何人かの方が、コメントでモランボン楽団公演が昨夜放送されたという情報を教えてくださった。残念ながら、昨夜は録画状態が悪く、その放送は見ることができなかった。uriminzokkiriにも「4月の春、親善芸術祝典」の方はアップロードされているが、モランボン公演はなかった。
北朝鮮の「国防委員会検閲団」が発表した「無人機事件の『北の仕業』説は徹頭徹尾『天安』号事件のコピー版」なる長文の「公式報道」がなかなか面白かったので、それに関する記事を書きつつ、ミュートして昼頃から流れ出した「朝鮮中央TV」を見ていた。すると、3時頃から表記タイトルの番組の再放送が始まった。韓国・統一部のHPで昨夜の放送スケジュールを調べたところ、この番組は21時30分から22時37分にかけて放送されている。したがって、これは再放送ということになる。

Source: KCTV, 2014/04/16放送
両江道におけるモランボン楽団の公演については、「20時報道」で使われた映像を使用しながら別記事で既に紹介したが、今回は「録画実況」ということでフルバージョンである。演奏された曲目は16曲で、大紅湍を訪れた金正日を歌う「大紅湍は暮らしやすい故郷です」や「大紅湍三千里」など少し古い曲から最新の「白頭の馬蹄の音」まで様々な曲が披露された。
番組の冒頭で驚いたのは、曲名紹介の後に歌手の名前を紹介したことである。これまでのモランボン公演をくまなく調べてはいないが、曲名だけで歌手名は出さないケースが多かったと思う。最初に登場したのが、チョン・スヒャンである。
背景にいるのはチョンではないが、この名前が出た後で

Source: KCTV, 2014/04/16放送
チョンが登場して「希望に満ち溢れた我が祖国よ」を独唱する。

Source: KCTV, 2014/04/16放送
モランボン楽団の歌手の顔が皆同じに見えてしまう私にとっては、名前を出してくれるのはとても有り難い。
続けて、金ソルミが歌う「大紅湍は暮らしよい故郷」など6曲が入った後、7曲目で粛清説が出ていたらリュ・ジナがチョン・スヒャンと歌う「私たちの元帥様」が演奏された。
「チャン・スヒャン リュ・ジナ」

Source: KCTV, 2014/04/16放送

Source: KCTV, 2014/04/16放送
リュ・ジナは以前の写真と比べると、髪の毛をかなり短く刈り上げている。他のモランボンメンバーもショートであるが、リュほど刈り上げている人はいない。
リュ・ジナの粛清説の出所がどこかと気になり調べてみたところ、どうやら米国政府の資金提供で運営されているRFA(Radio Free Asia)のようだ。
RFA HP,「북, 연예인들 숙청 바람」、http://www.rfa.org/korean/in_focus/purge-02122014092316.html
「北、芸能人たち粛清の嵐」というタイトルのこの記事(番組)では、北朝鮮を往来する「消息通」の言葉を引用しながら「張成沢の側近と分類された北朝鮮の芸能人40名あまりが、清津市『スソン教化所』に収監されたことが分かった。収監者の中には『モランボン楽団』の功勲俳優リュ・ジナと『朝鮮芸術映画撮影所』人民俳優李イクスンも含まれている」と伝えている。
どうも張成沢処刑の印象が強すぎるのか、北朝鮮で「粛清」というとイコール「処刑」というふうに思われがちだが、処刑に至らずも収容所送りなるケースも多いはずである。
上でリュ・ジナの髪型に拘ったのは、もしかすると本当に一度収監され、その後釈放された可能性を考えたからである。収監時に断髪されたので、あのような刈り上げスタイルになってしまったのではないかということであるが、単なるファッションということもあり、何ともいえない。しかし、他のメンバーよりも明らかに短いということは、やはり何かを暗示しているのではないかと思えてならない。
リュ・ジナはその後、羅ユミと共に「輝け正日峰」を歌い、5名で歌う「人民の歓喜」、6名全員で歌う最後の2曲、「我々はあなたしか知らない」、「人民は一心団結」を歌っている。6人目の歌手が誰なのかは分からないが、他の歌手と比べると、リュ・ジナが歌う曲は放送された公演の中では少ない。これまでの公演とのクロスチェックはしていないが、今回特に少なくなっているとすれば、何らか懲罰的な意味合いが含まれている可能性はある。
チョン:8曲、金:6曲、朴:6曲、羅:4曲、リュ:3曲
ともあれ、歌手の名前のテロップを出した上で、クライマックスに向かって歌手を5人、6人と増やしていくところなど、この番組は、これまでさりげなく「20時報道」で見せてきたモランボン楽団の復活をはっきりと見せつけるところにも目的があったはずである。
これは、「人間の屑である」脱北者情報や「消息筋」情報がいかに当てにならないものであるかということを証明し、さらに米国務省や国連人権委員会が「人権報告書」で北朝鮮の人権状況を非難していることに対し、「粛清」の噂や「強制収容所」への大量収監は事実ではないということを間接的に証明しようとしているのであろう。
抗日パルチザンスタイルではあるが、金正恩が人民軍将兵と観覧したリーダーのソヌ・ヒャンヒやリュ・ジナ抜きの公演と比べるとモランボンらしさが戻ってきており、特にソヌ・ヒャンヒのバイオリン独奏曲「魅惑と敬慕」はとても素晴らしい演奏であった。また、インストルメントで紹介された新曲「白頭の馬蹄の音」もモランボンらしい楽曲である。
<追記>
何人かの方からコメントを頂いた。非常に重要なコメントだったので、記事の方に追記することでお返事と代えさせていただくことにした。
まず、4月15日に放送されたモランボン公演であるが、上に書いたように16日の「大紅湍郡文化会館にて」ではなく「三池淵郡文化会館にて」であった。韓国・北韓情報センターHPを一応見たのだが、「モランボン」だけを見て勝手に再放送と決めつけていた。また、昨夜の「明日の放送順序」では、今日(17日)は「両江道芸術劇場公演」の放送が予定されているという情報も頂いた。
YouTubeに15日に放送された「三池淵郡文化会館にて」がアップロードされているという情報を頂き、そちらもざっと見た。曲目や歌手は同じであるが、最後の曲「人民は一心団結」の曲目テロップが出ていない。単なる出し忘れであろう。
大紅湍郡公演の最終曲「人民は一心団結」

Source: KCTV, 2014/04/16放送
三池淵郡公演、上記と同じ曲の同じ部分のキャプチャー

Source: KCTV, YouTube
また、歌手名のテロップについても以前からあるというご指摘をいただき、これまでの公演の映像をいくつかピックアップして眺めてみた。
例えば、2013年1月1日の講演では、下のように曲目の後に歌手名が書かれていた。

Source: KCTV, 2013/01/01
しかし、2013年10月10日の労働党創建68周年を記念して行われた公演の模様では、独唱の場合でも歌手名はテロップに出てこない。

Source: KCTV, 2013/10/10
歌手名をテロップに出すことに何か基準があるのかどうかは分からないが、やはり今回名前を出すことには粛清説払拭という意図があったのではないかと思う。上部の電光板に名前が出ることがあるのは気付いていたが、会場の聴衆向けであり、テレビ視聴者向けではなかった。
もう一つ思ったことは、曲の編成である。最後の3曲を除いては、独唱であったり少数の歌手で歌う曲が続いている。全員(あるいは多数)登場する場合は名前を出さないという原則があるとすると、名前が出せる少数をまず登場させ、最後でフルメンバーを強調するために6人にしたという編成とも考えられる。
名前の表示を確認するために過去公演の動画を見ていたら、2012年党創建記念日に際して行われた公演の中に参考になる映像があった。当時は、単なるメンバー紹介の演出だと流していたが、今回のような事態になるとこうしたメンバー紹介は有り難い。過去記事で問題にしたパンフレットは、基本的にこの演出と同じなのであろう。以下、画面に登場する順番に見ていくと、
ソヌ・ヒャンヒ

Source: KCTV, 2012/10/10
フン・スギョン、チャ・ヨンミ

Source: KCTV, 2012/10/10
ユ・ウンギョン

Source: KCTV, 2012/10/10
金ヒャンスン、李フィギョン

Source: KCTV, 2012/10/10
崔ギョンイル、金インミ

Source: KCTV, 2012/10/10
李ユンフィ

Source: KCTV, 2012/10/10
チャン・ソンフィ、李ソルラン (誤読の可能性あり)

Source: KCTV, 2012/10/10
金ユギョン

Source: KCTV, 2012/10/10
金ソルミ、リュ・ジナ、朴ミギョン

Source: KCTV, 2012/10/10
チョン・スヒャン、朴ソンヒャン、李ミョンフィ

Source: KCTV, 2012/10/10
モランボン楽団のフルメンバー

Source: KCTV, 2012/10/10
となる。
2012年10月公演と「大紅湍公演」とを歌手について比較してみると、2012年10月の公演でトップで紹介された金ユギョンと朴ソンヒャン、李ミョンフィが今回はいない。それ以外の公演などとも比較したいのだが、私はモランボンの歌手の顔を見分けるのが実に苦手なので、名前のテロップが出ないと自信がない。そんな事情もあり、単純に今回の公演との比較になってしまうので、これまでの公演でも「声楽組」の中から歌手が入れ替わり立ち替わり出演していた可能性は十分にある。
「白頭の馬蹄の音」については、モランボンとしては新曲であるというコメントも頂いた。「日本の朝鮮学校演奏会などでは『白頭山の馬のひづめ』と紹介」されていたとのことであるが、「白頭の馬蹄の音」は私が勝手に翻訳したもので、北朝鮮の公式日本語訳ではないので、公式には朝鮮学校が使っているものが正しいのかもしれない。
<追記2>
予告されていたモランボン恵山市公演がキャンセルされたという情報を頂いた。私も同公演を期待して帰宅後直ぐにストリーミングを見だしたのだが、ちょうど在米朝鮮人ピアニストとオーケストラが共演する「朝鮮は一つ」が始まり、モランボン公演を忘れてそちらにはまってしまった。コメントにも書いたので繰り返しになるが、ピアノとオーケストラが奏でる「朝鮮は一つ」は私にとってはとても思い出深い。
「朝鮮は一つ」を演奏する在米朝鮮人ピアニスト

Source: KCTV, 2014/04/17放送
インターネットがない時代、普通の人は北朝鮮の官営メディアは中・短波放送で接することしかできなかった。40年ぐらい前のことであろうか、トリオ(現Kenwood)の9R59Dという短波受信機で「朝鮮中央放送」を聞いていた。当時は、朝鮮語が分かるわけでもなく、聞いていたのは日本語放送である。そしたら、昨夜、「朝鮮中央TV」で放送された「第29回、4月の春、親善芸術祝典-第6公演」の冒頭で演奏されたのと同じ「朝鮮は一つ」が流れていた。子供ながらに「良い曲だなぁ」と思い、「偉大なキミルソン(ママ)主席への賛辞」と共にこの曲のレコードが欲しいと手紙を出してみた。我が家では『朝日新聞』を当時購読していたのだが、周知の通り、同新聞では朴正煕政権の韓国は「人権弾圧の嵐」であるという記事で溢れていた。一方で、「朝鮮中央放送」では、毎日「偉大なキミルソン同志」の話ばかりで、子供の私は、よく知らないが、「キミルソン」という人は偉い人で、「南朝鮮のパッチョンヒぎゃくと(ママ)」は相当の悪者だと信じていた。その気持ちを手紙に綴ったのが受けたのか、「朝鮮中央放送」からは「朝鮮は一つが収録されたレコードはありませんが、別のレコードを送ります」という手紙と共に、分厚いレコードと金日成著作集の1冊が送られてきた。その後、数年間は、年末になるとカレンダーも送ってきた。著作集は研究室の本棚にまだ置いてあるが、レコードは行方不明になってしまった。
当時の状況を振り返ると、今日、朝鮮人民が指導者を本当に「偉大」であると信じている実態も理解できないわけではない。
そんなこともあり、「朝鮮は一つ」に聞き入ってしまったわけである。話をモランボン楽団に戻すと、同じ曲でも歌手が入れ替わっているとのことである。上にも書いたように、私は「誰が歌うか」についてはほとんど無頓着に同楽団を見ていたので、そのようなことがあることすら知らなかった。コメントを下さった方が、この点についてクロスチェックをされるとのことなので、是非ともその結果をご教授いただきたいものである。
ところで、なぜ昨夜はモランボン恵山公演をキャンセルし「親善芸術祝典」に切り替えたのであろうか。これまで、「放送順序」で予告された番組がキャンセルされ、別の番組に切り替えられる事例がどれほど発生しているのかは分からないが、同じようなモランボン楽団公演よりも「親善芸術祝典」の方がよいという判断だったのかもしれない。宣伝効果としても、国際的な金日成に対する「敬慕の情」やこうした音楽家を北朝鮮に呼ぶことができる金正恩の「国際性」をアピールすることができる。朝鮮人民にとっても、普段あまり触れることができない海外の楽曲を視聴する方が、連日同じモランボン楽団の曲を聞かされるよりも楽しいのかもしれない。
もしかすると、恵山モランボン公演に心待ちにしていたのは、我々のような海外愛好家だけだったのかもしれない。
<追記:放送中>
李ミョンヒも登場し、弦楽器はこれまでにない軍服パンツルック。抗日パルチザンのスカートからパワーアップ。空軍の革ジャンも初めてですね。さらに、バイオリンなどがアコスティックになったのか?マイクで音を拾っているように見えます。と思ったら、バイオリン演奏者たちも歌い出しました。噴水の小道具も登場。スカートもパルチザンスタイルのプリーツと両方ですね。金正恩幼少時代の軍服写真、合成写真のよう。ボーカル8名、凄い迫力です。放送時間も1時間半を超えて、モランボン完全復帰+αか。