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    「<朝鮮芸術映画>無名の英雄たち」:20部からなる長編映画、朝鮮戦争終結期扱う、ジェンキンス元軍曹出演 (2014年7月29日 「朝鮮中央TV」)

    カテゴリーをどうするのか迷ったが、やはりこの映画は「北朝鮮と国際関係」に入れるに相応しいと思う。7月11日に第1部が放送され、今日(28日)に最終回の第20部が放送される予定である。この種の古い白黒映画は大体飛ばしてしまうのだが、偶然、第1部をじっくり見ていたらとてもおもしろかったのでどんどん引き込まれてしまった。韓国・統一部のデータによると、2011年7月から8月にかけてやはりこの映画が放送されている。

    1編が約1時間の映画なので、これまで19時間この映画を見たわけだが、つまらない場面はほとんどない。この映画の制作時期についてきちんと調べてはいないが、1970年代末から80年代初めにかけて制作されたようだ。この時期の北朝鮮映画は既にカラー版もあったはずだが、上に書いたとおりこの映画は白黒である。

    この映画は、第1部冒頭の「この映画は、偉大な祖国解放戦争時期、敵後(敵地)で戦った英雄たちに捧げる」にあるとおり、朝鮮戦争中に「敵後」、つまりソウルに浸透した北朝鮮工作員の活躍を扱った映画である。映画は1952年10月8日の板門店における「朝鮮戦争休戦会談」決裂から1953年7月27日の休戦協定締結までの時期を扱っている(はずである、今日放送の20部を見ないと確認できない)。

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    Source: KCTV, 2014/07/11放送

    この人物がこの映画の主役「ユ・リム」である。ユ・リムはケンブリッジ大卒の「ロンドン・ニュース」の特派員を装った北朝鮮工作員で、米国滞在中命令を受けソウルに浸透する。
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    Source: KCTV, 2014/07/11放送

    この映画の重要な脇役の一人がジープを運転している「バン・オ」である。彼はユ・リムのケンブリッジ大同窓生であるが、今は韓国で「陸軍本部報道処長」の任についている。バン・オは、優秀な人物であるが、何回もユ・リムに陥れられ、最終的にはクラウス(下記参照)の命で銃殺されることになる。しかし、殺されそうでなかなか殺されず、第20部まで生き残っている人物である。
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    Source: KCTV, 2014/07/11放送

    ユ・リムの主な任務は「ホワイトハウスで対朝鮮政策を指揮しているダーウィン・ケルトン」から情報を得て本国に通報することであるが、一方で米軍の動きの察知、米英間の不信の造成、韓国軍内の混乱の造成なども積極的に行っている。下の写真は、韓国軍の若手将校を決起させクーデターを目論んでいるシン・ジェソン少将。後にユ・リムの手助けで陸軍トップに昇格するが、クーデターに失敗し降格となる(米軍の要請で降格だけの処分で済む)。
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    Source: KCTV, 2014/07/11放送

    新聞を読んでいる人物はこの映画の中で最も多く登場する日本人である「記者、中村」である。中村は、ユ・リムに利用されて米軍の極秘情報を記事にし、米軍に韓国での取材許可証を剥奪されて追放されてしまう。ここからがおもしろいのであるが、彼が日本に帰国後、中村は自分が勤めていた新聞社(通信社だったかも?)も解雇され、ヤクザの親分に転身する。なぜ元新聞記者がヤクザの親分になるのか分からないのだが、『砲声なき戦区』の登場人物もそうだったように、どうも日本人とヤクザが北朝鮮の中では結びついているようである。資本主義国日本では、職を失った者はみなヤクザになるという発想なのだろうか。
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    Source: KCTV, 2014/07/11放送

    この女性も謎の人物である。「フランスの新聞記者、ヘレン」であるが、フランスにいる母親はナチスドイツの拷問を受け身体障害者になってしまったという。そういうこともありユ・リムと親しいのであるが、どうやら「チューリップ」というコード名を持つ米軍側のスパイのようだ(第19部まででは暴露されていないので、分からない)。
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    Source: KCTV, 2014/07/11放送

    ケルトンは第20部まで登場しないが、ケルトンの奥さんジャネットはこの映画で重要な役を演じる。ケルトンがいつも出張ばかりしているので暇をもてあましている有閑マダムという役柄で、ユ・リムに好感を抱いている。北朝鮮映画なので、それ以上の露骨な表現はないが、資本主義国の堕落した夫人といったところであろう。おもしろいのは、ユ・リムはジェームス・ボンドのようにプレーボーイということになっており、あちこちで女性を騙してきたという設定である。ジャネットも騙される女性の一人であるが、もちろん「工作対象」としてである。ともあれ、優秀な工作員(or spy)はプレーボーイなのだろうか。
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    Source: KCTV, 2014/07/11放送

    この女性こそが上に書いたこの映画のヒロイン、金・スンヒ米軍CIC(Counter Intelligence Corps、防諜部隊)中尉(後に大尉に昇格)である。北朝鮮からある女性を助けて越南し、グアム島で軍事訓練を受けた後、CICの隊員として勤務する沈着冷静、銃の名手、そして美貌の軍人ということになっている。スンヒは採用時の実弾訓練で、ジープで銃弾を避けながら障害物の間を走り、銃撃手を轢き殺す。銃撃手がどういう素性なのか分からないが、単なる「演出」なのであろうか。そして、北朝鮮にいた頃はユ・リムの恋人という実に複雑な役柄である。下の写真は、あるパーティーでユ・リムが金・スンヒから「私はあなたを待っている」という手紙をもらってから10年ぶりに再開をする場面であるが、この時はお互いに北朝鮮の工作員であるということは知らない。
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    Source: KCTV, 2014/07/11放送

    北朝鮮にいた頃の金・スンヒとユ・リム。この場面は、第19部でとても重要な意味を持つことになる。
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    Source: KCTV, 2014/07/11放送

    CIC隊長のクラウス大佐は敵の頭目であるが、頭が切れる軍人である。ユ・リムとは諜報戦で互角の勝負をするが、第19部までではユ・リムに敗れてしまう。この映画では、派手な銃撃シーンはほとんどない。そこがおもしろいところなのだが、コロンボ警部のように論理を積み重ねて諜報戦を勝ち抜く。というのも、ユ・リムの国籍は英国、しかも新聞記者なので乱暴な扱いをすると英国代表部から米軍が抗議を受けるという設定だからだ。クラウスはユ・リムが北朝鮮の工作員だという確信を持っているが、なかなか「犯行現場」を押さえることができない。
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    Source: KCTV, 2014/07/14放送

    「英国軍人、ルイス」はアイルランド人である。ルイスは妹と二人暮らしで大学に通っていたが学費を工面するために妹が体を売ったことを知り、大学退学して軍人となる。しかし、前戦での米軍による英軍兵士に対する酷い扱いを経験し、米軍に対する不満を抱いている。ルイスはユ・リムに頼んで妹の消息を調べてもらうのだが、妹は既に死亡していた。資本主義社会の中で窮乏化していく人民、しかも英国に占領されたアイルランド人ということでユ・リムと親交を深め、北朝鮮の工作員となる。映画の中ではIRAに関する言及はないが、IRAを意識しての配役であることは間違いない。
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    Source: KCTV, 2014/07/15放送

    CICのマーティン大尉(後に少佐に昇格)は、クラウス直属の部下であるが、後にクラウスの座を狙う。マーティンも優秀な人物でユ・リムやスンヒが工作員であることを見抜くが、彼もユ・リムやスンヒに陥れられる。
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    Source: KCTV, 2014/07/15放送

    ケルトン博士(本名:ジェンキンス元米軍曹、Charles Robert Jenkins)は第19部まででは写真でしか登場しない。下の写真は、スンヒが第19部で「極秘・米8軍司令部」というスタンプが押された写真を見せる場面である。
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    Source: KCTV, 2014/07/26放送

    ストーリーが非常に複雑なので登場人物以上の紹介はできないが、とてもおもしろい映画である。今日の第20部での展開が楽しみである。

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    プロフィール

    川口智彦

    Author:川口智彦
    「크는 아바이(成長するオッサン)」

    ブログの基本用語:
    「元帥様」=金正恩朝鮮労働党委員長(上の絵の人物)、2016年12月20日から「最高領導者同志」とも呼ばれる
    2021年1月11日から「総秘書同志」
    「首領様」=金日成主席
    「将軍様」=金正日総書記
    「政治局員候補」=金ヨジョン(「元帥様」の妹)、2018年2月11日から「第1副部長同志」とも
    「白頭の血統」=金一族
    「大元帥様達」=「首領様」と「将軍様」
    「女史」=李雪主夫人(2018.07.26より「同志」に)

    우 그림은 충정 담아 아이가 그린 경애하는 김정은원수님이십니다.


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