「CSISにおける安倍スピーチ」 (2013年2月22日 「CSIS」)
安倍首相が米国のシンクタンクであるCenter for Strategic and International Studies (CSIS)でオバマ大統領との会談に引き続いてスピーチを行った。原稿を読み上げる形での英語によるスピーチであったが、それはそれで立派であった。民主党時代の歴代総理がどこかで英語によるスピーチを行ったのかどうかはっきり覚えていないが、安倍さんに限らず、これから首相になるような人はそのぐらいは軽くこなして欲しいものである。
CSIS, "Video: Statesmen’s Forum: HE Shinzo Abe, Prime Minister of Japan",
http://csis.org/multimedia/video-statesmens-forum-he-shinzo-abe-prime-minister-japan
スピーチを聞いたのは、主として北朝鮮問題についてオバマさんとどのような話をしたのかということを知りたかったからであるが、日米は制裁実施に向けて協力をしていく、制裁には金融制裁も含むということ以上の話は出てこなかった。おもしろかったのは、金融制裁と共に挙げていた「テロ支援国再指定」については全く触れていないことだ。既に勉強不足を米国務省報道官に「やわらかく」指摘されたので、お願いするのはやめたのかもしれないが、日本のマスコミも優しいのかざっと見た限りではこの点を突っついているところはないようである。
安倍さんは、スピーチの中で拉致被害者の帰国を願う青いバッジを示しながら、横田めぐみさんを含む拉致被害者全員が一日も早く帰国させることを常に考えていると述べている。しかしこの点については、民主党時代の歴代首相と同じように「怒っていますよ」という意思表示だけで、具体的に何をするのか、何も進展しない状況をどのように打開するのかという方針が全く見えない。北朝鮮がロケット発射と核実験を実施してしまったので、タイミングを計る必要はあるが、北朝鮮との間で動き出していた「日本人遺骨返還交渉」を再開させるなどして、北朝鮮と話し合いをしていく以外の方法では、残念ながら拉致被害者を日本に帰国させる方法はないであろう。
思えば昨年8月に表面化した「日本人遺骨返還交渉」も、4月に北朝鮮がロケット発射をして国際的な非難を受けたにもかかわらず、その数ヶ月後に「何となく」動き出している。核、ミサイル、拉致問題、それぞれ日本にとっては重要な問題であるが、8月に「日本人遺骨返還交渉」という形で「何となく」動き出したあの動きは、民主党が主導したのか外務省が主導したのかは分からないが、実に上手い動きであったと思う。理想的には核・ミサイル・拉致をパッケージにした解決が望ましいことは間違いないが、現実的にそれが困難であるとするならば、入れるところから入っていく対応は正しいと思う。
安倍さんはオバマさんと北朝鮮の核問題で協力を確認したといっているが、この問題について事実上の鍵を握っているのは米国と中国で、日本は協力者に過ぎない。しかし、だから日本は無力であるということではなく、日本式のやり方で北朝鮮を国際社会に取り込んでいくことはできるはずである。
北朝鮮は、今回の核実験で「朝鮮半島非核化宣言」は破棄したが、金正日さんが署名した「日朝平壌共同宣言」は依然として大切に扱っている。日朝間では共同宣言の理解や取り扱いに深い溝があるが、だとしてもそれは生きているのだから、活用しない手はないと思う。安倍1期政権は、どちらかというと同宣言で造り出された雰囲気を破壊する方向に動いたが、2期政権はどうするつもりなのか、まだよく分からない。
質疑応答は、誤解を招かぬように日本語で行われた(安倍さん自身も、そんなことをしたら駐米日本大使が青くなるとジョークを言っているが)。会場には、拙ブログでも何回か取り上げた朝鮮半島専門家のVictor Chaさんもいて質問をしている。子ブッシュ政権時代に会ったことがあるのか、安倍さんも彼を個人的に知っているようであった。Chaさんは韓国の朴槿恵新政権との関係について質問をした。安倍さんは、朴槿恵さんとも複数回会っているし、朴さんのお父さんである朴正煕さんと安倍さんのお爺さんは親友であったと語っている。安倍さんは朴正煕さんを「親日的」と表現したが、公式な会見ではなかったとしても、もしかするとこの発言は後から問題になるかもしれない。また、日韓の懸案として「竹島問題」を挙げたが、「竹島の日」を巡り日韓間でごたごたがあったにせよ、当面の問題は竹島よりも「慰安婦問題」のはずである。竹島は領土問題であるばかりか、韓国が実効支配をしているので、中国が尖閣に対して「力」を使っているように、日本も竹島に「力」を使わなければ現状を変えることは事実上不可能である。安倍さんは中国が尖閣の「現状」を「力」で変えようとしていることを強く非難しているので、同じことを日本が韓国に対して行うことなど考えていないはずである。外交的には、竹島の領有権を強く主張していくのはよいことだが、懸案とすべきは現実的な出口のない竹島問題よりも、慰安婦問題だと思う。安倍政権が日韓国交回復50周年まで続くのであれば、中日国交正常化40周年を台無しにしたような失策は繰り返さないで欲しい。
尖閣に関しても質問が出て、安倍さんは米国が尖閣が安保適用範囲に含まれるとしたことに感謝した上で、「尖閣は私たち自身の力によって、日本固有の領土を守っていく」と答えている。私は「力(force)」という言葉が非常に安倍さんらしいと思った。
安倍さんはたった一度のオバマさんとの会談で「日米同盟関係を再建した」と豪語しているが、難題は山積しているはずである。また、「アベノミクス」についても自信ありげに語っているが、現況を結果だと思ったのならば大間違いである。
CSIS, "Video: Statesmen’s Forum: HE Shinzo Abe, Prime Minister of Japan",
http://csis.org/multimedia/video-statesmens-forum-he-shinzo-abe-prime-minister-japan
スピーチを聞いたのは、主として北朝鮮問題についてオバマさんとどのような話をしたのかということを知りたかったからであるが、日米は制裁実施に向けて協力をしていく、制裁には金融制裁も含むということ以上の話は出てこなかった。おもしろかったのは、金融制裁と共に挙げていた「テロ支援国再指定」については全く触れていないことだ。既に勉強不足を米国務省報道官に「やわらかく」指摘されたので、お願いするのはやめたのかもしれないが、日本のマスコミも優しいのかざっと見た限りではこの点を突っついているところはないようである。
安倍さんは、スピーチの中で拉致被害者の帰国を願う青いバッジを示しながら、横田めぐみさんを含む拉致被害者全員が一日も早く帰国させることを常に考えていると述べている。しかしこの点については、民主党時代の歴代首相と同じように「怒っていますよ」という意思表示だけで、具体的に何をするのか、何も進展しない状況をどのように打開するのかという方針が全く見えない。北朝鮮がロケット発射と核実験を実施してしまったので、タイミングを計る必要はあるが、北朝鮮との間で動き出していた「日本人遺骨返還交渉」を再開させるなどして、北朝鮮と話し合いをしていく以外の方法では、残念ながら拉致被害者を日本に帰国させる方法はないであろう。
思えば昨年8月に表面化した「日本人遺骨返還交渉」も、4月に北朝鮮がロケット発射をして国際的な非難を受けたにもかかわらず、その数ヶ月後に「何となく」動き出している。核、ミサイル、拉致問題、それぞれ日本にとっては重要な問題であるが、8月に「日本人遺骨返還交渉」という形で「何となく」動き出したあの動きは、民主党が主導したのか外務省が主導したのかは分からないが、実に上手い動きであったと思う。理想的には核・ミサイル・拉致をパッケージにした解決が望ましいことは間違いないが、現実的にそれが困難であるとするならば、入れるところから入っていく対応は正しいと思う。
安倍さんはオバマさんと北朝鮮の核問題で協力を確認したといっているが、この問題について事実上の鍵を握っているのは米国と中国で、日本は協力者に過ぎない。しかし、だから日本は無力であるということではなく、日本式のやり方で北朝鮮を国際社会に取り込んでいくことはできるはずである。
北朝鮮は、今回の核実験で「朝鮮半島非核化宣言」は破棄したが、金正日さんが署名した「日朝平壌共同宣言」は依然として大切に扱っている。日朝間では共同宣言の理解や取り扱いに深い溝があるが、だとしてもそれは生きているのだから、活用しない手はないと思う。安倍1期政権は、どちらかというと同宣言で造り出された雰囲気を破壊する方向に動いたが、2期政権はどうするつもりなのか、まだよく分からない。
質疑応答は、誤解を招かぬように日本語で行われた(安倍さん自身も、そんなことをしたら駐米日本大使が青くなるとジョークを言っているが)。会場には、拙ブログでも何回か取り上げた朝鮮半島専門家のVictor Chaさんもいて質問をしている。子ブッシュ政権時代に会ったことがあるのか、安倍さんも彼を個人的に知っているようであった。Chaさんは韓国の朴槿恵新政権との関係について質問をした。安倍さんは、朴槿恵さんとも複数回会っているし、朴さんのお父さんである朴正煕さんと安倍さんのお爺さんは親友であったと語っている。安倍さんは朴正煕さんを「親日的」と表現したが、公式な会見ではなかったとしても、もしかするとこの発言は後から問題になるかもしれない。また、日韓の懸案として「竹島問題」を挙げたが、「竹島の日」を巡り日韓間でごたごたがあったにせよ、当面の問題は竹島よりも「慰安婦問題」のはずである。竹島は領土問題であるばかりか、韓国が実効支配をしているので、中国が尖閣に対して「力」を使っているように、日本も竹島に「力」を使わなければ現状を変えることは事実上不可能である。安倍さんは中国が尖閣の「現状」を「力」で変えようとしていることを強く非難しているので、同じことを日本が韓国に対して行うことなど考えていないはずである。外交的には、竹島の領有権を強く主張していくのはよいことだが、懸案とすべきは現実的な出口のない竹島問題よりも、慰安婦問題だと思う。安倍政権が日韓国交回復50周年まで続くのであれば、中日国交正常化40周年を台無しにしたような失策は繰り返さないで欲しい。
尖閣に関しても質問が出て、安倍さんは米国が尖閣が安保適用範囲に含まれるとしたことに感謝した上で、「尖閣は私たち自身の力によって、日本固有の領土を守っていく」と答えている。私は「力(force)」という言葉が非常に安倍さんらしいと思った。
安倍さんはたった一度のオバマさんとの会談で「日米同盟関係を再建した」と豪語しているが、難題は山積しているはずである。また、「アベノミクス」についても自信ありげに語っているが、現況を結果だと思ったのならば大間違いである。