「朝鮮民主主義人民共和国最高人民会議第13期第2回会議開催」:金正恩欠席と壇上中央の様子、国防委員会副委員長、党と軍への影響力分散、空軍と防空能力の強化?、12年制義務教育、金正恩の「談話」 (2014年9月26日 「労働新聞」)
9月25日、「最高人民会議第13期第2回会議」が開催された。別記事にも書いたとおり、金正恩はこの会議に出席しなかった。
2014年4月9日に開催された第13回第1期会議では、金正恩は金永南(最高人民会議常任委員会委員長)と崔龍海(<前>朝鮮人民軍総政治局長)に挟まれて中央に座っていた。

Source: 『労働新聞』、「조선민주주의인민공화국 최고인민회의 제13기 제1차회의 진행」、http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2014-04-10-0002&chAction=D
ところが今回は、中央の机の着席位置を少し広めに取り、中央には金永南が座っている。左にある空席は、演台で演説を行っている朴奉珠(内閣総理)の座席である。また、第1回会議で右にいた崔龍海に代わり黄炳瑞(朝鮮人民軍総政治局長)が座っている。また、『労働新聞』には、壇上中央を大写しにした写真は掲載されておらず、金正恩が出席した会議とは様相を異にしている。これまでの、最高人民会議か党代表者会かはっきり覚えていないのだが、金敬姫がいつも座っていたあたりの席が空席になっていたことがあった。また、フロアの代議員席にも空席はある。よって、欠席者の席は原則として空席にするということなのであろうが、今回は「欠席」ではなく別の扱いなのかもしれない。この点、過去に金正日が最高人民会議を欠席したときの映像と比較してみる必要がありそうだ。

Source: KCTV, 2014/09/25放送
今回の「最高人民会議」の議題は、「1.朝鮮民主主義人民共和国最高人民会議政令『全般的12年制義務教育を実施することについて』の執行状況総話について」と「2.組織問題」である。前者は少し長くなるので、まず「2.組織問題」の方から書いておくことにする。
「組織問題」は、国防委員会委員人事であるが、崔龍海を「職務変動により朝鮮民主主義人民共和国国防委員会副委員長から」、張ジョンナム(<前>人民武力部長)を「職務変動により朝鮮民主主義人民共和国国防委員会委員から」それぞれ「召還」した。崔龍海については、上記のとおり「人民軍総政治局長」の職を解かれており、今回の「最高人民会議」もスーツで出席しているので、まさに「職務変動により」ということであろう。一方、張ジョンナム(上将)については、「人民武力部長」の職を解かれ(現人民武力部長は、玄永哲大将)たので、これも「職務変動により」ということにはなっている。
スーツ姿で座る崔龍海(左)

Source: KCTV, 2014/09/25放送
「なっている」というのは、張ジョンナムについては、「人民武力部長」を解任される際に大将から上将に降格されているので、事実上の左遷の可能性が高い。(後任の玄永哲も「人民武力部長」就任の際、元帥から大将に降格されているが、これは「元帥様」を事実上(現役)、金正恩だけにするための措置であろう。李乙雪は名誉「元帥」か)。
崔龍海については、「軍人」から「党人」に戻したということであろう。張成沢は「党人」でありながら国防委員会の副委員長も兼任していた。その結果、「党」と「軍」に対して絶大な影響力を行使できるようになり、「国家転覆陰謀行為」を行うに至ったということであろうか。そこで、軍と党に対する権能を分け、張成沢が担っていた「党」における権能を崔龍海に集中させ、黄炳瑞には「軍」に対する権能を与えたということなのではないだろうか。
話が前後してしまうが、今回の「組織問題」では、「敬愛する金正恩同志の提起により、黄炳瑞代議員を朝鮮民主主義人民共和国国防委員会副委員長に、玄永哲代議員、李ビョンチョル代議員を朝鮮民主主義人民共和国国防委員会委員に補選した」としている。
『労働新聞』で紹介された各委員は以下のとおり。
黄炳瑞人民軍総政治局長(国防委員会副委員長)

Source: 『労働新聞』、「조선민주주의인민공화국 국방위원회 부위원장,위원들」、http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2014-09-26-0007&chAction=T
玄永哲人民武力部長(国防委員会委員)

Source: 『労働新聞』、「조선민주주의인민공화국 국방위원회 부위원장,위원들」、http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2014-09-26-0007&chAction=T
李ビョンチョル航空及び反航空軍司令官(国防委員会委員)

Source: 『労働新聞』、「조선민주주의인민공화국 국방위원회 부위원장,위원들」、http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2014-09-26-0007&chAction=T
航空及び反航空軍司令官の李ビョンチョルを「国防委員会委員」に金正恩が「提起」したのは、「飛行士大会」とも関連し空軍力と防空能力の強化を彼が考えているからではないだろうか。北朝鮮がどこまでできるかはさておき、イラク戦争のみならず、現在進行中の「イスラム国」に対する米軍による空爆も金正恩が重大な脅威と受け止めていることの証左ではないだろうか。
順番が前後するが、第1議題の「1.朝鮮民主主義人民共和国最高人民会議政令『全般的12年制義務教育を実施することについて』の執行状況総話について」である。「朝鮮中央TV」の「録画実況」では一部しか流されなかったが、『労働新聞』にはこの議題に関する朴奉珠内閣総理の長文の演説が掲載されている。
演説をする朴奉珠

Source: 『労働新聞』、「조선민주주의인민공화국 최고인민회의 법령 《전반적12년제의무교육을 실시함에 대하여》의 집행정형총화에 대하여 최고인민회의 제13기 제2차회의에서 한 내각총리 박봉주대의원의 보고」、http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2014-09-26-0005&chAction=T
本記事を書くに際し、朴奉珠演説をきちんと読む必要があるのだが、ざっと眺めただけで書いてしまうのならば、これは9月5日の「第13回全国教育幹部大会参加者に丁重に伝達された」、「2014年8月30日、朝鮮労働党中央委員会責任幹部とされた談話『新世紀の教育革命を起こし、我が国を教育の国、人材強国として輝かせよう』」を受けたもののようだ。体調不良がなければ、金正恩自身が「全国教育幹部大会」か「最高人民会議」でこの「談話」を読み上げようとしていたのかもしれない。9月4日のモランボン楽団新曲演奏会までは何とか出席できたものの、この時点で相当体調が悪化しており、その後の公務がキャンセルされ、このような形で「伝達された」のかもしれない。「最高人民会議」の「議題」としてあげられていたほどの事項なので、相当に重要案件であったことは間違いない。
『労働新聞』、「경애하는 김정은동지의 불후의 고전적로작 《새 세기 교육혁명을 일으켜 우리 나라를 교육의 나라,인재강국으로 빛내이자》가 제13차 전국교육일군대회 참가자들에게 전달되였다」、http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2014-09-06-0001&chAction=S
それは、「党中央委員会幹部とされた談話」を読むとよく分かる。「12年制義務教育」が、金正恩体制最初の大改革であり、それが金正恩体制の宣伝材料であるということを差し引いても、相当に意味のあることが書かれている。
金正恩は「談話」冒頭で「(我が)国の教育事業は、(現在の状況に)相応しい水準で進められていない」、「教育事業が科学的な戦力により、現実発展の要求に合うように進められておらず、教育体系と教育管理、教育内容と方法において根本的な改善がなく、教育事業に必要な物質技術的条件が十分に備えられていない」と厳しく批判している。
続けて金正恩は、具体的な問題点を指摘していくが、まず「教育分門では、全般的12年制義務教育が党の意図に合うように実施され、成果を出せるよう中等一般教育体系をさらに改善・完成させなければならない」とした上で、地方都市において「中等一般教育」が十分に行われていない現状を鑑み、「当該地域の経済地理的特性と学生の個性による教育を、様々な形態で中身のある形でしなければならない」とその対応策を提起している。
高等教育については、「高等教育体系を世界的趨勢に合うよう、強盛国家建設で要求される人材をさらに多く養成しなければならない」が、現状では「新しい時代、知識経済時代をリードする人材養成という点で制約がある」とし、「博士院(大学院博士後期課程)」を増設して、研究者を養成することを求めている。現在、北朝鮮の高等教育機関で行われている技術教育が依然として旧技術中心なので、この状況から脱却し先進技術を教育できるようにしたいという考えのようだ。
また、先端技術を研究するための「科学者」ではなく、技能者育成が必要であるという現状も次のように述べている。「専門学校を大学に統合するものは統合し、職業技術大学へと転換させるものは転換し、高等教育の全般的水準を高めなければならない」、「実践技術人材に対する要求が日々高まっているが、未だにそれに適合するように職業技術教育体系ができていない」。職業教育・技能教育を行う教育機関を整理統合し、北朝鮮が必要とする技能を持った人材を養成しようということのようだ。それとともに教育内容についても「基礎科目であれ専門科目であれ、現実の要求に適合するように、実際に使える内容で構成し」なければならない」とも述べている。
また、これらを要求するだけではなく、こうした事業を実施するためには「国家的な投資を惜しんではならず、特に学生に一般基礎知識を身につけさせる中等一般教育部門に投資を制限なくしなければならない」と述べ、特に中等教育部門も全国レベルでの底上げをすることを求めている。
さらに、現状の問題を「当面、不足している学校と教室、寄宿舎などを早く建設し、古い校舎を補修するための対策を立て、教科書と参考書を十分に提供し、学用品の質を決定的に高めなければならない。教育部門では毎年、教科書用紙のために苦労しているが、国家的に用紙提供対策を立てて学生が勉強することにおいて支障がないようにしなければならない」正直に述べている。
教員については、「12年制義務教育の実施段階で・・・農村地域と山間地域の特殊性に合うように多科目養成するという問題のような現実的に提起される様々な問題を解決するための対策」が必要であるとし、複数科目を担当できるような教員養成が必要であるとしている。
さらに、教員の社会的地位の向上を求めるような部分もある。「教員が高い誇りを持って教育事業に従事できるよう、彼らの事業と生活、特に政治組織生活で提起される問題を円満に解決しなければならない」。北朝鮮では、儒教的な考えから教員は尊敬の対象となっているはずであるが、一方、「党政治組織」の中では地位が低く、このギャップを埋めようという話なのかもしれない。
それと関連し、金正恩の言葉を引用しながら最後に「教育部門の党組織が教職員と学生の中に現れている非原則的で、非正常的な現象との闘争を強力に展開し、教育事業に対する政治的指導を深め、党の教育革命方針と少しもズレないよ
うに貫徹しなければならない」と述べている。恐らく、金正恩は具体的な事例を述べたのだろうが、彼の言葉を直接引用することなく、それをボカして戒めている形だ。この「非原則的で非正常的」というのが、何を指すのかは分からないが、一部の「金持ち」から賄賂を受け取り、こうした家庭の子女たちを特別扱いしている現実ではないだろうか。
上記のとおり、金正恩のこの「談話」を受けて、朴奉珠がどう演説しているのかはきちんと読む必要があるが、それについては追って書きたいと思う。
2014年4月9日に開催された第13回第1期会議では、金正恩は金永南(最高人民会議常任委員会委員長)と崔龍海(<前>朝鮮人民軍総政治局長)に挟まれて中央に座っていた。

Source: 『労働新聞』、「조선민주주의인민공화국 최고인민회의 제13기 제1차회의 진행」、http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2014-04-10-0002&chAction=D
ところが今回は、中央の机の着席位置を少し広めに取り、中央には金永南が座っている。左にある空席は、演台で演説を行っている朴奉珠(内閣総理)の座席である。また、第1回会議で右にいた崔龍海に代わり黄炳瑞(朝鮮人民軍総政治局長)が座っている。また、『労働新聞』には、壇上中央を大写しにした写真は掲載されておらず、金正恩が出席した会議とは様相を異にしている。これまでの、最高人民会議か党代表者会かはっきり覚えていないのだが、金敬姫がいつも座っていたあたりの席が空席になっていたことがあった。また、フロアの代議員席にも空席はある。よって、欠席者の席は原則として空席にするということなのであろうが、今回は「欠席」ではなく別の扱いなのかもしれない。この点、過去に金正日が最高人民会議を欠席したときの映像と比較してみる必要がありそうだ。

Source: KCTV, 2014/09/25放送
今回の「最高人民会議」の議題は、「1.朝鮮民主主義人民共和国最高人民会議政令『全般的12年制義務教育を実施することについて』の執行状況総話について」と「2.組織問題」である。前者は少し長くなるので、まず「2.組織問題」の方から書いておくことにする。
「組織問題」は、国防委員会委員人事であるが、崔龍海を「職務変動により朝鮮民主主義人民共和国国防委員会副委員長から」、張ジョンナム(<前>人民武力部長)を「職務変動により朝鮮民主主義人民共和国国防委員会委員から」それぞれ「召還」した。崔龍海については、上記のとおり「人民軍総政治局長」の職を解かれており、今回の「最高人民会議」もスーツで出席しているので、まさに「職務変動により」ということであろう。一方、張ジョンナム(上将)については、「人民武力部長」の職を解かれ(現人民武力部長は、玄永哲大将)たので、これも「職務変動により」ということにはなっている。
スーツ姿で座る崔龍海(左)

Source: KCTV, 2014/09/25放送
「なっている」というのは、張ジョンナムについては、「人民武力部長」を解任される際に大将から上将に降格されているので、事実上の左遷の可能性が高い。(後任の玄永哲も「人民武力部長」就任の際、元帥から大将に降格されているが、これは「元帥様」を事実上(現役)、金正恩だけにするための措置であろう。李乙雪は名誉「元帥」か)。
崔龍海については、「軍人」から「党人」に戻したということであろう。張成沢は「党人」でありながら国防委員会の副委員長も兼任していた。その結果、「党」と「軍」に対して絶大な影響力を行使できるようになり、「国家転覆陰謀行為」を行うに至ったということであろうか。そこで、軍と党に対する権能を分け、張成沢が担っていた「党」における権能を崔龍海に集中させ、黄炳瑞には「軍」に対する権能を与えたということなのではないだろうか。
話が前後してしまうが、今回の「組織問題」では、「敬愛する金正恩同志の提起により、黄炳瑞代議員を朝鮮民主主義人民共和国国防委員会副委員長に、玄永哲代議員、李ビョンチョル代議員を朝鮮民主主義人民共和国国防委員会委員に補選した」としている。
『労働新聞』で紹介された各委員は以下のとおり。
黄炳瑞人民軍総政治局長(国防委員会副委員長)

Source: 『労働新聞』、「조선민주주의인민공화국 국방위원회 부위원장,위원들」、http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2014-09-26-0007&chAction=T
玄永哲人民武力部長(国防委員会委員)

Source: 『労働新聞』、「조선민주주의인민공화국 국방위원회 부위원장,위원들」、http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2014-09-26-0007&chAction=T
李ビョンチョル航空及び反航空軍司令官(国防委員会委員)

Source: 『労働新聞』、「조선민주주의인민공화국 국방위원회 부위원장,위원들」、http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2014-09-26-0007&chAction=T
航空及び反航空軍司令官の李ビョンチョルを「国防委員会委員」に金正恩が「提起」したのは、「飛行士大会」とも関連し空軍力と防空能力の強化を彼が考えているからではないだろうか。北朝鮮がどこまでできるかはさておき、イラク戦争のみならず、現在進行中の「イスラム国」に対する米軍による空爆も金正恩が重大な脅威と受け止めていることの証左ではないだろうか。
順番が前後するが、第1議題の「1.朝鮮民主主義人民共和国最高人民会議政令『全般的12年制義務教育を実施することについて』の執行状況総話について」である。「朝鮮中央TV」の「録画実況」では一部しか流されなかったが、『労働新聞』にはこの議題に関する朴奉珠内閣総理の長文の演説が掲載されている。
演説をする朴奉珠

Source: 『労働新聞』、「조선민주주의인민공화국 최고인민회의 법령 《전반적12년제의무교육을 실시함에 대하여》의 집행정형총화에 대하여 최고인민회의 제13기 제2차회의에서 한 내각총리 박봉주대의원의 보고」、http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2014-09-26-0005&chAction=T
本記事を書くに際し、朴奉珠演説をきちんと読む必要があるのだが、ざっと眺めただけで書いてしまうのならば、これは9月5日の「第13回全国教育幹部大会参加者に丁重に伝達された」、「2014年8月30日、朝鮮労働党中央委員会責任幹部とされた談話『新世紀の教育革命を起こし、我が国を教育の国、人材強国として輝かせよう』」を受けたもののようだ。体調不良がなければ、金正恩自身が「全国教育幹部大会」か「最高人民会議」でこの「談話」を読み上げようとしていたのかもしれない。9月4日のモランボン楽団新曲演奏会までは何とか出席できたものの、この時点で相当体調が悪化しており、その後の公務がキャンセルされ、このような形で「伝達された」のかもしれない。「最高人民会議」の「議題」としてあげられていたほどの事項なので、相当に重要案件であったことは間違いない。
『労働新聞』、「경애하는 김정은동지의 불후의 고전적로작 《새 세기 교육혁명을 일으켜 우리 나라를 교육의 나라,인재강국으로 빛내이자》가 제13차 전국교육일군대회 참가자들에게 전달되였다」、http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2014-09-06-0001&chAction=S
それは、「党中央委員会幹部とされた談話」を読むとよく分かる。「12年制義務教育」が、金正恩体制最初の大改革であり、それが金正恩体制の宣伝材料であるということを差し引いても、相当に意味のあることが書かれている。
金正恩は「談話」冒頭で「(我が)国の教育事業は、(現在の状況に)相応しい水準で進められていない」、「教育事業が科学的な戦力により、現実発展の要求に合うように進められておらず、教育体系と教育管理、教育内容と方法において根本的な改善がなく、教育事業に必要な物質技術的条件が十分に備えられていない」と厳しく批判している。
続けて金正恩は、具体的な問題点を指摘していくが、まず「教育分門では、全般的12年制義務教育が党の意図に合うように実施され、成果を出せるよう中等一般教育体系をさらに改善・完成させなければならない」とした上で、地方都市において「中等一般教育」が十分に行われていない現状を鑑み、「当該地域の経済地理的特性と学生の個性による教育を、様々な形態で中身のある形でしなければならない」とその対応策を提起している。
高等教育については、「高等教育体系を世界的趨勢に合うよう、強盛国家建設で要求される人材をさらに多く養成しなければならない」が、現状では「新しい時代、知識経済時代をリードする人材養成という点で制約がある」とし、「博士院(大学院博士後期課程)」を増設して、研究者を養成することを求めている。現在、北朝鮮の高等教育機関で行われている技術教育が依然として旧技術中心なので、この状況から脱却し先進技術を教育できるようにしたいという考えのようだ。
また、先端技術を研究するための「科学者」ではなく、技能者育成が必要であるという現状も次のように述べている。「専門学校を大学に統合するものは統合し、職業技術大学へと転換させるものは転換し、高等教育の全般的水準を高めなければならない」、「実践技術人材に対する要求が日々高まっているが、未だにそれに適合するように職業技術教育体系ができていない」。職業教育・技能教育を行う教育機関を整理統合し、北朝鮮が必要とする技能を持った人材を養成しようということのようだ。それとともに教育内容についても「基礎科目であれ専門科目であれ、現実の要求に適合するように、実際に使える内容で構成し」なければならない」とも述べている。
また、これらを要求するだけではなく、こうした事業を実施するためには「国家的な投資を惜しんではならず、特に学生に一般基礎知識を身につけさせる中等一般教育部門に投資を制限なくしなければならない」と述べ、特に中等教育部門も全国レベルでの底上げをすることを求めている。
さらに、現状の問題を「当面、不足している学校と教室、寄宿舎などを早く建設し、古い校舎を補修するための対策を立て、教科書と参考書を十分に提供し、学用品の質を決定的に高めなければならない。教育部門では毎年、教科書用紙のために苦労しているが、国家的に用紙提供対策を立てて学生が勉強することにおいて支障がないようにしなければならない」正直に述べている。
教員については、「12年制義務教育の実施段階で・・・農村地域と山間地域の特殊性に合うように多科目養成するという問題のような現実的に提起される様々な問題を解決するための対策」が必要であるとし、複数科目を担当できるような教員養成が必要であるとしている。
さらに、教員の社会的地位の向上を求めるような部分もある。「教員が高い誇りを持って教育事業に従事できるよう、彼らの事業と生活、特に政治組織生活で提起される問題を円満に解決しなければならない」。北朝鮮では、儒教的な考えから教員は尊敬の対象となっているはずであるが、一方、「党政治組織」の中では地位が低く、このギャップを埋めようという話なのかもしれない。
それと関連し、金正恩の言葉を引用しながら最後に「教育部門の党組織が教職員と学生の中に現れている非原則的で、非正常的な現象との闘争を強力に展開し、教育事業に対する政治的指導を深め、党の教育革命方針と少しもズレないよ
うに貫徹しなければならない」と述べている。恐らく、金正恩は具体的な事例を述べたのだろうが、彼の言葉を直接引用することなく、それをボカして戒めている形だ。この「非原則的で非正常的」というのが、何を指すのかは分からないが、一部の「金持ち」から賄賂を受け取り、こうした家庭の子女たちを特別扱いしている現実ではないだろうか。
上記のとおり、金正恩のこの「談話」を受けて、朴奉珠がどう演説しているのかはきちんと読む必要があるが、それについては追って書きたいと思う。