「敬愛する最高司令官金正恩同志の指導の下、朝鮮人民軍第1回飛行士大会盛大に開催」:初めての飛行士大会、無人機カラー、乱暴なシナリオ2つ、「光明星2号」打ち上げ警備で殉職? (2014年4月22日 「朝鮮中央TV」)
22日夜はモランボン楽団の盛大な公演が開催された。過去記事に「追記」する形で見ながら気付いた点を少し書き込んでおいた。同公演の記事を書くために昨日の「朝鮮中央TV」を見直していたら、表題のような「朝鮮記録映画」が冒頭で放送された。韓国・統一部のサイトで確認すると21日に放送された同映画の再放送となっている。
「第1回飛行士大会」ということなので、お爺さんやお父さんの時代には、こうした大会は開かれなかったということになる。しかし、同映画のアナウンスを聞いていると金正日が死去した年である「2011年12月16日、自身(金正恩)に最後に掛けてきた電話で話したことは、戦闘任務を立派に遂行した飛行士を平壌に招聘・鼓舞する問題であった」と金正恩が語ったとしている。続くアナウンスでも強調しているように、飛行士の平壌招聘も金正日の遺訓貫徹の一つということになる。
それもあろうが、大会会場の色を見て直ぐに考えたのが、韓国に飛来した無人機の色である。北朝鮮は、「国防委員会検閲団」が無人機が北から飛来したという説を否定する「公開状」を出しており、それを紹介しようとした拙ブログの記事が書きかけになっている。しかし、韓国当局が公開した無人機の一部の写真と会場のカラーは実に類似している。色についても、「検閲団」は一般的な色と関与を否定しているが、確かに青空を象徴する色合いではあるものの、薄水色は実に無人機の色に近い。
『労働新聞』、「무인기사건의 《북소행》설은 철두철미 《천안》호사건의 복사판 조선민주주의인민공화국 국방위원회 검열단 진상공개장」、http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2014-04-15-0016&chAction=L
「第1回飛行士大会」会場

Source: KCTV, 2014/04/22放送
韓国・国防部が公開した無人機の写真

Source: 韓国・国防部HP、http://www.mnd.go.kr/cop/kookbang/kookbangIlboView.do?categoryCode=dema0138&boardSeq=4205&id=mnd_020106000000
無人機の偵察ミッションからすれば、青空に溶け込むような色にペイントするのは当然ということになるのかもしれないが、それにしても似ている。
金正恩は、開会の辞で「朝鮮半島の南側上空を帝国主義の銀バエ群れが覆っている険悪な状況の中で、祖国の領空を全て開放しても全国の飛行士を全て平壌に招聘し、大会を開催するということは、それ自体が我々の勇気と胆力の勝利」であると述べている。「祖国の領空を全て開放して」というのは誇張であろうが、敢えてこのような発言をしているのは、北朝鮮からの無人偵察機をみすみす青瓦台上空まで侵入させた韓国の防空能力の低さを揶揄するためなのかもしれない。
『労働新聞』の「第1回飛行士大会」関連記事に掲載された金正恩の写真。動画中でも金正恩が笑っている場面が何回も映し出されるが、この種の大会で金正恩が笑っている(微笑んでいるではない)写真が『労働新聞』に掲載されるのも珍しい(初めて?)のではないだろうか。

Source: 『労働新聞』、「경애하는 최고사령관 김정은동지의 지도밑에 조선인민군 제1차 비행사대회가 성대히 진행되였다」、http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2014-04-20-0001&chAction=L
一連の流れからかなり乱暴なシナリオを組み立てると以下のようになる。、南北関係を対決モードに切り替え、朴槿恵を徹底的に攻撃する。韓国では「帝国主義の銀バエ」を大量に呼び込んで大々的な米韓合同演習をしているなか、国籍不明(実は北朝鮮)の無人機数機が堂々と韓国の軍事施設や青瓦台の上空を飛び回り写真を何百枚も撮影する。北朝鮮への帰還も可能であるが敢えて墜落させる。韓国軍は初めは無人機を「素人が趣味で遊ぶラジコン飛行機程度」と馬鹿にするが、その後、事件の重大さを認識し始める。それを待って北朝鮮は「検閲団公開状」を発表し、「天安号事件」と比較しながら関与を否定する。一方、無人機から回収された写真は韓国民衆を驚かせ、政権や軍部に対する批判が高まる(それが保守的な批判であれ、反保守的な批判であれば北朝鮮にとってはどうでもよい)。あわよくば、「5.24措置」解除も狙う。ついでに、無人機に搭載された日本製カメラやラジコン機エンジンを見せ、経済制裁の無力さも晒す。そして、仕上げに北朝鮮の上空を「開放」し、平壌で飛行士大会を開催し、金正恩が韓国の防空体制を嘲笑しながら、うれしそうに笑う。日本製一眼レフとラジコンエンジンなど、その他搭載されたGPS装置などを含めても、宣伝効果からすれば軍事作戦のコストの内に入らない。
ついでに書いておくと、同系の脅しは北朝鮮の核実験場「豊渓里」での動きとも関連している。オバマの日韓歴訪に合わせて核実験をちらつかせる。ミサイルの発射準備をしたり、人民軍を前戦に移動させるかもしれない。米国は強い挑発を感じ、「戦略的忍耐」を続けることができなくなり、94年のような事態至る。もちろん、94年は西部前戦(ウクライナ)問題がなかったことは北朝鮮も認識しているので、「東部前線(朝鮮半島)も作るのか」という意味で米国に揺さぶりを掛ける。一度は、堪忍袋の緒が切れる米国も、西と東ではどうにもならないので、北朝鮮との対話に応じる。状況的には、ロシアも北朝鮮の側に立つ公算が高い。中国は核実験に対する警告はしつつも様子見をし、米国が対話に乗り出せば「六者会談」の議長役を買って出てそのプレゼンスを高めるであろう。これも乱暴なシナリオだが、考えられないこともない。
大会では複数の討論者が演説をし、ベトナム戦争での北朝鮮空軍の活躍や金正日部隊視察時の逸話などを披露した。中江でも興味深かったのは、殉職した空軍兵士の妻、金ヘヨンの演説である。彼女は自分を「2009年4月、敵共が我々の平和的な人工地球衛星『光明星2号』を迎撃すると騒ぎ立てたとき、偉大な将軍様と敬愛する元帥様が下された戦闘命令を輝かしく貫徹した14人の決死隊員の内の1人であったチョン・チョルチュ飛行士の妻」と紹介している。「光明星2号」発射に際し、南北や米朝間で戦闘があったという話は聞いたことがない。金正恩も「命令を下した」と言われているものの、この話の意味がよく分からなかったようで、横に座っていた空軍幹部から当時の状況の説明を受けていたようだ。

Source :KCTV,2014/04/22放送
ともかく、彼女の夫である飛行士は「戦闘任務中に犠牲となった」ということで、「将軍様」と「元帥様」が彼を「永世の丘に立たせて下さり、遺族は党が面倒を見るようにしてくれた」とナレーションは語っている。問題はこの「戦闘」が何かということだが、彼女の話では「敵共の迎撃機を破綻させるための戦闘」と言っている。実際に、韓国や米国との交戦はなかったので、「敵共の迎撃機を破綻させるための戦闘」に向かう途中で事故でも起こしたのであろうか。
金正恩は、「戦闘任務中に犠牲となった」チョン・チョルチュ飛行士は「共和国英雄称号」を与え、残りの13人には「偉大な将軍様のお名前を刻んだ時計表彰」を授与するといっている。1名と残りの13名を分けていることからすると、やはりチョン飛行士だけ何かの理由で殉職したのであろう。
表彰状と腕時計

Source: KCTV, 2014/04/22放送

Source: KCTV, 2014/04/22放送
チョン飛行士の未亡人に表彰状を手渡す金正恩

Source: KCTV, 2014/04/22放送
「記録映画」では、続けて金正恩が飛行士たちとモランボン公演を観覧する様子を短く伝えている。モランボン公演については、別記事にしようと思っているので、詳細は書かないが、この「記録映画」の中でいくつか気になった点だけを記述しておく。
下の写真は、金正恩が別の観覧者と握手をしているとき、後方で李雪主が飛行士の未亡人(チョン飛行士ではない)と握手をしている。そしてその後も、しばらくの間、観覧者たちと握手を続ける。

Source: KCTV, 2014/04/22放送
これまで、李雪主はこのような場で個別に握手をせず、横で拍手をしていたように記憶しているのだがどうだっただろうか。握手の対象が女性なので気を許しているのだろうか。ファースト・レディーの格が高まったとまでは言うつもりはないが、少し気になった。
<追記>
既にコメントに対するお返事で書いたが、こちらにも追記しておく。2009年4月の「敵共の迎撃機を破綻させるための戦闘」であるが、2009年4月10日付けの『中央日報』(日本語版)のきじには「ミサイル発射を1日後に控えた今月4日、舞水端里のミサイル発射施設前にある東海(トンへ、日本海)上では「ミグ23」1機が墜落した」とある。
『中央日報』、「北、戦闘機の墜落相次ぐ…金正日総書記が激怒(1)」、http://japanese.joins.com/article/849/113849.html?sectcode=&servcode=
「金正日総書記が激怒」については、「事故が相次ぐと、金委員長が李炳鉄(リ・ビョンチョル)空軍司令官に“苦労して稼いだ外貨で購入した飛行機をすべて無くすつもりか”と激怒した、という情報がある」ということで、噂の範疇ではあるが、高価な軍用機を失うことは北朝鮮のみならず、どの国にとっても大きな損失であることは間違いない。
建国以来、「空軍飛行士大会」が開催されたことはなかったので、ミグ墜落という不祥事と開催されなかったこととの直接的な関連はないにせよ、3軍の中では空軍が比較的軽視されてきたのであろう。思えば、抗日パルチザンは言うに及ばず、朝鮮戦争でも北朝鮮空軍はほとんど活躍しなかった。むしろ、「首領様」の「卓越した戦術」として、地上から陸軍が「米帝」の戦闘機を打ち落とす競争に力を入れていた。
そうではあるが、ミグを墜落させたと思われる飛行士の未亡人を大会に招き、亡き飛行士に「共和国英雄」称号を与えるのには意味があろう。その系で、この未亡人の発言はとても面白い。「朝鮮記録映画」の中では、「討論者」の声と、それを要約するナレーションを混合して使用しているが、この未亡人については、他の討論者よりも肉声を流す部分が長くなっている。
この未亡人の話の前半部分については、上記のとおりであるが、その後の部分について聞き直すと、未亡人が「戦闘任務に就いた夫に手紙を書いた」とナレーションが入っている。ちょうど、上の写真にある空軍幹部が金正恩に何かを説明している部分の映像が出た直後である。続いて未亡人の肉声が流れ「幼い子供のまん丸い目に恥じぬよう、立派なお父さんになってくださいとお願いしました」(前後関係からして、「将軍様」を死守せよという意味である)と手紙に書いたと言う。この時、金正恩は真剣なまなざしで討論者の方を見ながら、小さく頷いている。
頷く金正恩

Source: KCTV, 2014/04/22放送
その次にナレーションが入り、「将軍様」と「最高司令官」が「永世の丘に立たせて下さり、遺族は党が面倒を見るようにしてくれた」と語っているのは上記のとおりである。「追記」を書く前はあまり意識しなかったのだが、『中央日報』の記事にあるように「将軍様」が「激怒した」のならば、「永世の丘に立たせ」るどころか懲罰の対象とした可能性が高い。また、「(金正日)将軍様と(金正恩)最高司令官」は同時に存在しないので、「将軍様」はAをして下さり、「最高司令官」はBをして下さったということになる。
しかし、このナレーションの後で、再び流れる未亡人の肉声を聞いていると、主語が「敬愛する元帥様(金正恩)は」となっており、2009年に飛行士の妻たちが夫に書いた手紙を「保管しておられ、何回も熱く思い出して下さり、今年、4月15日には光明星2号発射時に敵共の迎撃機を破綻させるための戦闘に動員された14名の飛行士が作戦地域を発つ前に将軍様に差し上げた手紙と妻が夫に送った手紙は本当に涙を流すことなく見ることができない。その時に、英雄称号は与えなかったが、彼らは英雄として遜色なく戦ったと熱く語られた」と言っている。飛行士が「将軍様」に出した手紙を保管しているのは分かるが、妻が夫に出した手紙がなぜ彼の手元にあるのだろうか。
やはり、ミグを墜落させた飛行士を「永世の丘に立たせ」たのは、「将軍様」ではなく現「最高司令官」であり、その意味で当時、金正日の判断で与えられなかった「英雄称号」を、金正日の判断を覆し(金正日が本当に「激怒」したのであれば、180度覆し)与えるということにしたのであろう。すると、金正日の決定を覆す「罪悪」を払拭するために「空軍幹部から説明を聞く」演出の意味も分かってくる。
今回の「飛行士大会」は、何らかの理由でお爺さんもお父さんも開催しなかった「飛行士大会」を開催したことを金正恩の実績とし、さらに暗にお父さんの決定を覆すほど権力基盤が強化されたことを示し、一方で未亡人に「討論」をさせることで「恩情深い元帥様」を同時にアピールする場として利用したのであろう。
未亡人は「今日、飛行士だけ参加する栄光の大会に13人の飛行士の家族と共に私も招待して下さいました。私は、亡くなった革命戦士たちに永世する命を抱かせて下さる敬愛する元帥様の懐があり、夫と共に戦った飛行士がいるので、今日のこの大会に夫も共に参加したと思っています」と「討論」のまとめの部分で語っている。
ところで、この大会に展示された戦闘機であるが、空軍飛行士大会モランボン公演で展示された戦闘機とは機体に書かれた番号が異なっている。また、「革命史跡」としての価値を示す「見て下さった」事実が記されている赤い部分も、横に2つ並んでいる。モランボン公演の方は、書かれている内容が範読できたので、別途、モランボン公演の記事に書くが、こちらは内容が判読することができない。「金日成と金正日」なのか「金正日と金正恩」なのか分からないが、大会の流れからすると、後者ではないだろうか。
「空軍飛行士大会」に展示された戦闘機

Source: KCTV, 2014/04/22放送
「第1回飛行士大会」ということなので、お爺さんやお父さんの時代には、こうした大会は開かれなかったということになる。しかし、同映画のアナウンスを聞いていると金正日が死去した年である「2011年12月16日、自身(金正恩)に最後に掛けてきた電話で話したことは、戦闘任務を立派に遂行した飛行士を平壌に招聘・鼓舞する問題であった」と金正恩が語ったとしている。続くアナウンスでも強調しているように、飛行士の平壌招聘も金正日の遺訓貫徹の一つということになる。
それもあろうが、大会会場の色を見て直ぐに考えたのが、韓国に飛来した無人機の色である。北朝鮮は、「国防委員会検閲団」が無人機が北から飛来したという説を否定する「公開状」を出しており、それを紹介しようとした拙ブログの記事が書きかけになっている。しかし、韓国当局が公開した無人機の一部の写真と会場のカラーは実に類似している。色についても、「検閲団」は一般的な色と関与を否定しているが、確かに青空を象徴する色合いではあるものの、薄水色は実に無人機の色に近い。
『労働新聞』、「무인기사건의 《북소행》설은 철두철미 《천안》호사건의 복사판 조선민주주의인민공화국 국방위원회 검열단 진상공개장」、http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2014-04-15-0016&chAction=L
「第1回飛行士大会」会場

Source: KCTV, 2014/04/22放送
韓国・国防部が公開した無人機の写真

Source: 韓国・国防部HP、http://www.mnd.go.kr/cop/kookbang/kookbangIlboView.do?categoryCode=dema0138&boardSeq=4205&id=mnd_020106000000
無人機の偵察ミッションからすれば、青空に溶け込むような色にペイントするのは当然ということになるのかもしれないが、それにしても似ている。
金正恩は、開会の辞で「朝鮮半島の南側上空を帝国主義の銀バエ群れが覆っている険悪な状況の中で、祖国の領空を全て開放しても全国の飛行士を全て平壌に招聘し、大会を開催するということは、それ自体が我々の勇気と胆力の勝利」であると述べている。「祖国の領空を全て開放して」というのは誇張であろうが、敢えてこのような発言をしているのは、北朝鮮からの無人偵察機をみすみす青瓦台上空まで侵入させた韓国の防空能力の低さを揶揄するためなのかもしれない。
『労働新聞』の「第1回飛行士大会」関連記事に掲載された金正恩の写真。動画中でも金正恩が笑っている場面が何回も映し出されるが、この種の大会で金正恩が笑っている(微笑んでいるではない)写真が『労働新聞』に掲載されるのも珍しい(初めて?)のではないだろうか。

Source: 『労働新聞』、「경애하는 최고사령관 김정은동지의 지도밑에 조선인민군 제1차 비행사대회가 성대히 진행되였다」、http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2014-04-20-0001&chAction=L
一連の流れからかなり乱暴なシナリオを組み立てると以下のようになる。、南北関係を対決モードに切り替え、朴槿恵を徹底的に攻撃する。韓国では「帝国主義の銀バエ」を大量に呼び込んで大々的な米韓合同演習をしているなか、国籍不明(実は北朝鮮)の無人機数機が堂々と韓国の軍事施設や青瓦台の上空を飛び回り写真を何百枚も撮影する。北朝鮮への帰還も可能であるが敢えて墜落させる。韓国軍は初めは無人機を「素人が趣味で遊ぶラジコン飛行機程度」と馬鹿にするが、その後、事件の重大さを認識し始める。それを待って北朝鮮は「検閲団公開状」を発表し、「天安号事件」と比較しながら関与を否定する。一方、無人機から回収された写真は韓国民衆を驚かせ、政権や軍部に対する批判が高まる(それが保守的な批判であれ、反保守的な批判であれば北朝鮮にとってはどうでもよい)。あわよくば、「5.24措置」解除も狙う。ついでに、無人機に搭載された日本製カメラやラジコン機エンジンを見せ、経済制裁の無力さも晒す。そして、仕上げに北朝鮮の上空を「開放」し、平壌で飛行士大会を開催し、金正恩が韓国の防空体制を嘲笑しながら、うれしそうに笑う。日本製一眼レフとラジコンエンジンなど、その他搭載されたGPS装置などを含めても、宣伝効果からすれば軍事作戦のコストの内に入らない。
ついでに書いておくと、同系の脅しは北朝鮮の核実験場「豊渓里」での動きとも関連している。オバマの日韓歴訪に合わせて核実験をちらつかせる。ミサイルの発射準備をしたり、人民軍を前戦に移動させるかもしれない。米国は強い挑発を感じ、「戦略的忍耐」を続けることができなくなり、94年のような事態至る。もちろん、94年は西部前戦(ウクライナ)問題がなかったことは北朝鮮も認識しているので、「東部前線(朝鮮半島)も作るのか」という意味で米国に揺さぶりを掛ける。一度は、堪忍袋の緒が切れる米国も、西と東ではどうにもならないので、北朝鮮との対話に応じる。状況的には、ロシアも北朝鮮の側に立つ公算が高い。中国は核実験に対する警告はしつつも様子見をし、米国が対話に乗り出せば「六者会談」の議長役を買って出てそのプレゼンスを高めるであろう。これも乱暴なシナリオだが、考えられないこともない。
大会では複数の討論者が演説をし、ベトナム戦争での北朝鮮空軍の活躍や金正日部隊視察時の逸話などを披露した。中江でも興味深かったのは、殉職した空軍兵士の妻、金ヘヨンの演説である。彼女は自分を「2009年4月、敵共が我々の平和的な人工地球衛星『光明星2号』を迎撃すると騒ぎ立てたとき、偉大な将軍様と敬愛する元帥様が下された戦闘命令を輝かしく貫徹した14人の決死隊員の内の1人であったチョン・チョルチュ飛行士の妻」と紹介している。「光明星2号」発射に際し、南北や米朝間で戦闘があったという話は聞いたことがない。金正恩も「命令を下した」と言われているものの、この話の意味がよく分からなかったようで、横に座っていた空軍幹部から当時の状況の説明を受けていたようだ。

Source :KCTV,2014/04/22放送
ともかく、彼女の夫である飛行士は「戦闘任務中に犠牲となった」ということで、「将軍様」と「元帥様」が彼を「永世の丘に立たせて下さり、遺族は党が面倒を見るようにしてくれた」とナレーションは語っている。問題はこの「戦闘」が何かということだが、彼女の話では「敵共の迎撃機を破綻させるための戦闘」と言っている。実際に、韓国や米国との交戦はなかったので、「敵共の迎撃機を破綻させるための戦闘」に向かう途中で事故でも起こしたのであろうか。
金正恩は、「戦闘任務中に犠牲となった」チョン・チョルチュ飛行士は「共和国英雄称号」を与え、残りの13人には「偉大な将軍様のお名前を刻んだ時計表彰」を授与するといっている。1名と残りの13名を分けていることからすると、やはりチョン飛行士だけ何かの理由で殉職したのであろう。
表彰状と腕時計

Source: KCTV, 2014/04/22放送

Source: KCTV, 2014/04/22放送
チョン飛行士の未亡人に表彰状を手渡す金正恩

Source: KCTV, 2014/04/22放送
「記録映画」では、続けて金正恩が飛行士たちとモランボン公演を観覧する様子を短く伝えている。モランボン公演については、別記事にしようと思っているので、詳細は書かないが、この「記録映画」の中でいくつか気になった点だけを記述しておく。
下の写真は、金正恩が別の観覧者と握手をしているとき、後方で李雪主が飛行士の未亡人(チョン飛行士ではない)と握手をしている。そしてその後も、しばらくの間、観覧者たちと握手を続ける。

Source: KCTV, 2014/04/22放送
これまで、李雪主はこのような場で個別に握手をせず、横で拍手をしていたように記憶しているのだがどうだっただろうか。握手の対象が女性なので気を許しているのだろうか。ファースト・レディーの格が高まったとまでは言うつもりはないが、少し気になった。
<追記>
既にコメントに対するお返事で書いたが、こちらにも追記しておく。2009年4月の「敵共の迎撃機を破綻させるための戦闘」であるが、2009年4月10日付けの『中央日報』(日本語版)のきじには「ミサイル発射を1日後に控えた今月4日、舞水端里のミサイル発射施設前にある東海(トンへ、日本海)上では「ミグ23」1機が墜落した」とある。
『中央日報』、「北、戦闘機の墜落相次ぐ…金正日総書記が激怒(1)」、http://japanese.joins.com/article/849/113849.html?sectcode=&servcode=
「金正日総書記が激怒」については、「事故が相次ぐと、金委員長が李炳鉄(リ・ビョンチョル)空軍司令官に“苦労して稼いだ外貨で購入した飛行機をすべて無くすつもりか”と激怒した、という情報がある」ということで、噂の範疇ではあるが、高価な軍用機を失うことは北朝鮮のみならず、どの国にとっても大きな損失であることは間違いない。
建国以来、「空軍飛行士大会」が開催されたことはなかったので、ミグ墜落という不祥事と開催されなかったこととの直接的な関連はないにせよ、3軍の中では空軍が比較的軽視されてきたのであろう。思えば、抗日パルチザンは言うに及ばず、朝鮮戦争でも北朝鮮空軍はほとんど活躍しなかった。むしろ、「首領様」の「卓越した戦術」として、地上から陸軍が「米帝」の戦闘機を打ち落とす競争に力を入れていた。
そうではあるが、ミグを墜落させたと思われる飛行士の未亡人を大会に招き、亡き飛行士に「共和国英雄」称号を与えるのには意味があろう。その系で、この未亡人の発言はとても面白い。「朝鮮記録映画」の中では、「討論者」の声と、それを要約するナレーションを混合して使用しているが、この未亡人については、他の討論者よりも肉声を流す部分が長くなっている。
この未亡人の話の前半部分については、上記のとおりであるが、その後の部分について聞き直すと、未亡人が「戦闘任務に就いた夫に手紙を書いた」とナレーションが入っている。ちょうど、上の写真にある空軍幹部が金正恩に何かを説明している部分の映像が出た直後である。続いて未亡人の肉声が流れ「幼い子供のまん丸い目に恥じぬよう、立派なお父さんになってくださいとお願いしました」(前後関係からして、「将軍様」を死守せよという意味である)と手紙に書いたと言う。この時、金正恩は真剣なまなざしで討論者の方を見ながら、小さく頷いている。
頷く金正恩

Source: KCTV, 2014/04/22放送
その次にナレーションが入り、「将軍様」と「最高司令官」が「永世の丘に立たせて下さり、遺族は党が面倒を見るようにしてくれた」と語っているのは上記のとおりである。「追記」を書く前はあまり意識しなかったのだが、『中央日報』の記事にあるように「将軍様」が「激怒した」のならば、「永世の丘に立たせ」るどころか懲罰の対象とした可能性が高い。また、「(金正日)将軍様と(金正恩)最高司令官」は同時に存在しないので、「将軍様」はAをして下さり、「最高司令官」はBをして下さったということになる。
しかし、このナレーションの後で、再び流れる未亡人の肉声を聞いていると、主語が「敬愛する元帥様(金正恩)は」となっており、2009年に飛行士の妻たちが夫に書いた手紙を「保管しておられ、何回も熱く思い出して下さり、今年、4月15日には光明星2号発射時に敵共の迎撃機を破綻させるための戦闘に動員された14名の飛行士が作戦地域を発つ前に将軍様に差し上げた手紙と妻が夫に送った手紙は本当に涙を流すことなく見ることができない。その時に、英雄称号は与えなかったが、彼らは英雄として遜色なく戦ったと熱く語られた」と言っている。飛行士が「将軍様」に出した手紙を保管しているのは分かるが、妻が夫に出した手紙がなぜ彼の手元にあるのだろうか。
やはり、ミグを墜落させた飛行士を「永世の丘に立たせ」たのは、「将軍様」ではなく現「最高司令官」であり、その意味で当時、金正日の判断で与えられなかった「英雄称号」を、金正日の判断を覆し(金正日が本当に「激怒」したのであれば、180度覆し)与えるということにしたのであろう。すると、金正日の決定を覆す「罪悪」を払拭するために「空軍幹部から説明を聞く」演出の意味も分かってくる。
今回の「飛行士大会」は、何らかの理由でお爺さんもお父さんも開催しなかった「飛行士大会」を開催したことを金正恩の実績とし、さらに暗にお父さんの決定を覆すほど権力基盤が強化されたことを示し、一方で未亡人に「討論」をさせることで「恩情深い元帥様」を同時にアピールする場として利用したのであろう。
未亡人は「今日、飛行士だけ参加する栄光の大会に13人の飛行士の家族と共に私も招待して下さいました。私は、亡くなった革命戦士たちに永世する命を抱かせて下さる敬愛する元帥様の懐があり、夫と共に戦った飛行士がいるので、今日のこの大会に夫も共に参加したと思っています」と「討論」のまとめの部分で語っている。
ところで、この大会に展示された戦闘機であるが、空軍飛行士大会モランボン公演で展示された戦闘機とは機体に書かれた番号が異なっている。また、「革命史跡」としての価値を示す「見て下さった」事実が記されている赤い部分も、横に2つ並んでいる。モランボン公演の方は、書かれている内容が範読できたので、別途、モランボン公演の記事に書くが、こちらは内容が判読することができない。「金日成と金正日」なのか「金正日と金正恩」なのか分からないが、大会の流れからすると、後者ではないだろうか。
「空軍飛行士大会」に展示された戦闘機

Source: KCTV, 2014/04/22放送