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    「ケリー・王共同記者会見」:中国の立場、六者会談の条件、米国は平和協定交渉も? (2016年2月23日 「US Department of State 」)

    26日、米中間で対北朝鮮安保理決議の草案内容で合意があったと各メディアが報じている。しかし、TASSによると、ロシアは、「この草案作成が開始されてから1ヶ月以上経過しているが、我々には少し前に手渡されただけで内容を掌握していない」ので、「草案について検討するための時間が必要である」としている。ロシアは、草案が事実上、中米間で作成されたことについて不快感を表明しているのであろうが、北朝鮮がロシアとの関係を強めている状況からすると、ロシアがすんなり草案内容に合意するかどうかは不透明である。

    TASS, Russia needs time to study UNSC draft resolution on North Korea — Foreign ministry, http://tass.ru/en/politics/858942

    草案内容については、北朝鮮に対する金融制裁強化、NADA等の北朝鮮機関を制裁対象に加える、地下資源の輸出禁止と制限、北朝鮮との交易貨物の検査強化、航空燃料の輸出停止などが伝えられている。草案をきちんと見ないことには、その効果を論ずることはできないが、いずれも中国がどれだけ徹底するかにかかっており、制裁項目の追加や強化だけではその効果は限定的といわざるを得ない。想像ではあるが、項目追加や強化で米国の顔を立て、中国のバックドアは開け放された状態が続くのではないかと思う。ただし、いざというときには新たな制裁をちらつかせながら、北朝鮮に自制を求めることは考えているのかもしれない。

    23日に、ケリー米国務長官と王毅外交部長の共同記者会見がワシントンで行われた。この場での、王外交部長の発言をよく読むと、上に書いたことが垣間見える。

    U.S. Department of State, Remarks With Chinese Foreign Minister Wang Yi, http://www.state.gov/secretary/remarks/2016/02/253164.htm

    王部長は「この協議において重要な進展があり、近日中に決議案の草案内容について合意を得られ、採択される可能性が高いとみている。合意事項が採択されれば、北朝鮮のさらなる核・ミサイル計画を効果的に制限することができる」としている。

    しかし、続けて北京会談で表明した中国の立場を繰り返しながら、「安保理決議は朝鮮半島の核問題の根本的な解決には繋がらない。根本的な解決のためには、対話と交渉のトラックに戻らなければならない」と念を押している。

    そして、「我々(中国)は、朝鮮半島の非核化と休戦協定を平和協定に置き換えることを並行的(parallel tracks) に進めることを求めている」とし、「それがもっとも合理的な方法であり」、その理由は「優先目標である朝鮮半島の非核化に光を当てながらも、同時に関係諸国の懸念を伝えることにも努める」ことができるからであるとている。

    北朝鮮が主張している「休戦協定を停戦協定にすることが、朝鮮半島の非核化に繋がる」というの論理を展開していることである。その入り口として中国はこれまでどおり六者会談を通じた交渉を行うべきであるとしているが、六者会談再開の条件について米国と折り合いが付いたのかどうかは不明である。ただし、ケリー長官も記者の質問に答える形で注目すべき発言をしている。

    「米国の目的は、制裁を繰り返すことではない。それでは、問題は解決しない。(米国の)目的は、イランに対してそうであったように全ての国が団結して、これ以上核兵器が増えることは世界にとって安全ではないということを金正恩と北朝鮮に認識させることである。それが基本的な決定である。そして我々が必要とすることは、北朝鮮がテーブルについて、非核化の交渉をするならば、国際社会に復帰できるということと、究極的には米国と平和協定を結ぶことで朝鮮半島における全て未解決問題を解決できるということを理解することである。」

    と述べている点である。これは、米国が六者会談再開の条件を引き下げるとも取れる発言である。その真意については、来週開催される米国務省定例記者会で問答されるであろうが、「北朝鮮がテーブルについて、非核化の交渉をする」というのが、現状に北朝鮮が手を付けない段階で米国が交渉をする準備があることを意味するのであれば、六者会談が再開される可能性はある。

    とにかく、安保理決議を無視した北朝鮮の行動を見過ごすというのは、核拡散という観点から米国にとっても中国にとっても好ましくない。その意味では、北朝鮮の核実験に対する象徴的な制裁強化をすることは必要であろう。もちろん、上記のとおり、その象徴的な制裁強化に中国がどのような実効力を持たせ、その実効力を加減しつつ、北朝鮮をどのように交渉のテーブルに引き出すのかが中国の役割であろう。

    王部長は「(中米)両国は、今後2ヶ月間(in the coming two months)の朝鮮半島情勢を注意深く見守る必要があると考えている」とも述べている。「今後2ヶ月」とはっきりと期間を区切っているが、韓国が開城を閉鎖し、日本が独自制裁再開・強化、そして安保理決議がこのまま採択されれば、確かに2ヶ月ぐらいは「注意深く見守る必要」があることは間違いない。その意味から、王部長は関係国にこれ以上緊張を高めないよう自制を求めている。しかし、2ヶ月後の5月には、北朝鮮で「労働党第7回大会」が予定されている。中国が何を考えているのかは分からないが、同大会を契機に北朝鮮との間で六者会談に繋がるような何らかの合意を引き出す準備をしている(あるいは、するつもり)なのかもしれない。懸案は金正恩訪中であるが、米国との平和協定交渉の可能性を示しつつ、金正恩を説得することができるのかどうか。中国にとっては、核なき北朝鮮(金正恩体制であっても)が米国と平和協定を結び、存在し続けるのが望ましいシナリオである。

    <追記:2月27日>
    2月26日の米国務省定例記者会見で、記者の「米国は中国の提案どおりに北朝鮮と直接対話を始めるのか」という問いに、米国務省報道官は「(直接対話ではなく、)六者会談が再び動き出すを見たい」と述べた上で、「北朝鮮が我々と話をする、直接対話をするために出てくるのであれば、我々は非核化に焦点を絞りたい。我々はそれに取りかかることを宣言したが、この中核となる問題(北朝鮮の非核化の問題)以外について対話するつもりはない」と述べている。

    この国務省報道官の発言は、米国が「無条件」で六者会談の再開を認めていることを確認するものであり、さらに「非核化の問題」について北朝鮮と直接対話をする準備があることを示している。「非核化以外の問題は話さない」としているものの、非核化と平和協定の問題がリンクしていることは米国も十分に承知しているはずなので、今後、米朝関係で大きな進展がある可能性がある。

    対北朝鮮安保理制裁決議について中国が同意したのは、米国の「六者会談無条件再開」と「北朝鮮との直接対話」の約束を取り付けられたのがその背景にあるのかもしれない。

    昨日は、王部長の「今後2ヶ月」を「労働党第7回大会」と結びつけて書いたが、もしかするとそれ以上に「六者会談再開」、米朝直接協議再開などの大きな動きが見られるのかもしれない。

    より厳しい制裁内容の安保理決議と、前提条件無しの六者会談再開を上手く組み合わせた今回の決定に北朝鮮はどのように応ずるのだろうか。「平和協定締結」までもある程度視野に入れた米国の合意を、これほどまで時間を掛けて取り付けた中国の顔を潰すようなことがあれば、中国は本当に激怒するであろう。もしかすると、北朝鮮側にはこうしたメッセージは水面下で伝わっているのかもしれないが。

    U.S. Department of State, Daily Press Briefing, http://www.state.gov/r/pa/prs/dpb/2016/02/253722.htm#DPRK

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    Author:川口智彦
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    「元帥様」=金正恩朝鮮労働党委員長(上の絵の人物)、2016年12月20日から「最高領導者同志」とも呼ばれる
    2021年1月11日から「総秘書同志」
    「首領様」=金日成主席
    「将軍様」=金正日総書記
    「政治局員候補」=金ヨジョン(「元帥様」の妹)、2018年2月11日から「第1副部長同志」とも
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