した。ミサイルは黄海に向けて南方に飛行した。

    現段階では、ミサイルの一段目がソウルの西165km地点の海に落下した。一段目以降は失敗し、破片等は地上に落ちなかった。ミサイルやその破片等による危険はない。」

    NORADは、発射された飛翔体を「テポドン2」としているが、これは何に基づくものなのであろうか。北朝鮮が外国メディアに公開したロケットは、専門家の言によるとノドンを4つ組み合わせたものであるはずである。NORADの判断が正しくかつテポドン2と銀河3号が同じ構造ではないとすると、発射された飛翔体が別のロケット、まさにテポドン2であった可能性はないのであろうか。

    銀河3号はそのまま発射台に残っており、後日、例えば14日に大々的に公開しながら発射するというパターンを考えるのは、考えすぎであろうか。米国が衛星で監視している発射台の写真を見れば一目瞭然なのだが。ところで、日本の「情報収集衛星」と称するスパイ衛星は、発射の様子をどこまで補足できたのだろうか。

    <追記2:2012年4月13日 19:41>
    それにしても、日本の対応はどうなっているのであろうか。J-Alertの予備テストでさんざん不具合を出した上、さらに本番ではJ-Alearは流さない。その理由は「破片が落下する危険がないのに、流すと国民を混乱させるだけだから」と。さんざんテレビで聞かされてきたJ-Alearの音声は「破片落下」ではなく、「北朝鮮がミサイルを発射した」だったはず。私の認識では、J-Alertは「発射した」という事実を国民に伝えて注意を喚起することが目的のはず。「破片が落ちるので逃げて下さい」などと言っても間に合うはずがない。国民にいかにして的確な情報を伝達するのかがハード面においてもソフト面においても全く検討された形跡がない。

    さらに、今回の米日韓合同「実戦演習」は、発射情報共有とそれに対する対応の連携体制の確認であったはず。もちろん、政府はそんなことは一切いっていないが、私のような軍事ど素人が見ていてもそうだと分かる。報道を見ていると、米軍からの第一報は即座に伝えられて、沖縄に展開している自衛隊はそれなりの動きをしたようでもある。それでも「地球は丸いから、水平線の向こうのミサイルはある程度の高度に上昇するまでは日本や日本近海に展開する自衛隊の艦船などからは確認できなくても仕方がない」などといいわけがましいことをいっている人がいる。そんなことは当たり前のことで、だから米軍の衛星や韓国沖に展開した米艦艇などからの情報を即座に入手、それを的確に分析して対応することが日本のすべきことではないのか。前にも書いたが、「その時」に主として北朝鮮を監視するために打ち上げた日本の「情報収集衛星」はなにをやっていたのか。水平線の向こう側が監視できないのであれば、短波帯の通信に障害を与えること覚悟で、冷戦時代に超大国が使用していたようなOTHレーダーを復活させれば良い。

    「百万分の一の可能性」を理由にマスコミも巻き込んで大騒ぎをし、その結果がこのざまでは、衛星発射に失敗した金正恩さん以上に良い恥さらしとなったことを政府は認識すべきである。日本の実力を見破られないために、わざと失態を演じているというのであれば、それはそれで立派であるが、どうやらそれも期待できそうではない。大体、「ミサイル防衛システム」が「抑止力」であるということが分かっているのかも疑わしい。そもそもミサイル防衛システム実効性に疑問符が付いている上、日本が現有するシステムで一体何ができるのかということでさらに疑問符が付く。そして、今回の失態で抑止力のなさをさらけ出してしまったわけである。

    この際日本は、北朝鮮のように失敗を素直に認めて、本当にできるのであれば「ミサイル防衛体制」の抜本的再検討をする必要がある。

    今夜の酒はまずい。

    「『朝鮮労働党規約』改定について」(2012年4月12日「朝鮮中央通信」)

    「朝鮮中央通信」が労働党規約の改定に関する記事を配信した。条文は掲載されていないが、改定された部分についての解説がある。

    まず、今回の改定は「敬愛する金正日同志が我が党と革命の要求を深く洞察され、偉大な金正日同志を朝鮮労働党総秘書として永遠に高くいただき、偉大な金日成同志が開拓され、偉大な金正日同志が引き継いでこられた、主体革命偉業、先軍革命偉業を最後まで継承・完成していくことに関する歴史的な方針を提示され、それに合うように党規約を改定するための方向と方法を明らかにして下さった」とし、今回の党規約改定が金正恩さん主導で行われたとしている。

    そして「偉大な金正日同志は朝鮮労働党の永遠の総秘書であり、朝鮮労働党と朝鮮人民の永遠の首領であ」るとし、これまで金日成さんだけに使われてきた「首領」という肩書きを金正日さんにも適用している。さらに、「金正日さんを永遠の総秘書・首領とする」ことに加え、「朝鮮労働党は偉大な金日成同志と金正日同志の党である」とし、このことについて新たに規定・掲載したとしている。

    また、「朝鮮労働党は、偉大な金日成-金正日主義を唯一の指導思想とし、全社会の金日成-金正日主義化を党の最高綱領と」するとしている。これまでは、金日成さんの主体思想の下位概念あるいは並立概念として金正日さんの先軍思想が扱われてきたが、ここでは「金日成-金正日主義」という言葉を使いながら、それらを合体・混合させているように見受けられる。

    第1秘書について改定案では、「朝鮮労働党第1秘書職を新たに作り、朝鮮労働党第1秘書は、党の首班として党を代表し、全党を指導しながら、偉大な金日成同志と金正日同志の思想と路線を実現していくことについて規定・掲載した」とし、書き旧規約の

    22. 조선로동당 총비서는 당의 수반이다.
    조선로동당 총비서는 당을 대표하며 전당을 령도한다.
    조선로동당 총비서는 당중앙군사위원회 위원장으로 된다.
    (22.朝鮮労働党総秘書は、党の首班である。
    朝鮮労働党総秘書は、党を代表し全党を指導する。
    朝鮮労働党総秘書は、党中央軍事委員会委員長になる。)

    前半部分についてのみ第1秘書に引き継いだようにも受け取れる。実際に、現段階で金正恩さんは党中央軍事委員長に就任していないので、もしかすると、後半の「朝鮮労働党総秘書は、党中央軍事委員会委員長になる」は第1秘書規定に引き継がれなかったのかもしれない。

    <追記:2012年4月12日 15:28>
    「労働新聞」に同様の記事が出ていた。今日は、アクセスが集中しているのか、労働新聞を開くのに大変時間がかかっている。

    http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2012-04-12-0016&chAction=L

    <追記2:2012年4月12日 21:41>
    「労働新聞」サーバーがやっと軽くなり、いろいろな記事が直ぐに見られるようになった。

    そしたら「朝鮮労働党規約 序文」なるものがあった。どうやら、前出の党規約改定に関する諸記事は、この「序文」に基づいているようである。やはり「金日成-金正日主義」という用語が序文の中で多用され、きちんと数えてはいないが「主体」や「先軍」という言葉よりも多いような印象を受ける。

    「金日成-金正日主義」は「マルクス・レーニン主義」に響きとしては近いような気がしないでもない。しかし、原典であるマルクス主義を主体思想とすれば、マルクス・レーニン主義はそれを援用した「先軍思想」として、金正日さんにより確立されたといえるであろう。したがって、この段階で敢えて「金日成-金正日主義」という用語を持ち出したのは、これを金正恩さんの独自の「思想」とするためではないだろうか。

    白頭山の血統という運命上、主体思想-先軍思想ラインからは名目上は逸脱できないので、おじいさんとお父さんの名前を冠した「主義」を創設し、そこに金正恩さん独自の解釈を加える「大きな」余地を作り出したのではないだろうか。もしかすると、「永遠の総秘書」という形で金正日さんを神様に祭り上げたのも、既に神様となっている金日成さんに加えてしまい、実践規範部分における自らの解釈裁量の幅を広げたとのではないだろうか。

    「労働新聞」の序文についての記事
    http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2012-04-12-0017

    「我が党と人民の最高指導者金正恩同志を朝鮮労働党の最高首位に高く推戴」(2012年4月12日「労働新聞」)

    「労働新聞」にこのような記事が出た。記事はまだ読んでいないが、写真を見て驚いた。金正恩さんは、これまで金正日さんが着ていたような「人民服」あるいは「野戦服」姿で静止画や動画に登場していたが、なんとこの記事(web版)で野戦服姿の金正日さんと並び掲載されている写真はスーツにネクタイである。金正日さんがスーツにネクタイ姿で登場した記憶はないが、金日成さんは人民服を着ることもあったものの、スーツとネクタイの着用もしばしばあった。

    やはり、金正恩さんは、お父さんよりもおじいさんのイメージで行きたいのであろう。その理由は、朝鮮人民にとって、おじいさんの金日成さんは「建国者」であり「父」であり「神様」であり、そして経済建設を着実に進めたという印象がある一方、お父さんの金正日さんはその全てにおいておじいさんの一段下の格である。こと、人民生活と直結する経済建設については、失政が多かった。

    金正恩さんは、二段格下に甘んじることになる金正日さんと「全く同じ」になることを選ばず、金正日さんと同列に並ぶために金日成さんの一段格下を選んだということであろう。

    今日の「労働新聞」は読み甲斐がありそうだ。

    金正恩 ネクタイ
    Source:「労働新聞」、http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2012-04-12-0006

    「金正恩同志が錦繍山太陽宮殿を訪れる」(2012年4月11日「朝鮮中央TV」)

    「朝鮮中央通信」でこのニュースの文字バージョンは配信されていたが、今朝、uriminzokkiriで「朝鮮中央TV」の動画も配信された。配信された動画のタイトルは「我が党と国家、軍隊の最高指導者金正恩同志が朝鮮労働党第4次代表者会参加者たちと共に錦繍山太陽宮殿を訪れ、偉大な金日成同志と金正日同志に崇高な敬意を表した」である。

    http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?categ1=12&no=9303

    「金日成将軍の歌」と「金正日将軍の歌」が順番に鳴り響く中、金正恩さん他、序列の高い人々から金日成・金正日両名の肖像画の前に歩み出て頭を下げて挨拶をしている。

    2012-04-11-10-3-yflv_000094920.jpg
    Source:KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?categ1=12&no=9303

    2012-04-11-10-3-yflv_000036040.jpg
    Source:KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?categ1=12&no=9303

    壁に掛かっている時計のような物を見ると時間は18時前後なので、代表者会が終わってからのことであろう。細かく分析するのであれば、頭を下げる列に見られる顔ぶれをいちいちチェックする必要があろうが、それよりもこの動画を見ながら考えたことは、金正恩さんがこの瞬間、お父さんとおじいさんの顔を見ながら何を考えたのだろうかということである。代表者会終了後であれば、少なくとも「第1秘書」という北朝鮮における最高の肩書きを得た後である。金正恩さんは、「おかげさまで僕もここまで偉くなれました」と報告したのか、「大変なことになりました」と報告したのか。

    さぞかし、複雑な心情であったのであろう。私の思い込みかもしれないが、なぜかそれが彼の顔に表れているように思えてならない。

    「党中央指導機関構成員補選、選挙、任命」(2011年4月11日「朝鮮中央通信」)

    「朝鮮中央通信」で朝鮮労働党の新人事が発表された。

    党中央委員会政治局常務委員会委員、党中央軍事委員会副委員長
    崔龍海(18位):党中央軍事委員会副委員長としても選出。昨日の記事で「次帥」に昇格したと紹介した人である。

    党中央委員会政治局委員:
    金正角(24位)
    張成沢(19位)
    朴道春(17位)
    玄哲海(59位):党中央軍事委員会委員にも選出。
    金元弘(58位)
    李明秀(74位):党中央軍事委員会委員にも選出。

    党中央委員会候補委員
    郭範基(49位)
    呉克烈(29位)
    盧斗哲(20位)
    李炳三(83位)
    趙ヨンジュン(なし)

    党中央委員会秘書
    金慶喜(14位)
    郭範基(49位):党中央委員会部長にも任命。

    党中央軍事委員会副委員長
    崔龍海(18位)

    党中央軍事委員会委員
    玄哲海(59位)
    李明秀(74位)
    金ラクキョム(なし)

    党中央委員会部長(任命)
    金永春(5位)
    郭範基(49位)
    朴奉珠(121位)

    注:括弧内は金正日葬儀委員会名簿における序列

    となっている。金正日の死去に伴い空席になった政治局常務委員には崔龍海さんが補欠選挙で選出されており、党中央軍事委員会の副委員長にも補欠選挙で選出され、金正恩、李英鎬さんらと並んだ。金正日さんが就いていた委員長は空席のままである。改訂前の労働党党規則では、総秘書が党中央軍事委員会の委員長を兼任するという規定になっていた。改定された規則はまだ公開されていないが、今回の人事を見ると、この部分の改訂は行われなかったようである。つまり、党中央軍事委員会の委員長も総秘書と共に「永遠化」されたということであろう。

    いずれにせよ、崔龍海さんが金正恩体制を支える核心人物の一人となったことは間違いない。

    注目されていた、金正日さんの妹、金慶喜さんは党中央委員会秘書、その夫の張成沢さんは政治局委員に選出され、やっと夫人と同じ身分になった。ただ、夫人は、党中央委員会秘書にも選出されているので、肩書きの上では夫人の方が多い。中央委員会秘書については、追って平井さんの本で調べてみることにする。

    党中央委員会候補委員に選出されたメンバーの中に趙ヨンジュンさんがいるが、この人は私の持ち合わせている情報では謎の人物である。ただ、今年の2月14日に132名に金正日勲章が授与されているが、この人も授与の対象者となっている。

    同様に党中央軍事委員会委員となった金ラクキョムさんも、現状では謎の人物である。もう少し調べてみたい。

    <追記:2012年4月12日 07:51>
    ソウル発「時事通信」のこんな記事が出たが、「朝鮮中央通信」webではまだ確認できていない。ラジオ放送を聴取しての報道であろうか。

    「党の要職全て手中に=正恩氏、常務委員などにも就任―北朝鮮」
    http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120412-00000023-jij-int

    「各国の宇宙科学技術部門専門家、記者が衛星管制総合指揮所を参観」(2012年4月11日「朝鮮中央通信」)

    北朝鮮入りしたメディアでは既に配信されているかもしれないが、「朝鮮中央通信」がこのようなニュースを動画で配信した。
    外国の記者たちが平壌の衛星管制総合指揮所を参観したということである。総合指揮所の入り口には「偉大な指導者金正日同志が現地指導された前門、2009年4月5日」と「敬愛する金正恩同志が現地指導された前門、2009年4月5日」という看板が並んで掲げられている。さすがに、ダミー施設に金正日さんや金正恩さんの名前は張り出さないと思われるので、今回案内されたのは本当の総合指揮所であろう。

    総合指揮所flv_000026598
    Source: KCNA, http://www.kcna.kp/

    内部は発射場にある管制施設よりも「それらしく」できており、正面には衛星発射場の様子が映し出される大型スクリーンが設置されている。恐らく、記者たちはこのスクリーンを通して発射の様子を見ることになるのであろう。

    総合指揮所flv_000120118
    Source: KCNA, http://www.kcna.kp/

    また、大型スクリーン横の画面にはオシロスコープの波形のようなものが映し出されているが、それが何なのか、他国の衛星発射でもこのようなデータを使うのかは分からない。

    総合指揮所flv_000113118
    Source: KCNA, http://www.kcna.kp/

    衛星からの電波を受信するのはいつであるかとの記者の質問に対し、北朝鮮担当者は「10時間半、11時間、真夜中、12時間過ぎで我が国の経緯に来るものとの見通しである」と回答している。すると、予告しているとおりやはり午前中から昼にかけて発射し、衛星からの電波を受信するのはその日の夜ということになるのであろう。恐らく、北朝鮮が衛星から受信したとして初めに公開するのは「金日成将軍の歌」のような音声であろう。もしかすると、今回は金正恩さんのテーマソングである「パルコルム」かもしれない。どうせ公開するのであれば、事前に送信周波数やモード(変調方式)、軌道などまで公開しておけば、少なくとも韓国や日本では受信できる可能性は高い。前回のように、違法無線局が多い27MHz帯での送信でなければの話だが。

    「金正恩同志を朝鮮労働党第1秘書に高く推戴」(2012年4月11日「朝鮮中央通信」)

    金正恩さんがどのような肩書きを得るかということで「朝鮮中央通信」の報道に注目していたが、先ほど、このような記事が掲載された。私は「総秘書」に推戴されるものと予測していたが、なんと「第1秘書」に推戴されたとのこと。前記事にも書いた平井さんの本を早速めくってみたが、「第1秘書」という肩書きについての記述はなさそうだし、過去記事に書いた「朝鮮労働党規約」の核心部分を見ても「第1秘書」については書かれていないようである。復習のために過去記事をもう一度見ると、

    22. 조선로동당 총비서는 당의 수반이다.
    조선로동당 총비서는 당을 대표하며 전당을 령도한다.
    조선로동당 총비서는 당중앙군사위원회 위원장으로 된다.
    (22.朝鮮労働党総秘書は、党の首班である。
    朝鮮労働党総秘書は、党を代表し全党を指導する。
    朝鮮労働党総秘書は、党中央軍事委員会委員長になる。)

    となっている。さて、この「第1秘書」とは何なのであろうか。可能性としては、金日成さんを「永遠の主席」としたように、金正日さんを「永遠の総秘書」とし、その下に事実上の「総秘書」である「第1秘書」という職責を作ったのかもしれない。そうだとすれば、朝鮮労働党規約の改正が必要となるはずだが、いずれそれも何らかの形で公開(あるいは漏洩)されることになるのであろう。

    「国防委員長」については、「永遠の国防委員長」を予測していたが、「総秘書」まで「永遠化」されたとすれば、私としては想定外である。こうなってくると、「国防委員長」を「永遠化」しないで金正恩さんは13日に招集されている最高人民会議で、国防委員長に就任するのかもしれない。確かに、国防委員長が北朝鮮の最高指導者の職責となるので、総秘書を「永遠化」することで金正日さんに敬意を表しながら、国防委員長はそのまま金正恩さんが引き継ぐというパターンかもしれない。もしかすると、「朝鮮人員軍最高司令官」という既に得た肩書きからすれば、国防委員長の方が適職なのかもしれない。

    いずれにせよ、「第1秘書」の扱いと13日の最高人民会議の行方に注目する必要がある。

    注:本ブログでは、日本の報道で一般的に使われる「総書記」という用語を使わず、「総秘書」という用語を使っている(はず)であるが、両者は同義である。

    <追記:2012年4月11日 20:20>
    なんと、この記事を書いている間に「朝鮮中央通信」でもう一つの記事の配信があった。
    「金正日同志を朝鮮労働と総秘書として永遠に高く頂く」
    これが記事のタイトルである。内容は読んでいないが、上の予測が当たったようだ。

    この時間は、半ば酩酊状態にあるのだが、悪くはない予測だった。

    <追記2:2012年4月11日 21:57>
    さらに、「朝鮮中央通信」に「朝鮮労働党第4次代表者会進行(速報)」なる記事が出た。その中で複数の議案と共に、「朝鮮労働党規約改正についての議案が決定された」となっているので、やはり「総秘書の永遠化」と「第1秘書」の創設という規約改定が行われたものと思われる。
    プロフィール

    川口智彦

    Author:川口智彦
    「크는 아바이(成長するオッサン)」

    ブログの基本用語:
    「元帥様」=金正恩朝鮮労働党委員長(上の絵の人物)、2016年12月20日から「最高領導者同志」とも呼ばれる
    2021年1月11日から「総秘書同志」
    「首領様」=金日成主席
    「将軍様」=金正日総書記
    「政治局員候補」=金ヨジョン(「元帥様」の妹)、2018年2月11日から「第1副部長同志」とも
    「白頭の血統」=金一族
    「大元帥様達」=「首領様」と「将軍様」
    「女史」=李雪主夫人(2018.07.26より「同志」に)

    우 그림은 충정 담아 아이가 그린 경애하는 김정은원수님이십니다.


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