以前、「20時報道」の中で紹介された地方都市の「自動車安全技術検査場」を紹介したが、今回は「自動車安全技術検査場」だけを扱う番組があった。
http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2012-07-21-16.flv
基本的には、「20時報道」で紹介された設備と同じであるが、今回はそれぞれの設備や使用法について、細かく紹介されている。番組ではまず、「最先端社会に向けて発展する中・・・・自動車運行に対する要求はいっそう高まっている」とし、全ての自動車の安全技術状態を正確に検査することの重要性を述べている。
下の写真に見られるように、日本と比較すれば、自動車がいないに等しいが、北朝鮮ではこれでも自動車が増えているのであろう。断片的な映像だけなので分からないが、私が2010年に訪朝したときよりも、いろいろな動画の道の様子を見ていると、自動車は増えているようである。また、2010年に訪朝したときは、信号機が設置された直後であったようで、案内員ドンムと運転手ドンムは、信号で止められることに「こんな所に信号なんていらないのに」いらいらしていた。北朝鮮の自動車台数ぐらいでは、臨機応変に交通の流れをコントロールする女性警察官の手信号の方が有効なのかもしれない。ちなみに、新たに導入された信号機のライトには、LEDが使用されており、50年前の技術を多くの部分でそのまま使っている北朝鮮という国とLED信号という実に不釣り合いな組み合わせを感じた。中国もそうであるが、経済学でいう「後発性の利益」とは、まさにこれだと思った。

Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2012-07-21-16.flv
検査を実施しているのは、「中央機関車両監督署」のようである。この部署は、「中央機関が所有する車両を監督するところ」なのか、「中央機関が人民が所有する車両を監督するところ」なのかは分からないが、北朝鮮では、恐らく、個人が乗っている車も一旦は中央機関の車両として登録され、それを公務用に使用することを前提に貸与する形を取っているのであろうから、前者ではないだろうか。
「中央機関車両監督署」

Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2012-07-21-16.flv
この「検査場」の処理能力は、1時間当たり8台、1日当たり74台というので、1日9時間ぐらい稼働しているということであろうか。番組では、「これからもこのような検査場を増やしていく」といっているので、「ハンマーで叩いたり、目視検査を行っている検査場」が他にもあるにせよ、平壌市内の車の検査はほぼこの処理能力で足りているということなのだろうか。
検査場に入る車

Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2012-07-21-16.flv
では、この検査場ではどのような項目の検査を行っているのだろうか。
排気ガス放出量検査装置

Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2012-07-21-16.flv
まず、排ガス検査を行っている。「20時報道」では分からなかったが、ディーゼル車用とガソリン車用の検査装置をそれぞれ備えている。左がガソリン車用、右がディーゼル車用である。
速度計器検査(左)、前照灯検査(右)

Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2012-07-21-16.flv
「20時報道」を見たときは、速度が40km/hに達したときに押す「遠隔鍵」がなんだか分からず、日本のようにパッシングをするのかと思ったが、今回は「遠隔鍵」なるものが映っている。なんと小型のリモコンであった。
スピードメーター検査用の「遠隔鍵」

Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2012-07-21-16.flv
クラクション検査

Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2012-07-21-16.flv
日本の検査場では、クラクションをどのように検査していたのか記憶が定かではないが(また、来年ユーザー車検を受けるというのに・・・)、鳴るか鳴らないのかだけを調べていたような記憶がある。北朝鮮では、マイクで音を拾い、その音量を何デシベルという形で検査しているので、こちらの方が「ハイテク」である。
クラクションの音量表示、検査結果の○は合格

Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2012-07-21-16.flv
しかし、「水曜日」を「수요일」とせずに「Wed」としたままなのは、「主体」的でも「自主」的でもない。ソフトの僅かな手直しでどうにでもなるはずなので、手直しをした方が良いと思うのだが・・・globalization、国際化か?
前照灯検査の結果。左側ライトは合格、右側ライトは「合格に近い」(要調整?)

Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2012-07-21-16.flv
予備車検場などありようもないので、その場で調整再検査ということか。こちらは、「Wed」が表示されておらず「自主」的になっている。表示されている日付からして、半年以上経っているのでその間に修正されたのかもしれない。
サイドスリップ検査とブレーキ検査

Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2012-07-21-16.flv
こうして検査された結果はプリントアウトして渡される。

Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2012-07-21-16.flv
検査官が使うキーボードに注目して欲しい。このキーボード、韓国で使われているようなハングルキーボードではなく、英文キーボードだ。北朝鮮国内でキーボードを生産しているはずもなく、また一時は輸入していたかもしれないが、今はストップしているはずだから韓国からの輸入もないので、中国からの輸入であろうが、中国のキーボードはピンイン入力なのでこのように英文表示だけなのだろうか。中国の大学でPCを借りたことがあるが、忘れてしまった。
「英文」キーボードで入力する検査官

Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2012-07-21-16.flv
番組の終わりでは、検査を受けた人が「科学的な安全技術検査を受けることができて安心した」というようなことを言っているので、これは、日本の車検のように自動車の運行を続けるための義務的な検査ではなく、任意的な検査なのであろうか。この検査を義務化すれば、北朝鮮で走っている車、特にトラックは不合格となる可能性が高い。というのは、それこそ50年前の技術で作られたようなトラックが平壌市内を未だに走っているからである。乗用車に関しては、この番組に登場するような「平和自動車」製や日本から持ち込んだ中古車、党や軍の幹部が乗っていると思われるベンツやBMWが走っている(中国製については、そもそもmade in Chinaの自動車についての知見がないので分からない)ので、それなりの整備をすれば検査には合格するであろう。
こうした検査場も実用というよりは、「強盛朝鮮」へ向けての一つの取り組みといえるであろう。