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    羅先9:「海岸公園」の入場料、キャラクターのリュックサック、ローラースケート、遊具、「海水浴場での安全秩序」、「売店のアジュミ」

    羅津区の「海岸公園」については過去記事で少し触れたが、羅先で最も大きな公園である。入場料があり、記憶が正確ではないが「大人5元、子供1元」だったようだ。表記が中国元であったことは間違いないと思う。というのは、初日に値段表を見て、「安いな」と思ったからである。また、駐車料金も設定されており、自動車、オートバイ、自転車と3区分されていたはずである。もしかすると入場料自体が外国人向けのものであり、朝鮮人民は無料で入場できたのかもしれない。

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    初日の「海洋公園」には、写真で紹介したように人があまりいなかった。しかし、2回目に訪れた時は昼過ぎだったということもあり、子供たちがたくさん遊んでいた。この子たちは各自バラバラに来ているのではなく、学校単位の遠足や水泳学習の一環として来ていた。

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    子供たちは、キャラクターがデザインされたリュックサックを持っていた。北朝鮮製なのか中国製なのかは分からない。また、同じものを持っている子供が多いが、デザインの数が少ないからなのか、人気商品だからなのかも分からない。

    女の子はキティーちゃん
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    男の子は、クマのキャラクター。こちらは、北朝鮮のオリジナルキャラクターなのかもしれない(拙宅の子は、知らないと言っていた)。
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    ローラースケートをやっている子供たちもいた。この男の子などかなり上手い。ローラースケートシューズはレンタルで、お金を(北朝鮮ウォン)を支払ってい子供を見た。いくらかは不明。
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    遊具の例1。
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    遊具の例2。ニモのキャラクター
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    このようなシンプルな遊具もある。右にあるのはゴミ箱でであるが、「汚物箱」と韓国よりもストーレートな表現を使っている。大小のゴミ箱で分別回収をしているのかまでは、確認するのを忘れた。公園内の清掃は行き届いており、風に舞ってきたビニール袋が数枚落ちていた程度である。
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    この遊具はバンジージャンプ。といっても、日本のショッピングモールのイベントコーナーに置かれているような、子ども用のものである。こちらは中国製である。
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    海岸にやって来た子供たち。オレンジ色のテントが更衣室である。写真に写っているのは「男子」。左の方に「女子」用もある。男女共、水着を服の下に着てきており、その場で服を脱いで完成という子もいた。いずれの国も同じだ。
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    準備運動をする子供たち。前に出ているのは級長だろうか。背景にいるのは、中国人と思われる観光客。
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    ふざけながら「海水浴場での安全秩序」を読む子供たち。
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    掲示に書かれている事項は以下のとおり。
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    「海水浴場での安全秩序(注意事項)」
    1.海水浴場(水泳場)で守らなければならない事項を書いて張り出して周知し、それを守るように統制しなければならない。
    2.10分以上十分な準備運動をし、手足から始めて全身を水で濡らした後、水にゆっくりと入らなければならない。
    3.学生、幼稚園の子供が集団で水泳や水遊びをする場合、50人を基準とし、区域別に1人以上の監視員を配置し、監視しなければならない。
    4.海水浴場の規模に合うよう境界標識を設置しなければならず、2人以上の監視員を配置し、境界標識の外に出ないようにしなければならない。
    5.救助ボート1隻以上、収容人数に適合した救命浮き輪、望遠鏡(潜望鏡)2つ以上、拡声器2つ以上を準備しなければならない。
    6.酒に酔った人、精神病がある人、保護者がいない10歳以下の子供は、海水浴場に入ってはいけない。
    7.海水浴場には、救急治療をすることができる1人以上の医師を配置しなければならない。
    8.海水浴をする人は、救命機材を着用しなければならず、定められた秩序を積極的に守り、管理員の指示に従わなければならない。
    水深:幼稚園30cm、小学校60cm、中学校1.2m、大人1.5m
    ***********************************

    どうやら、法令で定められた規則(努力目標?)を上記「1」のルールに従い掲示してあるだけのようだ。救命機材を着用していない子供もいる。この種の努力目標と実態の乖離は、北朝鮮だけではなくいずれの国にもある。
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    公園内には、このような売店が設置されている。お菓子、アイス、パンなどを売っているが、私は初日に来たときにこの売店でパンを買って食べてみた。中には何も入っていないパンであったが、甘く味付けされており、なかなか美味しかった。1元が最低単位なので、1元払ったが、北朝鮮ウォンで支払えばもっと安かったのかもしれない。おもしろかったのは、2回目に訪れた時のことである。パンを買った店の「アジュミ」(オバサン)が私のことを覚えており、少し離れた所から「また来られたんですか」と声を掛けてきた。何ともフレンドリーな「アジュミ」である。今回は、この「アジュミ」の店で氷菓子を買って食べた。
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    公園内には、レストランがあり、そこで「チェコビール」を提供している。チェコのブルーワーからビール製造技術を導入したとのことで、レストラン自体は北朝鮮単体の経営だといっていた。ビールの味はなかなかよかった。

    ビールレストランのカウンター。
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    そして、ジョッキ
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    羅先8:北朝鮮の「中等教育」、朝鮮式観光、「将軍様」は誰か、地理の教材、「成績紹介板」、「current words」、「背が高くなる薬」

    我々は、羅先外国語学院を訪問する機会があった。羅先外国語学院は、11~17歳で行う「中等教育」の後半3年における「高級中学校」での外国語教育を強化(特化ではない)した教育機関である。日本でいうなら、普通高等学校の「外国語特進コース」のような存在である。

    この辺りの話について、本当は現地で詳しい話を聞きたかったんだが、羅先に限らず北朝鮮ツアーというのはある意味非常に「効率的」にできており、美味しい所だけを味見して次に移動する、スケジュールになっており、こうした話は全く聞くことができなかった。これは、色々と見聞きされるのを避けるためという意味も多少はあろうが、どちらかというとサービスの一環だと私は思う。現在の韓国人はどうか分からないが、私が80年代に韓国にいた頃は、しばしば「観光なんて、その場に行って(自分が写った)写真を1枚撮ってくればいいんだよ」とう冗談をよく聞いた。朝鮮人民も同じようなメンタリティーがあるとするならば、美味しい所だけ味見し、写真を撮って次の目的地に移動するというスケジュールはそれによく適合している。

    「羅先外国語学院」の校庭と校舎。授業時間だったので、校庭に生徒はいなかった。
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    「朝鮮のために学ぼう!」というスローガンが書かれた後者の前で勉強する生徒。なぜこの子が外で1人で勉強しているのかは分からない。
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    「羅先(羅津だったかもしれない)外国語学院」の隣には「羅津地区新興幼稚園」があった。スローガンは、「敬愛する金正恩将軍様、ありがとうございます」と書かれている。
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    この「将軍様」と「元帥様」の扱いについて、北朝鮮ガイドに質問してみたが、私の聞き方が悪かったのか、明確な回答を得ることができなかった。「大元帥様」が金日成・金正日、「首領様」が金日成ということははっきりと答えたのだが、「将軍様」は事情が複雑なようである。「朝鮮芸術映画」を見ていても、パルチザン時代は金日成を「将軍様」と呼んでいる。それがいつの頃からか「首領様」になり、金正日が「将軍様」として登場している。この辺りは、きちんと北朝鮮の政治史をを勉強すればそのいきさつは解明されるはずであるが、金正恩の「将軍様」については彼の後継者指名から現在に至るまで、どこででどうそう呼ばれるようになったのかは分からない。「パルコルム」の歌詞にもあるように、「金大将」であったわけだから、「将軍」(様ではない)ではあるはずなのだが、「将軍様」に特殊な意味が込められていることからすると、「将軍様」には、金正日を表す「将軍様」と「白頭の血統」を引き継いだ意味での「将軍様」があるのかもしれない。

    校庭に設置された地理を学習するための教材。
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    この学習教材であるが、帰宅後に拡大して見たら興味深いことが見つかった。朝鮮半島が全て赤く塗られているのは当然とし、日本が半分消えている点である。日本を意図的に消滅させたわけではなく、子供たちや先生が朝鮮半島を指さす際に日本にもさわり消えてしまったのであろうが、友好的日本人民としてはうすら寂しい限りである。
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    きちんと撮影すればよかったと後悔しているが、羅先の地図もGoogle Mapより詳しそうである。赤い旗があるところは、「革命戦跡地」であろう。
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    また、左の方には鉱物資源の埋蔵量を示す地図があった。残念ながら、写真では左端が切れてしまっているので、その横に農業についての状況を表す地図があったのかは確認できない。ともあれ、この地図により北朝鮮に豊富な鉱物資源があることを子供たちに教えることはできる。鬱陵島の横に「独島」はしっかりと描かれている。
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    こんな写真を撮影していると、教室の準備ができたと先生が呼びに来た。しかし、教室に至る廊下にも興味深いものがたくさんあった。

    「最優等、高級3学年1班、羅先美」。このように優秀な生徒の写真が校舎の入り口を入るとずらっと掲示されている。それにしても、「羅先美」とはよい名前ではないか(「ソンミ」がこの漢字であるかは、今一つはっきりしないのだが)。
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    過去記事でも「朝鮮中央TV」に出た映像を紹介しながら「成績紹介板」について書いたが、この学校にもあった。掲示板には、学年クラス別に順位、学級、名前、革命、外国語、数学、総(合)点、判(定)点が書かれている。「革命」に点数が入っている生徒はいない。得点が10点満点の子供もいる。このように成績を開示することについては賛否両論あろうが、北朝鮮では最上位から最下位まで全部開示されている。このことについて、北朝鮮ガイドに質問したところ、最下位だった生徒が奮起して上位圏に入るケースもしばしばあるのでよいことだと言っていた。このような成績開示方針は指導者の「お言葉」によるものなのだろうか。
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    教室にあったこのボードも実に興味深い。上には、「外国語を学ぶことは、朝鮮革命をさらに素晴らしく行うためです 金正日」と「将軍様」の「お言葉」が書かれている。「朝鮮革命」のみならず、「外国語を学ぶことは、人生を豊かにする」と私もしばしば教室で言っているが、どうも「将軍様」の「お言葉」のように重みを持って学生には伝わっていないようである。また、一番左に「Current Words」という項目があるが、これがおもしろい。最近、北朝鮮で使われている語彙を英訳したものであるが、その中にある「セポ台地開拓戦闘場(reclamation site of Sepho tableland)」など、私も直ぐには英訳できない。英訳にケチを付けるわけではないが、「戦闘場」が訳されていない。「突撃隊員」や「軍人建設者」が大活躍するセポ台地では、特にこの部分が最も重要なはずである。私なら「battle field of Sepho tableland reclamation site」とでも訳すのだが。
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    我々はLL教室で、生徒たちを3~4人のグループに分け、各外国人がグループを担当し話をした。私は朝鮮語で話をしたかったのだが、「英語授業の一環」ということだったので、英語で話すことに協力した。
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    例によって「My name is .....」から始まったのだが、その次に話を繋いでいくことができない。そもそも、生徒たちが緊張しており、これを何とかほぐさなければならなかった。思いついたのは、音楽の話である。これならば適当に朝鮮語を交ぜ友好的日本人民をアピールすることもできる。そこで、「I like Korean music very much. I love Moranbong Band. Do you like Moranbong Band, too?」と質問した。子供たちの目が輝き、「Yes」と答えた。続けて「I like 祖国賛歌(朝鮮語で). What about you?」と質問すると、各自、自分の好きなモランボン楽団の曲を「I like XXXXX.」というパターンで答えた。この話をした後、1人の子供が「Can I ask a question?」と私に質問をしてきた。それから、色々な話ができ、好きな科目、将来の夢、家での勉強時間など色々な話ができた。好きな科目とも関連して将来の夢は、数学の先生、人民軍人(看護員)、外科医(平壌医学大学に進学して)であった。
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    私が教室のドアーを出ようとするとき、一番右の男の子が駆け寄って来て「It was my great pleasure talking with you. Thank you very much」と言ってくれた。私は「Study hard and become a brilliant surgeon」と励ましておいた。

    <追記>
    子供たちと関連して思いだしたことがある。私が会った子供たちは、日本でいえば中学生である。冒頭に書いた学制からすると矛盾するのだが、一番右の男の子が13歳で年長、女の子2人は11歳と言っていた。「成績紹介板」にも「初級」と「高級」書かれているので、「外国語学院」は小学校卒業後に入学する6年生の中等教育機関のようだ。

    ところで、この子たちが中学生だとすると、日本の中学生の平均よりも背が低い。特に、女の子たちの背が低かった。この子たちが生まれた年は既に「苦難の行軍」のピークは過ぎた時期であったが、未だに食料事情はあまりよくなかったのであろう。

    それとの関係で「展示会」で興味深い薬を売っていた。「背が高くなる薬」という「平壌医学大学」が開発した薬を売っていた。
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    写真の右側が「背が高くなる薬」、左が「セレノアミン」という「背が高くなる薬」と共に服用するとよいという栄養薬である。「背が高くなる薬」が40元、「セレノアミン」が20元だったと記憶している。それぞれの薬の説明書をもらってきたので、「背が高くなる薬」の説明書を邦訳しておく。

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    「背が高くなる薬」
    子供の成長発育は、どの国に於いても科学研究的関心が高く、政策化までされています。

    <適用年齢>
    子供たちの成長発育は、(成長)時期と関連するので、年齢が高くなると、いくら運動療法や背が高くなることと関連した食品や薬物を使用しても背は高くなりません。

    人は、年齢が進むと、脳髄からの成長ホルモン分泌が止まり、性ホルモン分泌が優勢となるので(男性は変声、ひげが生える、女性は月経、乳房の発育)、成長ホルモン分泌が完成した時期に背が大きくなるのに必要な栄養摂取をしなければなりません。

    <製品の特徴>
    現在、成長促進薬がたくさん研究・生産されていますが、大体において単一成分(ヨウド、リジン、カルシウムなど)であったり、10個未満の背が高くなる成分を含んでいるので、40~60%の背が高くなる効果しかありません。

    世界児童機構が明らかにしたところによると、成長発育に必要な栄養成分は50あまりに達し、こうした総合的な背が高くなる栄養剤を飲んでこそ、その効果が90%以上に達するとのことです。

    平壌医学大学で開発した背が高くなる錠剤は、成長発育に必要な栄養成分総合的に含まれており、その成分が50種あまりに達する天然健康食品であり、背が高くなる効果は95%以上です。

    この製品は、国家発明権を保有しており、東北アジア先端技術博覧会をはじめとした展示会で評価されています。

    <効能>
    5年間、それぞれの年齢を対象とし、その効果を検討した結果、その効果が95%以上に達しました。

    <使用法>
    1~4歳 2錠、5~11歳 4錠、11~19歳 6錠を夕食後に内服。成長ホルモンは、就寝時に分泌されるので、夕食後に飲むことで十分な効果を期待することができます。運動は5~10分間、朝の運動(縄跳びなどの膝関節衝撃運動)がよいです。

    ・100%天然成分ですから、安全にお飲みいただけます。
    ・薬品使用時、目的とする治療成果が得られない場合は、クレームを入れて下さい。

    生産:平壌医科大学
    住所:平壌市中区域リョンハ1洞
    *******************************

    どうやら、薬というよりも栄養剤に近い感じである。北朝鮮は、しばしば国際機構のデータを引用するが、この薬に関しても、国際機構のデータを引用品が説明している。これまでも書いてきたように、「安保理決議」は「無効」とする北朝鮮ではあるが、その他の「国際機構」との連携は強く維持していくという考えのようだ。

    Ms.Cは、「背が低いと大学にも入れませんから」と言っていたが、その意味について深く質問する機会を逸した。

    羅先7:「羅先劇場」の子供公演、LED灯、太陽光パネル、ホテルの部屋、電力事情、カーテン、

    これまで、大人の朝鮮人民との交流について書いたが、今回は子供との交流について書いておこうと思う。まず、平壌も見たような子供たちの公演である。こちらは、事実上の交流はなく、我々は公演を見ただけである。公演終了後にステージに上がり子供たちにお土産を渡すイベントがあるが、とにかく、中国人観光客に圧倒され、我々は近づくことすらできなかった。米国人は、米国製のボールペンや鉛筆を大量に持って来たが、お土産の山に置いてくるのが精一杯であった。私は、平壌の「少年学生宮殿」でこの種の公演を見たので、写真ばかり撮っていた。ここでは、おもしろい場面の連続撮影ができていたので、紹介しておくことにする。

    「南朝鮮」のスパイのような「悪者」が登場する。
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    勇敢な「人民軍人」が跳び蹴り
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    キック
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    激闘
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    寸止めパンチで
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    「悪者」を制圧する
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    舞台の動きを見ていると一瞬で終わってしまうが、連続写真を撮ってみるとかなりよく訓練されていることが分かる。

    お土産の山。この山が舞台の両袖にあり、この写真を撮影後、さらに高くなっていった。平壌の「少年学生宮殿」での公演では、こうしたお土産コーナーはなかったように記憶している。ただ、今年、平壌を訪問した同行者は「あった」と言っていたので、いつからか慣例化したのかもしれない。
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    「羅先劇場」は、建物もホールも立派であったが、残念なのはトイレだ。トイレはホールの1階下にあるのだが、真っ暗で、暗闇での使用なので当然、トイレの床は洪水状態であった。もしかするとどこかにスイッチがあるのかもしれないが、公共の場所なので、少なくとも公演の前後ぐらいは明るくしておいた方がよさそうだ。こういう所でこそ、省エネ効率が高いLED灯を活用してもらいたいものである。

    「羅先劇場」
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    LED灯の話になったので、少しこれについても書いておくことにする。拙ブログでも「朝鮮中央TV」の「番組」で紹介されたLED灯について何回か書いた。このLED灯、実際にかなり普及しているようである。では、私が見たLED灯を紹介していく。

    これが、基本的なLED街路灯である。これは、ホテルの敷地内に設置されていた街路灯であるが、道路などに設置されている街路灯もほとんど全てこのスタイルである。完全な省エネ設計で全てのエネルギーを太陽光で確保しているようだ(地下から電線で給電しているかは不明だが)。
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    電灯部分は、表面実装型LEDのシートが4枚張られている。どれほど明るいのかということは上手く言い表せないが、夜間もこの照明装置があることで、懐中電灯無しで歩くことができる光度は確保されている。
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    別の形状の街路灯。こちらもLED灯である。
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    また、「朝鮮中央TV」の番組でも紹介していたLED灯バルブがこれである。一般商店では7Wとタイプと9Wタイプを売っており、7Wタイプが7元、9Wタイプが12元であった。「朝鮮中央TV」の説明にあるように、適応電圧の幅は非常に広いようで100Vでも十分な照度がある(北朝鮮の規格交流電圧は220V)。
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    一方、太陽光パネルであるが、こちらに対する関心も高いようだ。「第4回羅先国際商品展示会」(この展示会については、別記事に書く)でも、太陽光パネルを展示する中国企業がいくつもあった。

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    250Wのこのパネルは1500中国元。日本円で25000円ぐらい。ネットでざっと調べると、日本では250Wタイプが安くても5万円ぐらいするようである。発電効率などがあるので、単純に価格と出力だけで比較することはできないが、それにしても安い。
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    展示会では、このようなタイプの街路灯も展示されていた。
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    今思えば、「展示会」で販売者にこうしたタイプの街路灯が無給電で使えるのか質問しておけばよかった。「展示会」は羅先2日目だったので、とてもそこまで頭が回らなかった。

    子供の話になりそうもない記事になってしまったが、成り行き上、電力の話を少し書いておく。私が羅先滞在中、停電という事態はなかった。昼間など、停電しても分からなかった時間帯もあったのかもしれないが、ともかく電気は供給され続けていた。ホテルの部屋にはエアコンが設置されていたが、コードが抜かれており、リモコンも置いてなかった。米国人は暑いといっていたが(米国人のエアコン設定温度の低さを思えば当然)、私は窓を開けたり扇風機を回すだけで快適に過ごすことができた。

    ベッド。堅いが寝心地はよかった。
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    バスルーム。温水は電気温水器で加熱しているようだったが、給水中もパイロットランプが点灯しなかったので、もしかするとボイラーとのデュアルシステムだったのかもしれない。ともあれ、水量・水温共に全く問題なかった。困ったことと言えば、「衛生紙」(トイレットペーパー)の量が少なかったことぐらいだが、「管理員ドンム」の「アジュミ」に言えば、直ぐに出してくれた。この「アジュミ」もいつもニコニコと挨拶してくれる、とても感じの良い人であった。
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    電化製品と家具。テレビは中国製(TCL)、冷蔵庫と扇風機のメーカーは失念したが中国製だったはずだ。洋服タンスの生産地は確認できないが、北朝鮮製だと思う。あたかも手作りという感じで、時々「朝鮮中央TV」で紹介される家具工場で作っているタンスと雰囲気が似ていた。作りはとてもよく、扉の開け閉めなどとてもスムーズにできた。
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    上の写真からも分かるように、部屋にはカーテンがなかった。正面に建物はなかったのでなくてもよいと言えばよいのだが、太陽の光で早起きができた。北朝鮮ではカーテンを使うのかと思い、偶然撮影しておいた「人民住宅」の写真を改めて見た。カーテンを意識して撮影した写真ではないのではっきりとは分からないが、どうやらカーテンというものは北朝鮮では使わないようだ。平壌の「羊角島ホテル」にあったかどうかは記憶にない。
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    ついでに書いておくと、「人民住宅」のベランダや窓辺には植木鉢に入った花が置かれている。しかし、その多くが生花ではなく造花であった。造花だろうが生花だろうが花を窓辺に置けばきれいであるが、この辺りの事情についてももう少し知りたい所である。

    電力事情に話を戻すが、羅先では頻繁な停電ということはないようだ。ただ、ある工場を訪問しているとき、一斉に照明が消え、機械が止まった。停電かと思いきや12時から14時までの昼休みの時間だった(工場訪問の話は別記事に書く)。

    LED灯を活用し電力消費量をカットすることで、相対的に電力の余裕を持たせるという北朝鮮式のやり方は、過去記事にも書いたとおり、日本では3.11を経験して初めて学んだ。やはり、苦しいと人は色々と工夫をするもので、この点に関しては北朝鮮の方が一歩進んでいるのかもしれない。今回のツアーではこれ以上北朝鮮の電力事情について見聞することはできなかったが、発電用エネルギー供給、発電設備、そして特に送電効率の低さが問題になっているのかもしれない。

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    子供の話を書くと行って話がそれてしまったが、子供と学校の話を別記事に記すことにする。

    羅先6:「学習と組織生活」、「エンペラーホテル」、カラオケ、「元帥様」→「大元帥様」、「舞踏会」ダンス、酔っ払った朝鮮人民

    過去記事にも書いたが、今回の羅先ツアーでは、ガイド以外の朝鮮人民とかなり交流ができた。その中でも、最も友好的に接してくれたの、運転手ドンムの友人の運転手ドンムである。ややこしいので、Mr.Dとしておく。Mr.Dは、「豪華海鮮夕食」の時から合流してきた。

    Mr.Dは私が朝鮮語を話せたこともあり、最初から冗談を飛ばしてきた。一番おもしろかったのは、

    川口:「チキン、お好きなようなので、どうぞこれもお召し上がりください」
    Mr.D:(立ち上がって)「はい。学習も組織生活もしっかりといたします」
    川口:「そのように、しなさい(기렇게 하오、ママ)」

    という対話である。
    同じテーブルにいた朝鮮人民は笑うに笑えない冗談であったのだろうが、全員「プッ」という感じで吹き出していた。我々は、夕食後に「エンペラーホテル」を見に行ったのだが、その時も車の所までやってきて、運転手ドンムに「本当は僕がお連れする方がよいのだが、この先生をしっかりとお連れしてくれ」と言い、私にタバコを勧めてくれた。私は非喫煙者なのだが、せっかくの友好的雰囲気を壊したくなかったので、口にくわえて彼にライターで火を付けてもらった。「朝鮮芸術映画」を見ていても、親しい人にタバコを勧めるというシーンはしばしば登場する。そんなことからすれば、Mr.Dは多少酔っていたとはいえ、私に親近感を感じてくれたのであろう。嬉しいことだ。

    「エンペラーホテル」のことを少し書いておくが、今回の羅先ツアーで最もつまらなかったのこのホテルである。

    「琵琶閣」付近から眺望した「エンペラーホテル」と琵琶島(左)。
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    「エンペラーホテル」は香港資本が建設したホテルで、ホテル機能を持ったカジノである。新義州に一時カジノを作る計画があったが、それが頓挫してしまったので、北朝鮮国内唯一のカジノだと思う。このホテルがカジノであることは朝鮮人民も知っているようで、「賭博場」と呼んでいた。もちろん、従業員以外の朝鮮人民はアクセス禁止である。我々が訪れた時も、運転手ドンムは駐車場に入ることさえできず、ゲートの外で待っていた。

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    我々はカジノを目的に行ったわけではなく、「美味しいコーヒー」に期待をしていた。しかし残念ながら、ホテルの内外装にそぐわず、インスタントコーヒーしかないことが判明した。客のほとんどは中国人のようだが、中国人はレギュラーコーヒーをあまり飲まないので(多分)、インスタントでも問題がないということなのかもしれない。

    インスタントコーヒーしか置いてなかったホテル内のカウンター
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    一同、マカオで嫌というほど見た「賭博場」は10分ほどで去り、「琵琶閣」に戻った。やることもないので、私の提案でMr.Dも誘って「琵琶閣」敷地内のカラオケに行くことになった。これには、北朝鮮ガイドも大乗で大変良い雰囲気であった。我々が着いたときはカラオケには誰もいなかったが、しばらくしたら5~6人の朝鮮人民のグループがやって来た。北朝鮮ガイドによると、観光関係者ではなく、羅先の人が遊びに来ただけだとのことであった。

    熱唱するMs.C。右にいるのはカラオケの接待員ドンム。
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    その後、Ms.Cがモランボン楽団の曲を連発で3曲入れ、私が歌うことになった。私が歌う頃には、上に書いた朝鮮人民グループも2階席に座っており、友好的日本人民による「モランボン楽団最新歌謡」の熱唱に身を乗り出して拍手喝采を送ってくれた。モランボン楽団の曲は、さびの部分以外さすがに字幕を見ないで歌うことはできなかったが、最後の締めで歌った「パルコルム」は歌詞を全部暗記していたので、「功勲国家合唱団」のように行進するそぶりをしながら歌ったので、同行した外国人にも朝鮮人民にもとても受けていた。

    Mr.Dにも歌を勧めた。彼は、私に「首領様」と「将軍様」をどれほど尊敬し慕っているのかというという話をした後、「将軍様に従い千万里」を熱唱した。歌詞の中に「金正日元帥様」だったか「元帥様」という部分があった。字幕には「元帥様」と出ているのだが、Mr.dは「大元帥様」と言い換えて歌っていた。さすがである。

    熱唱するMr.D
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    しばらくすると、一人の朝鮮人民が降りてきて我々に合流した。かなり酔っていたようで、来るなり私に「パンマル(目下に対する乱暴な言葉遣い)」で話しかけてきた。年の頃、30代後半から40そこそこだというのに。ま、酔っているので仕方がないと思い、相手をした。この人、私のみならず下にいた全ての人々を踊らせた。外国人同行者も興味半分でフロアに出て行って踊り出した。彼が来なければ踊ることもなかったので、それはそれでよい経験だったと思う。当然、Ms.Cも踊らされた。踊るといってもいわゆる「舞踏会」式の踊りなのであるが、Ms.Cとペアを組んだ私に踊れるはずもない。最大の失敗は、踊るときにMs.Cの手を握ってしまったことである。彼女は、握るのではなく乗せるだけだと教えてくれたが、「モランボン楽団最新歌謡」を歌いこなす友好的日本人民も、さすがに「舞踏会」式ダンスの仕方は知らなかった次第である。

    踊る朝鮮人民。手の動きがとても難しい。
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    さて、この酔っ払いであるが、だんだんエスカレートしてきた。私に「酒を飲むのにつまみが置いてないではないか」とつまみを頼むことを要求してきた。時間も時間だし、我々も疲れてきていたので、「すみませんが、もう帰らなければなりません」と丁重に話して、その場を立ち去ることになった。ともあれ、Mr.Dのように明るく酔う朝鮮人民、この酔っ払いのように威張り出す朝鮮人民、両方と交流することができたのはよい経験であった。Ms.Cは、ホテルに戻ってから「先生に不快な思いをさせて本当にすみませんでした」と何回も謝罪した。私は、「酒癖が悪い人など日本にもいくらでもいますよ。心配しないでください。今夜ははじめから終わりまで大満足です」と言っておいた。本当の気持ちである。

    見送ってくれるカラオケの接待員ドンム
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    羅先5:朝鮮人民との対話、「アジュミ」、中国元と北朝鮮ウォン、「ジャンマダン」、「我が国に乞食はいません」、豪華なディナー、<追記>ローテクなテーブルタップ

    今回のツアーが2010年の平壌ツアーと大きく違うのは、朝鮮人民との接触がほぼ無制限に許されていたことだ。「許された」という表現が適切かどうか分からないが、朝鮮語が分かる私は、誰とでも好き勝手に話ができた。もちろん、見ず知らずの人に突然声を掛けて変な質問しようなどとは思わなかった。日本であっても、私のような変なおっさんが突然見ず知らずの人に話しかけ、「毎日何を食べていますか」などと質問すれば、変質者扱いされることは間違いない。しかし、最初は話して良いものだか悪いものだか分からなかったので、無難にホテルの売店のオバサンと話をした。

    ホテルの食堂の屋上にテントを張って、北朝鮮の海産物(干物の魚介類)や山菜(主として乾燥させたキノコ類)を販売している。
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    羅先を訪れる観光客の95%(目視による推測)以上は中国人である。その次がロシア人、そして残りの1%程度が我々のような西側の人間ということになる。したがって、中国人が上客となるわけで、「販売員ドンム」も東洋人とみれば中国語で話しかけてくる。彼女らの中国語がどれほど上手いのかは私には判断できないが、ともかくも中国人観光客に商品をできるだけ買わせるような交渉はできている。私と「販売員ドンム」との話は朝鮮語であるが、凄い勢いで商品を売り込んでくる。直ぐに頭をよぎったのは、80年代韓国の南大門市場の「アジュマ(オバサン)」である。その系からしても、「販売員ドンム」などという堅い呼び方は相応しくない。北朝鮮方言での「アジュミ(オバサン)」の方が、この人たちを呼ぶのには相応しい。何も買わずに立ち去るのは悪いので、その夜の酒のつまみにとさきイカを買った。

    さてここで、羅先の通貨事情について少し書いておく。羅先で流通している通貨は、人民元と北朝鮮ウォンである。これは、外国人だからという話ではなく、朝鮮人民が普通に中国元で買い物をしている。どちらかというと、中国元の方が一般的に使われているようで、別記事で紹介したDVDストアなどでの朝鮮人民の買い物を見ていても、元で価格を提示され、元で支払っているケースの方が多かった。我々は、「ジャンマダン(いちば)」にも行ったが、そこでも同様に元で売り買いをしているケースが多かったようだ。

    ただ、誤解を招かぬよう書いておくが、北朝鮮ウォンもきちんと流通しており、通貨として何の遜色もなく使われていることも事実である。実は、我々は、「三角州銀行」で中国元を北朝鮮ウォンに交換することができた。北朝鮮ガイドはあまり気乗りしなかったようであるが、英国人ガイドの強い要請で「三角州銀行」に連れて行ってくれた。ともかく、外国人が外貨を北朝鮮ウォンに交換して使うことは、羅先では許可されている。英国人ガイドが、やたらと多額を北朝鮮ウォンに交換するので、北朝鮮ガイドのMs.Cが私の所にやって来て「あんなに交換してもどうせ使い切れないし、北朝鮮からは持ち出せない。それに、中国元の方が『いちば』では安く買える。何とか言ってください」と頼み込まれたが、こればかりはどうにもならなかった。Ms.Cは、彼が北朝鮮通貨を国外に持ち出すことを心配していたようだ。

    「三角州銀行」の外貨交換窓口
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    私はといえば、Ms.Cに「換えてもも意味がないですよ」といわれたので、友好的日本人民ぶりを発揮して彼らが交換する様子を眺めていた。ただ、彼らが交換した紙幣の写真だけはしっかりと撮らせてもらった。

    中でも珍しいのが、「北朝鮮で騒ぎを引き起こした」と西側で報道された2013年発行の「新5000ウォン札」である。旧札と比較すると分かるが、「首領様」の肖像画が消えて「万景台故郷の家」に変わっている。ただし、この間、2009年にデノミを実施しているので、3枚下の写真の紙幣は「旧旧5000ウォン札」というのが正確である。
    5000won face

    5000won back

    2006年発行の「旧5000ウォン札」
    old 5000w face

    old 5000won rear

    <追記4>
    2008年発行の5000ウォン紙幣の写真を知り合いが送ってくれた。デノミが実施された1年前の印刷だが、2006年の紙幣とも異なっているので、2008年に印刷され、2009年から流通が始まったということなのだろうか。
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    **************
    交換レートはどのぐらいかというと、下の写真で分かる。
    exchange rate

    1中国元=1295北朝鮮ウォンで計算してある。1米ドル=6.14中国元なので、1米ドル=7951北朝鮮ウォンというのが、銀行での交換レートとなる。

    では、何がどれだけ買えるのか。

    ・「朝鮮人民軍第1回飛行士大会参加者のためのモランボン楽団祝賀公演」DVD 10000北朝鮮ウォン
    ・「朝鮮労働党創建68周年慶祝モランボン楽団と功勲国家合唱団合同公演 朝鮮労働党万歳」DVD 4400北朝鮮ウォン
    ・「ジャンマダン」での砂糖水コップ1杯、300~500ウォン

    過去記事に書いたDVDストアで見たら、このように印刷してあった。外国人専用ストアでは、同じDVDをそれぞれ20元と10元で売っていたので、約2倍の価格で売っていることになる。

    私は、北朝鮮ウォンを手にしなかったので何とも言えないのであるが、同行した人々によると、「いちば」では北朝鮮ウォンの方が若干良いレートで買い物ができたといっていた。一方で、中国元だとおつりをくれるが、北朝鮮ウォンだとおつりをくれないともいっていた。Ms.Cの「換えても意味がないですよ」というのは、半分は外国人が北朝鮮ウォンを国外に持ち出さないようにするための方便であろうが、「おつりをくれない」ということからすると、結局は中国元の方がよいという話なのかもしれない。

    さて、「いちば」の話が出たので、そのことにも触れておく。拙記事で敢えて「いちば」と書いているのは、朝鮮語でも「しじょう(シジャン)」とはいっていないからだ。上にも書いたように、「장마당」(ジャンマダン)と呼んでる。北朝鮮ガイドは、ほとんど写真撮影に関して禁止はしなかったが、「ジャンマダン」だけは、絶対に写真は撮らないようにいわれた。これにはさすがに、強者共もおとなしくカメラやスマホをしまっていた。

    我々が行った「ジャンマダン」は、自然発生的な所ではなく、きちんと管理されている。それを「公設市場」と呼ぶべきなのか、本当は詳しく北朝鮮ガイドに聞いてみたかったのだが、「写真を撮っては行けない場所」ということは、あまり色々言えない場所であろうということで、詳しくは尋ねなかった。では、どのように管理されているのか。商売をしている女性たちは、首に写真入りの「登録証」をぶら下げている。「登録証」には名前と販売品目が「水産物」といった具合に書かれている。水産物は、屋外で発泡スチロール製のアイスボックスを並べて販売しているが、工具やタバコは半露天のような屋根のある建物で、衣類や電気製品は公民館のような広い建物の中で販売している。これら全てを合わせると、相当な面積になる。市場内は、「管理員」という腕章を付け、青い服を着た人が巡回している。高圧的に取り締まるというような雰囲気はなく、どちらかというと商店街の世話役のような感じに見えた。おそらく、ここまでが「公設市場」の範疇に入るのだろう。

    しかし、公設市場の周りには私設市場もある。正確には、公設市場のゲートから橋を渡り公設市場に至るまでの100メートルぐらいの通路で「登録証」をぶら下げていない人々が細々と様々なものを売っている。古本、野菜・果物、電機部品、タバコ、何でもありの感じである。おもしろかったのは、いかにもローテクの延長コードを売っていた人だ。写真がどこかにあるので、追って追加するが、この人はこの延長コードを3つだけ売っていた。同行者がそのローテクさに目を付け購入したが20元であった。それを見て別の別の同行者も2つ買ったので、この人は完売となった。おかしな外国人集団のおかげで、随分楽な商売ができたと思ったことであろう。「まだあるのか」と聞いたら、「家にはある」といっていた。とにかく強者共が勝手に動き回るので、この人との交渉は私が通訳をやった。朝鮮人ガイドに後から見せたら、「私の家でも使ってますよ」と不思議そうな顔をしていた。

    ただ、「登録証」がない人も、決して無秩序ではなく、何らかの決め事があるようだ。というのは、私と同行者が橋の上に立っていたら、ある時間から「登録証」を持たない人々がどんどんやって来て、橋の上を陣取り始めた。正確には、外国人がどくまで待ってたという方がよいのかもしれない。一人二人と来るのではなく一斉にやって来て、そして場所が決まっているかのようにそこで商品を広げ始めたので、何らかのルールがあるように見えた。

    「登録証」所持者も非所持者も「ジャンマダン」で商売をやっているのは全て中年女性である。特に、水産物を売る「アジュミ」が積極的で、私にカニを何回も勧めてきた。ただ、観察をしていると買い物に来る朝鮮人民がある店に集中する。どうやら、その店は他の店よりも安く販売しているようで、皆それを知ってその店で買っていたようだ。

    「ジャンマダン」で通用する外国語はやはり中国語である。ただ、欧米人同行者に対しては「ハラショー、ハラショー」とロシア語で声を掛けていた。確かに、ロシア人の姿もちらほら目に付いたし、「ジャンマダン」の外には、ロシアナンバーの車も止まっていた。

    「ジャンマダン」には乞食もいたし、スリもいた。同行者の1人は、同じスリに2度ポケットに手を入れられ、2度目はスリの手を掴んだ。誤解をされないように書くが、乞食だらけでもないし、スリだらけでもない。途上国の乞食の数とGDPに負の相関関係があるとするならば、「ジャンマダン」の乞食の数は非常に少ないといえよう(例えば、フィリピンと比較しても)。私は、1時間ほどの間に1人目撃しただけである。

    「ジャンマダン」に行くとき、経験豊富なMs.Cは「みなさん、鞄やポケットに注意して下さい」と言い、一方で、新米のMs.Hはニコニコしながら「我が国には泥棒はいません」と言っている。羅先ではどちらも「正しい」。そして、このコントラディクションこそが羅先を象徴しているとも言える。

    <追記1>
    Ms.Hはもう一つかわいらしいことを言っていた。我々が市場を出たところで、「あの電気線は、商店でも売っていますか?幾らで売っていますか?」と質問した。すると彼女は「我が国では政府が人民の所得と生活に配慮しながら商品の値段を決めているので、一物一価です」と答えた。いいのだが、「ジャンマダン」の前で言ってもあまり説得力はない。だが、それをニコニコしながら平気で言うところが、またチャーミングではないか。

    さて、英国人ガイドが交換した大量の北朝鮮ウォンは何に変わったのか。
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    Ms.Cの心配は取り越し苦労だったようで、全て夕食の魚介類に変わってしまった。「ジャンマダン」で買った魚介類はホテルに持ち帰り、料理してもらった。北朝鮮ガイド、運転手ドンム、そしてその友人の運転手ドンムまで来て食べたが、食べきれないほどあった。

    <追記2>
    「チャンマダン」で思いだしたことがある。文房具を売っているコーナーで「生活総話」と金文字で書かれた赤いノートを売っていた。これはおもしろいと思い手に取った瞬間、「アジュミ」が「これは売ることはできません」と言って手で押さえてしまった。中身だけでも見たかったのだが残念である。イギリス人ガイドも「コレクターズアイテムなのに残念」と悔しそうだった。

    <追記3>
    上に書いたローテク・テーブルタップの写真である。材質はベークライトでいくつかのタイプの電源プラグに適応するようになっている。「ジャン・マダン」では、コード付きとコード無しがあり、コード無しが20元、コード付きが40元であった。コードの長さは1メートルもなかったので、それだけで値段が倍になるというのはどう考えても高すぎる。もしかすると、コードの取り付けを面倒だと思わせ、40元に誘導する商法だったのかもしれない。社会主義朝鮮の「アジュミ」恐ろしである。
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    さて、次は中身である。ハンドメイドの極致といった感じだ。半田の盛りは若干少ないような気はするが、それでもしっかりと半田付けされている。また、一カ所のみ配線が交差する部分があり、そこでは配線を曲げてジャンプさせるだけではなく、絶縁チューブも使っている。銅の単線であるが、10Aぐらいは大丈夫だろうか。北朝鮮の一般家庭で最も電力消費が大きいのは電熱器だと思うが、600Wぐらいの電熱器の延長コードとしては使えそうだ。
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    ローテクの中にも、キラッとハイテクを仕込んでおくのが「光明星3-2号機」打ち上げに成功した「宇宙強国」の北朝鮮らしいところである。それがこのLEDである。実は、私はLEDは直流でしか点灯しないものとばかり思っていた。というのも、これまで私がやってきた電子工作の中でLEDを交流で点灯させることなど考えてみなかったからだ。交流のパイロットランプとして手軽に使えるのは、ネオン管だけだと固く信じていた。ところが、ネットで調べてみると、LEDは交流でも点灯するようだ。これでは、北朝鮮をローテクと笑えない。このタップでは、抵抗で減圧しLEDを点灯させる構造になっている。
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    「宇宙強国」の旗
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    羅先4:北朝鮮ガイド、Ms.Cと張成沢、「元帥様」気象水門局指導と天気予報、「A Whole New World」、モランボン楽団大人気、ソヌ・ヒャンヒも、「世界名作・名曲」、「アナ雪」、ジャズ

    先行記事に書かなかったが、「羅先シリーズ」は時系列的には書いていないことをお断りしておく。話の成り行き次第で、時間的には行ったり来たりしていることを前提にお読み頂きたい。

    「元汀国境通過検査所」を出て我々は、北朝鮮旅行社が準備してくれたワンボックスに乗った。「元汀国境通過検査所」の中国寄りのエリア(北朝鮮ではあるが、入国検査のゲート通過前)まで来られるのは年長の北朝鮮ガイドだけで、もう一人のガイドは車内にいた。前述のように、我々グループの北朝鮮ガイドは「英語ガイド」で、40代半ばの先輩女性ガイドと今年6月にガイドになったばかりの新米女性ガイドであった。先輩ガイドの方は「金日成総合大学英文学科(英語学科?失念)卒業」、学校の英語教員を経てガイドになったという。若いガイドの方は、平壌の「XXX大学卒業」(大学名失念)ということであったが、大学の格としては「金日成総合大学」より下の大学である(なので、大学名も簡単に失念してしまった)。

    我々は、「英語グループ」なので、当然ガイドは英語で自己紹介などを始める。「Please call me Ms.C」(Cは実際には彼女の名字)と言っていた。「Ms.C」と書いておきながら、明かしてしまうのも何であるが、彼女が後に香港人と私と3人で話している時、「私(女性ガイド)の名前を漢字で書けますか?」と尋ねてきた。その時に、私は危うく「張成沢のCですよねぇ」と言いかけてしまった。言った結果の反応を見るのも意味があったかもしれないが、今思えば、言わないという選択が正しかったと思う。

    というわけで、北朝鮮ガイドとの会話は、英語で始まった。同行したメンバーのこともあるし、北朝鮮ガイドの面子もあるのでしばらくは英語で通していた。ひときりガイドの案内が切れ、同行メンバーも何も言わなくなったので、「最近の天気はこんな感じなんですか?」とガイドに英語で質問した。Ms.Cがこの質問に簡単に英語で答えた後で、「元帥様におかれまして、気象水門局を現地指導されて以来、天気予報も変わりましたね」(朝鮮語で。ブログでは朝鮮語にできるだけ近い日本語に置き換えている。以下同様)と朝鮮語で尋ねてみた。Ms.Cは一瞬たじろぎ、助手席に座っていた若いMs.Hと「運転手ドンム」も振り返った。Ms.Cは「なぜそんなによくご存じなんですか」と朝鮮語で返した上で、「では、どのように変わったのですか?」と尋ねてきた。その変化ぶりは拙ブログにも書いたことなので、それを一つずつ挙げていったら、Ms.Cは、「人民に分かりやすく、詳しい天気予報になりました」と総括した。実にそのとおりなので、「元帥様のご教示のお陰です」と褒めておいた。私のような北朝鮮ワッチャーの日本人民のみならず、朝鮮人民も「元帥様の現地指導」の結果を「天気予報」の中に見いだしていることが分かった。

    バン車内の様子。手前右がMs.C、助手席が若いMs.H。バックミラーにかかっているアクセサリーを香港人が欲しがっていた。
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    もう少し、車内の話を続けていくことにする。北朝鮮ガイドは、彼女の趣味なのか、それとも羅先国際観光旅行社のしきたりなのかは分からないが、歌で我々を歓迎してくれた。順序として、まず若いMs.Hに歌わせた。我々がリクエストしたのか彼女が選んで歌い出したのかは忘れてしまったが、彼女は「アリラン」を歌った。朝鮮人民全体に通じることといえると思うのだが、彼女も歌は非常に上手であった。やはり、「音楽政治」の国、「学習と組織生活」の中で歌も相当歌っているのであろう。

    ところが、私はMs.Cの歌に大変驚かされた。英語ガイドとしてのサービスだったのかもしれないが、彼女が歌ったのは、なんとディズニー映画「アラジン」のテーマソング、「A Whole New World」であった。突然、「A Whole New World」を歌うというので一瞬たじろいだが、すかさず「Korean version please」とお願いした。「A Whole New World」の朝鮮語バージョン(韓国の翻訳ではない)があるのか聞きたかったからである。しかし、残念ながら、「朝鮮語版は知らない」と言い、英語で熱唱した。もしかすると、朝鮮語版の「A Whole New World」はないのかもしれない。しかし、北朝鮮に来て聞く2曲目の曲が「アラジン」のテーマソングとは、想像もしていなかった。もちろん厳密には、車内では、モランボン楽団の曲がmp3とカラージオを連結して流れていたので、厳密には2曲目ではないのだが。

    ディズニー音楽の話はまだあるのだが、モランボン楽団の話を出したので、モランボン楽団について先に書いておくことにする。モランボン楽団は大人気のようである。我々が泊まった琵琶閣というホテルであるが、このホテルには中国人宿泊客も多く、ホテルの前にはたくさんのバスが止まっていた。

    ホテルの入り口。左が「琵琶閣」の看板。右には小さな小屋と「自留地」なのであろうか、小規模の菜園があり野菜を育てていた(「自留地」については、別記事で書く予定)。
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    大型バスの掃除はしないが、この写真にあるようなワンボックスは、早朝、運転手が掃除をしている。そして、掃除をしながらどの運転手も大音響で聞いているのが「モランボン楽団」である。
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    Ms.Cの歌が終わり、英語での解説が切れたところで、再び朝鮮語で話しかけた。
    川口:「私もモランボン楽団が好きで、日本でも良く聞いています」
    Ms.C:「日本でもモランボン楽団は知られているのですか」
    川口:「私の周りには(と、ここがポイントなのだが)、モランボン楽団のファンがたくさんいますよ」
    Ms.C:「どんな曲が好きですか」
    川口:「祖国賛歌、勝利の7.27、燃える願い・・・(以下、10曲ほど並べて)なんかいいですね」

    ちょうど、その時、羅ユミの曲が流れていたので、
    川口:「これは、羅ユミですね。この人の歌は最高です」
    Ms.C:「羅ユミは、人民功勲俳優になりましたよ」(Ms.C、完全に話題に乗ってくれた)
    川口:「そうですね。元帥様におかれましても出席された5月の全国芸術人大会で討論もしていましたね」
    Ms.C:「よくご存じですね」
    川口:「朝鮮中央TVで見ていました。ところで、あの時、ソヌ・ヒャンヒは登壇しなかったのですが残念ですね」
    Ms.C:「そうなんです。でも、私たちはソヌ・ヒャンヒが一番上手だと思っています」(これを一番聞きたかった)

    やはり、朝鮮人民にとってもソヌ・ヒャンヒが受賞や討論から外されたのは意外だったのであろう。ただ、さらっと彼女を評価しながら答えている所からすると、少なくとも朝鮮人民の間では彼女に思想的な問題があり云々という話は広まっていないのかもしれない。Ms.Cは、困ったり嫌なことがあると直ぐにそれを顔に表す人なのだが、この話の時はそのような表情はしなかった。話は続く。

    川口:「ところで、アラジンの歌はいつ頃から歌っているんですか」
    Ms.C:「2011か2012年ぐらいだと思います。話は『世界名作』としてもっと前からあるのですが、歌はその頃からです」
    川口:「すると、元帥様におかれましても観覧された、モランボン楽団の示範公演の頃からでしょうか」
    Ms.C:「そうだったかもしれません」

    やはり、音楽や映像という形で比較的新しいディズニー映画が本格的に北朝鮮で流通し始めたのは、2012年夏のモランボン示範公演後のことのようだ。

    川口:「あの時、クマやネズミが出てきて踊っていましたが、知っていましたか」
    Ms.C:「『世界名作』の本で見たことがあるので知っていました」

    西側で朝鮮人民が知らないキャラクターが飛び出して、朝鮮人民を驚かされたような報道がされていたが、当の朝鮮人民にとっては、あれらのキャラクターは「(敗退的文化を蔓延させようと策略する)米帝の映画に登場するキャラクター」という認識ではなく、「世界名作」の一部として捉えていたようだ。「元帥様」ご満悦だったわけだし。

    羅津区域のDVDストアに並べられたディズニー映画(展示戸棚の左下)。私たちが訪れた時、何人かの朝鮮人民がDVDやVCDを買いに来ていた。外国人ショップではなく、一般の朝鮮人民が来る店である。
    dvd store disney

    すると、モランボンが示範公演で「やりすぎて」お咎めを受けたということはないのかもしれない。

    この「世界名作」というのが、なかなかのくせ者で、グレーゾーンを作っているようだ。もちろん、どこかの政府機関が「世界名作」を指定はしているのであろうが、その基準はよく分からない。

    こんなこともあった。羅津区にある「海岸公園」に行ったとき、公園に設置された大型スクリーンで「朝鮮中央TV」を流していた。この日の公園は人が少なかったが、何人かの朝鮮人民がベンチや地面に座って「朝鮮中央TV」を見ていた。ちょうどその時は「朝鮮芸術映画」をやっており、その中でモランボン楽団やロシアの楽団が演奏するような西側の曲が流れていた(曲名は不詳)。そこで・・・

    「海岸公園」奥に小さく見えるのが大型スクリーン
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    川口:「こんな退廃的な曲を流すんですか。南朝鮮が出ている場面でしょうか」
    Ms.H:「退廃的ではありません。「世界名曲」です」

    確かに、映画は「南朝鮮」が出るシーンではなかったようだが、ここでも「世界名曲(作)」が登場した。

    再び車内でのMs.Cとの話に戻る。

    Ms.C:「そういえば、最近、氷だったか雪だったかという映画もあるそうですね」
    川口:「Frozen(アナと雪の女王)ですね。日本では歌がとても流行し、私の子供も毎日歌っていました」
    Ms.C:「私も早く、見たいと思います」

    北朝鮮当局が「世界名作」と認めれば、Ms.Cが「アナ雪」を見られる日もそう遠くはないであろう。

    <追記>
    あと一つ思い出した。ホテルの食堂で同行者やガイドと一緒に食事をしていたときである。このときも朝鮮音楽がDVDで流れており、Ms.Cが英語で同行者に「Do you like Korean mucis?」と質問した。同行者の一人が「Yes, but I like jazz」と答えた。Ms.Cが「Jazz?」と。これを聞いて出しゃばりの私は黙っているわけには行かない。

    川口:「将軍様におかれましては、ジャズは最も退廃的な音楽だと仰りました」
    Ms.C:(少し困った顔をしながら)「本当によくご存じですね」

    その後、同行者が「What did she say?」というので、英語で説明しておいた。

    ついでになるが、羅先ツアーでおもしろかったのは、2回程度の食事を除いてずっとガイドと同じテーブルか隣のテーブルで一緒に食事をしたことである。2日目ぐらいからは運転手ドンムとも親しくなり、彼も加わって一緒に食事をするようになった。英語と朝鮮語でややこしいこともあったが、それでもとても楽しかった。

    パンもご飯も出る(琵琶閣の朝食)。この後、ワカメスープも出てきた。
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    「平壌国際プロレスリング大会が開催されます」:猪木議員一行参加のプロレス大会、「20時報道」の最後で発表 (2014年8月26日 「朝鮮中央TV」)

    羅先関連の記事を書きながら「朝鮮中央TV」の「20時報道」を見ていたら、最後の部分で「平壌国際プロレスリング大会開催」を告知するアナウンスがあった。

    「平壌国際プロレスリング大会が開催されます」
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    (Source: KCTV, 2014/08/26放送)

    「来る8月30日と31日、朝鮮民主主義人民共和国の首都平壌の景色が良い普通江岸に位置する柳京鄭周永体育館で開催される平壌国際プロレスリング競技大会には、日本、フランス、ブラジルを初めとした世界各国から来た男女プロレスリング選手が参加します」
    *施設名について、コメントを下さった方、ありがとうございます。
    M3u8 Streamvg67jkjkflv_018712471
    (Source: KCTV, 2014/08/26放送)

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    (Source: KCTV, 2014/08/26放送)

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    (Source: KCTV, 2014/08/26放送)

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    (Source: KCTV, 2014/08/26放送)

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    (Source: KCTV, 2014/08/26放送)

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    (Source: KCTV, 2014/08/26放送)

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    (Source: KCTV, 2014/08/26放送)

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    (Source: KCTV, 2014/08/26放送)

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    (Source: KCTV, 2014/08/26放送)

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    (Source: KCTV, 2014/08/26放送)

    M3u8 Streamvg67jkjkflv_018735588
    (Source: KCTV, 2014/08/26放送)

    M3u8 Streamvg67jkjkflv_018737306
    (Source: KCTV, 2014/08/26放送)

    「競技は、1対1の単式競技(シングルマッチ)と2対2の複式競技(タッグマッチ)に分けて行われます」
    M3u8 Streamvg67jkjkflv_018743476
    (Source: KCTV, 2014/08/26放送)

    「自主・平和・親善の美名の下で開催される平壌国際プロレスリング競技大会は、国家間の体育・文化交流と協力を強化し、体育技術を発展させていく契機となることでしょう」
    M3u8 Streamvg67jkjkflv_018757561
    (Source: KCTV, 2014/08/26放送)

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    (Source: KCTV, 2014/08/26放送)

    このところ、「20時報道」をきちんと見ていなかったので以前から報道されていたのかもしれないが、メインニュースの中で紹介するというのは、北朝鮮当局もプロレス大会に相当力を入れているということであろう。また、日本が先頭で紹介されているのは、猪木議員が団長を務めているのに加え、派遣された選手の数が最も多いからであろうか。最近プロレスは全く見ていないので、上の画面に登場している選手が誰なのか全く分からないが、日本人らしき顔がたくさんある。また、女子プロも同時開催するというのは意外であった。

    日本からひろゆき氏が同行し、ネット中継をするというような話もあるが、私はそれよりも北朝鮮当局が「朝鮮中央TV」でどのように放映するのかの方が楽しみである。(ま、北朝鮮から「ネット中継」なるものが可能なのかどうかも大いに関心があるのだが)

    さて、「元帥様」観覧するのであろうか?

    羅先3:羅先の位置、怒鳴り散らす中国人女性観光客、北朝鮮刑法、中国人団体、琵琶島、アザラシ遊覧船、チェキ、タクシー

    過去記事にもGoogle mapを2つ掲載したが、一応、羅先特別市の概要をきちんと把握するためにもう一度、地図を掲載しておく。実は、私も羅先が朝鮮半島のどの位置にあるのかぐらいは知っていたが、その詳細は訪問して帰国するまで全く関心がなかった。おかしな話ではあるが、帰国後にGoogle mapを見ながら訪問した場所位置関係を確認しているような状態である。そんな時、Google mapは衛星写真があるので、特定の建物などを特定することができ、とても便利である。

    羅先地図1
    (Source: Google map、一部著者加工)

    さて、入国検査を無事通過し、検査場の外に出ることができた。相変わらず、中国人観光客はたくさんいた。観光客であろうか。派手な服を着てサングラスを掛けた中国人女性が大声で同じ旅行団の男性に何か怒鳴っている。何かでもめているのだろうが、中国語が分からないので詳細は分からない。しばらく、大声で怒鳴り続けていたが、ついに北朝鮮の警備官がやってきて制止した。さすがの中国人女性もサングラスを外して、北朝鮮の警備官に詫びているようであった。

    そもそも、北朝鮮で外国人が大声で叫ぶというのは、「秩序を乱す」行為とも取られかねないので、よろしくない。数ヶ月前、平壌空港で入国書類を破損しながら北朝鮮への亡命を要望し北朝鮮当局に拘束された米国人男性も、北朝鮮が発表した拘束理由は「秩序を乱した」ということであった。

    朝鮮民主主義人民共和国刑法
    第8章 社会主義共同生活秩序を侵害した犯罪
    第246条(不良者的行為罪)
    破廉恥な不良者的行為を行った者は、1年以下の労働鍛錬刑の処す。
    残忍な方法で不良者的行為を行った場合は、5年以下の労働教化刑に処す。
    徒党を組んで社会に不安と恐怖を造成した主導分子は、5年以上10年以下の労働教化刑に処す。

    行政・治安機関である「元汀国境通行検査所」の出口で大声で怒鳴り散らすのは「破廉恥な不良者的行為」に該当するのではないだろうか。

    大声で叫ぶと言えば、「徒党を組んで社会に不安と恐怖を造成」しているのではないのかと思える場面にも遭遇した。例によって中国人であるが、琵琶島に行ったときのことである。

    琵琶島の位置
    琵琶島
    (Source: Google map、一部著者加工)

    琵琶島は羅先の観光スポットの一つで、多くの中国人がバスで観光にやって来ていた。その中の一グループが記念写真を撮影した後、横断幕を掲げながら大声で何かを叫びだした。北朝鮮で旗や横断幕を掲げて、外国人が集団でスローガンを叫ぶことなどどう考えても、「徒党を組んで社会に不安と恐怖を造成」に該当しそうである。羅先だからこそ、そして中国人だからこそ許されるのかもしれないが、同行した香港人の話によると、どうやら中国企業の慰安旅行のグループのようで、「XXX会社は一番だ!」と叫んでいたようだ。写真に見える緑色の旗と同じデザインの大きな看板を帰路、圈河口岸から図們に向かう道沿いで見かけたので、どうやらこの図們辺りの企業のようだ。

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    琵琶島は半島と橋で繋がっており、バスに乗って行くことができる。北朝鮮だけの話ではないが、中国製のバスに混ざって、日本製の中古バスがここでも大活躍していた。フィリピンの場合は、右側通行に合わせて運転席を左に移すことが法律で定められているが、北朝鮮ではそのまま使っている。日本のバスが丈夫だというべきか、北朝鮮の「自力更生」的なメンテナンス能力が高いというべきか分からないが、マイクロバスから路線バスの中古まで、本当にたくさん走っていた。ただ、「自力更生的」メンテナンスにもそろそろ限界が来ているようで、だんだん部品調達が容易な中国製バスに置き換わってきているのも事実である。

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    琵琶島の水は本当に清んできれいだった。そんなこともあり、ここではアザラシを遊覧船で見に行く観光を売りにしているようだ。実は、我々が琵琶島に着いたとき下の光景を目撃してしまったので、遊覧船に乗る気はなかった。

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    また、実際に船に乗ってアザラシを見るまで、その遊覧船が「アザラシ・ワッチング」の船だということすら知らなかった。北朝鮮ガイドもサプライズを狙ったのか、アザラシが見えるまで我々にはそのことは言わなかった。ま、英語で「seal」とでも言われれば分かっただろうが、朝鮮語で「물범」と言われても絶対に分からなかった。天然のクジラ、イルカ、ウミガメは見たことがあったが、アザラシを見たのは初めてなので感動した。「アザラシ遊覧船」観光は、日本人にも絶対に受けるはずである。

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    さて、この遊覧船であるが、2枚上の写真にあるように下手をすると中国人団体と一緒に乗船することになる。我々のグループは、騒音と安全性の面からそれは避けたかったので、北朝鮮ガイドに「班長ドンム」と交渉してもらった。結果、我々だけの貸し切り遊覧となりとても快適だった。一人100元支払ったが、100元のコスパは非常に高かった。これから記事にしようと思っている「市場(いちば)」でのように、朝鮮人民のクラウドの中に身を置き、何を話しているのかなどを聞くのは大変興味深いことだが、中国語は分からないし・・・という話である。

    香港人は、デジカメ、フィルムカメラに加えて、チェキを持って来ていた。どうやら、平壌訪問の経験から、朝鮮人民に一緒に撮影した写真を手渡すためにはそれしかないという判断だったようだ。実に正しい。しかし、富士フイルム、チェキ開発者の想定外の使い方でもあるはずだ。デジカメが普及し始めている北朝鮮であるが、インスタントカメラはほとんど知られていないようである。まあ、正確には「現実の世界で」と言うべきであろう。「朝鮮中央TV」で放送される金日成時代を振り返る回顧番組を見ていると、「首領様」がインスタントカメラで朝鮮人民と一緒に撮影した写真をその場で朝鮮人民に手渡すという「深い恩情」を見せる場面がある。しかし、このような恩恵にあずかった朝鮮人民はごく少数なのだろうし、ましてや「首領様」がどのような魔法のカメラを使って写真を撮影したのかも分からないのであろう。そのようなこともあり、チェキで撮影した記念写真は、ぼけていようが解像度が低かろうが朝鮮人民に受けていた。

    我々のグループの集合写真をチェキで撮影をしてくれる遊覧船の「班長ドンム」。このドンムには、後で我々と一緒に撮った写真を記念に差し上げた。
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    我々が乗った船は右。乗客の数により、さらに大型の船も用意されている。
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    羅先には本当にたくさんのタクシーが走っている。タクシー料金は、北朝鮮ガイドによると「最初の1kmが0.4米ドル」その後、距離が進む毎に幾らと言っていたが、詳細な数字は失念した。というのも、彼女の話は「$1=W100」という公定レートの話であり、実態とは乖離していると思う。相対的価格を知ろうとバスの値段を聞いてみたら「0.8米ドル」(ただし、記憶曖昧)とか言っていた。絶対値は分からないが、やはりタクシーはバスト比べると相当に高いことだけは分かる。

    香港人同行者は、タクシーに高い関心を示し、タクシーに乗りたいと何回も北朝鮮ガイドを困らせた。平壌のタクシーは分からないが、羅先のタクシーは下の写真の漢字で表記されたタクシーメーターノブからも分かるように、中国の中古タクシーを使っているようである(前面で撮影しているのは、香港人同行者)。
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    ついにタクシーの助手席に座った彼であるが、こちらのタクシーの場合、メーターが装着されていない。もしかすると、実際のタクシー運行はメータによるのではなく、事前の交渉により金額を決めているのかもしれない。琵琶島には、中国人同士がタクシーに乗ってきていたので、少なくとも中国人には単独タクシー乗車が許されているのかもしれない。香港人の彼は、「俺も中国人だ」と言っていたが。
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    羅先2:ツアーの仲間、中朝国境、溢れる中国人、「観光証」と「徒歩入・出国手続き票」、「国際旅行社」、北朝鮮からのメール、厳しい「税関検査」

    年を取って記憶力が落ちているので、忘れる前に経験を書き留めておこうと記事を連続で書くことにする。昨日、累積していた仕事は取りあえず片付けたので、今日は記事の執筆に集中できそうである。

    今回、私が参加したツアーは、中国ベースに北朝鮮観光をやっている欧米系観光会社のツアーである。一緒に行った仲間は、香港、米国、英国(スコットランド)人で観光会社のガイドは英国人だった。このような構成なので、ツアー参加者の共通語は英語であり、北朝鮮ガイドも英語ガイドであった。英国人ガイドは訪朝回数は多いが、朝鮮語はほとんどできなかった。しかし、中国語は堪能だったので、中国ではとても助けられた。ツアー参加者は、2名が平壌訪問経験あり、1名が北朝鮮は初めてという構成で、いずれも朝鮮語能力や北朝鮮に関する知識という点では「素人さん」ばかりであった。

    延吉から車で図們市を経て中国と羅先を結ぶ国境へ向かった。国境まではよく整備された高速道路でとても快適であった(直線部分で運転手が180Km/h出したときはさすがに怖かったが)。延吉から3時間ほどで中朝国境、圏河口岸に着いた。

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    中国側で出国手続きをしなければならないのだが、出国検査場は中国人で溢れていた。羅先観光に行く人がほとんどのように見えたが、中朝間を往来しながら商品を運んでいる人もいた。出国検査場がこの日混雑していたのは、停電があったからといことで、中国入管の出入国管理システムがしばらくダウンしていたことが原因であるようだ。しばらく待っていたらシステムは復旧し、出国することはできたが、北朝鮮に入るための書類まで中国側で検査されるため、我々のような非中国人の通過には時間がかかった。

    中国の出国検査場を出ると図們江に架かる橋を渡って北朝鮮に入る。徒歩で橋を渡る中国人がいたので、我々も徒歩で渡ろうとしたのだが、中国の警備員に制止され、バスで渡ることとなった。バスが車でしばらく待たされたが、乗ってしまえば北朝鮮側の入国検査場まで5分もかからない。バスは中朝双方が運行しているようで、行きのバスは中国ナンバー、帰りのバスは北朝鮮ナンバーであった。

    北朝鮮ではまず他国同様に入国検査がある。前記事に「手続きに時間がかかり、名古屋発の航空券を買った」と書いたが、実は「入国許可書類」が発行されたのが、出発の1週間前だったからである。「素人さん」なら問題なく発行されるのであろうが、私の場合、拙ブログに色々と書いているので、発行されない可能性もあるのではないかと思い、それまで延吉行きの航空券購入を控えていた。

    ところで、「入国許可書類」と敢えて書いたのは、それが「査証(VISA)」ではないからである。北朝鮮が「羅先にはビザ無しで入ることができる」と宣伝しているのもそのためであるが、見た目と呼称こそ違えど実態としてビザと変わりない。

    2010年、平壌訪問をしたときに取得した「観光証」。現在も羅先以外を「観光」する場合は、これが必要である。残念ながら、「観光証」は出国時に回収されてしまうので、写真しか残らない。
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    下は今回、羅先に入るに際して取得した「徒歩入・出国手続き票」である。これを取得するためには一般的な申請書に加え、私の場合は「略歴」も求められた。学歴の中に「南朝鮮ソウル、中央大学校」と書いておいたが、こちらは問題なかったようだ。署名は私の署名ではなく代理申請者の代筆である(私は日本語の語中にある無声音(濁点が付かない音)を激音で表記することにしているが、こちらは濃音で表記してある)。

    また、「招請機関」が「国際旅行社」となっている点も興味深い。平壌観光の時は「朝鮮国際旅行社」の世話になったのだが、北朝鮮ガイドの話によると、自分たちは「羅先国際旅行社」所属ということであった。同行した米国人は羅先から南浦に向かったが、彼の場合、羅先の境界まで「羅先国際旅行社」のガイドにエスコートされ、その先は「南浦国際旅行社」のガイドに引き継がれるということになっていた(この米国人は、南浦に行くために上の青い「観光証」を所持していた)。これらの各地の「国際旅行社」が「朝鮮国際旅行社」の「支店」に該当するのかまでは確認することができなかった。
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    (生年月日部分のみ画像加工で削除してある。こちらも出国時に朝鮮側の橋に立っている警備員にバスの中で回収されてしまう)

    別の記事中に書いたかどうか忘れてしまったが、実は、今回の旅行の段取りを進める中でおもしろいことがあった。北朝鮮系のウェブサイトの中で見つけた「朝鮮国際旅行社」のメールアドレスに「北朝鮮旅行をしたい」というメールを出したら返事が来た。「XXXXXX@silibank.net.kp」という北朝鮮ドメインのアドレスだったのでとても驚いた。というのは、2010年の北朝鮮観光後、ガイドの名刺に書いてあった「XXXXXXX@silibank.com」というアドレスに礼状をメールを送ったものの、サーバーから不達エラーのメールが返信されるだけだったからである。「silibank」以下のドメインこそ変わっているが、北朝鮮のメール事情も変わってきているのだと感じた。

    話がそれてしまったが、北朝鮮の入国検査ではパスポートと「徒歩入・出国手続き票」を提出する。検査官はしばらく眺めた後で、「住んでいる所」と朝鮮語で聞いてきたが、横にいた北朝鮮ガイドが「Where do you live?」というので「Japan」と答えておいた。

    入国検査以上に厳しいのが税関検査である。私はカメラ、スマホ、ラップトップPC、UQWIMAXのルーターを持っていたので、全て提出した。カメラ、スマホ、PCのメモリなどは全て空にしておいたので問題なかったが、キティーちゃんの描かれたルーターは機能の説明するのに少し苦労した。税関検査官は、同行者のスマホに記録されているアプリを丹念にチェックしていたようだ。結局、税関預かりにされたものは一つもなく、全員無事、税関検査をパスすることができた。おもしろかったのは、電子製品については綿密に検査をしていたにもかかわらず、スーツケースの方はX線検査機を通しただけで、中身の検査は一切されなかった点である。

    下の写真のように、「衛生」(事実上、ノーチェック)、「通検(入管)」、「税関」の3つのスタンプがもらえると、入国が許可される。「税関」は北朝鮮に観光客が持ち込んで電子製品の台数を書き込んだ紙を北朝鮮ガイドに手渡し、出国時に同じ台数を持ち出すかどうか確認をする。
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    これでやっと、羅先に足を踏み入れることができた。

    中朝国境周辺の地図
    中朝国境1
    (Source: Google map, 一部筆者加工)

    上と同じ中朝国境の縮尺を小さくした地図が下である。豆満江に架かる橋に繋がる黄色っぽい道が見えると思うが、この道は舗装されている。実は、我々が中国側で出国検査を受けている間も中国ナンバーの大型トラック(コンテナ車が多かった)や中国ナンバーの乗用車が何台も橋を渡って北朝鮮側に入っていった。トラックや乗用車が中国側の出国や北朝鮮側の入国でどのような検査を受けているのかは見ることができなかったが、徒歩で入るよりは楽なような雰囲気だった。トラックが観光目的出ないことは明白であるが、乗用車については観光目的なのか営業目的なのかについてはよく分からない。そもそも、羅先への中国ナンバー乗用車乗り入れについて、以前どこかで観光目的も許可されているということを読んだ気がするのだが、今回の訪問で英国人ガイドから聞いた話では、羅先と中国間でビジネスを行っている中国人に限られているということであった。彼は、中国側の事情には精通しているので、あながち間違っているともいえない気がする。しかし、乗用車は必ずしもビジネス目的ではないことは明らかで、明らかに観光客と思わしき人々を乗せた中国ナンバーの乗用車が羅先市内を多く走っていた。

    圈河口岸から羅津に至る舗装道路は、全て中国により建設されたとのことである。徒歩で入国した場合は、検査所出口から旅行社が手配した車両かタクシーに乗るのであるが、黄色く見える舗装路と合流するまでの数百メートル(下の地図では上の曲がりくねった道)は、未舗装路である。
    中朝国境2
    (Source: Google map, 一部筆者加工)

    羅先1:「苦難の行軍」、柳京ホテル、笑顔の「接受員ドンム」、「朝鮮中央TV」が出迎え、「形から入る韓国人」、市場と朝鮮人民

    今回は、神奈川→名古屋→北京→延吉→羅先という経由地が多い旅であった。延吉に行くには成田(羽田)→ソウル→延吉というルートが最も早いのであるが、8月中頃は韓国人が大量に「長白山(白頭山)観光」に行くのでソウル経由のルートは満席か、そうでなくても料金がとてつもなく高い。成田(羽田)発北京経由でもよかったのだが、手続きの関係で航空券を購入するのが遅れ、私にとって適切な価格で買える航空券は名古屋発しかなかった。このような事情もあり、延吉に至るにも名古屋で前泊、そして北京空港で6時間ほどの待ち時間があるなどとても大変であった。

    空港から柳京ホテルまでタクシーで20分ほどの距離で、メーターで行けば20元ほどである。空港で乗ったタクシーは例によってメーターを使わず40元と言ってきた。交渉する意欲も中国語の実力もないので、言われるままに支払って柳京ホテルに着くも、ホテル前の道が工事中で車が入れず200メートルほど歩く必要があった。そんなこともあり、延吉の柳京ホテルに到着したのは夜7時半頃、かなり疲れていた。ともかく、「苦難の行軍」であった。

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    ともあれ、ホテルに入るとニコニコと微笑むチマチョゴリを着た「接受員ドンム」(フロント係)がおり、疲れも一気に吹き飛んだ。この「接受員ドンム」、最後まで写真を撮らせてもらうのを忘れてしまったが、笑顔が素敵なだけではなく、聡明そうな平壌出身の女性であった。フロントには、この女性の他にも何人かの朝鮮人民が立っていたが、この女性がリーダーのようだった。女性同士では「オンニ」(お姉さん)と呼んでいたが、職責は「班長」なのだと思う。あと、ほとんど表面には出てこないが、早朝、散歩に出かけるときにこの「班長」が中年の朝鮮人民女性とホテル正面の道の工事についてあれこれ話をしている場面に遭遇した。年齢と風貌からすると、この中年女性が「支配人」(社長)だったのであろう。

    「接受員ドンム」の笑顔で元気を得て部屋に入った。柳京ホテルではカードキーが採用されており、部屋の電源を入れるにはカードキーをドア横のスイッチに挿入する必要がある。挿入すると突然、真っ暗な中で聞き慣れた「朝鮮中央TV」の音声が私を歓迎してくれた。なぜテレビだけがONになったのかは謎であるが、これで疲れは完全に吹っ飛んだ。

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    空腹だったので1階のレストランに行くと、公演の真っ最中であった。「接受員ドンム」は「2階の方が静かですよ」と2階のレストランを勧めてくれたが、「歌が聞きたいから」と1階のレストランに入った。ほぼ満席状態であったが、後ろの方のテーブルがいくつか空いていたのでそこに座った。この日の観客の多くは「長白山観光」の韓国人。見るからに「登山」という服装であったが、「普通」の「長白山観光」であれば、Tシャツと半ズボンでも大丈夫である。確かに、長白山(白頭山)の頂上は気温が低いばかりでなく、風が吹いていてとてもTシャツと半ズボンでは厳しいが、麓でいくらか払えば厚いコートを借りることができる。90年代に私が初めて長白山に登ったときは、長い階段を3時間ぐらい掛けて上った記憶があるが、今の長白山観光は、一番楽なコースを選ぶのであれば、車で天池の下まで連れて行ってくれ、10分も歩けば天池を見ることができる。私が80年代に韓国にいた頃もそうであったが、ハイキング程度の山で「焼き肉」パーティーをするだけなのに、あたかも「登山」という出で立ちで来ていた。「形から入る韓国人」というか、古き良き韓国人を見たようで、何となくなつかしかった。

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    (長白山のコートレンタルショップ前、2013年8月撮影)

    レストランには本箱があり、そこに北朝鮮の本が並べられていた。手に取ってみることはしなかったが、金日成の「世紀と共に」が最も上の段にタイトルが書かれた紙と共に丁重に置かれているのが印象的であった。

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    翌朝、ホテル周辺の散歩をした。延吉は延辺朝鮮族自治州の中心都市なので、看板も朝鮮語だけであったり、漢字と朝鮮語が並記されているものが多い。視覚的にも私にとって居心地の良い場所である。

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    市内の川縁で朝市をやっていた。6時台にもかかわらず、かなりの人で賑わっていた。イヌ肉を売る店、松茸や朝鮮人参を売る店、北朝鮮歌謡のVCDやDVDのコピー版を売る店などが出ていた。さすがに延吉だけあって、あちこちで朝鮮語が聞こえてくる。北朝鮮入国前だったので、私はお守りの小さなヒョウタンを買っただけであるが、それを売っていたお爺さんも朝鮮族だった。そんな中、同じ服を着た人々が歩いて来た。よく見ると胸には「バッジ」があった。どんな人たちなのかは分からないが、延吉にある北朝鮮系会社の社員か延辺大学に留学をしている人々ではないだろうか。個人行動が許されていないからなのか、友達同士で買い物に来たのか、はたまたその両方なのかは分からない。

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    羅先訪問

    しばらく記事を書いていない。それにもかかわらず、継続的にコメントで情報を提供して下さる方がおられ、本当にありがたく、嬉しい限りである。

    8月中旬、羅先を訪問した。2010年に平壌を訪れたが、今回はそれと比較することができないほど多くのことを見聞することができた。拙ブログで書いてきたことの間違いや謎として残っていたこともかなり解明された。それらについては少しずつ書いていくことにする。

    たくさんの写真も撮影した。まず最初にどの写真を紹介しようかと迷ったが、ざっと見た限りでは下の写真が最も羅先をよく表している写真ではないだろうか。左側の石碑には「自力更生」と書かれており、その横を携帯(スマホの可能性も大)で通話をしながら歩く朝鮮人民、人民リュックサック(と呼ぶのかどうかは聞き忘れたが)を背負って歩く女性とキティーちゃんのリュックサックを背負った子供たち、登録番号(赤い楕円形のもの)を付けた自転車に乗って走る人民と自動車(中国ナンバーの車かもしれない)、そして太陽光発電板を備えたLEDの街路灯。何が言いたいのか良く分からないかもしれないが、このコントラストがまさに羅先である。
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    そして、自慢にもならないプチ自慢は、中国・延吉の柳京ホテル(北朝鮮系のホテル)の「接受員ドンム」(フロントの女性)に北朝鮮からの帰路、「お客さんの言葉は標準語です」と言われたことだ。「標準語」、もちろん平壌の「標準語」のことである。
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    「楽しい日曜日の一日、おもしろいイルカの芸」:イルカの芸を紹介する番組、韓国映画『高地』と『光州5.18』、「日常」の崩壊、status quo (2014年8月3日放送 「朝鮮中央TV」)

    「朝鮮中央TV」が「楽しい日曜日の一日」と題する番組を放送した。この日の番組では、「ルンラ・イルカ館」の様子を詳しく紹介している。これまでも「ルンラ・イルカ館」を紹介する番組はあったが、「元帥様の慈愛深い恩情」に焦点を合わせたものが多く、イルカの芸などを詳しく見せるものはなかった。しかし、この日の番組では、「元帥様の慈悲深い恩情」ではなく、イルカの芸に焦点が当てられており、その意味ではとてもおもしろかった。

    「楽しい日曜日の一日」
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    Source: KCTV, 2014/08/03放送

    過去記事で「楽しい日曜日の一日」シリーズで放送された「ミニゴルフ」を紹介したが、今回も「ある家族と共に」という形になっている。下の写真は、バスから降りた「ある家族」。
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    Source: KCTV, 2014/08/03放送

    「ルンラ・イルカ館」
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    Source: KCTV, 2014/08/03放送

    「おもしろいイルカの芸」
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    Source: KCTV, 2014/08/03放送

    「海には数十種類のイルカが住んでいますが、我々のイルカ館にいるのは、バンドウイルカ(正確には聞き取れず)です」と語る金ウンギョン調教師
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    Source: KCTV, 2014/08/03放送

    「平壌イルカ:大きなボール飛ばし」
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    Source: KCTV, 2014/08/03放送

    「平壌イルカ:踊るイルカたち」
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    Source: KCTV, 2014/08/03放送

    「平壌イルカ:尾びれを上手に使う」(判読不能)、背泳ぎで尾びれを使って泳いでいる。
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    Source: KCTV, 2014/08/03放送

    「平壌イルカ:水上スキー」、よく見るとボードの上にイルカが乗って泳いでいる。
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    Source: KCTV, 2014/08/03放送

    「平壌イルカ:同時ボール打ち」、調教師は「次は、誰もが待っているイルカの同時ボール打ちです」と紹介している。イルカショーの大技なのだろう。
    M3u8 Streamrewer677hhhflv_002530045
    Source: KCTV, 2014/08/03放送

    「観客の声援に感謝しようとイルカたちが観客席の近くにやって来ました」とナレーション
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    Source: KCTV, 2014/08/03放送

    「平壌イルカが行う尾びれ走りは、他の動作と違い、イルカの強い尾びれの力が必要な難度が非常に高い動作の一つです」と説明する高ソンボク調教師
    M3u8 Streamrewer677hhhflv_002568031
    Source: KCTV, 2014/08/03放送

    「ご覧下さい、我々のイルカが小さなボールを抱えて泳いでいる様子は、ほんとうにかわいくないですか」と高ソンボク調教師。
    M3u8 Streamrewer677hhhflv_002577285
    Source: KCTV, 2014/08/03放送

    「では次に、このように聡明なイルカと皆さんが近くで接することができる時間を持ちましょう」
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    Source: KCTV, 2014/08/03放送

    観覧席から投げ得られたボールを観覧席に跳ね返す芸を見せるイルカ
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    Source: KCTV, 2014/08/03放送

    テレビに出演している夫婦が舞台に上がった。調教師がイルカに「男のお客さんは好きですか?」と質問すると、イルカは首を横に振る。続けて、奥さんを連れてきて「女のお客さんは好きですか?」と質問すると、イルカは首を縦に振る。
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    Source: KCTV, 2014/08/03放送

    驚きながら芸を眺める生徒たち(高校生ぐらいか?)
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    Source: KCTV, 2014/08/03放送

    爆笑する朝鮮人民の男性
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    Source: KCTV, 2014/08/03放送

    「どなたが問題を出されますか?」との調教師の呼びかけを受け、小さな男の子が「5+1は?」と問題を出す。
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    Source: KCTV, 2014/08/03放送

    調教師は、「平壌の3号、問題を解くことができますか?」と呼びかける。日本でイルカショーは子供と一緒に何回も見たが、登場するイルカには皆名前が付いている。しかし、「ルンラ・イルカ館」のイルカは名前で呼ばれるのではなく、番号で呼ばれているようだ。囚人のようなので、可愛い名前を付けるよう「元帥様」は「ご教示」をすべきだと思うのだが。
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    Source: KCTV, 2014/08/03放送

    舞台上には問題を書いたプレートがある。男の子には予め問題が手渡されていたようだ。
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    Source: KCTV, 2014/08/03放送

    イルカはプールの壁に取り付けられスイッチを6回押しブザーを鳴らす。やらせとはいえ、イルカが回数を間違えないように押せるようにするには、それなりの訓練が必要なのであろう。
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    Source: KCTV, 2014/08/03放送

    「伝説の中でだけ聞いた、人魚姫が美しくて素晴らしいルンラ・イルカ館が羨ましくて降りてきたのでしょうか」とナレーション。「ディズニーシー、マーメードラグーンシアター」の「アリエル」を連想してしまうのは私だけだろうか。静止画では表現できないが、周囲に手を振る動作は「アリエル」と非常に似ている。モランボン公演に登場したディズニーキャラクターたちもそうであるが、北朝鮮におけるディズニーのソフトパワーは相当に強いようだ。もちろん、朝鮮人民がそれが「米帝」の産物であるということを知っていてという前提ではあるが。ジョセフ・ナイの著書を読んでからだいぶ時間が経ち失念してしまったのだが、彼は「米国の魅力」として入り込まず、「魅力」として入り込んだ事象についてもソフトパワーとして論じていたかどうかもう一度確認する必要がありそうだ。「事後的ソフトパワー」あるいは「潜在的ソフトパワー」とでもういうべきものについてである。「人魚姫」はこの後、水の中に飛び込み他の調教師と共に「イルカと共に水中公演」を行ったとナレーション。残念ながら、水中公演を紹介する場面はなかった。
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    Source: KCTV, 2014/08/03放送

    「ルンライルカ:後方に立って進む」
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    Source: KCTV, 2014/08/03放送

    「ルンライルカ:同時ジャンプ」
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    Source: KCTV, 2014/08/03放送

    「ルンライルカ:連続ボール打ち」
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    Source: KCTV, 2014/08/03放送

    「海のイルカたちが観覧者に勝負を挑んできました」とナレーション。観客の夫婦が舞台に上がり、フラフープのやり方の説明を受けた後、フラフープに挑戦する。男性は上手くできないが、女性は上手い。
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    Source: KCTV, 2014/08/03放送

    イルカは口で小さなフラフープを回している。
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    Source: KCTV, 2014/08/03放送

    最後に「実に人民が抱く夢と理想をこの地に輝かしい現実として具現しようと心遣いをして下さる敬愛する元帥様の熱い人民愛の中でこのような海の世界が、社会主義文明を心ゆくまで楽しんでいる人民たちの幸福な笑い声が、ここルンラ・イルカ館に響いているのではないでしょうか」とナレーション。この「楽しい日曜日の一日」シリーズを並べて調べてみるとおもしろいのだろうが、パターンとして「元帥様」に関するコメントを短く最後に入れるのがこの番組のパターンになっているんではないだろうか。

    出演した家族。「今日は、休息のひとときを楽しく過ごしました」と父親。
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    Source: KCTV, 2014/08/03放送

    この番組も「演出」であることは間違いない。ただ、いずれの国でも「テレビ」というのは「演出」であり、「自然」というのはあり得ない。資本主義国では限られた時間枠の中で視聴率を稼ぎ出し「商業」宣伝効果を上げること、北朝鮮ではチャンネルの選択肢が少ないとはいえ、「見る、見ない」は人民の選択に委ねられているはずなので、視聴率を稼ぎ出して「政治」宣伝を効果を上げることがその目的である。「ルンラ・イルカ館」は、朝鮮人民にとっては憧れの観光スポットのはずなので、日本のテレビがディズニーランドの新アトラクションを競って紹介するように、「ルンラ・イルカ館」を紹介するのは理にかなっている。そんな中に北朝鮮の「日常」を垣間見ることができるのではないだろうか。

    実は、先週末に京都で開催された「北朝鮮研究の新たな視座:生活、歴史、文化」という国際シンポジウムを見てきた。感想を一言で言えば、北朝鮮の「日常」をいかに見いだすかということで、各報告者は色々な視点から北朝鮮の「日常」を切り出そうとしていた。それが「新たな視座」ということだったのであろうが、残念ながら北朝鮮のテレビ番組からの切り出しを試みた報告者はいなかった。

    子供が『アナと雪の女王』のDVDを見たいというので、DVDレンタル店に行った。「5本まとめてセール」をやっていたので、韓国映画のDVDを2本混ぜた。1本は『高地』、もう1本は『光州5.18』であるが、両方とも考えさせられる映画であった。

    『高地』は朝鮮戦争末期を題材にした戦争の無意味さ、政治指導者に翻弄される人々を扱った映画であるが、時代背景が同じであったということもあり『無名の英雄たち』に通じるものがあった。もちろん、『無名の英雄たち』では「祖国のため」に戦死することを英雄視し、『高地』では「祖国の命令」のために戦死する無意味さを扱っているので、その視点は全く逆であるが、どんな理由や目的があれ、人々が「戦死」していく悲しさが底流にあるという点は同じである。

    『光州5.18』は、1980年の「光州事件」(韓国の民主化後「光州民主化運動」と改称されたが、私には「光州事件」という呼び名の方が馴染みがある)を扱った映画である。この映画は、私が韓国にいた1980年代がその時代背景なので、実になつかしい風景が初めの部分で数多く登場した。緑のポニータクシーなど、現在の韓国比べると隔世の感がある。しかし、平和なのは初めだけで、途中から血なまぐさいシーンが連続する。映画は、「戒厳軍空襲部隊」が光州に投入され、光州市民を虐殺していくの様子を描くが、一番怖かったのは人々の「日常」が破壊されるシーンであった。映画館で映画を見ていると催涙ガスが流れ込み「戒厳軍」兵士1名がデモをしていた学生を追いかけて映画館に乱入してくる、観客が外に出ると外では「戒厳軍兵士」がデモをしていた学生や無関係な市民を棍棒で乱打しているシーンが展開する。この「日常」が一気の崩壊するシーンは、実に恐ろしい。というのも、時期は5年ほどずれていたが、私も全斗煥独裁軍事政権下の韓国に住んでおり、「日常」に身を投じていた。その「日常」が続く限りは、日本での生活とほとんど変わらない。私が韓国に滞在していた期間にその「日常」が大きく崩れだした。下手をすれば、第二の光州事件がソウルで発生したかもしれないという状況であったが、幸いにもその「日常崩壊」は、民主化に向かっていった。この「成熟」の意味をもう一度きちんと考え直す必要がありそうだ。

    当時、韓国人は政権を恐れていた。当時、私はその恐れの意味をきちんと理解できなかったが、この映画を見て思ったのは、やはり「光州事件」のインパクトが非常に大きかったのではないかということである。強力な軍を後ろ盾とする軍事独裁政権は、人々の「日常」をいとも簡単に、しかも「正当」に破壊することができる。

    北朝鮮の人々も「恐れ」と「畏れ」の中の「日常」で暮らしているのであろう。幸いにも、これまで「光州事件」のような大規模な「日常崩壊」があったとは伝えられていない。

    米国はイラクの「日常」を軍事力で崩壊させた。サダム・フセイン独裁政権下での「日常」が人々にとって最大の幸福であったとはとても言えないが、米国により崩壊された現在の「日常」がイラクの人々にとって当時の「日常」より本当に幸せであるのかというのは疑問である。

    「status quo」が重要であるというのは、国際関係の話ではなく、実は人々の話ではないのだろうか。「status quo」が外国の介入で無理矢理崩壊されたイラク、自らの力ではあるが「status quo」を破壊したエジプトやリビア。そして、良くも悪くも「status quo」70年を近く維持している北朝鮮。もう一度考え直してみる必要がありそうだ。

    「米国公民ペ・ジュンホ、病気治療を終え再び教化所へ、『朝鮮政府が受け入れられる特使派遣』を求める」:ペ・ジュンホの体調、治療費問題、カットされた核攻撃目標、日朝関係に配慮か?、米国務省の反応、米朝関係が動くのか? (2014年7月31日 「朝鮮新報」)

    『朝鮮新報』記者が懲役15年の刑を受け北朝鮮に抑留されている韓国系米国人ベ・ジュンホにインタビューをし、彼の発言を伝える記事を同紙に掲載した。

    『朝鮮新報』、「미국공민 배준호 병치료를 마치고 다시 교화소로 《조선정부가 수용할수 있는 특사파견》을 호소」、http://chosonsinbo.com/2014/07/sk73-7/

    ペ・ジュンホは3月29日から病気治療のために「平壌親善病院」に入院していたが、「近日中に特別収容所に収容される」ということである。彼は、「収容所生活」をしている間に「85キロだった体重が2ヶ月間で15キロ減り、現在は75キロ」だという。このように体重が減った一因として「今まで入院治療費を支払えないでいることについて、精神的負担感もある」と語ったとのことだ。北朝鮮は「治療費は無料」のはずなのだが、外国人や受刑者は有料なのかもしれない。

    彼は「(自身の問題が)未だに解決の糸口さえつかめていない状況について残念に思い、自分は米国政府に捨てられたように感じている」と語ったという。しかし、「これまで米国政府が努力をしてきたことについてはありがたく感じており『米国政府が早く朝鮮政府が受け入れられる特使を派遣し、自分の問題を解決してくれることを要請する』」とも語り、北朝鮮政府に対しては、「家族との電話通話や入院治療など、人道主義的な措置を取ってくれたことについてありがたく思い、家族をはじめとした多くの人々の関心と努力があったので今まで教化所生活に耐えることができた」と語っている。

    北朝鮮は、このところ対米攻撃宣伝のレベルを高めている。例えば、7月27日に開催された「朝鮮人民軍陸軍、海軍、航空及び反航空軍、戦略軍将兵たちの決起大会」で黄炳瑞が「もし米帝が核航空母艦や核打撃手段をもって我々の自主権と生存権を威嚇するなら、我々人民軍隊は悪の総本山であるホワイトハウスとペンタゴンに向けて、太平洋上に展開する米帝の軍事基地と米国の大都市に向けて(複数の)核弾頭ロケットを発射することになる」(『労働新聞』、「백두산총대의 위력으로 전승의 7.27을 조국통일대업의 승리로 빛내여가자 조선인민군 륙군,해군,항공 및 반항공군,전략군 장병들의 결의대회 진행」、http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2014-07-28-0006&chAction=S)と演説している。しかし、「朝鮮中央TV」で放送された「録画実況」を見ていると「ホワイトハウスに向けて」とだけ言っており、「ペンタゴン」と言ったと思われる部分はカットされている。

    「朝鮮人民軍陸軍、海軍、航空及び反航空軍、戦略軍将兵たちの決起大会」で演説する黄炳瑞
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    Source: KCTV, 2014/07/28放送

    また、朝鮮人民軍戦略ロケット軍司令官、金ラクギョン上将の演説でも「ホワイトハウスとペンタゴンに向け」と「太平洋上の米軍軍事基地に向け」の間がやはりカットされている。

    演説をする朝鮮人民軍戦力ロケット軍司令官、金ラクギョン上将
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    Source: KCTV, 2014/07/28放送

    両者の演説原稿に入っていた「核攻撃目標」が共にカットされているのは興味深い。黄炳瑞演説で「ペンタゴン」がカットされ、金ラクギョン演説でカットされていないのは、前者の演説音声をペンタゴンまでカットしないと上手く続けることができなかったからであろう。すると、「ペンタゴン」と「太平洋上に展開する米帝の基地」に何かまずい「語句」が入っていたということになる。可能性としては「南朝鮮にある米帝の基地」と「日本にある米帝の基地」があり得るが、「日本にある米帝の基地をはじめとした、太平洋上に展開する米帝の基地」と言っていた可能性が高い。というのは、昨年、日朝関係に動きが見られなかった時期には「日本にある米帝の基地」も含まれていたからである。もし、この部分が北朝鮮の「報道」でカットされているのならば、明らかに日本に対する配慮である。

    このように米国を軍事的レトリックで刺激する一方で、上記のようにペ・ジュンホを使って米国の世論に揺さぶりを掛ける戦術にも出ているようだ。

    『朝鮮新報』に掲載されたインタビューについては、7月31日の米国務省定例記者会見でも質問として出され、米国務省報道官は30日にペ・ジュンホの家族と国務省担当者が接触をしたと語った。

    また、昨今の日朝交渉の進展について記者が「日本の北朝鮮との二国間人道問題に関する交渉において、進展の可能性が見えているなか、米国は対北朝鮮政策で何の進展もみせていない非難されているが、そろそろ動き出す時期ではないのか」と質問したのに対し、報道官は「確かにそうではあるが、答えるのが難しい質問だ」と答えている。これまでは、「ボールは北朝鮮の側にある」と「戦略的忍耐政策」を続ける意向を繰り返し示してきたが、今回はこの言葉は出さなかった。記者は、「昨日、グリン・デイビスとボブ・キングが米下院で北朝鮮政策で何の成果も上げていないと責められたが」とも質問しているので、オバマ政権が主として国内的な要因により「戦略的忍耐」から「積極政策」への転換を模索しているのかもしれない。いずれにせよ、ロシアと中東で手一杯のオバマ政権は、これ以上のトラブルを好ましくないと考えているはずである。

    U.S. Department of State, Daily Press Briefing, http://www.state.gov/r/pa/prs/dpb/2014/07/230071.htm#NORTHKOREA

    「米国は在米同胞の離散家族、親戚訪問問題を反共和国謀略騒動に利用してはならない-朝鮮民主主義人民用和国赤十字会中央委員会スポークスマン談話-」:米下院が「北朝鮮制裁執行法」強化版を採択、在日朝鮮人の「人道往来」に言及、総連の高徳羽委員長訪朝のことなのか? (2014年7月31日 「朝鮮中央TV」)

    米国下院が「H.R. 1771」、いわゆる「2013年北朝鮮制裁執行法」の強化版を通過させ、「離散家族訪問法修正案」を加えたことに対する反発として、北朝鮮の「赤十字会中央委員会」が「スポークスマン談話」を出した。

    NK.NEWS.ORG, "U.S. House of Representatives passes North Korea sanctions bill
    Bill enhancing sanctions enforcement on North Korea unanimously adopted by Congress", http://www.nknews.org/2014/07/u-s-house-of-representatives-passes-north-korea-sanctions-bill/

    要は、「離散家族が訪問しなければならないという分断状況を作り出したのも米国だし、訪問を妨害しているのも米国であり、北朝鮮は離散家族の訪問を人道的見地からいつでも歓迎している」という内容である。

    これだけであれば、記事にするほどの内容ではないが、この中で「最近、米国は朝日政府間の会談の結果にともない進められている在日本朝鮮人たちの祖国往来問題をはじめとした人道主義的事業が進展しないように日本政府に圧力をかけ、色々な方面から妨害している」と言っている点が注目される。

    確かに、米国は「透明性のある形で」という表現を使いながら、日本独自の対北朝鮮制裁を一部解除したことに対して警戒感を表している。その背景では、日本政府に対して、陰に陽に「圧力をかけ」ていることもあり得よう。しかし、ポイントはそこにあるのではなく、「朝日政府間会談結果にともない進められている在日本朝鮮人たちの祖国往来」である。在日朝鮮人の多くは、制裁一部解除が成される前も「祖国往来」をしていた。過去記事にも書いたとおり、出入国時の税関検査が厳しく行われたなどの特殊事情はあったようだが、「祖国往来」ができなかったわけではない。「朝日政府間会談の結果にともない」訪朝が可能になったのは、総連幹部である。日本のメディアは、高徳羽総連委員長が7月下旬に北朝鮮を訪問した(している)と報じている。

    『読売新聞』、「朝鮮総連幹部が訪朝…制裁解除後初めて」、http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140731-00050103-yom-soci

    北朝鮮メディアは、「総連朝鮮大学校学生祖国訪問団が31日に平壌に到着した」と報じているが、高徳羽委員長が訪問したという報道はない。上記『読売新聞』報道では、「今月(7月)末」ということなので、同委員長が「学生祖国訪問団」に同行した可能性が高い。学生訪問団は、今日(8月1日)にも「銅像」参拝にいくはずなので、その時に高徳羽委員長の姿が見られるのか、あるいは彼だけ別に参拝するのかに注目する必要がある。

    高徳羽訪朝が、「朝日政府間会談」の成果であるとするならば、彼の訪朝をもっと宣伝してもよさそうなものだが、これからするのか、秘密にしておく予定だったのかは分からない。もしかすると、朝鮮人民に対して高徳羽訪朝は金正恩政権の対日外交の成果とはならないと考えているのかもしれない。金正恩政権の当面する最大の対日外交成果は、何回も書いてきたように「総連本部ビル問題」と「万景峰号問題」である。恐らく、北朝鮮当局は高徳羽委員長からこの問題について色々と聞き出し、一方で彼に対応策を指示するのであろう。その結果として、彼の訪朝を公開するのかどうかが見物である。
    プロフィール

    川口智彦

    Author:川口智彦
    「크는 아바이(成長するオッサン)」

    ブログの基本用語:
    「元帥様」=金正恩朝鮮労働党委員長(上の絵の人物)、2016年12月20日から「最高領導者同志」とも呼ばれる
    2021年1月11日から「総秘書同志」
    「首領様」=金日成主席
    「将軍様」=金正日総書記
    「政治局員候補」=金ヨジョン(「元帥様」の妹)、2018年2月11日から「第1副部長同志」とも
    「白頭の血統」=金一族
    「大元帥様達」=「首領様」と「将軍様」
    「女史」=李雪主夫人(2018.07.26より「同志」に)

    우 그림은 충정 담아 아이가 그린 경애하는 김정은원수님이십니다.


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