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    「<話術小品舞台>短幕劇 明るい未来」 (2012年1月6日 「朝鮮中央TV」)

    昨年11月に放映された「明るい未来」という短幕劇が、昨夜「話術小品舞台」シリーズとして再放映された。11月に放映された時は、特に注目することなく見過ごしていたが、今回は「新年」ということもありダウンロードをして見てみた。古い作品ではなく、昨年6月の少年団創立66周年祝賀行事の前後に上演された演劇を録画した番組である。地方都市の少年団員である少女が代表として金正恩さんに平壌に招聘されるまでの紆余曲折を描いたストーリーであるが、北朝鮮の地方都市での生活などを垣間見ることができてなかなかおもしろいので紹介しておく。

    「短幕劇 明るい未来」
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-01-06-19.flv

    主人公の少女、金ボムスン(本名:金ボムヒャン、ナムジン中学校の生徒)
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-01-06-19.flv

    この少女は、実名に近い名前で劇に出演しているので、本当に代表として平壌に招待されたのかもしれない。もしかすると、探してみると「労働新聞」の社会面辺りにこの少女の逸話が出ているかもしれない。

    また、背景に見える新聞箱らしきものも興味深い。箱には「平南日報」と書かれているが、これは平安南道の地方紙だと思う。この小道具が劇で使われたのは、この少女が平安南道出身の少女であることを示すためであろうが、それよりも我々にとっては、地方都市で地方紙が一般的に各世帯に配達されているという事実が興味深い(普通にないものを小道具には使わないはずだ)。

    少女ボムスンのおばあさん
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-01-06-19.flv

    このおばあさんは、家の中からバケツを持って出てきて、外にある水道で水を汲んでいる。つまり、北朝鮮の地方都市では世帯別に水道の蛇口はなく、共同で水道を使っていることが分かる。この劇では井戸ではなく水道になっているが、農村部では井戸の所も多いのであろう。

    喜ぶ少女ボムスンとおばあさん
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-01-06-19.flv

    なぜ二人が喜んでいるのかというと、ボムスンの学業成績が1番であったからだけではなく、彼女が少年団の指導員先生に呼ばれて個人面談を行ったからである。ボムスンは、この面談は自分が平壌で開催される少年団行事に参加できるようになったからだと考えた。

    作業班長がやってきた。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-01-06-19.flv

    ボムスンにはミョンチョルというお兄さんがいるのだが、市党部員がミョンチョルを探しているとのことで、作業班長はミョンチョルを探しに家に訪ねてきた。ミョンチョルは工場に出かけたまま、一晩中家に帰ってこなかったから、病院に行ったのではないかとおばあさんが話している。ボムスンのお母さんは、入院中である。

    同じ人民班(町内会)の女性がやってきた。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-01-06-19.flv

    この女性は、洞事務所(町役場)に労働党秘書がやってきて、ボムスンが平壌に招かれる代表に決まったと話していたと伝える。この女性は、町内でもおしゃべりの女性という役柄である。

    お兄さんのミョンチョルが落胆して帰宅する。
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    落胆している理由は、工場で作業班長が全ての問題をミョンチョルに任せるからであるという。実は、この一家の父親は何かの罪を犯して服役中という設定である。ミョンチョルの作業班長は以前は職場長であったが、ミョンチョルの父親との連帯責任を取らされ作業班長に降格された。ミョンチョルは作業班長が彼にその仕返しをしているのだと思っている。

    ミョンチョルは、自分の家は「罪を犯した??の家」だから何も良いことはないと話している。「??」の部分は編集の段階で音声が消されている。何を言っていたのだろうか。言論統制が厳しい北朝鮮は数え切れないほどの放送禁止用語があることは間違いないが、演劇では使用が許されて放送では禁止されている言葉があるとすれば興味深い。

    家具工場の販売課長がやってくる。
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    販売課長の娘もこの家の娘と同姓同名の金ポムスンである。またこの女性は、上でミョンチョルが話していた作業班長の妹でもある。販売課長は、自分の娘が平壌に招待されたので、学校に出生証を持って行き確認しなければならないと話している。

    静止画では分かりにくいが、販売課長は出生証を手に持っている。
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    販売課長は鞄から出生証を取りだして、同姓同名の自分の娘の出生証とこの家のポムスンの出生証が小組員の選抜作業で間違って入れ替わってしまったから、交換して欲しいといっている。

    出生証を失ってしまった経緯を話すポムスン。
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    ポムスンは、間違って受け取った出生証を上着のポケットに入れておいたという。ところが、その日は暑かったので「XXX生(セム:泉?)みずXX(チョセンムルジョンネカ)」に行って沐浴(水浴び)をしたのだが、脱いだシャツが風に吹かれて飛んでいき、水に流されてしまったと話している。上の「XXX生みずXX」の部分の意味が分からない。また、この部分は編集の段階で音声を入れ替えているようで、突然、録音の音質が変わっている。想像ではあるが、元々は「川で水浴びをしていたら、シャツが風で飛ばされて流されてしまった」という設定であったのを、「女子学生が川で水浴び」では放送では耐えられないので「XX生みずXX」という言葉に差し替えた可能性がある。「XXX生みずXX」は何か分からないのだが、公衆浴場のような所なのだろうか。

    いずれにせよ、シャツのポケットに入れてあった出生証はシャツと一緒に流されてしまったと話している。

    ポムスンは、「名前も故郷も同じなので」これ(自分のもの)を持っていて登録してはどうかと話している。
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    販売課長は、「出生証にはポムスンのお父さん(罪人)の名前が書いてあるので、どこにも行けない」と拒絶するが、結局ポムスンの出生証を持って学校に向かう。

    ポムスンの顔を平手打ちにするミョンチョル。
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    その後、ポムスンがミョンチョルの態度がお母さんの病気を余計に悪くしているなどと言ったことにミョンチョルが激怒してポムスンの顔を平手打ちにする。

    おばあさんに家を追い出されるミョンチョル
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    おばあさんはミョンチョルがポムスンを殴ったことに対して怒り、「家を出て行きなさい」と叱る。ミョンチョルは出て行くが、その後をおばあさんが追う。

    そこに「突撃隊員」のお姉さん(実の姉ではなく、年上の女性の友達)がやってくる。
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    「突撃隊」は写真のように軍服らしき衣装であるし、名前も勇ましいが、軍事組織ではなく建設作業などに従事する労働者組織である(ただし、階級なども軍隊式であるので、有事には容易に後方支援にあたる軍事組織に編入できるような仕組みになっているのかもしれない)。この「お姉さん」という女性は昼夜、建設作業に当たっている突撃隊員という設定で、ポムスンは学校が終わった後で「突撃隊」の作業現場に出向き、手伝いをしたり隊員を励ます歌を歌ったりしているという。この日は、突撃隊員の手袋を家に持ち帰り、洗濯をしているところにこの「お姉さん」がやってきて、ポムスンと一緒に手袋の洗濯を始める。

    すると、おしゃべりの町内の女性と販売課長が話をしながら通り過ぎる。
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    2人は、こんな家のポンスンが少年団の代表に選ばれるはずがないと話しているが、それを手袋を洗っているポムスンと「お姉さん」が聞いてしまう。

    そこにミョンチョルが戻ってくる。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-01-06-19.flv

    ミョンチョルは、自分の家はこんな家だが、「(労働)党は、我々を捨てなかった」といい、販売課長にポンスンの出生証を返すよう求めている。販売課長は「証拠として持っていただけ」といい、どこかに置いてきた出生証を取りに行く。

    手袋を投げつけるミョンチョル
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-01-06-19.flv

    ミョンチョルは、自分の父親が罪人であることを恨み、ポムスンが洗っていた手袋を「誰も分かってくれないんだから、そんなことをしても無駄だ。お前は勉強でもしていろ」と放り投げる。

    仲直りするポムスンとミョンチョル
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-01-06-19.flv

    「お姉さん」は、ポムスンが自分の父親の罪を償うために下校後に「突撃隊」の作業現場にやってきて手伝いをしたり歌を歌っているという事実をミョンチョルに話して、その場を去ってしまう。ポムスンは、お兄さんに「お父さんもいないし、お母さんも入院しているから、ご飯も食べたくないし、寝たくもない」と話す。ミョンチョルは自分の態度を反省し「二度と家を出てくようなことはしない」とポムスンに約束をする。

    そこに作業班長が戻ってくる。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-01-06-19.flv

    作業班長は、ポムスンの善行を褒めた後で、「良い知らせがある」と伝える。その良い知らせとは、ミョンチョルが毎晩、工場で頑張って仕事をして技術を習得したので、「高級技能工」に昇格し、「新技術革新組突撃隊員」になったというものだ。この話を聞いて、二人は作業班長にお礼をしている。ポムスンは、この劇の中で年上の人が来るたびに挨拶をしているが、毎回、腰を90度曲げている。北朝鮮では、旧日本軍の挨拶の仕方にも似た腰を90度曲げるスタイルが礼節にかなうのであろうか。モランボン公演などでも、演奏者や歌手がこのスタイルの挨拶をしているのをよく見かけるが、これは金正恩さんに対する特別な挨拶だと思っていた。しかし、この劇を見ると、どうやらそうではないらしい。

    また、おもしろいのは、私の聞き逃しでなければ、この場面まで作業班長がポムスンの「叔父」であることは告げられなかった。上に出てきた「お姉さん」のように形式的に世話になっている人(この場合は、ミョンチョルを昇格させてくれた人)を「叔父」と呼ぶこともあるので何ともいえないが、どうやら父親の罪の連帯責任は、職場での監督責任というよりも、家族の連座制によるものだった可能性がある。我々にとっては、非常に理解し難い部分であるが、日常的に連帯責任が問われている北朝鮮では、このような事情もすんなりと理解されるのであろう。

    そこに販売課長(作業班長の妹)が戻ってくる
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    販売課長は「作業班の人々の道徳教養(道徳教育)をもっとしっかりしてくださいよ」と作業班長に不平を言う。作業班長は怒り、「出生証を早く出せ」という。販売課長は「自分の娘が代表に選ばれたのではないことを市青年同盟に行って知った」と語る。作業班長は、自分の立場を利用して娘を代表に仕立てようとした販売課長の行為を叱る。

    この後は、金正恩さんが平壌の少年団行事に「労働者や農民、勤労インテリ」の子供たちを招待するという「恩情」への感謝の言葉が続き、その「路線」に反するような販売課長の行為を責める。ここでも一部の音声が差し替えられているように変わる。

    販売課長は、自分の非を反省しポムスンに謝罪する。
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    すると、労働党責任秘書(男性)がやってくる。左の女性は紹介されないが、学校の先生か党部員のようだ。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-01-06-19.flv

    責任秘書は、ポムスンが代表として平壌に行くことになったことを伝える。おばあさんが、「私たちのような家の子供が行くなんて、駄目です」というと、責任秘書は「敬愛する金正恩同志がポムスンを呼んでおられる」と答える。そして、「私たち市党委員会でも学校の少年団組織と学級から推薦を受けたとき、この子のお父さんの問題のために躊躇したのだが、その旨党に報告をした。資料を全て検討された敬愛する金正恩元帥様が、家庭に問題があったとしても、ポムスンのように党が求めるように学習と少年団組織で模範であり、良いことをたくさんする学生であれば、差別することなく慶祝行事の代表として迎えるべきだと、恩情深い愛の配慮をして下さった」と答える。

    話を聞いて感激するおばあさん
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    この話を聞いて感激したおばあさんは、「父なる首領様、将軍様、どうして首領様・将軍様と全く同じ敬愛する金正恩元帥様が私たちより素晴らしい人たちが想像もできないような大きな慶祝大会に呼んで下さり・・・」といっている。それに対し責任秘書は「敬愛する金正恩元帥様は、ポンスンのお父さんのように罪を犯した人が涙を流して反省をしたという話をお聞きになり、それは本当に良いことだ」と「大きな信用のお言葉を下さった」と話す。

    感激したミョンチョルは「私たちにはお父様がいらっしゃる」という。
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    しかし、「お父様」というのは実父ではなくて、「偉大な懐」のことである。

    責任秘書に言われて労働党中央委員会名義の代表招聘証を読むポムスン
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-01-06-19.flv

    そして感動の中「世の中に羨むものはない」の曲と共にこの劇は終わる。下の写真にあるように、この劇は「出演 平安南道芸術団」となっている。地方都市での公演を撮影したものなのか、この芸術団が平壌公演をしたのか分からないが、舞台設備の雰囲気は地方公演のようである。

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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-01-06-19.flv

    最後は、例によって金正恩さんの偉大さや恩情を強調して幕を閉じるこの劇であるが、劇で使用される小道具や登場人物の人間関係・権力関係から北朝鮮社会の現実を垣間見ることができるようでおもしろかった。

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    プロフィール

    川口智彦

    Author:川口智彦
    「크는 아바이(成長するオッサン)」

    ブログの基本用語:
    「元帥様」=金正恩朝鮮労働党委員長(上の絵の人物)、2016年12月20日から「最高領導者同志」とも呼ばれる
    2021年1月11日から「総秘書同志」
    「首領様」=金日成主席
    「将軍様」=金正日総書記
    「政治局員候補」=金ヨジョン(「元帥様」の妹)、2018年2月11日から「第1副部長同志」とも
    「白頭の血統」=金一族
    「大元帥様達」=「首領様」と「将軍様」
    「女史」=李雪主夫人(2018.07.26より「同志」に)

    우 그림은 충정 담아 아이가 그린 경애하는 김정은원수님이십니다.


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