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    「金正恩:社会主義農村テーゼの旗を高く掲げ農業生産で革新を起こそう、全国農業部門分組長大会参加者に送った書簡、2014年2月6日」:種子輸入、有機農法、穀物増産、土地利用、分配 (2014年2月7日 「労働新聞」)

    金正恩が表題のような「書簡」を2月6日から平壌で開催されている「全国農業部門分組長大会」の参加者に送った。彼は、同大会に参席していないので、この「書簡」でそれを代替しようということのようだ。昨日は、参加者の中から誕生日などの理由で選ばれた一部の人のために宴会を設けたが、その場にも現れなかった。おそらく、大会が終わった日に「記念写真」を撮影して終わりであろう。同大会では朴奉珠が冒頭演説を行ったが、「新年の辞」で農業問題を最重要視していることもあり、内閣だけに押しつけておくというわけにはいかないのであろう。

    「書簡」は、昨日の『労働新聞』1面に掲載され、「朝鮮中央TV」でも繰り返し読み上げられている。

    『労働新聞』、「김 정 은 사회주의농촌테제의 기치를 높이 들고 농업생산에서 혁신을 일으키자 전국농업부문분조장대회 참가자들에게 보낸 서한주체103(2014)년 2월 6일」、http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2014-02-07-0001&chAction=D

    長文なので、興味深い部分をいくつか拾い出して紹介しておく。

    「新年の辞」で農業問題が強調されたのは、何よりも今年が金日成が「社会主義農村テーゼ」を発表してから50年になる年だからである。しかし、「書簡」でも「我が国が既に政治・思想強国、軍事強国の地位に堂々と登り立ったので、農業をしっかりと行い、食料を自給自足することさえすれば、敵がいくら策動しても我々式の社会主義は傾くことはな」いと述べている。北朝鮮にとって「食料問題」は依然として解決されていない問題であり、また、「敵の策動」により強いられた「苦難の行軍」を繰り返さなくてもよいということなのであろう。過去記事で紹介した映画「慈江道の人々」の中でも「苦難の行軍」の構図は「敵の策動」、つまり「経済的圧殺」がその原因としているが、彼らの解釈では、「正当な核・ロケット開発」に対する安保理制裁、つまり「経済的圧殺」があり、朝鮮人民は「苦難の行軍」を強いられたということである。

    この点について、「核・ミサイルの開発を止めればよい」、「核・ミサイルに費やす金で人民に食わせればよい」という主張がある。確かにそのとおりであるが、社会主義崩壊後の国際社会で「餓死者でも出せば、北朝鮮も他の社会主義国と同様に体制が崩壊するであろう」という期待や「策動」があったことも事実である。当時、米国の高官や研究者が「金正日体制が向こう何年で崩壊するであろう」という発言をしていたことも、客観的事実認識という側面があるものの、期待を述べていたとも考えられる。いわば政治が人道の上位に置かれていたわけであるが、そう考えると、北朝鮮の主張も完全に間違っているわけではない。

    現在に至っても北朝鮮は「苦難の行軍」当時以上の「帝国主義者による経済的圧殺」を受けている。それにもかかわらず、「苦難の行軍」を繰り返さなくても良くなった背景には、北朝鮮がそれに備えたシステムを構築したと評価できる。一つは、「苦難の行軍」が「帝国主義者の圧殺」に先だち、異常気象により発生したという経験から、それに対応する堤防建設や河川整備をやってきたことであろう。また、「苦難の行軍」時期には社会主義全盛時代の甘えから市場経済中国に対する対応を誤ったのであろう。しかし今は、市場経済中国ときちんとビジネスができる関係を構築したはずである。つまり、中国から「恵んでもらう」のではなく、「取引をする」体制作った。また、中国に対しても変化した国際環境の中で「帝国主義者の策動に同調し、我々を圧殺しようとすれば、暴発するかもしれませんよ。核もミサイルも準備出来ましたよ。それでもいいのですか」というシグナルをより強く発信している。中国が反発することを覚悟の上で第3回核実験を強行したのもその一環であろう。今の中朝関係を見る限りでは、北朝鮮のこの戦略は成功しているといえよう。

    話がそれたが、それでも「農業問題」は北朝鮮にとって重要な問題である。「自給自足」は無理としても、自給率を上げることは、他国が戦略的に食糧自給率にこだわりを持っている以上に、少なくとも数十万人という餓死者を出し身をもって痛みを経験した北朝鮮にとっては、喫緊かつ重要な問題である。その系で「社会主義農村テーゼ」50周年を契機に(口実に)、農業問題に力を入れるのは、正しい選択といえる。

    その「社会主義農村テーゼ」については、不勉強で未だにきちんと読んでいない。実は、「書簡」の内容について論じるには、まず「社会主義農村テーゼ」を読まなければならないのであるが、本記事では、乱暴にもそれをきちんと読まずして論じていくことにする。

    北朝鮮ではカロリーベースでの「食料問題」が解決されていないはずである。それにもかかわらず、「書簡」で興味深いことは、「穀物増産」について述べる前に「穀物生産を決定的に増やすことと共に、畜産、果樹をはじめとした農村経理(運営)の全ての部門で新たな革新を引き起こさなければならない」と述べている。FAOなど国際機関の発表資料でもカロリーベースでの「食料問題」が指摘されているが、「書簡」が必ずしもカロリー効率が高くない副食をまず強調している点は注目される。この部分を、国際機関の観察以上に自給と輸入を合わせた北朝鮮のカロリーベースでの食料問題は解決できていると解釈するべきなのか、あるいは一般人民がとても遊べないようなスキー場建設のように宣伝目的とみるべきなのかは分からない。しかし、スキーは人民生活と直結しないが、食べ物は人民生活に直結する。それに、「馬息嶺スキー場」も、日本のようにあちこちにスキー場があり、誰もがその気になればスキーを楽しめる国の基準からすれば、「食べられもしないのに馬鹿げている」ということになるが、北朝鮮では「ウリナラ(我が国)にもあんなに立派な国際的スキー場ができ、外国人が絶賛している」ということは、「元帥様」の偉大さとは無関係に、国(党ではない)あるいは朝鮮人であることに対する自負心になるはずである。日本とて、高度成長期の東京オリンピックや大阪万博は、日本人にそのような気概を持たせたはずである。

    あるいは、カロリーベースでの食料問題はある程度解決出来ているのかもしれない。それは、「セポ台地開墾事業」のように大規模な畜産基地を建設していることからも伺える。「セポ台地」の気象条件からして、畜産以外の農業生産に適しているのかは分からないが、ともかくも大規模な畜産基地を建設しているということは、朝鮮人民の胃袋に入る動物性タンパク質を増やそうという意図からであろう。畜産に関しては「農業と畜産の環状型循環生産体系を確立しなければならない」とも述べている。「環状型循環生産体系」とは、化学肥料生産が不足している北朝鮮で家畜の排泄物を利用して肥料や堆肥を作っていくという仕組みのことであるが、その効率性については疑問である。投入労働力比の非効率であれば、北朝鮮ではさして大きな問題ではないだろうが、農作物の育成という側面からの効率性については、専門家に聞いてみないと分からないが、生産性における両者の効用の比率はさておき、両方であろう。

    肥料と関連して「有機農法を積極的に奨励しなければならない」とした上で、「今、農業部門の幹部の中に、化学肥料がなくては農業を営むことが出来ないと考える傾向が少なからずあるが、それは間違った見解である」と断じている。「農業部門の幹部」が労働生産性という側面からそう考えているのか、肥料の実質的な効果あるいは土地生産性からそう考えているのかは分からない。そして「有機農法を積極的に奨励」する別の理由として、「世界の農業発展趨勢を見ても、化学肥料ではなく、有機質肥料を持って農業を行う方向へと向かっている」としている。確かにそうともいえるが、これは「化学肥料が不足している」という北朝鮮が直面する問題と全く異なる「食の安全」や「環境」といった問題であるわけだが、それには触れていない。

    「書簡」では、品種改良(種子改良)についても述べている。興味深い点は、「我々自身で良い品種を作り出す一方、外国から多収穫品種を導入するための事業にも関心を示さなければならない」と述べている点である。「我々自身で」とまず断っているものの、「自力更生」を過度に強調せず、適宜海外から導入するという考えは、よい考えではあるが、北朝鮮らしくない。もしかすると、過去にFAOなどの協力で北朝鮮の土地に適したジャガイモ品種ができたことを回想しているのかもしれない。FAOの協力による「ジャガイモ革命」については、過去記事に書いたような記憶があるし、追って書こうと思っている別の農業関連記事でも触れる予定である。

    「農業科学技術」については、「古い経験に固執し、科学技術を疎かにする傾向をなくし、科学研究成果を農業生産において積極的に受け入れなければならない」としている。上下下達式に物事が動いているように思われている北朝鮮ではあるが、やはり農業のような伝統的部門では、いくら社会主義農場であるとはいえ、伝統的農法から脱却させるのは分組長など、幹部にとって頭の痛い話なのであろう。北朝鮮映画でも、こうしたテーマを扱っているものを見たことがある。

    土地については、「農業生産を高めるためには、農耕地を保護し、穀物栽培面積を増やさなければならない」とし、「土地を流用浪費する現象をなくさなければならない」としている。いうまでもなく、北朝鮮では土地は国家財産であるが、それを「流用浪費」するということはどういうことであろうか。農場員個人レベルの話ではないと思うので、農場単位で「流用浪費」しているということであろうが、問題はどのような用途で「流用浪費」しているのかということである。

    上で「食料生産」について触れたが、「書簡」の中程で「農業部門で食料生産を最大限に増やすことが出来るように、農業生産構造を穀物中心の生産構造へと改善しなければならない。食料問題を解決することが我々の前に最も切実な要求として立ちはだかっている状況で、できるかぎり非穀物作物栽培面積を減らし、米やトウモロコシ栽培面積を増やさなければならない」と述べている。上で「畜産や果樹も」と言っておきながら、「穀物生産中心の生産構造へ」というのは矛盾するように思えてならない。この辺り、上述のカロリーベスの食料供給や「セポ台地開墾事業」とも関連し、なかなか実態がよく分からない部分でもある。

    「分組管理制」についても興味深い記述がある。「分組管理制を実施することにおいて、分配を徹底して社会主義の分配原則通りにすることが重要である」と「社会主義の分配原則」を強調しつつ「分配における平均主義は、社会主義分配原則と関係がなく、農場員の生産意欲を落とす有害な作用をする」としている。北朝鮮の農場を取材した番組や農場を舞台とした映画を見ていると、農場員毎の達成目標が記された棒グラフがしばしば登場する。この棒グラフと分配の関係は分からないが、もしかすると理念的・形式的には「平均主義」は用いられていないのかもしれない。こうした前提条件が明らかではないので、これが何を意味するのか断定することはできないが、「書簡」では「分組において、農場員の労力日評価を、労働の量と質によって遅滞なく正確に行わなければならない。そして、社会主義分配原則の要求に合うように、分袖生産した穀物の中で国家が定めた一定の分を除外した残りは、農場員に彼らの労力日により現物を基本として分配するようにしなければならない。国家的に国の食料受容と農場員の利害関係、生活上の要求を正しく計算したことに基づき、穀物義務収買(穀物強盛買取)課題を合理的に定め、農業勤労者が自信を持って奮発し闘争するようにしなければならない」としている。上述のように前提が分からないのでなかなか評価しにくいが、国家へ売り渡す分以上の収穫物については、労働実績に応じて現物分配するということであろうが、国家への売り渡し分を下降調整し、農場員の成果に応じて積極的に分配量を増やすようにするとも読み取れる。

    以下の部分では、「分組長」が愛国心や人民を愛する心を持って農場の幹部として服務すべきという内容が書かれている。

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    川口智彦

    Author:川口智彦
    「크는 아바이(成長するオッサン)」

    ブログの基本用語:
    「元帥様」=金正恩朝鮮労働党委員長(上の絵の人物)、2016年12月20日から「最高領導者同志」とも呼ばれる
    2021年1月11日から「総秘書同志」
    「首領様」=金日成主席
    「将軍様」=金正日総書記
    「政治局員候補」=金ヨジョン(「元帥様」の妹)、2018年2月11日から「第1副部長同志」とも
    「白頭の血統」=金一族
    「大元帥様達」=「首領様」と「将軍様」
    「女史」=李雪主夫人(2018.07.26より「同志」に)

    우 그림은 충정 담아 아이가 그린 경애하는 김정은원수님이십니다.


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