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    短編小説「火の約束」2:金正恩を扱った小説、花火打ち上げ、自分の技術 (2014年10月2日 「uriminzokkiri」)

    (第2部)
    雑誌『青年文学』2014年第1号収録
    短編小説「火の約束」 作:金イルス

    火の約束
    Source: uriminzokkiri, http://www.uriminzokkiri.com/index.php?ptype=gisa5&no=87073

     祝砲(訳注:「花火」の意、以下「祝砲」のママとする)試験発射終了後の帰路、金正恩同志にお言葉は全くなかった。
     金正恩同志の重い沈黙が、ヒョンジンの胸を重苦しくした。今日の祝砲試験発射は、ヒョンジンが金正恩同志から直接、課業として命じられ、長期にわたる準備の末、行ったものであった。ところが、何のお言葉もないところからして、絶対に金正恩同志の意図に反するものであったのであろう。
     しかし、いくら考えても引っかかるところがなかった。発射過程に失敗はなく、工程の各部にも手抜かりはなかった。コンピュータープログラムでコントロールした今回の試験発射を見て、新鮮な雰囲気がある、見事だと言う幹部たちの言葉を聞き、表には出さなかったものの、心を躍らせていたヒョンジンであった。
     金正恩同志にお喜びいただけたと思っていたのに、こんなに暗くなられるとは。彼の手のひらからは、じわじわと汗がにじみ出ていた。
     こんな疑問を抱いたまま、ヒョクジンは金正恩同志の後について職務室に入った。
     その時、職務用の机の電話がリーンと鳴った。金正恩同志は、立ったまま電話に出られた後、ヒョクジンにお話しされた。
     「ヒョンジンドンム、急な用件が発生し、しばらく出かけてくるから、その間にこの資料をもう一度見ておいてくれ。」
     金正恩同志は、職務用の机の片隅に積まれていた資料をヒョンジンに手渡し、部屋を出て行かれた。
     ヒョンジンは、少しホッとしながら、資料を眺め始めた。祝砲発射に関する制御プログラム開発状況の資料であったが、そのほとんどは既に見たものであった。ページを再びめくりながら、ヒョンジンの考えが各ページに記されていることの確認もできた。
     前に提示された資料なのに、なぜまた見ろと言われたのだろうか?あれこれ考えてみたが、答えに行き着くことはできなかった。
     しばらくすると、闊達な歩みで部屋に戻ってこられた金正恩同志は、恩情に満ちた眼差しでヒョクジンを見詰められた。
     「ヒョクジンドンム、資料を見直しながら考えたことはありませんか?」
     ヒョンジンは恥ずかしさで顔が熱くなった。いつも金正恩同志の意図を迅速に実行することができない自分が心苦しかった。
    金正恩同志は、呵責の念に駆られた彼の表情をしばらく眺めた後、部屋の中を歩きながら語られた。
    「今日の試験発射は、全ての過程で何の問題もなく無難に行われた。しかし、そこに何かがない。我々のものが見えなかったではないか。我々の血が流れ、我々の息遣いが感じられなかった。一言で、我々式ではなかったです。ヒョンジンドンム、何か言ってみなさい。強盛大国を誰かが来て建設してくれるのか、そうでなければ空からただでポトンと落ちてくるのか。そうではありません。将軍様が打ち立てて下さり、将軍様の領導に従って我々人民が自らの手で打ち立てるものなのです。ですから、我々が今度打ち上げようとしている祝砲は、まさにその強盛国家の実体を見せるものなのです。それなのに、その実体を我々のものではない他人の技術で見せてもよいものでしょうか?」
     ヒョンジンの脳裏で、そして目前で、青い閃光が光った。暗闇を引き裂き、周囲を真昼のように明るくする自然の稲妻のように、その閃光の輝きで全てが真っ白になった。稲妻に続く雷鳴が、そして恐ろしい後悔と自責が、彼の全身に響き渡った。
     金正恩同志のお言葉、一言、一言が、杭を打ち込むように、ヒョンジンの胸にそのまま刻み込まれた。
     「我々の幸福は、必ずや我々自身の手で創造するという将軍様の信念と、我々人民の誇りを持ってやらなければ、我々式の祝砲も創造することができません。」
     金正恩同志の語調が力強く響けば響くほど、ヒョンジンの頭はどんどん下がっていった。いつも新しい想像の世界を志向しておられる元帥様の前に、身をさらしている自分が情けないばかりであった。金正恩同志が今回の祝砲発射の意義を何度も強調されたにもかかわらず、なぜ他人の技術を模倣することで満足してしまったのだろう。
     「私が気を抜いていました。」
     ヒョンジンは、自分の思いをそのまま吐露した。そうしなければ、気の重さに耐えることができなかったからだ。
     すると、ヒョンジンを眺めながら、金正恩同志は追憶に浸りながら述べられた。
    「何年か前、将軍様がおっしゃったお言葉を今でも忘れることができません。『慈江道がだんだん明るくなってきている。一点の炎の光がどれほどいとおしく、貴重であるのかを血の涙の中で体験した我々人民だ。だから、我々が座視することを望む敵共に見ろとでも言わんばかりに、蝋燭の火の下で爛漫の歌をうたい、たき火をしながら発電所の堰を築いた彼らが、今、楽園の火を自らの手で灯した。江界精神で完成したチャンジャ江の火の夜景!我々はそうして一つ、二つと、祖国繁栄の火をさらに高く掲げていくのです。』」
     堰を切った水のように、金正恩同志の語調は興奮で揺れていた。
     「ヒョンジンドンム、一度考えてみなさい。将軍様がなぜあれほどにチャンジャ江の火の夜景をご覧になり喜ばれたのか分かりますか。外国の繁華街の華麗なライトアップと比べれば素朴なものですが、我々人民の限りない精神力が苦難を勝ち抜き、創造した火の光だからこそ、あれほどまで満足されたのです。だから、将軍様は、チャンジャ江の火の夜景は、見るだけでも自然と新たな力が涌いてくるし、気合いが入るとおっしゃったのです。その火こそ、我々の手で作り出した我々の火なのです。他人がスイッチを切ったり入れたりすることが出来ない自らの火(訳注:電灯の明かり)ということなのです。我々の幸福は、我々の手で!自力更生を行う人には光明な未来がある!これが我々の創造哲学です。祝砲発射には、この精神が盛り込まれなければなりません。そうしてこそ、本当の意味での我々の祝砲となり得るのです。今度の祝砲発射の意図もそこにあり、叙事詩の主題と構成を決定する核心もそこにあるのです。どうだ?ヒョンジンドンム、新しい祝砲発射で我々は将軍様の決心、朝鮮の宣言をあの空に刻むその日まで力強く努力してみませんか。」
     金正恩同志は、ヒョンジンの手を熱く握りしめられました。自身を信じ、人民の明るい明日を信じておられる金正恩同志の信念と意思が脈打つ手であった。
     ヒョンジンは、金正恩同志の手から熱情がそのまま流れ込み、自分の体と心がどんどん熱くなるのを感じていた。

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    プロフィール

    川口智彦

    Author:川口智彦
    「크는 아바이(成長するオッサン)」

    ブログの基本用語:
    「元帥様」=金正恩朝鮮労働党委員長(上の絵の人物)、2016年12月20日から「最高領導者同志」とも呼ばれる
    2021年1月11日から「総秘書同志」
    「首領様」=金日成主席
    「将軍様」=金正日総書記
    「政治局員候補」=金ヨジョン(「元帥様」の妹)、2018年2月11日から「第1副部長同志」とも
    「白頭の血統」=金一族
    「大元帥様達」=「首領様」と「将軍様」
    「女史」=李雪主夫人(2018.07.26より「同志」に)

    우 그림은 충정 담아 아이가 그린 경애하는 김정은원수님이십니다.


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