「協同農場に広がる二毛作農業風景」:多収穫してまずは自分のために、小麦の二毛作、コンバイン (2021年7月9日 「朝鮮中央TV」)
9日、「朝鮮中央TV」で放送された農業関連のドキュメンタリー番組。
小麦を導入した農場での二毛作成功事例を紹介している。農業に関する番組はこれまでも紹介してきたと思うが、二毛作の成功事例について、これほど詳細に伝えている番組はこれが初めてだと思う。北朝鮮農業と言えば、米、モロコシ、ジャガイモについてはしばしば取り上げられるが、小麦生産がそもそも多かったのか、二毛作導入に伴い増えてきたのかは、きちんと調べてみないと何とも言えない。
しかし、上にも書いたように、「朝鮮中央TV」で紹介される農場風景には、米、モロコシ、ジャガイモが多く登場しており、麦畑というのは、ほとんど出てこない。
この番組では、女性農場員が興味深いことを言っている。
「農場員は、作況が良く、それが自分の生活と、もちろん大きな範囲で考えれば、国の米瓶を満たすことになりますが、近い範囲で考えれば、自分の子供のための仕事、自分のための仕事だと考えました。これがうまくいってこそ、私も食べていけるし、さらには国の米瓶も満たせるので、農業に対する農場員の精神力はたいしたものです。」
実に北朝鮮らしくない。北朝鮮では、まず「国の米瓶を満たす」ことが農民の責務のはずだが、「近い範囲」で「子供たちのため」に作物を多く収穫し、その上で「国の米瓶を満たす」としている。このような発言を放送しているということは、多収穫を達成して得た農作物は、まず、自分たちのために消費して良いと言っているに等しい。もちろん、そうしたことが本当に認められているのならば、農民のインセンティブは非常に高まる。悪く考えれば、食料が本当に不足してどうにもならないので、自分たちで何とかしろと言っているようにも解釈できるが、この番組に出てくる小麦畑からは、そのような雰囲気は伝わってこない。
もう一つは、機械化の話だ。北朝鮮の機械化というと、どう見てもMade in DPRKといった感じの女性2人を乗せた田植え用機械と、古いトラクターだ(「元帥様」が試運転した新型トラクターも時々登場するが)。ところがこの番組では、メーカー名にぼかしを入れた大型のコンバインのような農業機械が登場する。恐らく、中国製であろう。番組に登場するコンバインのような機械がいつ北朝鮮に中国から搬入されたのかは分からないが、小麦の二毛作に合わせて導入されたのであれば、北朝鮮農業にとって大きなプラスとなる。

Source: KCTV, 2021/07/09
そして、小麦の収量も興味深い。参考までに日本の小麦の収量を調べてみると、2020年の10アール辺り全国平均は447kgと出てくる。
農水省、令和2年産4麦の収穫量、https://www.maff.go.jp/j/tokei/kekka_gaiyou/sakumotu/sakkyou_kome/mugi/r2/4mugi/index.html
これを1町歩、約100アールに換算すると4.5トンほどになるわけだが、番組で農場員が言っている7トンだの10トンだのという数値と比べると遙かに低い。換算の計算を間違っている気がしないでもないが、そうでなければかなりの収穫量になる。
番組に出てくる農民の話からは、あれこれと理由を付けてやらなかった、やろうともしなかったことをやってみたら上手くいったということが伝わってくる。そして、あれこれと理由を付けてやらなかった背景に、真面目にやったところで自分に還元されないという社会主義の悪弊があったのであれば、上に書いた女性が言っているように、頑張って収穫した分が自分に優先的に還元されるシステムが導入された結果、皆、真面目に働くようになり、大変でも二毛作を行い、収量が増えたとも考えられる。
そして、その結果で「元帥様に喜びを差し上げられる」のであれば、悪いことは何もない。
映像もきれいだし、なかなか興味深い番組だった。
Source: KCTV, 2021/07/09
小麦を導入した農場での二毛作成功事例を紹介している。農業に関する番組はこれまでも紹介してきたと思うが、二毛作の成功事例について、これほど詳細に伝えている番組はこれが初めてだと思う。北朝鮮農業と言えば、米、モロコシ、ジャガイモについてはしばしば取り上げられるが、小麦生産がそもそも多かったのか、二毛作導入に伴い増えてきたのかは、きちんと調べてみないと何とも言えない。
しかし、上にも書いたように、「朝鮮中央TV」で紹介される農場風景には、米、モロコシ、ジャガイモが多く登場しており、麦畑というのは、ほとんど出てこない。
この番組では、女性農場員が興味深いことを言っている。
「農場員は、作況が良く、それが自分の生活と、もちろん大きな範囲で考えれば、国の米瓶を満たすことになりますが、近い範囲で考えれば、自分の子供のための仕事、自分のための仕事だと考えました。これがうまくいってこそ、私も食べていけるし、さらには国の米瓶も満たせるので、農業に対する農場員の精神力はたいしたものです。」
実に北朝鮮らしくない。北朝鮮では、まず「国の米瓶を満たす」ことが農民の責務のはずだが、「近い範囲」で「子供たちのため」に作物を多く収穫し、その上で「国の米瓶を満たす」としている。このような発言を放送しているということは、多収穫を達成して得た農作物は、まず、自分たちのために消費して良いと言っているに等しい。もちろん、そうしたことが本当に認められているのならば、農民のインセンティブは非常に高まる。悪く考えれば、食料が本当に不足してどうにもならないので、自分たちで何とかしろと言っているようにも解釈できるが、この番組に出てくる小麦畑からは、そのような雰囲気は伝わってこない。
もう一つは、機械化の話だ。北朝鮮の機械化というと、どう見てもMade in DPRKといった感じの女性2人を乗せた田植え用機械と、古いトラクターだ(「元帥様」が試運転した新型トラクターも時々登場するが)。ところがこの番組では、メーカー名にぼかしを入れた大型のコンバインのような農業機械が登場する。恐らく、中国製であろう。番組に登場するコンバインのような機械がいつ北朝鮮に中国から搬入されたのかは分からないが、小麦の二毛作に合わせて導入されたのであれば、北朝鮮農業にとって大きなプラスとなる。

Source: KCTV, 2021/07/09
そして、小麦の収量も興味深い。参考までに日本の小麦の収量を調べてみると、2020年の10アール辺り全国平均は447kgと出てくる。
農水省、令和2年産4麦の収穫量、https://www.maff.go.jp/j/tokei/kekka_gaiyou/sakumotu/sakkyou_kome/mugi/r2/4mugi/index.html
これを1町歩、約100アールに換算すると4.5トンほどになるわけだが、番組で農場員が言っている7トンだの10トンだのという数値と比べると遙かに低い。換算の計算を間違っている気がしないでもないが、そうでなければかなりの収穫量になる。
番組に出てくる農民の話からは、あれこれと理由を付けてやらなかった、やろうともしなかったことをやってみたら上手くいったということが伝わってくる。そして、あれこれと理由を付けてやらなかった背景に、真面目にやったところで自分に還元されないという社会主義の悪弊があったのであれば、上に書いた女性が言っているように、頑張って収穫した分が自分に優先的に還元されるシステムが導入された結果、皆、真面目に働くようになり、大変でも二毛作を行い、収量が増えたとも考えられる。
そして、その結果で「元帥様に喜びを差し上げられる」のであれば、悪いことは何もない。
映像もきれいだし、なかなか興味深い番組だった。
Source: KCTV, 2021/07/09