「火星砲-17」型発射でどうなるのか (2022年3月25日)
既に記事にしたように、25日、北朝鮮メディアが大陸間弾道ミサイル「火星砲-17」を報じた。
「偵察衛星運搬ロケット試験」と発表しなかったのは、やはり到達高度が「太陽同期軌道」衛星運搬目的としては高すぎるからであろう。問題は、「火星砲-17」型の試験発射成功をもって「太陽節」の祝砲とするのか、「偵察衛星運搬ロケット」をさらに打ち上げるのかというところになるが、20kimの高度に達する前に爆発した16日の飛翔体が「火星砲-17」だっとし、今回の発射でその問題点を確実にクリアできていなければ、「火星砲-17」を使った「偵察衛星運搬ロケット」発射には失敗の可能性がつきまとうことになる。
話としては、「敵対勢力共」の妨害策動を避けるために、「偵察衛星運搬ロケット試験」と称して「火星砲-17」型の試験発射を行い、GoogleEarh盗用疑惑がある衛星写真を使って「敵共」の目を欺き、「火星砲-17」型発射を大成功させたという方が分かりやすいし、「火星砲-17」型だけでも十分に大「祝砲」に足りる。
北朝鮮が閲兵式の準備をしているという情報を韓国メディアが流しているが、そうだとすると、大規模な閲兵式で、今回発射された仕様にリペイントされた「火星砲-17」型を何台も連ねて走らせれば、十分な盛り上がりは期待できる。
「偵察衛星試験発射」の報道は、公開された写真の数も少なく、「朝鮮中央TV」の報道では『労働新聞』紙面で公開された写真さえ使われない地味な報道だった。一方、「火星砲-17」は『労働新聞』HPでも15枚(セットになった写真無含む)の写真が公開されているので、ほぼ間違いなく今日の「朝鮮中央TV」で動画報道があることになろう。
今後、この発射成功を受けて関係者を招いての音楽公演や晩餐会が開催されれば、それらと組み合わせて「朝鮮記録映画」も作られることになろう。
北朝鮮の報道を見ると「米帝国主義との長期的対決」という言葉が複数回使われている。北朝鮮は、朝米関係が動き出していた2018年4月にICBM発射に関するモラトリアムを発表したが、ほぼ4年経過した時点でのICBM発射でモラトリアムは破棄された。北朝鮮の立場からすれば、これまでは「強対強、善対善の原則で米国に対応する」としてきたが、バイデン政権の「善」を待っていたが、口先で「対話」を言うだけで、何ら行動に出ないので「強対強」路線への変更を今回の発射で明確にし、それも「長期的」としているので、バイデン政権期間における改善可能性はないという判断をしたのであろう。
今回の報道では「急変する国際政治情勢」と「急変」という言葉を使っているが、今回が初めてなのかどうかは別とし、「急変」は明らかにウクライナでの戦争を意味しているのであろう。「偵察衛星発射」との関連からすれば、ウクライナでの戦争が勃発しなければ、「火星砲-17」ではなく、「偵察衛星」を発射していた可能性もある。「元帥様」が「西海衛星発射場」を視察した時点ぐらいまでは、まだどちらにするか迷いがあったのかもしれない。
ところが、ウクライナでの戦争が停戦に向かう目処が立たない状況の中、世界中が「核抑止力」に注目する中、「偵察衛星」よりもICBMの方が意味があるという判断をしたのであろう。自分が気に入らない戦争には直接軍事介入する「米帝」が、ロシアの「核抑止力」のためにそれができずにいる姿を晒している今、北朝鮮が「核抑止力」を誇示することは北朝鮮にとって大いに意義がある。
2017年11月に北朝鮮が「火星-15」を発射した時、米中、米ロ関係は比較的良かったので、新たな安保理制裁が科された。米国などは今回の発射を受け安保理を開催するだろうが、新たな制裁が採択される可能性は無いに等しい。すると各国の単独制裁ということになるが、既に制裁は出し尽くされている状況なので、形式的に何かをしたところでほとんど影響はないであろう。また、中国もミサイル発射については比較的寛容なので、「関係諸国に対話による解決」を呼びかけるだけで実質的な行動は取らないであろう。
もちろん、北朝鮮が新たな核実験に踏み切ると、中国の態度も変わる可能性がある。ただでさえ、ウクライナでの戦争の影響で台湾も含む東アジア地域で核拡散の可能性が高まっている中、それを刺激するような北朝鮮による核実験には中国も公式にも非公式にも強く反対しているはずである。北朝鮮もほぼ唯一の貿易相手国を失うのは得策ではないことは十分に承知しているはずである。
それに、論理的にも今回の「火星砲-17」型は核実験の必要性を減少させている。北朝鮮は、「核兵器の小型化、軽量化」ができていないので、実戦配備はできないとされ、そのためにはさらなる核実験が必要だと指摘されていた。北朝鮮は、ならばということで、重たくて大きなままの核兵器を米国本土まで運搬できる能力がある(と推測される)「火星砲-17」を発射した。「火星砲-17」のペイロードについては、サベルスバーグ氏に分析を待つしかないが、素人が見ても1.5倍ぐらいの重さまでは運搬できそうだ。ここも北朝鮮の巧妙なところで、本当に「偵察衛星」が開発できていたとしても、過去記事に書いたとおり、相当な重量となるはずなので、それを運搬できる「衛星運搬ロケット」が必要となる。そして、「小型化、軽量化」されていない核弾頭をについてもしかりである。「火星砲-17」はどちらにも利用できる「運搬手段」と言えよう。
余談ではあるが、サベルスバーグ氏と「偵察衛星運搬ロケット」について話をする中で、日本の「衛星運搬ロケット」(過去記事にも書いた)についても話題に上がった。サベルスバーグ氏は、日本の衛星運搬ロケットの諸元を見ながら、「火星-15」とは比較にならないほどの運搬能力があると言っていた。今回の「火星砲-17」は、日本の衛星運搬ロケットの能力に一歩近づいたということになろう。
報道を見ると、韓国に関する言及は「追従の群れの軍事的虚勢」という以外にない。そもそもICBMは「米帝」に向けて発射するものであり、韓国は対象ではないということなのかもしれないが、ここもしっかりと見ておく必要がある。昨日書いた記事で青瓦台の非難「声明」を紹介したが、韓国メディアなどは、北朝鮮のミサイル発射を受けて「地対地ミサイル」を数発発射したと報じている。これまで、北朝鮮がミサイルを発射した際、このような「対応」をしたのかについては要確認だが、過剰反応は非常に危険である。というのは、下手な動きは北朝鮮の韓国攻撃の口実と誤った判断に繋がる可能性があるからだ。
何回も書いてきたように、北朝鮮が戦争をするのは、何らかの理由で自滅を覚悟したときか米国が攻撃をときだけである。ところが、今回のウクライナでの戦争を見て、そうした判断基準が変化する可能性があるからだ。上にも書いたように、ウクライナを攻撃しているロシアの「核抑止力」のために米国は軍事介入できていない。仮に、今後、ロシアがエスカレートさせるために生物化学兵器や戦術核を使った場合、米国は軍事介入できるのかどうか。そうした米国の行動から北朝鮮が「核保有国」に対して容易に軍事介入できないという誤った判断をすれば、第2次朝鮮戦争に繋がる可能性もある。もちろん、核戦争になれば世界が破滅する米ロの戦争と北朝鮮との核戦争では全く意味が異なる。しかし、少なくともウクライナでの戦争がそうした誤った判断を誘発する契機となっていることは間違いない。そんな中、韓国がいちいち過敏に反応すれば、これもロシアがウクライナにしていることと同様に、進攻する口実を与えるだけである。北朝鮮から「戦争凶」と言われている韓国の新政権が発足すれば、その危険性はさらに高まるのではないだろうか。
こうした状況を止められるのは、中国だけであろう。ロシアが緩衝地帯としてのウクライナを必要としているように、中国も緩衝地帯としての北朝鮮を必要としている。だから、北朝鮮が冒険的な戦争を起こして、緩衝地帯がなくなってしまうことを中国は最も嫌っている。だからといって、朝鮮戦争の時のように参戦すれば米国と戦争をすることになるので、緩衝地帯確保の意味さえもなくなってしまう。中国は核実験と同様、陰に陽に北朝鮮に対して影響力を行使しながら、冒険的行動を抑制させるであろう。
「偵察衛星運搬ロケット試験」と発表しなかったのは、やはり到達高度が「太陽同期軌道」衛星運搬目的としては高すぎるからであろう。問題は、「火星砲-17」型の試験発射成功をもって「太陽節」の祝砲とするのか、「偵察衛星運搬ロケット」をさらに打ち上げるのかというところになるが、20kimの高度に達する前に爆発した16日の飛翔体が「火星砲-17」だっとし、今回の発射でその問題点を確実にクリアできていなければ、「火星砲-17」を使った「偵察衛星運搬ロケット」発射には失敗の可能性がつきまとうことになる。
話としては、「敵対勢力共」の妨害策動を避けるために、「偵察衛星運搬ロケット試験」と称して「火星砲-17」型の試験発射を行い、GoogleEarh盗用疑惑がある衛星写真を使って「敵共」の目を欺き、「火星砲-17」型発射を大成功させたという方が分かりやすいし、「火星砲-17」型だけでも十分に大「祝砲」に足りる。
北朝鮮が閲兵式の準備をしているという情報を韓国メディアが流しているが、そうだとすると、大規模な閲兵式で、今回発射された仕様にリペイントされた「火星砲-17」型を何台も連ねて走らせれば、十分な盛り上がりは期待できる。
「偵察衛星試験発射」の報道は、公開された写真の数も少なく、「朝鮮中央TV」の報道では『労働新聞』紙面で公開された写真さえ使われない地味な報道だった。一方、「火星砲-17」は『労働新聞』HPでも15枚(セットになった写真無含む)の写真が公開されているので、ほぼ間違いなく今日の「朝鮮中央TV」で動画報道があることになろう。
今後、この発射成功を受けて関係者を招いての音楽公演や晩餐会が開催されれば、それらと組み合わせて「朝鮮記録映画」も作られることになろう。
北朝鮮の報道を見ると「米帝国主義との長期的対決」という言葉が複数回使われている。北朝鮮は、朝米関係が動き出していた2018年4月にICBM発射に関するモラトリアムを発表したが、ほぼ4年経過した時点でのICBM発射でモラトリアムは破棄された。北朝鮮の立場からすれば、これまでは「強対強、善対善の原則で米国に対応する」としてきたが、バイデン政権の「善」を待っていたが、口先で「対話」を言うだけで、何ら行動に出ないので「強対強」路線への変更を今回の発射で明確にし、それも「長期的」としているので、バイデン政権期間における改善可能性はないという判断をしたのであろう。
今回の報道では「急変する国際政治情勢」と「急変」という言葉を使っているが、今回が初めてなのかどうかは別とし、「急変」は明らかにウクライナでの戦争を意味しているのであろう。「偵察衛星発射」との関連からすれば、ウクライナでの戦争が勃発しなければ、「火星砲-17」ではなく、「偵察衛星」を発射していた可能性もある。「元帥様」が「西海衛星発射場」を視察した時点ぐらいまでは、まだどちらにするか迷いがあったのかもしれない。
ところが、ウクライナでの戦争が停戦に向かう目処が立たない状況の中、世界中が「核抑止力」に注目する中、「偵察衛星」よりもICBMの方が意味があるという判断をしたのであろう。自分が気に入らない戦争には直接軍事介入する「米帝」が、ロシアの「核抑止力」のためにそれができずにいる姿を晒している今、北朝鮮が「核抑止力」を誇示することは北朝鮮にとって大いに意義がある。
2017年11月に北朝鮮が「火星-15」を発射した時、米中、米ロ関係は比較的良かったので、新たな安保理制裁が科された。米国などは今回の発射を受け安保理を開催するだろうが、新たな制裁が採択される可能性は無いに等しい。すると各国の単独制裁ということになるが、既に制裁は出し尽くされている状況なので、形式的に何かをしたところでほとんど影響はないであろう。また、中国もミサイル発射については比較的寛容なので、「関係諸国に対話による解決」を呼びかけるだけで実質的な行動は取らないであろう。
もちろん、北朝鮮が新たな核実験に踏み切ると、中国の態度も変わる可能性がある。ただでさえ、ウクライナでの戦争の影響で台湾も含む東アジア地域で核拡散の可能性が高まっている中、それを刺激するような北朝鮮による核実験には中国も公式にも非公式にも強く反対しているはずである。北朝鮮もほぼ唯一の貿易相手国を失うのは得策ではないことは十分に承知しているはずである。
それに、論理的にも今回の「火星砲-17」型は核実験の必要性を減少させている。北朝鮮は、「核兵器の小型化、軽量化」ができていないので、実戦配備はできないとされ、そのためにはさらなる核実験が必要だと指摘されていた。北朝鮮は、ならばということで、重たくて大きなままの核兵器を米国本土まで運搬できる能力がある(と推測される)「火星砲-17」を発射した。「火星砲-17」のペイロードについては、サベルスバーグ氏に分析を待つしかないが、素人が見ても1.5倍ぐらいの重さまでは運搬できそうだ。ここも北朝鮮の巧妙なところで、本当に「偵察衛星」が開発できていたとしても、過去記事に書いたとおり、相当な重量となるはずなので、それを運搬できる「衛星運搬ロケット」が必要となる。そして、「小型化、軽量化」されていない核弾頭をについてもしかりである。「火星砲-17」はどちらにも利用できる「運搬手段」と言えよう。
余談ではあるが、サベルスバーグ氏と「偵察衛星運搬ロケット」について話をする中で、日本の「衛星運搬ロケット」(過去記事にも書いた)についても話題に上がった。サベルスバーグ氏は、日本の衛星運搬ロケットの諸元を見ながら、「火星-15」とは比較にならないほどの運搬能力があると言っていた。今回の「火星砲-17」は、日本の衛星運搬ロケットの能力に一歩近づいたということになろう。
報道を見ると、韓国に関する言及は「追従の群れの軍事的虚勢」という以外にない。そもそもICBMは「米帝」に向けて発射するものであり、韓国は対象ではないということなのかもしれないが、ここもしっかりと見ておく必要がある。昨日書いた記事で青瓦台の非難「声明」を紹介したが、韓国メディアなどは、北朝鮮のミサイル発射を受けて「地対地ミサイル」を数発発射したと報じている。これまで、北朝鮮がミサイルを発射した際、このような「対応」をしたのかについては要確認だが、過剰反応は非常に危険である。というのは、下手な動きは北朝鮮の韓国攻撃の口実と誤った判断に繋がる可能性があるからだ。
何回も書いてきたように、北朝鮮が戦争をするのは、何らかの理由で自滅を覚悟したときか米国が攻撃をときだけである。ところが、今回のウクライナでの戦争を見て、そうした判断基準が変化する可能性があるからだ。上にも書いたように、ウクライナを攻撃しているロシアの「核抑止力」のために米国は軍事介入できていない。仮に、今後、ロシアがエスカレートさせるために生物化学兵器や戦術核を使った場合、米国は軍事介入できるのかどうか。そうした米国の行動から北朝鮮が「核保有国」に対して容易に軍事介入できないという誤った判断をすれば、第2次朝鮮戦争に繋がる可能性もある。もちろん、核戦争になれば世界が破滅する米ロの戦争と北朝鮮との核戦争では全く意味が異なる。しかし、少なくともウクライナでの戦争がそうした誤った判断を誘発する契機となっていることは間違いない。そんな中、韓国がいちいち過敏に反応すれば、これもロシアがウクライナにしていることと同様に、進攻する口実を与えるだけである。北朝鮮から「戦争凶」と言われている韓国の新政権が発足すれば、その危険性はさらに高まるのではないだろうか。
こうした状況を止められるのは、中国だけであろう。ロシアが緩衝地帯としてのウクライナを必要としているように、中国も緩衝地帯としての北朝鮮を必要としている。だから、北朝鮮が冒険的な戦争を起こして、緩衝地帯がなくなってしまうことを中国は最も嫌っている。だからといって、朝鮮戦争の時のように参戦すれば米国と戦争をすることになるので、緩衝地帯確保の意味さえもなくなってしまう。中国は核実験と同様、陰に陽に北朝鮮に対して影響力を行使しながら、冒険的行動を抑制させるであろう。