「<朝鮮児童映画>少年大将」:金正恩が100話まで作れと指示したアニメ、「元帥様」ではなくて「少年大将」、李雪主は「クックァ」、「ホビ」は処刑されたのか? (2014年12月4日)
金正恩が「4.26漫画映画撮影所を現地指導」したニュースは過去記事に書いたが、この中で金正恩は「漫画映画『少年大将(소년장수)』は人気がとてもあった、今は50部で終わっているが、今後100部まで作って出せば、子供たちと人民が本当に喜ぶであろう」、「連続編で作る漫画映画『少年大将』を通じて、我々人民の高い愛国心と尚武気風、美風良俗、力強く勇敢な闘争話をしっかりと見せてやらなければならない」と述べ、「具体的な創作方向も教示」したとのことである。
『労働新聞』、「경애하는 김정은동지께서 조선4.26만화영화촬영소를 현지지도하시였다」、http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2014-11-27-0001&chAction=L
その『少年大将』を見ようとuriminzokkiriを検索してみたのだが、タイトルは出てくるものの、ファイルは空っぽの状態で見ることができなかった。YouTubeを検索したところ、1~49までアップロードされていた。アップロードしたのは誰か分からないが、北朝鮮系の動画をたくさんアップロードしている。「北韓」と書いているので、韓国人だと思う。
YouTube, 북한애니매이션 소년장수 제1부, https://www.youtube.com/watch?v=CXcFSI0WlFY&list=UULIVfmylAIiQ8MZZGBr9k9Q
『少年大将』を見る前に、このアニメについて調べてみた。韓国統一部の「北韓情報ポータルHP」で調べていると、「NK CHOSUN」の興味深い2つの記事があった。
これらの記事によると、『少年大将』は1982から97年にかけて制作され、本来は10部で終わる予定であったが、金日成の指示で50部まで作られることになったという。
『NK CHOSUN』、「신세대 애니메이터 北만화영화 이끈다」、http://nk.chosun.com/news/articleView.html?idxno=81201
『NK CHOSUN』、「'원수' 칭호 받은 김정은, 주민들은 만화 주인공 별명 불러」、http://nk.chosun.com/news/articleView.html?idxno=141542
1編は大体20分前後でできている。10部までのストーリーは、父親を「倭国(日本)」との戦いで失った少年が父の意を継いで15歳で勇敢な軍人になり、「倭国」と戦いに勝利するというものである。アニメではあるが「元帥様」が「子供たちと人民が喜ぶ」と言っているように、子供向けアニメというよりは、むしろ大人向けのアニメである。かつて、拙ブログで子供向けの「教育アニメ」を紹介したことがあるが、これとは全く異なる。というのは、ストーリーは子供向けにしては複雑で、「朝鮮芸術映画」に出てくるような、金持ちの息子、国よりも財物を好む資本主義的人間、複数の敵のスパイ、裏切り者などが登場する。
主人公の「少年大将」の「セメ」と彼の恋人の「クックァ」。「セメ」の顔が若き日の金日成に何となく似ているような気がするのは私だけであろうか。

Source: 『소년장수7』より
「セメ」の宿敵「ホビ」。「ホビ」は、金持ちの息子で「狩り大会」で「セメ」に敗れたことを契機に「セメ」を逆恨みする。「ホビ」の父親は裏切り者・スパイで、「倭国」の「首長」に通じており、「倭国」が高句麗を倒した後、スパイの功績で財物を得ることを狙っている。

Source: 『소년장수10』より
「倭国」の「首長」の家来の中には「チョッパリ(日本野郎)」という変な名前の人物もいる。

Source: 『소년장수7』より
「セメ」の母親が敵に拉致されたり、スパイが暗躍する中、「セメ」の活躍で高句麗は「倭国」との戦いで勝利する。「ホビ」と「首長」は高句麗に連行される。ここまでが10部のストーリーであり、「ホビ」と「首長」、そして「チョッパリ」の生死ははっきりと描かれていないが、「ホビ」と「首長」は処刑、「チョッパリ」は戦死という雰囲気になっている。
どのタイミングで金日成が11部以降の制作を命じたのかは分からないが、11部では「ホビ」と「首長」は投獄されるもまだ生きており、「チョッパリ」も気を失っていただけということになっている。「首長」は「セメ」のお爺さんに殺されてしまうが、「ホビ」は「セメ」のお爺さんを殺して脱走する。12部以降は見ていないが、恐らく「ホビ」と「チョッパリ」、そしてスパイの息子が「セメ」に仕返しをするというストーリーなのだろう。それにしても、「代を継いで裏切り者」など、「朝鮮芸術映画」にもしばしば登場するパターンである。北朝鮮は、「家族共々収容所送りにする」、「3代まとめて収容所送りにする」というような話をよく聞くが、「後代を残すと、親の復讐をする」という発想があるのかもしれない。
上で紹介した『NK CHOSUN』の二つ目の記事には、おもしろいことが書かれている。
「北韓が最近、『重大発表』をとおして、金正恩第1国防委員長に『元帥』とし、『元帥様』と呼ぶように強要しているが、北韓住民の間では『元帥様』の代わりに『少年大将』という別名が通用しているという」
「『北韓の住民は、北韓の有名な漫画『少年大将』から取り、金正恩を『少年大将』や『セメ』と呼び、最近北韓が公開した夫人李雪主も住民の間では『クックァ』で通っている」
上記の記事では、住民が皮肉を込めてこのように「隠語」を使っているというニュアンスで書かれているが、『少年大将』を見れば、「セメ」は父の意を継いだ立派な軍人であり、超人的な力を持ったヒーロー、そして「セメ」を愛する「クックァ」も命を賭けて「セメ」と国を守ろうとする愛国者である。もちろん、バレても言い逃れできるようにこのような「隠語」を使った可能性もあるが、ストレートに考えれば若くて勇敢な「元帥様」は「セメ」のようだということではないのだろうか。
また、「北韓の住民の間では、『セメはいるが、ホビがいないな』、『ホビがいなければ、少年大将じゃない、ホビはいつ頃出てくるのかな』などの話で金正恩に全権を与えた3代世襲を嘲弄・批判している」とも書いている。
この記事は、2012年8月9日の記事であるが、その1年4ヶ月後には「ホビ」は処刑されたということなのだろうか。
<追記>
そういえば、「倭国」は「モンゴル」のように描かれている。高句麗の歴史を改めて確認するまでは、蒙古が来襲して、「チョッパリ」が蒙古の見方になって高句麗を奪おうとするという話かと思った。というのも、「首長」が登場する場面では、中東音楽のような(これまた蒙古ではないのだが)音楽が流れ、酒を飲みながら羊の丸焼きを食べている。さらに、「首長」の部下たちはパオのようなテントで寝ている。

Source: 『소년장수10』より
『労働新聞』、「경애하는 김정은동지께서 조선4.26만화영화촬영소를 현지지도하시였다」、http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2014-11-27-0001&chAction=L
その『少年大将』を見ようとuriminzokkiriを検索してみたのだが、タイトルは出てくるものの、ファイルは空っぽの状態で見ることができなかった。YouTubeを検索したところ、1~49までアップロードされていた。アップロードしたのは誰か分からないが、北朝鮮系の動画をたくさんアップロードしている。「北韓」と書いているので、韓国人だと思う。
YouTube, 북한애니매이션 소년장수 제1부, https://www.youtube.com/watch?v=CXcFSI0WlFY&list=UULIVfmylAIiQ8MZZGBr9k9Q
『少年大将』を見る前に、このアニメについて調べてみた。韓国統一部の「北韓情報ポータルHP」で調べていると、「NK CHOSUN」の興味深い2つの記事があった。
これらの記事によると、『少年大将』は1982から97年にかけて制作され、本来は10部で終わる予定であったが、金日成の指示で50部まで作られることになったという。
『NK CHOSUN』、「신세대 애니메이터 北만화영화 이끈다」、http://nk.chosun.com/news/articleView.html?idxno=81201
『NK CHOSUN』、「'원수' 칭호 받은 김정은, 주민들은 만화 주인공 별명 불러」、http://nk.chosun.com/news/articleView.html?idxno=141542
1編は大体20分前後でできている。10部までのストーリーは、父親を「倭国(日本)」との戦いで失った少年が父の意を継いで15歳で勇敢な軍人になり、「倭国」と戦いに勝利するというものである。アニメではあるが「元帥様」が「子供たちと人民が喜ぶ」と言っているように、子供向けアニメというよりは、むしろ大人向けのアニメである。かつて、拙ブログで子供向けの「教育アニメ」を紹介したことがあるが、これとは全く異なる。というのは、ストーリーは子供向けにしては複雑で、「朝鮮芸術映画」に出てくるような、金持ちの息子、国よりも財物を好む資本主義的人間、複数の敵のスパイ、裏切り者などが登場する。
主人公の「少年大将」の「セメ」と彼の恋人の「クックァ」。「セメ」の顔が若き日の金日成に何となく似ているような気がするのは私だけであろうか。

Source: 『소년장수7』より
「セメ」の宿敵「ホビ」。「ホビ」は、金持ちの息子で「狩り大会」で「セメ」に敗れたことを契機に「セメ」を逆恨みする。「ホビ」の父親は裏切り者・スパイで、「倭国」の「首長」に通じており、「倭国」が高句麗を倒した後、スパイの功績で財物を得ることを狙っている。

Source: 『소년장수10』より
「倭国」の「首長」の家来の中には「チョッパリ(日本野郎)」という変な名前の人物もいる。

Source: 『소년장수7』より
「セメ」の母親が敵に拉致されたり、スパイが暗躍する中、「セメ」の活躍で高句麗は「倭国」との戦いで勝利する。「ホビ」と「首長」は高句麗に連行される。ここまでが10部のストーリーであり、「ホビ」と「首長」、そして「チョッパリ」の生死ははっきりと描かれていないが、「ホビ」と「首長」は処刑、「チョッパリ」は戦死という雰囲気になっている。
どのタイミングで金日成が11部以降の制作を命じたのかは分からないが、11部では「ホビ」と「首長」は投獄されるもまだ生きており、「チョッパリ」も気を失っていただけということになっている。「首長」は「セメ」のお爺さんに殺されてしまうが、「ホビ」は「セメ」のお爺さんを殺して脱走する。12部以降は見ていないが、恐らく「ホビ」と「チョッパリ」、そしてスパイの息子が「セメ」に仕返しをするというストーリーなのだろう。それにしても、「代を継いで裏切り者」など、「朝鮮芸術映画」にもしばしば登場するパターンである。北朝鮮は、「家族共々収容所送りにする」、「3代まとめて収容所送りにする」というような話をよく聞くが、「後代を残すと、親の復讐をする」という発想があるのかもしれない。
上で紹介した『NK CHOSUN』の二つ目の記事には、おもしろいことが書かれている。
「北韓が最近、『重大発表』をとおして、金正恩第1国防委員長に『元帥』とし、『元帥様』と呼ぶように強要しているが、北韓住民の間では『元帥様』の代わりに『少年大将』という別名が通用しているという」
「『北韓の住民は、北韓の有名な漫画『少年大将』から取り、金正恩を『少年大将』や『セメ』と呼び、最近北韓が公開した夫人李雪主も住民の間では『クックァ』で通っている」
上記の記事では、住民が皮肉を込めてこのように「隠語」を使っているというニュアンスで書かれているが、『少年大将』を見れば、「セメ」は父の意を継いだ立派な軍人であり、超人的な力を持ったヒーロー、そして「セメ」を愛する「クックァ」も命を賭けて「セメ」と国を守ろうとする愛国者である。もちろん、バレても言い逃れできるようにこのような「隠語」を使った可能性もあるが、ストレートに考えれば若くて勇敢な「元帥様」は「セメ」のようだということではないのだろうか。
また、「北韓の住民の間では、『セメはいるが、ホビがいないな』、『ホビがいなければ、少年大将じゃない、ホビはいつ頃出てくるのかな』などの話で金正恩に全権を与えた3代世襲を嘲弄・批判している」とも書いている。
この記事は、2012年8月9日の記事であるが、その1年4ヶ月後には「ホビ」は処刑されたということなのだろうか。
<追記>
そういえば、「倭国」は「モンゴル」のように描かれている。高句麗の歴史を改めて確認するまでは、蒙古が来襲して、「チョッパリ」が蒙古の見方になって高句麗を奪おうとするという話かと思った。というのも、「首長」が登場する場面では、中東音楽のような(これまた蒙古ではないのだが)音楽が流れ、酒を飲みながら羊の丸焼きを食べている。さらに、「首長」の部下たちはパオのようなテントで寝ている。

Source: 『소년장수10』より