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    「2007年南北頂上会談会議録 全文」:日本語訳出3、経済協力問題の議論、開城以外にも拡大するのか (2013年6月25日 「朝鮮日報」)

    金正日:北南経済協力問題については、私はこれから総理級会談や上級会談で実務的に解決しなければならないと思います。討論されて成熟させ解決して発展段階に出て行こうと思います。北南経済協力というのは、民族共同の利益と繁栄のための重要な事業となるということについては私も同感です。北南経済協力事業は、単純に経済取引ではなく、民族の和合と統一、繁栄に貢献する非常に崇高な事業であると考えます。

    我々民族同士の精神に基礎を置き、解決していかなければならないのですが、私は今日、大統領が(訳注:敬語)提案された問題について、私が一つ即席で考えたことは、新しい工団を作ろうという問題は未だに我が国が中国の地とかロシアの極東の地でもなく、小さな土地なので、そこで全て切り離して工団だけしようとすれば、我々がこれまで築いてきた民族自主経済は全て破壊され、市場経済に押され、主体工学がなくなるというこのような精神的な災難がもたらされる可能性があるので、未だに時期・・・なぜならば、開城工団について初期、鄭夢憲先生が来て提起し、私が同意してやった問題ですが、その時、鄭夢憲先生が私と2人だけで会談し、2人だけでご飯を食べながら、今後、民族として象徴となりえる、その夢憲先生が構想力が相当なもので、そのまま駄目でした。私が考えるところでは、開城工団がもっと早い道で進むこともできるのですが、また、南側で意志があれば、さらに早く進むのですが、そこに政治が関与し、周辺国家が関与し、私の意見はそれが繁栄することを嫌がる人たちが多くないのか。正直、生活を通して強く感じました。

    実例を挙げれば、裁縫屋1軒も開城工団に入ってくることが別にあり、許容されることが別にあり、一般経済社会に出て行くことが別にあり。したがって、今、そのような犠牲となることについては、もう少し開城から完成させ、両側が労力を傾け、完成をさせた後で一つの模範を創造した後でしなくては。

    今、手ぶらで出て行けば、宣言の報道文に報道されれば、我が人民は、恐らく開城のことを大きく期待していないと人々が、南側の人々に土地だけ貸してやったのではないか、こんなことも言い、政治的な対話に話のネタでも作ってやったのではないのか、我が人民はそのように考えています。

    未だに活性化されていない条件で新たな工団だけ作るというのは、荒唐無稽な話で、私の体面としてももっと要求すると言うことは・・・共同では駄目で南側の意向であれば意向であり、南側で(訳注:の)構想であれば南側の構想としてだけ報道されるというのが悪くないと思います。我々は、新たな工団ということは賛成することができません。開城がはっきりと各方面に示威できたならば別です。私はちょっと・・・

    金養建:製品自体も未だに認定をしていません。

    金正日:新しい工団ということは、南朝鮮の企業家に新しい仕事と新しい市場を広げてやることが助けになるという愚行をするならしたでしょ。実質的に我々にこれまで利害関係がありません。それは、同意することができません。我々の西海、海州もやると言うのだが。私が考えたことですが。これから討論してみると、総理級か上級で経済(訳注:を)扱う方々が、また考えてみて下さい。
    私は、未だに・・・開城ができるなら新義州、新義州も私が夢憲先生に話しました。新義州、して見ろと。元々、新義州は、そうなのですが、夢憲先生が新義州、ややこしくて大変だ、それから、そうならあなたの言葉、聞いてやるからどこだ、出してみろ、それで二番目の案、私が出したのが海州でした。
    その、電気というのが難しくて、原子力発電所、核発電所、そうでなければ大きな重油発電所、船が来て発電する海上発電所で一つ持ってこなければ、それ子供よりへそが大きいから(訳注:腹よりへそが大きいの誤用か。提灯より柄が太い、本末転倒の意)、それは大変だ。夢憲先生が反対しました。どこだ、あなた方はどこが良いのか。開城・・・それで私が三番目に承認したのが開城だ。それなのに、今になって海州という話が出たのだけど。我々は考えたこともなく、私が知っているのは新義州だけ、考えてみたのだけど。
    盧武鉉:はい、委員長が(訳注:敬語)今回、承諾なさらなくても、我々が待っています。ただし、この用の問題について我々がなぜそのような話をするのかという理由でも十分に説明差し上げ。それから、そのような対話が重要であると考えます。
    金正日:それは、我々の立場うです。それは私は・・・我々が・・

    盧武鉉:駄目なことは駄目なことと受け入れます。その代わり後で・・
    金正日:それから、軍事的側面で今日、大統領様(訳注:直訳)に(訳注:敬語)正直に話しますが・・・開城も軍事的に多くの譲歩をしたもので・・・開城は平和の象徴ということで、それは多く譲歩したのですが、海州は正直、私が国防委員会委員長として話します。海州は、軍事力が、アリが入って耐えることができないほど(訳注:アリも入れないほど)軍事力が集中した場所なので、だから私の話は、それをもししようというならば、今後、開城でどのような模範を見せ、実際、その程度のことを犠牲にしながらも公団を建設し、どのように民族繁栄に貢献できるかということが、我々が納得できたとき、その時は我々の開城、いや海州、くれといえば、その時はやらなければならいでしょうね。

    だから、今は軍隊がまず反対するでしょうし・・・今、開城、内閣と経済関係者に、恐らくまだ開城で味見もしていないくせに、何のために海州も出せと・・・我々の、では、自ずと軍隊は退かなければならないのと同じことなのに・・・恐らくやらないだろうと思います。
    盧武鉉:重要な問題のお話を全てなさったようなので、少しお話しなさった内容について私が釈明申し上げることがいくつか・・釈明と申し上げます。主張して、反論して、討論する考えはありません。釈明に値することを少し申し上げます。また、今、経済問題においては特区、このようなことは、もう受け入れることはできないと言われるのであれば、そのように我々も承知します。
    しかし、ただ、特区を受け取る、受け取らないという、そのような小さな問題を超え、大きく、今後、南北経済を共同で発展させていくため、相互に利益を目的とするために、どのような方向に行かなければならないのかについて委員長のお言葉も少し十分に聞きたく、私もまた、私たちの構想をお話申し上げたいです。
    鄭夢憲さんはとても立派な方ではありますが、しかし、我々政府で多くの人々が集まって協議しながら作った構想よりも優れているとするのは難しいと思います。したがって、そのようなことをお話し申し上げたく・・・だから、私の希望は、今、時間がたくさん残っていないようなので、委員長が(訳注:敬語)お話になったことについて主要な争点についていくつかお話し申し上げ、午後、時間を下さるのであれば、今後、我々があれこれの問題を解決していくことにおいて、お互いにどのような構想が必要であるのかということについて具体的な接近できればと思います。

    金養建:午後には、参観というのがあります。植樹があり・・・

    盧武鉉:参観はしばらくすれば良いことなので、委員長が(訳注:敬語)時間をお許し下されば・・・

    金正日:この会談をそのまま延長しようということですか。

    盧武鉉:はい?

    金養建:この会談をそのまま延長するということですか。

    盧武鉉:まあ、そうおっしゃっていただいても、委員長様(訳注:直訳)、別途会っても良いです。今、私が申し上げることで・・・。ともかく、残った時間では、もっと多くのことをお話し申し上げることができないようなので、午後に時間を少しお作りいただきたくて申し上げております。

    金養建:午後の日程は植樹があり、その次に3大革命展示館、重工業館参観があります。その次に、夕方に集団体操(訳注:マスゲーム)を見て・・・

    盧武鉉:一旦そのようにお話し申し上げ・・・・

    金正日:3大革命展示館の参観は、特別随行員でもすること・・・大統領が(訳注:敬語)が3大革命、何かご覧になっても良く・・・(笑い)、話をするのがもっと良いのであれば、良いと思います。さらに実務的な問題に我々が踏み込む必要はなく、実際、こうであればこれから上級会談や総理級会談を一つ新たに設定し、全てのことを討論する方が良いと思います。

    金養建:経済問題であれば、今後、総理会談をどうせ一回やらなければならないので・・・

    盧武鉉:それ、特定の議題の問題というよりも・・・ここまで来て、委員長とたった2時間だけ談話をし、帰れと仰っても良いのですか。(笑い)十分に雑談をしても委員長と時間をもっと持たなければなりません。したがって、様々な問題について背景とかこれまで我々が多くの紆余曲折を経ている過程で、我々なりに経験した苦痛もあり、また未来に対するビジョンもあり、やりませんか。会談の議題、かたい議題として全て消化できない話を少ししたいと思います。

    金正日:だから南側・・・私個人の考えは・・・私は、浅い考えかも知れませんが、その経済問題に限っては、今後、私が総理報告も話もしました。南側の人に今後、問題が討論されれば、サムソンであれ現代であれ大宇であれ・・・そうするな・・・財閥単位でやると、私が知っているとおりにはそうだ・・・。それが父が、その創業者がいるときは、我々が鄭夢憲、いや・・・鄭周永先生と創業者として私がとてもたくさん期待を持って事業をしたのですが・・・

    創業者である鄭周永先生もやはり実質的に自分が模範を見せ、一度やってみようと言ったのですが、やはり・・・私が経済幹部に話しました。南側は、経済体制が我々と違うから・・・何とかして全ての意見を出して合意ができれば、南側政府が出てきてやるということにしなければならないだろ・・・その企業単位でやったら・・・今回、考えてみて下さい、我々が現代一つやってみて・・・創業者が死んで次にその創業者の意図を継ごうとした人がまた死んで・・・今、現状は女史が1人いるのですが・・・金剛山を一つだけやっと維持しているのに・・・あれこれ計画したことは皆、潰れて・・・

    だから、南朝鮮の財力を全て集め、南朝鮮当局としてのそうした投資にならなければ駄目でしょ・・・投資であれば投資・・・協力であれば協力・・・我々がたくさん辛苦を味わったということです。こちらの人々は、全て企業単位でやろうというのですが、企業単位でやると、刻銘に彼らに時間提供し、彼らに労力提供し、仕事を与えることしかなく・・・実際我々、大きく所得・利得を得たものがないということです。だから・・・

    盧武鉉:企業、つまり現代が仕事をこのように受け、行っているこうした方式については、南側政府もそれが妥当な方法であると考えてはいません。既に、そのような合意をなさって、そうなったので、南側政府は後ろ盾になってやっているだけで、我々が、そのようなことが良い方法だと考えている人はいません。そうお考えになって・・・様々な、言ってみれば、何が良くて、何が駄目なのかを我々も知ってこそ計画を上手く立てることができるのですが、今日・・・

    金正日:今後、そのような問題が上程されたら、総理級会談をやることにでもしなければなりませんね。我々が・・・私は経済は、まあ、やろうと思う・・・活性化させようという欲望だけで・・・軍隊は剣を手に持ち(訳注:握っている)・・・経済は金を持っていない・・・そのように承知すれば良いです。

    「敬愛する金正恩元帥様が慈江道の労働階級と共にモランボン楽団公演を観覧された 2013年6月23日」、「一つの心で従います」新しい称賛歌謡? (2013年6月27日 「朝鮮中央TV」)

    タイトルのような記録映画公開された。モランボン楽団の地方公演であるが、軍部隊を訪れて演奏して以来、今度で2度目だと思う。今回は体育館のような場所で公演を行っており、楽団員は白い軍服を着用し、大砲のような大道具が設置された朝鮮戦争開戦バージョンである。

    しかし、「砲兵の歌」で盛り上がり「労働階級」が金正恩さんの前の広いスペースで踊り出している。そして、「タンスメ」で絶頂に達しディスコのようになる。

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    Source: KCTV, 2013.6.27放送

    また、演奏者がステージを降りて踊っている人々の間を通り過ぎるという演出もある。この演奏者が使っているバイオリンは、音声をワイアレスで送信しているのであろうか。
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    Source: KCTV, 2013.6.27放送

    そして、「運命も未来も委ねた方」で公演は終わる。この後、金正恩さんは「歴史的な演説」をしているのだが、その部分はカットされている。この歴史的な演説は、手書きらしき折り目の付いた原稿を読んでいる写真が「労働新聞」で紹介されている。江界市にある工場の現地指導を紹介する「記録映画」では、演説をする様子こそ紹介されているが、彼の肉声は流されない。録音機器に詳しい方によると、PA用と思われるマイクの間に高級なデジタルレコーダーが設置されているという。

    この番組の直後に流された曲がまた興味深い。「新しく出た曲」として紹介はされていないので、以前からあったのかも知れないが、私は初めて聞く金正恩称賛ソングである。以下、歌詞を紹介しておく。

    「一つの心で従います」
    作詞・作曲:不明
    演奏:不明


    首領様を忘れられず 切ない胸に
    将軍様が懐かしく 燃える胸に
    千百倍の力を 抱かせてくださった
    信念の柱となってくださった
    ああ、人民が高く頂いた 偉大な金正恩同志
    敬い信じる心があふれ出します
    信じる心があふれ出します


    首領様が生涯 育てられた人民を
    将軍様が一生 大切にされた人民を
    熱く抱いて 守ってくださる
    愛と情を 全て与えてくださる
    ああ、人民が高く頂いた 偉大な金正恩同志
    敬い幸福が限りありません
    幸福が限りありません


    首領様の高い意を 空に刻み
    将軍様の意を 旗印と掲げ
    赤い旗を高くたなびかせられる
    太陽の偉業を輝かしていかれる
    ああ、人民が高く頂いた 偉大な金正恩同志
    敬い一つの心で従います
    一つの心で従います

    敬い一つの心で従います
    一つの心で従います

    3代まとめて称賛するという感じの歌であるが、歌の中で金正恩さんを「偉大な」と称したのは初めてではないだろうか。これまでは「親近なる」、「敬愛する」などが使われていた。スローガンの看板などでは、かなり前から「偉大な金正恩同志」は見られていた。

    「2007年南北頂上会談会議録 全文」:日本語訳出2、金桂冠が6者会談の結果報告 (2013年6月25日 「朝鮮日報」)

    金正日:6者会談についても昨日の夜に報告を受けました。良い文献が一つ採択されことと私は承知しています。元来、今日午後に報告を受けることになっていたのですが・・・

    今回、どのような文献が出てきたのかということは、恐らく南側でも興味を持って考えることができ、また、我々も我々の主張がどのように貫徹されたのか、このようなこと、私が興味があるので、6者会談に参加した我々の団長を呼んでおきました。だから、興味がおありでしたら、どのような文献になったのかという、もちろん、貴方でも6者会談代表団から報告を受けたであろうと思いますが、反対がなければ、一緒に聞いてみるのはどうだろうかと思います。どのような文献が出てきたのか。

    金養建:我々の参加した団長がここに待機しているのですが、一度、お聞きになるのであれば、呼んでお聞きになられては。

    盧武鉉:はい、委員長のお考えどおりで結構です。

    金正日:私もまだ前文だけ見たんだ。その方が昨日来ました。桂冠ドンム来いと言え。

    盧武鉉:今回、報告を受けました。受けたのですが、委員長が(訳注:敬語)今回、確実に問題を解決すると意意志を持って決断され、多くの譲歩をなさったと報告を受け、そのように理解しています。ようこそ。
    (金桂冠入場)
    金桂冠:外務省副相、金桂冠です。

    金正日:昨日来たのか。

    金桂冠:昨日来ました。

    盧武鉉:大変ご苦労様でした。

    金正日:良い文献が出たのだが、文献、出たものを概略的に説明して差し上げろ。

    金桂冠:はい、命令どおりにいたします。

    金正日:座って話なさい。

    金桂冠:お話し申し上げます。

    金正日:どのような文献が良いもの、米国人というのは、文献作りのために努力して結果が何であるのかということを・・・

    金桂冠:はい、今回の会談は、27日から30日まで4日間開催されました。この期間に全体会議、団長会議、双務側の形式で、今回の目標は初期段階の任務が遂行された状況で9.19共同声明履行のための次の段階目標、それぞれの義務状況、履行順序を合意することが基本でした。

    したがって、これと関連して我々は朝鮮半島非核化が偉大な首領様の意志であり、我々の課業の最終目標であるので、それに合うように結果物を造り出そうということが基本でした。したがって、これまでにBDA問題のために失われた時間を埋め合わせ、9.19共同声明履行を少し早く前進していくことができる結果物を造り出そうと、そのために我々が9月初めと8月13日に米国側と双務接触をしました。

    したがって、根本問題については全て協議をしました。合意された事項を今回の全体会議で共同の認識とし、5次共同文献を造り出すことにしました。中国側が草案を出したのですが、一部均衡的ではない側面があり、特に、ある問題で我々の義務は具体的で、米国側の義務ははっきりせず、したがって、我々が米国側と直接会談をしました。

    したがって、我々ができることは何か。2007年12月31日まで年内に申告と無力化をすることです。我々がすることは、我々は具体的に日にちを提示する用意がある。そのように12月31日までに全てする。その代わりに米国もテロ支援国名簿削除と敵性国文献解除を基本とする、我々を敵と規定した制度的な法律的な装置を解除しろ。この時限は同じだ。そして、両国間で少し言い争いがあり、言葉対言葉でできないのならば、行動対行動はいつやるのか。これなどは言葉対言葉なのに、全て合意したことなのに。ジュネーブで合意したこと、その履行をしようと手を引いたのではないのか。

    こう出てくるので、理由が他の所にあるのは明白で、したがってそうはできない。だから、我々が少し譲歩してやるなら、これまでお前たちがこんなこと、こんなことやると言ったことを想起し、2.13合意文があるから、想起しながら我々が行動するとき、併行してジュネーブで合意した線で行う。このように我々が少し雅量をフレキシブルに見せてやりました。それで、文献、朝米が合意して、合意したものである。そのように言えばよい。こうして、合意文を作ったのですが、作って少し特異なことが起こりました。

    30日、皆集まって閉幕会議をしたのですが、皆、文献に疑問があるのか。皆、なし。良し。通過させたのですが、ヒルがワシントンに行ってこなければならない。行ってライス国務長官とブッシュ大統領に報告し、承認を受けてくる。来ることができなければ、連絡をする。米国代表団の残ったメンバーを人質に置いていってくる。だから、そうしろといってやりました。

    行ったその日の夜に電話があったのですが、ライス長官に会った。その日が日曜日なので日曜日午後に終えて、月曜日の午前にライスを会い、夕方にブッシュ大統領と会うことになる。そこまで会って、最終承認が出る。再び連絡が来たのですが、一文字だけ修正しようと。我々は、同意したとき、一文字も直すことはできないという前提の下で同意したので、修正するのであれば収拾できない。そう言ったのですが、一文字だけ修正しよう。何かと言えば、我々の申告関連部分の時限が内容に入っており、表にありませんでした。だから、2007年12月31日までに申告する。このように直そうという内容を送ってきました。

    したがって、対策を立てようといいます。そして、内容的に見ると、申告では我々が核計画、核物質、核施設、全て申告します。しかし、核物質申告では、武器化されたものは申告しない。なぜか。米国と我々とは交戦状況にあるので、敵対状況にある米国に武器の状況を申告するなどありえない。我々はしない。その次、核開発と関連しては、全ての核計画なのですが、濃縮ウラン問題が解明される体制とする。したがって、解明することができることを双方が解明しなければならない課題として残っています。

    そして、無力化は、今回、我々が米国とロシア、中国、核兵器保有国が無力化問題を扱うのが国際的な関係(訳注:慣例)となっているので、米国が主務となりチーム長となり、それにロシア、中国、の専門家を招請して寧辺に行き、その後、要求されたものを全て見せてやり、写真も全て撮らせ、設計図まで全て見せてやり、年内に可能な限り対象がどこなのか、範囲がどのようになっているのかを全て議論し、それにしたがって合意をしました。

    専門家が集まり、そしてそれを後押ししました。ところが、その対象をどのような方法で選ぶのか、方法は使えないようにしようとはせず、海外に搬出もしない。我々の地に保管しておく。なぜならば、信用できないから、信頼が未だにそこまで至っていない。あなた方がやるといってやらなければ、再びそれを梃子として使うつもりだ。それも同意しました。

    全体の会議で全て確認し、一つだけ注目されることは、国際原子力機構はこれに介入させない。国際原子力機構と我々との関係は、未だに回復されておらず、敵対的であると言えば敵対的であると言うことができる状況です。彼らは、持ち出してくることは、話にならないことです。初期段階は、時間が不足したので、我々がやむを得ず誠意の措置として原子力機構の人員を招請してきました。早く入国しなければならないのに、それを議論するとき、一月かかるのか二月かかるのか分からないので、それで連れてきて。しかし、無力化段階は駄目です。したがって、誰がするのか、米国が責任を持って行い、金も米国が出す。そのようにすることで今回の合意をしました。今日、明日に報道されるのではないかと思います。

    金正日:南側でもソウルに帰ったと。

    金桂冠:はい、チョン・ヨンウ団長先生とも協力を上手くし、今回、何とか結果文を出すようにし。米国が報道問題と繰り返しあれこれ言うのは、第一に日本に配慮しろということです。福田が総理の座に着いたのですが・・・それが一つあり、それからもう一つは今、大統領閣下の訪問とも少し関連させ、今、報道を巧みに遅らせようと努力しているのですが、それはとても空虚なことだと判断しました。全ての6者が合意し、9月30日付けで合意しているのに、発表が遅れるだけ。内容は全てできあがっているのに。今は、そのまま執行していけば良いようになっています。

    金桂冠:まぐれ当たりだ。米国人、依然としてそう言いながら、文献を全て良いように作っておきながら。盧大統領が・・・他のまぐれ当たり的に他の変化の兆候と見えるのか。

    盧武鉉:それは、違うと思います。期待することができないのに。

    金正日:大きな国の人の疑心と主観主義は、我々小さな国の人よりすごいから。

    金桂冠:我々は、明白に梃子としていることは、駄目ならば原点に戻る。

    盧武鉉:ご苦労様でした。賢明になさって、上手くなさいました。米国がこの会談に望み、そうではないでしょう。私は、公開的に核問題は6者会談でお互いに協力する。これが原則である。だから、6者会談の外で核問題が解決することは、別々に扱われることはありません。ただし、南北間の非核化合意原則だけもう一度確認し、実質的に解決していく過程は6者会談で一緒に解決していきましょう、このように進めますから。

    そのような原則は、既に全て話しましたから。ハンナラ党は、つべこべと核の話を少し多く書けと、それを持ち出して文句を付けようと狙っています。我々の立場は、はっきりとしています。少なくとも、合意はそのまま南北間合意も依然として存在していますが、解決していく過程は一度に一貫して6者会談で解決していこう、これですから。この点についてはそのようにご理解ください。大変ご苦労様でした。

    金正日:そのように、では、それは、この会談とは関係ない。説明になるのか分からない。大略、どのようなことかということ。

    金桂冠:ご説明したついでにもう一つだけお話しいたします。今、我々と米国とが異なる点は何かと言えば、我々は米国の敵対視政策のために生じたものなので、敵対視政策を変えろという、これです。しかし、その問題で未だに行動はしないで、言葉でだけ変える。変える。良い言葉を言っても、あるときひっくり返して、荒い言葉をまた言ってしまう。これが一つ目の問題点で。

    二つ目は、我々は全朝鮮半島の非核化を要求しています。彼らは、北半部の非核化、我々から核兵器を取り上げれば、非核化が全てなされたと考える、これが違いです。

    三番目は、我々は平和的核活動をしなければならないということで、米国は核と呼ぶものは全て駄目だということです。これを造成していく過程で多くが折れていますが、未だに我々はこれについて態度変化があるのかを鋭意注視しながら、対応しています。したがって、この問題は6者の枠組み内で解決し、6者の枠組みとても良い。このような点では相通じるところがあります。

    盧武鉉:はい、よく分かりました。ご苦労様でした。

    「2007年南北頂上会談会議録 全文」:日本語訳出1、盧武鉉と金正日の冒頭演説 (2013年6月25日 「朝鮮日報」)

    韓国が2007年の首脳会談の会議録を公開したことについて、北朝鮮の「祖国平和統一委員会」が「スポークスマン緊急声明」を出した。声明では、韓国が「いずれの国においても最大の極秘とされている」首脳会談の会議録を国内政治の目的で公開したのは「天下の盲動」であると非難している。しかし、この報道では公開された内容については触れておらず、公開したこと自体について強く非難している。「緊急声明」は、「同族対決に奔走した李明博一味ですら北南首脳会談の会議録は公開することができなかった」にもかかわらず、「青瓦台の現当局者の直接的な承認」により公開されたと抗議している。しかし、朴槿恵名は出されていない。

    もうどこかに会議録の日本語訳が出ているのかも知れないが、自分の整理のためにも会議録を訳出しておくことにした。読んでいるだけだと金正日さんの言っていることで理解できない部分があるのだが、文字に落としていくとそういう部分が減ってくる。

    訳出の原本は『中央日報』HPに掲載された写真版としようと思ったが、なんともスキャンが悪いページがあり、『朝鮮日報』HPに掲載されたリタイプ版を用いた。ただし、こちらもリタイプする段階でのエラーが含まれているようである。

    翻訳はできるだけ発言に近い形で行い、日韓間の助詞の用法の違いではなく、元々そのような形で発言された部分については「訳注」を付けてある。

    拙ブログで頻繁にあるように、漢字変換の間違いや誤訳が含まれているであろうことも予めお断りしておく。

    『朝鮮日報』、「[단독] 2007년 남·북 정상회담 회의록 전문」、http://news.chosun.com/site/data/html_dir/2013/06/25/2013062500075.html

    <1次会議>
    日時:10月3日(木曜日) 9:34~11:45
    場所: 白花園 迎賓館

    陪席者:
    南側:権五奎副総理兼財政経済部長官、李在禎統一部長官、金万福国家情報院長、白鐘天統一外交安保政策室長、趙ミョンギュ安保政策秘書官(記録)
    北側:金養建統一前戦部長

    金正日:2000年に金大中大統領が(訳注:敬語)空の道を開き(訳注:空路で訪朝し)、盧大統領は(訳注:敬語)陸路で来たことは、意味深いと思います。水害のために道路の整備が十分ではなく不都合はなかったですか。

    盧武鉉:大丈夫です。周辺の景観が良く、快適に来ました。軍事分解線を徒歩で越えながら、私自身感動しました。平壌市民が盛大に迎えてくださり、感謝申し上げます。委員長が(訳注:敬語)直接出迎えにいらしてくださったことにも感謝申し上げます。

    金正日:南側から大統領が来られるというのに、患者でもないのに家にいることはできないではないですか。

    (以上、録音聴取が不可能なため、記録内容を整理)

    盧武鉉:大きな苦痛を受けている姿をテレビを通して見ました。本当に多くの心配をし、他人事のようではなく、非常にもどかしかったのですが、今回、来ながら見ていると、それでも痕跡がほとんど目に付きませんでした。その後、汗を流して復旧がなされたことを非常に・・・

    金正日:私、昨日、常任委員長同志にお話し申し上げました(訳注:ママ、謙譲語)。まず、(訳注:常任委員長同志が)会われたら、水害被害の時、多くの慰問をしてくれたことについて、感謝を申し上げなさいと(訳注:ママ)とお願いを申し上げました。

    盧武鉉:大してお役に立てず、申し訳ありません。

    金正日:ありがとうございます。大きな助けとなり、血肉の情を、我々からも感謝するようになり、感じたところが多いです。

    盧武鉉:多少でもお役に立てたのであれば、我々も喜ばしいことです。

    金正日:まず、大統領が(訳注:敬語)お話しください。

    盧 武鉉:はい。私としては5年間待った会談で、次の機会がないようなので色々と苦労もたくさんして準備をたくさんしました。我々が準備したものより国民や専 門家、さらに国際社会までもあれこれ注文が実に多かったです。その時、その時、議題となるときごとに、お話し申し上げることができますが、既に準備してお いたことがあるので、準備したことを順序通りにお話し申し上げます。時間が少しかかっても。

    金正日:わざわざ訪ねてきてくださったのですから、聞きましょう。

    盧 武鉉:いろいろと細心のお気遣いをいただき、ありがたく思います。私は一つの外交的な手続きではないかと考えたのですが・・・実際に来てみると通訳も必要 なく、寝床もソウルの寝床とあまりにも同じで、食べ物も全く同じなので、本当にくつろいでいます。特に、食べ物も口に合うように作ってくれ、一行全てが喜 びました。

    そして、また、とても白花園、ここの庭もとても美しいだけではなく、施設も立派で、全てくつろいでおり、また、我々もこのようなものが一つあれば良い、こうしたうらやましさも感じています。我々は、ありません。

    金正日:この、建物が。その話、聞きました。ソウルがもっと歴史が・・・同じくらいではないですか。建設というもの、多くなさったと聞いています。

    盧武鉉:今日のアリラン公演についてもあれこれ言う人がいますが、私は大きな期待を持っており、委員長様(訳注:ママ、直訳)と共に見ることができればという期待を持っていますが、ともかく、今日のアリラン公演について、大きな期待をしています。ああ、すみません。

    金養建:将軍様(訳注:ママ、直訳)は(訳注:敬語)、日程がお忙しいので・・・

    金正日:大丈夫、大丈夫。真剣に。午前に他の日程がなければ大丈夫なのに・・・

    盧武鉉:私が緊張したようです。私が書類を変えてしまい・・・(笑い)昔、我々の弁護士が他の事件の書類を持って来たので、弁論をしていて失敗するのを見たのですが、私が今日、取り替えて持って来て、お話し申し上げました。

    2000年6.15南北首脳会談を契機に、南北関係が反目と対決を脱し、和解と協力の新たな段階に入りました。昨年、南北を往来した人員は10万2000人程度になります。この数字は、2000年と比べ13倍ほどになる数字です。

    そ して、双方の交易額を見ると、昨年度が12億5000万ドル程度ですが、やはり2000年と比べて3.1倍程度に増加しました。画期的な事件はなかったで すが、大きな進展があったのではないかと思います。7年の過程で最も貴重な成果は、南北間に信頼が多く増進されたこと、そのように考えています。

    国 内外でも、速度調整を求める声がありましたが、我々政府は、その点についても断固として拒否し、速度を高めて信頼構築のために努力してきました。海外を訪 問しながら50回を超える首脳会談をしましたが、外国の首脳たちの北側に対する出たとき、私は北側の代弁者の役割、または弁護人の役割をし、時には顔を赤 らめることもあります(訳注:時制、ママ)。

    一 つ一つの行動が見えない過程でいつかは金委員長と対話をすることになろうという考えを持ち、信頼を構築するため努力をしてきました。しかし、北側から見る と、多くの限界も見えたことでしょう。核問題が持ち上がり、政治的和解と軍事的信頼構築分野では、相対的に進展がとても不十分でした。

    同時に、南北関係進展にしたがい、過去には持ち上がらなかった問題(訳注:複数)が新たに提起され、新しい進展の障害にもなりました。

    今、過去7年間、量的、質的に大きく成長した南北関係に適合する新たな方向を模索する段階になったと思います。南北間の信頼を一段階高めることができる前向きの措置についての議論を本格化し、南北経済協力も大きな枠で未来志向的に推進する必要があると思います。

    南北関係の進展は、歴史の発展過程であると思います。今回の首脳会談も突然できあがったものではなく、分断と共に始まった統一の努力が蓄積された結果であると思います。

    今回の首脳会談が持つ時代的要請は、今後如何なる情勢の変化にも揺らぐことがないよう南北関係を確固たる盤石の上に置けということだと思います。

    南 北が力を合わせて能動的、積極的に対処して行くことができなければ、百年前の痛切な歴史を繰り返す憂慮があると思います。会談を通して、何を合意し、また 解決するのであることあり、ということが核心であり、また、単純な会談を超えるという意味があることが良いと思います。

    南 北関係を一次元高く発展させるためには、第一に平和定着、第二に経済協力の拡大、第三に統一と和解という3分野で進展を達成しなければならないと思いま す。今回の会談で私が金委員長としなければならないことは、今後、南北関係が進まなければならない方向をつかみ、責任者が協議して実践していくことができ る大きな枠組みを描くことだと思います。

    朝 鮮半島の平和と安定を確固たるものにするために必要な協力方案を合意し、履行していくことができる道を開き、南北の共同繁栄を早めるために、南北間の経済 協力の障害要因を解消し、今後どのような方向に向かわなければならないのかについての青写真を提示し、南北間の真の和解のために至急、解決しなければなら ない課題をどのように解決するのかについて大きな枠組みにおいて実務者と国民に明らかにすることが必要だと思います。

    次 に、朝鮮半島の平和定着と南北共同繁栄、南北の和解と統一、この3つの議題の問題について順序どおりにお話し申し上げます。統一以前に、朝鮮半島の平和が 確固として定着されることが急がれており、重要だと思います。平和の土台の上で、交流協力を通して信頼を積み重ねれば、統一は漸次的に自ずとやってくるも のだと思います。

    確 固たる平和の土台の上で統一を達成するというのが我々の立場であり、統一のために平和を犠牲にしないということが原則にならなければならないと思います。 南北主導の下に統一し公的な平和体制を構築することが急務であり、そのために朝米関係の正常化と南北の軍事的信頼構築を通した冷戦体制終息と核問題の解決 という2つの大きな仕事をしなければなりません。

    現 在、核問題は関連各方面の努力で解決の方向に向かい、これは金委員長が(訳注:敬語)格別の関心を持ち、指導力を発揮してくださった結果であると思いま す。戦争が終息していない状態で55年か持続している現状況を清算しなければならず、そうした面で朝米関係が正常化されなければなりません。

    私 は、金委員長が(訳注:敬語)、朝米関係改善のための扉を開いておきさえすれば、米国がこれに相応する関係改善措置を迅速に取るよう継続的に催促します。 私は、今回の首脳会談で金委員長と共に我々民族の将来のために南と北が主導し、平和体制交渉を始めることにしたということを全世界に公布できればと思いま す。

    そして、できるだけ早い日時内に、朝鮮半島平和体制フォーラムを発足させることが必要であり、交渉開始に役立つのであれば、ブッシュ大統領が提案した方式で3国首脳が会談することもできると思います。

    軍 事分野の協力も遅らせることができない課題です。その他の分野の交流・協力と比べ、相対的に進んでいない軍事分野の協力でも、もう少し速度を上げる必要が あります。何をするのかは、92年の南北基本合意書に大部分明示されています。11月中に第2次国防長官会談を開催し、お互いの合意履行が容易な事案から実践に入ることを期待しています。

    次は、南北関係の共同繁栄についてお話し申し上げます。朝鮮半島の新たな未来のためには、南北間の経済的連携を強化していくことが急務です。特に、経済は体制・制度の違いに関係なく、協力が可能な領域で東北アジアの新たな秩序の中心も経済となるでしょう。

    南北経済協力は、南北全てが経済的活路を見いだし、長期的成長エンジンを確保する契機であり、これまでの南北関係を牽引してきた中心軸です。過去7年間、3大経済協力が中心となり、南北関係の進展を牽引してきました。

    今後、開城工団2段階開発、鉄道・道路開通、金剛山観光特区拡大などをまず推進していく必要があります。しかし、開城工団は、工団以外の地域は通行、通信及び軍事的保障など、様々な障害要因により経済協力拡大に限界があるということも事実です。

    開城工団の成功を足がかりに南北が共に行う経済特区を追加的に開発していくことが、障害要因を包括的に解決する効果的な方案でありましょう。特に、海州地域に機械・重化学工業中心の西海(訳注:黄海、以下同様)南北共同特区を設置すれば、開城・海州・仁川を結ぶ世界的な工団、さらには経済地域への発展が可能です。

    また、西海の平和的利用とも連結され、南北共同繁栄と南北共同繁栄と平和定着に大きく寄与するものと期待します。同時に、南北間で既に合意した農業・林業分野の協力と保健医療分野の協力、地下資源開発協力を推進していくことも至急な課題です。

    南北経済共同体建設を体系的に推進していくためには、南北が共に共同繁栄のための経済発展構想を協議し、まず可能な事業から一つずつ進展背させていくことが望ましいです。南北間でこのような諸般協力問題を虚心坦懐に議論し、また速度を高めることができる常設的な協議の枠組みを作ることも非常に重要だと思います。

    次は、南北の和解と統一についてお話し申し上げます。平和は、信頼に基づいた和解から出発します。その第一段階は、過去から解放されることです。未来をいつまでも過去に束縛させておくことはできません。

    特に、離散家族問題は、今解決することができなければ、解決自体が永遠に不可能になる可能性があります。最低限、生死の確認と書信交換だけは全面的に行われることを望んでいます。

    また、過去、戦争時期とその後の消息が分からない人についても、不幸な過去を終結させるという意味で、今回の機会に大きな枠組みで解決されることを望んでいます。委員長の決断を懇々と要請申し上げます。

    これと共に、南北間の和解を制度化するために、時と場所に縛られず少なくとも年1回程度は南北が首脳間の会談を持たなければならず、当局間の常設協議機構も、機構としてソウルと平壌に連絡事務所を相互開設する必要もあります。

    統一問題は、6.15共同宣言を通じて整理が上手くなされていると思います。お互いの統一方案に共通性があると認める土台の上で、まず平和を定着させ、漸次的・段階的に統一を推進していくことが望ましいと思います。また、それが現実的な接近であると考えています。前で言及した朝鮮半島平和、南北経済共同体建設、南北和解の3分野で進展をなし、南北首脳が頻繁に会談をすれば、結局、統一の道に向かうものと考えます。

    その他に、いくつか追加議題として南北経済協力を強化するより高い段階の包括的な経済協力強化合意書を締結することが必要だと思います。これが経済協力が拡大されたとき、具体的に発生する可能性がある様々な問題を解消するのに非常に役立つことになります。今後、南北経済協力が拡大すれば、国際市場ではWTO規定を持ち出して問題化する人々もいるであろうと考え、それに対する準備が今後なされなければならないのではないのか。これを今後議論しなければならない問題としてお話し申し上げたいと思います。

    それから、観光協力の拡大についてお話し申し上げます。金剛山観光事業は、我々の側から見ると、大きな成功事例であると考えています。さらには、開城と白頭山などに拡大していくことが、大きな利得となるであろうと考えます。次に、経済視察団を相互交換する問題もお話し申し上げたいです。

    これまで、何回か経済視察団の相互交換がありましたものの、様々な事情で中断していますが、これは経済協力のために準備段階で必ず必要なことであると思います。

    そして、さらに朝鮮戦争時に死亡した双方の軍人の遺骨発掘、送還のようなことも、我々が一度対話を始めてみなければならないことではないかと思います。次に、北側がIMFやその他に世界銀行またはADB、こうした機構にアクセスすることが重要であると考え、そのために様々な協力を惜しまないという点をお話し申し上げたいです。

    首脳会談と政府当局者間会談も非常に重要ですが、今後、国会間の会談、様々な制度的問題があるので国会間に交流と会談があることが、南北間の交流・協力を(訳注:ママ、の)少し障害となっている法的・制度的問題を解消していくことにおいても非常に役立つのではないか、そのように考えています。

    欲を出せば、既に対話が進行していますが、北京オリンピックに南北単一チーム参加を成就するため首脳が関心を持って努力をすることも必要だと思います。

    3つの大きな主題は、非常に重要な問題でありお話し申し上げましたが、残りの問題は今後、追加的な議題としてお話し申し上げたものとご理解いただけばありがたいです。少し堅苦しくお話し申し上げましたが・・・

    金正日:ありがとうございます。昨日、会談で話し全て・・・

    金養建:基本的に全てされました。昨日、常任委員長同志が具体的にお話し申し上げたので、また、そのままご報告いたしました。ですから、この席でそれについての話・・・

    金正日:夜、報告を受けたので、よく・・

    金養建:皆ご存じのことで、皆、我々、十分に議論した問題です。

    金正日:ありがとうございます。大統領が(訳注:敬語)多くのことをお考えになっておられ、当面、解決しなければならない問題と全般的に、今の国際情勢の流れにしたがって、また国内情勢にしたがって、若干の段階が設定されるでしょうが、ともかく良い意見をお話しくださりありがとうございます。

    私が今日、お話し申し上げようとしたことは、他のことは特になく、私が元来考えていた問題をメモしました。反復を避けるために体系を持ってお話しします。

    我々が今、最近になって首脳会談について多く期待を掛けていることは、最近になって、いわゆる他の衝撃的な契機があったのでこのようになったのでもなく、6.15宣言(訳注:が)出る(訳注:出た)当時から、金大中大統領が(訳注:敬語)わざわざ訪問してくださり、立派な民族同士という精神を持って、6.15宣言が非常に立派な旗印らしい宣言が出たので、そこにつれてこのようにしたわけで・・・

    我々民族ということは、北と南が100年前に見れば、軍事的、経済的にとても比べることができないくらい、強くなっているが、北と南が分かれていることが、一つの弱点として世界の面前で(訳注:に)見えています。国が分かれていれば、民族で(訳注:にとっては)悲劇ですが、周辺では分かれていることが常に悲しくても、同じに悲しむ人もいる反面、心の中で喜んでいる人もいると思います。この二つに分けられていることにより、その周辺で漁夫の利を追求して・・・我々は、民族が損をしても得をしても、自らが国際情勢問題に利害関係があること、(訳注:それが)たくさんあるようにいいますが、事実上、漁夫の利を得て自分の腹を膨らます自分が得をする・・・

    そうなると考え、周辺情勢(訳注:や)国を見てもそうだし、我々民族だけが損をするのだが、これを今後、大統領が(訳注:敬語)お話しなさったような段階、そうした目標を持って事業を一つ一つ着実にしていけば、周辺情勢にも合致するだけではなく、世界情勢にも合致し・・・また、我々民族の問題を我々(訳注:が)自主的に我々の首脳同士、朝鮮民族同士、解決するというそうした良い模範を見せることができると思います。

    ここで、象徴的な第一段階は北と南が力を合わせるということ自体が、両首脳が会って、意見を、虚心坦懐に意見交換し、ここで前後を問わず、正義と不正に関することは、明確に判読し、どれからまずやれば我々民族の復興(訳注:を)、促進させるのか、このような問題が始められると思います。

    今日、お話になった部分(訳注:複数)は、大部分、今後、共同で解決しなければならない問題ですが、今すぐにはあまりにも大きすぎると、そう言いましたか。手っ取り早く言えば、荒唐無稽ではないが、実際に解決しなければならない問題ですが、現実とは距離が遠いスローガンになってしまうのではないかという、そんな周辺国(訳注:複数)の考えや周辺国に漁夫の利を与える人々には、そのように考える可能性もあります。

    我々民族自体は、6.15共同宣言(訳注:が)出た以後、情勢の流れの波動があまりにも高まったので、また、盧大統領(訳注:敬語)が来られることになれば、何か宣言が出るのではないかという周辺の言葉も出回っているのですが、この問題については私が金大中大統領にも(訳注:敬語)まさにこの席で私が話しました。繰り返し宣言を出そうと提起するので、7.4共同宣言の時、我々民族が大変和解に満ちており、それに大きく期待をしたのですが、あれこれと政権の交代と情勢変化により、空の宣言文書となってしまった。それなのに、大統領が(訳注:敬語)提起する全ての問題、また我々が合意したこの問題を持って、再び文書化して出せば、これ、また、空の宣言文書になってしまうのではないのか。

    金大中大統領は(訳注:敬語)、絶対にそうはならないと、良いものを一つ出そうと繰り返し督促するので、だから6.15共同宣言(訳注:を)、双方が苦労して完成させ、出た6.15共同宣言が非常に立派な文献だと思い・・・6.15共同宣言、5年間の歴史・時間を考えると、それこそ象徴化されたスローガンとなり、空文書、空の宣伝官になったと思います。大統領も(訳注:敬語)お話しになりましたが、その期間、多くの発展があったということだけは事実ですが、今後の全ての問題を考察してみると、私の正直な心情ですが・・・我々民族が自主性の欠如により今、大国(訳注:複数)の調子に合わせる・・・政治問題もそうだし・・・この自主性の問題で・・・、私が言いたいことは、6.15共同宣言を再確認して、その旗印の下で今後、段階的、発展的にある問題(訳注:複数)が提起されたというのが、もっと良いのではないか、私はこのように考えています。新たな宣言は、私は個人の考えでは、何で必要なのだろうか。ただ政府だといえば、文民政府と参与政府、この2つの政権が行き来したことしかないのに、繰り返し文書化され、今後ある政権ができれば、その次にまた新しい宣言を出そうと言い・・・、空の言葉になるよりは、どちらか一つを基準としてその旗印を掲げていけば良いのではないのか、私はそのように考えています。

    しかし、我々(訳注:は)、今日、盧大統領が(訳注:敬語)訪ねてきてくださり、全世界のあちこちに民族的自主性を確立するという姿勢を示したことになると考えており、民族共同の繁栄を達成していくということを見せつけたという、とても良い契機となるのではないか、このように考えています。

    平和保障問題です。平和保障問題は、北南関係を進展させ、統一を実現させることにおいて漸次的に出てくる問題だと考えており、とても大統領も(訳注:敬語)良いお話しをされたと思っています。私の見解は、何よりも北南間の軍事的敵対関係を解消することがさらに重要だと考えています。

    今、北南間の平和保障問題では、基本、それも空のスローガンとさせず、実践的な問題で平和が保障されるようにしようと言うのであれば、軍事的敵対関係が解消されなければ、解決することができないと思います。

    北南間の軍事的敵対関係を解消するということは、信頼を造成して平和保障に必須な先決条件として、このようにきっぱりと問題を選定して問題を考えなければならないのですが・・・

    今、全ての問題、これまで過去5年間を考えると、軍事的問題と政治、軍事を離れた政治はあり得ないのですが、今、多くの問題は、軍事的に信頼が造成されていなくては、これ、解決することができないと思います。

    したがって、先ほどお話しになりましたが、国防長官会議をしようと提起しましたが、それも我々がやめようと言ったわけでもなく、情勢の流れの中で今、自主性が欠如しているので、今、遅滞されれば遅滞され、延期されれば延期されたでしょ。

    金養建:前回はそれで中断されました。済州島。

    金正日:そうだ。大統領も(訳注:敬語)提起したように、1ヶ月以内でも、総理級会談と同時に国防長官会談をすることができないのか。やはり、宣言的なこのような文献がどれだけ良いもの(訳注:が)出ようが出まいが執行をしようと言えば、経済協力問題のようなことも総理級で議論されなければ。首脳レベルでいくら合意したとしても、執行段階は総理級でなされなければならないので、総理級会談がなければならないのではないのか。

    今、上級会談もまともになされていないのだが、情勢によりしたりしなかったりするので、私はまさにその問題(訳注:を)考えていました。南側の人々が自主性が少しなければならないのではないのか。繰り返しご機嫌伺いをしながら回ることが多すぎる。私はそのように考えました。

    自主性をもって、我々民族内部の問題であれば、我々民族内部の問題として局限させてしよう、そうなるのに、今、自主性よりも、自主性がないと言えばあまりにも人格侮辱をするようですが、少しそのようにご機嫌伺いすることが多いのではないか。良く言えば、ご機嫌伺いをすることが多く、我々の立場からすれば、自分の思った通りのことを言えないのではないのか、このように私は思いました。
    少し前に、ブッシュ大統領が盧武鉉大統領に電話したとき、終戦宣言問題に言及したという話を今聞いているのですが、それが事実であれば、とても意味があります。もちろん、終戦を宣言することだけでは問題が解決しませんが、それがひとつの始まりになり得るとすればどうだろうか、私は(訳注:そう)思います。

    朝鮮戦争に関連する3者や4者が開城や金剛山のようなところで分解線に近いところで集まり、戦争が終わることを共同で宣布すれば、平和問題を議論することができる基礎を作れる、そのように思います。したがって、盧武鉉大統領が(訳注:敬語)、関心があれば、ブッシュ大統領と米国人と事業して、成就させてみることも悪くないのではないか、そのように考えています。

    その次にそうした条件になったとき、停戦協定を平和協定に完全に転換するのはどうだろうか、このように考えます。私の考えは、今回、わざわざ作られた首脳会談で少し希望を与え、敵対関係を完全に終息させることに関する共同の議題あるように見えるということを一つ見せつけようと言うので、西海軍事分解線問題、この問題を一つ投げかけることができるのではないのか、私はこのように考えます。

    我々の意見は、今後、国防長官級で議論されるでしょうが、私の考えでは、軍事境界、我々が主張する軍事境界線、また南側が主張する北方限界線、この間にある水域を共同漁労区域、そうでなければ平和水域に設定してはどうだろうか。この問題だけでも、大きく緩和され、また敵対関係を終息させる共同の意志が示されたということを見せつけることである(訳注:ママ)。

    そうして、繰り返しケンカをしないで、これをやろうという条件で、ある条件が具備されなければならない。我々の軍隊は、今まで主張してきた軍事境界線から南側が北方限界線まで退去する。退去するという条件で共同水域とする。共同水域内で共同漁労する。これを今回、国防長間会談の時、私が人民武力部長にすぐにこの問題について研究・討論して成就させろ。そうでなければ、軍事的敵対関係を解消すると言っても、解決にはならない。したがって、一次的に最もありふれた方法の一つですが、北方限界線まで我々が撤収しろ。これはこれから、境界線問題は今後、解決しなければなりません。法的にどちらか一方の形式に合わせるのか。北方限界線なのか。軍事境界線なのか。

    この問題は、今後解決するとし、当面は共同で管理している水域内に、その水域の範囲を広げようというので、我々の北方限界線まで軍隊は、海軍は撤退し、その次にその中に共同漁労区域、平和水域、このように平和水域と言えば、人民に希望を与えるのではないのか。一段階、それは今後、興味があるのかないのか間の意見として案件を提起してみろ。南側に。このように私が結論したのですが、討論してみろという課業を与えたことを、今日、盧武鉉大統領が(訳注:敬語)いらっしゃったので話しました。

    今は、片意地の張り合いだと思います。海に紙、描いた地図のように(訳注:紙に海を描いた地図のように)、線も北方限界線は何であり、軍事境界線は何であり、侵犯した、侵犯しなかった、水の上に何か痕跡がありますか。意地の張り合い、言い逃れをすることが体質化してしまったので50年間、自分の主義・主張だけ強調し、だから私がそう言いました。前回、西海事件の時も、実際に痕跡が残ったのが何か(訳注:原文は、「残ったに何か」)。痕跡が残ったのが何か。痕跡が残ったものが何かあるのか。大同江の船が通り過ぎたところもそうだし、一隻の船が通り過ぎたところしかない。船が通り過ぎた所も一時、何事も起こらずない(訳注:翻訳不能)。痕跡がないのだから。

    だから、私が繰り返し言い逃れを考えないで、共同水域(訳注:を)作れば良いではないか、今後、法にするので(訳注:原文、「法するので」)、持ち帰って理論的にお互いに歴史的な考察から始めて法律的に今後解決しよう。両方が、戦争の産物なので、なにはともあれ、これは今後、平和協定締結の時も問題となる案件としなければならないし、今後、法律的に限界線を統一の見地から考えるときは、限界線も狭めるとか広げるとか、そうしなければならないでしょ。遺物として留めておくことはできない。私はそのように話しました。

    当面は、双方が今後解決するという前提の下で北方限界線と我々の軍事境界線ないにある水域を平和水域と宣言する。そして、共同漁労する。分配の取り分はどうしようが、共同漁労、軍隊がそれを保護する。では、紛争点が一つなくなるのではないかという問題が・・・

    盧武鉉:はい、とても私も関心が多い・・・

    金正日:だから、それでいきましょう。だから、私の考えは、経済幹部か、恐らく副総理級で話できるでしょうが、長官級で話できるでしょうが、多分、分配の取り分について、また話をしなければならないということで・・・

    金養建:ともかく、捕まえれば分配の取り分が議論されることになると思います。

    金正日:それは、経済幹部同士、議論しなければ。討論しろといって、原則的な線では双方が理解を持って・・・

    盧武鉉:お話し中に私が申し上げることではないのですが、その問題を多くお話になり、事実、中国の船が捕まえて行く分だけ南北が協力して捕まえれば、双方にとって良いことです。分配をどのようにしても、良いことです。

    金正日:それも、中国人も・・・我々が船が通り過ぎたところだと話をして・・・痕跡のない、中国人もそうです。それが、お前の海か。問題がこのようになるので、問題が討論されなければならないのですが、今後、そのようなことを含めて問題を討論する。これを共同の意志を明らかにするのはどうなのか。私はこのように考えました。

    国防長官級会談は、2000年9月に済州島で行った以後には実質途切れてきたのですが、今回は、平壌でできると言うことを明らかにするのが良いのではないのか、やると言っても良く、今後、実務的討論を経て、軍事当局者会談で案件は西海軍事境界線問題をはじめとし、北南経済協力を軍事的にどのように保護するのかという問題を討論することができると私は思います。

    「2007年南北頂上会談会議録 全文」:金正日の言葉や部下との対話 (2013年6月25日 「中央日報」)

    1950年の今日、朝鮮戦争が勃発した。それとは直接的な関係はないが、韓国・国情院が公開した標記文書は衝撃的だ。「中央日報」に掲載された同文書のコピーをダウンロードしながら50ページぐらいまで読んだが、金正日さんの言葉が一つ一つ文字に落とされているだけではなく、金桂寛さんや金養建さんとのやり取りも克明に記録されている。

    「中央日報」が掲載したコピーには、主として盧武鉉さんの「失言」と思われる部分にアンダーラインが引かれており、いかにも韓国の内部的事情で公開された機密文書であることをうかがわせるが、金正日さんの考えやパーソナリティーが直接的に分かるとても貴重な文書だ。

    いずれ、日本語訳が出るのかどうかは分からないが、もし出てこないようであれば、拙ブログで日本語に翻訳して紹介しようと思う。

    「<録画報道>敬愛する金正恩元帥様が1月18日機械総合工場を現地指導された」:金正恩、農業部門指導、機械工場幹部を強く叱責 (2013年6月19日 「朝鮮中央TV」)

    相変わらず「朝鮮中央通信」と「労働新聞」のHPは接続状態が悪い。米国での日米韓外務当局者会談や北京での中朝外務当局者会談など、話題にすることはたくさんあるが、北朝鮮側からは金桂冠が訪中して中国側のカウンターパートと戦略的対話をしたということ以外には伝えられていない。これら事項については、別記事にまとめることにする。

    このところ、金正恩さんは経済関連部門の視察を積極的に行っている。特に、野菜農場など農業部門での視察を行っていることが注目される。「労働新聞」に繋がらないので、資料確認ができないが、昨年は農業部門への指導は一切行わなかったはずだ。野菜農場への視察は、その前に行った温室用ビニールシート工場視察の続きであるが、野菜の供給が切迫しており、それを解決するために彼が腐心しているという様子を人民に訴えるためであろう。しかし、北朝鮮では栄養ベースではなくカロリーベースでの食料不足が依然として続いているはずなので、野菜農場だけではなく、トウモロコシでもジャガイモでも、そして本来の主食である米農場でもよいので、視察して生産を鼓舞してもよいのではないだろうか。それとも、そもそも地方都市におけるカロリーベースでの食料不足は分かりきっているので、「問題解決するための方途を明らかに」することができないこれらの農場を現地指導して人民から非難されるのを避けようとしているのであろうか。野菜農場の現地指導は、平壌でカロリーベースでの食料不足が解消しているとすれば、野菜の供給を増やすことにより食材の質を向上させることで、「確信階層」の心をぐっと掌握することを目的としているのであろう。

    平壌には約300万の人々が暮らしているとされるので、北朝鮮総人口の10分の1以上が平壌暮らしということになる。平壌といってもチャンジョン通りの住宅に象徴される近代的な中心部はごく一部で、郊外には農業地帯が延々と広がっている。実感としては、新義州から平壌に入る列車の車窓から外の様子を見ていると、もうすぐ平壌に到着する時刻になっても田園地帯が広がっており、なかなか都市らしくならない。まだこんなに畑があるなと思ってみていると、いつの間にか平壌駅に到着するという感じである。「朝鮮中央TV」でも平壌どこそこ区域の農場でという報道がしばしばあるが、これを見ていてもチャンジョン通りとは全く違う風景である。ともあれ、チャンジョン通りの住民だけではなく、農村平壌に住む住民までカロリーベースでの食料が保障されているのであれば、北朝鮮人口の10%は基本的には食べるのに困っていないということになろう。地方都市や地方農村についての事情は分からないが、時として太った人がテレビ報道などに映っている。朝鮮人民は老弱男女を問わず総じてやせているので、特に太っていると目立つのだが、そんな人が少し増えてきたような気がしないでもない。しかし、軍人を見ると相変わらず背が低くてやせている若者が多い。年齢的には「苦難の行軍」時期に生まれて、幼少期に十分な栄養を摂取できなかった後遺症であろうが、軍部隊を訪問してこうした若者を見たとき、金正恩さんはどう感じているのであろうか。過去記事にも書いたかもしれないが、平壌から板門店に向かう道路のチェックポイントにいた警備兵は、子供が軍服を着て遊んでいるのかと勘違いするほど背が低かった。

    北朝鮮の場合、政治的な信条により居住地を決めているという特殊な事情はあるにせよ、首都周辺から開発を進めていくというパターンは、いずれの国でも同じである。そして、その開発の恩恵にまずあずかるのも首都住民である。平壌は「ショーケース」であると批判的に言われることも多いが、どこの国でも首都はショーケースのはずである。

    北朝鮮は、その独特な政治システムがゆえに、指導者のやることなすこと、全てが体制維持のための政治宣伝のように切り捨てられるが、その側面は否定できないにせよ、これとていずれの国の指導者も基本的には同じである。どこかの国も首相が農村を訪問(現地指導とは言わないが)してトラクター(その前には、戦闘機のパイロットシートに座ってご満悦であったし・・・これ、金正恩さんもやったような)に乗ったり、東欧を訪問して寿司を食べるのも、全てではないにせよその意図のかなりの部分では自分と自分の政党への支持を獲得するためのパフォーマンスであるということは間違いない。

    その、金正恩現地指導であるが、昨年、万景台遊技場の現地指導の際に、雑草が生えているとか、施設管理が行き届いていないなどと幹部を叱責したニュースは大々的に海外メディアでも伝えられた。彼のデビュー直後であったということも関係しているかも知れないが、その後、現地指導をする中で彼が叱責したケースは記憶に残っているだけでは万景台遊技場を除いて1件だけである。その1件は、どこかの海軍部隊を訪問した際に、格納することなく放置されていた艦船を見て、「敵は我々を鋭利に監視しているのだから、敵に見つかるように放置しておくのは良くない」と叱責したことである。しかし、本記事のタイトルとした「1月18日総合機械工場」の現地指導ではこれでもかというほど叱責している。

    この工場、金日成・金正日さんたちも何回も現地指導している大規模機械工場のようである。詳細は後で書くが、この工場は生産目標を達成できていないということになっている。本当にそうなのかどうかはさておき、この工場を現地視察のターゲットにしたのは、少なからずそのような実態があったからだけではなく、「マシンリョン速度の呼びかけ文」を現場で叱責をすることで強調しようとしている可能性がある。

    韓国・統一部の「北韓情報センター」の資料によると、この工場視察を伝える「録画報道」は6月19日から始まっている。この動画はuriminzokkiriにアップロードされており見ることができるが、アナウンサーが淡々と記事を読み上げるだけで、視察の様子を示すが静止画は見せていない。しかし、昨夜の「朝鮮中央TV」を見ていたら、アナウンサーが読み上げる記事は同じであったが、それに静止画を組み合わせたバージョンを放送していた。これまでも金正恩現地指導を伝える「録画報道」でもこのようなバージョンがあったかは分からないが、少なくとも私が「朝鮮中央TV」の生ストリーミングを見るようになってからは、初めてだと思う。uriminzokkiriからダウンロードして静止画のない「録画報道」を見たときは、内容が厳しいだけに写真を出さないことにしたのかと思っていた。

    それでは、金正恩さんはどのような叱責をしたのかを紹介していく。残念ながら、「中央通信」も「労働新聞」も現時点で接続不能なので、「朝鮮新報」に転載された記事を基に紹介することにする。

    『朝鮮新報』、「김정은원수님, 1월18일기계종합공장을 현지지도」、http://chosonsinbo.com/2013/06/kcns_130619/

    前述のように「1月18日機械総合工場」は金日成さんが14回、金正恩さんが8回も現地指導をしている有力工場の一つである。金正日さんは死去した年の1月18日にもこの子有情の現地指導を行ったという。

    これほどの「史跡」がある工場であれば、通常、金正恩さんが訪問して「高く評価する」対象となるのだが、今回は全くその逆であった。

    記事では冒頭で「工場の沿革史が重要なのではなく、首領様と将軍様の遺訓を守り生産を高い水準で正常化することにより、国家の機械製作工業発展に大きく寄与する」ことが重要であるという金正恩さんの言葉を紹介している。

    北朝鮮の場合、「工場の沿革史」は、すなわち指導者の現地指導により造り出されるものとばかり思っていたが、どうやらそういうことではないようだ。しかし、続けて金正恩さんは「将軍様が死去した年に現地指導した際の史跡資料をどこに展示しているのか」と質問している。この辺りの関係がよく分からないのであるが、工場幹部は「革命史跡教養室を新たに建設して展示する」と答えている。

    これが叱責1号の対象となる。記事によると金正恩さんは「骨組みだけできあがっている、建設中」の「革命史跡教養室」を見て、「建設を始めてから2年過ぎても完工できていないのを見れば、工場で生産を高い水準で正常化できていない重要な原因がどこにあるのかが分かる」とぼやき、「革命史跡教養室を完工していないのは理解できない。工場の雰囲気がこれまで見た工場とは全く違う」と第1号の叱責をする。そして、「偉大な大元帥様たちの領導業績を心臓に深く刻み込むことができていない労働者たちが、生産で主人としての役割を担えておらず、彼らにいくら訴えても(呼訴しても)生産を絶対に高めることはでき」ず、「党では生産に先だち生産者大衆の熱意を高めるための思想教養事業を優先することが重要であると強調しているにもかかわらず、この工場の党委員会では党の方針を思想的に受け付けていない」と「厳しく指摘」したという。

    そしてその原因として「幹部が技術実務主義者となれば、小さな難関を前にしても躊躇し動揺するようになり、上ばかり見るようにな」り、「労働者の精神力を発動できなければ、いかなる先端設備を整備しても生産を十分に高い水準で正常化することができない」ということを指摘した。「技術実務主義」なるものがよく分からないが、どうやら生産体制についての「改革的思考の欠如」、つまりQCサークル的な事業態度がないという点を指摘しているような気がする。これだけの「史跡」がある工場なので、資材や設備に関しては相当に優先的に供給されているはずである。そうした工場であるにもかかわらず、官僚主義的な工場経営により十分な実績を上げられていないということであろうか。

    続けて「党委員会の幹部が工場に来て何を見て何を指導しているのか分からない。彼らの実務化し硬直した思考方式と事業態度に警鐘を鳴らす」と第2に叱責をしている。

    金正恩さんは「革命史跡教養室建設現場で、あちこちに積み上げられている骨材とブロックをしばらく眺めた後、言葉が出ない」と残念がり、「金日成-金正日主義研究室を視察し、政治思想教養事業を優先することについての党の方針を道党委員会で深刻な教訓として見いださなければならない」と指摘したという。

    さらに、金正恩さんは「生産計画を達成できていない」という報告を聞き、「国家の機械製作工業発展に積極的に貢献してきた歴史ある工場が、自らの誇らしい伝統を生かすことができていないことに大変心を痛めた」とし、「知識経済時代の要求に照らしてみると、工場の生産設備が古く、他の工場や企業所と比べて生産文化、生活文化も劣っていると厳格に指摘」しながら、第3の叱責をした。

    そして、「後方供給実態」、すなわち工場労働者に対する食料供給の実態などについても「工場幹部が党が求めるように従業員の生活を十分に面倒見ることができていない」と「胸を痛めた」という。

    その上で金正恩さんは「生産目標を占領するためには、生産工程を現代化、科学化するための事業を活発に展開しなければなら」ず、「空き地に工場を新たに建設するという観点と立場を堅持し、中核的な問題を優先的に選別しながら現代化を進めなければならない」、「先進技術を積極的に受け入れ、大衆的技術革新運動を後半に展開し、生産者の技術技能水準を高めるための事業を中身のある形で展開しなければならない」、「後方供給事業を改善してこそ生産力を高めて製品の質を改善することができる」、「労働者の物質文化水準を向上させて生産文化、生活文化を確立するための正しい風(風潮)吹かせなければならない」などと指摘した。

    これらの指摘は、前述の「政治思想教養事業」とはほとんど関係なく、いずれも正しい指摘だと思う(もちろんそれにまつわる党・政府による支援体制があってこそだ)。やはり生産近代化のためには上からの司令や供給を待っているのではなく、QCサークル的な展開をするようなことが必要だと考えているのであろう。過去に紹介した北朝鮮の地方工場を扱ったテレビ番組でも、原始的ではあるがQCサークル的な活動は見られた。恐らくは、それをもっと組織的に展開したいと彼は考えているのかもしれない。記事の中に「呼訴」という言葉は一度しか使われていないが、やはり「マシンリョン速度」と関連があるように思われる。

    上述のとおり、この工場の成績が特に悪いがためにターゲットにされたのではないであろう。恐らく、朝鮮人民にとっては、あれほどの工場でも叱られたという感想の方が強いのだと思う。金正恩さんの狙いとしては、では頑張らなくてはという気持ちを人民に沸きおこさせることを狙ったのかも知れない。だとして、「労働者の物質文化水準を向上させ」なければ、それは実現しない。彼の「呼訴」や「政治思想教養事業」だけではそれが実現しないことも分かっているはずである。それをどう実現していくのかが最大の課題である。

    今回の工場現地指導では、叱責されたこともあり、労働者との「愛の写真撮影」はなかった。

    「革命史跡教養室建設現場」
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    Source: KCTV, 2013年6月21日放送

    CNC旋盤らしきものが並んでおり、北朝鮮の機械設備としては「古い」感じはしないが
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    Source: KCTV, 2013年6月21日放送

    なぜか労働者は手前で機械を操作する人しか映っていない。これだけの規模の工場であれば、普通はこぞって元帥様をお迎えしたり、見送るはずであるが、今回は一切出てこない。やはりお叱りを受けたのは「イルクン(幹部)」ということなのだろう。
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    Source: KCTV, 2013年6月21日放送

    「全ての事態発展は、朝鮮半島情勢を激化させている米国の責任のある選択にかかっている」 (2013年6月16日 「朝鮮中央TV」)

    天気も悪いので「朝鮮中央TV」を眺めていた。どこかの国の番組を引用した鯨を科学的に紹介する番組や世界各地で行われたスポーツの様子を紹介する番組を見ていたら、「朝鮮民主主義人民共和国国防委員会スポークスマン特別談話」なるものが放送された。

    「特別談話」は、「米国行政部が朝鮮半島の緊張緩和をするためには、北朝鮮が非核の意志を示さなければならないなど、事態の推移は北朝鮮次第であると騒ぎ立てている」とし、これに「現南朝鮮当局」をはじめとした追従勢力が「一緒に踊っている」現情勢に際し、「国防委員会は委任により重大な立場表明をする」と始まる。その内容は以下のとおりである。

    1.朝鮮半島情勢を激化させたのは米国である。米国は朝鮮半島を引き起こした挑発者であり、その後60年間停戦協定を破ってきたのも米国である。21世紀に入ってからも、我々共和国に反対する導火線に火を付けようと執拗に策動しているのも米国である。昨年12月のロケット発射や核実験に挑発だと騒ぎ立てているのも最も露骨的かつ破廉恥な米国である。これにともない出された制裁決議も対朝鮮敵対行為であり、我々軍隊と人民に対する耐えがたい挑発行為であった。米国は、ありもしない挑発について騒ぎ立て、世論をミスリードすることをやめなければならない。

    2.朝鮮半島の非核化は、我々軍隊と人民の変わりない意志であり決心であるということを繰り返し内外に宣言する。朝鮮半島の非核化は、首領様と将軍様の遺訓であり、我が党と国家と千万軍民の必ず実現しなければならない政策的な課題である。朝鮮半島の非核化は、北朝鮮の非核化だけの問題ではない。我々の非核化は、南朝鮮の非核化を含む朝鮮半島全体の非核化であり、我々に対する米国の核威嚇を完全に終息させることを目標とした最も徹底した非核化である。我々の核保有について言うのであれば、それは朝鮮半島の非核化を実現するための自衛的かつ戦略的な選択である。核保有国としての我々の堂々とした地位は、誰が認めようが認めまいが、朝鮮半島全域の非核化が実現し、外部の核威嚇が完全に終息されるときまで揺るぐことなく維持されるであろう。したがって、米国は対話局面を開くために、我々の非核化意志をまず見せろと騒ぎ立てる前に我々に対する核威嚇と恫喝をやめ、制裁を含む全ての形態の挑発から中止しなければならない。

    3.朝鮮半島の緊張局面を緩和し、地域の平和と安全をもたらすための朝米当局者のハイレベル協議を提案する。朝鮮半島の緊張緩和と米国本土を含む地域の安全と平和について本当に関心があるのであれば、前提条件を付けての対話と接触を言うべきではない。朝米当局者でのハイレベル協議では、軍事的緊張状態の緩和問題、停戦体制を平和体制に変える問題、米国が出してきた核なき世界を建設する問題を含み、双方が求める様々な問題を幅広く誠意を持って協議できるはずである。会談の場所と日時は、米国の都合に合わせれば良い。朝鮮半島の緊張状態を緩和し、地域の安全と平和を達成しようとする我々の立場は終始一貫している。米国が本当に核なき世界を願い、緊張緩和を願っているのであれば、この機会を逃すことなく、我々の大胆な英断と誠意に積極的に答えなければならない。

    そして、「全ての事態の推移は、今まで朝鮮半島情勢を悪化させてきた米国の責任ある選択にかかっている」と締めくくっている。

    昨日、「趙明禄訪米のように、崔龍海が訪米するのではないか」という記事を書いたら、直後にデービス特使が「それはない」と発言したという日本メディアの報道が出ているのを見つけた。しかし、このタイミングで北朝鮮が「特別談話」を出してきたのは、やはり何かあるのではないだろうか。特に、上記「特別談話」の項目2は非常に意味ありである。

    北朝鮮は、2013年1月26日に発表された「祖国平和統一委員会声明」で「今後、北南間にこれ以上非核化論議はない」し、「1992年に採択された『朝鮮半島の非核化に関する共同宣言』の完全白紙化、全面無効化を宣言する」と言っていた。しかし、同年4月18日の「国防委員会政治局声明」では「世界の非核化が実現するまでは、核は放棄しない」と「世界の非核化」という非現実的な条件を掲げつつも若干ハードルを下げた。

    「政治局声明」では、「朝鮮半島の非核化は、昔も今も我が軍隊と人民の変わりない意志である」としつつも、金日成・金正日の名前は出してこなかった。しかし今回の「特別談話」では、「朝鮮半島の非核化は、首領様と将軍様の遺訓であり、我が党と国家と千万軍民の必ず実現しなければならない政策的な課題である」と首領と将軍の名前を挙げた上で「必ず実現しなければならない政策的な課題である」とまで言っている。

    さらに、「政治局声明」では非現実的な「世界の非核化」を核放棄の条件にしていたのを「我々の非核化は、南朝鮮の非核化を含む朝鮮半島全体の非核化であり」と元来「朝鮮半島非核化宣言」にあるようにその地域を朝鮮半島に限定してきた。もちろん、「核保有国としての我々の堂々とした地位」と北朝鮮が核保有国であるという主張は下ろしていないが、これを下ろせば「朝鮮半島非核化宣言」を交渉材料にする意味もなくなるのだから、最後まで下ろさないであろう。北朝鮮としては、自らが「朝鮮半島非核化宣言」の原点に立ち返えることで米国に対する誠意を見せようとしているのであろう。

    そして上記項目3にあるように、広範な問題について米国とハイレベル協議を持つよう提案している。「米国本土も含む地域の安全と平和」というのはなかなか北朝鮮らしいが、米国も北朝鮮のロケット発射成功で米本土に対する脅威のレベルが高まったと認識しているところを巧みについている。ハイレベル協議では北朝鮮がこれまでも主張してきた平和協定締結をトップに掲げているが、米国が最も関心を持つ「核なき世界(=朝鮮半島の非核化)」も議題に含むと誘因材料を提供している。

    「会談の場所と日時は、米国の都合に合わせれば良い」というのは、最近どこかで聞いた台詞と似ているが、北朝鮮が米国に出向いて交渉をする準備があるという意志表明であろう。

    以上のことからすると、デービスさんは米朝会談を一旦否定したが、やはり今回、日韓政府関係者を米国に招くのは、やはり北朝鮮との対話を宣言するためのような気がしてならない。つまり、北朝鮮は米国にそれを言われる前に実現しなかった南北会談提案もそうであったように、「我々の大胆な英断と誠意に」米国が応じてきたという形を取りたいのかも知れない。

    崔龍海局長が米国行きの高麗航空機に乗り込むのは、依然として私の幻想かも知れないが、何か輪郭がはっきりしてきたような感触があることも否定できない。

    「北南当局者会談を破綻させた傀儡一味の挑発的妄動を絶対に容赦しない」:北朝鮮の経緯説明と主張、米国が見る目、日米韓会談 (2013年6月13日 「朝鮮中央通信」)

    「朝鮮中央通信」が「祖国平和統一委員会スポークスマン談話」という形で、南北会談が保留となった経緯について説明をする談話を出した。昨日は、一日中「朝鮮中央通信」HPに接続できず、今日は、『労働新聞』HPに接続できない状態が続いている。ハッカー集団の攻撃によるものなのか、北朝鮮当局がHPを調整していたのかは分からないが、なかなか「談話」が出された事実は日本のメディアの報道で分かったものの、全文が読めなくて苛立たしかった。

    日本のメディアでは「挑発的盲動と非難」とか「南北会談には毛頭未練はない」などと衝撃的な言葉を伝えているが、「談話」をきちんと読むと、韓国側の説明との経緯や理解における相違点が見えてくる。

    「談話」は冒頭で「北南当局者会談が傀儡一味の傲慢無礼な妨害と故意的な破綻策動により始まることもなく霧散してしまった」と韓国側を非難している。そして、「我々代表団は、・・・誠意のある準備を整え平壌を出発しようとしていたときに、南側から今回の会談の南側主席代表を統一部長官ではなく統一部次官とするという通報を受けた」としている。これは、韓国・統一部が説明をした同時名簿交換のことを指しているのであろう。

    一つ下の記事にも書いたように、やはり北朝鮮は「初めから長官級会談を主張し、実際に統一部長官を出席させる意向であると何回も確約したにもかかわらず、会談が開催される直前に主席代表を下級に変更するというふざけたことをしたことは、南北対話の歴史で一度のなかった」ことであると韓国側を非難している。南北事務接触で主席代表を巡る表現が食い違っただけではなく、「統一部長官」を出席させることについて南北での理解の差があったようであるが、下の記事にも書いたとおり、韓国側の説明を読む限りでは、北朝鮮が主張するように韓国側は「長官を出す」と言っていたような読み取れる。

    北朝鮮は「我々と同じ長官級の主席代表が出てくるよう繰り返し要求した」としているが、クラスの扱いについて根本的な意思統一がなされていなかったようだ。そして、韓国が統一部長官と同格の「北の統一前線部長が会談代表団の団長として出てこなければならない」と主張したことについて「我々の体制についての無知を露呈している」と切り捨てている。北朝鮮の説明では、「党中央委員会の秘書がたかが傀儡行政部の長官程度の相手にもならないということは、世の中の皆が知っているところである」としているが、政治体制が異なる南北では実際にはなかなかクラスを事務的に並べることは難しい。確かに、政府が国家を代表する韓国と党が国家を代表する北朝鮮では党や党幹部の意味合いも変わってくる。北朝鮮の場合、党の役職が上位概念で、政府組織の役職は下位概念なので、「党中央委員会秘書」というのは、確かに「たかが長官」よりは高いのかも知れない。しかし、韓国ではセヌリ党内の役職よりも政府組織の役職の方が高いので、この点については北朝鮮も理解すべきである。

    北朝鮮の主張では、韓国側は北側の団長を誰にするのかと関連し「開城工業地区暫定中断事態にまで連結させ」たという。北朝鮮がこれについて抗議すると「そんなことは言っていない」と否定したが、「結局、自分の妄言を撤回せざるを得なかった」とのことである。開城工団問題とどのように関連させて北朝鮮を憤慨させたのかは分からないが、北の代表が誰それでは開城の操業を再開できないというようなことを発言したのであろうか。

    また、北朝鮮は韓国が「祖国平和統一委員会スポークスマン特別談話文を肯定的に受け入れると言っておきながら、6.15と7.4発表日の共同記念問題、民間往来と接触、協力事業問題」を議題に明示しようとしなかった非難している。北朝鮮側は開城工団と金剛山観光について「正常化と再開という表現」を入れるように要求したようであるが、韓国がそれを「曖昧に」したと非難している。

    事務接触会談は16時間に及び、翌日の午前3時過ぎに終了したという。会議が長引いた原因を韓国・統一部に決定権がないからであると主張し「青瓦台が対話を提案しろと言えばするし、中断しろと言えばやめる下手人の役割をした事実」があり、その証拠として「事務接触でも統一部から来た南側主席代表は、合意文献の一文字を修正する権限もなく、ソウルの司令を待つために2、3時間も待った」としている。もちろん、「ソウルの司令」が統一部からの「司令」であった可能性もあるし、青瓦台からの「司令」であった可能性もあるが、軍事政権時代ならまだしも、民主化後の韓国の政治システムからして、青瓦台(朴槿恵さん)の南北関係に関する基本的考えを受け、統一部は調整を図っているはずなので、長時間待ったとしてもそれは「統一部の司令」を待ったということであろう。特に、北朝鮮側からの想定外(想定内だったかもしれないが)の提案に対する対応に時間がかかった可能性はある。北朝鮮は韓国の政治システムを十分に理解した上でこのような論を展開しているのだと思うが、自国のシステム、つまり重要懸案は全てトップ(金正恩)が決定するというシステムに重ね合わせているとすれば、甚だしい「無識」ということになる。

    続けて「談話」は「その程度の統一部なのに、その首長でも下級の次官が出てきて何を我々と議論できるというのか」とし、「傀儡一味が我々の祖国平和統一委員会書記局の権能がどうの、クラスがどうのといいながら騒ぎ立てているが、今回の南北対話と関連した破格的な重大な立場を表明したのも、祖国平和統一委員会名で出した特別談話文であり、過去の北南関係と祖国統一問題に関する全ての声明、談話なども祖国平和統一委員会名義で発表した」としている。過去記事で頂いたコメントでもこの点については鋭く指摘されていたが、北朝鮮もやはり同じ主張をしている。

    「談話」ではこの点について詳しく書いており、「祖国平和統一委員会書記局は、名実共に北南関係を主管し、統一事業を専門に担当する公式機関であり、ましてやその権能とクラスについて南朝鮮統一部と比べるとすれば、我々の方に言うべきことが多い」し、「過去の北南上級会談の団長として内閣責任参事名義を持った祖国統一委員会書記局1副局長が出席し、書記局副局長が南朝鮮統一部次官の相手となってきた。今回には、南側当局の体面を保ってやろうと、1副局長ではなく局長を団長とした」と主張している。北朝鮮のいうとおりであれば、今回は格上げをしたことになる。また「副局長が南朝鮮統一部次官の相手」と言っているいるので、カウンターパートを「統一部長官」と想定した上で誠意を持って「局長」を出そうとしたということは十分に考えられる。「内閣責任参事」というのは統一委員会のように党組織ではなく、行政組織内での役職であるはずだが、「局長」もこうした役職を持っているのであろうか。

    「談話」は、会談が破綻したのは「単純に会談団長のクラスに関する問題ではなく、傀儡一味が当局会談を対決的目的に悪用しようと目論んだがそれを実現することができず、会談を破綻させようとした凶悪な目論見の発露である」と断じている。「傀儡一味」にも北朝鮮にもそのような目論見はなかったと思うが、どうにも意思疎通と「体面」が会談を破綻させたように思えてならない。

    あるとすれば、過去記事にも書いたように、崔龍海特使訪中で中国側から(核問題は仕方がないので、)南北関係改善で努力するよう求められ、南北対話を提案。習近平訪米ではオバマさんに北朝鮮に核問題で折れるよう求めたがなかなか折れないことを伝え2人で「朝鮮半島非核化推進」を宣言、一方で非核化は難しいが南北関係を改善するように求めた結果としての北朝鮮からの対話提案を見せる。北朝鮮は約束通りに提案をするも、破綻というシナリオはあり得る。この時に北朝鮮が南北関係を改善することで得られる「実利」と中国の指示に従うことから得られる「実利」の一挙両得を狙ったが、南北では「体面」が邪魔をしてその一方しかかなわなかったということなのかもしれない。

    「朝鮮中央通信」は、金正恩さんが習近平さんの誕生日に際して「祝電」を送ったと伝えている。その他にも中国関連の報道が増えており、崔龍海訪中を機に中朝関係修復に努めている様子がうかがわれる。27日からの朴槿恵訪中前に金正恩訪中が実現する可能性は低いが、それでも朴槿恵訪中の際に中国側が南北関係の調整役を担ってくれることに期待しているはずである。その結果、電撃的な7.4関連共同行事が開催される可能性もないわけではない。上記の金正恩祝電の中では習近平さんが60才になるのと重複させ、今年が「戦勝」60周年であることも強調している。本当は「ハッピーバースデー」よりも後者をいいたかったのであろうが、これも戦勝記念日にそれなりの「クラス」の中国指導者を平壌に招いて戦勝記念日を盛り上げたいという意図の表れであろう。

    と、ここまで書いたところで北朝鮮系のHPが全て参照できなくなってしまった。またもやコピーすることなく記事を書いていたのが間違いだったのだが、「談話」の続きが見られなくなってしまった。仕方がないので、「朝鮮中央TV」の録画を見ながら続きを書くことにする。

    上記以降の部分でおもしろいのは、「談話」が会談日程をこれまでよりも短い1泊2日にしたこと、会談場所を限定したこと、関係者以外と接触を制限したことなどについて非難している。「談話」はこれらのことは「会談を破綻させようとする目論見から来たもの」と主張しているが、これも長い分断関係の中で南北間の価値観が変わったことに起因するような気がする。というのは、客人が来れば「盛大に待接(接待)する」のが韓国・朝鮮の美風であるにもかかわらず、韓国側は「実利」を重視するあまりソウル観光などをスケジュールに組み込まなかった。これが、北朝鮮側に「軽視」されているという誤解を招かせた原因となった可能性はある。関係者以外との接触については「談話」が「同胞の情を分かち合う場」としているように、韓国内の親北的な組織関係者と接触し、体制宣伝を目論みようとしたのであろうが、それもかなわなかった。

    「談話」は「維新(朴正煕)」時代の「対話のある対決」や李明博政権の「原則固守」にこだわるのであれば、対話は実現せず「前任者のような悲惨な運命を招くだけだ」とし、朴槿恵政権の「信頼プロセス」は前政権の「対決政策と全く変わらないばかりか、それらよりも悪い」と非難した上で、「我々は北南会談への未練は毛頭ない」と結論づけている。

    板門店の連絡電話にも北朝鮮は出なくなったということであるが、韓国側が会談決裂後に電話を掛けたというのも興味深い。単に北朝鮮が出方を探ろうとしただけなのかも知れないが、もし相手が出たら何を言おうとしたのであろうか。「板門店チャンネルだけは開いておきましょうね」とでも言おうとしたのであろうか。

    これと関連し、米国務省定例記者会見では11日、報道官が「南北会談が延期(postponed)された」という現状認識を述べている。韓国側が発表した「保留」を文字通りに受けたものであろうが、「談話」からすると「保留」よりも「中止」に近い感がある。もちろん、北朝鮮も「未練はない」と言いながらも、開城工団関係者についても触れているので、中国からのシグナルも含めてしばらく様子見をした後で何か動きを見せるのかも知れない。

    U.S. Department of State, "Daily Press Briefing", http://www.state.gov/r/pa/prs/dpb/2013/06/210507.htm

    13日の同記者会見では、グリン・デービス北朝鮮問題担当特使が18日に日本と韓国の関係者と個別に会談、19日には日米韓3カ国会談を開催することにしたと報道官が話している。2国間協議をやった上で3カ国協議というのは、やはり日韓関係が良好ではない状況で米国が仲介をして北朝鮮問題で協力していく雰囲気作りをしたいということであろう。思えば、飯島特使訪朝後、これといった日朝関係の進展は見られないし、韓国側とて南北会談は一旦破綻してしまった。両方とも北朝鮮にやられたわけであるが、このタイミングで日韓を米国が介在する形で連携させようというのは、なかなか上手いやり方である。この状況の中で、米国がこれまで同様に「北朝鮮に協力しながら圧力をかけ続けましょう」というおもしろみのない提案をするのか、日韓それぞれの北朝鮮との接触を受けて一歩踏み込んだ提案をするのかが見物である。

    13日の定例記者会担当報道官は新任のPsakiさんであるが、デービスさんと会う韓国側のカウンターパートを紹介しながら「朝鮮半島平和・安保問題特別代表(英文より直訳)-これは素晴らしい肩書きですね-のチョ」と紹介している。実にアメリカ人らしい皮肉である。恐らく、米国務省内では今回の肩書きを巡る南北会談決裂を南北双方の「愚かさ」の発露と考えているのであろう。しかし、そうだとすればそれは同時に国務省の朝鮮半島文化に対する「無識」の発露でもある。

    U.S.Department of State, "Daily Press Briefing", http://www.state.gov/r/pa/prs/dpb/2013/06/210686.htm#DPRK

    それにしても、北朝鮮系サイトの全滅は痛い。ハッカー集団が朝鮮戦争前後から再び攻撃を掛けるという報道を見たような気がするが、迷惑千万である。オバマさんと習近平さんは、サイバー・セキュリティーで合意したそうであるが、この手の輩から退治して欲しいものである。

    悪者の情報を封じ込めることは、これまた悪者のなす行為である。

    <追記>
    ぼんやりと昨夜放送の「朝鮮中央TV」録画を見ていた。以前、記事にしたような気がするが、趙明禄回顧録のような番組をやっていた。番組は彼が訪米をした成果を強調しながら終わっている。この番組を見ていたら、荒唐無稽な考えが涌いた。

    グリン・デービスさんが日本と韓国を招くのは、米朝接触の宣告をするのではないかということである。一歩踏み込んで考えると、中国と米国が決めた米朝接触を日韓に説明するのではないだろうか。南北会談が開催されていれば、米国がかねて要求してきた南北関係改善を前提とするハードルはクリアしたことになったはずだが、それは実現しなかった。

    しないにもかかわらず、もしかすると、しなかったからこそ、米朝接触に出てくるような気がしないでもない。米国務省は、米朝交渉する条件となる非核化に向けた誠意ある態度と南北関係改善は分けて扱っているが、北朝鮮が中国の核を巡る説得にある程度応じたとすれば、それを習近平訪米で中国が米国に伝えた可能性はある。(「並進路線」のトーンを下げながら、「マシンリョン速度」を強調するとか)

    そして、韓国は敵対勢力の「輿に乗っている」と対話を強硬に対話を拒否したのも、「親分」との交渉の算段が付いているからなのかも知れない。

    以上、これまで書いてきたことと相反する内容となるが、人民軍総政治局長・趙明禄回想録を見ながら、崔龍海局長が高麗航空機に乗り込み米国に向かう姿が頭に浮かんだからである。クリントンも民主党大統領、オバマも民主党大統領という点も漠然とそう思わせる理由となっている。

    <追記2>
    そんなことを書いた後で、報道を見ていたら、「デービース米特別代表『米朝協議の計画ない』」と出ていた。デービスさんと言えば、こちらにやってくるものと決めつけていたのだが、そうではなく日韓を米国に招いてということのようだ。米国務省HPに「host」と書かれているのは読んだのだが、「仲介役になるのかな」程度に解釈した。記者の質問まで良く読めば「here(DC)」と書かれているのだが。確かに、18日にそれぞれの国と、19日は3カ国でと日韓の距離ならばできないことはないが強行軍だなとは思ったのだが、エラーであった。開催場所や中国に関する記述は修正しておいたが、米朝接触について思ったことは残しておくことにする。

    『テレビ朝日系』、「デービース米特別代表『米朝協議の計画ない』」、http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/ann?a=20130615-00000005-ann-int

    「北南当局会談のための実務接触進行」:『労働新聞』HP刷新、朝ロ関係、会談「保留」、韓国の目論見は (2013年6月10日 「労働新聞」)

    『労働新聞』HPがここ数日使えなかった。その他の北朝鮮系サイトは問題なかったのでハッカー集団による攻撃ではないと思っていたら、今朝8時頃復活した。どうやらサイトのデザイン変更作業をしていたようで、見た感じでは以前よりもすっきりとしたようだ。

    すぐに気付いたことは、以前は金正恩関係の項目が大きく表示されるような構成になっていたが、刷新されたデザインでは金正恩関係の項目も他のニュースと同じ扱いになっているということである。例えば、12日のトップは「金正恩同志がロシア連邦大統領に祝電を送られた」というニュースであるが、項目のフォントはその他のニュースと同じサイズである。彼が現地指導をした際にどのような扱いをするのかは今後確認しなければならないが、指導者の扱いを他のニュース同様のサイズにしたというのには何か意図を感じる。紙バージョン紙面がどうなっているのかpdfで確認しようとしたが、転送速度が遅いのか表示されない。紙バージョンでも扱いが変わっているとすれば、これは相当に大きな出来事であろうが、変わっていない可能性の方が高い。

    ロシアの建国記念日である「主権宣言記念日」に際して、金正恩さんは去年も祝電を送っている。ただ、ロシア側からは彼に祝電の類いはこのところ全く送ってきていない(『労働新聞』の記事を昨年10月まで遡ってみたが、この間にはなかった)。今回、彼が祝電を送ったのは恒例だからなのか、ロシアとの関係修復を狙ったものなのかは分からないが、無礼な大国にも礼を尽くさなければならないという所だろうか。

    さて、本題であるが、一つ前の記事に貴重なコメントを頂いており、そちらに書いても良かったのだが、コメントへのお返事も兼ねてこちらに別記事を書くことにした。南北事務レベル会談については、「朝鮮中央通信」では既報であるが、『労働新聞』も6月10日に「発表文」を報じている。発表文の内容は以下のとおりである。

    北と南は、2013年6月9日から10日まで板門店で南北当局会談の実務接触を持った。

    1.北南当局間の会談を2013年6月12日から13日までソウルで開催することとした。
    2.会談名称は、北南当局会談とすることとした。
    3.会談では、開城工業地区正常化問題、金剛山観光再開問題、離散家族・親戚再会をはじめとした人道主義的問題、6.15と7.4発表日の共同記念問題、民間往来と接触・協力事業推進問題など、南北関係で当面する緊急な問題を協議することとした。
    4.会談代表団は、それぞれ5名の代表で構成し、北側団長は相級当局者(上級当局者?)とすることとした。
    5.北側代表団の往来経路は西海線陸路とすることとした。
    6.追加的な事務的問題は、板門店連絡通路を通して協議することとした。

    『労働新聞』、「북남당국회담을 위한 실무접촉 진행」、http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2013-06-10-0029&chAction=D

    韓国・統一部も「発表文」を公表しているが、大きな違いは以下のとおりである。

    3.会談では、開城工団正常化問題、金剛山観光再開問題、離散家族再開をはじめとした人道主義的問題など、当面緊急に解決しなければならない問題を協議することとした。(韓国側の発表には、6.15や7.4の共同行事関連の事項は含まれていない)
    4.会談の代表団は、それぞれ5名の代表で構成することで合意し、南側の主席代表は南北問題を責任を持って協議・解決できる当局者とすることとした。

    韓国側の発表文には上記3と4については「南と北がそれぞれ違う内容を発表」という注釈と北側の発表文が付けられている。

    韓国・統一部、「남북 실무접촉 관련 발표문」、http://www.unikorea.go.kr/CmsWeb/viewPage.req?idx=PG0000000344&boardDataId=BD0000225847&CP0000000002_BO0000000027_Action=boardView&CP0000000002_BO0000000027_ViewName=board/BoardView

    さらに、韓国側の発表には「説明資料」が付けられており、実務会談の経緯が記されている。その要点を列記すると以下のとおりである。

    1.会談名称を「南北当局会談(北南当局会談)」とするという北側の主張を韓国は受け入れた。これは、朴槿恵政権の「新たな南北関係定立」という意図を考慮したからである。
    2.主席代表のクラス(級)と関連し、韓国側は南北関係を総括する部署の長である統一部長官が会談に参加し、北側もこれに相応しい統一前戦部長が参加することを要求した。
    ・北側はこれに対して「相級(上級?)当局者にしようと提案した。
    ・韓国側は統一部長官と統一前戦部長が適任者であるという考えを北側に説明した上で、北側の立場も勘案し「南北問題を責任を持ち協議・解決できる当局者」とするよう提案した。
    ・北側はこの提案をのまず、代表について南北の発表文を変えることとした。
    3.韓国側は議題についていちいち列挙することなく「当面する緊急に解決しなければならない問題」とすることを提案した。
    ・北側は、彼らが提起した全ての事案を明示して含めなければならないと主張し、この点について南北で異なる「発表文」を発表することとした。

    そして、6月11日、韓国・統一部が代表者を誰にするかについて北朝鮮との合意ができなかったため、6月12日に予定されていた会談が「保留」されたことを発表した。以下がその主要内容である。

    ○南北当局会談を6月12日から13日にソウルで開催する予定であったが、北側から韓国側の代表団のクラス(級)を問題としながら、代表団派遣を保留すると通報してきた。

    1.韓国側は、慣例通りに団長(も記されている)名簿を知らせるようよう要請したが、北側は名簿を同時交換することに固執した。韓国側はこれを受け入れ11日午後1時に板門店で名簿交換をした。
    ・韓国側は、金ナムシク統一部時間を主席代表とし、当局者5名を構成した。
    ・北側は、カン・チヨン祖国平和統一委員会書記局局長(相級(上級?)を主張)を団長とする5名の代表を構成した。

    2.名簿交換直後、北側は韓国側主席代表クラスに対する問題を提起し、韓国側から長官級が出席しなければ南北当局会談は開けないと通告してきた。
    3.韓国側は、権限と責任ある高級(高位)当局者が会って懸案を議論しようと、長官級会談を提案した。
    ・韓国側は統一部長官に相応しい(北側の)主席代表が出席しなければならないとはっきりと要求した。
    ・しかし、非正常な慣行により、権限と責任を認めることが難しい人を長官クラスと言って通告してきており、韓国側が不当な主張を撤回することを会談開催の条件としている。
    4.韓国側は「南北問題を責任を持って協議・解決できる当局者」である統一部次官を主席代表とし、北側は自らが発表した「相級(上級?)当局者」を団長として、会談を開催することを要求した。
    5.韓国側が主席代表を次官クラスに交代させたことについて、北側は南北当局会談に対する愚弄であり、実務接触合意に対する歪曲であることからして、重大な挑発であると見なして代表団の派遣を保留すると一方的に通告してきた。
    6.韓国政府はこうした北朝鮮の立場を非常に遺憾とする。
    ・北朝鮮の主張は、韓国国民の常識と国際的基準に合わない。
    ・北朝鮮がEU諸国と対話をする際に相手国の格と級に合わせて行った慣行がある。
    ・北朝鮮の副相と相手国の局長、北朝鮮の局長と相手国の課長との対話があったことも把握している。
    ・こうしたことからして、今回韓国との対話を拒否するのは、これまでに事例と合致しない。
    7.北朝鮮が、南北対話を行うことを望む。

    韓国・統一部、「남북당국회담 관련 정부 입장」、http://www.unikorea.go.kr/CmsWeb/viewPage.req?idx=PG0000000344&boardDataId=BD0000225872&CP0000000002_BO0000000027_Action=boardView&CP0000000002_BO0000000027_ViewName=board/BoardView

    対話決裂の直接的原因は団長を誰にするかという問題である。上記のコメントでも指摘されているが、朝鮮語の「상급」を「相級」つまり大臣クラスと解釈するのか「上級」つまり職責は特定しないが地位の高い者と解釈するのかで意味が違ってくる。北朝鮮側の解釈が大臣クラスであるということについては、コメントに書いたとおり、「朝鮮中央通信」の日本語訳が「閣僚級」、英訳で「minister-level」というところからも確認できる。韓国政府が「상급」をどのように翻訳しているのかは、現時点で昨日発表された声明が英訳されていないので分からない。

    韓国・統一部の説明で不可解な点は、なぜ実務接触では「南北関係を総括する部署の長である統一部長官」を提案しておきながら、11日午後1時に「せーの」で同時交換した「団長名簿」で代表を統一部次官と格下げしたのかということである。

    情報機関によるインテリジェンスはあったのかも知れないが、公式的には「北朝鮮が事前に代表を知らせてこなかった」と言っている訳なので、北朝鮮側が祖国平和統一委員会の書記局局長を出そうが統一戦線部長を出そうが、統一部長官でも良かったはずである。この点については、北朝鮮が「実務接触では統一部長官を出すと言ったのに」と反発するのにも一理ある。

    しかし、もしかすると韓国側はここでの保留を見込んで次官に格下げした可能性もある。つまり、韓国側は北朝鮮が、少なくとも韓国が判断する上で格が低い「相級当局者」を出してくるという読みをし、敢えて韓国側も次官に格下げしておき名簿を公開させ、一旦、会談「保留」。そして、再度、北朝鮮と名簿に提示された人物を確認した上で、「格上げ」作業をやろうとした可能性がある。

    今回の南北対話はどちらかというと北朝鮮が積極的で、今回の「保留」で事実上6.15関連行事についての話し合いは相当に難しくなったものの、北朝鮮が朴槿恵さんと彼女のお父さんとの関係を見越して持ち出してきた7.4関連行事についての話し合いにはまだ余裕がある。北朝鮮は、6.15がこけても7.4でという目論見もあるはずなので、それを逆手に取った可能性は十分にある。

    北朝鮮側の当局者が「相級」であるかについては、一つ前の記事のコメントを下さった方が分析しておられるので、是非、そちらを参照していただきたい。一つだけ書いておけば、そのコメントにもあるように、今回の提案は祖国平和統一委員会によるものなので、その書記局局長が出てくるというのは理にかなっているともいえる。もちろん、韓国側が主張するように同局長が「責任を持って協議・解決」できるのかは疑問であるが、いずれにせよ懸案は本国決済(金正恩決済)ということになるはずなので、そこまで「クラス」にこだわる必要はないのかも知れない。もちろん、どこまでを「金正恩決済」にするのかという裁量権が重要であることは間違いない。

    ともあれ、その底流にあるのは南北間の「体面競争」であるような気もする。「クラス」を巡り対立するなどその典型だと思うが、韓国側が主張するように「EUとはやったのに」というのは全く通用しない。EUとの交渉と「南朝鮮」との交渉では全く意味が違うことは韓国とて十分に承知しているはずだ。「実利」が唯一重要なEU諸国との交渉と「実利」も重要だがそれ以上に「体面」を重視する交渉では全く異なる。

    「朝鮮中央通信」には、会談「保留」に関する報道は見られないが、『労働新聞』にはそれらしい記事があった。ここから、「で、北朝鮮側は」と書こうと思ったが、再び『労働新聞』HPに接続できなくなってしまった。安定して動作していそうだったので、コピーしておかなかったのがまずかった。これについては、追記することにする。

    <追記>
    『労働新聞』HPが復活していた。今回の南北会談と関係がありそうな記事は「対話雰囲気造成は重要な現実的問題」と題する記事である。内容を見ると、タイトルの通り「対話の雰囲気作りは、北南関係を改善するために必ず先行しなければならない問題である」とし、こうした雰囲気作りに反する米韓軍事演習などの「敵対視政策」を非難する内容である。内容的には、今日会談が行われていても行われていなくても出せるものなので、会談が実現していてもプレッシャーをかけるために事前に準備されていたのかも知れない。したがって、代表問題で会談が保留になったことについては一切触れられていない。北朝鮮側としても本件に関して何らかのステートメントは出さなければならないはずなので、今夜の「朝鮮中央TV」と「朝鮮中央通信」で何らかを発表するかも知れない。

    『労働新聞』、「대화분위기조성은 중요한 현실적문제」、http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2013-06-12-0034&chAction=D

    「祖国平和統一委員会スポークスマン談話」:南北朝鮮関係の展開、中朝、米中関係 (2013年5月29日 「労働新聞」)

    南北関係の5月末以降の動きについてまとめておく。タイトルの「談話」については、それが出されてすぐに記事にしようと思ったのだが、忙しかったこともあり「下書き」のまま残されてしまったので、これから見ていくことにする。

    この「談話」では、北朝鮮による「6.15共同行事」提案を韓国が受け入れなかったことに対し、「傀儡一味は、27日、統一部スポークスマン声明と記者会見なる場所で、6.15共同行事を開催することについての我々の提案に対して『誠意があるのか疑問である』だの、『南南葛藤を引き起こそうとするもの』だの、『政治的意図が盛り込まれている』だの言いながら、事実上、全面否定した」と非難している。また、「南朝鮮企業家の開城工業地区訪問についても許可しないという立場を公式に表明し、『材料及び完成品搬出のための南北当局間対話』なるものを再び騒ぎ立てた」と非難している。

    それまでの韓国報道では、韓国企業の関係者が開城訪問を希望しても北朝鮮が許可しなかったと伝えられてきたが、この「談話」では、「我々は開城工業地区事業を再開し、正常化するために、これまで南朝鮮企業家の工業地区訪問を許可し、製品搬出を承認する意図も示しながら誠意を見せてきた」としながらも、「しかし、南朝鮮当局は、原資材と製品搬出のような副次的な問題に固執し」と述べている。北朝鮮が「製品搬出を承認し」たのであれば、韓国側の報道と異なる内容となっているが、「副次的な問題に固執しながら」としていることからすると、訪問人員の条件や搬出物資等について双方の主張が合致しなかった可能性がある。

    「談話」では、「あけすけに言えば、工業地区事業が再開され、正常化されれば、原資材と製品搬出問題は、そもそも提起されなかったはずであり、これは会談で解決される問題でもない」、「はっきりとしたことは、我々は対話自体を否定したこともなく、開城工業地区の正常化のための根本的問題解決を終始一貫主張してきた」と北朝鮮が開城工団の再開を強く希望している様子がうかがえる。「根本的問題」なるものは、米韓合同軍事演習と韓国政府関係者や韓国マスコミの「最高尊厳を冒涜する」ような発言や記事であったはずである。基本的には、こうした「根本的問題」はまったく解決していないと思うがどうなのだろうか。

    「談話」でも「さらに見過ごすことができないことは、我々の最高尊厳を冒涜し、並進路線を中傷しておきながら、誰それに『言行自制』だの何だのといっていることである」と、韓国による「最高尊厳冒涜」が続いているという認識を表している。

    「談話」は、「南朝鮮当局は、意味のない言葉遊びをやめ、6.15共同行事に対する南側団体の参加を即時許可しなければなら」ず、「もし、『南南葛藤』が憂慮されるのであれば、当局者も統一行事に参加すればよい」と「当局者」間の接触も許容していることを臭わせている。

    そして、「我々は工業地区企業家の訪問を既に承認した状態であり、彼らが訪問したら製品搬出問題を含む工業地区正常化と関連した如何なる協議も行われる」とし、韓国が「身辺安全」について「安心できないのであれば、開城工業地区管理委員会の関係者も共に訪問すれば良い」と再び「当局者」の訪問も許容することを強調している。ただし、「製品搬出問題も含む・・・協議も行われる」としていることからすると、訪問許可は「製品搬出のため」ではなく、「協議のため」ということなのであろう。談話は「機会はいつでもあるものではない」と締めくくっている。

    『労働新聞』、「조국평화통일위원회 대변인담화」、http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2013-05-29-0032&chAction=L

    この「談話」が出されてから9日後に「祖国平和統一委員会スポークスマン特別談話文」なるものを北朝鮮が発表した。南北関係が進展しない中で、対話を再開する口実(excuse)となる6月15日が日に日に近づき、焦りを感じたのであろう。前出の「基本的問題」なんら解決していないにもかかわらず、韓国と対話をするためには金正日さんの大きな功績である6.15を口実にしないと、対内的に明快に説明できる口実はなかなか見いだせない。対内的に米国は「対話を言い出した」ことになっているが、「南朝鮮」については「青瓦台の主人」が無礼千万な発言を続けており、なかなか折れてこない。この状況では、やはり6.15しかないのであろう。

    それを示すかのように「特別談話文」も「歴史的な6.15共同宣言が発表されてから既に13年になる。全ての朝鮮民族は、三千里国土に祖国統一の機運が熱く溢れていた6.15時代を忘れることができず、一日も早く北南関係が改善され、統一の新たな局面が開くことを切実に願っている」という文から始まる。

    「特別談話文」では開城工団問題に加えて6.15関連の新たな提案もしている。「南朝鮮企業家たちは、血の涙を流しながら、開城工業地区正常化と金剛山観光再開を求めており、北と南に離散した家族たちは、生きている内に血縁者との再開を強く願っている」とし、金剛山観光や離散家族問題についても韓国側と協議する準備があることを示している。金剛山も離散家族再会も6.15関連で実現した事案であるので、このタイミングで話し合おうというのは理にかなっている。特に、離散家族問題は、韓国国民に対して(北朝鮮も韓国政府も)アピールできる人道的な問題でもある。

    「特別談話文」を少し読み続けると「我々は、これまで破局に直面した北南関係を改善し、金剛山観光再開と開城工業地区正常化、人道主義問題解決のためにできる努力はすべてしてきた」と「人道主義問題」をしっかりと挙げてきている。金剛山観光については、昨年、「李明博逆徒の悪行」を理由に一方的に韓国の現代が建設した施設を接収したはずである。少し前に、羅先から中国人を中心とした観光客を北朝鮮と中国のジョイントベンチャーである観光船に乗せて金剛山に連れて行ったという番組を「朝鮮中央TV」で見たが、金剛山観光事業はあまりうまくいっていないのであろうか。番組では、主に金剛山の自然や寺などを紹介しながら、観光客のコメントを伝えていた。現代が建設したと思われる施設は紹介されていなかったと記憶しているが、もしかすると施設の管理・保全などについて問題が出てきているのかも知れない。

    話がそれたが、「特別談話文」では北朝鮮が韓国政府をどのように見ているのかについておもしろい表現をしている。「我々は、南朝鮮当局者が言っているように『南南葛藤』をもたらそうとしたこともないし、南側当局を『ハッパジ(핫바지:愚か者、知識のない人、人を低めて言う言葉)』と見なしたこともなく、「ヨン・モゴラ(엿먹어라:くそ食らえ、勝手にしろ、ざけんじゃねーよ)』というように対応したこともない」がそれであるが、確かに北朝鮮公式報道の中にこうした字句は使われていないが、意味的には相当に近いものはある。李明博さんにたいしては、「ハッパジ」こそ使っていなかったはずだが、「(政治)ムシク(無識:知識がない、馬鹿)」は何回も使っていた。朴槿恵さんに対してこの表現は使わなかったはずだが、「並進路線」を彼女が非難したときは、「もっと勉強をした方が良い」と「助言」していた。ともあれ、「そんなことを言ったことはない」かどうかはさておき、「今はそうは見なしていない」という立場表明であることは間違いない。ちなみに、この「特別談話文」では、「傀儡一味」など北朝鮮がよく使う表現はなく「南側当局、南朝鮮当局」で一貫している。

    「特別談話文」は北朝鮮のこのような態度を無視したのは「南朝鮮当局」であると非難するも、「我々は言い争いをして、空虚な言葉遊びと口げんかで時間を費やす考えはない。もし、北と南がお互いに自分の主張だけをするのであれば、北南間の懸案はいつまでも解決の糸口すら見いだすことができなくな」ると続ける。前に「談話」では「南朝鮮当局は、意味のない言葉遊びをやめ」と韓国側に求めていたが、いよいよ北朝鮮側から「言葉遊びをやめ」ることにしたのであろう。開城工団問題では北朝鮮は「実力行使」をしてきたが、それでも軍事的な実力行使は控えてきた。激しい「言葉遊び」の応酬はしたが、それなりの自制は働いていたということであろう。

    続けて、「特別談話文」は4つの提案をする。

    1.6.15を契機に開城工業地区正常化と金剛山観光再開のための北南当局間の会談を持つことを提案する。会談で必要であれば、離散家族、親戚訪問をはじめとした人道主義問題も協議することができる。会談の場所と日時は、南側が適宜定めてよい。

    これについては、北朝鮮が「開城工業地区正常化 and 金剛山観光再開」と考えているのか「開城工業地区正常化 and/or 金剛山観光再開」と考えているのかが不明である。韓国側としては、当面、開城工団問題を解決したいと考えているはずなので、もし北朝鮮が前者を想定しているとすれば、この点について摩擦が生じる可能性がある。会談場所については「どこでもよい」と言っているが、韓国が「ソウル」を提案しても応じるつもりであろうか。北側政府関係者がいつ最後に訪問したのかは記憶が定かではないが、少なくとも李明博政権期はなかったはずである。韓国側が敢えてソウルを提案する理由もないので、会談場所は板門店か開城となるであろう。

    2.開城工業地区と金剛山国際観光特区に対する南朝鮮企業家の訪問と実務接触を至急実現し、北南民間団体間の往来と接触、協力事業を積極的に推進するよう提案する。我々は、既に開城工業地区企業家の訪問を承認した状態にあり、金剛山企業関係者の我々側地域訪問も許容する。それだけではなく、南朝鮮民間団体の往来と接触、協力事業の扉を広く開いている。

    この項目を読んで気がついたのだが、北朝鮮は「金剛山観光再開」と「金剛山国際観光特区に対する南朝鮮企業家の訪問」を分けている。前者は韓国人観光客の受け入れ、後者は現代など金剛山観光事業を担ってきた企業関係者の再訪ということであろう。「南朝鮮民間団体」については、当然、韓国で有罪判決を受け投獄されているノ・スヒさんが属する汎民連のような親北的な団体も含むことを北朝鮮は期待しているはずである。韓国側は、こうした団体の訪朝は認めないであろうが、これも摩擦を引き起こす原因になる可能性がある。

    3.6.15共同宣言発表13周年民族共同行事を実現し、同時に7.4共同声明発表41周年を北南当局が参加して共同で記念することを提案する。北と南の民間団体と共に当局の参加の下で6.15共同宣言と7.4共同声明発表を共同で記念すれば、意義が大きく、北南関係改善に寄与するであろう。

    6.15行事がどうなるかにかかっているが、もし6.15を契機に南北関係が好転するのであれば、7.4行事を共同で行うことも可能であろう。もしうまくいくのであれば、数週間の間に南北共同行事が連続で行われることになるので、南北間の融和ムードに貢献することは間違いない。

    4.北南当局会談と南朝鮮企業家の開城工業地区及び金剛山訪問、民族共同行事などを保障し、北南間の懸案を円滑に解決していくために、南朝鮮当局が我々の提案に応じるのであれば、即時、板門店赤十字連絡通路を再び開く問題をはじめとした通信、連絡と関連した諸般の措置が取られるであろう。

    そういえば、北朝鮮は板門店の連絡事務所も「李明博逆徒の悪行」や米韓の「敵対視政策」を理由に閉鎖していた。赤十字が主導する形で行われる離散家族の再開を真剣に考えているのであれば、当然、「板門店赤十字連絡通路」は再開しなければならない。

    「特別談話文」は、「南朝鮮当局が本当に信頼構築と北南関係改善を願うのであれば、今回の機会を逃してはならず、不必要な被害妄想にとりつかれた憶測と疑心を捨て、我々の大様な勇断と誠意ある提案に積極的に回答しなければならない」と結んでいる。興味深いのは、北朝鮮が朴槿恵さんの「信頼構築プロセス」について「信頼構築」という言葉を使いながら、肯定的な認識を示している点である。

    『労働新聞』、「조국평화통일위원회 대변인 특별담화문」、http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2013-06-07-0030&chAction=L

    韓国側が北朝鮮の提案を原則受け入れたことに対して、北朝鮮が「朝鮮中央通信」の記者の質問に答える形で「祖国平和統一委員会スポークスマン回答」を6月7日に出した。実に素早い反応である。

    「回答」では、「我々は南側が我々の当局者会談提案を肯定的に即時受け入れたことを評価する」としつつ、「数年間も中断された不信が極度に至っている現状を考慮し、南側が提起した長官級会談を前にそのための北南当局実務接触が必要だと考える」と実務協議を事前に行うことを求めている。通常の国際関係であれば、トップ会談というのは実務当局者が十分に議論をした上で行われる象徴的な会談となるが、南北の間ではそうしたチャンネルは遮断されているはずなので、突然、トップが会って話し合うというのは不安がある。韓国側がなぜこのような大胆な提案をしたのかは分からないが、情勢明らかに韓国側に利があると判断したのであろう。一方北朝鮮側は、韓国側の出方を探った上でトップ会談に臨みたいという考えであろう。韓国側が北朝鮮が飲むことができない提案をしてきた場合、再提案をするか、椅子を蹴って会議場を出て行くこともできる。

    北朝鮮は、「9日に開城で北南当局者実務接触を持つことを提案」し、「7日14時から板門店赤十字連絡通路を稼働させ、ここを通じて我々の上記提案に対する南側回答を送ることを望む」としている。韓国側がこの提案にどのように応じたのかは、まだ確認していない。

    『労働新聞』、「조국평화통일위원회 대변인대답」、http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2013-06-08-0025&chAction=T

    <追記>:中朝、米中関係
    北朝鮮の対話提案は、上記の6.15という事情の他にも日本時間の今朝から始まっている米中首脳会談とも関連があろう。崔龍海特使の帰国後、北朝鮮は彼の訪中実績について一切発表していない。これを実績がなかったと見るのかあったと見るのかはを現時点で判断することはできないが、いずれ米中会談の内容が発表されれば、そこから同特使訪朝の成果も見えてくるであろう。

    中国メディアが習近平さんが北朝鮮に対して「核放棄」を求めたと伝えていることは既に書いたが、韓国との融和についてはあまり伝えられていなかった記憶がある。もしかすると、中国は北朝鮮が容易に「核放棄」をしないことを承知した上で、あるいは北朝鮮と水面下で調整をした上で、「核放棄」を前面に出したプレスリリースをし、裏では北朝鮮が比較的受け入れやすい韓国との対話を求めたのかも知れない。北朝鮮としても開城工団の再開は必要であるし、習近平さんはオバマさんへの手土産を準備しなければならないという点でお互いの利害が一致した可能性はある。米国とて、南北対話に表だって反対することはできない。

    上述の南北関係が、今後、どのように展開するのかは分からないが、ざっと読んだ「中央日報」には、韓国は長官級の会談場所として本当にソウルを選択する可能性があるということも書かれていた。南北対話再開が中国からの求めであったとするならば、北朝鮮は柔軟に対応するであろうし、仮に挫折しかかっても6月27日からの朴槿恵訪中の際に、中国側が仲介役を演じることになろう。

    米国は南北対話についてどのような考えを表明しているのか。6日の米国務省定例記者会見での報道官の受け答えを見ておこう。ちなみに、この日の報道官はPsakiという最近デビューした若い女性報道官である。デビュー当日には、ケリー国務長官がわざわざブリーフィングルームにやってきてエールを送っていた。まだ経験が短いせいか、記者に突っ込まれたり、言い間違いをしたりする場面があり、なかなかカワイイ。ヌーランドおばさんのようなパワフルな報道官になるにはまだまだ修行が必要なようだ。

    そのPsaki(何と発音するのだろう?サキ、パキ、プサキ?)さんいよると、米国は「開城工団問題について南北が協議をすることを歓迎し、南北関係が改善することを支持する」としつつも、「南北対話に核問題も含む全ての問題が含まれるわけではない」という認識を示した上で、「北朝鮮が(米国との)対話をするためには、2005年の共同声明を含む全ての国際的履行義務をはたすという多くのステップが残っている」と南北対話は核放棄を前提とする米国の路線にインパクトを与える(impactfulという造語を使った)ものではないという認識を示した。

    定例記者会見では、「ベルリンで米国の北朝鮮人権問題担当特使がベルリンで李英浩と会ったと韓国メディアが伝えているが」という質問もあり、どう報道官は「それは間違った報道だと思う」と答えている。李英浩は北朝鮮の温泉保養施設に軟禁されているという噂があるが、ベルリンという話はどこから飛び出してきたのだろうか。

    U.S. Department of State, "Daily Press Briefing", http://www.state.gov/r/pa/prs/dpb/2013/06/210367.htm#DPRK

    「祖国平和統一委員会スポークスマン北南当局者実務接触を持つことを南側に提案」 (2013年6月7日 「朝鮮中央通信」)

    実は、北朝鮮が6.15関連の南北対話を提案して以降の記事を書こうと思っていたのだが、「下書き」の状態でずっと止まっていた。

    本記事にはその経緯は書かないが、北朝鮮の「南北当局者会談」を韓国が受け入れたことについて、北朝鮮が「我々は南側が我々の当局会談提案を肯定的に即時受け入れたことを評価する」と「朝鮮中央通信」が伝えた。北朝鮮は以前の提案で「会談場所は南朝鮮の都合の良い場所で」としていたが、今回は「開城で」と場所を指定してきた。やはり、開城工団の問題は北朝鮮にとって何よりも重要なのであろう。これは、決して悪いことではなく、何回も繰り返してきたように、北朝鮮の「ドル箱」云々以上に、南北協力で唯一成功し、それが一定期間継続してきた事業であり、さらに北朝鮮にとって「ドル箱」であることと共に、韓国企業にとっても実質的な利益をもたらす事業になっているので、双方に有益な協力事業であることは間違いない。

    本件についての米国の評価などはまだ確認していないが、いずれにせよ、対話が始まることは良いことである。北朝鮮はハードルを挙げておきながら、「当局者間対話」受け入れることでハードルを下げた形を取っているが、韓国側の「非核」を前提条件とした対話には全くなっていない。

    しかし、「体面」維持競争の様相が強かった南北関係で、双方の体面が何とか保たれる、つまり、韓国にとっては、「北朝鮮が当局者対話に妥協した」、北朝鮮にとっては「韓国が『非核』を前提条件とせず対話に応じた」ということで対話が始まればともかくも良いことだと思う。

    今、6月6日に行われた「少年団」行事の生放送を見ているが、この子供たちのために少しでも良い方向でことが進めば良いと思う。

    「朝鮮民主主義人民共和国経済開発区法採択」 (2013年6月5日 「朝鮮中央通信」)

    「朝鮮中央通信」が「経済開発区法」を採択したと伝えた。法律は「最高人民会議常任委員会政令」として5月29日に発表されたとしているが、「労働新聞」に掲載されている「公式文献」にはこの法律は掲載されていない。

    法律は「7章(62条)、付則(2条)で構成され」ており、「経済開発区法の基本、経済開発区の創設、開発、管理と経済開発区での経済活動、奨励及び特恵、提訴および紛争解決について」書かれている。

    「経済開発区は、国家が特別に定めた法規により経済活動に特恵が保障される特殊経済地帯である」であるとし、その類型として「工業開発区、農業開発区、鉱業開発区、輸出加工区、先端技術開発区」などに分類されるとしている。これを見る限りでは、サービス業を除く全ての分野をカバーしており、特定の地域を「特殊経済地帯」とするというよりも、直接投資による北朝鮮国内での企業活動を勧誘している感がある。特に、農業や鉱業は規模も大きく、中央の管理が強い部門であるはずだが、そこに外資を呼び込んで何をやらせようとしているのかが今一つ見えてこない。

    それとの関連で法律では「経済開発区を管理所属により地方級経済開発区と中央級経済開発区に区分して管理する」としているが、「管理所属」なるものが中央国家機関(農業省や工業省)との関連であるとするならば、「地方級経済開発区」なるものがどのように規定されているのかも分からない。北朝鮮は、中央の統制を弱めて地方や企業所、農場の自律性を高める試みも行われているので、「地方級経済開発区」設置にはその意味合いも含まれるのかも知れない。

    「経済開発区」には「外国の法人、個人と経済組織、海外同胞は経済開発区に投資し、企業、支社、事務所等を設立して経済活動を自由に行うことができる」としている。投資と企業創設はよいとし、「経済活動を自由に」の範囲がどこまでなのか明確ではない。

    北朝鮮は「投資家に土地利用、労働者の採用、税金納付のような分野で特恵的な経済活動条件を保障する」としている。土地使用料や法人税の減免措置を講じ、労働者の採用は北朝鮮が一括して行うということであろう。中国の初期の経済特区のやり方である。

    また、「経済開発区でインフラ建設部門と先端科学技術部門、国際市場で競争力が高い製品を生産する部門の投資を特別に奨励する」としている。インフラ整備に外資を導入しようということであろうが、電力のように外資だけの力ではどうにもならない部分についてはどうしようと考えているのだろうか。ミャンマーに進出した日系企業が頻繁に発生する停電に対処するために大型の発電機を設置しているという話をどこかで読んだが、ミャンマー以上に電力事情が悪い北朝鮮では、この問題を大きなネックとなるはずである。

    「経済開発区で投資家に付与された権利、投資財産と合法的な所得は法的保護を受ける」という既定もあるが、開城工団の現状からすると「投資財産」がどのように「法的保護を受け」られるのかは疑問である。

    いずれにせよ「経済開発区の開発と管理、企業運営のような経済活動には、この法とその施行既定、施策」を読んでみなければよく分からないので、どこかに法律全文が公開されているのであれば読みたいものである。

    なお、「管理経済貿易地帯と黄金坪・威化島経済地帯、開城工業地区と金剛山国際観光特区には、この法を適用しない」としており、既存の経済特区とは分けた扱いにするようだ。

    昨日、「呼訴文 『馬息嶺速度』を創造し、社会主義建設の全ての前戦で新たな全盛期を打ち開こう」なるものを金正恩さんが出した。「スキー場建設を予定通りに行え」という話は分かったのだが、それ以上の特段のメッセージは発見することができず記事にすることができなかった。このところ、経済関連の現地指導が多い金正恩さんが、経済部門に発破を掛け、さらに「軍人建設者」を鼓舞・称賛するという話なのかもしれないが、これも別に新しい話ではない。

    スキー場など建設して朝鮮人民のレジャーの機会を増やそうという発想は良いとし、アイススケートやローラスケートと異なりスキー場は平壌から離れた場所に建設しなければならず、人民が仕事帰りに立ち寄るというわけにはいかない。さらに、リフトを設置して稼働すれば電力も消費するし、スキー板とブーツをそれなりの数準備しなければならない。スケート同様、朝鮮人民は普段着の防寒具でスキーをするのであろうが、ずいぶん寒いのではないだろうか。外国人環境核を誘致し、外貨を獲得する目的があるという説もあるが、外国人といっても比較的訪朝が容易な中国人が中心となろう。中国のスキー人気が分からないし、中国のスキー場に行かずにわざわざ北朝鮮までスキーをやりに来るだろうか。さらに、外国人専用のコースを作らない限り、朝鮮人民と外国人が接触してしまう。外国語とスキーが担当な案内員を養成するのも大変であろう。主題の記事との関連で言えば、「観光開発区」はリストアップされていないので、外国人観光客のことはあまり考えていないのかもしれない。

    このようなことを考えると、「富強祖国」の象徴とはなっても、スケート場のように朝鮮人民に使われるのかは大いに疑問である。「朝鮮中央通信」は「呼訴文」を朗読する崔龍海さんの姿も伝えているが、彼に読み上げさせていることからすれば、かなり力を入れているには違いない。

    「呼訴文」を朗読する崔龍海
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    Source: KCNA, http://www.kcna.kp/kcna.user.home.retrieveHomeInfoList.kcmsf

    また、彼の背景にあるスキー場鳥瞰図を見ると、コースもいくつかある規模の大きなスキー場のようだ。金正恩さんは、現地指導をした際に「宿泊施設やホテルを建設しろ」と指示したはずだが、それほど人がやってくるのだろうか。

    「経済開発区法」も「呼訴文」も今ひとつよく分からない。

    『労働新聞』、「호소문 《마식령속도》를 창조하여 사회주의건설의 모든 전선에서 새로운 전성기를 열어나가자」、http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2013-06-05-0001&chAction=D

    「20時報道」:6.1国際児童デーも平和モードで (2013年6月2日 「朝鮮中央TV」)

    昨年も、6月1日の国際児童デー(6.1国際児童節)にちなんで行われた北朝鮮各地の子供たちが参加する行事を紹介した。ことしも同じような行事が開催されたが、昨年とのはっきりとした違いは、平和モードの中でこの行事が進行したということである。

    平壌での国際児童デー
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    Source: KCTV, https://www.youtube.com/watch?v=agJ5UxU3mHg

    去年はこの時期、李明博攻撃に北朝鮮が熱を上げていた時期で、子供たちがやる競技の中にも李明博人形や米兵人形をたたき壊す競技や、ミサイルを積んだ車両のモデルに人民軍の軍服で乗車した子供たちが映し出されていた。

    今年は、「20時報道」を見る限りでは、軍事関係の者は一切出てこず、「光明星3-2」号機組み立て競争のようなものだけが映し出されている。チーム名は「タンクチーム」と「飛行機チーム」と去年と変わりないが、どうやらこういうチームのネーミングは恒例となっているようだ。

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    Source: KCTV, https://www.youtube.com/watch?v=agJ5UxU3mHg

    昨年のオリンピックで北朝鮮選手が重量挙げやレスリングで金メダルを取ったことを反映してか、キョンサン幼稚園の子供たちが重量挙げ競技やレスリングを模した競技をしている。
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    Source: KCTV, https://www.youtube.com/watch?v=agJ5UxU3mHg

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    Source: KCTV, https://www.youtube.com/watch?v=agJ5UxU3mHg

    また、南北朝鮮両方にある片足で相手を倒す競技もやっていた。
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    Source: KCTV, https://www.youtube.com/watch?v=agJ5UxU3mHg

    「20時報道」を見ていたら、2つの場面でぼかしが入っていた。下は咸興市での子供公演であるが、ドラムに書かれている文字にぼかしが入っている。ドラムメーカーなのだろうか。日本製の楽器はいつも映し出されているので敢えてぼかしを入れる必要はないと思うのだが。
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    Source: KCTV, https://www.youtube.com/watch?v=agJ5UxU3mHg

    下は海州市での行事の様子であるが、後ろの立て札らしきものと子供の前に置いてある飲料水のボトルらしきものにぼかしが入れてある。立て札は偶然そこにあったものというよりもこの行事のために建てたように見えるが、それにぼかしを入れるのはなぜだろうか。消さなければそのまま見過ごすものなのかもしれないが、消されると気になる。
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    Source: KCTV, https://www.youtube.com/watch?v=agJ5UxU3mHg

    金正恩さんの魚関係の視察がこのところ続いたことからか、魚介類を運ぶ競技も各地で行われたようだ。下は清津市にて。
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    Source: KCTV, https://www.youtube.com/watch?v=agJ5UxU3mHg

    北朝鮮というのは、その時その時の雰囲気をこうした行事に反映させるので、おもしろい。子供たちの服装も去年と比べ鮮やかになったように見えるがどうだろうか。

    「社説 偉大な金正日同志が朝中親善の強化発展のために積み上げられた業績は永遠不滅である」中朝関係不変を強調、金正恩親書の内容、中国の反応 (2013年6月2日 「労働新聞」)

    『労働新聞』に表題のような「社説」がトップで掲載された。崔龍海帰国後、彼の訪中成果に関する報道は一切なく、崔龍海さんは金正恩現地指導に何もなかったように随行している。

    この「社説」は、形式的には金正日さんが1983年6月1日から13日まで、初めての外遊先として中国を訪問してから30周年に際してという理由で掲載されている。昨年この時期の『労働新聞』を確認しても、こうした記事は掲載されていない。

    30周年という節目の年であることは事実であるとしても、やはりこうした「社説」を掲載した背景には崔龍海訪中があるはずである。『朝鮮中央通信』では、このところ中国関係の記事が再びかなり多くなっている。今、『朝鮮中央通信』サイトへの接続ができなくなっているので確認できないが、昨日辺りは中国外務省報道官が米国を非難した(ハッカー攻撃についてであったような記憶があるが、失念)としながら、米中関係が悪化していることを強調していた。(今日の『労働新聞』には米ロ関係が悪化しているという記事が出ているようだ。まだ読んでいないが。)

    タイトルの「社説」は、前半部分で金正日さんが残した中朝親善関係強化の実績を振り返り、後半では今回の崔龍海訪中、そして金正恩さんの考えを紹介しながら今後の中朝関係について述べている。

    金日成・金正日が築いた中朝関係について「中朝両国の領導者が外交的慣例と格式を超越し、親兄弟のようにしばしば往来しながら、友愛の情を分かち合い深めることは、一つの伝統的美風となった」と中朝関係が一般的な外交関係以上の特別の関係であることを強調している。

    そしてこのような関係は金正日さんが訪中期間中に「両国の党と人民の伝統的な親善関係も代を継いで継続されなければならない」と語ったと紹介し、中国の新体制も北朝鮮の新体制も「親善関係」を維持するべきであると考えていることを「遺訓」として紹介している。

    また、中国の指導者たちは「中国の党と人民は、永遠に朝鮮人民の信頼できる戦友として留まると確言した」と紹介し、中朝の軍事的関係は永遠に不変のものであることを強調している。

    そして、金正日訪中から「今日に至る30年の歴史は、中朝親善が何をもっても打ち崩すことができない不敗の親善であることを証明している」とし、12月のロケット発射に対する安保理決議採択以来中朝関係が悪化したとしても、それは一時的なものであるという認識を示している。米国が両国関係に楔を入れようとしたが、それはできなかったということであろうか。

    さらに、「過去30年間両国関係と東北アジア情勢は非常に複雑であった」と述べながら、冷戦終結、中韓国交樹立など「複雑な情勢」があったという認識を示した上で、「両国の党と人民は、情勢が常に変化する中でも社会主義建設と祖国統一のための闘争でお互いに支持をし、緊密に協力してきた」と、南北朝鮮統一、台湾吸収統一という両国の「祖国統一」事業のためにお互いに支持をしながら協力してきたと述べている。もちろん、中国と「南朝鮮」は強い関係にあるし、北朝鮮とてそれに反発をして台湾を使ったこともあるので、現実的にはそうではない。

    続いて、金正恩さんの言葉が紹介される。どうやら、崔龍海特使は習近平さんとの会談で彼の言葉を読み上げたようだ。金正恩さんは「朝中両国は、山と川で繋がっている親善的な隣国であり、長い歴史的な根幹を持っている朝中親善は、両党、両国の老世代領導者たちの心血と労苦が刻まれている共同の貴重な財産である」と語ったと彼の言葉として紹介している(翻訳の関係で過去記事の翻訳と字句が異なるかも知れないが、原文の字句は全く変わっていない)。

    そして、習近平体制下の中国については、「中国人民は、中国特色の社会主義の旗を高く掲げ、鄧小平理論と『三つの代表』重要思想、科学的発展観を指針として、豊かな社会を全面的に建設し、中華民族の復興を実現するために力強い闘争を行っている」と、『労働新聞』で報じられた崔龍海発言より一歩踏み込んだ形で中国の経済建設を紹介している。

    「三つの代表」とは、マルクス・レーニン主義、毛沢東思想、鄧小平理論という中国共産党の行動指針であるが、もちろん、現代中中国においては「鄧小平理論」がその主柱となっていることはいうまでもない。北朝鮮において、「三つの代表」や「鄧小平理論」がどのような形で紹介されているのかは実に興味深い。『労働新聞』の「社説」でこのように用語として使われていることからすると、朝鮮人民もこのことについては何らかの知識はあるということであろう。「三つの代表」の詳細については、下記を参照されたい。

    中国共産党ニュース、「中国共産党規約 総綱」、http://jpn_cpc.people.com.cn/69716/4726318.html

    一方、北朝鮮の状況については「今日、我々の革命は、偉大な転換と一大躍進の歴史的段階に入った」としている。「偉大な転換」を彼らがどのように解釈しているのかは問題であるが、いずれにしろ何かを変えていこうという意志があることだけは分かる。

    そのためにも中朝関係は重要ということで、「敬愛する金正恩同志は、偉大な大元帥様の崇高な意を受け継ぎ、中朝親善関係発展に大きな関心を傾けておられる。中朝両国の老世代領導者たちが作り、花を咲かせた伝統的な中朝親善を強固なものに発展させることは、我が党と人民の確固たる意志であり関心である」と金正恩さんの言葉を紹介している。

    「社説」は、「両党、両国の最高指導者たちの深い関心の中で、新たな時代的要求と中朝人民の共同の念願に合うようにさらに開花するであろう」と締めくくっている。

    さて、金正日訪中の意味深い年、意味深い月に金正恩訪中は実現するのであろうか。時間がないので書けないが、米国は「社説」に書かれているような摩擦を中国との間で引き起こしながらも、良好な関係にあると思われる。特に、中国にTPP参加を呼びかけていたという事実は、実に驚きであった。私は、TPPに中国封じ込めという側面を強く感じていたのだが、中国に参加を呼びかけたとすると、一方では中国に国際的なルールに従うことを促しつつ、TPP参加について国民的な合意がなかなか得られない日本に対する圧力となる。

    「<科学映画>禁煙栄養丸」 (2013年5月31日 「朝鮮中央TV」)

    「朝鮮中央TV」の「20時報道」では、30日、「世界禁煙の日」にちなんで大同江外交団会館で行事が行われた伝えている。同報道は31日付けの『労働新聞』でも報じられている。行事にはWHOなど国際機関の関係者、北朝鮮の保健部門、省や中央の関連部門の幹部が出席した。

    「世界禁煙の日」行事で演説するWHO臨時代理代表と思われる人物
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    Source: KCTV, 2013年5月31日放送

    北朝鮮が制作したと思われる禁煙啓蒙動画「1日にタバコ1箱を吸うと」と朝鮮語と英語で書かれている。
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    Source: KCTV, 2013年5月31日放送

    参加者は、「禁煙研究普及センター」も訪問した。
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    Source: KCTV, 2013年5月31日放送

    5月末の「世界禁煙の日」にちなんだ行事は毎年行われているようで、昨年もこの時期に同じような報道があった。もしかすると、拙ブログにもそれに関して何か書いたかもしれないが、確認はしていない。

    昨日の「朝鮮中央TV」を早回しで見ていくと、禁煙に関する興味深い科学映画が放映されている。

    「人々の生活と健康に百害あって一利なしのタバコ。最近、タバコをやめるための禁煙運動が世界的な趨勢となっている中で、新しい禁煙方法が開発され注目されています」というアナウンスで始まるこの科学映画のタイトルは「禁煙栄養丸」である。

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    Source: KCTV, 2013年5月31日放送

    「禁煙栄養丸」は、「3大革命赤旗を戦取した戦闘場・平壌市高麗薬生産管理局西城区域の薬草管理所」で開発された。
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    Source: KCTV, 2013年5月31日放送

    「禁煙栄養丸」は、「禁煙習慣をなくし、タバコをやめさせるだけではなく、喫煙したことによる否定的な影響をなくす」効果があるという。

    続いて、「我々の生活の中でタバコほど人々の健康を害する嗜好品はないでしょう」というナレーションとともに北朝鮮のタバコにプリントされた「注意:タバコは肺がん及び心臓疾患の基本原因になります」という文字が大きく映し出される。
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    Source: KCTV, 2013年5月31日放送

    タバコの箱に印刷されている喫煙による害の告知は、北朝鮮のタバコに印刷されているような「肺がんや心臓疾患を引き起こす危険性」に関するものと「妊婦が喫煙をすると胎児に悪影響を与える」というものの2種類のようだ。北朝鮮のタバコには後者は印刷されていないが、北朝鮮では妊娠年齢にある女性の喫煙は社会的に容認されていないことからして、必要ないのであろう。

    ナレーションは「『3才で付いた癖は80才まで続く』ということわざがあるように、一度吸い出したタバコをやめるのはとても大変です」と続け、タバコがやめられなくなり理由を科学的に説明する。そして「タバコをやめるためには、タバコをやめるという強い意志と共に、信頼できる禁煙手段の助けを受けることが必要です」と説明する。

    その上で「禁煙栄養丸は信頼できる禁煙手段です」とし、「禁煙栄養丸」の成分となっている薬草や製造方法について解説し、「人体に害を与えることなく、タバコの味とタバコを吸いたいという気持ちをなくす天然物質が得られる」と説明する。

    完成した「禁煙栄養丸」
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    Source: KCTV, 2013年5月31日放送

    廉価版であろうか、袋入りの黒玉もある
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    Source: KCTV, 2013年5月31日放送

    服用方法は、「1日3回、1錠ずつ食事の1時間前に口の中でゆっくりと溶かしながら飲む」とのことである。すると「禁煙栄養丸」が「舌のニコチンの味を感じる部分を変化させて、ニコチンが味を感じる部分に付着しても独特の信号を神経に送らなくなる」ということだ。すると「人々はタバコの味を感じなくなるので、タバコを吸いたい気持ちがなくなり、ニコチンにより減少していた神経伝達物質の数が正常値に戻り、7日から10日で正常な状態となる」とのことである。どうやら、タバコを吸ってもタバコの味を感じないようにさせて、吸っても禁煙状態から来るイライラを解消することができないと感じさせることで、タバコをやめさせるということのようだ。番組でも説明しているように、禁断症状に勝つ強い意志は必要なようだが、解説通りの効果があれば助力となることは間違いなさそうだ。

    また、「禁煙栄養丸」は、「栄養丸」という名前が付いているので、その効果は禁煙だけではなく喫煙経験から生じる「心臓部分の不快感」、「記憶力喪失」、「咳」などにも特効があると経験者は語っているとのことである。

    成分:紅参、ハトムギ、砂糖(判読困難)等
    用途:禁煙の目的、呼吸器、循環器、消化器疾患治療に使う
    使用法:1日3回、1錠ずつ食事の1時間前に口の中でゆっくりと溶かしながら飲む
    保管:暗く低温の場所に6ヶ月保管(判読困難)
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    Source: KCTV, 2013年5月31日放送

    「我々は皆、健康と生活に百害あって一利なしのタバコを決定的にやめましょう」というナレーションでこの番組は終わる。この映画は2005年に制作されたものであることが番組最後のクレジットから分かる。

    『労働新聞』、「세계금연의 날에 즈음한 행사 진행」、http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2013-05-31-0014&chAction=S&strSearch=%EB%8B%B4%EB%B0%B0

    こうした番組がなぜ2005年に制作されたのかについてもう少し調べてみた。真偽のほどはさておき、2006年頃に金正日さんが医師から禁煙を勧められたという報道があり、2008年に脳卒中で倒れた後には禁煙をしていたという話もある。このような話は、いずれも噂話の類いなのできちんと確認することはできないが、北朝鮮と国際機関との関係を調べると興味深いことが分かる。

    WHOにFCTC(WHO Framework Convention on Tobacco Control)、日本語では「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」と条約名のように訳されている会議体がある。このページに何か北朝鮮に関わる情報がないのか調べてみたところ、下記のようなレポートが公表されていた。

    WHO FCTC, 2012 Global Progress Report on implementation of the WHO Framework Convention on Tobacco Control, http://www.who.int/fctc/reporting/2012_global_progress_report_en.pdf

    タバコ規制の進捗状況についての報告書であるが、このレポート作成に際して、北朝鮮はきちんと自国の状況に関する報告を2012年4月2日にしている。条約締結国(必ずしも国ではないが)174中、126(72%)が報告をしたということである。100ページ近いレポートなので、斜め読みしかしていないが、北朝鮮は、2005年7月26日にこの条約に加盟したが、昨年4月まで2度の報告機会があったものの一度も報告を出していない。日本は2005年2月27日に加盟し、2007年と2010年に報告をしている。北朝鮮が2012年からきちんと報告を出し始めたという点は、金正恩体制発足という点からしても興味深い。実に地味な国際条約ではあるが、こうした条約の「国際的義務履行」(条文全部を読んでいないので、報告提出が義務化されているかは未確認であるが、することを求められていることは事実であろう)をきちんとしていくという決定を新体制でしたというのであれば、それは金正恩体制の一つの変化として評価できる。

    また、北朝鮮のタバコ規制の履行状況を見ると、2008年7月26日までの履行達成目標中、「誤解を招くような表現をしないこと」、「健康被害を表記すること」、「警告について関連機関の承認を得ること」、「はっきりと見え、読みやすい警告を出すこと」、「警告文がタバコの箱の印刷面積の30%より少なくないこと」という8つの3年間達成目標の内5つを達成しており、2つの5年間達成目標では「タバコ広告の包括的禁止」を達成している。日本が3年目標で達成しているのは北朝鮮が達成した事項の他に「タバコの箱の両面に警告を表示すること」であるが、5年目標の「タバコ広告の包括的禁止」は達成できていない(2010年7月2日現在)。

    <追記>
    上記報告書を読んでいたら、完全禁煙場所指定についても実施状況が出ていた。北朝鮮が実施済みとしている場所は「政府庁舎内」(北朝鮮報道では、政府関係者が庁舎内で喫煙している様子は映し出されたことがないと記憶している。もちろん元帥は例外)、「健康・医療施設」(平壌産院乳腺腫瘍研究所を視察した元帥は治療器具を目の前にして喫煙していたような。スポーツジムでは喫煙していた)、「教育施設」(電子図書館や幼稚園では、さすがの元帥も喫煙していなかったような)、「大学」(北朝鮮の大学生はタバコを吸わないのか)、「航空機内」(高麗航空は全面禁煙だったような記憶がある)、「フェリーボート」(食堂船は別扱いなのだろう)、「地上公共交通」(バスは禁煙だろうが、鉄道については大いに疑わしい)、「文化施設」(モランボン公演を見ながら元帥はタバコを吸っていた)、「商業施設」(第一百貨店や児童百貨店を視察した際に喫煙をしていたかは失念)。日本は実に正直に申告しているのか、禁煙が実施された場所は一つもない(「完全禁煙」の定義が国により異なると報告書には書かれている)。

    上で紹介した2005年制作の「科学映画」を見る限り、「警告文がタバコの箱の印刷面積の30%より少ないくないこと」は達成されていないように見えるが、その後、もっと大きな警告を印刷するようになったのかも知れない。

    ところで、「世界禁煙の日」を前後して金正恩さんは現地視察を精力的に行っているが、彼の喫煙状況について確認しておく。

    5月28日の『労働新聞』には「朝鮮人民軍最高司令官金正恩同志が朝鮮人民軍第313軍部隊管下の8月25日水産事業所を現地指導された」という記事が出ており、その様子を伝える「朝鮮中央TV」の「録画報道」にはタバコを手に持った姿が映っている(左手の人差し指と中指の間)。
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    Source: KCTV, 2013年5月31日放送

    また、同報道の中ではタバコこそ吸っていないが、いつものように彼の座っている椅子の横に灰皿が置かれている写真も紹介されている。

    『労働新聞』、「조선인민군 최고사령관 김 정 은동지께서 조선인민군 제313군부대관하 8월25일수산사업소를 현지지도하시였다」、http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2013-05-28-0001

    その後、ソンドウォン青年野外劇場、青年団野営所、人民軍1521号企業所、針金工場・樹脂工場などの現地視察を行っているが、いずれの「録画報道」にもタバコを持っている場面や灰皿は映し出されていない。彼が「世界禁煙の日」を意識していることはないであろうが、偶然でもおもしろい。

    それにしても、社会儀礼としてタバコを勧め合うような北朝鮮でいつになれば禁煙の日が来るのかは実に疑問である。子供の頃見ていた刑事ドラマではいつでもデカ部屋はタバコが煙っていた日本でも禁煙が進んでいるので、北朝鮮もそういう日が来るのだろうか。

    上に書いたように、金正日さんが自ら禁煙をし、それを朝鮮人に促したという噂話もあるが、禁煙を強制すればいくら一心団結の北朝鮮であっても、暴動が起こるかもしれない。その意味、金正恩さんが愛煙家である方が、国は安定しているのであろう。
    プロフィール

    川口智彦

    Author:川口智彦
    「크는 아바이(成長するオッサン)」

    ブログの基本用語:
    「元帥様」=金正恩朝鮮労働党委員長(上の絵の人物)、2016年12月20日から「最高領導者同志」とも呼ばれる
    2021年1月11日から「総秘書同志」
    「首領様」=金日成主席
    「将軍様」=金正日総書記
    「政治局員候補」=金ヨジョン(「元帥様」の妹)、2018年2月11日から「第1副部長同志」とも
    「白頭の血統」=金一族
    「大元帥様達」=「首領様」と「将軍様」
    「女史」=李雪主夫人(2018.07.26より「同志」に)

    우 그림은 충정 담아 아이가 그린 경애하는 김정은원수님이십니다.


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