<追記>
下記記事で使った動画に日本語字幕を付けてアップロードしておいた。
Soruce: KCTV, 2016/08/16
****************
16日、「朝鮮中央TV」でネットTV端末「マンバン」を詳しく紹介する番組を放送された。

Source: KCTV, 2016/08/16
「マンバン(만방)」は漢字語だと思うが、「様々な場所」を意味する「萬方」の朝鮮文字表記であろう。
形が過去記事で紹介したデジタル放送をアナログに変換するコンバーターと似ているので、同じものかと思ったが、後述するように機能も作っている企業も異なるので、別物であろう。「マンバン」は、「マンバン情報技術普及所」により開発されたと紹介している。

Source: KCTV, 2016/08/16
「マンバンは、国家網に加入した機関、企業所、家庭で、毎日放送される放送中の番組、つまり中央テレビ放送やヨンナム山放送、体育放送、万寿台放送、そして、音声放送を視聴・聴取できるだけではなく、既に放送された各種番組(編集物)も視聴者の要求に応じて、見ることができる双方向通信技術に基づいた情報通信機材です」と説明する「マンバン場技術普及所 所長 金ジョンミン」

Source: KCTV, 2016/08/16
要するに「マンバン」はネットテレビを見るための端末ということである。
続けて、設置方法について説明をするが、北朝鮮のインターネット状況の一端が垣間見えて興味深い。番組で紹介する設置方法は以下のとおりである。
1.まず、電話線に高速モデムを連結し、「マンバン閲覧機」を国家網と連結します。
2.次に、「マンバン閲覧機」とテレビをHDMIケーブルで繋ぎます。
3.そして電源を繋いで起動すれば、設置は終わりです。

興味深いのは、1の「電話線に高速モデムを連結し」と言っている部分である。光回線が北朝鮮で普及しているとは考えられないので、ここで言う「高速モデム」はADSLを指しているのであろう。また、テレビとの接続はアナログではなくHDMIと言っているとことからして、このシステムを使えるのは比較的新しい液晶テレビを持っている人に限られるということであろう。アナログ接続だと、解像度の関係で、使えないのかもしれない。
「マンバン」の起動直後の画面。アイコンが5つあり、左から「国家網接続」、「応用プログラム」、「実時間放送」、「マンバン」、「高速モデム接続」となっている。「応用プログラム」のアイコンは、Windowsに似ている。「実時間放送」がストリーミング、「マンバン」がサーバーに保存されている過去の番組。

Source: KCTV, 2016/08/16
「実時間放送」をクリックすると、「朝鮮中央TV」、「万寿台TV」、「リョンナム山TV」、「体育TV」、「中央放送」が出てくる。「中央放送」というのは、ラジオ放送であろう。

Source: KCTV, 2016/08/16
「リョンナム山TV」をクリックしたときの画面。初めて見たが(羊角島ホテルで見たかもしれないが、記憶はない)、ウォーターマークが右にある。

Source: KCTV, 2016/08/16
「マンバン」をクリックすると「ニュース」画面が出る。赤が「革命領導報道」、緑が「回顧録『時代と共に』」、朱色が「主体思想学習」、紫が「労働新聞」、青が「朝鮮中央通信」となっている。意外だったのは、朝鮮人民が「朝鮮中央通信」を読めることである。過去記事にも書いたが、「朝鮮中央通信」には対外報道が掲載されており、『労働新聞』に掲載されない報道も含まれているので、一般の朝鮮人民は見られないと思っていた。

Source: KCTV, 2016/08/16
「朝鮮中央通信」の画面が見たかったが、番組では「労働新聞」の画面を見せている。外国で見られる「労働新聞」サイトとはデザインが異なるが、この日(8月2日)の報道項目が並んでいる。

Source: KCTV, 2016/08/16
記事の中身を見ると、下のような画面になる。「主体105(2016) 8月4日」の「敬愛する金正恩同志の指導のもと、朝鮮人民軍第3回呉仲洽7連隊称号戦取運動熱誠者大会が開催された」の記事である。右上端に「労働新聞」のurlがないのと、使われているフォントが太く見えること以外は、日本で見る「労働新聞」HPと同じである。

Source: KCTV, 2016/08/16
「マンバン」の次のページには「テレビジョン編集物」があり、チョンリマの絵がある「実時間放送」、青「朝鮮中央TV」、緑「ヨンナムやまTV]、紫「体育TV」、「オレンジ「万寿台TV」、黄色「人気編集物」というボタンがある。「実時間放送」は、スタート画面からも、この画面からも見られるようになっているようだ。

Source: KCTV, 2016/08/16
過去1週間分番組については、曜日と時間順に並べられている。

Source: KCTV, 2016/08/16
また、それ以前に方された番組は、番組の種類別に並べられておりいる。茶色の部分の上から、「朝鮮記録映画」、「朝鮮芸術映画」、「児童映画」、「漫画映画」・・・など。

Source: KCTV, 2016/08/16
「人気編集物」には、視聴回数が多い順に番組が表示されるようになっている。1位から、「鉄の家の追憶」、「映画村」、「東海の名勝を訪ねて」、「歴史が記憶する信念の生き様」、「ロシアの地に響き渡った親善の歌」、「ルンラ・イルカ館に溢れる幸福の笑いの花」、「民族の遺産『アリラン』」、「ベク・クムサン英雄小隊足跡を辿って」、「白衣民族の足跡を辿る」、「スキーブームの中でさらに賑わうマシンリョン」、「生命を威嚇する特等『嗜好品』」、「戦勝のエピソードを祖国の歴史に末永く残して下さり」ととなっている。
やはり、朝鮮人民も赤いスクリーンで始まる「絶世偉人」の「偉人伝」よりも、ドキュメンタリー的な番組が好きなようである。また、私が、何となくおもしろいと思いYouTubeに日本語字幕を付けてアップロードしておいた動画のいくつかが、これらのリストに含まれていることからすると、朝鮮人民にとっても、これらの番組がおもしろく、内容的で新鮮であったということなのかもしれない。
12位の「戦勝のエピソードを・・・」は、いずれかの「偉人」の話だと思うが、「朝鮮中央TV」で放送された番組ではないようで、韓国・統一部のDBやuriminzokkiriに収録されている動画の中にはない。

Source: KCTV, 2016/08/16
「映画」というページを見ると、赤「朝鮮記録映画」(「偉大な首領様達と敬愛する元帥様が、祖国と革命、時代と歴史の前に不滅の貢献をされた不滅のエピソードが収録されている」)、緑「朝鮮記録映画」(「祖国の誇らしい姿を歴史的に記録したもの」)、紫「テレビ劇」、黄色「外国映画」、青「朝鮮芸術映画」、水色「児童映画」、紫「外国漫画映画」となっている。「外国漫画映画」は、「朝鮮中央TV」では放送されていないので、「リョンナム山TV」の番組だと思われる。

Source: KCTV, 2016/08/16
「元帥様」が「ムンス・ウォターパーク」を指導した「記録映画」は、緑の「朝鮮記録映画」に分類されている。「朝鮮中央TV」のウォーターマークがあるべき位置に「マンバン」マークが入っているので、放送された番組をそのまま収録してはいないないようだ。

Source: KCTV, 2016/08/16
その他の項目として、
「科学」:「科学映画」、「特集」、「常識」、「科学技術常識」、「科学技術短信」、「外国語学習(英語)」、「外国語学習(ロシア語)」がある。「科学技術短信」以下は、「朝鮮中央TV」の番組ではない。また、外国語学習でこの他の語種が準備されているのかは分からないが、英語の次にロシア語が来ているのは、歴史的な経緯なのか、なんともおもしろい。

Source: KCTV, 2016/08/16
「体育」:「サッカー」、「バレーボール」、「バレーボール」、「テニス」、「卓球」、「その他」、「特集」、「常識」となっている。「バレーボール」が意外だった。

Source: KCTV, 2016/08/16
「芸術公演」:「文芸物」、「画面音楽」、「公演」、「サーカス」、「画面伴奏音楽(カラオケ)」。

Source: KCTV, 2016/08/16
「特集、常識」:「軍事」、「歴史」、「世界旅行」、「動物の世界」、「料理」、「その他」。「世界旅行」などは、朝鮮人民にとっては、興味深い内容なのだろう。「ディスカバリーチャンネル」か何かの映像を使っているんだろうか。「朝鮮中央TV」で放送される、「動物の世界」系の番組では、「アニマルプラネット」らしき映像がしばしば見られる。

Source: KCTV, 2016/08/16
「マンバン閲覧機」では、番組を検索することもできる。分類別検索、ワード検索ができるという。

Source: KCTV, 2016/08/16
話には聞いていたが、韓国のキーボードとキー配列が異なる。下はWindowsに標準添付されている韓国語IMEのキーボード。

取材陣は、「サーバーから遠く離れたところでも、テレビは見ることができるのか」と質問をする。所長は、「遠くの視聴者に会えば分かる」と応じ、取材陣は、新義州(「マンバン閲覧機の需要が特に高い」とナレーション)などを訪問する。
「平安北道情報通信局」の奉仕員は、「新義州には、マンバン閲覧機を使っている視聴者が数百人もいる。日々、その数はだんだん増えている」と述べたとナレーション。「数百人」という数をどう考えるべきかということはあるが、これから少しずつ増えるのだろう。いずれにせよ、ADSL回線と液晶テレビが普及しない限り、「マンバン閲覧機」は使えない。

Source: KCTV, 2016/08/16
「マンバン閲覧機」の外箱。アンテナに関す紹介はなかったが、ただの飾りなのだろうか。

Source: KCTV, 2016/08/16
と、見ていたら、閲覧機の背面にはアナログ出力端子も出ている。アナログテレビで見られるのだろうか。背面の端子配列は、デジアナコンバータと非常に似ている。同じ筐体を使っているのかもしれない。

Source: KCTV, 2016/08/16
取材陣は、「マンバン閲覧機」が設置されたサリウォン市や平壌市の家庭を訪問してインタビューするが、市民は、口を揃えたように「見過ごした番組をいつでも見られるようになった」と評価している。北朝鮮では、ビデオテープレコーダーの普及はなく、中国をはじめとした途上国がそうであったようにVCDが普及したものと思われる。現在は、それがDVDとなっているはずであるが、いずれにせよ「録画」ということはできなかったはずだ。
90年代初め、企業調査のためにCDVプレーヤーを作る中国にある日系大手電機メーカーを調査したことがある。中国の工場では、ビデオレコーダーの製造は少なく、CDVプレーヤーが主力製品とのことであったが、その理由を「中国のテレビ番組には、録画してみるほどのものがないので、中国人のビデオレコーダーに対する需要は低い」と言っていた。日本の場合、複数のチャンネルで1日中色々な番組を放送しているので、留守録や裏録のためにビデオレコーダーを購入する人がたくさんいたが、中国ではその必要がないので、ビデオレコーダーは売れず、その代わりに大量に流通しているCDVを見るためにCDVプレーヤーが売れていたという話である。
北朝鮮の場合、「モラン本楽団公演」や「朝鮮芸術映画」など、官営放送で放送された番組はCDVやDVDとして流通している。羅先のDVDショップには、この他に中国やロシアの古い映画のDVDなども置かれていた。選択の余地が少ない朝鮮人民にとっては、こうしたDVDやCDVか、放送中のテレビ番組しかなかったということになる。したがって、日本人がビデオレコーダーで実現したような、留守録や裏録と同様の機能を持つ「マンバン閲覧機」の人気が出る理由は分かる。
見たいような番組がなくても、それしか見られないのが朝鮮人民であるが、それでも上の「人気番組ランキング」で見たように、日本人の私が見てもおもしろい(もちろん、観点は異なるが)と思うような、番組が最近、増えてきている。
「元帥様」がおもしろい番組をたくさん制作させれば、人民は喜ぶであろうが、「元帥様」に心配の種があるとすれば、「マンバン閲覧機」の普及により、朝鮮人民が赤いスクリーンで始まる「偉人」系の番組をスキップしてしまう可能性である。このあたり、しっかりとサーバーで記録を取っていて、「偉人」系番組を見ない不心得者からは、「マンバン閲覧機」を没収してしまうのかもしれない。
現段階では、「マンバン閲覧機」を使ってテレビを楽しめる階層はごく一部のエリート層であろうが、新義州の「奉仕員」が言っているように、徐々に増加していくのであろう。北朝鮮では、ケーブルを使った「第2放送」が普及しているので、このインフラを活用すれば、ADSLではなく光ケーブルでの配信もできるのではないかと考えてしまう。
放送からuriminzokkiriに動画が掲載されるまでに時間が短縮され(早い場合は、数時間後)、動画の質が向上しているのも「マンバン閲覧機」と無関係ではなかろう。「マンバン閲覧機」は、andoroid端末のはずなので、WindowsのPCでも同じことができるはずである。「マンバン閲覧機」よりもネットに接続されたPCは多いはずなので、PCで使えるアプリケーションも存在するのか、あるいは開発中なのであろう。
番組の終わりの方で、アンテナから電波が出ているような場面があるが、ケーブルで接続することなく、ワイアレスで映像と音声を送信できるのであれば、古いアナログテレビも使えて、なかなか凄いのかもしれないが。

Source: KCTV, 2016/08/16