短編小説「火の約束」1:金正恩を扱った小説、「お母さん(高英姫?)」も少し登場 (2014年10月2日 「uriminzokkiri」)
uriminzokkiriに雑誌『青年文学』に掲載された短編小説「火の約束」が出ている。
http://www.uriminzokkiri.com/index.php?ptype=gisa5&no=87073
実は、「火の約束」は単行本として出版されているようで、日本のテレビ放送で紹介されていた。羅先でこの本を入手できればよかったのだが、この本の存在を知らなかったので、探すこともしなかった。しかし、一部ではあるが、上記のとおりuriminzokkiriに「火の約束」が掲載されている。単行本を見ることができないので分からないが、忖度するに、『青年文学』に連載された「火の約束」シリーズをまとめて単行本として発刊したのではないかと思われる。
北朝鮮小説は、これまでほとんど読んでいないが、「児童文学」は何編か読んでみた。それはそれで、なかなか面白かった。しかしそれを除き「北朝鮮文学」はほとんど手つかずの状態なので、金正恩や「お母さん」を扱った小説が他にあるのかも分からない。しかし、2014年に出た「火の約束」で金正恩の「大将時代」を扱っていることからすると、そんなに多くは出ていないような気がする。お父さんの下での修業時代も短かったし、現役指導者としての期間もまだ短いので、まだまだ小説の題材とするには活動歴が足りないのであろう。
どこまで続けられるか分からないが、拙ブログでは、『青年文学』に掲載された「火の約束」の全訳して紹介してみたい。「文学翻訳」は苦手であるが、できるだけ「文学的」に訳すことも試みている(とはいえ、その質は保証しない)。
(第1部)
雑誌『青年文学』2014年第1号収録
短編小説「火の約束」 作:金イルス

「運転手ドンム、私と席を替わりましょう。」
何回も腕時計をもどかしそうにご覧になっていた金正恩同志は、運転手の肩を軽く叩かれた。
「暗いし・・・道も・・・滑りやすいのですが・・・」
途切れ、途切れの言葉に、どうしてよいのか分からない運転手のもどかしさと緊張感がそのまま表れていた。
外は、出た時パラパラと降っていた雪が、いつの間にか空を覆い尽くし、激しく降っていた。
「だから、僕が運転するというのです。将軍様のところに早く行かなければなりません。」
ついに、運転席に座られた金正恩同志は、疾風の如く車を飛ばされた。
ヒョクジンは、金正恩同志と一緒に車を運転しているような気持ちで、大粒の雪が降りしきるフロントガラスの前方を緊張した眼差しで注視していた。しかし一方で、出発したときからの疑問が頭から離れなかった。咸鏡南道と江原道一帯を何日間も現地指導されている将軍様と今朝お会いになったのに、金正恩同志はどうして今夜またそこに行かれるのだろうか・・・?
万事に慎重かつ几帳面で、機転の利くヒョクジンであったが、今回ばかりはどうしても金正恩同志の心中を察することができなかった。
金正恩同志の力強い手に操られる乗用車は、少しも躊躇することなく高速で疾走した。風の音が車窓に響き、車体に降った雪が白い粉となり吹き飛んでいった。
しばらくすると、人気のない道路を走る車のヘッドライトが宿所周辺の背の高いもみの木を照らした。
「?・・・」
金正恩同志は、一瞬、シートから身を乗り出され前方を注視された。宿所から続く道に白綿をざっくり分けたように2本の長いタイヤの跡が残っていた。それはまぎれもなく、将軍様が乗られた野戦車のタイヤ痕であった。
将軍様はまた遠くに出かけられたのかぁ!もう少し早く来ればよかった・・・
未練さと無念さとが混ざり合ったような眼差しで宿所の方を眺めておられる金正恩同志の視野に、固まったように立っている中年女性の姿が飛び込んできた。
「誰だろうか?・・・」
急ブレーキを掛けたが、車は走ってきた速度に勝つことができず、女性の前をだいぶ通り過ぎた所で止まった。車をバックさせられた金正恩同志は、直ぐにその女性が今回、将軍様が現地指導されたムンチャン郡基礎食品工場の支配人、文スキであることがお分かりになった。女性の口からもうもうと立ち上がる白い息が、彫刻像のように突っ立っているこの女性が生きている人間であることを証明していた。
支配人ドンム(訳注:「ドンム」は本来「仲間」の意であるが、「~さん」程度に捉えればよい)がこんな所に何で?
両手で目をこすっているので、泣いているようであった。
車から降りられる金正恩同志に気付いた女性は、驚きと喜びに弾かれたように金正恩同志のもとに駆け寄って来て、胸に飛び込みたい気持ちを抑えながら挨拶をした。
「尊敬する大将同志、こんばんは。本当にお目にかかりたかったです。」
金正恩同志は、寒い日にもかかわらず手袋もしていない女性支配人の手を温かく握って下さった。
女性支配人は、本当に泣いていた。赤く腫れたまぶたが、グリーンの街灯の光の中にはっきりと見えた。
「こんな夜中になぜこんな所にいるのですか?」
「大将同志、あの・・・これをご覧下さい。将軍様が・・・お出かけになり、そして・・・」
文スキは、すすり泣きながら金正恩同志に手袋を差し出した。
その瞬間、金正恩同志の胸を重いものがガツンと打った。将軍様がはめておられた手袋、金正恩同志にとっては、ずっと前から見慣れた粗末な手袋であった。長い間お使いだったので、毛羽立ち色もあせ、見苦しくなっていた。
お母様(訳注:高英姫)が何度も新しい手袋を差し上げたのに、いつも「まだ、縫い直せば何年も使えるから、新しいのは買わなくてもいい。今、着ている綿入りの野戦服もそうだし、この手袋にも愛着がある。だからです。」と言われた将軍様のお声が再び耳に響いた。
支配人同志は、自分の工場を訪ねてこられた将軍様が、新たに生産した基礎食品をご覧になりながら外された手袋であると泣き声で話した。
「私共がしたことって、いったいなんでしょう・・・女性が多い工場なので自ら生産活性化の火をともし、人民のために仕事をたくさんしたと、我々を褒めて下さりながら、ご自身は・・・」
毛羽だった将軍様の手袋を見た支配人は、何も言うことが出来ず、ただ泣き続けたと語った。一国の首領である我々の将軍様が、どうしてこんな手袋を使われているのだろうか。あふれ出していた涙がやっと止まったので、正気になり急いで手袋を縫い直し、将軍様がおられる宿所を訪ねてきたが、将軍様は再び現地指導に行かれてしまい、おられなかった。支配人は、手袋をもっと早く縫い直すことができなかった自責の念に駆られ、嗚咽していた。
「この・・・手袋すらはめられず、この寒い日・・・遠くに向かわれたなんて、どうしましょう。」
手袋を受け取られた金正恩同志の目にも熱いものが込み上げてきた。
まさにその日の早朝であった。遠方の現地指導から戻ってこられた父なる将軍様にご挨拶しようと部屋に入られた金正恩同志は、立ち止まられてしまった。
将軍様がソファに半身横になられ目を閉じておられたからだ。
「お体が・・・大丈夫ですか?」
「とにかく足が固まってしまったようだ。」
「・・・医者をお呼びにならないのですか?」
「大丈夫だ。他の人が知れば、無用な心配をするから・・・」
目頭が熱くなられた。将軍様も人間であられた。普通の人のように痛みも苦痛も感じておられた。しかし、それら全ての痛みと苦痛を静かにお一人で耐えられるそのお姿に胸が張り裂けるように痛かった。・・・
金正恩同志がこの夜、将軍様の宿所に駆けつけられたのもまさにこのためであった。ご不自由なお体で、現地指導と前線視察の道を休むことなく歩み続けられる将軍様に、一夜だけでもゆっくりとお休みになっていただきたいという心情からであった。
痛いほどの自責の念が金正恩同志の胸を容赦なく打った。
女性支配人は、赤く腫れた目をこすりながら、かすれた声で申し上げた。
「・・・私共がお役に立つことができないからです。将軍様がたくさんの仕事をしたと褒めて下さったとき、我々はただただ自分たちの喜びだけに浸っていました。将軍様が、このぐらいできればよい。しかし、人民のための仕事に満足ということはないと言われた時、はじめて我に返りました。将軍様がお求めになっておられることからすれば、我々はまだまだです。私は、これからもっと一生懸命仕事をして、将軍様を再びお迎えするつもりです。」
金正恩同志は、自責の念で顔を上げることが出来ない支配人を見詰めながら、いつしかご自身も胸も打たれていることに気付かれた。
「ドンムたちの過ちではありません。僕が将軍様をしっかりとお支えすることができなかったのです。将軍様の重荷を少しでも軽くして差し上げられたなら、こんなに冷たい雪降る夜道に出かけられることはなかったでしょう。・・・」
逆にご自身を責められる金正恩同志のお言葉に、ヒョクジンも文スキ支配人も申し訳ないばかりであった。
しばらくの間、無言で考えに浸っておられた金正恩同志が静かに語られた。
「我々人民によい暮らしをさせようと将軍様は今日も冷たい雪道をかき分けながら強行軍をしておられます。我々人民が歓声を上げ、よい暮らしをする日は遠い将来の夢ではありません。それこそ、目前の現実として近づいてきているのです。」
しばらくして、金正恩同志はヒョクジンの方を振り返られながら、決然とお言葉を続けられた。
「ヒョクジンドンム、今日もひたすら人民のためにありとあらゆる労苦を全て背負っておられる将軍様のために、今、我々がしなければならないことは何だろうか。僕が少し前に言ったが、我々が建設しようとしている強盛大国がどんな姿なのかを、その実体がどうなのかを人民に早く見せてやらなければなりません。そうすれば、我々の人民が光明な明日に対する確信と楽観を持って、勇気百倍で立ち上がることでしょう。だから、僕は決心した。我々が迎える強盛大国の姿をあの空に大きく描いてみせる。我々人民だけではなく、世界中が見られるように。」
「?!・・・」
ヒョンジンと文スキの胸を揺さぶりながら、情熱と確信に満ちた金正恩同志のお声が再び響いた。
「火で描いてやろう。多分、何百何万の言葉よりも火の言葉の方がずっと威力があるはずだから。」
http://www.uriminzokkiri.com/index.php?ptype=gisa5&no=87073
実は、「火の約束」は単行本として出版されているようで、日本のテレビ放送で紹介されていた。羅先でこの本を入手できればよかったのだが、この本の存在を知らなかったので、探すこともしなかった。しかし、一部ではあるが、上記のとおりuriminzokkiriに「火の約束」が掲載されている。単行本を見ることができないので分からないが、忖度するに、『青年文学』に連載された「火の約束」シリーズをまとめて単行本として発刊したのではないかと思われる。
北朝鮮小説は、これまでほとんど読んでいないが、「児童文学」は何編か読んでみた。それはそれで、なかなか面白かった。しかしそれを除き「北朝鮮文学」はほとんど手つかずの状態なので、金正恩や「お母さん」を扱った小説が他にあるのかも分からない。しかし、2014年に出た「火の約束」で金正恩の「大将時代」を扱っていることからすると、そんなに多くは出ていないような気がする。お父さんの下での修業時代も短かったし、現役指導者としての期間もまだ短いので、まだまだ小説の題材とするには活動歴が足りないのであろう。
どこまで続けられるか分からないが、拙ブログでは、『青年文学』に掲載された「火の約束」の全訳して紹介してみたい。「文学翻訳」は苦手であるが、できるだけ「文学的」に訳すことも試みている(とはいえ、その質は保証しない)。
(第1部)
雑誌『青年文学』2014年第1号収録
短編小説「火の約束」 作:金イルス

「運転手ドンム、私と席を替わりましょう。」
何回も腕時計をもどかしそうにご覧になっていた金正恩同志は、運転手の肩を軽く叩かれた。
「暗いし・・・道も・・・滑りやすいのですが・・・」
途切れ、途切れの言葉に、どうしてよいのか分からない運転手のもどかしさと緊張感がそのまま表れていた。
外は、出た時パラパラと降っていた雪が、いつの間にか空を覆い尽くし、激しく降っていた。
「だから、僕が運転するというのです。将軍様のところに早く行かなければなりません。」
ついに、運転席に座られた金正恩同志は、疾風の如く車を飛ばされた。
ヒョクジンは、金正恩同志と一緒に車を運転しているような気持ちで、大粒の雪が降りしきるフロントガラスの前方を緊張した眼差しで注視していた。しかし一方で、出発したときからの疑問が頭から離れなかった。咸鏡南道と江原道一帯を何日間も現地指導されている将軍様と今朝お会いになったのに、金正恩同志はどうして今夜またそこに行かれるのだろうか・・・?
万事に慎重かつ几帳面で、機転の利くヒョクジンであったが、今回ばかりはどうしても金正恩同志の心中を察することができなかった。
金正恩同志の力強い手に操られる乗用車は、少しも躊躇することなく高速で疾走した。風の音が車窓に響き、車体に降った雪が白い粉となり吹き飛んでいった。
しばらくすると、人気のない道路を走る車のヘッドライトが宿所周辺の背の高いもみの木を照らした。
「?・・・」
金正恩同志は、一瞬、シートから身を乗り出され前方を注視された。宿所から続く道に白綿をざっくり分けたように2本の長いタイヤの跡が残っていた。それはまぎれもなく、将軍様が乗られた野戦車のタイヤ痕であった。
将軍様はまた遠くに出かけられたのかぁ!もう少し早く来ればよかった・・・
未練さと無念さとが混ざり合ったような眼差しで宿所の方を眺めておられる金正恩同志の視野に、固まったように立っている中年女性の姿が飛び込んできた。
「誰だろうか?・・・」
急ブレーキを掛けたが、車は走ってきた速度に勝つことができず、女性の前をだいぶ通り過ぎた所で止まった。車をバックさせられた金正恩同志は、直ぐにその女性が今回、将軍様が現地指導されたムンチャン郡基礎食品工場の支配人、文スキであることがお分かりになった。女性の口からもうもうと立ち上がる白い息が、彫刻像のように突っ立っているこの女性が生きている人間であることを証明していた。
支配人ドンム(訳注:「ドンム」は本来「仲間」の意であるが、「~さん」程度に捉えればよい)がこんな所に何で?
両手で目をこすっているので、泣いているようであった。
車から降りられる金正恩同志に気付いた女性は、驚きと喜びに弾かれたように金正恩同志のもとに駆け寄って来て、胸に飛び込みたい気持ちを抑えながら挨拶をした。
「尊敬する大将同志、こんばんは。本当にお目にかかりたかったです。」
金正恩同志は、寒い日にもかかわらず手袋もしていない女性支配人の手を温かく握って下さった。
女性支配人は、本当に泣いていた。赤く腫れたまぶたが、グリーンの街灯の光の中にはっきりと見えた。
「こんな夜中になぜこんな所にいるのですか?」
「大将同志、あの・・・これをご覧下さい。将軍様が・・・お出かけになり、そして・・・」
文スキは、すすり泣きながら金正恩同志に手袋を差し出した。
その瞬間、金正恩同志の胸を重いものがガツンと打った。将軍様がはめておられた手袋、金正恩同志にとっては、ずっと前から見慣れた粗末な手袋であった。長い間お使いだったので、毛羽立ち色もあせ、見苦しくなっていた。
お母様(訳注:高英姫)が何度も新しい手袋を差し上げたのに、いつも「まだ、縫い直せば何年も使えるから、新しいのは買わなくてもいい。今、着ている綿入りの野戦服もそうだし、この手袋にも愛着がある。だからです。」と言われた将軍様のお声が再び耳に響いた。
支配人同志は、自分の工場を訪ねてこられた将軍様が、新たに生産した基礎食品をご覧になりながら外された手袋であると泣き声で話した。
「私共がしたことって、いったいなんでしょう・・・女性が多い工場なので自ら生産活性化の火をともし、人民のために仕事をたくさんしたと、我々を褒めて下さりながら、ご自身は・・・」
毛羽だった将軍様の手袋を見た支配人は、何も言うことが出来ず、ただ泣き続けたと語った。一国の首領である我々の将軍様が、どうしてこんな手袋を使われているのだろうか。あふれ出していた涙がやっと止まったので、正気になり急いで手袋を縫い直し、将軍様がおられる宿所を訪ねてきたが、将軍様は再び現地指導に行かれてしまい、おられなかった。支配人は、手袋をもっと早く縫い直すことができなかった自責の念に駆られ、嗚咽していた。
「この・・・手袋すらはめられず、この寒い日・・・遠くに向かわれたなんて、どうしましょう。」
手袋を受け取られた金正恩同志の目にも熱いものが込み上げてきた。
まさにその日の早朝であった。遠方の現地指導から戻ってこられた父なる将軍様にご挨拶しようと部屋に入られた金正恩同志は、立ち止まられてしまった。
将軍様がソファに半身横になられ目を閉じておられたからだ。
「お体が・・・大丈夫ですか?」
「とにかく足が固まってしまったようだ。」
「・・・医者をお呼びにならないのですか?」
「大丈夫だ。他の人が知れば、無用な心配をするから・・・」
目頭が熱くなられた。将軍様も人間であられた。普通の人のように痛みも苦痛も感じておられた。しかし、それら全ての痛みと苦痛を静かにお一人で耐えられるそのお姿に胸が張り裂けるように痛かった。・・・
金正恩同志がこの夜、将軍様の宿所に駆けつけられたのもまさにこのためであった。ご不自由なお体で、現地指導と前線視察の道を休むことなく歩み続けられる将軍様に、一夜だけでもゆっくりとお休みになっていただきたいという心情からであった。
痛いほどの自責の念が金正恩同志の胸を容赦なく打った。
女性支配人は、赤く腫れた目をこすりながら、かすれた声で申し上げた。
「・・・私共がお役に立つことができないからです。将軍様がたくさんの仕事をしたと褒めて下さったとき、我々はただただ自分たちの喜びだけに浸っていました。将軍様が、このぐらいできればよい。しかし、人民のための仕事に満足ということはないと言われた時、はじめて我に返りました。将軍様がお求めになっておられることからすれば、我々はまだまだです。私は、これからもっと一生懸命仕事をして、将軍様を再びお迎えするつもりです。」
金正恩同志は、自責の念で顔を上げることが出来ない支配人を見詰めながら、いつしかご自身も胸も打たれていることに気付かれた。
「ドンムたちの過ちではありません。僕が将軍様をしっかりとお支えすることができなかったのです。将軍様の重荷を少しでも軽くして差し上げられたなら、こんなに冷たい雪降る夜道に出かけられることはなかったでしょう。・・・」
逆にご自身を責められる金正恩同志のお言葉に、ヒョクジンも文スキ支配人も申し訳ないばかりであった。
しばらくの間、無言で考えに浸っておられた金正恩同志が静かに語られた。
「我々人民によい暮らしをさせようと将軍様は今日も冷たい雪道をかき分けながら強行軍をしておられます。我々人民が歓声を上げ、よい暮らしをする日は遠い将来の夢ではありません。それこそ、目前の現実として近づいてきているのです。」
しばらくして、金正恩同志はヒョクジンの方を振り返られながら、決然とお言葉を続けられた。
「ヒョクジンドンム、今日もひたすら人民のためにありとあらゆる労苦を全て背負っておられる将軍様のために、今、我々がしなければならないことは何だろうか。僕が少し前に言ったが、我々が建設しようとしている強盛大国がどんな姿なのかを、その実体がどうなのかを人民に早く見せてやらなければなりません。そうすれば、我々の人民が光明な明日に対する確信と楽観を持って、勇気百倍で立ち上がることでしょう。だから、僕は決心した。我々が迎える強盛大国の姿をあの空に大きく描いてみせる。我々人民だけではなく、世界中が見られるように。」
「?!・・・」
ヒョンジンと文スキの胸を揺さぶりながら、情熱と確信に満ちた金正恩同志のお声が再び響いた。
「火で描いてやろう。多分、何百何万の言葉よりも火の言葉の方がずっと威力があるはずだから。」