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    「<TV連続劇>ある女党員の追憶 第5部」 (2013年1月29日 「朝鮮中央TV」)

    さて、「ある女党員の追憶」も最終回の第5部である。

    第5部は「経済生活がきれいではない」作業班員の話の続きである。この作業班員は、牛の角の売値で騙した相手と飲み屋でケンカをして、怪我をして作業班に連れてこられる。作業班では、班員から批判される。特に、元小資本家には「僕も植民地時代に間違った行いをしたが、なぜあなたは植民地時代のクセをまだ直すことができないのか」と諭される。作業班長からは「明日、自己批判書を書いて細胞秘書に提出しろ」と言われる。

    騙した相手に殴られて作業班に来る作業班員
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-01-29-16.flv

    発言をする元小資本家
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-01-29-16.flv

    「自己批判書」という言葉は我々の社会では余り馴染みがないが、ほぼ「始末書」と言い換えることができるような気がする。日本では、上司から始末書を出すように求められのに対して、北朝鮮では作業班員が集まって対象者を批判、それを受けて作業班長が「自己批判書」を党細胞秘書宛に出すことを求めるようである。一般的イメージとしては、北朝鮮の「自己批判」というのは忠誠心が足りないというような理不尽なことがその理由とされているかのように受け取られているが、少なくともこのドラマの中では「始末書」に値するような問題を起こした当事者に「自己批判」を求めているようである。

    その後、党細胞秘書と作業班長は問題のある作業班員に対する処遇について話し合う。作業班長は、彼が悪いのだからと主張するが、党細胞秘書は「彼も我々の作業班員なのだし、なんとか正しい道に導き入れなければ」と言う。これも金正恩「演説」で述べられている「99%の悪い点があり、たった1%の良い点、良心があれば、我々はその良心を大切にしなければならず、大胆に信じて包摂することで、再生の道に導いていかなければな」らないに符合する部分である。

    話し合う作業班長と党細胞秘書
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-01-29-16.flv

    このような党細胞秘書の気持ちも知らず、問題のある作業員は道党委員会に細胞秘書を非行を訴える訴状を書く。訴状の内容は、党細胞秘書は「初歩的な資格も能力もない女性」、「旋盤の修理もしないで、自分のことばかりに気を取られている家族主義的行動をしている」、「元小資本家を救って、自分に感謝させている」、「孤児に自分を姉貴と呼ばせるだけはなく、行きたくもない大学に無理矢理行かせた」、「自分の兄との恋愛関係で問題を起こした女性を自分の工場に連れ戻した」、「鉄道工場の恋人を自分の工場に引っ張ってきたので、鉄道工場で作り始めた旋盤を無駄にした」、「旋盤も作らずに、その恋人と夜道でいちゃつき、労働者を困惑させている」などという、虚偽の内容である。

    訴状を書く作業班員
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-01-29-16.flv

    訴状をこっそりとポストに入れる作業班員
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-01-29-16.flv

    訴状は道党委員会に届き、その報告が地元の党委員長の所に来る。党委員長は、悩みながらもその事実を党細胞秘書に伝える。党細胞秘書は、自分が問題のある作業班員のことを考えているにもかかわらず、そのような仕打ちをされたことを悩む。

    党細胞秘書に話をする党委員長
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-01-29-16.flv

    さらに、党細胞秘書を愛している技術指導員の所に行き「今、(党細胞秘書)は部屋に一人でいるみたいだから、むらむらした気持ちを晴らしてこい」という。これを聞いた技術指導員は「党細胞秘書は、お前が考えるような女性ではない」と激怒して、この作業班員を投げ飛ばす。ここでは、悪者が悪いことをそそのかすという設定であるが、悪者の素行であれこういうことが少なからず北朝鮮でも発生しているということの裏返しであろう。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-01-29-16.flv

    その場に、他の作業班員が駆け込んできて、この作業班員が党細胞秘書を道党委員会に訴えたことが判明する。作業班の党員は集まり、この問題についてどうすべきか話し合う。大方は、この作業班員の行動に憤怒し、作業班のみならず工場から追放しようと考える。しかし、党細胞秘書は「彼が、我が党を批判したのであれば私は絶対に容赦しないけれど、彼は一個人を批判しただけであり、党を批判したわけではありません。私たちは党員じゃないですか。一人は全体のために、全体は一人のためにという党のスローガンの本当の意味は何だと思いますか。私たちはスローガンを壁に貼っただけで、そのように生きることはできませんでした。彼に小市民的な古いブルジョア思想があっても、後ろでそれをせせら笑っているだけで、誰がそれを正してあげようとしましたか。」この党細胞秘書の演説もまた、金正恩「演説」の内容をうまく反映している。ミッキーマウスも「一人はみんなのために、みんなは一人のために(One for all, all for one)」と言うが、まさかミッキーマウスの言葉を引用していることはないであろう。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-01-29-16.flv

    問題のある作業班員は、元小資本家からいかに党細胞秘書が彼のために心を痛めているのかということを伝え聞き、町から出て行こうとする(牛車に荷物を積んで出て行く。社会主義北朝鮮の牛の所有権はとても気になるのだが)。作業班員たちが町を出ようとする彼を見つけて引き留める。彼はその場で党細胞秘書に謝罪をする。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-01-29-16.flv

    問題のある作業班員の案件を解決した党細胞秘書は、少し気が楽になったのか、夜遅くまで仕事をする技術指導員の様子を見に来る。技術指導員は疲れて居眠りをしている。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-01-29-16.flv

    彼の机の上を見ると「愛は受けるものではなく、与えるものだ。白い雪のように心からきれいで・・・」と書かれた紙が置かれている。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-01-29-16.flv

    しばらく後、技術指導員は目を覚まし、党細胞秘書が「あまり無理しないで下さいね」と書き残した紙を見る。窓から外を見ると、去って行く党細胞秘書が見える。なかなか感動的な場面である。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-01-29-16.flv

    翌日、作業班員は旋盤作りに励んでいる。技術指導員は、ギアを持ってやってくるが、白いワイシャツが油で汚れている。党細胞秘書は「シャツを脱いでください」というが、技術指導員は「大丈夫だ(일이 없어)」という。なかなか意味深い「일이 없어(イリオプソ)」だ。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-01-29-16.flv

    問題の「あった」作業班員にも言われて、技術指導員はシャツを脱いだようだ。党細胞秘書は、技術指導員のシャツを洗濯してやる。なかなか心憎い演出である。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-01-29-16.flv

    さらに心憎い演出は、今まで、自分を省みずに作業班のために努力してきた党細胞秘書が当面する問題を解決し、やっと自分に返る。女性らしさというか、鏡を見ながら自分の髪の毛を整えている。金正恩「演説」では言っていないが、決して他人のために自己を捨てろといっているわけではないということなのであろう。優先順位はあるにせよだ。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-01-29-16.flv

    結局、旋盤製作には成功し、作業班長がスイッチを入れると動き出す。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-01-29-16.flv

    作業班員が完成祝いをして踊っていると、おきまりの「偉大な首領様が、自分の力で旋盤製作をしたという話をお聞きになり、我々の工場を現地指導に来られる」というパターンで、党細胞秘書と作業班長が党委員長に呼び出される。ドラマには首領様は直接登場しないがいろいろと「有り難いお言葉」を述べる。細胞秘書には「結婚するとき、私は忙しくて来られないが、祝電は送るから」と言ったそうだ。

    党委員長の車で急遽工場に向かう作業班長と党細胞秘書
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-01-29-16.flv

    これを契機に、工作機械生産運動が始まったという結末である。この運動中で「技術神秘主義」や「保守主義消極性」が克服されたとのことである。

    最後はこういう落ちでがっかりさせる北朝鮮ドラマであるが、それがなければなかなかおもしろいし、よくできている。北朝鮮のテレビドラマをそれほど見ているわけではないが、朝鮮王朝時代以前の歴史物を除いて、軍人が登場しないドラマはあまりない。しかしこの「ある女党員の追憶」には軍人は一人も登場しなかった。もちろん、時代背景は先軍思想が登場する前ではあるが、それでも軍人の一人や二人、出てきてもよさそうなものである。やはり、今回の党細胞秘書大会を労働党の末端組織の会議と位置づけ、人民軍とは一線を画させるという施策、また、経済建設は党が主導権を持つということの表れかもしれない。細胞秘書大会の会場には軍服を着た多くの軍人が前の方に座ってはいたが、主役はネクタイを締めた非軍人の党細胞秘書であったに違いない。

    恋愛もうまく織り込まれた「ある女党員の追憶」は見るに値するドラマだと思った。

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    No title

    長編の御解説を有難うございます。興味深く最後まで読ませていただきました。たかがドラマされどドラマで、今の朝鮮を知る大きな手掛かりになるかと思われます。

    さて、この「問題の作業員」、どうなることかと心配しておりましたが最後には「改心」してしまうところは韓国ドラマと同じです(もっとも韓国ドラマに出てくる悪党は、この作業員とは比べようもない悪党ですが)。

    ただ引っ掛かるのがドラマ上の80年代初頭という時代設定と、それを見る視聴者や制作サイドの意識では可也のズレがあるのではないでしょうか。

    つまり「問題の作業員」はドラマの時代であれば文句無く悪党ということになるのでしょうが、社会主義と市場経済とが並立する今の時代では問題はあるが必要もあるとの位置づけなのではないでしょうか。

    とするならば前回までの、この作業員の問題も「仕事をサボった」というだけで、「市場経済活性化」のためという理由があったわけですから、それほど大きなものでもなく、ドラマ上、どのように展開していくのかと頭を捻っておりましたが、そう来たかと感心いたしました。

    所変わればで、この「問題の作業員」は中国における改革開放時代であれば模範的人物になりえたのでしょうが、そうはならないところが金正恩と鄧小平の差というところでしょう。

    >牛の所有権はとても気になる

    私もとても気になりますが、彼が袋叩きにならないところをみると、本当のところは、何らかの名分で「牛」(バイクや自動車)の私的所有が可能な現代の話との証かと思います。

    悪党作業員

    長文を読んで頂いた上、コメントまで頂きありがとうございます。「朝鮮中央TV」が手数料を払ってくれれば、「才談」のように日本後字幕を付けてYou Tubeにアップロードしてもよりのですが、こちらは長編なので解説を書くのが精一杯でした。お説のとおり、情報が限られている北朝鮮を知るためには、衛星写真を分析して核関連施設の「目くらましカバー」を見つけ出すのも重要でしょうが、こういうドラマにもいちいち注目していく必要があるのではないかと思います。

    ご指摘の「時代的ズレ」の問題ですが、私も初めから気になっていました。金日成さんの業績として「工業機械生産運動」の話にしたいのであれば、これほど回りくどいことをする必要はないと思いますし、記事でも繰り返し触れている「演説」の分かりやすい解説であるとすれば何も80年代まで引き戻さなくても良かったのではないかと思います。

    しかし、「問題の作業班員」の行動は、市場経済というよりも、どちらかというと詐欺に近いものだと思います。もちろん、現代の北朝鮮で品物を右から左に動かして収益を上げる輩がたくさんいて、それで潤うことが許されているのであれば、このドラマを見る朝鮮人民は古き良き時代を感じるのか、現代の「発展ぶり」を感じるかどちらかということでしょう。

    この「問題作業班員」も、結局は植民地時代からのしがらみの中で党員にもなれず、曲がった性格になってしまったという設定でしょう。それを党細胞秘書の渾身の努力で再生させたというのがドラマの根幹なのでしょうが、首領様や将軍様の「恩情」ではなく、党細胞秘書の「恩情」で再生させたというのが、少し新しいところでもあり、金正恩「演説」の中で言いたかったことではないのかという気もしています。

    問題はそれが「成分」という身分制度で社会的に迫害されている人々を本当に何とかしようと思っているのかということですが、そのためには「成分」改革をする必要があるのでしょうね。

    「牛」は考えれば考えるほどおかしいです。彼は農場員でもないのに、なんであんなに立派な牛を持っていたのでしょうか。引っ越しように牛と牛舎のレンタルがあるのかもしれませんね。

    > 長編の御解説を有難うございます。興味深く最後まで読ませていただきました。たかがドラマされどドラマで、今の朝鮮を知る大きな手掛かりになるかと思われます。
    >
    > さて、この「問題の作業員」、どうなることかと心配しておりましたが最後には「改心」してしまうところは韓国ドラマと同じです(もっとも韓国ドラマに出てくる悪党は、この作業員とは比べようもない悪党ですが)。
    >
    > ただ引っ掛かるのがドラマ上の80年代初頭という時代設定と、それを見る視聴者や制作サイドの意識では可也のズレがあるのではないでしょうか。
    >
    > つまり「問題の作業員」はドラマの時代であれば文句無く悪党ということになるのでしょうが、社会主義と市場経済とが並立する今の時代では問題はあるが必要もあるとの位置づけなのではないでしょうか。
    >
    > とするならば前回までの、この作業員の問題も「仕事をサボった」というだけで、「市場経済活性化」のためという理由があったわけですから、それほど大きなものでもなく、ドラマ上、どのように展開していくのかと頭を捻っておりましたが、そう来たかと感心いたしました。
    >
    > 所変わればで、この「問題の作業員」は中国における改革開放時代であれば模範的人物になりえたのでしょうが、そうはならないところが金正恩と鄧小平の差というところでしょう。
    >
    > >牛の所有権はとても気になる
    >
    > 私もとても気になりますが、彼が袋叩きにならないところをみると、本当のところは、何らかの名分で「牛」(バイクや自動車)の私的所有が可能な現代の話との証かと思います。
    プロフィール

    川口智彦

    Author:川口智彦
    「크는 아바이(成長するオッサン)」

    ブログの基本用語:
    「元帥様」=金正恩朝鮮労働党委員長(上の絵の人物)、2016年12月20日から「最高領導者同志」とも呼ばれる
    2021年1月11日から「総秘書同志」
    「首領様」=金日成主席
    「将軍様」=金正日総書記
    「政治局員候補」=金ヨジョン(「元帥様」の妹)、2018年2月11日から「第1副部長同志」とも
    「白頭の血統」=金一族
    「大元帥様達」=「首領様」と「将軍様」
    「女史」=李雪主夫人(2018.07.26より「同志」に)

    우 그림은 충정 담아 아이가 그린 경애하는 김정은원수님이십니다.


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