「朝鮮民主主義人民共和国スポークスマン談話」(インドのICBM発射)(2012年4月23日「朝鮮中央通信」)
「朝鮮中央通信」が、また「外務省スポークスマン談話」を伝えた。再び李明博政権非難かと思ったら、今度はインドの長距離弾道ミサイル発射と北朝鮮の衛星発射を比較しながら、米国のダブルスタンダードを排撃する声明であった。
まず「終始一貫して透明性を持って進められた我々の平和的衛星発射を『長距離ミサイル発射』だと悪意に満ちた非難をして強圧的な『糾弾』騒ぎを主導した米国が、他の国が公然と進めた長距離ミサイル発射は庇護し、国際的な物議を醸している」中で、「米国は誰それは国際法をよく守るので問題ないが、我々はそうではないから問題するという詭弁を持ち出した」、「問題の本質は、彼らの言うことを聞かない国は国防力強化はもちろん、平和的発展までもさせないようにしなければならないが、彼らと関係が良い国は核兵器であれ長距離ミサイルであれ全て持っても問題ないという米国の二重基準適用にある」とし、インドとの関係に配慮しながら具体的な国名は挙げていないものの、インドの長距離ミサイル発射に対する米国のダブルスタンダードを非難している。
そして、国連安保理決議1718と1874は、「『宇宙はいかなる処罰もなく全ての国家により自由に開発・利用』されなければならないという普遍的な国際法も国連憲章にも明記された主権平等の原則も乱暴に踏みにじり、不法に作り出された二重基準の極致である」と主張し、こうしたダブルスタンダードは米国の「我々に対する敵対視政策の産物である」と結論づけている。
また、「国連安保理事会が米国の強権と横暴に振り回され、対朝鮮敵対視政策実現に悪用され、庇護者の後押しで再選された国連事務総長が下手人の本性を露わにして、我々を攻撃する突撃隊役を演じているというのが、今日の遺憾千万の現実である」と、韓国出身の国連事務総長である潘基文さんも非難の対象としている。
そして、「力があればこそ正義を守護し、世界の自主化も力強く主導することができ、我々が選択した自主の道、先軍の道が正当であるということを千回も一万回も立証している」と先軍政治の正統性を主張している。
確かに、インドの長距離弾道ミサイル発射実験に対し、米国も日本も非難をしていないようである。「ようである」というのは、この点についてきちんと確認していないからであるが、後で、米国の国務省報道官定例記者会見などをもう一度読み返してみようと思う。明らかに言えることは、日本はインドの長距離ミサイル発射に際して「破片迎撃対策」は全く講じなかった。確かに、インドと北朝鮮では日本からの距離も違うし、ロケット発射の実績もインドのが北朝鮮より上である。だから「安心」ということなのかもしれないが、北朝鮮の衛星ロケットの破片が「百万分の一の確率」で日本に落下するのであれば、インドの長距離弾道ミサイルが「千万分の一の確率」で日本に落下する可能性への対処はしないで良いのであろうか。もしかすると、今回の長距離弾道ミサイル発射実験は、関係国に事前の通告なしで行われたので、ミサイルが日本の上空を飛び越したとしても打ち落とす準備さえできなかったのかもしれない(そもそも、「順調に」飛翔していればPAC3が届かない高度なのかもしれない)。
米国は、インドの軍事力増強は自国に対する脅威ではなく、むしろ領土問題などを巡り歴史的にインドと微妙な関係にあり、また経済的にも競争関係にある中国に対する対抗勢力と捉えているのであろう。インドは事実上の核保有国であり、その国が米国に到達する長距離ミサイルを保有することになれば、本当は米国にとって北朝鮮どころではない脅威になるはずである。さらに、それは米国のみならず国際的にも核の脅威のレベルを高める、いいかえれば、オバマ大統領が目指す「核なき世界」実現への逆行であると考えるべきではないだろうか。インドが「民主国家」ではなく、北朝鮮のような「独裁国家」であったならば、間違いなく北朝鮮に対して出されたような安保理決議が出されるであろう。
北朝鮮の「核・ミサイル」問題に対処して行く上で、このようなダブルスタンダードの繰り返しは絶対に好ましくない。その意味で、北朝鮮の衛星発射直後のインドの長距離弾道ミサイル発射というのは、最悪のタイミングであったといわざるを得ない。
北朝鮮の先軍政治や核・ミサイル開発に賛成するわけではないが、今回の「談話」には納得する部分が少しはある。
<追記:2012年4月24日 15:31>
4月18・19日の米国務省報道官定例記者会見のインドの弾道ミサイル発射関連部分を読み直してみた。トナー報道官は、インドの弾道ミサイル発射に関する質問に以下のように答えている。
http://www.state.gov/r/pa/prs/dpb/2012/04/188105.htm#India
http://www.state.gov/r/pa/prs/dpb/2012/04/188120.htm
1.米国とインドは非常に強力な戦略・安全保障におけるパートナーの関係にある。しかし、インドとの協議でこの問題について取り上げたとは認識していない。
2.しかし、インドが4月18日から20日の間に弾道ミサイル試験を計画しているという「レポート」は確かに見た。また、それが延期されたというマスコミの報道も見た。
3.我々は、全ての核能力国(nuclear-capable states)に対して、核能力に関する自制を求めている。
4.インドは、確実な核不拡散の記録を有しており、核不拡散において国際社会と協力している。
5.インドのシン首相は、ワシントンとソウルの核安全サミットに出席した。
国連安保理決議1874という錦の御旗が掲げられているので、それ以外の事情については捨象されているが、仮に1874がなかったらとして考えてみよう。
まず、1の米国とのパートナー関係は、当然北朝鮮にはない。パートナーどころか、敵対関係(休戦中)である。しかし、核やミサイルについては、機会があるごとに「協議」は行っている。
トナー報道官は「レポート(report)」と言っているのだが、それが何なのかは分からない。インド政府はどのような形でミサイル発射試験を発表し、北朝鮮がしたと主張しているように「透明性ある」通告を国際機関に行ったのであろうか。
トナーさんはNPTの枠組み内での「核保有国」と分けるという意味であろうが、インドを「核保有国(nuclear-weapon states)」と呼んでいない。その系で行けば、北朝鮮も「核能力国」である。
インドは、「確実な核不拡散の記録を有している」し、米国をはじめとする国際社会と協力的なので、信頼できる国である。だから、国際の平和に脅威となり得る弾道ミサイルを核兵器とセットで開発することを容認するということであろうか。
核安全サミットには、北朝鮮は出席したくてもさせてもらえなかったであろう。
関連記事:「“核能力国”北朝鮮がソウル核安全保障サミットに招待されない理由」(2012年3月14日 「中央日報」)
http://japanese.joins.com/article/172/149172.html
まず「終始一貫して透明性を持って進められた我々の平和的衛星発射を『長距離ミサイル発射』だと悪意に満ちた非難をして強圧的な『糾弾』騒ぎを主導した米国が、他の国が公然と進めた長距離ミサイル発射は庇護し、国際的な物議を醸している」中で、「米国は誰それは国際法をよく守るので問題ないが、我々はそうではないから問題するという詭弁を持ち出した」、「問題の本質は、彼らの言うことを聞かない国は国防力強化はもちろん、平和的発展までもさせないようにしなければならないが、彼らと関係が良い国は核兵器であれ長距離ミサイルであれ全て持っても問題ないという米国の二重基準適用にある」とし、インドとの関係に配慮しながら具体的な国名は挙げていないものの、インドの長距離ミサイル発射に対する米国のダブルスタンダードを非難している。
そして、国連安保理決議1718と1874は、「『宇宙はいかなる処罰もなく全ての国家により自由に開発・利用』されなければならないという普遍的な国際法も国連憲章にも明記された主権平等の原則も乱暴に踏みにじり、不法に作り出された二重基準の極致である」と主張し、こうしたダブルスタンダードは米国の「我々に対する敵対視政策の産物である」と結論づけている。
また、「国連安保理事会が米国の強権と横暴に振り回され、対朝鮮敵対視政策実現に悪用され、庇護者の後押しで再選された国連事務総長が下手人の本性を露わにして、我々を攻撃する突撃隊役を演じているというのが、今日の遺憾千万の現実である」と、韓国出身の国連事務総長である潘基文さんも非難の対象としている。
そして、「力があればこそ正義を守護し、世界の自主化も力強く主導することができ、我々が選択した自主の道、先軍の道が正当であるということを千回も一万回も立証している」と先軍政治の正統性を主張している。
確かに、インドの長距離弾道ミサイル発射実験に対し、米国も日本も非難をしていないようである。「ようである」というのは、この点についてきちんと確認していないからであるが、後で、米国の国務省報道官定例記者会見などをもう一度読み返してみようと思う。明らかに言えることは、日本はインドの長距離ミサイル発射に際して「破片迎撃対策」は全く講じなかった。確かに、インドと北朝鮮では日本からの距離も違うし、ロケット発射の実績もインドのが北朝鮮より上である。だから「安心」ということなのかもしれないが、北朝鮮の衛星ロケットの破片が「百万分の一の確率」で日本に落下するのであれば、インドの長距離弾道ミサイルが「千万分の一の確率」で日本に落下する可能性への対処はしないで良いのであろうか。もしかすると、今回の長距離弾道ミサイル発射実験は、関係国に事前の通告なしで行われたので、ミサイルが日本の上空を飛び越したとしても打ち落とす準備さえできなかったのかもしれない(そもそも、「順調に」飛翔していればPAC3が届かない高度なのかもしれない)。
米国は、インドの軍事力増強は自国に対する脅威ではなく、むしろ領土問題などを巡り歴史的にインドと微妙な関係にあり、また経済的にも競争関係にある中国に対する対抗勢力と捉えているのであろう。インドは事実上の核保有国であり、その国が米国に到達する長距離ミサイルを保有することになれば、本当は米国にとって北朝鮮どころではない脅威になるはずである。さらに、それは米国のみならず国際的にも核の脅威のレベルを高める、いいかえれば、オバマ大統領が目指す「核なき世界」実現への逆行であると考えるべきではないだろうか。インドが「民主国家」ではなく、北朝鮮のような「独裁国家」であったならば、間違いなく北朝鮮に対して出されたような安保理決議が出されるであろう。
北朝鮮の「核・ミサイル」問題に対処して行く上で、このようなダブルスタンダードの繰り返しは絶対に好ましくない。その意味で、北朝鮮の衛星発射直後のインドの長距離弾道ミサイル発射というのは、最悪のタイミングであったといわざるを得ない。
北朝鮮の先軍政治や核・ミサイル開発に賛成するわけではないが、今回の「談話」には納得する部分が少しはある。
<追記:2012年4月24日 15:31>
4月18・19日の米国務省報道官定例記者会見のインドの弾道ミサイル発射関連部分を読み直してみた。トナー報道官は、インドの弾道ミサイル発射に関する質問に以下のように答えている。
http://www.state.gov/r/pa/prs/dpb/2012/04/188105.htm#India
http://www.state.gov/r/pa/prs/dpb/2012/04/188120.htm
1.米国とインドは非常に強力な戦略・安全保障におけるパートナーの関係にある。しかし、インドとの協議でこの問題について取り上げたとは認識していない。
2.しかし、インドが4月18日から20日の間に弾道ミサイル試験を計画しているという「レポート」は確かに見た。また、それが延期されたというマスコミの報道も見た。
3.我々は、全ての核能力国(nuclear-capable states)に対して、核能力に関する自制を求めている。
4.インドは、確実な核不拡散の記録を有しており、核不拡散において国際社会と協力している。
5.インドのシン首相は、ワシントンとソウルの核安全サミットに出席した。
国連安保理決議1874という錦の御旗が掲げられているので、それ以外の事情については捨象されているが、仮に1874がなかったらとして考えてみよう。
まず、1の米国とのパートナー関係は、当然北朝鮮にはない。パートナーどころか、敵対関係(休戦中)である。しかし、核やミサイルについては、機会があるごとに「協議」は行っている。
トナー報道官は「レポート(report)」と言っているのだが、それが何なのかは分からない。インド政府はどのような形でミサイル発射試験を発表し、北朝鮮がしたと主張しているように「透明性ある」通告を国際機関に行ったのであろうか。
トナーさんはNPTの枠組み内での「核保有国」と分けるという意味であろうが、インドを「核保有国(nuclear-weapon states)」と呼んでいない。その系で行けば、北朝鮮も「核能力国」である。
インドは、「確実な核不拡散の記録を有している」し、米国をはじめとする国際社会と協力的なので、信頼できる国である。だから、国際の平和に脅威となり得る弾道ミサイルを核兵器とセットで開発することを容認するということであろうか。
核安全サミットには、北朝鮮は出席したくてもさせてもらえなかったであろう。
関連記事:「“核能力国”北朝鮮がソウル核安全保障サミットに招待されない理由」(2012年3月14日 「中央日報」)
http://japanese.joins.com/article/172/149172.html