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    「朝鮮民主主義人民共和国国防委員会政治局声明」:3つの対話条件提示、米国の反応 (2013年4月18日 「労働新聞」)

    タイトルの記事は、既に2日前の「労働新聞」に掲載されており、日本のメディアでも広く伝えられている。米国や韓国には「受け入れられない」と一蹴されているが、記録しておくべき提案である。以下、その概要。

    「声明」では、この北朝鮮からの逆提案を出す背景として「事態の深刻さに慌てた米国大統領オバマは、去る4月11日、朝鮮半島で戦争が勃発するのを願わないと言い、対話と交渉を通じた外交的な事態収拾の意志を明らかにした」ことを挙げている。

    続けて韓国についても「親分の後に続くのが習慣化した青瓦台の主人も傀儡統一部長官に『声明』なるものを発表させ、自分の口で現時点では対話も特使派遣もないと言い、対決局面を造り出すことだけに奔走していた態度を一変し、突然『難局収集のための当局の対話提起』なるものを発表した」とし、「このようにほぼ時を同じくして親分と手下が選択した対話は、軍事的威嚇や『制裁』では、我が共和国をどうすることもできないという結論が導いた政策的決断である」と、挑発競争で米韓が北朝鮮に敗れ、対話を求めて来たという認識を示している。

    こうした米韓の対話提案に対して、一義的には「本当に対話と交渉に関心を持ち、それにより朝鮮半島に造成された険悪な情勢を収集するための妥当な政策的決断をしたのであれば、それほどに幸いなことはない」と歓迎している。

    しかし、米韓が対話の条件として「我々が今まで行ってきた、いわゆる『挑発』的な言動を中止し、非核化実現とミサイル発射中断の意志をまず示さなければならないというとんでもない対話の前提条件」を付けていると非難している。また、「誰かと合意したかのように『先南北対話、後北米対話』を既成事実化し」ているとも主張しているが、オバマさんのスピーチにはそのような語句は見当たらない(韓国・統一部「声明」は未確認)。

    the WHITE HOUSE, "Remarks by President Obama and U.N. Secretary General Ban Ki-moon After Meeting", http://www.whitehouse.gov/the-press-office/2013/04/11/remarks-president-obama-and-un-secretary-general-ban-ki-moon-after-meeti

    もちろん、「先南北」というがこれまでの米国の基本的姿勢ではあったが、昨年の「2.29合意」を見る限りでは、かならずしもそれを絶対条件とはしていないようだ。

    「声明」では、上記の条件を前提として「朝鮮民主主義人民共和国国防委員会政治局は、事態の真相をそのまま明らかにし、我々の原則的立場を内外に再び鮮明にする」として、次のような認識を示している。

    1.朝鮮半島を挑発により今日のような緊迫した状態に至らせた基本的な責任は米国とその追従勢力にある。
    2.それにもかかわらず、米国は北朝鮮を挑発者呼ばわりしている。
    3.事の発端は、米国が北朝鮮の「平和的な衛星発射」を「ミサイル発射」と決めつけたことにある。
    4.ロケット発射を受けて出された制裁決議は、北朝鮮に対する「世界的な孤立圧殺策動に導こうとする、米国と南朝鮮傀儡どものより露骨な挑発の序幕」である。
    5.それだけではなく、「各種の核打撃手段まで南朝鮮とその周辺水域に持ち込み、全面的な軍事的挑発の水位を最も危険な核恐喝段階に高めた」。
    6.「我々は、一度も米国の衛星発射をミサイル発射と問題視し、それを名分に国連制裁決議のようなものを引き出そうとしたことはなく、我々の最精鋭武力を米国の近海に展開させ、米国を威嚇したり恐喝しかことはない」。
    7.こうした事実からして、北朝鮮を「挑発者」呼ばわりするのは、「白昼強盗」の論理である。
    8.「米国が我々に対話の前提条件として『非核化の意志』を示せと騒ぎ立てているが、これも我々に対する一つの挑発である」。
    9.「朝鮮半島の非核化は、昔も今も我が軍隊と人民の変わりない意志である。90年代初め、北と南が採択した非核化共同宣言も我々のこうした意志から発議、制定された民族共同の宣言である。しかし、米国は傀儡共と共謀し、南朝鮮とその周辺地域に核兵器を持ち込み、我々に対する威嚇、恫喝の度合いを高めはじめたので、こうした貴重な宣言がゼロになってしまった」。
    10.「米国の対朝鮮敵対視政策と、このような核恫喝に対処し、やむを得ず保有することになったのが我々の正当な自衛的核戦力である」。
    11.「我々の核戦力は、米国を含む世界の非核化が実現するときまで、国の自主権と最高利益を守り、我が共和国を狙った侵略の本拠地を報復打撃するための最も強力な手段であり、我が軍隊と人民の手中に握りしめられ続けられる」。
    12. 米国と韓国は、北朝鮮の強硬な態度を「後継体制強化」や「カリスマ性強化」などと主張しているが、これこそが「政治的挑発」である。

    そして、「米国と南朝鮮傀儡は、朝鮮半島の現情勢を険悪にした歴史的責任を免れ、我が軍隊と人民の強硬対応の鉄槌を避けようという考えが少しでもあるならば、そして本当に対話と交渉を望むのであれば、次のような実践的な措置を取る英断を下さなければならない」とし、3つの条件を提示ししている。

    1.「デッチあげた国連安保理『制裁決議』を撤回する措置を取らなければならない」。また、「これまで、我々に反対し、行ってきた全ての挑発行為を即時中止し、全面謝罪しなければならない。これこそが我々に送る善意の糸口となる。南朝鮮傀儡共は『天安』号沈没事件と『3.20ハッキング攻撃事件』のような、自分の家の中の不祥事を『北関連説』とデッチ上げて展開している全ての反共和国謀略騒動を即時中止しなければならない」。
    2.「再び我が共和国を威嚇したり恫喝する核戦争演習を行わないということを世界に対して正式に約束しなければならない」。
    3.「当面、南朝鮮とその周辺地域に持ち込んだ核戦争手段を全面的に撤収し、再投入する試みを断念する決断をしなければならない。米国が持ち込んだ核戦争手段が撤収されることから、朝鮮半島の非核化が始まり、世界の非核化に繋がるということを肝に銘じなければならない」。

    「声明」は、「朝鮮半島の情勢は、東北アジアだけではなく、世界の平和と安全に直結している」とした上で、「米国とその追従勢力の今後の動きを注視する」と結んでいる。

    『労働新聞』、「조선민주주의인민공화국 국방위원회 정책국 성명」、http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2013-04-18-0061&chAction=L

    一見、北朝鮮の正当性を主張しながら無理難題を並べ立てているようにも見えるが、よく見ると北朝鮮の態度の軟化が垣間見える。

    まず、冒頭で米韓が対話を望むならば「それほどに幸いなことはない」と述べている点である。核実験以降の北朝鮮の「超強硬対応」状況では、「戦争状態なのだから、対話などする必要はない」と強く主張していた。つまり、結果は対話によってではなく戦争によってのみ得られるという主張である。ただし、この「声明」では、結果を得るための選択肢として「対話」もあり得ることを認めている。また、「先南北」という「韓国との対話をしなければ米国との対話はない」という米国の姿勢に不満を示しつつも、決して韓国の対話をしないとは述べていないばかりか、「韓国が対話を望んでいる」と対話の対象に韓国を含めている。北朝鮮が依然として米朝対話を最重要視していることは変わらないが、現実的な問題、特に開城工業団地の問題を巡り韓国と対話を始めなければならないと強く認識していることの表れであろう。

    第二に、上記「北朝鮮の主張」9にある「朝鮮半島の非核化は、昔も今も我が軍隊と人民の変わりない意志であ」るが、「こうした貴重な宣言がゼロになってしまった」という部分である。今年の1月26日に発表された「祖国平和統一委員会声明」で北朝鮮は、「今後、北南間にこれ以上非核化論議はない」し、「1992年に採択された『朝鮮半島の非核化に関する共同宣言』の完全白紙化、前面無効化を宣言する」と言っていた。今回の声明が内容的にこれから大きく変わったわけではないが、明らかに「朝鮮半島非核化」についての価値判断とその状況についての認識に変化が見られることが分かる。北朝鮮の公式報道では、一度使った表現を繰り返しそのまま使う傾向があるので、このような些細な変化も注意しておく必要がある。

    第三に、1つめの対話の条件として、韓国に全面謝罪を求める事件に「3.20ハッキング攻撃事件」が含まれている点である。並記されている「天安号」については、検証過程で様々な疑惑が発生したにもかかわらず、韓国軍人の人命が奪われた事件なので韓国側としても対応が難しいであろう。しかし、「ハッキング攻撃事件」では人身に関わる被害は発生していない。これによる経済的損失がどれほどであったのかは分からないが、例え大きな損失があったとしても韓国世論はそれほど敏感ではないであろう。また、同ハッキング事件の調査過程でも韓国側はいくつかの誤発表をしているし、結論についての信憑性もどこまで保証できるのかははっきりしない。そうであるとすれば、ある意味、「ハッキング攻撃事件」を「犠牲」にして、誤発表について謝罪をして謝罪問題の当面の決着を付けることもできるのではないだろうか。

    第四に、2つめの対話の条件として「再び我が共和国を威嚇したり恫喝する核戦争演習を行わない」と「核戦争演習」と限定している点も注意する必要がある。もちろん、北朝鮮が全ての演習を「核戦争演習」と決めつけているということもあるが、今回は「B-52やB-2」と核爆撃能力があるステルス爆撃機を挙げながら北朝鮮は「核戦争演習」といっているので、米国がこれらを朝鮮半島に持ち込まないという約束をすれば、北朝鮮の面子も立つ。そもそも、今回米国がこれらの爆撃機を朝鮮半島に飛来させたのは、北朝鮮の核威嚇に対応するための措置であり、米国のいう「定例の防衛的演習」の範囲を逸脱するものであることは間違いない。

    第5に、3つめ対話の条件として「米国が持ち込んだ核戦争手段が撤収されることから、朝鮮半島の非核化が始まり、世界の非核化に繋がる」といっている点である。「声明」の中では「非核化が実現するときまで」核は放棄しないとも述べているが、この条件では「朝鮮半島からの撤収」と非核化の地域を朝鮮半島に限定している。国際社会が求めている「北朝鮮が核を放棄した上での対話」ではないものの、「世界に非核化」などという実現不可能な条件を付けずに、地域を朝鮮半島に限定してきたのであれば、これも対話の意思の表れと読み取れる。

    ところで、この「声明」が出されるタイム・シーケンスがなかなか興味深い。「Yahoo!ニュース」に準拠したインターネットニュースを見ると、日本での報道では、『時事通信』の「全面謝罪、制裁撤回要求=米韓との対話に条件―北朝鮮」(http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130418-00000052-jij-kr)という記事が18日11時16分に最も早く配信されている。この時点では、ウェブ版「朝鮮中央通信」ではこのニュースは配信されていなかった。ウェブ版の「朝鮮中央通信」の記事にはタイムスタンプは付けられていないが、18日にこの「声明」が「速報」として掲載された(掲載タイミングはは不明)。また、韓国・統一部の「朝鮮中央TV」番組表を見ると、この「声明」が放映されたのは18日15時9分となっている。『時事通信』は、何をソースにしたのか分からないが、非常に早い報道であった。

    また、ホワイトハウスもこの「声明」をうけて、副報道官が記者の質問に答えている。この記者会見はボストンに向かうオバマさんを乗せたエアフォース・ワンの中で行われたものであるが、副報道官は記者に「声明」についてのコメントを求められ、「大統領とこのことについてまだ話はしていないが」と前置きした上で、「米国は真摯で信頼のできる2005年9月の六者会談の決定事項を実行するための交渉の扉はいつでも開けている」と述べる一方で、「まだ、北朝鮮は我々にそうしたはっきりとしたシグナルを送っていない」と述べている。オバマさんが北朝鮮の提案をそのまま受け入れることなどあり得ないが、対話ということを前提に注目をしていることはこの受け答えから感じられる。

    the WHITE HOUSE, "
    For Immediate Release
    April 18, 2013
    Press Gaggle by Principal Deputy Press Secretary Josh Earnest Aboard Air Force One en route Boston, MA
    Aboard Air Force One En Route Boston, Massachusetts", http://www.whitehouse.gov/the-press-office/2013/04/18/press-gaggle-principal-deputy-press-secretary-josh-earnest-aboard-air-fo

    ちなみにこのニュースは、日本時間の18日22時35分にリリースされている。上に書いた、報道のタイミングからしても実に早い。

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    川口智彦

    Author:川口智彦
    「크는 아바이(成長するオッサン)」

    ブログの基本用語:
    「元帥様」=金正恩朝鮮労働党委員長(上の絵の人物)、2016年12月20日から「最高領導者同志」とも呼ばれる
    2021年1月11日から「総秘書同志」
    「首領様」=金日成主席
    「将軍様」=金正日総書記
    「政治局員候補」=金ヨジョン(「元帥様」の妹)、2018年2月11日から「第1副部長同志」とも
    「白頭の血統」=金一族
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