「朝鮮人民軍最高司令官金正恩同志が朝鮮人民軍戦略軍西部前戦打撃部隊の戦術ロケット発射訓練を指導された」:金正恩が再び短距離ミサイル発射訓練指導、ミサイルや搭載車両を公開、米中戦略・経済対話を牽制、日本の出方を見る、全秉浩死去 (2014年7月10日 「労働新聞」)
北朝鮮が短距離ミサイルを発射したことは既に報じられているが、10日の『労働新聞』は今回の「戦術ロケット発射訓練」も金正恩が指導したと伝えた。
『労働新聞』、「조선인민군 최고사령관 김정은동지께서 조선인민군 전략군 서부전선타격부대들의 전 술 로 케 트 발 사 훈 련 을 지 도 하 시 였 다」、http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?strPageID=SF01_06_01&iPageType=2
『労働新聞』によると「今回の発射訓練は、戦略軍西部前戦打撃部隊(複数)の実戦能力を判定検閲するために機動と火力打撃を組み合わせて行われた」とのことである。
「機動」については、車両で移動する短距離ミサイルを用いたことがはっきりと分かる写真も公開している。

Source: 前掲、『労働新聞』
こちらの写真では、車両から打ち上げられたミサイルが大きく写っている。

Source: 前掲、『労働新聞』
上の写真を半分にして拡大すると、ミサイルが迷彩色にペイントされていることまで確認できる。この形の車両は北朝鮮の軍事パレードにも登場しているが、搭載されているミサイルはカーキ色一色で迷彩色ではない。もしかすると、軍事パレードで搭載されているのは、モックアップで実戦配備されているものと異なるのかもしれない。ただし、光線の関係で迷彩色に見えている可能性もある。
<追記>迷彩色のスカッドの写真をコメントで教えていただいた。コメントを参照されたい。

Source: 前掲、『労働新聞』
また、下半部を拡大するとミサイル搭載車両がいる。

Source: 前掲、『労働新聞』
これまで、北朝鮮がどのような方法で短距離ミサイルを発射しているのか公開してこなかった。日本の報道では、ミサイルは「黄海道付近から発射された」ということであるが、金正恩が「現代戦の要求に合った迅速な機動力と組み合わせて成功裏に行われたと大満足された」ということで、「西部前戦打撃部隊」は車両でミサイルを移動させながらどこからでも発射できるということを誇示することが目的であったのであろう。また、前回の「発射訓練」同様、今回も日が昇る前の早朝に行っているので、「敵」の探知能力を測る目的もあったのであろう。
決して公開はしないだろうが、日米韓の防衛当局がこうした北朝鮮の動きをどれだけ事前に察知できていたのかは非常に重要である。今回の「発射訓練」では約500キロ飛行して「日本海に着弾」したということであるが、北朝鮮のスカッドに600キロ程度の飛行能力があるとすると、北朝鮮が移動車両にスカッドを搭載し北朝鮮東南部の地域から発射すれば、福岡、北九州、広島ぐらいまでは射程距離に含まれる。650キロぐらいの飛行能力があれば、米軍佐世保基地や米軍岩国飛行場も射程距離内に入り、朝鮮半島有事の際には攻撃対象となり得る(日本が集団的自衛権を行使すればなおさらである)。日米韓が北朝鮮の発射準備をを察知できれば、ミサイル防衛システムを稼働させることもできるのであろうが、それができていなければ飛来するミサイルを撃破することは不可能であろう。(各地点間の距離については大まかな計算である)
移動式のノドンがあるのかは不明であるが、日本全域を射程距離におさめるとされるノドンであればさらに脅威は高まる。
ミサイル発射地点と着弾点については、『産経新聞』、「北、日本海にミサイル」、http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140710-00000113-san-kr
「敬愛する最高司令官同志は、戦略軍参謀部が作成した発射計画、設定された飛行軌道と目標水域封鎖状況などを具体的に了解され、戦術ロケット発射命令を下された」とのことであるが、「目標水域封鎖」が具体的のどのような方法で行われたのかは明らかにしていない。
「戦略軍火力打撃計画」と書かれた地図を見ながら説明を受ける金正恩

Source: 前掲、『労働新聞』
では、今回の「発射訓練」はなぜ行われたのであろうか。前回については、日朝会談に対する日本の態度を見極めるのがその主目的であったと思われるが、今回は米中、特に中国に対する不快感の表れであろう。特に、習近平が韓国を訪問し「朝鮮半島の核兵器開発に断固として反対」し「2005年9月19日に合意された9.19共同声明と国連安保理関連決議を誠実に履行しなければならない」と北朝鮮に求め、韓国の「朝鮮半島信頼プロセス」などの韓国側の努力を中国が「積極的に評価した」ことなどに対して反感を抱いているのであろう。
『아시아투데이』、「박근혜 대통령-시진핑 주석 채택 한·중 공동성명 전문」、http://www.asiatoday.co.kr/view.php?key=20140703010002390
それを受けたのが7月7日付けの『労働新聞』に掲載された「朝鮮民主主義人民共和国政府声明」であり、この中で「我々の核は統一の障害でも北南関係改善の障害物でもなく、共和国の核武力は外国勢力の侵略野望を抑止し、自主統一と民族万代の平和と安全、繁栄のための確固たる担保である」とし、「南朝鮮当局は、我々の核問題を騒ぎ立て、外に出かけて『協力』を請託するような無謀な行為は止めなければならない」と非難している。この記事は、形としては金日成が逝去した日に際して、彼が南北関係改善に努めてきたことを強調しながら南北関係改善を呼びかける形を取っているが、これまでも繰り返してきたように「北朝鮮の核は民族共有の財宝」と主張している。
『労働新聞』、「조선민주주의인민공화국 정부 성명」、http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2014-07-07-0002&chAction=L
米国は今回の発射について、9日の国務省定例記者会見で報道官が「2週間に4回も発射することに対して憂慮」しているとし、北朝鮮が主張している「目標水域封鎖」について「北朝鮮は、当該水域を航行する商船、漁船、客船、貨物船に対する事前通報を怠っており、これは国際規則に違反するものである」と非難している。
また、拙ブログでも紹介した「ハリウッド映画に対する反発なのか」という記者の質問に対し報道官は、「ハリウッド映画は随分前から公開されている」と答えている。さすがに、北朝鮮も「最高尊厳」をハリウッド映画で中傷されたからとミサイルを発射することはないであろう。
現在、ケリー国務長官が北京を訪問し米中戦略・経済対話が行われている。今回の「発射訓練」がこの米朝対話と関連しているのかという質問に対して報道官は「これで4度目の発射なので憶測はできない」としながらも「北朝鮮と北朝鮮の脅威に関する事項は、以前から米中対話の懸案事項に含まれていた」としている。米中戦略・経済対話では、北朝鮮の核問題に関する声明も出されるのであろう。
一方、日朝交渉については「拉致に関する日朝交渉が透明性を持って行われる限り米国政府はそれを支持する」としながらも「日本がさらなる制裁解除」をすることについては、「そのことについては関知していない」と答えている。「さらなる制裁解除」は、あったとしてもしばらく先のことになろうが、「関知していない」という表現で日米協調をきちんとやるよう日本に求めているのかもしれない。
Department of State, Daily Press Briefing, http://www.state.gov/r/pa/prs/dpb/2014/07/228980.htm#NORTHKOREA
<追記>
コメントでご指摘を頂いたのだが、対内的には金日成死去20周年や全秉浩人民軍陸軍大将の死去とも関係がありそうだ。特に、『労働新聞』に掲載された「全秉浩同志逝去に関する訃報」には、「全秉浩同志は偉大な領導者金正日同志の忠実な先軍革命戦友であり、長期間、国防工業部門の重要職責を歴任し、人民軍隊を現代的な攻撃手段と防御手段を備えた最精鋭革命強軍へ、我々の祖国を人工地球衛星製作および発射国、核保有国へと変化させることにおいて特出した貢献をした」と書かれており、これまでも言われてきたように、北朝鮮の核・ミサイル開発に全秉浩が深くコミットしていたということが伺える。
故全秉浩陸軍大将

Source: 『労働新聞』、「전병호동지의 서거에 대한 부고」、http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2014-07-09-0010&chAction=S
全秉浩が死去したときの職責は「朝鮮人民軍陸軍大将であり、朝鮮人民軍武装装備館名誉館長」と紹介されており、「陸軍大将」ではあるものの、党や軍内部の組織の要職には就いていない。それにもかかわらず、金正恩が彼の霊前に率先して哀悼の意を表すなど特別の扱いがされているのは、職責以上に彼の貢献が高く評価されたからであろう。
故全秉浩に哀悼の意を示す金正恩

Source: 『労働新聞』、「경애하는 김정은동지께서고 전병호동지의 령구를 찾으시여 깊은 애도의 뜻을 표시하시였다」、http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2014-07-10-0002&chAction=S
全秉浩は、88歳と高齢とあったので第一線からは退いていたのであろうから、今は第に、第三の全秉浩が活躍しているのであろう。
『労働新聞』、「조선인민군 최고사령관 김정은동지께서 조선인민군 전략군 서부전선타격부대들의 전 술 로 케 트 발 사 훈 련 을 지 도 하 시 였 다」、http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?strPageID=SF01_06_01&iPageType=2
『労働新聞』によると「今回の発射訓練は、戦略軍西部前戦打撃部隊(複数)の実戦能力を判定検閲するために機動と火力打撃を組み合わせて行われた」とのことである。
「機動」については、車両で移動する短距離ミサイルを用いたことがはっきりと分かる写真も公開している。

Source: 前掲、『労働新聞』
こちらの写真では、車両から打ち上げられたミサイルが大きく写っている。

Source: 前掲、『労働新聞』
上の写真を半分にして拡大すると、ミサイルが迷彩色にペイントされていることまで確認できる。この形の車両は北朝鮮の軍事パレードにも登場しているが、搭載されているミサイルはカーキ色一色で迷彩色ではない。もしかすると、軍事パレードで搭載されているのは、モックアップで実戦配備されているものと異なるのかもしれない。ただし、光線の関係で迷彩色に見えている可能性もある。
<追記>迷彩色のスカッドの写真をコメントで教えていただいた。コメントを参照されたい。

Source: 前掲、『労働新聞』
また、下半部を拡大するとミサイル搭載車両がいる。

Source: 前掲、『労働新聞』
これまで、北朝鮮がどのような方法で短距離ミサイルを発射しているのか公開してこなかった。日本の報道では、ミサイルは「黄海道付近から発射された」ということであるが、金正恩が「現代戦の要求に合った迅速な機動力と組み合わせて成功裏に行われたと大満足された」ということで、「西部前戦打撃部隊」は車両でミサイルを移動させながらどこからでも発射できるということを誇示することが目的であったのであろう。また、前回の「発射訓練」同様、今回も日が昇る前の早朝に行っているので、「敵」の探知能力を測る目的もあったのであろう。
決して公開はしないだろうが、日米韓の防衛当局がこうした北朝鮮の動きをどれだけ事前に察知できていたのかは非常に重要である。今回の「発射訓練」では約500キロ飛行して「日本海に着弾」したということであるが、北朝鮮のスカッドに600キロ程度の飛行能力があるとすると、北朝鮮が移動車両にスカッドを搭載し北朝鮮東南部の地域から発射すれば、福岡、北九州、広島ぐらいまでは射程距離に含まれる。650キロぐらいの飛行能力があれば、米軍佐世保基地や米軍岩国飛行場も射程距離内に入り、朝鮮半島有事の際には攻撃対象となり得る(日本が集団的自衛権を行使すればなおさらである)。日米韓が北朝鮮の発射準備をを察知できれば、ミサイル防衛システムを稼働させることもできるのであろうが、それができていなければ飛来するミサイルを撃破することは不可能であろう。(各地点間の距離については大まかな計算である)
移動式のノドンがあるのかは不明であるが、日本全域を射程距離におさめるとされるノドンであればさらに脅威は高まる。
ミサイル発射地点と着弾点については、『産経新聞』、「北、日本海にミサイル」、http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140710-00000113-san-kr
「敬愛する最高司令官同志は、戦略軍参謀部が作成した発射計画、設定された飛行軌道と目標水域封鎖状況などを具体的に了解され、戦術ロケット発射命令を下された」とのことであるが、「目標水域封鎖」が具体的のどのような方法で行われたのかは明らかにしていない。
「戦略軍火力打撃計画」と書かれた地図を見ながら説明を受ける金正恩

Source: 前掲、『労働新聞』
では、今回の「発射訓練」はなぜ行われたのであろうか。前回については、日朝会談に対する日本の態度を見極めるのがその主目的であったと思われるが、今回は米中、特に中国に対する不快感の表れであろう。特に、習近平が韓国を訪問し「朝鮮半島の核兵器開発に断固として反対」し「2005年9月19日に合意された9.19共同声明と国連安保理関連決議を誠実に履行しなければならない」と北朝鮮に求め、韓国の「朝鮮半島信頼プロセス」などの韓国側の努力を中国が「積極的に評価した」ことなどに対して反感を抱いているのであろう。
『아시아투데이』、「박근혜 대통령-시진핑 주석 채택 한·중 공동성명 전문」、http://www.asiatoday.co.kr/view.php?key=20140703010002390
それを受けたのが7月7日付けの『労働新聞』に掲載された「朝鮮民主主義人民共和国政府声明」であり、この中で「我々の核は統一の障害でも北南関係改善の障害物でもなく、共和国の核武力は外国勢力の侵略野望を抑止し、自主統一と民族万代の平和と安全、繁栄のための確固たる担保である」とし、「南朝鮮当局は、我々の核問題を騒ぎ立て、外に出かけて『協力』を請託するような無謀な行為は止めなければならない」と非難している。この記事は、形としては金日成が逝去した日に際して、彼が南北関係改善に努めてきたことを強調しながら南北関係改善を呼びかける形を取っているが、これまでも繰り返してきたように「北朝鮮の核は民族共有の財宝」と主張している。
『労働新聞』、「조선민주주의인민공화국 정부 성명」、http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2014-07-07-0002&chAction=L
米国は今回の発射について、9日の国務省定例記者会見で報道官が「2週間に4回も発射することに対して憂慮」しているとし、北朝鮮が主張している「目標水域封鎖」について「北朝鮮は、当該水域を航行する商船、漁船、客船、貨物船に対する事前通報を怠っており、これは国際規則に違反するものである」と非難している。
また、拙ブログでも紹介した「ハリウッド映画に対する反発なのか」という記者の質問に対し報道官は、「ハリウッド映画は随分前から公開されている」と答えている。さすがに、北朝鮮も「最高尊厳」をハリウッド映画で中傷されたからとミサイルを発射することはないであろう。
現在、ケリー国務長官が北京を訪問し米中戦略・経済対話が行われている。今回の「発射訓練」がこの米朝対話と関連しているのかという質問に対して報道官は「これで4度目の発射なので憶測はできない」としながらも「北朝鮮と北朝鮮の脅威に関する事項は、以前から米中対話の懸案事項に含まれていた」としている。米中戦略・経済対話では、北朝鮮の核問題に関する声明も出されるのであろう。
一方、日朝交渉については「拉致に関する日朝交渉が透明性を持って行われる限り米国政府はそれを支持する」としながらも「日本がさらなる制裁解除」をすることについては、「そのことについては関知していない」と答えている。「さらなる制裁解除」は、あったとしてもしばらく先のことになろうが、「関知していない」という表現で日米協調をきちんとやるよう日本に求めているのかもしれない。
Department of State, Daily Press Briefing, http://www.state.gov/r/pa/prs/dpb/2014/07/228980.htm#NORTHKOREA
<追記>
コメントでご指摘を頂いたのだが、対内的には金日成死去20周年や全秉浩人民軍陸軍大将の死去とも関係がありそうだ。特に、『労働新聞』に掲載された「全秉浩同志逝去に関する訃報」には、「全秉浩同志は偉大な領導者金正日同志の忠実な先軍革命戦友であり、長期間、国防工業部門の重要職責を歴任し、人民軍隊を現代的な攻撃手段と防御手段を備えた最精鋭革命強軍へ、我々の祖国を人工地球衛星製作および発射国、核保有国へと変化させることにおいて特出した貢献をした」と書かれており、これまでも言われてきたように、北朝鮮の核・ミサイル開発に全秉浩が深くコミットしていたということが伺える。
故全秉浩陸軍大将

Source: 『労働新聞』、「전병호동지의 서거에 대한 부고」、http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2014-07-09-0010&chAction=S
全秉浩が死去したときの職責は「朝鮮人民軍陸軍大将であり、朝鮮人民軍武装装備館名誉館長」と紹介されており、「陸軍大将」ではあるものの、党や軍内部の組織の要職には就いていない。それにもかかわらず、金正恩が彼の霊前に率先して哀悼の意を表すなど特別の扱いがされているのは、職責以上に彼の貢献が高く評価されたからであろう。
故全秉浩に哀悼の意を示す金正恩

Source: 『労働新聞』、「경애하는 김정은동지께서고 전병호동지의 령구를 찾으시여 깊은 애도의 뜻을 표시하시였다」、http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2014-07-10-0002&chAction=S
全秉浩は、88歳と高齢とあったので第一線からは退いていたのであろうから、今は第に、第三の全秉浩が活躍しているのであろう。