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    「国防科学院、新たに開発した極超音速ミサイル「火星-8」型試験発射実施」:オランダ国防大ミサイル学者の分析、北朝鮮の外交戦術的発射 (2021年9月30日 「朝鮮中央TV」)

    29日、「朝鮮中央TV」で「火星-8」発射に関する報道が放送された。動画報道はなく、公開された写真も『労働新聞』などで公開された1枚だけであった。


    Source: KCTV, 2021/09/29

    オランダ国防大のミサイル学者、サベルスバーグ先生より「火星-8」の写真を見てのコメントを頂いたので紹介しておく。

    ・「火星-8」の推進装置は、「火星-12」と「火星-14」に使われたものと類似しており、中央のエンジン(RD-250の片方とみられる)と4つの姿勢制御用のバーニア・クラスタから構成されている。
    ・エンジンとボディーの直系からして、「火星-12」を短くしたもののように見える。
    ・このミサイルは、硝酸あるいはN204を燃やしたときに発生する茶色が掛かった赤い煙を噴出していることから、間違いなく液体燃料を使ったものである。
    ・「アンプル」が何を意味するのかはよく分からないが、液体燃料は毒性と爆発性があり、取り扱い、輸送、ミサイルへの注入が困難なので、液体燃料を入れるための容器を意味しているのかも知れない。しかし、容器がどのような構造であれ、ミサイルの重量を増加させ、燃料の量を減らすので、ミサイルのパフォーマンスを低下させる結果となる。
    ・ミサイルの弾頭部を見ると、翼あるいは制御翼がある。この翼は大気圏内での操縦を可能にし、純粋な弾道落下軌道からの離脱を可能にする。ロシアのAvanguardや中国のDF-17のような、いわゆる超音速滑空対が注目されているが、それはこうしたミサイルが滑空軌道を低空で長距離飛行することができ、攻撃目標の特定を困難にし、迎撃を極めて困難にするからである。
    ・しかし、こうしたミサイルは「火星-8」よりも、もっと細くて長い。
    ・北朝鮮が実際に何を達成できたのかは疑問である。この技術は非常に複雑で、一般的には何回もの実験を要する。北朝鮮が極超音速風洞を持っているのかは分からないが、こうしたミサイルを実際に飛ばす前に、極超音速風洞で実験する方が遙かに費用を削減できる。

    以上がサベルスバーグ先生の所見であるが、興味深いのは最後の部分である。今回の発射は、到達高度や飛行距離は極めて短いと韓国メディアが報じている。そうしたことからすると、北朝鮮に極超音速空洞があるのかないのかは別とし、十分な実験をせずに、発射実験に至った可能性がある。さらに、サベルスバーグ先生が指摘するように、「アンプル」自体の重量が飛行性能に影響を与えたとすると、高度や距離を出せなかったのも理解できる。

    しかし、昨日の記事にも書いたように、この発射は実験成果に意味があるのではなく、まさに外交戦術的な発射であったといえる。形式的には韓国のSLBMに対校する新技術の誇示、そして、さらに重要なのは発射に対する韓米の反応を見極めることが重要な目的であったといえる。

    そして、対内的にも(党第8回大会決定貫徹でもある)「火星-8」の発射成功の中、つまり勝利の中で、「元帥様」が「最高人民会議」で韓国に対話を呼びかける構図を作れている。

    ミサイル学から見た技術的側面、北朝鮮の政治的側面、国際関係を総合的に勘案すると、おもしろい構図となる。

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    川口智彦

    Author:川口智彦
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    2021年1月11日から「総秘書同志」
    「首領様」=金日成主席
    「将軍様」=金正日総書記
    「政治局員候補」=金ヨジョン(「元帥様」の妹)、2018年2月11日から「第1副部長同志」とも
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