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    「反共和国『制裁』は、まさに戦争行為である」:米国の反応 (2013年3月11日 「労働新聞」)

    北朝鮮が休戦協定破棄を明言した3月11日の「労働新聞」にこのような記事が掲載された。

    記事では「米国は、カカシのような国連安保理事会を動員し、今年に入り二回目、過去8年間には5回目となる『制裁決議』をでっち上げた」と制裁決議採択を非難している。ただし、安保理決議2087が採択されたときと違い、北朝鮮は「大国=中国とロシア」を非難していない。「カカシのような国連安保理事会」と総体として非難はしているものの、より直接的に中国やロシアを指す「大国」という言葉は避けている。2087よりも2094の方がその内容においても実効力においても強化されているにもかかわらず、これら二国を決議に賛成したことについて非難していないという点は注意しておく必要がある。

    北朝鮮が、中ロ、特に中国を刺激しすぎて安保理決議2094に対応する実効性のある行動に出られることを警戒しているのか、あるいは、既に中国との間で決議内容と実効性についての話し合いがなされたのかは、今後の中朝経済関係がどうなるのかを見ないと分からない。ただし、過去記事にも書いたとおり、2094では金融や物品の制裁の対象がことごとく「核・ミサイル開発」と限定されており、これとその他を分けることは難しいはずである。

    とはいえ、北朝鮮も安保理決議2094が強化されたことは認識しており、「『制裁履行』に対する、いわゆる『義務化』をすることで、『制裁』をより国際化」したという認識を示している。

    おもしろいのは、北朝鮮が「制裁」に関する一定の危機感を表していることである。記事では「当時、米国など関係国は、イラクに対する制裁が人道主義的需要に必要な物品に限っては例外とすると騒ぎ立てた」が、「制裁がもたらした結果は残酷なものであった」とし、制裁が課された「10年間に約160万人の住民が飢餓や病気で苦しんだ末に死んだ」としている。これを危機感とみるべきか、朝鮮人民を盾にした脅迫と見るべきかは別とし、中国が本気で制裁に荷担するとどういうことになるのかという北朝鮮の認識が見え隠れしている。

    また北朝鮮は、安保理決議と米韓合同演習の時期との関係を指摘しながら、「より厳重なことは、米国が反共和国『制裁決議』でっち上げを『キーリゾルブ』、『トクスリ』合同軍事演習を強行している中で出したことである」とし、「これは米国の反共和国『制裁』が一般的制裁の性格を飛び越え、軍事力を伴った侵略行為となっていることを実証している」と主張している。そして米国の目的は「集団的な反共和国『制裁』騒ぎを引き起こす米国の本心は、我が国に対する侵略をイラク式にしてみようということである」とし、米国がサダム・フセイン政権を倒すためにイラクに侵攻したように、北朝鮮政権を倒すことを企てていると主張している。北朝鮮は、少し前は「リビアやバルカン半島(アルバニアを指すものと思われる)」と言っていたが、このところイラクを持ち出すようになった。核武装(計画)解除をさせられたリビアより、米軍の侵攻を受けたイラクに状況は近いということであろう。

    記事では、そしてこのような状況により「我が軍隊と人民は、集団的『制裁』を我が共和国に対する宣戦布告、無差別的な戦争行為とみな」さざるをえなくなり、「今日から停戦協定の効力は完全に白紙化され」、「反米対決戦に突入した」とし、「世界は我々の軍隊と人民が米国の集団的な『制裁』と戦争挑発騒動をいかに粉砕し、核保有国、衛星発射国の尊厳と地位をどのように守り輝かせるのかをまざまざと見せつけられるであろう」とした上で、「我々は空言はいわない」と締めくくっている。「空言はいわない」というのは、米国が「毎度の言葉による挑発だけだ」としていることへの反発であろう。

    『労働新聞』、「반공화국《제재》는 곧 전쟁행위이다」、
    http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2013-03-11-0005

    では、米国はこのような状況をどのように見ているのであろうか。まず、米国務省定例記者会見での質疑応答から見ていくことにする。まず、北朝鮮の休戦協定破棄宣言についての質問が出されている。ヌーランド報道官は、この点についてはホワイトハウスのドニロン国家安全保障問題担当大統領補佐官の演説とサーマン在韓米軍司令官の声明を参照するようにと述べている。これらは、追って参照するとし、国務省の見解としては「サーマン在韓米軍(国連軍)司令官がいうように、休戦協定は休戦をさせた協定であるので、(休戦協定の破棄が)どれほどの影響力を持っているのかは明白ではない」と答えている。過去記事でも見たとおり、まさしく休戦協定はそのほとんどが休戦をするための条文からできあがっている。しかし、「敵対行為は行わない」という文言に関しては、休戦成立後も生き続けているはずである。よく分からないのは、国際法が言う「敵対行為」の定義である。この点について、職場の国際法専門家に質問を投げかけてあるのだが、まだ回答は得られていない。北朝鮮は、米国の「敵視」や過去の軍事演習による「敵対行為」は何回も繰り返されてきており、休戦協定は有名無実化していたのだから、それをこの時点で破棄するもしないも同じであるという論を展開している(これが書かれた記事はまだ探していないが)。米国務省と北朝鮮の主張は、論点のずれこそあれ、「休戦協定の意義は喪失された」という点で一致している部分もある。

    しかし、北朝鮮が一方的に破棄を宣言したことについては、「法律的に見た場合、相互協定なので、他方の同意なくして一方が破棄することはできない」という見解も示している。

    記者会見ではまた、金正恩の秘密口座が上海で多数発見されたことについても質問されている。報道官はこれについて「現在のところそれに関して話すことはない」と答えているが、そのような事実がないとも明確に否定していない。検索はしていないが、恐らくこのような報道が韓国のメディアでなされたのであろう。仮にこのような口座が発見されたとしても、中国がそれをどのように扱うのかなどもう含めデリケートな問題なので、慎重になっているのであろう。

    U.S. Department of State, "Daily Press Briefing",
    http://www.state.gov/r/pa/prs/dpb/2013/03/205954.htm#NORTHKOREA

    では、サーマン在韓米軍(国連軍)司令官の声明を見てみよう。声明は3月7日に出されており、いたって短い。英文と韓国文で出されているので、韓国文の方を翻訳しておくと以下のとおりだ。

    ****
    ジェームズ・サーマン国連軍司令官声明

    大韓民国ソウル龍山基地: 停戦協定は、過去60年間、朝鮮半島において平和と安定を保障してきた。停戦協定署名当事者が、双方の合意に反する公式声明を発表したことについて憂慮を表明する。国連軍司令官として本人は、停戦協定を履行しなければならない全的な責任がある。停戦協定のせいこうりな履行は、大韓民国を強力な民主主義国家に成長する基盤を作り、我々は大韓民国を守護するための万全の体制を整えている。
    ****

    ヌーランドさんは、サーマンさんが言ったように「戦争を終わらせた協定だから」それを破棄することにつてのインパクトを疑問視しているが、サーマン声明の中ではそのことは述べられていないようだ。むしろ「60年間、朝鮮半島の平和と安定を保障してきた」という点で、その重要性を強調しているようなのだが、どうなのだろうか。

    United States Forces Korea, "Statement by Gen. James D. Thurman, Commander, United Nations Command",
    http://www.usfk.mil/usfk/press-release.statement.by.gen.james.d.thurman.commander.united.nations.command.1031

    ホワイトハウスのドニロン国家安全保障問題担当大統領補佐官の演説は非常に長い。というのも当然で彼は北朝鮮問題についてのみ話しているのではなく、アジア太平洋地域全体に対する見解を述べているからである。一応、始めから終わりまで目を通してみたが、その中に占める北朝鮮関連の部分が多いこともまた確かである。ドニロンさんは、できるだけ多くのアジア太平洋諸国について具体的な国名を挙げながら触れようとしているが、もちろん全ての国について触れることはできていない。ラオスやカンボジアについては、ASEAN加盟国ということで間接的に触れてはいるが、例えばバングラデシュには全く触れていない。1人当たりGDPが1400ドルあまりの小国には関心がないといえばそれまでだが、1人当たりGDPがバングラデシュとほとんど変わらない北朝鮮については大きく扱っているというのは実に対照的である。これぞ北朝鮮が目指してきたことの反証でもあるのだが、北朝鮮が核・ミサイルの開発をしていなければ、せいぜい人権問題で叩かれるだけで、良きにつけ悪しきにつけこれほど大きくは扱われなかったであろう。北朝鮮が、核・ミサイルと引き替えに外国からの経済支援を取り付け、少なくとも誰も知らない東アジアの最貧国ではないことは明らかである。もちろん、中長期的に見た場合、北朝鮮の核・ミサイルが同国に何をもたらすのかということを断定するのは難しいが。

    では、ドニロンさんが北朝鮮について何を言ったのかを見ていくことにする。ドロニンさんは、同盟国との防衛関係について述べる最後の部分で「我々は危険で地域を不安定にする北朝鮮のような国の当面の脅威に対してレーダーやミサイル防衛システムを拡充することに同盟国と共に取り組んでいる」としている。北朝鮮問題につなげるために北朝鮮を出していることもあるが(中国を出すわけにもいかないし)、そうだとしても北朝鮮が地域にとって「当面の」最大の脅威であると認識していることは間違いない。

    まず「過去60年間、米国は朝鮮半島の平和と安定に関与してきた」とし、北朝鮮を抑止し、北朝鮮を非核化さえることこそが同盟国を守ることであると述べている。そして、「米国は北朝鮮を核保有国と認めず」、「北朝鮮が米国を狙った核ミサイルを開発することを座視しない」という姿勢を表明している。しかし、「開発」とはいっているものの、北朝鮮を「核保有国とは認めな」いと「米国を狙った核ミサイル」には若干の矛盾が感じられる。核保有国を増やしたくないという米国の立場と現実との間で整合を取ることの困難さが見える。

    その上で、米国の北朝鮮政策の基本について何点かに分けて説明をしている。

    1.まず、日米韓3カ国の北朝鮮問題における連携の強化を強調し、「北朝鮮が我々の連携のほころびを利用する時代は終わった」としている。また、安倍政権や朴槿恵政権の外交による問題解決方針も評価している。また、中国に対しても北朝鮮と「通常通りの関係」を維持するべきではないと求め、「朝鮮半島の安定が中国の利益であるとするならば、北朝鮮の非核化こそがそれに繋がる道筋だ」と安定以上に非核化を重視するよう求めている。中国も「朝鮮半島の非核化」こそが彼らのゴールであるとしているが、問題はその方法が米国が求めている方法と異なる点である。ドニロンさんは国連安保理決議採択に結びついた中国の協力に謝辞を述べることを忘れていないが、しかし、「制裁が決議の目的ではない」とのギャップをいかに埋めるのかという大きな課題が残っている。

    2.次に「米国は北朝鮮の悪い行いに代価を支払わない」と述べ、北朝鮮の瀬戸際戦略にはこれ以上乗らないことを強調している。しかし、北朝鮮が援助を得るための条件として、「コースを変更しなければならない」と述べているが、「コース変更」が何を意味するのかは明確ではない。北朝鮮が核・ミサイルを放棄するとは言い出すはずもないので、2.29合意の時のように「凍結・視察受け入れ」程度で「コース変更」と認めるのかどうかは明らかではない。今後、交渉をする場合のグレーゾーンを確保しているのであろう。
    また、米財務省が朝鮮貿易銀行や主要な外為銀行を制裁の対象に含めるとしたことも発表している。

    3.米国が自国のみならず同盟国の防衛にも積極的に関与していくと述べている。そして、米国は北朝鮮の攻撃に対して自国を防衛し反撃するのみならず、同盟国に対する攻撃にも同じことをするとしている。そして、それが発動される条件として、北朝鮮によるWMD使用のみならず、それを他国やテロリストに移転することも含むとしている。米国は日韓に対する核の傘を保障し、北朝鮮による核開発以上に核拡散については厳しい措置を取るというこれまでの姿勢の再確認である。しかし、現実問題として、北朝鮮のファースト・ストライクに対する米国の日韓防衛能力も大いに疑問であるし、ましてや北朝鮮に反撃するにしてもその結果に配慮し核を使用することはないであろう。北朝鮮も核技術をテロリストに売り渡せば米国がどれだけ怒るか分かっているので、それだけはしないであろう。

    4.最後に、米国は北朝鮮と話し合う準備もあるということを述べている。その条件として「平壌が国際的な義務に従うこと、約束を履行すること、国際法を遵守することで意味のある行動に踏み出すことで示し、その真剣さを証明すれば」を挙げている。北朝鮮にとってなかなか高いハードルではあるが、それを飛び越えずとも「踏み出せ」ば、話し合いに乗るとも解釈できるし、そうしなければ現実的には何も動かないであろう。

    ドニロンさんは、北朝鮮に「ビルマを見習え」と言っている。この点については、拙ブログでも過去に何回も書いたが、「南ビルマ」がないビルマと「南朝鮮」がある北朝鮮では全く状況が異なっており、そう簡単にはビルマの真似はできないであろう。もっといえば、「南朝鮮」がなければ、北朝鮮は少なくとも中国が改革・開放をやり始めた時点で、同じ道筋を選んだに違いない。分かって言っているのであろうが、それは無理な話だ。

    それとは別に、朴槿恵さんが5月に訪米をしてオバマさんと会談することもドニロンさんは明らかにした。

    the WHITE HOUSE, "Remarks By Tom Donilon, National Security Advisory to the President: "The United States and the Asia-Pacific in 2013",
    http://www.whitehouse.gov/the-press-office/2013/03/11/remarks-tom-donilon-national-security-advisory-president-united-states-a

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    川口智彦

    Author:川口智彦
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    「元帥様」=金正恩朝鮮労働党委員長(上の絵の人物)、2016年12月20日から「最高領導者同志」とも呼ばれる
    2021年1月11日から「総秘書同志」
    「首領様」=金日成主席
    「将軍様」=金正日総書記
    「政治局員候補」=金ヨジョン(「元帥様」の妹)、2018年2月11日から「第1副部長同志」とも
    「白頭の血統」=金一族
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    「女史」=李雪主夫人(2018.07.26より「同志」に)

    우 그림은 충정 담아 아이가 그린 경애하는 김정은원수님이십니다.


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