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    「金正恩 セポ地区畜産基地建設を完結し、畜産業発展で新たな転換をもたらそう 党・国家経済機関責任幹部とした談話 2015年1月28日」 (2015年1月30日 「労働新聞」)

    金正恩の新たな「労作」が発表された。この「労作」では、「セポ地区」と言ってはいるものの、北朝鮮全体の畜産業の現状とその発展方向について述べおり、いくつか興味深い点がある。

    『労働新聞』、「김정은 세포지구 축산기지건설을 다그치며 축산업발전에서 새로운 전환을 일으키자 당,국가경제기관 책임일군들과 한 담화」、http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2015-01-30-0001&chAction=L

    「労作」は、「今日、我々の前にある重要な課業は、人民生活を速く高めることです」という一文で始まる。そして、人民の日々の苦労を労いながら「生活上、困難を経験しながらも、我が党だけを固く信じて従い、偉大な首領様たちに純潔な道徳義理を尽くしているこのように良い我々人民に余裕のある生活をさせることができないでいることを考えると、眠ることができません」と続けている。お父さんもお爺さんも人民のために「何夜も徹夜をした」ということになっているので、「元帥様」も「眠ることができない」のは分かるが、やはり「人民生活の向上」が彼にとって重要な問題であることは伝わってくる。これは、「新年の辞」を取り上げながら「私は、今年の新年の辞で農産、畜産、水産を3大軸とし、人民の食の問題を解決することについての課業を提示しました」と2015年の重要な「課業」であるということを繰り返し強調していることからも分かる。

    「セポ台地開墾」は、お爺さん・お父さんの代からの構想であったと先代の遺訓を示しつつも、「我が国で数万町歩の牧草地を造成し、大規模畜産基地を建設するのは今回が初めてです」と「セポ台地開墾」を金正恩時代の業績としている。この辺り、遺訓貫徹と業績を上手く結びつけている。同時に「党の呼びかけに応じて、セポ地区に駆けつけた人民軍軍人と突撃隊員」の功績を評価し、「闘争目標を速く終えるようにしなければなりません」と継続的な努力を求めることも忘れていない。

    「セポ地区開墾」における課題として、「セポ地区の土地は、全般的に腐葉土の含量が少なく、酸性化して」いるので、「土地改良をどのようにするのかにセポチ地区畜産業の運命がかかっている」と述べ、この問題に対処するためには「土壌分析を具体的に行った結果に基づき、消石灰、焼き灰をまき、堆肥のような有機質肥料をたくさん使って土壌の栄養物質含量を決定的に増やさなければなりません」と指示している。やはり、化学肥料の生産が北朝鮮農業の一つのネックとなっているようだ。

    こうした問題を解決する方法として、「私が当該幹部に『牧草地造成と牧場』という図書を贈ってやったのだが、外国のよい牧草地造成経験を我々の実状に合うように受け入れなければなりません」と「自力更生」だけではなく、外国の「経験」も積極的に活用することを求めている。『牧草地造成と牧場』というのは外国の図書なのだろうが、「元帥様」の頭の中には幼少期を過ごしたスイスの牧草地のイメージがあるのかもしれない。

    この他に「セポ地区」については、「畜産基地」完成後、飼育する家畜についての問題についても触れ、「セポ地区畜産基地建設に党中央委員会、内閣、中央機関が全て関心を差し向け、力を入れなければなりません」と結んでいる。

    この「労作」のポイントは、話が「セポ地区畜産基地」だけで終わらず、「セポ地区蓄銭基地建設を終えるのと共に、国の全般的畜産業を画期的に発展させなければなりません」と北朝鮮全体の畜産業に及んでいる点である。

    まず、北朝鮮の畜産業の現状について「畜産基地で生産を正常化すれば、多くの肉と卵を生産して人民に供給することができます。しかし、幹部が畜産基地を作ることだけで仕事を終え、正常運営対策をきちんと立てず、停滞している単位が少なくありません」と「(農場)幹部」を批判している。

    こうした問題を打開するために「既に作られた畜産基地で生産を正常化することは、単純な経済実務的事業ではなく、偉大な将軍様の領導業績固守して輝かせるための重要な政治的事業です」と思想的側面を一応強調しつつ、「私が以前、大同江果樹総合農場を現地指導しながら、果樹農場間で生産競争をしなさいと言ったのだが、畜産部門の領導業績単位でも社会主義競争の熱風を巻き起こし、畜産物生産で飛躍をもたらすようにしなければなりません」と「社会主義競争」と断りつつも「競争」原理導入を示唆している。

    これで終わりかと思いきや、「協同農場の共同畜産と農村世帯の個人畜産を発展させなければなりません」とさらに経済改革的な内容が続く。北朝鮮の「農場」を背景とした映画やドラマを見ていても「個人畜産」らしきシーンは出てこない。農耕用の牛を引いている様子は時々出るが、その牛がどこに属しているのかは分からない。農村の家で飼っている動物といえば犬がほとんどで、時々鶏が出てくるぐらいである。

    しかし、「国家の畜産物生産で協同農場の共同畜産と農村世帯の個人畜産が占める割合が少なくありません」と述べ、「個人畜産」が北朝鮮でも増えている現状を認めている。ここで、「共同畜産」という用語が用いられているが、どうやら農場単位で自律的に、恐らくは処分権を有した形で行われている社会主義計画経済外の畜産のことを言っているようである。それを示すかのように「労作」では、「協同農場の共同畜産と農村世帯の個人畜産を発展させることは、国家的な大きな投資なくして畜産物生産を増やすことができる重要は方途となります」と述べている。畜産は、裏庭で野菜を育てるのとは異なり、「投資」が必要となる。これを「国家的な大きな投資」に依存することなく個人あるいは共同「投資」で行うことが「重要な方途」と言っている。それだけではなく、「農村世帯で豚やヤギ、ウサギ、鶏を初めとした家畜をたくさん育て、収入を増やして生活をより潤沢にしなければなりません」とも延べ、換金性の高い畜産物を個人が販売することで収入を得ることを奨励しているようにも読み取れることを言っている。こうした点は、今後の改革との関連で注目しておく必要がある。

    一方、カロリーベースでの食料供給が危うい北朝鮮では、カロリー効率の悪い畜産業を発展させることへの難関もあるようだ。「労作」ではこのことを「餌問題を解決することは、畜産業発展の決定的な保証です」という一文で始まる段落の中に書いている。

    北朝鮮において畜産業がある程度発展した時期はあったようで、「労作」は「過去、一定期間活性化していた畜産業が停滞するようになったのも餌問題を解決できなかったことと関連しています」と述べている。やはり、「苦難の行軍」以降、カロリーベースでの食料事情が悪化し、カロリー効率の悪い畜産業に食料を回すことができなくなったということなのであろう。

    「労作」では食料事情が悪化する前の「首領様」の「教示」を取り上げながら、「家畜の餌問題を解決するための方途は、牧草と肉を取り替えることに関する党の方針を貫徹することにあります。牧草と肉を取り替えるということは、偉大な首領様が既に1950年代に出された命題です。首領様のこの命題には、我が国の現実的条件に合うように家畜の餌問題を解決できる科学的な方途が明示されており、我が国の畜産業発展の基本方向が明確にされています」と述べているが、その「方途」とは何であろうか。

    さらに読み進むと「我々は、首領様が教えて下さったとおり穀物餌の代わりに牧草を利用して畜産業を発展させなければなりません」と述べている。まさに「セポ台地開拓」がそれに当たるというわけである。しかし、畜産には牧草だけでは十分ではなく、大豆などを原料としたタンパク質餌も必要となるので「将軍様は、機会ある事に畜産と農産の環状循環生産体系を徹底して打ち立て、肉生産量と穀物収穫高を同時に高めることができると教えて下さりました」としているものの、「環状循環生産体系」なるものが何なのかはこの「労作」には詳しく書かれていない。

    また、餌に添加する栄養分については「餌添加剤問題も解決しなければなりません。今、少なからぬ畜産単位で餌添加剤を外国から輸入して利用していますが、そのようなことをしていては畜産基地をしっかりと運営することはできません」、「我が国に餌添加剤を生産する工場がありますが、それらの工場でも原料を(外国から)買って添加剤を生産しています」としている。餌の「添加剤」いったい何なのか、その原料が何なのかについてはきちんと調べていないが、どうやらこれも北朝鮮における畜産業発展のネックとなっているようだ。

    この「労作」では、短期間に実現することが不可能であると認識しているためか、「党創建70周年記念の大祝典まで」といった期限設定はされていない。しかし、「食の質を向上させる問題」がこの「大祝典」までに解決すべき大きな課題である音は間違いない。

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    >餌添加剤

    これみたいです。
    http://www.futabafeed.co.jp/html/seihin2.html

    化学工業製品の要素が強そうなので、これで「個人・共同」畜産と社会主義経済のバランスをとろうとの目論見ではないでしょうか。

    餌添加剤

    コメントを頂きながら、お返事が遅れてしまい申し訳ございません。添加剤、ご紹介いただいたものに類するもののようですね。日本の畜産現場で何をどのように食べさせているのか大変関心があります。昨日出された「70周年スローガン」の中にもこれに関するものがあったような気がします。

    > >餌添加剤
    >
    > これみたいです。
    > http://www.futabafeed.co.jp/html/seihin2.html
    >
    > 化学工業製品の要素が強そうなので、これで「個人・共同」畜産と社会主義経済のバランスをとろうとの目論見ではないでしょうか。
    プロフィール

    川口智彦

    Author:川口智彦
    「크는 아바이(成長するオッサン)」

    ブログの基本用語:
    「元帥様」=金正恩朝鮮労働党委員長(上の絵の人物)、2016年12月20日から「最高領導者同志」とも呼ばれる
    2021年1月11日から「総秘書同志」
    「首領様」=金日成主席
    「将軍様」=金正日総書記
    「政治局員候補」=金ヨジョン(「元帥様」の妹)、2018年2月11日から「第1副部長同志」とも
    「白頭の血統」=金一族
    「大元帥様達」=「首領様」と「将軍様」
    「女史」=李雪主夫人(2018.07.26より「同志」に)

    우 그림은 충정 담아 아이가 그린 경애하는 김정은원수님이십니다.


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