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    「<朝鮮芸術映画>心臓に残る人」:「党決定書」の重要性、不正・不敗、党中央委員会政治局拡大会議 (2015年2月16、17日 「朝鮮中央TV」)

    2月16日、17日、2日連続で「心臓に残る人」という「朝鮮芸術映画」が「追憶に残る映画」として放映された。韓国統一部の資料では、この映画の第2部は2007年11月1日放映されている。資料の関係で、第1部の放送日は確定できないが、恐らくその前日であろう。

    この映画であるが、なかなか面白く記事にしようと思っているところだった。何がおもしろいのかというと、「党決定書」なるものがどれほど意味を持つのかを伝えているからだ。さらに、今日(19日)に報道されたように、北朝鮮では18日に「労働党中央委員会政治局拡大会議」が開催された。そこで採択されたのが他でもない「党決定書」である。「<朝鮮芸術映画>心臓に残る人」は、この「拡大会議」を前提に放映されたということになる。

    「心臓に残る人 第2部」
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    Source: KCTV, 2015/02/17放送

    ストーリーは、『労働新聞』の女性記者が地方のタイヤ工場に立派な「党秘書」がいるとう話を聞き取材を進める中で、過去にあった出来事を回想する形で進行する。写真は、女性記者。
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    Source: KCTV, 2015/02/17放送

    主役の「党秘書」は毎度おなじみの金リョンリンである。この人が出る映画やテレビ連続劇は、どれを見ても大体おもしろい。金リョンリンの演技力もあるのだが、大物俳優を出す映画や番組には大物の監督や演出家が付いているのかもしれない。
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    Source: KCTV, 2015/02/17放送

    この「党秘書」がいる「ヨンドンタイヤ工場」は、タイヤ生産を「正常化」することを「細胞総会決定書」に何年も続けて記しているにもかかわらず、それができていない。
    「当面するタイヤ生産正常化するための党細胞総会決定書」
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    Source: KCTV, 2015/02/17放送

    その原因は、技術者を大切にしない幹部の「党事業」に問題があると老練労働者(写真右)が指摘をする。
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    Source: KCTV, 2015/02/17放送

    例によって根本的な問題はタイヤの原料となる生ゴムを調達できないことにある。そのため、「党(細胞)総会」では「合成ゴムを『利用して』タイヤ生産を正常化する」と決定したので、生ゴムと合成ゴムを混ぜて使うことは「党決定」に反するものではないと、「副支配人」(写真左)が主張する。
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    Source: KCTV, 2015/02/17放送

    「党秘書」はその内容を可確認するために、「党副秘書」に文書課から「党決定書」を持ってこさせる。そこには、「我々式合成ゴム原料に全的に依拠しタイヤ生産に関する国家の法的課題を円満に遂行する」と決定書には書かれていた。
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    Source: KCTV, 2015/02/17放送

    そこで「党秘書」は、「決定書」の内容を「合成ゴムも利用しながら」と修正することを提案する。一同、この提案に賛成する。
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    Source: KCTV, 2015/02/17放送

    「党秘書」は、「しかし、修正する前に一つ条件があります」といって、人民服のボタンを外し始める。何をするのかと思いきや、首から提げた革袋に大切にしまってある「党員証」を取り出す。
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    Source: KCTV, 2015/02/17放送

    一同が驚いた顔で「党秘書」を見詰める中、「党秘書」は、「皆さん、党員証を出して下さい。出せないのですか。」、バンと机を叩いて「では、党員証も出さず、党決定を修正しようと言ったのですか。」「私は、良心の呵責で、赤い党員証を胸に抱いたまま党決定を修正することはできません。手が震えてできません。」と怒鳴る。
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    Source: KCTV, 2015/02/17放送

    結局、「ヨンドンタイヤ工場」では、技術者を活用して廃ゴムから再生ゴムを製造することに成功する。「創造的な革新」を成し遂げたということである。

    この映画には、堕落した「工場幹部」も登場する。事件は、ある技術者が事務室で飲酒したということが発端となる。技術者が飲んだ「人参酒」の空瓶を「党秘書」に見せる「技術課長」
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    Source: KCTV, 2015/02/17放送

    確かに、この技術者はかつて酒で問題を引き起こしたのだが、「党秘書」がこの技術者の家を訪れ、「思い切り酒を飲もう」とせまる。
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    Source: KCTV, 2015/02/16放送(第1部)

    しかし技術者は「胃が悪くて」、「党秘書」が勧めるどんぶり酒を飲み干すことができない。「党秘書」は、「これからも酒を飲むのか」と技術者に迫り、技術者は「止めます」と答える。しかし、それだけでは収まらず、「党秘書」は、「それを党細胞総会で誓えるか」とさらに詰め寄る。技術者は、「党決定にするということですか。結構です。決定して下さい」と酒を止める決意を述べる。実は、「党秘書」は酒を飲めない人で、しばらくすると目が回り庭で吐いてしまう。

    ということで、「党秘書」はこの技術者を信じている。その後開催された幹部会議では、「技術課長」が技術者を家族共々工場から追放することを提案する(技術者の妻は同じ工場の製靴部門の労働者である)。「党秘書」は、「副党秘書」に酒瓶の中身が何であったかを確認させ、それが咳の薬であったことが判明する。

    「責任秘書」が、「技術課長」に「なぜ中身も調べないで、いい加減な文書を作成するのか」と叱責すると、「技術課長」に対する批判が始まる(立っているのが「技術課長」)。
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    Source: KCTV, 2015/02/17放送

    党秘書:「やることがないから。点数も稼がなければならないし。」
    担当指導員:「この人が技術課長になってから、集団が不安でどうにもなりません。何か言えば、『反党的だ』、『反革命的だ』と絡んでくるので、和気藹々としていた技術課で課員が警戒し合うようになり、内部告発する事態まで発生しました。この人は今回も、死んだゴムを生かし党の決定を命を賭けて貫徹しようとするイム・ソクチュンさんが、学習会に何回か参加できなかったという理由で、『意識的な行動』だとか『党政策学習不対応分子』などといって、騒ぎ立てました。」
    党秘書:「そもそも、人を責めることに必死になる人ほど、処世術に長けており、ずるいことをします。だから、仕事をする人は落伍分子となり、ノート整理をして絵空事を書いている人が模範と評価されます。続けなさい。」
    担当指導員:「私はこんな人が、我々の革命に必要なのか必要でないのかということを深く考えさせられてしまいます。」
    女性幹部1:「もちろん、李ヨンガクさん(酒を飲んだと責められた技術者)は性格的な問題はあります。しかし、気管支疾患を患いながらも党決定を執行しようと戦闘を展開しています。しかし、課長は反動分子を一匹捕まえるようにあれこれと騒ぎ立てました。幹部同志の皆さん、今、一部の幹部は、この課長のように同志に欠陥があれば胸を痛め、改めてやる方法を模索するのではなく、それを見つけ出したことがまるで大きな功績となるように考え、事件化して厳重に懲罰することで、恐怖を造成しています。そのような行為が、革命隊伍の団結にどのような利益になるというのでしょうか。」
    党秘書:「党では、百害あって一利無しの行為だと教えられました。親愛なる指導者同志は、革命的同志愛について意味深いことを語られながら、我々革命一世は同志一人を救おうと血を流し、命まで捧げたのに、今、一部の幹部たちは口先だけで同志同志と言っているだけで、人を使えるようにできないことは遺憾だと語られた。課長の家族は何人ですか。」
    技術課長:「家族ですか。母と妻、そして子供4人、弟1人、妹2人います。」
    党秘書:「その中で、自分で稼いでいる家族は何人いますか。」
    技術課長:「兄弟はまだ幼く、妻は産後で・・」
    党秘書:「つまり、あなたの家族は課長のお陰で国家から食料配給を受け、学校に通っていると言うことですね。」
    技術課長:「はい」
    党秘書:「それなのに、課長は今日1日、それに値する金や食料を稼ぎ出しましたか。国民所得に何パーセント寄与したと思いますか。」
    党秘書:「(技術課長に)座りなさい。」
    党秘書:「あの人の今日1日の日課を見ても、技術図面にサインをしたのが2件、技術評議会に参加した時間2時間、その他にした仕事はありますか。その他にしたことといえば、釣りの準備のための釣り竿の手入れ、裏の野原に行って釣りの餌にするミミズを捕まえたこと、さらに遅く退勤するように見せるために電灯を付けたまま寝たことしかないでしょう。私の言葉が誇張ですか。」

    釣り竿を勤務時間中にいじる「技術課長」
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    Source: KCTV, 2015/02/17放送

    責任秘書:「(パンと机を叩いて)技術課長、全てのことが事実ですか。そんな人が、未だに課長席に座っているんだ。私は、彼を着実な人だと思ったのに。」
    党秘書:「担いだでしょ。」
    党秘書:「革命に投身するのは嫌、高い待遇は受けたい、能力はない、だから何が出てきますか。処党術、処世術。課長は技術がないので、再生ゴムについて考えることもできないな。だから、時間は余る。そして、党決定の先頭に立つ党員の足を引っ張ろうとするのです。課長は、自分の位置でしっかりと仕事をすることを考えなければなりません。全ての工場が技術者を信じて党決定を採択したではありませんか。だから、我々は彼らを後押ししてやらなければなりません。そして、技術課党員は、再生ゴムが自分たちの手にかかっていると言うことを肝に銘じて奮発しなければなりません。」

    長くなったが、この一連のやりとりを聞いていたので、今日、報道された「党中央委員会政治局拡大会議」の「決定書」の意味は分かりやすかった。この種の「決定書」は、それだけ読んでいると実に分かりにくく、絵空事を並べているように思えてしまうが、映画の中とはいえこのような現場の現実を考えると、納得できる部分もたくさんある。そして、このような組織は決して北朝鮮独特の問題ではないということも痛切に感じるところである。

    さらにおもしろいのは、取材をする女性記者にも問題があるという点である。中央の男性は女性記者の恋人、右にいるのは女性記者の母親である。男性は貿易関係の仕事をしており、海外出張の帰路、海外で買ったお土産を女性記者とその母に届けに来た。
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    Source: KCTV, 2015/02/17放送

    しかし、この男性は貿易で失敗をした。右の女性が新聞記者にその様子を次のように話している。
    女性:「(男性の海外出張に関する)総話が深刻みたい。誰にも言わないでね。資本主義国との貿易取引は、注意しないと騙されるの。対象の把握を誤って国家に大きな損失・・・少し損失を与えたそうよ。」
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    Source: KCTV, 2015/02/17放送

    第1部と第2部があり、さらに時間が行き来するので理解に苦労したが、この女性記者は、この男性との離別を決意し、男性からもらった腕時計を男性に返している。そして、この男性は「資本主義国」に出張、取引で失敗したにもかかわらず、たくさんのお土産を女性と女性の母親に買ってきたということのようだ。この辺りも、今回の「決定書」に記されている不正・不敗との関係で興味深い部分である。

    上記のように、この映画が恐らく初めて放映されたのは2007年である。だとすると、その前年辺りに制作された映画の可能性がある。だとすうると、2002年に実施された7.1措置が2005年に後退した時期かその直後に制作された映画ということになる。この辺り、今回の「党決定書」とどのような相関があるのだろうか。

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    プロフィール

    川口智彦

    Author:川口智彦
    「크는 아바이(成長するオッサン)」

    ブログの基本用語:
    「元帥様」=金正恩朝鮮労働党委員長(上の絵の人物)、2016年12月20日から「最高領導者同志」とも呼ばれる
    2021年1月11日から「総秘書同志」
    「首領様」=金日成主席
    「将軍様」=金正日総書記
    「政治局員候補」=金ヨジョン(「元帥様」の妹)、2018年2月11日から「第1副部長同志」とも
    「白頭の血統」=金一族
    「大元帥様達」=「首領様」と「将軍様」
    「女史」=李雪主夫人(2018.07.26より「同志」に)

    우 그림은 충정 담아 아이가 그린 경애하는 김정은원수님이십니다.


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