27探査隊員、延吉レポート:中朝関係悪化を感じる、<追記>柳京ホテル・インフォーメーション、ポシンタン (2017年8月22日)
27探索隊員、延吉より無事帰還。今回、初めて、延吉-関空間の直行便を使ってみたが、極めて快適だった。延吉から大阪は地図上で直線を引くと北朝鮮領空を通過している。中国籍の飛行機なので、北朝鮮領空を通過するのかと期待し、わざわざ右側の窓側の席に座ったのだが、延吉から東に進みウラジオストック上空を通過して東に進み、日本海に出たところで南に向きを変え佐渡沖へ、そこから南西に飛行するというルートを通っている。

Source: Flightradar 24
中朝間で民間航空機の領空通過をどのように許可し合っているのかは調べていないが、この大回りがなければ、1時間ぐらい短縮できそうな気がする。ともあれ、ウラジオストックの橋を眼下に見たときは、感動した。Marine Trafficで確認した万景峰号や北朝鮮船籍船がこの辺りにいるのだと思いつつ眺めていた。
ついでに書いておけば、延吉の空港もなかなかおもしろかった。人民解放軍のJ-10と思われる戦闘機が2機滑走路上におり、私が乗った旅客機は戦闘機の後の離陸を待っていた。戦闘機がフロントライトを点灯すると、順次飛び立っていった。離陸前にさかんに音だけの花火のようなものを上げていたので、対空砲火の訓練かとも思ったのだが、あまりにもショボい花火だったので、鳥を追い払っていたのであろう。人民解放軍の戦闘機が飛び立つシーンを生で見るというよい経験になった。軍事機密云々と離陸前の電子製品電源オフの関係で撮影できなかったのが悔やまれる。
以上は、27探査隊員の任務以外の話であるが、以下、任務に関する報告をしておく。
延吉での宿所は、定宿の柳京ホテル。前回の柳京ホテル泊は2年前だったはずなので、ドンム達は入れ替わっている。電話予約した通り、普通にチェックインした。部屋もフロントも特に変わったところはなかった。初日は、到着が遅かったので、18時30分からの公演はとっくに終了、コーヒー店には誰も客はおらず「朝鮮中央TV」が流れているだけ。腹が減っていたので、朝鮮族の先生と一緒にビールを飲みながら夕食を食べた。
ビールは当然、大同江ビール。ドンム「50元ですが、28元で販売しています」と。28元というのは、これまでの最安値かも知れない。「朝鮮中央TV」では、「初めての麓で(첫 기슭에서)」を放送しており、朝鮮族の先生が「これは何の番組か」とドンム質問するも「祖国のテレビ放送です」としか答えない。大連の朝鮮食堂もそうだったが、明らかに口が堅くなっている。27探査隊員が番組名を言うと、後ろの方で「麓で・・・」とか言いながら、笑っていた。
柳京ホテル、部屋も食堂もお客はとても少なく、恐らくは、18時30分からの公演もやっていないと思う。他方面の探査に出向いていたので、柳京ホテルの公演探査は今回は見送ったのだが、とにかく客の入りが悪い。
柳京ホテルと言えば、部屋で「朝鮮中央TV」が見られるところがプレミアムなのだが、今回はそれが見られない。一応、ドンムに見られない旨伝えて調べてもらったが、それでも見られない。中国の番組は全て見られるのだが、「朝鮮中央TV」だけはチャンネルがない。
2年前の探査の時のことだったので、忘れていたが、柳京ホテルはタイコムを受信しているのではなく、吉林省をカバーする中国の衛星放送を受信しており、その衛星が中継している番組に「朝鮮中央TV」が含まれていたのを思い出した。しかし今回、番組リストを見ると、「朝鮮中央TV」はリストに含まれていない。いつからリストから除外されたのかは不明ながら、そんなに前の話ではないと思う。もしかすると、中国が安保理決議2371を履行するための決定をした時期と重なっているのかも知れない。ドンムに「中央TVが見られない」とクレームを入れたが、結局見られず。翌日からは、吉林衛星放送の電波すら受信できなくなった。恐らくは、アンテナを切断してしまったのであろう。それが、抗議の意なのか、「朝鮮中央TV」も写らない放送を見せるのは良くないと考えたのか、理由は定かではないが、全ての部屋で見えなくなったようだ。ただ、住み込みの朝鮮人民のオッサンは、見えるようなことを言っていたので、客室だけ切断したのか、ピンポイントで27探査隊員の部屋だけを切断したのかは不明。とりあえず、壁から出ている同軸ケーブルは、チューナーに繋がっていた。
中国の放送が受信できていたときには、左の黒い画面に多くの放送局が表示されていたが、この項目が表示されなくなった。設定から衛星受信を試みるも、衛星からの電波は一つも拾えず。アンテナを切断されたのであろう。

かなり静かな柳京ホテルであるが、2日目の夜は、団体貸しきりの部屋が大いに盛り上がっていた。ちょうど大連の朝鮮人民団体の個室のような感じで、モランボン楽団の新曲が連発で歌われ、しばらくするとカラオケも始まった。27探査隊員は、客のいないコーヒー店でその歌を聞きながら大同江ビールを飲んでいたら、その部屋から出てきた女性が男の子数人を連れてきて「ここで静かに遊んでいなさい」と朝鮮語で言った。しかし、ガキ共は、ゲーム機で遊びながら中国語で大声で騒いでいる。ドンムに朝鮮語で注意されるも無視。母親らしき女性も部屋から出てくる男性もバッジを付けていないようなので、在中朝鮮人なのかもしれない(北朝鮮の歌を連発で歌っていたので、朝鮮族ではないと思う)。この宴会、何時まで続いたのか分からないが、12時過ぎまで続いたと思う。
大連の朝鮮食堂もそうだったが、主な客層が変わったような気がする。
柳京ホテルのコーヒー店(公演会場)には、「動画撮影禁止」の張り紙があった。
以前から確認はできているが、少なくとも延吉では、中国のホテルやレストランで共和国旗が付いたバッジを付けて働いているドンム達がいる。今回、夕食を食べたホテルにもドンムがたくさんいた。
大連の公演は記事に書いた通り演奏無しのガッカリ公演だったが、こちらは少なくとも演奏はしていた。しかし、演奏したのはたったの3曲。例によって「(お会いできて)嬉しいです(반갑습니다)」から始まり、「タンスメ(一気に)」、そして中国曲1曲で終わり。10分そこそこという、大連よりはましながら、ガッカリ公演であった。
こちらは、人が多いので制止しようがないからか、中国人経営の場所だからか、撮影は一切お咎めなし。

『タンスメ』の一部
そして、最後に27探査隊員が向かったのは、千年白雪会館。今度は、19時の公演時間前に行ったので、2階の食堂に。中国人の団体が3組ほどおり、まあまあの盛況ぶりだった。ステージ上のスクリーンには「モランボン楽団2013年新年(新正月)公演」の木蓮DVDの映像が流されている。ドンムに「これは、何年のソルマジ(旧正月)公演か」とわざと外して質問するも、「2015年」と。本当に知らないのだか、とぼけているのか分からないが、とにかく、皆、口が堅くなっているようだ。昨年の北京と比べると雰囲気が全く違う。しかも、同じDVDばかりリピート再生で、おもしろくない。
公演は、結局19時20分頃から始まり、1曲目は「社会主義を守ろう」。社会主義を放棄した中国人を前に歌う曲としてはなかなか良い選曲だったので期待をしたのだが、続きが良くなかった。古い民謡調の朝鮮曲、中国曲数曲、カヤグムを使った民謡調の朝鮮曲、そして中国曲で終わった。最後の中国曲の曲調は「革命的」だったので、それ系の曲だったのかも知れないが、それにしても、最新の朝鮮曲を一切演奏しないというのはガッカリ。千年白雪会館の演奏組も歌唱組も、容姿、演奏、歌唱力において、レベルが高い。それだけに、新しい朝鮮曲を演じないのは勿体ない。
その後、例によって中国人のカラオケが始まる。当然、全て中国曲。ドンムが知っていればデュエットになるし、知らなければオッサンが1人で歌う。27探査隊員も1曲と思い費用を尋ねたところ、1曲100元(約1600円)と。工作資金不足で、敢えなく後退となる。今後、千年白雪会館を探査する隊員のために言っておくと、この店は高い。特に、1人で工作をすると割高になる(中国全般にいえることだが、料理のサイズが大きい)。大同江ビールは、なんと68元。「他の店は28元ですが」と言ってみたら、「こんなに大きいです」と手でサイズを示しながらドンム。68元の工作資金で分かったことは、大同江ビールに大瓶というものが存在すること。ともあれ、68元は高すぎる。金満中国人は、そんなに高い店で大同江ビールは注文し放題、料理もどんどんと頼むし、カラオケもどんどん歌う。千年白雪会館は、撮影規制が厳しく、中国人がスマホで撮影を始めると、オンニ(年上のドンム)が監視しており、指で合図しながら、他のドンムに撮影を制止させる指示を出している。ただし、100元払ってカラオケを歌えば、デュエット姿は撮影し放題のようだ。
朝、人民公園の朝市にも行ってみた。例によって、犬肉が売られており、時節柄、マツタケも売っていた。以前はさほど気にもしなかったのだが、今回は安保理制裁2371の対象となった北朝鮮産の海産物(干物)が売られているのが気になった。パッケージ入れられた明太で漢字や朝鮮語で「北朝鮮明太」と書かれていた。朝鮮族のオッサンが売っていたので、「これ入らなくなりますね」と言ったら、「これからは珍しくなる」と。安保理制裁2371を忠実に履行すれば、確かに北朝鮮産の明太は、いずれ北朝鮮領域内でしか食べられなくなる。
「北朝鮮明太」と書かれた28元のパッケージ。

北朝鮮とは関係ないが、もう一つ朝市で気付いたことは、違法コピーしたCDやDVDが消えていたことである。少なくとも昨年秋は、この朝市に違法コピーしたメディアを売る屋台が数軒は出ていた。しかし、今回は、そうした屋台が全くなくなり、かろうじて1つの屋台で1枚だけセクシー系DVD(もしかすると、パッケージだけで、中身は普通の音楽かも知れないが)と思われるものが置かれていた。米国からの圧力で、習近平政権が違法ソフト摘発に力を入れた結果なのかも知れないが、朝市を見る限りでは、かなり徹底しているように思われる。
<追記: 2017/08/23 0800>
その他、いくつか関連情報を書いておく。
・柳京ホテル:
宿泊費は1泊約280元(時期により若干の変動があると言っていた)。朝食付き。朝食は、日本人の場合は、辛めのおかずを減らし、納豆と海苔を付けてくる。ドンムが「このお客さん、日本の方でしょうか」とフロントに電話をして確認し、その後、調理人の「XX同志」(名前は失念)に、納豆と海苔を付けるよう指示していた。おかず数点、汁物1点のシンプルな食事であるが、中国のホテルで朝から中華料理を食べるよりも私には向いている。
ホテルで通じる言語は、朝鮮語と中国語。英語については、未確認ながらも、簡単な会話はできるように思われる。ただ、このホテルには朝鮮総連系の人が常駐しているようで、2年前は青年が夜中に到着したときフロントにおり、今回はコーヒー店でビールを飲んでいたら、中年女性が日本語で話しかけてきた。この人達が対応してくれれば、日本語も可ということになる。総連青年については、明らかに、朝鮮語が話せない日本人向けの対応であった(朝鮮語で予約したのに・・・)。
その予約であるが、電話のみ(中国のホテル予約サイトを全て確認したわけではないが)。日本のネットを見ていると、予約代行サービスを提供している業者もあるようだが、私は使ったことがない。決済は現金(中国元)のみで、一応、クレジットカード読み取り機は置かれているが、海外カードには対応していないと思われる(過去、カード決済は不可と言われた)。外貨との換金もしていないので、宿泊する場合は、中国元を準備する必要がある(頼んでみたら「近所に銀行はたくさんありますよ」と言われた)。
部屋は、高級感はないものの広くて快適。一番快適なのは、トイレに南朝鮮謹製のウォッシュレット(スイッチ類は全て「ハングル」表示)が設置されていること。中国のホテル(私が自前で泊まるような安ホテルや、時々招待側の負担で使える一部の4つ星以上のホテルも)でウォッシュレットが設置されているホテルは少数派だと思う。部屋により違いがあるのかも知れないが、バスタブはなく、シャワールームはガラスで分離されているので洗面所・トイレ部分へ水が流れ出ることもなく、これまた合格。温水も充分に出る。部屋のスリッパに朝鮮文字(故郷だったか健康だったか失念したが、そんな文字)が書かれていたのでmade in DPRKかと思いきや、Chinaだった。わざわざスリッパまで朝鮮文字が記されたものを使うなど細心の心遣い。そんなことからすると、やはり「朝鮮中央TV」が写らないテレビなどテレビではないということなのかもしれない。
ミネラルウォーターは有料(5元)。ホテル正面にある超市(スーパー)で買えば2元。漢族の店なので朝鮮語は通じないが、冷蔵庫から出してカウンターに置き、適当な高額紙幣(10元ぐらい)出せば、おつりをくれる。足りない場合は、1元とか5元をトランプのように開いてみせると、引っこ抜いてくれる。いつまで経っても中国語を覚えない日本人民に友好的な店である。
部屋に置かれている、ホテル・インフォメーション。朝鮮語と中国語(裏面)で記されている。宿泊情報だけではなく、ホテルの来歴まで書かれているところが興味深い。

*******************
延吉柳京ホテル(「ホテル」の태は、南朝鮮フォントを使用)への来訪を歓迎します。
延吉柳京ホテル有限公司は、1995年10月、延辺州政府の延吉市の(「の」部分、朝鮮語はこともあろうに의と위の誤記)温かい関心の下で設立された外商投資企業です。1、2階の食堂と1階の西洋料理・コーヒー店は、温かく静かな雰囲気で、国内外の多くの貴賓をお迎えしております。
各客室には自動電話とインターネットが設置されており、外部に通話される場合は、まず9番を押し、希望される電話番号を押して下さい。
食堂では、平壌から招かれて来られた(料理士に敬語を使っている。エラーと思われる)料理士が、各種の独特な朝鮮料理をご提供いたしております。
1階の柳京館は、朝鮮の独特な料理を提供し、平壌の接待員が歌も歌って差し上げております。
2階の柳京館は、静かな食堂と貴賓室で落ち着いた雰囲気で食事ができます。
1階の西洋料理、コーヒー店では、日本から来た料理士が西洋料理を提供し、(インスタントではない)ドリップ・コーヒーもお出ししております。
朝食:2階の食堂、7時-8時30分まで、朝鮮料理を提供しております。
1階の西洋料理・コーヒー店では、9時から10時30分までパン食を提供しております。
電話番号:
総服務台:(また、朝鮮語のエラー。「服務」で무を부と)。(電話番号は、悪戯防止のため、著者削除)
客室服務台: 4542
1階柳京館: 2210
2階柳京館: 2228
1階西洋料理・コーヒー店: 2234
お客様の事業の成果と健康をお祈りいたします!ありがとうございます!
**********************************
「1階の西洋料理・コーヒー店」で「パン食」を食べてみようと、9時過ぎに行ってみたら、「朝食は8時半まで」だと断られた。部屋の案内板に10時30分までだと書いてあったと提供を求めるも、「パンとセットになったものはない」と。ドンムの様子からして、このホテル・インフォメーションの存在すら知らない様子だったので、「そうですか」と後退した。
柳京ホテルでのお勧め料理は、トジャン・クック(토장국)15元と温面(온면)約15元。トジャン・クックは韓国のテンジャン・チゲと同じであるが、飲んだ後は旨い。また、以前記事にもした、トウモロコシ麺(강냉이국수)を食べたくて注文したところ、トウモロコシ麺という名前の料理はなかったが、温面という名称でトウモロコシ麺を使った激辛面があった。辛いのが苦手な人は絶対に食べられない辛さであるが、美味しかった。
フロント前には冷蔵庫が置かれており、これまでも販売していた平壌キムチなどの食材だけではななく、大同江ビールも28元で販売していた。
・英子狗肉館:
「パン食」を断られたので、そのまま延吉の街を探査することにした。27探査隊員の新標準装備、中国SIM(香港版:香港版でないと、google系は使用不可と思われる)がなかったときは、事前に地図で調べて、日本でプリントアウトするなり、現地で手書きにするなりの手間がかかったが、この新標準装備のおかげで、Baidu地図とgoogle翻訳が使えるようになり、かなり自由に動き回れるようになった。延吉の8月は、陽ざしこそ強いが、湿度が低く日陰に入れば涼しいので、探査するには悪くない。延吉も都市整備を進めているようで、これまでガタガタのブロックが置かれていた歩道をコンクリートで固める工事があちこちで行われていた。しかし、例によって歩道は駐車場と化しており、歩行者は車道を歩かざるを得ない場所もたくさんある。また、上海と比べると自動車優先度が依然として高く、道路を横断するときは「周りの中国人と一緒に動く」必要がある(命の保証はしないが)。彼らは、どのタイミングでどのように動けば渡れるか心得ているようで、自動車の切れ目を上手にすり抜けていく。
ポシンタン(犬肉スープ)を食べたくて、baiduで検索したら、柳京ホテルの近く(徒歩10分)に英子狗肉館という店があった。なかなか大きな店で、朝鮮族の老人グループがビールを飲みながら大声で話をしていた(そして、ロシア人のカップルもいた)。注文を取りに来たのは漢族のニーチャンだったので、朝鮮語で話しかけると、支配人のような朝鮮族の女性が来てくれた。中国では、1人で食事をするという習慣がないのか、とにかく全てが大きい。この店のポシンタンも大きかったのだが、その中で一番小さなサイズを注文した。支配人は「肉が少ないですよ」と言っていたが、私には丁度良いか充分すぎるぐらい。食べているとやって来て「今朝仕入れた新鮮な肉だから美味しいでしょ」と。確かに美味しいのだが、一瞬、朝市の光景が頭に浮かんだ。ポシンタン、小サイズは22元だった。
<追記2: 2017/08/23 1327>
柳京ホテルがネットからも予約できるという情報を頂いた。ctripという中国のホテル予約サイトで、以前検索したときは出ていなかったか、ホテル名は項目として出てくるも予約できない状態になっていたのだが、今見ると、予約できるようになっている。朝食無しだと240元のようだ。私が泊まった部屋は左上の写真の部屋と同じ構造。
https://hotels.ctrip.com/hotel/5275510.html

Source: Flightradar 24
中朝間で民間航空機の領空通過をどのように許可し合っているのかは調べていないが、この大回りがなければ、1時間ぐらい短縮できそうな気がする。ともあれ、ウラジオストックの橋を眼下に見たときは、感動した。Marine Trafficで確認した万景峰号や北朝鮮船籍船がこの辺りにいるのだと思いつつ眺めていた。
ついでに書いておけば、延吉の空港もなかなかおもしろかった。人民解放軍のJ-10と思われる戦闘機が2機滑走路上におり、私が乗った旅客機は戦闘機の後の離陸を待っていた。戦闘機がフロントライトを点灯すると、順次飛び立っていった。離陸前にさかんに音だけの花火のようなものを上げていたので、対空砲火の訓練かとも思ったのだが、あまりにもショボい花火だったので、鳥を追い払っていたのであろう。人民解放軍の戦闘機が飛び立つシーンを生で見るというよい経験になった。軍事機密云々と離陸前の電子製品電源オフの関係で撮影できなかったのが悔やまれる。
以上は、27探査隊員の任務以外の話であるが、以下、任務に関する報告をしておく。
延吉での宿所は、定宿の柳京ホテル。前回の柳京ホテル泊は2年前だったはずなので、ドンム達は入れ替わっている。電話予約した通り、普通にチェックインした。部屋もフロントも特に変わったところはなかった。初日は、到着が遅かったので、18時30分からの公演はとっくに終了、コーヒー店には誰も客はおらず「朝鮮中央TV」が流れているだけ。腹が減っていたので、朝鮮族の先生と一緒にビールを飲みながら夕食を食べた。
ビールは当然、大同江ビール。ドンム「50元ですが、28元で販売しています」と。28元というのは、これまでの最安値かも知れない。「朝鮮中央TV」では、「初めての麓で(첫 기슭에서)」を放送しており、朝鮮族の先生が「これは何の番組か」とドンム質問するも「祖国のテレビ放送です」としか答えない。大連の朝鮮食堂もそうだったが、明らかに口が堅くなっている。27探査隊員が番組名を言うと、後ろの方で「麓で・・・」とか言いながら、笑っていた。
柳京ホテル、部屋も食堂もお客はとても少なく、恐らくは、18時30分からの公演もやっていないと思う。他方面の探査に出向いていたので、柳京ホテルの公演探査は今回は見送ったのだが、とにかく客の入りが悪い。
柳京ホテルと言えば、部屋で「朝鮮中央TV」が見られるところがプレミアムなのだが、今回はそれが見られない。一応、ドンムに見られない旨伝えて調べてもらったが、それでも見られない。中国の番組は全て見られるのだが、「朝鮮中央TV」だけはチャンネルがない。
2年前の探査の時のことだったので、忘れていたが、柳京ホテルはタイコムを受信しているのではなく、吉林省をカバーする中国の衛星放送を受信しており、その衛星が中継している番組に「朝鮮中央TV」が含まれていたのを思い出した。しかし今回、番組リストを見ると、「朝鮮中央TV」はリストに含まれていない。いつからリストから除外されたのかは不明ながら、そんなに前の話ではないと思う。もしかすると、中国が安保理決議2371を履行するための決定をした時期と重なっているのかも知れない。ドンムに「中央TVが見られない」とクレームを入れたが、結局見られず。翌日からは、吉林衛星放送の電波すら受信できなくなった。恐らくは、アンテナを切断してしまったのであろう。それが、抗議の意なのか、「朝鮮中央TV」も写らない放送を見せるのは良くないと考えたのか、理由は定かではないが、全ての部屋で見えなくなったようだ。ただ、住み込みの朝鮮人民のオッサンは、見えるようなことを言っていたので、客室だけ切断したのか、ピンポイントで27探査隊員の部屋だけを切断したのかは不明。とりあえず、壁から出ている同軸ケーブルは、チューナーに繋がっていた。
中国の放送が受信できていたときには、左の黒い画面に多くの放送局が表示されていたが、この項目が表示されなくなった。設定から衛星受信を試みるも、衛星からの電波は一つも拾えず。アンテナを切断されたのであろう。

かなり静かな柳京ホテルであるが、2日目の夜は、団体貸しきりの部屋が大いに盛り上がっていた。ちょうど大連の朝鮮人民団体の個室のような感じで、モランボン楽団の新曲が連発で歌われ、しばらくするとカラオケも始まった。27探査隊員は、客のいないコーヒー店でその歌を聞きながら大同江ビールを飲んでいたら、その部屋から出てきた女性が男の子数人を連れてきて「ここで静かに遊んでいなさい」と朝鮮語で言った。しかし、ガキ共は、ゲーム機で遊びながら中国語で大声で騒いでいる。ドンムに朝鮮語で注意されるも無視。母親らしき女性も部屋から出てくる男性もバッジを付けていないようなので、在中朝鮮人なのかもしれない(北朝鮮の歌を連発で歌っていたので、朝鮮族ではないと思う)。この宴会、何時まで続いたのか分からないが、12時過ぎまで続いたと思う。
大連の朝鮮食堂もそうだったが、主な客層が変わったような気がする。
柳京ホテルのコーヒー店(公演会場)には、「動画撮影禁止」の張り紙があった。
以前から確認はできているが、少なくとも延吉では、中国のホテルやレストランで共和国旗が付いたバッジを付けて働いているドンム達がいる。今回、夕食を食べたホテルにもドンムがたくさんいた。
大連の公演は記事に書いた通り演奏無しのガッカリ公演だったが、こちらは少なくとも演奏はしていた。しかし、演奏したのはたったの3曲。例によって「(お会いできて)嬉しいです(반갑습니다)」から始まり、「タンスメ(一気に)」、そして中国曲1曲で終わり。10分そこそこという、大連よりはましながら、ガッカリ公演であった。
こちらは、人が多いので制止しようがないからか、中国人経営の場所だからか、撮影は一切お咎めなし。

『タンスメ』の一部
そして、最後に27探査隊員が向かったのは、千年白雪会館。今度は、19時の公演時間前に行ったので、2階の食堂に。中国人の団体が3組ほどおり、まあまあの盛況ぶりだった。ステージ上のスクリーンには「モランボン楽団2013年新年(新正月)公演」の木蓮DVDの映像が流されている。ドンムに「これは、何年のソルマジ(旧正月)公演か」とわざと外して質問するも、「2015年」と。本当に知らないのだか、とぼけているのか分からないが、とにかく、皆、口が堅くなっているようだ。昨年の北京と比べると雰囲気が全く違う。しかも、同じDVDばかりリピート再生で、おもしろくない。
公演は、結局19時20分頃から始まり、1曲目は「社会主義を守ろう」。社会主義を放棄した中国人を前に歌う曲としてはなかなか良い選曲だったので期待をしたのだが、続きが良くなかった。古い民謡調の朝鮮曲、中国曲数曲、カヤグムを使った民謡調の朝鮮曲、そして中国曲で終わった。最後の中国曲の曲調は「革命的」だったので、それ系の曲だったのかも知れないが、それにしても、最新の朝鮮曲を一切演奏しないというのはガッカリ。千年白雪会館の演奏組も歌唱組も、容姿、演奏、歌唱力において、レベルが高い。それだけに、新しい朝鮮曲を演じないのは勿体ない。
その後、例によって中国人のカラオケが始まる。当然、全て中国曲。ドンムが知っていればデュエットになるし、知らなければオッサンが1人で歌う。27探査隊員も1曲と思い費用を尋ねたところ、1曲100元(約1600円)と。工作資金不足で、敢えなく後退となる。今後、千年白雪会館を探査する隊員のために言っておくと、この店は高い。特に、1人で工作をすると割高になる(中国全般にいえることだが、料理のサイズが大きい)。大同江ビールは、なんと68元。「他の店は28元ですが」と言ってみたら、「こんなに大きいです」と手でサイズを示しながらドンム。68元の工作資金で分かったことは、大同江ビールに大瓶というものが存在すること。ともあれ、68元は高すぎる。金満中国人は、そんなに高い店で大同江ビールは注文し放題、料理もどんどんと頼むし、カラオケもどんどん歌う。千年白雪会館は、撮影規制が厳しく、中国人がスマホで撮影を始めると、オンニ(年上のドンム)が監視しており、指で合図しながら、他のドンムに撮影を制止させる指示を出している。ただし、100元払ってカラオケを歌えば、デュエット姿は撮影し放題のようだ。
朝、人民公園の朝市にも行ってみた。例によって、犬肉が売られており、時節柄、マツタケも売っていた。以前はさほど気にもしなかったのだが、今回は安保理制裁2371の対象となった北朝鮮産の海産物(干物)が売られているのが気になった。パッケージ入れられた明太で漢字や朝鮮語で「北朝鮮明太」と書かれていた。朝鮮族のオッサンが売っていたので、「これ入らなくなりますね」と言ったら、「これからは珍しくなる」と。安保理制裁2371を忠実に履行すれば、確かに北朝鮮産の明太は、いずれ北朝鮮領域内でしか食べられなくなる。
「北朝鮮明太」と書かれた28元のパッケージ。

北朝鮮とは関係ないが、もう一つ朝市で気付いたことは、違法コピーしたCDやDVDが消えていたことである。少なくとも昨年秋は、この朝市に違法コピーしたメディアを売る屋台が数軒は出ていた。しかし、今回は、そうした屋台が全くなくなり、かろうじて1つの屋台で1枚だけセクシー系DVD(もしかすると、パッケージだけで、中身は普通の音楽かも知れないが)と思われるものが置かれていた。米国からの圧力で、習近平政権が違法ソフト摘発に力を入れた結果なのかも知れないが、朝市を見る限りでは、かなり徹底しているように思われる。
<追記: 2017/08/23 0800>
その他、いくつか関連情報を書いておく。
・柳京ホテル:
宿泊費は1泊約280元(時期により若干の変動があると言っていた)。朝食付き。朝食は、日本人の場合は、辛めのおかずを減らし、納豆と海苔を付けてくる。ドンムが「このお客さん、日本の方でしょうか」とフロントに電話をして確認し、その後、調理人の「XX同志」(名前は失念)に、納豆と海苔を付けるよう指示していた。おかず数点、汁物1点のシンプルな食事であるが、中国のホテルで朝から中華料理を食べるよりも私には向いている。
ホテルで通じる言語は、朝鮮語と中国語。英語については、未確認ながらも、簡単な会話はできるように思われる。ただ、このホテルには朝鮮総連系の人が常駐しているようで、2年前は青年が夜中に到着したときフロントにおり、今回はコーヒー店でビールを飲んでいたら、中年女性が日本語で話しかけてきた。この人達が対応してくれれば、日本語も可ということになる。総連青年については、明らかに、朝鮮語が話せない日本人向けの対応であった(朝鮮語で予約したのに・・・)。
その予約であるが、電話のみ(中国のホテル予約サイトを全て確認したわけではないが)。日本のネットを見ていると、予約代行サービスを提供している業者もあるようだが、私は使ったことがない。決済は現金(中国元)のみで、一応、クレジットカード読み取り機は置かれているが、海外カードには対応していないと思われる(過去、カード決済は不可と言われた)。外貨との換金もしていないので、宿泊する場合は、中国元を準備する必要がある(頼んでみたら「近所に銀行はたくさんありますよ」と言われた)。
部屋は、高級感はないものの広くて快適。一番快適なのは、トイレに南朝鮮謹製のウォッシュレット(スイッチ類は全て「ハングル」表示)が設置されていること。中国のホテル(私が自前で泊まるような安ホテルや、時々招待側の負担で使える一部の4つ星以上のホテルも)でウォッシュレットが設置されているホテルは少数派だと思う。部屋により違いがあるのかも知れないが、バスタブはなく、シャワールームはガラスで分離されているので洗面所・トイレ部分へ水が流れ出ることもなく、これまた合格。温水も充分に出る。部屋のスリッパに朝鮮文字(故郷だったか健康だったか失念したが、そんな文字)が書かれていたのでmade in DPRKかと思いきや、Chinaだった。わざわざスリッパまで朝鮮文字が記されたものを使うなど細心の心遣い。そんなことからすると、やはり「朝鮮中央TV」が写らないテレビなどテレビではないということなのかもしれない。
ミネラルウォーターは有料(5元)。ホテル正面にある超市(スーパー)で買えば2元。漢族の店なので朝鮮語は通じないが、冷蔵庫から出してカウンターに置き、適当な高額紙幣(10元ぐらい)出せば、おつりをくれる。足りない場合は、1元とか5元をトランプのように開いてみせると、引っこ抜いてくれる。いつまで経っても中国語を覚えない日本人民に友好的な店である。
部屋に置かれている、ホテル・インフォメーション。朝鮮語と中国語(裏面)で記されている。宿泊情報だけではなく、ホテルの来歴まで書かれているところが興味深い。

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延吉柳京ホテル(「ホテル」の태は、南朝鮮フォントを使用)への来訪を歓迎します。
延吉柳京ホテル有限公司は、1995年10月、延辺州政府の延吉市の(「の」部分、朝鮮語はこともあろうに의と위の誤記)温かい関心の下で設立された外商投資企業です。1、2階の食堂と1階の西洋料理・コーヒー店は、温かく静かな雰囲気で、国内外の多くの貴賓をお迎えしております。
各客室には自動電話とインターネットが設置されており、外部に通話される場合は、まず9番を押し、希望される電話番号を押して下さい。
食堂では、平壌から招かれて来られた(料理士に敬語を使っている。エラーと思われる)料理士が、各種の独特な朝鮮料理をご提供いたしております。
1階の柳京館は、朝鮮の独特な料理を提供し、平壌の接待員が歌も歌って差し上げております。
2階の柳京館は、静かな食堂と貴賓室で落ち着いた雰囲気で食事ができます。
1階の西洋料理、コーヒー店では、日本から来た料理士が西洋料理を提供し、(インスタントではない)ドリップ・コーヒーもお出ししております。
朝食:2階の食堂、7時-8時30分まで、朝鮮料理を提供しております。
1階の西洋料理・コーヒー店では、9時から10時30分までパン食を提供しております。
電話番号:
総服務台:(また、朝鮮語のエラー。「服務」で무を부と)。(電話番号は、悪戯防止のため、著者削除)
客室服務台: 4542
1階柳京館: 2210
2階柳京館: 2228
1階西洋料理・コーヒー店: 2234
お客様の事業の成果と健康をお祈りいたします!ありがとうございます!
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「1階の西洋料理・コーヒー店」で「パン食」を食べてみようと、9時過ぎに行ってみたら、「朝食は8時半まで」だと断られた。部屋の案内板に10時30分までだと書いてあったと提供を求めるも、「パンとセットになったものはない」と。ドンムの様子からして、このホテル・インフォメーションの存在すら知らない様子だったので、「そうですか」と後退した。
柳京ホテルでのお勧め料理は、トジャン・クック(토장국)15元と温面(온면)約15元。トジャン・クックは韓国のテンジャン・チゲと同じであるが、飲んだ後は旨い。また、以前記事にもした、トウモロコシ麺(강냉이국수)を食べたくて注文したところ、トウモロコシ麺という名前の料理はなかったが、温面という名称でトウモロコシ麺を使った激辛面があった。辛いのが苦手な人は絶対に食べられない辛さであるが、美味しかった。
フロント前には冷蔵庫が置かれており、これまでも販売していた平壌キムチなどの食材だけではななく、大同江ビールも28元で販売していた。
・英子狗肉館:
「パン食」を断られたので、そのまま延吉の街を探査することにした。27探査隊員の新標準装備、中国SIM(香港版:香港版でないと、google系は使用不可と思われる)がなかったときは、事前に地図で調べて、日本でプリントアウトするなり、現地で手書きにするなりの手間がかかったが、この新標準装備のおかげで、Baidu地図とgoogle翻訳が使えるようになり、かなり自由に動き回れるようになった。延吉の8月は、陽ざしこそ強いが、湿度が低く日陰に入れば涼しいので、探査するには悪くない。延吉も都市整備を進めているようで、これまでガタガタのブロックが置かれていた歩道をコンクリートで固める工事があちこちで行われていた。しかし、例によって歩道は駐車場と化しており、歩行者は車道を歩かざるを得ない場所もたくさんある。また、上海と比べると自動車優先度が依然として高く、道路を横断するときは「周りの中国人と一緒に動く」必要がある(命の保証はしないが)。彼らは、どのタイミングでどのように動けば渡れるか心得ているようで、自動車の切れ目を上手にすり抜けていく。
ポシンタン(犬肉スープ)を食べたくて、baiduで検索したら、柳京ホテルの近く(徒歩10分)に英子狗肉館という店があった。なかなか大きな店で、朝鮮族の老人グループがビールを飲みながら大声で話をしていた(そして、ロシア人のカップルもいた)。注文を取りに来たのは漢族のニーチャンだったので、朝鮮語で話しかけると、支配人のような朝鮮族の女性が来てくれた。中国では、1人で食事をするという習慣がないのか、とにかく全てが大きい。この店のポシンタンも大きかったのだが、その中で一番小さなサイズを注文した。支配人は「肉が少ないですよ」と言っていたが、私には丁度良いか充分すぎるぐらい。食べているとやって来て「今朝仕入れた新鮮な肉だから美味しいでしょ」と。確かに美味しいのだが、一瞬、朝市の光景が頭に浮かんだ。ポシンタン、小サイズは22元だった。
<追記2: 2017/08/23 1327>
柳京ホテルがネットからも予約できるという情報を頂いた。ctripという中国のホテル予約サイトで、以前検索したときは出ていなかったか、ホテル名は項目として出てくるも予約できない状態になっていたのだが、今見ると、予約できるようになっている。朝食無しだと240元のようだ。私が泊まった部屋は左上の写真の部屋と同じ構造。
https://hotels.ctrip.com/hotel/5275510.html