ミサイルの軌道と到達時間:何とか理解できたかも・・ (2017年5月31日)
オランダ国防大学のSavelsberg先生とのメールのやりとりを通じて、ミサイルの軌道や到達時間を教えて頂いている。しかし、物理馬鹿の私の頭ではなかなか理解できないのだが、質問をするとかみ砕いて教えて下さるので、少し理解できたような気はしている。
そもそもの質問は、今回の「火星-12」型実験で採用されたロフテッド(高角度)軌道(lofted trajectory)ではなく、「低下飛翔経路(depressed trajectory)でミサイルを発射した場合、1300km先の地点(東京)にミサイルが到達する時間は?」であった。
この質問に答えるために、Savelsberg先生は、2枚のグラフを送って下さった。過去記事に掲載したように、ミサイルの軌道が直感的に分かるグラフであれば、物理馬鹿の私でも理解できるのだが、今度お送り頂いたグラフは、放物線のピークが下に来ている。この時点で頭が混乱する。
グラフ1

(作成:Ralph Savelsberg)
グラフ1は、ミサイル一般の飛行パターンを簡素化したグラフで、ブースト局面(boost phase)や再突入時(re-entry)は含まれていない。縦軸は、ロケット燃料を完全に燃焼した時(バーンアウト、burnout)の速度(km/s)、横軸はバーンアウトした時の軌道角度(対水平)である。
このグラフから分かることは、dの値が大きい、つまり到達距離が長いほど、バーンアウト時の速度が速く、また軌道角度も小さいということである。遠くに飛ばすためには、長い間エンジンを駆動しなければならないので速度も出るし、水平飛行に近い形で飛んでいくので軌道角度も小さくなるという理解で良いと思う。
北朝鮮の西海岸から東京までの直線距離は約1300kmとなるので、グラフ1では緑の線(飛行距離1000km)が最も近い。
過去記事に書いた、Savelsberg先生の推計によるパラ-メーターでシミュレーションを行うと、「火星-12」のバーンアウト速度は、5km/sとなる。グラフ1の緑の線(飛行距離1000km)でバーンアウト速度5km/s時のバーンアウト軌道角を見ると、約10度であることが分かる。
そして、続けてグラフ2を見る。
グラフ2

(作成:Ralph Savelsberg)
グラフ2は、縦軸が飛行時間(分)、横軸がバーンアウト時の軌道角(度)になっている。ボールドにしたように、グラフ1から、「火星-12」のバーンアウト速度での軌道角は10度であることが判明しているので、グラフ2の緑の線(飛行距離1000km)でバーンアウト角10度を見ると、5分ぐらいのところにあることがわかる。
この5分という数字に、ブーストフェーズや再突入フェーズ、そして東京までの実際の距離+300km程度を加味すると、8~10分ぐらいではないかというのが、Savelsberg先生の見方である。
以上は、「火星-12」のバーンアウト速度である5km/sを基準にしたものであるが、その他のミサイルの場合はどうなるのかということも、この2枚のグラフから推計できる。
再びグラフ1を見る。東京までの距離に最も近い緑の線を基準にすると、最少バーンアウト速度が分かる。緑のグラフの丸が付いている部分がそれで、3km/sとなっており、その時のバーンアウト軌道角は約40度である。
続けて、グラフ2の緑の線でバーンアウト軌道角40度の時の飛行時間を見ると、約8分になっている。こうしたことからすると、東京にはどのようなミサイルでも、10分~15分で到達するということになる。
では、「火星-XX」型に10000km飛行する能力があり、米国中西部まで到達できると仮定し、到達時間を見てみよう。
グラフ1で見られるように、そもそも「火星-12」のバーンアウト速度5km/sでは、10000kmは飛べない。最低でも7km/sのバーンアウト速度を確保できる「火星-20」(仮、実存しない)ぐらいが必要となる。「火星-20」が10000km飛行するときの最低バーンアウト速度7km/sのバーンアウト軌道角は約20度である。
グラフ2の水色の線(飛行距離10000km)のバーンアウト軌道角20度を見ると、約30分となっている。
米国が、「初めて」ICBMを大気圏外で撃墜する実験に成功したという報道があったが、発射が予告されたミサイルを打ち落としただけではないのだろうか。北朝鮮が言っているように、「任意の時刻に、任意の場所から」発射された場合、日本よりも時間的な余裕があるとはいえ、撃墜に成功するのかどうかは大いに疑問である。そもそも、今回、「初めて」成功したのだし、2度目以降は失敗するのかも知れないのだから。
『読売新聞』、「米軍、初のICBM迎撃実験に成功…北をけん制」、https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170531-00050006-yom-int
ともかく、一般的かつ簡素化されたグラフではあるが、Savelsberg先生が送って下さった2枚のグラフは、色々なことを考える参考になることは間違いない。
Thank you very much for lecturing some physics-ignorant like me, Professor Savelsberg. I hope this article will give a bit of information on missile maneuver to Japanese readers. Of course, if only I understand your explanation correctly, though.
<追記:2017/06/01>
Savelsberg先生にこのページを紹介するメールをお送りしておいたら、Google Translateを使ってご覧頂けた。結果、「お前の理解は正しい。物理馬鹿は卒業してよろしい」という有り難いお言葉だけではなく、「光明星ーXXに関する自由研究はおもしろかった」というお褒めの言葉まで頂けた。「分からなければ分かるまで質問する」そういう態度と、それに答えて下さる先生は貴重だと言うことを今更ながら実感した。
そもそもの質問は、今回の「火星-12」型実験で採用されたロフテッド(高角度)軌道(lofted trajectory)ではなく、「低下飛翔経路(depressed trajectory)でミサイルを発射した場合、1300km先の地点(東京)にミサイルが到達する時間は?」であった。
この質問に答えるために、Savelsberg先生は、2枚のグラフを送って下さった。過去記事に掲載したように、ミサイルの軌道が直感的に分かるグラフであれば、物理馬鹿の私でも理解できるのだが、今度お送り頂いたグラフは、放物線のピークが下に来ている。この時点で頭が混乱する。
グラフ1

(作成:Ralph Savelsberg)
グラフ1は、ミサイル一般の飛行パターンを簡素化したグラフで、ブースト局面(boost phase)や再突入時(re-entry)は含まれていない。縦軸は、ロケット燃料を完全に燃焼した時(バーンアウト、burnout)の速度(km/s)、横軸はバーンアウトした時の軌道角度(対水平)である。
このグラフから分かることは、dの値が大きい、つまり到達距離が長いほど、バーンアウト時の速度が速く、また軌道角度も小さいということである。遠くに飛ばすためには、長い間エンジンを駆動しなければならないので速度も出るし、水平飛行に近い形で飛んでいくので軌道角度も小さくなるという理解で良いと思う。
北朝鮮の西海岸から東京までの直線距離は約1300kmとなるので、グラフ1では緑の線(飛行距離1000km)が最も近い。
過去記事に書いた、Savelsberg先生の推計によるパラ-メーターでシミュレーションを行うと、「火星-12」のバーンアウト速度は、5km/sとなる。グラフ1の緑の線(飛行距離1000km)でバーンアウト速度5km/s時のバーンアウト軌道角を見ると、約10度であることが分かる。
そして、続けてグラフ2を見る。
グラフ2

(作成:Ralph Savelsberg)
グラフ2は、縦軸が飛行時間(分)、横軸がバーンアウト時の軌道角(度)になっている。ボールドにしたように、グラフ1から、「火星-12」のバーンアウト速度での軌道角は10度であることが判明しているので、グラフ2の緑の線(飛行距離1000km)でバーンアウト角10度を見ると、5分ぐらいのところにあることがわかる。
この5分という数字に、ブーストフェーズや再突入フェーズ、そして東京までの実際の距離+300km程度を加味すると、8~10分ぐらいではないかというのが、Savelsberg先生の見方である。
以上は、「火星-12」のバーンアウト速度である5km/sを基準にしたものであるが、その他のミサイルの場合はどうなるのかということも、この2枚のグラフから推計できる。
再びグラフ1を見る。東京までの距離に最も近い緑の線を基準にすると、最少バーンアウト速度が分かる。緑のグラフの丸が付いている部分がそれで、3km/sとなっており、その時のバーンアウト軌道角は約40度である。
続けて、グラフ2の緑の線でバーンアウト軌道角40度の時の飛行時間を見ると、約8分になっている。こうしたことからすると、東京にはどのようなミサイルでも、10分~15分で到達するということになる。
では、「火星-XX」型に10000km飛行する能力があり、米国中西部まで到達できると仮定し、到達時間を見てみよう。
グラフ1で見られるように、そもそも「火星-12」のバーンアウト速度5km/sでは、10000kmは飛べない。最低でも7km/sのバーンアウト速度を確保できる「火星-20」(仮、実存しない)ぐらいが必要となる。「火星-20」が10000km飛行するときの最低バーンアウト速度7km/sのバーンアウト軌道角は約20度である。
グラフ2の水色の線(飛行距離10000km)のバーンアウト軌道角20度を見ると、約30分となっている。
米国が、「初めて」ICBMを大気圏外で撃墜する実験に成功したという報道があったが、発射が予告されたミサイルを打ち落としただけではないのだろうか。北朝鮮が言っているように、「任意の時刻に、任意の場所から」発射された場合、日本よりも時間的な余裕があるとはいえ、撃墜に成功するのかどうかは大いに疑問である。そもそも、今回、「初めて」成功したのだし、2度目以降は失敗するのかも知れないのだから。
『読売新聞』、「米軍、初のICBM迎撃実験に成功…北をけん制」、https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170531-00050006-yom-int
ともかく、一般的かつ簡素化されたグラフではあるが、Savelsberg先生が送って下さった2枚のグラフは、色々なことを考える参考になることは間違いない。
Thank you very much for lecturing some physics-ignorant like me, Professor Savelsberg. I hope this article will give a bit of information on missile maneuver to Japanese readers. Of course, if only I understand your explanation correctly, though.
<追記:2017/06/01>
Savelsberg先生にこのページを紹介するメールをお送りしておいたら、Google Translateを使ってご覧頂けた。結果、「お前の理解は正しい。物理馬鹿は卒業してよろしい」という有り難いお言葉だけではなく、「光明星ーXXに関する自由研究はおもしろかった」というお褒めの言葉まで頂けた。「分からなければ分かるまで質問する」そういう態度と、それに答えて下さる先生は貴重だと言うことを今更ながら実感した。