「朝鮮人民軍最高司令官金正恩同志が朝鮮人民戦略軍の戦術ロケット発射訓練を指導された」:日本海に発射された短距離ロケット、日本への揺さぶり、日朝交渉、安倍政権の外交能力 (2014年6月30日 「朝鮮中央通信」)
「朝鮮中央通信が」30日、金正恩が「朝鮮人民軍戦略軍の戦術ロケット発射訓練を指導した」と報じた。同行したのは人民軍総政治局長の黄炳瑞他、人民軍戦略軍司令官・戦略軍上将金ラクキョムなどである。
「訓練は、敵の個別目標と集団目標殲滅のための精密誘導及び散布射撃の方法で行われた」としており、数日前の精密誘導弾射撃訓練に関連する訓練のようだ。
発射に際しては「発射の全過程を科学的に計算し、飛行軌道と目標水域に関する安全検閲捜索を徹底的に行った」ので「国際航海秩序と生態環境に小さな影響も与えない」としている。
そして、訓練の結果「主体的なロケット射撃方法が完成した」としている。金正恩は「我が共和国に対する病的な拒否感と体質的な敵対視政策を追求する米帝とその追従集団の盲動を抑制」するとし、「ロケット射撃方法の完成」が強力な「抑止力」であるという自信を示している。
北朝鮮は、これまでも日本海に向けて短距離ミサイル発射を行ってきたが、「通常の訓練」というだけで、少なくとも金正恩時代に入ってからは最高指導者の「指導」があったとは伝えていない。しかし今回、金正恩がこの短距離ミサイル発射訓練を直接指導したことを伝えているのは、やはり日朝会談を翌日に控えた日本に対する揺さぶりであろう。
恐らく北朝鮮は、29日早朝(5時頃)短距離ミサイル発射をしておき、日本の出方を見ていたのであろう。2012年の「銀河3-2号」ロケット発射は別の意味合いを持つものであるが、状況としては「弾道ミサイル技術」を用いた「発射」を日朝会談直前に行ったという点では変わりない。2012年には、「銀河3-2号」発射通告を受け、日朝会談は流れてしまった。しかし、今回、日本政府は北朝鮮の短距離ミサイル発射を非難しつつも、日朝会談は予定通り行うと発表している。国連安保理決議の枠組みで行けば、2012年の「銀河3-2号」ロケット発射も今回の「戦術ロケット」発射も「弾道ミサイル技術」を使っているので同じ扱いであるが、考えようによっては、今回の方が挑発的である。というのは、前回はあくまでも「衛星発射」であると北朝鮮は主張しており、軍事訓練の扱いはされていない。しかし、今回は「戦略ロケット軍」の訓練とはっきりいっており、その目的を「米国とその追従集団に対する抑止力」としているので、北朝鮮のミサイル防衛に歴代政権の中でももっとも強力に取り組んでいる安倍政権は「追従集団」の筆頭である日本もその対象に含まれている。
これだけ強く日本を挑発しておき、それでも日朝会談をやるのかというのを北朝鮮は見極めたかったのであろう。この「見極め」を「本気度」と解するのか、あるいは「瀬戸際戦術」と解するのかは難しい。ある意味、今回の短距離ミサイル発射で、日朝会談の困難さのハードルは1段高まった。日本は、国際社会、特に米国(と韓国)との協調を維持しなければならず、その系で北朝鮮には短距離ミサイル発射について相当強く抗議する必要がある。一方で、拉致問題解決という人道問題を抱えており、拉致問題解決と国際協調のバランスをどのように維持していくのかがポイントとなる。
「日朝合意文書」が発表されたときは、「こんなに順調にいくのか」と驚いたが、やはり北朝鮮、一筋縄には行かない国である。ただ、日本政府が今回の短距離ミサイル発射で日朝会談を中止しなかったのは賢明な判断だと思う。今後の成り行きは予断を許さないにしても、中止してしまえば全てが振り出しに戻るだけである。背景には、安倍政権の「拉致問題解決への強い意志」と経済政策がさしあたり上手くいき高い支持率を維持しているという自信があるはずだが、国際社会は「拉致問題」以上に、金正恩政権がどのような外交を展開するのかというところで注目しているであろう。
日本にとって「拉致問題解決」が最重要であることは間違いないにしても、広い視点から北朝鮮と交渉を進めていって欲しいものである。安倍政権がこれまでやってきた米国、アフリカ、アジアでの「スマイル外交」はイージーな部類である。北朝鮮との交渉で、安倍政権の外交能力の優劣が判断されよう。
<追記>
6月30日、「朝鮮中央TV」が「朝鮮人民軍戦略軍ロケット発射訓練」の様子を静止画で報じた。
「弾道ロケット」発射の様子

Source: KCTV, 2014/06/30放送
上昇していく「弾道ロケット」

Source: KCTV, 2014/06/30放送
打ち上げられた「弾道ロケット」を眺める金正恩。どうやら発射場からかなり離れた高台から、発射の様子を眺めているようである。ピンポイントの発射地点や発射台、運搬車両などを公開したくないのであろう。また、発射は朝5時頃と発表されているが、写真からも早朝であることが分かる。このところ、北朝鮮も高温状態が続いており、7月2日の平壌の最高気温は30度と予想されていた。そういうこともあってか、「元帥様」はニューファッションの白い半袖シャツを愛用している。昨年、暑い日は黒い人民服の前のボタンを外し、下着らしきシャツを見せて歩いていたが、この半袖白シャツの方がカッコイイ。っそれにしても「弾道ロケット」発射というよりも、花火を見ているようなのんびりした雰囲気だ。

Source: KCTV, 2014/06/30放送
6月30日の米国務省定例記者会見では、「飛翔体」という表現を使っており、「弾道ミサイル」だという断定はしていなかった。
Department of State, Daily Press Briefing, http://www.state.gov/r/pa/prs/dpb/2014/06/228570.htm#DPRK
「訓練は、敵の個別目標と集団目標殲滅のための精密誘導及び散布射撃の方法で行われた」としており、数日前の精密誘導弾射撃訓練に関連する訓練のようだ。
発射に際しては「発射の全過程を科学的に計算し、飛行軌道と目標水域に関する安全検閲捜索を徹底的に行った」ので「国際航海秩序と生態環境に小さな影響も与えない」としている。
そして、訓練の結果「主体的なロケット射撃方法が完成した」としている。金正恩は「我が共和国に対する病的な拒否感と体質的な敵対視政策を追求する米帝とその追従集団の盲動を抑制」するとし、「ロケット射撃方法の完成」が強力な「抑止力」であるという自信を示している。
北朝鮮は、これまでも日本海に向けて短距離ミサイル発射を行ってきたが、「通常の訓練」というだけで、少なくとも金正恩時代に入ってからは最高指導者の「指導」があったとは伝えていない。しかし今回、金正恩がこの短距離ミサイル発射訓練を直接指導したことを伝えているのは、やはり日朝会談を翌日に控えた日本に対する揺さぶりであろう。
恐らく北朝鮮は、29日早朝(5時頃)短距離ミサイル発射をしておき、日本の出方を見ていたのであろう。2012年の「銀河3-2号」ロケット発射は別の意味合いを持つものであるが、状況としては「弾道ミサイル技術」を用いた「発射」を日朝会談直前に行ったという点では変わりない。2012年には、「銀河3-2号」発射通告を受け、日朝会談は流れてしまった。しかし、今回、日本政府は北朝鮮の短距離ミサイル発射を非難しつつも、日朝会談は予定通り行うと発表している。国連安保理決議の枠組みで行けば、2012年の「銀河3-2号」ロケット発射も今回の「戦術ロケット」発射も「弾道ミサイル技術」を使っているので同じ扱いであるが、考えようによっては、今回の方が挑発的である。というのは、前回はあくまでも「衛星発射」であると北朝鮮は主張しており、軍事訓練の扱いはされていない。しかし、今回は「戦略ロケット軍」の訓練とはっきりいっており、その目的を「米国とその追従集団に対する抑止力」としているので、北朝鮮のミサイル防衛に歴代政権の中でももっとも強力に取り組んでいる安倍政権は「追従集団」の筆頭である日本もその対象に含まれている。
これだけ強く日本を挑発しておき、それでも日朝会談をやるのかというのを北朝鮮は見極めたかったのであろう。この「見極め」を「本気度」と解するのか、あるいは「瀬戸際戦術」と解するのかは難しい。ある意味、今回の短距離ミサイル発射で、日朝会談の困難さのハードルは1段高まった。日本は、国際社会、特に米国(と韓国)との協調を維持しなければならず、その系で北朝鮮には短距離ミサイル発射について相当強く抗議する必要がある。一方で、拉致問題解決という人道問題を抱えており、拉致問題解決と国際協調のバランスをどのように維持していくのかがポイントとなる。
「日朝合意文書」が発表されたときは、「こんなに順調にいくのか」と驚いたが、やはり北朝鮮、一筋縄には行かない国である。ただ、日本政府が今回の短距離ミサイル発射で日朝会談を中止しなかったのは賢明な判断だと思う。今後の成り行きは予断を許さないにしても、中止してしまえば全てが振り出しに戻るだけである。背景には、安倍政権の「拉致問題解決への強い意志」と経済政策がさしあたり上手くいき高い支持率を維持しているという自信があるはずだが、国際社会は「拉致問題」以上に、金正恩政権がどのような外交を展開するのかというところで注目しているであろう。
日本にとって「拉致問題解決」が最重要であることは間違いないにしても、広い視点から北朝鮮と交渉を進めていって欲しいものである。安倍政権がこれまでやってきた米国、アフリカ、アジアでの「スマイル外交」はイージーな部類である。北朝鮮との交渉で、安倍政権の外交能力の優劣が判断されよう。
<追記>
6月30日、「朝鮮中央TV」が「朝鮮人民軍戦略軍ロケット発射訓練」の様子を静止画で報じた。
「弾道ロケット」発射の様子

Source: KCTV, 2014/06/30放送
上昇していく「弾道ロケット」

Source: KCTV, 2014/06/30放送
打ち上げられた「弾道ロケット」を眺める金正恩。どうやら発射場からかなり離れた高台から、発射の様子を眺めているようである。ピンポイントの発射地点や発射台、運搬車両などを公開したくないのであろう。また、発射は朝5時頃と発表されているが、写真からも早朝であることが分かる。このところ、北朝鮮も高温状態が続いており、7月2日の平壌の最高気温は30度と予想されていた。そういうこともあってか、「元帥様」はニューファッションの白い半袖シャツを愛用している。昨年、暑い日は黒い人民服の前のボタンを外し、下着らしきシャツを見せて歩いていたが、この半袖白シャツの方がカッコイイ。っそれにしても「弾道ロケット」発射というよりも、花火を見ているようなのんびりした雰囲気だ。

Source: KCTV, 2014/06/30放送
6月30日の米国務省定例記者会見では、「飛翔体」という表現を使っており、「弾道ミサイル」だという断定はしていなかった。
Department of State, Daily Press Briefing, http://www.state.gov/r/pa/prs/dpb/2014/06/228570.htm#DPRK