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    「敬愛する金正恩元帥様がロシア21世紀管弦楽団の公演を観覧された」 (2013年10月16日 「朝鮮中央TV」)

    2012年4月の「光明星3-1号発」射以来、関係が悪化していた朝露関係がこのところ改善しているようである。詳細な内容が報道されなかったので記事にはしなかったが、10月4日には「朝露政府間貿易、経済及び科学技術委員会林業分科委員会第18次会議議定書」が調印されたという記事を『労働新聞』などが配信している。周知の通り、ロシアでは多くの朝鮮人民が建設現場などで働いており、中でも林業に従事する数は多い。前述のとおり、「議定書」の中身は公開されていないので分からないが、恐らく林業部門で働く労働者の労働条件や人員拡大などについての内容が盛り込まれているのであろう。

    『労働新聞』、「조로정부간 무역,경제 및 과학기술협조위원회 림업분과위원회 제18차회의 의정서 조인」、http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2013-10-05-0024&chAction=S

    また、このところソ連時代の映画が何本か「朝鮮中央TV」で放映された。時間がないのできちんと見ていないのだが、朝ソ合作映画で朝鮮人の抗日武装戦線にソ連兵が協力するといった内容の映画も放送された。ロシア正教の牧師(ロシア正教ではそう呼ぶのかは不明だが)も登場するが、どうやらキリスト教は邪悪とされる北朝鮮でもロシア正教は別扱いのような印象を受けた。ただし、飛ばしていくつかの画面を見ただけなので、正しい評価ではないかもしれない。後日、きちんと見た後で、この映画については紹介したいが、エンドロールでソ連の楽団が演奏する「アリラン」がとても印象的であった。

    こうした状況の中で、ロシアの21世紀管弦楽団が訪朝し、金正恩夫妻が観覧する前で10月15日に公演を行った。この公演は翌16日の夜8時半頃から「録画実況」として「朝鮮中央TV」で放送された。以下では、その様子について紹介していく。

    『労働新聞』、「경애하는 김 정 은원수님께서 로씨야 21세기관현악단의 공연을 관람하시였다」、http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2013-10-16-0001&chAction=S

    同公演を金正恩夫妻が観覧したことについては、上記の『労働新聞』記事が伝えている。同行者は党中央委員会政治局委員の金己男さんのみである。来賓用の椅子はたくさん並べられていたのだが、軍関連の同行者はなく、党関連の同行者が1名だけだったというのには何か理由があるのかも知れない。

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    Source: 『労働新聞』、「경애하는 김 정 은원수님께서 로씨야 21세기관현악단의 공연을 관람하시였다」、http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2013-10-16-0001&chAction=S

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    Source: KCTV,『労働新聞』記事と同じタイトルの「録画報道」(静止画を用いた報道)、2013/10/16放送

    動画で演奏を紹介する「録画実況」では、金夫妻の入退場は割愛されている。朝露関係が改善しているとはいえ、なぜこのタイミングでロシアの楽団を招聘したのか分からなかったのだが、「録画実況」を見ていたらその答えがあった。

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    Sorce: KCTV,2013/10/16放送

    公演は、最初曲が終わった後で「ロシア連邦国家会議代議員、ソ連人民俳優イオシフ・コプチョン(音訳)の祝賀発言」を会場の大型スクリーンに映し出したビデオで紹介するのだが、その中で彼は上の写真にあるように「1948年10月12日、ロシアが朝鮮民主主義人民共和国を承認し、外交関係を樹立し」と述べている。この発言からすると、朝露国交樹立を記念しての公演ということのようだ。

    曲目はほとんどロシア曲であるが、朝鮮曲や英語(とスペイン語)の歌詞の曲も演奏された。北朝鮮の曲目としては、「合唱と管弦楽、朝鮮の歌を主題とした組曲」、金正恩さんの健康を願う歌「燃える願い」が朝鮮語で歌われたが、やはり朝鮮人民の拍手はロシア曲に比べて大きかった。モランボン・バージョンと違ったところは、最後の間奏のところで「アーーー」と歌っていた(音楽用語で上手く表現できず失礼)。「燃える願い」では、朝鮮人民は手拍子を送っていた。やはり、よく知っている歌には手拍子も打ちやすいのであろう。

    「燃える願い」を歌うアンナ・ノビコバ
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    Sorce: KCTV,2013/10/16放送

    しかし、実は「燃える願い」の数曲後に凄い曲が演奏された。それが「合唱と管弦楽、オブシャンニコフ作曲、星に向かって前進」である。

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    Sorce: KCTV,2013/10/16放送

    「あれか」と思いつつ見ていたら、続いて朝鮮語で秒読みが始まった。
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    Sorce: KCTV,2013/10/16放送

    曲は、宇宙に向かって飛んでいく「銀河3-2号」を表現したのか、実に軽快な感じである。私は音楽に疎くこれ以上のコメントはできないので、どなたか詳しい方がコメントでフォローして下されば幸いである。この曲は、急に終わるからなのか、「銀河3-2号」の曲にもかかわらず、曲終了後の拍手はあまり大きくなかった。聞き慣れた「燃える願い」と異なり、拍手をするタイミングを逸したのであろう。どちらかというと、「銀河3-2号」が飛び立つシーンの方が拍手が大きかったような気がしないでもない。

    上記『労働新聞』の記事を後で読んでみると「人工地球衛星『光明星-3』号2号機の成功裏な発射により主体朝鮮の尊厳と威容を全世界に力強く示したことを祝し、バベル・オブシャニコフが創作した合唱と交響楽『星に向かって前進』は観覧者に深い感銘を抱かせた」と書いてある。バベル・オブシャニコフは21世紀管弦楽団の団長兼首席指揮者である。

    おもしろかったのは、演奏会を締めくくる場面である。下の写真にあるように、花束贈呈が終わった後で出演者は深々と頭を下げるのだが、子供たちは花束を持って立っている子と頭を下げている子がいる。実は、花束は出演者に渡されたのであるが、それを受け取った出演者が子供たちにやった。これが番狂わせになったのであろう。想定外に花束を受け取った子供たちはどうしたらよいのか分からなくなってしまったのかも知れない。これが北朝鮮でなければごく普通のどうでも良い話なのであるが、こういう練習をしっかりとやっている北朝鮮ではある意味珍しい光景である。これを見て「ええ?」と思ってしまうのが、やはり北朝鮮の特殊性なのかも知れない。

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    Sorce: KCTV,2013/10/16放送

    ところで、全体として21世紀管弦楽団の演奏はどうだったのか。音楽音痴の身勝手な評価ではあるが、モランボン楽団よりダサイ。ジャンルが違うし、どちらかというと「銀河水管弦楽団」に近い構成だと思うのだが、北朝鮮の楽曲を聴き過ぎて感覚が麻痺している可能性を含めても、やはりダサイ。21世紀管弦楽団がロシアでどのような位置づけなのか機会があればロシアの専門家に聞いてみたい。

    ここからはいつも以上にとてつもない憶測ではあるが、過去に訪朝公演をしているにせよ、金正恩さんがダサイ楽団を敢えて招聘したのは、モランボン楽団との差を朝鮮人民に見せたかったからではないだろうか。21世紀楽団員は自分たちの演奏会があった同じ15日、金正恩さんと共に「モランボン楽団と功勲合唱団公演」を観覧している。金正恩さんは夫人と共に10日にこの公演を観覧しているので、報道されている限りでは2回目である。

    『労働新聞』、「조선로동당창건 68돐경축 모란봉악단과 공훈국가합창단 합동공연 《조선로동당 만세》 진행
    경애하는 김 정 은원수님께서 공연을 관람하시였다」、http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2013-10-11-0002&chAction=L

    『労働新聞』、「경애하는 김 정 은원수님께서 로씨야 21세기관현악단 성원들,평양시민들과 함께 모란봉악단과 공훈국가합창단의 합동공연을 관람하시였다」、http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2013-10-16-0002&chAction=L

    実は、金正恩夫妻が10日に観覧したモランボン・功勲合唱団公演のフルバージョン動画は依然として公開されていない。「20時報道」などで同楽団公演の様子を連日報道しているが、なかなかフルバージョンは出してこなかった。ところが、昨日「朝鮮中央TV」の放送終了直前に流す「明日の順序(明日の番組予告)」によると、今日(17日)同楽団の公演を放送することになっているようだ。10日の公演か15日の公演かは分からないが、「元帥様」が観覧しているのでどちらでもおかしくない。

    で、話を「朝鮮人民にモランボンとの違いを見せつけるため」に戻すと、恐らくは21世紀楽団団長と共に観覧したバージョンを使うはずである。朝鮮人民は「元帥様」がロシアの楽団長を横に座らせ、ロシアの楽団よりもカッコイイ演奏をするモランボン楽団に「文明大国」を感じるはずである。だからこの日までフルバージョンの放送を待ったのかも知れない。「20時報道」などで同公演を繰り返し紹介してきたのも、朝鮮人民の期待を高める効果を狙ってのことであろう。要約バージョンや報道を見ている限りでは、例によってかなり派手な照明効果や小道具を使っているようである。

    白い人民帽はダサクても、いや「思想性と芸術性において文句の付けいようがない」し、現代的さにおいても今夜、朝鮮人民は感動することであろう。

    と、この日本人民も放送を心待ちにしている。

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    プロフィール

    川口智彦

    Author:川口智彦
    「크는 아바이(成長するオッサン)」

    ブログの基本用語:
    「元帥様」=金正恩朝鮮労働党委員長(上の絵の人物)、2016年12月20日から「最高領導者同志」とも呼ばれる
    2021年1月11日から「総秘書同志」
    「首領様」=金日成主席
    「将軍様」=金正日総書記
    「政治局員候補」=金ヨジョン(「元帥様」の妹)、2018年2月11日から「第1副部長同志」とも
    「白頭の血統」=金一族
    「大元帥様達」=「首領様」と「将軍様」
    「女史」=李雪主夫人(2018.07.26より「同志」に)

    우 그림은 충정 담아 아이가 그린 경애하는 김정은원수님이십니다.


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