Savelsberg先生の分析(2019.05.04と2019.05.09発射ミサイル) (2019年5月11日)
その間、オランダ国防大学のミサイル専門家、Salvelsberg先生と何回かメールのやりとりをした。
まず、韓国国防部の発表を確認しておくことにする。
10月9日の発射に関する韓国国防部発表
・5月9日16時29分、49分に平安北道クソン地域から2発の発射対を発射
・高度は約400kmで、射距離はそれぞれ約420kmと270km
・短距離ミサイルと推測される
・新型ミサイルと思われる
・韓米両軍は注視
・2009年安保理決議2874号にある「弾道ミサイル(訳者:技術)を使った全ての活動の中断」を決定
・同決議は、中長距離ミサイルが発射されたことを受けて採択された。
・決議自体にはそうした規定はないので、今回発射されたものが「弾道ミサイル」なら制裁決議違反の可能性
・特定には、韓米情報当局のさらなる分析が必要
・しかし、高度が低いので綿密な分析が必要
Source: 『聯合ニュースTV』、2019/05/10 http://www.yonhapnewstv.co.kr/MYH20190510007600038/
なお、4日の発射に関する国防部のブリーフィングは行われていない模様。ミサイルについては「短距離ミサイルのようだが、追加分析が必要」という立場。
Savelsburg先生には、4日に発射されたイスカンダル型の高度と飛行距離、軌道についてどのように考えるか質問してみた。
*******
イスカンダルの飛行距離はINF条約交渉で常に問題になっている。ロシアは、イスカンダルが500km以上飛行しないようにしている。それは、地球の球面との関係で、地上レーダーでは500km以上の距離で発射されたミサイルは、水平線の向こうになるので探知することができない。したがって、500km以上の距離で通常の弾道起動で発射されたミサイルで、水平線上に出てレーダーに探知されるまでには時間を要する。そして、それに要する時間は500km程度の距離にある目標物を打撃するには十分な時間となる。しかし、ミサイルが通常の弾道起動ではなく、高度の大気圏内をより水平に飛行できれば、ミサイルに探知され、迎撃されることなく飛行できる時間をより長く稼ぐことができる。
ロシアは80年代からスカッドに代わるこの種のミサイルの開発を続けている。スカッドの飛行距離は比較的短く、戦術ミサイルとして開発された。そして、スカッドに使われる液体燃料は旧式である。スカッドは液体燃料注入が終わった状態で移動し、立てることができるが、その状態で長距離を移動するのは、液体推進剤の特性からして大変危険である。一方、固体推進剤はとても扱いやすい。トスカ(SS-21、Scarab)が、北朝鮮バージョンの「火星-11(KN-02)」に近い。冷戦終結期、ロシア(ソ連)はオカ(
SS-23, Spider)を開発したが、INF条約の発効で数年前に引退した。イスカンダル(SS-26, Stone)は、最新型でさらに高性能な復活版である。長い開発期間を経て完成されたミサイルである。
十分な分析をする時間はないが、北朝鮮のミサイルがSS-26に形が似ていること以外の証拠はない。北朝鮮にはSS-26を開発できるような技術が蓄積されておらず、またロシアが北朝鮮にSS-26を売ったのかどうかも疑問である。北朝鮮は、「火星-11」のエンジンを使い、意図的にSS-26のような形のミサイルを作った可能性がある。
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「意図的にSS-26のような形のミサイルを作った」という指摘は興味深い。確かに、4日の発射では「戦術誘導武器」という点を北朝鮮は強調しており、さらにそれが写真非公開で行われた4月17日に行われたとされる「戦術誘導武器」からの流れからすれば、イスカンダルのようなミサイルを北朝鮮が開発したと宣伝する目的があったとしても不思議ではない。特に、4日と10日のミサイル発射が、表面的には「韓米合同軍事演習」に対する「自衛的」対抗措置という主張からすれば、イスカンダル型のミサイルの脅威に最も晒されるのは韓国であるし、北朝鮮が非難してきたサードでも低高度を飛行するイスカンダル型のミサイルは迎撃できないはずである。
続けて、9日に発射されたミサイルについてもSavelsberg先生に意見を求めた。
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9日に発射されたイスカンダル型のミサイルは興味深い。ペイロードは不明ながらも、ミサイルの1機は420km飛行したと発表されている。

Source: 『労働新聞』、2019/05/10
上の写真では、イスカンダルとのさらなる相違点が確認できるところが興味深い。ミサイルの右側を見ると、ケーブル用の通路がミサイル全長の3分の2ぐらの長さで取り付けられている。イスカンダルの写真を何枚か見たが、イスカンダルにはこうした通路は取り付けられていない。もし、ケーブル用通路の上部が気体燃料エンジンの上部と一致するのであれば、イスカンダルに搭載されているエンジンよりもかなり大きな部分を占めていることになる。イスカンダルに使われているエンジンは、北朝鮮のミサイルよりも遙かに高性能のものと推測されるので、北朝鮮のミサイルにそれよりも性能が劣るエンジンが使われているとしてもさほど驚くことではない。イスカンダルの平均的飛行距離とさほど違いがない420kmを飛行するためには、イスカンダルに使用される量よりも多くの燃料が必要になり、エンジンと燃料部分は自ずと大きくなる。現時点の結論では、ミサイルはイスカンダルのように見えるが、内部は全く異なるのではないかということである。もちろん、現時点で不十分な分析での結果ではあるが、北朝鮮のミサイルがイスカンダルのように誘導された飛行パターンが可能であるという証拠は全く見当たらない。

Source: 『労働新聞』、2019/05/10
また、上の写真についても触れておく。4日に発射されたミサイルに使われた車両は、基本的にMAZ-543、つまりスカッドミサイル(火星-5/6)に使われた車両のボディーのみ変更したもののようである。バンパーや運転席の後ろにあるステップはとても似ている。4日の写真に見られた車両と異なり、9日の写真では車両にタイヤがない。つまり、無限軌道車両ということだ。このタイプの無限軌道車両は2017年の軍事パレードの中で、スカッドミサイルを搭載して登場している。無限軌道車両は振動が大きいので、ミサイルの運搬に適していないので、弾道ミサイルの運搬車両(TEL)の大部分にはタイヤが装着されている。こうした点からすると、北朝鮮が十分な数のMAZ-543のような車輪車両を確保できていないのではないかと推測される。北朝鮮は同じミサイルに2種の異なる運搬車両を使用しているからしているのは奇妙であるし、そうしたことからして車輪車両の確保が難しくなっているのではないかと思われる。
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イスカンダルの形を模してはいるが、搭載されたエンジンは全く異なるのではないかという推測は、4日に発射されたミサイルのイスカンダル偽装疑惑をさらに強くした。9日の発射では、2つのかなり異なる飛行距離を設定してミサイルを発射しているが、420kmというイスカンダルに近い飛行距離を誇示するために敢えてそのような距離にした可能性がある。イスカンダルについては、下の動画を見ると参考になる。
Source: YouTube
また、輸送車両に関する分析も鋭い。特に、9日に使われた車両がキャタピラ式であり、北朝鮮が車輪式車両の確保に苦労しているのであれば、まさに中国からの軍事転用可能なトラックの輸入が中国の制裁遵守により不可能になっている可能性がある。もちろん、北朝鮮としては両方の車両を使うことで、機動性の高さと固形燃料(実際は液体燃料が使われていても)の安定性を誇示する目的があったのかもしれない。
こうしたことからすると、やはり今回の一連の発射は、軍事的側面よりも政治的側面が強い発射ということになる。
まず、韓国国防部の発表を確認しておくことにする。
10月9日の発射に関する韓国国防部発表
・5月9日16時29分、49分に平安北道クソン地域から2発の発射対を発射
・高度は約400kmで、射距離はそれぞれ約420kmと270km
・短距離ミサイルと推測される
・新型ミサイルと思われる
・韓米両軍は注視
・2009年安保理決議2874号にある「弾道ミサイル(訳者:技術)を使った全ての活動の中断」を決定
・同決議は、中長距離ミサイルが発射されたことを受けて採択された。
・決議自体にはそうした規定はないので、今回発射されたものが「弾道ミサイル」なら制裁決議違反の可能性
・特定には、韓米情報当局のさらなる分析が必要
・しかし、高度が低いので綿密な分析が必要
Source: 『聯合ニュースTV』、2019/05/10 http://www.yonhapnewstv.co.kr/MYH20190510007600038/
なお、4日の発射に関する国防部のブリーフィングは行われていない模様。ミサイルについては「短距離ミサイルのようだが、追加分析が必要」という立場。
Savelsburg先生には、4日に発射されたイスカンダル型の高度と飛行距離、軌道についてどのように考えるか質問してみた。
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イスカンダルの飛行距離はINF条約交渉で常に問題になっている。ロシアは、イスカンダルが500km以上飛行しないようにしている。それは、地球の球面との関係で、地上レーダーでは500km以上の距離で発射されたミサイルは、水平線の向こうになるので探知することができない。したがって、500km以上の距離で通常の弾道起動で発射されたミサイルで、水平線上に出てレーダーに探知されるまでには時間を要する。そして、それに要する時間は500km程度の距離にある目標物を打撃するには十分な時間となる。しかし、ミサイルが通常の弾道起動ではなく、高度の大気圏内をより水平に飛行できれば、ミサイルに探知され、迎撃されることなく飛行できる時間をより長く稼ぐことができる。
ロシアは80年代からスカッドに代わるこの種のミサイルの開発を続けている。スカッドの飛行距離は比較的短く、戦術ミサイルとして開発された。そして、スカッドに使われる液体燃料は旧式である。スカッドは液体燃料注入が終わった状態で移動し、立てることができるが、その状態で長距離を移動するのは、液体推進剤の特性からして大変危険である。一方、固体推進剤はとても扱いやすい。トスカ(SS-21、Scarab)が、北朝鮮バージョンの「火星-11(KN-02)」に近い。冷戦終結期、ロシア(ソ連)はオカ(
SS-23, Spider)を開発したが、INF条約の発効で数年前に引退した。イスカンダル(SS-26, Stone)は、最新型でさらに高性能な復活版である。長い開発期間を経て完成されたミサイルである。
十分な分析をする時間はないが、北朝鮮のミサイルがSS-26に形が似ていること以外の証拠はない。北朝鮮にはSS-26を開発できるような技術が蓄積されておらず、またロシアが北朝鮮にSS-26を売ったのかどうかも疑問である。北朝鮮は、「火星-11」のエンジンを使い、意図的にSS-26のような形のミサイルを作った可能性がある。
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「意図的にSS-26のような形のミサイルを作った」という指摘は興味深い。確かに、4日の発射では「戦術誘導武器」という点を北朝鮮は強調しており、さらにそれが写真非公開で行われた4月17日に行われたとされる「戦術誘導武器」からの流れからすれば、イスカンダルのようなミサイルを北朝鮮が開発したと宣伝する目的があったとしても不思議ではない。特に、4日と10日のミサイル発射が、表面的には「韓米合同軍事演習」に対する「自衛的」対抗措置という主張からすれば、イスカンダル型のミサイルの脅威に最も晒されるのは韓国であるし、北朝鮮が非難してきたサードでも低高度を飛行するイスカンダル型のミサイルは迎撃できないはずである。
続けて、9日に発射されたミサイルについてもSavelsberg先生に意見を求めた。
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9日に発射されたイスカンダル型のミサイルは興味深い。ペイロードは不明ながらも、ミサイルの1機は420km飛行したと発表されている。

Source: 『労働新聞』、2019/05/10
上の写真では、イスカンダルとのさらなる相違点が確認できるところが興味深い。ミサイルの右側を見ると、ケーブル用の通路がミサイル全長の3分の2ぐらの長さで取り付けられている。イスカンダルの写真を何枚か見たが、イスカンダルにはこうした通路は取り付けられていない。もし、ケーブル用通路の上部が気体燃料エンジンの上部と一致するのであれば、イスカンダルに搭載されているエンジンよりもかなり大きな部分を占めていることになる。イスカンダルに使われているエンジンは、北朝鮮のミサイルよりも遙かに高性能のものと推測されるので、北朝鮮のミサイルにそれよりも性能が劣るエンジンが使われているとしてもさほど驚くことではない。イスカンダルの平均的飛行距離とさほど違いがない420kmを飛行するためには、イスカンダルに使用される量よりも多くの燃料が必要になり、エンジンと燃料部分は自ずと大きくなる。現時点の結論では、ミサイルはイスカンダルのように見えるが、内部は全く異なるのではないかということである。もちろん、現時点で不十分な分析での結果ではあるが、北朝鮮のミサイルがイスカンダルのように誘導された飛行パターンが可能であるという証拠は全く見当たらない。

Source: 『労働新聞』、2019/05/10
また、上の写真についても触れておく。4日に発射されたミサイルに使われた車両は、基本的にMAZ-543、つまりスカッドミサイル(火星-5/6)に使われた車両のボディーのみ変更したもののようである。バンパーや運転席の後ろにあるステップはとても似ている。4日の写真に見られた車両と異なり、9日の写真では車両にタイヤがない。つまり、無限軌道車両ということだ。このタイプの無限軌道車両は2017年の軍事パレードの中で、スカッドミサイルを搭載して登場している。無限軌道車両は振動が大きいので、ミサイルの運搬に適していないので、弾道ミサイルの運搬車両(TEL)の大部分にはタイヤが装着されている。こうした点からすると、北朝鮮が十分な数のMAZ-543のような車輪車両を確保できていないのではないかと推測される。北朝鮮は同じミサイルに2種の異なる運搬車両を使用しているからしているのは奇妙であるし、そうしたことからして車輪車両の確保が難しくなっているのではないかと思われる。
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イスカンダルの形を模してはいるが、搭載されたエンジンは全く異なるのではないかという推測は、4日に発射されたミサイルのイスカンダル偽装疑惑をさらに強くした。9日の発射では、2つのかなり異なる飛行距離を設定してミサイルを発射しているが、420kmというイスカンダルに近い飛行距離を誇示するために敢えてそのような距離にした可能性がある。イスカンダルについては、下の動画を見ると参考になる。
Source: YouTube
また、輸送車両に関する分析も鋭い。特に、9日に使われた車両がキャタピラ式であり、北朝鮮が車輪式車両の確保に苦労しているのであれば、まさに中国からの軍事転用可能なトラックの輸入が中国の制裁遵守により不可能になっている可能性がある。もちろん、北朝鮮としては両方の車両を使うことで、機動性の高さと固形燃料(実際は液体燃料が使われていても)の安定性を誇示する目的があったのかもしれない。
こうしたことからすると、やはり今回の一連の発射は、軍事的側面よりも政治的側面が強い発射ということになる。