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    「戦後北朝鮮に残された日本人遺骨の問題について 」(2012年8月14日 「内閣官房長官記者会見」)

    日本の「内閣官房長官記者会見」を本記事で取り上げるのは初めてであろう。昨日、日朝赤十字間で進められてきた日本人遺骨返還問題を政府レベルの協議に引き上げるという発表がなされた。

    首相官邸:「戦後北朝鮮に残された日本人遺骨の問題について 」
    http://www.kantei.go.jp/jp/tyoukanpress/201208/14_p.html

    なんと言っても、日朝赤十字協議が行われた直後に政府がこの問題に関与することを発表したのは実に興味深い。赤十字社側から北朝鮮が「真剣だ」という報告を受けたということをその理由としているが、これまでのスタンスであれば、拉致問題解決がなければ北朝鮮との接触をしないという理由で逃げたであろう。

    しかし今回は、8月29日に北京で行われる予備協議で拉致問題を含むように北朝鮮に求めるという前提で北朝鮮側との接触を決めた。この点については、拉致問題を盾に拉致問題解決を遅らせてきた政府のスタンス変化を評価できる。前から主張しているように、日朝間には拉致問題に止まらず、核・ミサイルという現在進行形の日本国民の生命・財産に直結する問題が存在するので、会議の直接的な議題には含めないにせよ、こちらの問題解決にも繋がるような結果を出してもらいたい。官房長官は、記者会見で「六者とは別途に」という趣旨の発言をしたが、特に米国は、拉致問題以上にそちらに注目しているはずである。現時点で、この問題に関する米国務省の談話はリリースされていないが、恐らく今日リリースされる定例記者会見のスクリプトに記者からの質問に答える形で含まれるであろう(不思議なことに、これまでの定例記者会見で日朝赤十字間接触について、記者は全く質問しなかったのだが・・・)。

    では、なぜこの時点で日本政府はそのスタンスに変化を見せたのであろうか。まず、北朝鮮が持ち出してきた日本人遺骨の収集問題というのが、日本国民を納得させるのに必要十分な問題であるからであろう。奇しくも8月15日前日の決定である(この点について、北朝鮮は計算済みのはずである)。また、金正恩体制が成立し8ヶ月が過ぎ、表面的には、金正日体制と異なる方向に進もうとしているかのごとくみえるなか、政府としてもそろそろ感触を探る時期が来たという判断であろう。

    しかし、その裏には日韓関係と民主党政権の事情があることも間違いない。官房長官は「北朝鮮との接触については、米韓政府と十分な協議をしている」と答弁しているが、米国はさておき、今回の決定は明らかに李明博竹島訪問への報復の要素が含まれている。南北関係が良好な時期ならまだしも、軍事政権後最悪ともいえる状況の中で、日本政府が韓国と十分な協議をすることなく(恐らく、今回は韓国側へは接触するという通告のみなされたのではないか)北朝鮮と接触をするというのは、李明博政権にとっては不快極まりないはずである。過去記事にも書いたように、北朝鮮側は日韓関係のひびを日本側に取り入るという形でうまく利用したということになる。

    また、支持率が大きく低下した野田政権が、解散総選挙に向けて大きな賭に出たということも間違いない。「大きな賭」とはいうものの、勝てば儲けもの、負けてもあまり失うものはないという判断であろう。というのは、北朝鮮との接触で拉致問題まで含めた協議が決まり、拉致問題について何らかの進展がみられれば、国民はそれなりの評価をするであろう。解散総選挙は9月末か10月に行われるのであろうが、民主党政権は「拉致問題解決に向けて進展」という事実だけを示しておけば、その結果が出るのは半年ぐらい先になるであろうから、選挙には影響がない。また、北京の予備接触で「拉致問題を含めない」という結果が出たとしても、「では、日本人の遺骨などいらん」と席を立つこともできないであろうから、「拉致問題解決には繋がらなかったが、遺骨は持ち帰りました」ということで、プラスにはならずとも、国民からネガティブな評価は受けないという判断があるはずだ。

    では、北朝鮮はどう出るのか。上にも書いたように、北朝鮮は諸般の状況を十分に計算した上で日本人遺骨問題を持ち出してて来たはずである。奇しくも、李明博竹島訪問がその追い風となっている。北朝鮮が求めるものは、当面は自然災害に対する日本からの人道支援であろう。赤十字接触という糸口を作ったのもそのためであることは間違いない。赤十字間の接触では「その対価を求めてきていない」ということであるが、当然、「では」という話になるはずだ。拉致問題を議題に含めるのかどうかについてだが、この点についても十分に計算しているはずである。政府間接触となれば、日本がそれを求めてくるということは分かりきっているからである。ただし、「じゃ、遺骨もいらないのね」という強気な態度に出てくるのか、それとも「解決済み」を崩す巧妙なレトリックを使って拉致問題を議題に含むのかについてはなかなか予測がつけにくい。しかし、金正恩政権が掲げる人民生活の向上のためには、日本との関係改善が重要(必須ではない)であることは間違いないので、私は後者ではないかと考えている。しかし、北朝鮮における拉致被害者の現状については、脱北者情報などを通じて流れてきてはいるが、北朝鮮も拉致被害者情報をそれほど体系的に管理しているとも思えないので、拉致問題に着手するにしても、日本をどのような形で納得させるのかというのも難しい課題となろう。

    別記事にしようとは思っているが、米国も水面下で北朝鮮との接触を始めているようである。残念ながら、米朝2.29合意は中断されてしまったが、日朝8.29予備会談は前進することを願っている。

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    川口智彦

    Author:川口智彦
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    「元帥様」=金正恩朝鮮労働党委員長(上の絵の人物)、2016年12月20日から「最高領導者同志」とも呼ばれる
    2021年1月11日から「総秘書同志」
    「首領様」=金日成主席
    「将軍様」=金正日総書記
    「政治局員候補」=金ヨジョン(「元帥様」の妹)、2018年2月11日から「第1副部長同志」とも
    「白頭の血統」=金一族
    「大元帥様達」=「首領様」と「将軍様」
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