「米国務省定例記者会見」:北朝鮮テロ支援国際指定について (2013年2月15日 「U.S. Department of State」)
安倍首相が北朝鮮をテロ支援国に再指定することを米国に求めるとしたことについて、米国務省定例記者会見で問答があった。実は、安倍さんが「北朝鮮をテロ支援国家に再指定を」と言い出したとき、北朝鮮を懲らしめるための思いつきの手段を片っ端から言っているのではないかと思った。もしかすると子ブッシュが言った「悪の枢軸」と「テロ支援国家」を混同しているのではないかと思ったほどである。そもそもロケット発射や核実験をしたこととテロ支援国家は直接的な関係はない。もし、北朝鮮がテロ支援国家であるならば、ロケット発射や核実験をしなくてもテロ支援国家である。現在、米国が指定しているテロ支援国家は、キューバ、イラン、スーダン、シリアであるが、指定理由を見れば、核・ミサイルとは関係ない。北朝鮮がテロ支援国家で「あった」のも、核・ミサイルとは関係なく1987年に大韓航空機爆破事件を引き起こしたからである。米国務省もこの事件を引き起こしてからは「北朝鮮がテロ支援をしているということは知られていない」としている。北朝鮮がテロ支援国家から除外されたのは、2008年10月で、指定除外からなぜ20年もかかったのかという点についてはよく分からない。国務省が説明するテロ支援国家からの除外理由は、「過去6ヶ月間テロ支援をしていない」ということと「北朝鮮が将来的にテロを支援しないという確証が得られた」ということだけである。
U.S. Department of State, "Country Reports on Terrorism",
http://www.state.gov/j/ct/rls/crt/2011/
以上を前提に安倍さんの要求に米国務省がどのように応じているかを紹介していく。ヌーランド報道官は、「安倍首相とはそのことについて話し合うだろうと」とした上で、テロ支援国家がどのようにして指定されているのかについて説明している。形式的には記者に説明しているが、実のところ米国の法律をあまりよく調べもせずに思いつきでものを言っている安倍さんに説明しているようにも思われる。同報道官は「一般的に」と前置きした上で、「米国の法律では、ある国をテロ支援国家に指定するためには、国務長官がその国の政府が繰り返し国際テロを支援してきたと認定しなければならない。こうした認定は、問題となる国の記録を注意深く検討した上で行われる。そして、我々は通常的に北朝鮮を支援国に再指定するのかどうかについて、同国の情報を検討している」と述べた。つまり、「あいつは悪い子だから指定してくれ」というたぐいの要請だけでは指定はできないということである。法治国家である米国としては当然のことであろう。
記者は、Ros-Lehtinen下院議員などが「2013年対北朝鮮制裁と外交的不承認法 (North Korea Sanctions and Diplomatic Nonrecognition Act of 2013)」の制定を目指していることについて質問しているが、ヌーランド報道官は「ドラフトの段階の法案についてはコメントできない」としている。
Ileana Ros-Lehtinen HP, http://ros-lehtinen.house.gov/press-release/north-korea%E2%80%99s-latest-nuclear-test-reaffirms-regime%E2%80%99s-reckless-actions-and-threats-us
同報道官は、米国単独での制裁の可能性、特に金融制裁について尋ねられ、「米国単独の制裁も検討している」とし、金融制裁については、「北朝鮮に対して米国の(経済)制裁は効いているが、北朝鮮の大きな隣国(複数、中国とロシアを指すものと思われる)が協力すれば、その効果はより大きくなる」と答え、特に中国に制裁の実効が出るような対応を求めている。これは、安保理を舞台に、事実上米中二国間で行われている北朝鮮に対する制裁協議に対する米国務省からのメッセージでもあろう。
その後、国務省は北朝鮮をテロ支援国に再指定することについて特段の検討を行っているのかとか、どのように検討が行われているかなどという質問が出されたが、同報道官は「前歴がある国についてはよく検討している」としただけで、具体的な言及は避けた。
U.S. Department of States, "Daily Press Briefing",
http://www.state.gov/r/pa/prs/dpb/2013/02/204837.htm#NORTHKOREA
北朝鮮は「第4次、第5次の核実験」をする可能性を臭わせているが、これは米中に対する威嚇(米中では威嚇の中身は違っているが)であるのと同時に、やはり「多種化」をいいたいのではないかと思う。つまり、プルトニウムについては限界があったが、ウラニウムはいくらでもあるのだからやる気になれば、何回でも核実験ができるということをいいたいのではないだろうか。
『サーチナ』、「北朝鮮が年内に再び核実験の実施を中国に通告か」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130216-00000009-scn-cn
上の記事には「多くの人は、北朝鮮がこの時期に核実験を強行した理由を疑問視している」と書かれている。実は、私も「多くの人」の1人で、北朝鮮が核実験を実施する直前に投稿した記事でも大外れをやらかしている。みっともないので、あの記事は削除してしまってもよいのだが、やはりあの時点でああいう考え方をするのは、一理あると思うのでそのまま残してある。「米国を引き出すため」と最近のマスコミ記事にはよく書かれているが、それは間違いでないにしても、引き出すための方法が間違っている。上にも「米中に対する威嚇」と書いたが、もしかすると、北朝鮮は1992年の悪夢を再び見ているのではないだろうか。周知のとおり、1992年は中韓国交樹立の年である。それ以前からある程度の準備があったにせよ、北朝鮮はこれを契機に核開発に邁進した。今回、北朝鮮が激怒し始めたのは、安保理決議2087が出されてからである。あの決議で、北朝鮮は中国が米国の側に付き、しかも北朝鮮問題で韓国との協調関係を強めているという状況に92年の悪夢を投影しているような気もする。そして、第2次戦争勃発直前まで情勢が緊迫したの94年の危機を再現し、その時と同じように自国に有利な結果に結びつけようとしているのかもしれない。とても危険な賭であることは間違いない。
それとの関連で、韓国政府が風船飛ばしを止めることができなかったのは、とても危険なことであると思う。韓国では批判もあるが、ヨンピョン島砲撃事件の際、韓国政府が過剰反撃に出なかったのは英断だと思う。過去記事にも書いたように、李明博さんは振り返って「軍がいうことを聞かなかった」というようなことをいっているが、それが李明博さんの判断だったのか軍の判断だったのかはさておき、戦争の拡大を防いだのは間違いない。ただし、北朝鮮が風船飛ばしに反発して、何か攻撃を仕掛けたとき、あのときと同じような自制が聞くのかは大いに疑問である。この状況下では、小さな衝突が、急速に拡大する可能性は十分にある。
北朝鮮が勇ましいことをいうのは昨日今日始まったことではない。しかし、日本や韓国は、是非この状況に冷静に対応して欲しい。思いつきや、勇ましいことをいって国民の人気取りをするのではなく、危機を回避することに全力を傾注して欲しいものである。「危機に対処」と政府はいうが、「対処」では遅すぎるし、「対処」はどちらかといと米国の役割である。日本がやるべきことは「回避」させることである。
投稿後に思い出したのだが、「金正日同志の誕生71周年慶祝中央報告大会」で張成沢さんが実につまらなそうな顔をしていた。これまで、彼は金正恩演説の最中、拍手をする態度が悪いとかいろいろと韓国のマスコミを中心にいわれてきたが、「金正日同志の誕生71周年慶祝中央報告大会」には金正恩さんこそ主席していないが、何かおもしろくなさそうな顔をしているのがとても印象的だった。
金永南演説をつまらなそうな顔で聞いている張成沢(軍人に挟まれて座っている)

Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-02-15-14-y.flv
U.S. Department of State, "Country Reports on Terrorism",
http://www.state.gov/j/ct/rls/crt/2011/
以上を前提に安倍さんの要求に米国務省がどのように応じているかを紹介していく。ヌーランド報道官は、「安倍首相とはそのことについて話し合うだろうと」とした上で、テロ支援国家がどのようにして指定されているのかについて説明している。形式的には記者に説明しているが、実のところ米国の法律をあまりよく調べもせずに思いつきでものを言っている安倍さんに説明しているようにも思われる。同報道官は「一般的に」と前置きした上で、「米国の法律では、ある国をテロ支援国家に指定するためには、国務長官がその国の政府が繰り返し国際テロを支援してきたと認定しなければならない。こうした認定は、問題となる国の記録を注意深く検討した上で行われる。そして、我々は通常的に北朝鮮を支援国に再指定するのかどうかについて、同国の情報を検討している」と述べた。つまり、「あいつは悪い子だから指定してくれ」というたぐいの要請だけでは指定はできないということである。法治国家である米国としては当然のことであろう。
記者は、Ros-Lehtinen下院議員などが「2013年対北朝鮮制裁と外交的不承認法 (North Korea Sanctions and Diplomatic Nonrecognition Act of 2013)」の制定を目指していることについて質問しているが、ヌーランド報道官は「ドラフトの段階の法案についてはコメントできない」としている。
Ileana Ros-Lehtinen HP, http://ros-lehtinen.house.gov/press-release/north-korea%E2%80%99s-latest-nuclear-test-reaffirms-regime%E2%80%99s-reckless-actions-and-threats-us
同報道官は、米国単独での制裁の可能性、特に金融制裁について尋ねられ、「米国単独の制裁も検討している」とし、金融制裁については、「北朝鮮に対して米国の(経済)制裁は効いているが、北朝鮮の大きな隣国(複数、中国とロシアを指すものと思われる)が協力すれば、その効果はより大きくなる」と答え、特に中国に制裁の実効が出るような対応を求めている。これは、安保理を舞台に、事実上米中二国間で行われている北朝鮮に対する制裁協議に対する米国務省からのメッセージでもあろう。
その後、国務省は北朝鮮をテロ支援国に再指定することについて特段の検討を行っているのかとか、どのように検討が行われているかなどという質問が出されたが、同報道官は「前歴がある国についてはよく検討している」としただけで、具体的な言及は避けた。
U.S. Department of States, "Daily Press Briefing",
http://www.state.gov/r/pa/prs/dpb/2013/02/204837.htm#NORTHKOREA
北朝鮮は「第4次、第5次の核実験」をする可能性を臭わせているが、これは米中に対する威嚇(米中では威嚇の中身は違っているが)であるのと同時に、やはり「多種化」をいいたいのではないかと思う。つまり、プルトニウムについては限界があったが、ウラニウムはいくらでもあるのだからやる気になれば、何回でも核実験ができるということをいいたいのではないだろうか。
『サーチナ』、「北朝鮮が年内に再び核実験の実施を中国に通告か」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130216-00000009-scn-cn
上の記事には「多くの人は、北朝鮮がこの時期に核実験を強行した理由を疑問視している」と書かれている。実は、私も「多くの人」の1人で、北朝鮮が核実験を実施する直前に投稿した記事でも大外れをやらかしている。みっともないので、あの記事は削除してしまってもよいのだが、やはりあの時点でああいう考え方をするのは、一理あると思うのでそのまま残してある。「米国を引き出すため」と最近のマスコミ記事にはよく書かれているが、それは間違いでないにしても、引き出すための方法が間違っている。上にも「米中に対する威嚇」と書いたが、もしかすると、北朝鮮は1992年の悪夢を再び見ているのではないだろうか。周知のとおり、1992年は中韓国交樹立の年である。それ以前からある程度の準備があったにせよ、北朝鮮はこれを契機に核開発に邁進した。今回、北朝鮮が激怒し始めたのは、安保理決議2087が出されてからである。あの決議で、北朝鮮は中国が米国の側に付き、しかも北朝鮮問題で韓国との協調関係を強めているという状況に92年の悪夢を投影しているような気もする。そして、第2次戦争勃発直前まで情勢が緊迫したの94年の危機を再現し、その時と同じように自国に有利な結果に結びつけようとしているのかもしれない。とても危険な賭であることは間違いない。
それとの関連で、韓国政府が風船飛ばしを止めることができなかったのは、とても危険なことであると思う。韓国では批判もあるが、ヨンピョン島砲撃事件の際、韓国政府が過剰反撃に出なかったのは英断だと思う。過去記事にも書いたように、李明博さんは振り返って「軍がいうことを聞かなかった」というようなことをいっているが、それが李明博さんの判断だったのか軍の判断だったのかはさておき、戦争の拡大を防いだのは間違いない。ただし、北朝鮮が風船飛ばしに反発して、何か攻撃を仕掛けたとき、あのときと同じような自制が聞くのかは大いに疑問である。この状況下では、小さな衝突が、急速に拡大する可能性は十分にある。
北朝鮮が勇ましいことをいうのは昨日今日始まったことではない。しかし、日本や韓国は、是非この状況に冷静に対応して欲しい。思いつきや、勇ましいことをいって国民の人気取りをするのではなく、危機を回避することに全力を傾注して欲しいものである。「危機に対処」と政府はいうが、「対処」では遅すぎるし、「対処」はどちらかといと米国の役割である。日本がやるべきことは「回避」させることである。
投稿後に思い出したのだが、「金正日同志の誕生71周年慶祝中央報告大会」で張成沢さんが実につまらなそうな顔をしていた。これまで、彼は金正恩演説の最中、拍手をする態度が悪いとかいろいろと韓国のマスコミを中心にいわれてきたが、「金正日同志の誕生71周年慶祝中央報告大会」には金正恩さんこそ主席していないが、何かおもしろくなさそうな顔をしているのがとても印象的だった。
金永南演説をつまらなそうな顔で聞いている張成沢(軍人に挟まれて座っている)

Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-02-15-14-y.flv