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    労働党中央委員会第7期第5回全員会議:「正面突破戦」評価 (2020年1月2日)

    1.なかった「新年の辞」
    1日、「朝鮮労働党中央委員会第7期第5回全員会議」で「正面突破戦」に関する長文の報道が『労働新聞』の1面に掲載された。この時点で、「新年の辞」はないと思ったが、やはり金正恩時代では初めて「新年の辞」がない年となった。過去記事では、「新年の辞」に同会議での報告を含む可能性もあると書いたが、「元帥様」の肉声ではなく、「朝鮮労働党委員長同志は」という引用で報じられることになった。

    理由は、同じような内容を敢えて「報道」と「新年の辞」に分ける必要がないことが大きいだろう。もちろん、「報道」でほとんど触れられなかった(あるいは、「会議」で討論されなかった)北南関係など、「報道」に含まれなかった例年「新年の辞」に含まれている事項について「新年の辞」で述べることは可能であったのだろうが、そうしても「新年の辞」は短いものとなってしまい、あまり格好が良くない。

    これが最大の理由だろうが、韓国メディアに登場する専門家は「年末まで待つ」という発言、すなわち朝米関係が想定どおりに好転しなかったことに対する「責任分散」のために、「元帥様」個人ではなく、「党中央委員会」全体としてその責任を応用にするためだとも分析している。

    北朝鮮は、年末に外務省などが対米非難声明をいくつも出したが、それらは『労働新聞』など国内メディアでは一切報道されなかった。これは、北朝鮮が本当に「2019年末」ぎりぎりまで朝米関係改善の扉を開いておき、どう転んでも良いようにするためだったと思われる(扉は2020年も継続して開かれている、後述)。2019年、朝鮮人民の朝米関係改善に対する期待がピークに達したのがハノイ首脳会談の時であった。この時に『想い(그리움)』という「新しく出た歌」が出ているが、明らかに遠路ハノイまで向かった「元帥様」を「想う」歌で、その先にある「朝米関係改善」という大きな外交成果も含んだ歌だった。「朝鮮中央TV」で「新しく出た歌」として紹介されたのは3月15日でハノイ会談決裂後ではあったが、歌の背景で流れる映像を見ていると子供がハノイ会談から帰ってくる「元帥様」を待ちながら2月のカレンダーに星を貼っているシーンがある。

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    Source: KCTV, 2019/03/15

    そして、6月30日には、文在寅のセッティングでトランプと「元帥様」が板門店で再び会い、朝米関係改善に対する朝鮮人民の期待は高まったはずである。しかし、その後、公然と指名された実務者による協議は開催されず、やっと10月5日にストックホルムで実務協議が開催されたが、北朝鮮側の協議結果に対する評価は極めて厳しいものだった。もちろん、このストックホルム協議についても北朝鮮の国内メディアは一切伝えていない。

    結局、朝鮮人民が知っているのは「元帥様」がトランプを北側領域に招き入れたこと、「元帥様」が「年末」を期限として設定していることだけということだった。その一連の経緯を「元帥様」が「新年の辞」の中で一人で「総話」するのは重すぎたともいも言えるので、韓国の専門家が主張する「責任分散」も「新年の辞」をやらなかった理由となり得る。

    2.朝米関係関する「報道」内容
    昨朝、「報道」を飛ばし読みしながら、まず記事にしたのは最大関心事である朝米関係に関する部分だった。これらから何が読み取れるのか少し書いておく。

    まず、「米国が時間稼ぎをするなら、時間稼ぎをするほど、朝米関係の決算を躊躇すればするほど」と述べているが、これは「決算」、つまり交渉を継続する意思の表れである。もちろん、北朝鮮の要求を受け入れての「決算」ということになるが、それでも今後、交渉をしないとは言っていない。

    しかし続けて、「予測できないほど強大になっている朝鮮民主主義人民共和国の威力」で米国は「さらに行き詰まった立場に追いやられる」としているが、ここで言っている「朝鮮民主主義人民共和国の威力」とは、前段にある文章から「尖端兵器システム」、「党が構想した展望的な戦略兵器システム」であることが分かる。具体的にそれらが何であるかについては明らかにされていないが、「朝鮮民主主義人民共和国が保有することになる新たな戦略兵器を目撃することになる」のもこれであろう。

    「元帥様」は「戦略兵器を目撃することになる」ことを「確言」しているので、「遠からず」何かを「目撃」させることになることは間違いない。もちろん、その間に劇的な朝米関係の改善、つまり「決算」があれば「目撃」することはなくなるだろうが、現時点では期待薄である。

    それでは「目撃」させる「戦略兵器」とは何だろうか。12月末にトランプを選挙戦で不利な立場に立たせるような核・ICBM級のミサイルはないと拙ブログで予測した。今回の「報道」を見て、依然としてこの予測は有効だと考えている。北朝鮮はこれまで、「超大型放射砲」も「戦略兵器」と呼んでおり、「戦略兵器」や「先端兵器」が核・ICBMであるとは限らない。ただ、「新たな」とも言っているので「超大型放射砲」など、既存の兵器では話が異なってしまう。そして、トランプが黙認した新兵器ということになると、アップグレードされたSLBMの可能性が高い。北朝鮮は、2019年10月3日の報道で「北極星-3」の発射実験に成功したと報じた。しかしこの時は、「新たに開発された」と造船所におかれている姿を公開した新型潜水艦からの発射映像は見せなかったので、この時の発射は水中のテストベンチからの推測されている。今回、「目撃」させるものがあるとすれば、実際に潜水艦積載した「北極星-3」の発射シーンとなるのではないかと思う。同じ「北極星-3」とはいえ、「実戦配備可能」としながら潜水艦から発射されている(少なくとも発射されているように見える)映像が公開できる発射実験を「目撃」させれば、米国をはじめとした周辺国は驚くが、「北極星-3」についてはトランプが容認した実績があるので、大きな問題にはならない。

    12月の予測では衛星ロケットの発射も予測した。「衛星」自体は「兵器」ではないが、それが軍事目的の衛星であれば、当然、「尖端兵器」といえる。北朝鮮が2019年12月8日に報道したロケットエンジンの「重大な実験」が「新しい兵器」に繋がっているのであれば、軍事衛星を搭載した衛星ロケットの発射の可能性も依然としてある。ただ、衛星ロケットについてはトランプが容認した実績はなく、米国の安保理大使は「衛星ロケットも含むミサイル発射」と釘を刺しているので、衛星ロケット発射の発射は、朝米関係を完全に破綻させる可能性があるかけとなる。

    しかし、「元帥様」は核爆弾の強化(水爆保有ということになっているので、それ以上は必要ないにしても)や量産、ICBMの量産については暗示程度で具体的な言及はしていない。「暗示」部分があるとすれば、「我々の長期的な安全を保障できる強力な核抑止力の経常的動員態勢を常時しっかりと維持し」という部分であるが、これはあくまでも現状「維持」であり、追加的措置ではない。もちろんその直ぐ後に「我々の抑止力強化の幅と深さは米国の今後の対朝鮮立場により上向きに調整される」と言っており、米国の態度次第ではさらなる核・ミサイル開発を進めることを暗示しているが、興味深いのはこの部分の英訳が「the scope and depth of bolstering our deterrent will be properly coordinated depending on the U.S. future attitude to the DPRK.(「朝鮮中央通信」英語版)」となっており、必ずしも「上向」ではない。こうしたことからすると、全ては米国の「態度」次第で、「適切に(properly)」に核・ミサイルは調整されるということなのであろう。

    また、今日における米国との「対決」を「世紀を継いできた朝米対決は、今日に至り、自力更生と制裁との対決として圧縮され」と定義している。つまり、北朝鮮が「正面突破」する対象は米国の軍事力ではなく「制裁」であり、「正面突破」の手段も核・ミサイルではなく「自力更生」だということになる。つまり、「米国の対朝鮮敵対視政策」の重要な部分は「制裁」であり、それがなくなれば(あるいは減少すれば)、「対決」のレベルも下がり、「朝鮮半島非核化は永遠にないということ、米国の対朝鮮敵対視が撤回され、朝鮮半島に恒久的で堅固な平和態勢が構築されるときまで、国家の安全のための必須的で先決的な戦略兵器開発を中断することなく継続して粘り強く」という状況は回避できるということを言っている。

    「元帥様」は、「我々の外部環境が並進の道を歩むときにであれ、経済建設に総力を集中するための闘争を展開している今であれ、全く変わったことはなく」と言っている。「元帥様」は、「(核と経済開発の)並進の道」は過去のものであり、今は「経済建設に集中」している、すなわち「経済建設総邁進」の「道」に依然としてあることを暗示する発言をしている。「新しい道」に関する発言は今回の「会議」で出なかったが、この暗示的発言から、「並進の道」に戻ることはなく、「経済建設総邁進」の「道」で「正面突破戦」を遂行するが、それにもかかわらず上記の「朝鮮民主主義人民共和国が保有することになる新たな兵器」で、「核威嚇」を封鎖していくと述べている。

    米国を「昼強盗」、「破廉恥だ」と罵りながらも、トランプについては、実名どころか、北朝鮮が相手国の首脳を指して使う「当局者」という言葉も登場しない。米大統領については、「米国はこれに相応する措置で応じるどころか、大統領が直接中止を公約した大小の合同軍事演習を数十回も行い」という部分で1回出てくるが、これはトランプの「公約」違反ともとれるが、これまで北朝鮮が出して来た対米メッセージの流れからすると、トランプの意に反して「部下共が」と理解した方がよい。

    これも、基本的にはトランプとの「友人関係」を維持しながら、対話を続けていくための布石で、12月末の「予測」が完全に外れたとは言えない。韓国の専門家は、「新年の辞」を発表しなかった理由として、「元帥様」の肉声で「昼強盗」や「破廉恥」という言葉で米国を非難することを避けたとも言っているが、この系からするとそれもあるのかもしれない。

    トランプが北朝鮮にとって都合の良い大統領だというのは、「核問題でなくても、米国は我々にまた異なる何かを標的と定めて迫ってくるであろう」という一文から見て取れる。これも「予測」に書いたが、今のところトランプは核とICBMだけを問題にしているが、政権が変われば、必ず「人権」について「迫ってくる」からである。だから、この米国からの脅威は軍事的なものだけではなく、「軍事政治的脅威」であり、それは「終わることがない」と「元帥様」は言っている。

    そして、「米国との長期的対立を予告している造成された現情勢」という言葉で、今の制裁状況が長期化すると述べている。「長期的」をどの程度の長さと考えているのかは明らかにされていないが、米大統領選挙を前提とすれば、トランプが勝っても2020年末まで、負ければさらに長期化する、すなわちこれまでの朝米交渉がリセットされるという意味合いであろう。

    3.経済改革の兆候
    今回の「会議」では、経済改革についても「元帥様」は多くのことを述べている。10月頃からの「現地指導」で、「元帥様」は色々と叱責をしてきたが、そのことについてこの「会議」で「元帥様」は「国家管理と経済事業をはじめとした各分野で正さなければならない問題が少なくない」と指摘している。

    まず、「自力更生、自給自足をしようと継続して言っているが、これを実行する我々の事業は過去の惰性から脱皮できずにいる」と「過去の惰性」の問題点を取り上げ、「大胆に革新できず、沈滞している国家管理事業や経済事業などの現実態について分析」している。「大胆に革新」することが何を示すのかは明らかにされていないが、「過去」のやり方から「大胆に革新」するということであろう。

    海外では「正面突破戦」は、米国との「正面突破戦」のように言われているが、「元帥様」は「今日の正面突破戦で基本戦線は、経済戦線である」と述べている。これは、前述した「自力更生と制裁の対決」にも繋がる言葉で、米国の制裁を「正面突破」するためには「自力更生」が必要で、「自力更生」はまさに「経済戦線」で実現しなければならないということであろう。

    経済に関して、「元帥様」は「現時期の国の経済実態について言及されながら、国家経済の発展動力が回復できておらず、国の状況が目に見えるように良くなっておらず」などと、非常に正直に現状について述べている。これらは「新年の辞」の中では言いにくいことで、これも「会議」での発言をもって「新年の辞」の代わりにした理由の一つだと思う。

    また、今回のマラソン「会議」の特徴は、これまでの綱領的なシャンシャン会議ではなく、「経済部門の対応が機敏で円満にできておらず、自力更生をするというスローガンだけを叫びながら、実際には人民経済の自立的土台を整備補強することに力を入れていない弊害について具体的な資料を挙げながら細かく指摘」とあるように、詳細なデータに基づいて経済に関する情勢分析を行っている点である。

    「元帥様」は、「我々がまず先に解決しなければならない問題は、経済事業体系と秩序を合理的に整頓すること」と優先課題を提示し、「全ての面で正常な発展を指向している今日においてまで、過去の過渡的で臨時的な事業方式を継続して踏襲する必要がない」と述べている。「経済事業体系と秩序の合理的整頓」が何を指しているかであるが、重複的に設置されている企業所の統合や不実企業所の閉鎖を意味しており、「全ての面で正常な発展をしている今日」、すなわち金正恩時代に、「過去の過渡的で臨時的な事業方式」、すなわち「大元帥様達」の時代の「事業方式」を「踏襲する必要がない」ということなのであろう。確かに「元帥様」は、「大元帥様達」の経済運営方式を批判するような発言を秋以降の「現地指導」でしている。こうしたことから、「大元帥様達」と関係がある「由緒深い」企業所なども果敢に統合・閉鎖して、経済を合理化するという意味であり、それが「国の経済の再整備」だと理解できる。

    経済に関しては「内閣」に責任を持たせているが、「元帥様」は、その「内閣」が「経済司令部としての内閣が自らの責任を全うできずにいる深刻な実態を厳責され、国家経済事業体系の中核である内閣責任制、内閣中心制を強化するための根本的な方途」を明らかにしている。今回、「報道」の最後の部分の記念写真シーンで2013年から2019年4月まで内閣総理を務めた朴奉珠が怪我なのか病気なのか理由は不明ながら、車椅子に乗って登場した。単なる偶然かもしれないが、「責任を全うできずにいる深刻な実態」の責任者はまさに朴奉珠であり、だから金ジェリョンに内閣総理を引き継がせることになったとも考えられる。敢えて「厳責」という言葉を使っていることからして、朴奉珠は厳しく批判されたのであろうが、それにもかかわらずか、だからなのか分からないが、車椅子に乗せてまで登壇させて、国務委員会副委員長として「元帥様」の横で写真を撮らせている。

    続けて「元帥様」は、「内閣の統一的指導と指揮を保障しなければならない」と言っているので、恐らくは経済部門に関する内閣の指導・統制力を強化するという意味であろう。問題は「指導・統制」の中身であり、それが従来の形式を重視した社会主義的な「指導・統制」となるのか、合理的な「指導・統制」であるのかによって、北朝鮮の経済は随分変わってくるのだが、「元帥様」は後者を考えていることが次の発言から窺える。

    「革命的な思想と精神は時代をリードしなければならないが、経済事業は現実に足をしっかりとつけて進行しなければならない」

    この発言は実に興味深い。「元帥様」は(「大元帥様達」の時代から引き継いでいる)革命的な思想と精神は時代をリードしなければならないが」、「経済事業は現実に足をしっかりとつけて」と言っている。「将軍様」が「目は世界を見て、足はこの地にしっかりと着けて」という「名言」を残しているが、「元帥様」は「思想は革命的であっても、経済は現実的に」と言っているようだ。ここで言う「現実」とは、北朝鮮で進行している市場化を「現実」として受け入れて経済運営をしろということではないだろうか。そしてそのためには、「現実的要求に合わせて計画事業を改善するための明確な方案を見いだし、全般的な生産と供給の均衡を取り、人民経済計画の信頼度を決定的に高める」必要があるとしている。「現実的要求」とは市場化の実態であり、「全般的な生産と供給の均衡」は市場における均衡ともとれ、それに対応できるような「人民経済計画」、ここではいわゆる社会主義的経済計画ではなく、開発経済的な意味での「人民経済計画」が「重要」だと指摘している。

    そして、「元帥様」は、「全員会議以後から経済事業に対する国家の統一的指導と管理を強化することにおいて、至急に解決しなければならない深刻な問題を解剖学的に分析」しているが、「解剖学的分析」という言葉を使っていることからして、現行の管理システムの膿を除去し、切り刻んででも合理的な経済運営をするような内容でなかったのかと推測される。

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    プロフィール

    川口智彦

    Author:川口智彦
    「크는 아바이(成長するオッサン)」

    ブログの基本用語:
    「元帥様」=金正恩朝鮮労働党委員長(上の絵の人物)、2016年12月20日から「最高領導者同志」とも呼ばれる
    「首領様」=金日成主席
    「将軍様」=金正日総書記
    「政治局員候補」=金ヨジョン(「元帥様」の妹)、2018年2月11日から「第1副部長同志」とも
    「白頭の血統」=金一族
    「大元帥様達」=「首領様」と「将軍様」
    「女史」=李雪主夫人(2018.07.26より「同志」に)

    우 그림은 충정 담아 아이가 그린 경애하는 김정은원수님이십니다.

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