トランプ、北朝鮮の「クリスマスプレゼント」について、「プレゼントが何であれ世界一の米軍で成功裏に対応」、「美しい花を贈ってくれるかも」とも、「北朝鮮と貿易ディール」と失言ながらも実は別の「ディール」があったのかも (2019年12月25日)
25日、トランプが北朝鮮の「クリスマスプレゼント」について発言。
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記者:北朝鮮がクリスマスのサプライズ・プレゼントをすると言っているが。
トランプ:ああ、それは大丈夫だ。サプライズが何かは直に分かるだろうし、成功裏に対応できる。誰もが私にサプライズを与えようとしている。私は、サプライズ・プレゼントが届いたら対処する。我々には素晴らしい軍がある。彼らは、私が政権に就いたときは枯渇していたが、彼らは素晴らしいく、世界で一番強い。我々は彼らの装備を更新しており、新しい装備が日々届いている。我々は米国と経済を最強にした。
記者:北朝鮮がミサイル実験をしたらどのようなオプションがあるのか。
トランプ:それはやってからのことだ。もしかしたら素敵なプレゼントかもしれない。彼はミサイル実験ではなく、美しい花を贈ってくれるかもしれない。まだ分からない。
冒頭部分。
Source: White House, Twitter, 2019/12/25
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「元帥様」のクリスマスプレゼントは現時点でトランプに届いていない。クリスマスプレゼント発言は、米国最大の祝日を前提にした瀬戸際発言で、それ自体が重いものとは思っていなかったが、現時点では、幸いにもその見立てが当たっているようだ。直前の「中央軍事委員会拡大会議」で煽っておきながら、実際の行動は自制している形になる。
トランプのことなので何とも言えないが、「もしかしたら美しい花を贈ってくれるかもしれない」という発言は意味があるのかもしれない。過去記事にも書いたが、この期に及んで、実務者レベルで何らかの妥結を得ることは難しいだろうから、何とかトランプと「元帥様」の間で形式的にでも無事に年越しをするしかない。その方法は、トランプが「元帥様」にクリスマスカードでも年賀状でも良いから送り、それに対して「元帥様」が何らかの「感謝」の返信をすれば形は整う。
北朝鮮メディアは、この間の米国に対する北朝鮮の厳しいメッセージを国内メディアでは一切報じていない点も重要である。人民は、朝米関係がそれほど前進していないぐらいのことは分かっているだろうが、北朝鮮側が米国に対し繰り返しメッセージを送り、米国がそれに応じていないという状況は分かっていないはずである。
しかし、「元帥様」が定めた「年末まで待つ」という期限は対内的にも公開されているので、それを説明が付く形で乗り切ることが必要となる。それは、対内的にはクリスマスカードと年賀状で十分で、「党中央委員会」を招集するも「新しい道」に言及せず、「新年の辞」でうまくまとめればよい。この、うまくまとめ方こそが、「元帥様」というかライターの腕の見せ所である。
「元帥様」にとってのみならず、トランプにとっても大統領選で「ミサイルも核実験もやっていないのは、俺が大統領だからだ」と自慢し続けられる。
また、北朝鮮が「新しい道」を選択することは、対米だけではなく、対中にも悪影響を及ぼすので、決して最善の策ではない。中露はビーガンが韓国滞在中に北朝鮮に対話を呼びかけているさなか、安保理理事会に制裁緩和に関する提案をしている。もちろん、米国の反対でこの提案は流れたが、北朝鮮の側に立っているスタンスを示すのと同時に、その条件が現状のモラトリアムにあることも暗示している。だから、北朝鮮が「新しい道」を選択するようなことをすれば、このモラトリアムは崩れ、中露による水面下での支援のレベルは当然低下することになろう。これは、北朝鮮にとっても好ましくない。また、文在寅と習近平が130分にわたり会談をし、その大半が朝鮮半島問題に使われたというのも重要である。この会談、習近平がイヤフォンを付けている写真が公開されていたたので、同時通訳が使われた可能性があり、だとすると、実質的に130分という超長時間の会談だったのかもしれない。
中国が安保理決議が完全に履行されていれば、中国の「朝鮮食堂」も柳京ホテルも全て閉鎖されているはずである。しかし、その可能性は極めて低い。というのは、安保理決議で送還を要求している「労働ビザ」の朝鮮人はいなくなっても、他種のビザをもっている朝鮮人は中国に残っているはずだからである。日本の技能実習制度や研修生制度を見ても分かるとおり、抜け道はいくらでもある。あるいは、「留学ビザ」も使える。日本の場合、授業があるときは「週28時間」、長い休みは「1日8時間」アルバイト可能と規定されている。中国の法律は調べていないが、これに類した規定があれば援用はいくらでも可能である。また、中国政府が目をつぶれば、「観光ビザ」で働いてもらうことも十分に可能である。これらは、安保理決議の趣旨にはそぐわないが、決議には違反していない。
この実体は、中朝国境の橋で確認されている。この橋の観光は日本人(他の外国人については不明)は許可されていないので、中国人観光団が観光している間、日本人は柵の外で待たされるのだが、観光をしてきた中国人が撮った写真を見せてもらうと、朝鮮人女性がパスポートだけ持って朝鮮側に帰って行く姿が多く確認できる。帰って行く彼女らが中国で何をしているのかは分からないが、その写真を見ながら思ったのは、まさに上に書いたことで、安保理決議で「労働ビザ」の発給や延長が禁止される中、「観光ビザ」や「留学ビザ」が増えているのだろうということであった。日々、橋を渡って「通勤」しているのかは、定点観測でもしないと分からないが、少なくとも「観光ビザ」の滞在期間が超過した後は一度出国し、再度、ビザを取得して入国するということを繰り返している可能性は十分にある。かつて、韓国にいた頃、英語を教えていた米国人が、観光ビザの滞在期間が切れると台湾に行き、直ぐに韓国に戻ってきて、不法就労を続けていたのを思い出した(その男は、結局、強制送還となったのだが)。
トランプの発言から色々なことを書いたが、1週間を切った年末、まだ何かありそうだ。
<追記>
トランプ、上記記者会見前の画面を通じての米軍兵士とのやりとりの中で以下。
********
トランプ:我々は多くの過去数日で貿易に関して多くの前進を達成した。今、中国と貿易でとても良い関係にあり、中国は800品目以上の米国製品に対する関税を撤廃した。中国、そして最近にはメキシコ、カナダ、北朝鮮、日本、日本とは400億ドル、その他もこれからあるが、これは我が国経済にとってプラスとなる。
14婦55秒頃から
Source: White House, YouTube, 2019/12/25
***************
この発言は実におもしろい。貿易についてトランプは言っており、本来、北朝鮮は貿易交渉の相手ではないので含まれないはずである(貿易交渉を妥結した韓国と間違えた可能性もある)。ところが「deal(取引)」という言葉につられて北朝鮮を入れてしまったようなのだが、だとして、ハノイで決裂して以来、何の実質的な「deal」もできていない北朝鮮を混ぜてしまっているのは、もしかしたらこの時点で何らかの「deal」ができており、それが「花を贈ってくるのかもしれない」という上の発言の根拠になっている可能性がある。
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記者:北朝鮮がクリスマスのサプライズ・プレゼントをすると言っているが。
トランプ:ああ、それは大丈夫だ。サプライズが何かは直に分かるだろうし、成功裏に対応できる。誰もが私にサプライズを与えようとしている。私は、サプライズ・プレゼントが届いたら対処する。我々には素晴らしい軍がある。彼らは、私が政権に就いたときは枯渇していたが、彼らは素晴らしいく、世界で一番強い。我々は彼らの装備を更新しており、新しい装備が日々届いている。我々は米国と経済を最強にした。
記者:北朝鮮がミサイル実験をしたらどのようなオプションがあるのか。
トランプ:それはやってからのことだ。もしかしたら素敵なプレゼントかもしれない。彼はミサイル実験ではなく、美しい花を贈ってくれるかもしれない。まだ分からない。
冒頭部分。
Source: White House, Twitter, 2019/12/25
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「元帥様」のクリスマスプレゼントは現時点でトランプに届いていない。クリスマスプレゼント発言は、米国最大の祝日を前提にした瀬戸際発言で、それ自体が重いものとは思っていなかったが、現時点では、幸いにもその見立てが当たっているようだ。直前の「中央軍事委員会拡大会議」で煽っておきながら、実際の行動は自制している形になる。
トランプのことなので何とも言えないが、「もしかしたら美しい花を贈ってくれるかもしれない」という発言は意味があるのかもしれない。過去記事にも書いたが、この期に及んで、実務者レベルで何らかの妥結を得ることは難しいだろうから、何とかトランプと「元帥様」の間で形式的にでも無事に年越しをするしかない。その方法は、トランプが「元帥様」にクリスマスカードでも年賀状でも良いから送り、それに対して「元帥様」が何らかの「感謝」の返信をすれば形は整う。
北朝鮮メディアは、この間の米国に対する北朝鮮の厳しいメッセージを国内メディアでは一切報じていない点も重要である。人民は、朝米関係がそれほど前進していないぐらいのことは分かっているだろうが、北朝鮮側が米国に対し繰り返しメッセージを送り、米国がそれに応じていないという状況は分かっていないはずである。
しかし、「元帥様」が定めた「年末まで待つ」という期限は対内的にも公開されているので、それを説明が付く形で乗り切ることが必要となる。それは、対内的にはクリスマスカードと年賀状で十分で、「党中央委員会」を招集するも「新しい道」に言及せず、「新年の辞」でうまくまとめればよい。この、うまくまとめ方こそが、「元帥様」というかライターの腕の見せ所である。
「元帥様」にとってのみならず、トランプにとっても大統領選で「ミサイルも核実験もやっていないのは、俺が大統領だからだ」と自慢し続けられる。
また、北朝鮮が「新しい道」を選択することは、対米だけではなく、対中にも悪影響を及ぼすので、決して最善の策ではない。中露はビーガンが韓国滞在中に北朝鮮に対話を呼びかけているさなか、安保理理事会に制裁緩和に関する提案をしている。もちろん、米国の反対でこの提案は流れたが、北朝鮮の側に立っているスタンスを示すのと同時に、その条件が現状のモラトリアムにあることも暗示している。だから、北朝鮮が「新しい道」を選択するようなことをすれば、このモラトリアムは崩れ、中露による水面下での支援のレベルは当然低下することになろう。これは、北朝鮮にとっても好ましくない。また、文在寅と習近平が130分にわたり会談をし、その大半が朝鮮半島問題に使われたというのも重要である。この会談、習近平がイヤフォンを付けている写真が公開されていたたので、同時通訳が使われた可能性があり、だとすると、実質的に130分という超長時間の会談だったのかもしれない。
中国が安保理決議が完全に履行されていれば、中国の「朝鮮食堂」も柳京ホテルも全て閉鎖されているはずである。しかし、その可能性は極めて低い。というのは、安保理決議で送還を要求している「労働ビザ」の朝鮮人はいなくなっても、他種のビザをもっている朝鮮人は中国に残っているはずだからである。日本の技能実習制度や研修生制度を見ても分かるとおり、抜け道はいくらでもある。あるいは、「留学ビザ」も使える。日本の場合、授業があるときは「週28時間」、長い休みは「1日8時間」アルバイト可能と規定されている。中国の法律は調べていないが、これに類した規定があれば援用はいくらでも可能である。また、中国政府が目をつぶれば、「観光ビザ」で働いてもらうことも十分に可能である。これらは、安保理決議の趣旨にはそぐわないが、決議には違反していない。
この実体は、中朝国境の橋で確認されている。この橋の観光は日本人(他の外国人については不明)は許可されていないので、中国人観光団が観光している間、日本人は柵の外で待たされるのだが、観光をしてきた中国人が撮った写真を見せてもらうと、朝鮮人女性がパスポートだけ持って朝鮮側に帰って行く姿が多く確認できる。帰って行く彼女らが中国で何をしているのかは分からないが、その写真を見ながら思ったのは、まさに上に書いたことで、安保理決議で「労働ビザ」の発給や延長が禁止される中、「観光ビザ」や「留学ビザ」が増えているのだろうということであった。日々、橋を渡って「通勤」しているのかは、定点観測でもしないと分からないが、少なくとも「観光ビザ」の滞在期間が超過した後は一度出国し、再度、ビザを取得して入国するということを繰り返している可能性は十分にある。かつて、韓国にいた頃、英語を教えていた米国人が、観光ビザの滞在期間が切れると台湾に行き、直ぐに韓国に戻ってきて、不法就労を続けていたのを思い出した(その男は、結局、強制送還となったのだが)。
トランプの発言から色々なことを書いたが、1週間を切った年末、まだ何かありそうだ。
<追記>
トランプ、上記記者会見前の画面を通じての米軍兵士とのやりとりの中で以下。
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トランプ:我々は多くの過去数日で貿易に関して多くの前進を達成した。今、中国と貿易でとても良い関係にあり、中国は800品目以上の米国製品に対する関税を撤廃した。中国、そして最近にはメキシコ、カナダ、北朝鮮、日本、日本とは400億ドル、その他もこれからあるが、これは我が国経済にとってプラスとなる。
14婦55秒頃から
Source: White House, YouTube, 2019/12/25
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この発言は実におもしろい。貿易についてトランプは言っており、本来、北朝鮮は貿易交渉の相手ではないので含まれないはずである(貿易交渉を妥結した韓国と間違えた可能性もある)。ところが「deal(取引)」という言葉につられて北朝鮮を入れてしまったようなのだが、だとして、ハノイで決裂して以来、何の実質的な「deal」もできていない北朝鮮を混ぜてしまっているのは、もしかしたらこの時点で何らかの「deal」ができており、それが「花を贈ってくるのかもしれない」という上の発言の根拠になっている可能性がある。