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    「北朝鮮を揺るがした写真・・・我が軍では何が?」(2012年3月6日「ヘラルド経済新聞」)

    「大隊の対敵観 スローガン
               とっ捕まえよう! 金正日
                        打(撃)て!打(撃)ち殺せ!金正恩」

    韓国軍の部隊内の一室に張り出された上のようなスローガン付きの写真に北朝鮮は大いに怒っているのであるが、思えば、その写真がどのメディアに公開されたのかという確認を忘れていた。多少苦労したが、Yahoo Koreaなどを検索していたら、この記事は「ヘラルド経済新聞」に2月28日に掲載されたことが分かった。

    オリジナル記事のURLは発見できたものの、記事は既に削除されていた。意図的な削除か「賞味期限切れ」の削除かは分からない。しかし、この記事のフォローアップに同記事に掲載された写真が再び出ているので削除理由は後者であろう。

    http://biz.heraldm.com/common/Detail.jsp?newsMLId=20120305000430

    この記事を読むと、写真を掲載した「ヘラルド経済新聞社」と韓国軍にとって北朝鮮の強い反発は想定外であったということが分かる。実は、私はこの写真の掲載が計算され尽くされた謀略ではないかという疑念を抱いていたのだが、少なくとも表面上はそうではないようだ。記事によると、この写真は「(ヘラルド経済新聞の記者が)軍が主催したある行事で、制止されることもなく撮影したもの」とのことである。軍は、この写真報道後も「知らん顔」をしていたが、北朝鮮が非難を始めたので、慌てて経緯の調査に乗り出し、「仁川の部隊の掲示物は、指揮官が将兵の対敵観確立のために貼ったものにすぎない」と釈明した、とのことである。

    上に「計算され尽くされた謀略ではないか」と書いたのは、北朝鮮の反応が実に早かったことと、それに抗議する集会などへの人民の動員が実に組織的かつ迅速に行われたからである。国内向けに表明された北朝鮮の非難は3月3日付けの「労働新聞」に「3月2日付けの朝鮮人民軍最高司令部スポークスマン宣言」として掲載されている。

    過去の記事にも書いたが、北朝鮮は、この時期どちらにしても李明博政権を攻撃する予定だったので、この写真のリークは、好都合であったのであろう。もしかすると、大衆動員は米韓合同訓練反対などの名目でそもそも予定されており、韓国が良いネタを提供してくれたので矛先をそちらに転換しただけなのかもしれない。特に、金正恩さんを侮辱したということで全軍と全朝鮮人民が激怒しているという設定は、金正恩さんの権威高揚にも大いに役立つ。

    北朝鮮は、米朝交渉の進展と韓国の総選挙・大統領選挙の結果を踏まえ、いずれ対南融和に出ることは間違いない。その時に、韓国との間に残る懸案、「天安号」と「ヨンピョン島」の落としどころを探さなければならない。前者については、北朝鮮は認めておらず、また韓国内でも調査結果について疑念が出されていることから、落としどころを見つけるのはそんなに難しくないであろうが、後者についてはなかなか難しい。その時に、ヨンピョン島に対する砲撃の相殺条件として今回の「尊厳冒涜事件」を使うかもしれない。

    いずれにせよ、今回の写真流出は、「ヘラルド経済新聞」のフォローアップ記事にも書かれているように、韓国軍の失態であるといえるであろう。

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    川口智彦

    Author:川口智彦
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    「元帥様」=金正恩朝鮮労働党委員長(上の絵の人物)、2016年12月20日から「最高領導者同志」とも呼ばれる
    2021年1月11日から「総秘書同志」
    「首領様」=金日成主席
    「将軍様」=金正日総書記
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