「朝鮮民主主義人民共和国資金洗浄及びテロ資金支援防止のための国家調整委員会スポークスマン談話」：中国の銀行をターゲットにしているが実効力確保は？ （2016年6月4日 「朝鮮中央通信」）
４日、「朝鮮中央通信」に米財務省が出した「米国愛国法第311条」に基づく「北朝鮮が主なマネーロンダリング憂慮対象国である調査結果発表」に抗議する「資金洗浄及びテロ資金支援防止のための国家調整委員会スポークスマン談話」が掲載された。
米財務省の「調査結果」は以下にあるが、とても長くて読んでいると疲れてしまう。
U.S. Department of the Treasury, https://s3.amazonaws.com/public-inspection.federalregister.gov/2016-13038.pdf
「米国愛国法第311条」 というのは、米財務省が米国内の金融機関等を対象に、「主なマネーロンダリング対象」に対する「特別措置」を求めるもので、北朝鮮については、米国の金融機関等が北朝鮮と取引をするための口座の開設やその維持を禁止し、他国の金融機関等が北朝鮮との取引のために米国内の金融機関の口座を使うことも禁止している。
この措置は、北朝鮮による偽造米100ドル札製造事件を受け、2005年にマカオの Banco Delta Asia (BDA)に対して適用されたが、今回はそれを北朝鮮と取引がある国内外の全ての銀行に拡大したものである。ただし、6月1日に出されたものは「調査結果」であり、最終決定には至っていない。
今回の措置は、北朝鮮と事実上の金融取引関係を持っている中国の銀行をターゲットとしたものであろうが、この措置が中国の銀行にどのような影響を与えるかは、不透明である。というのは、中国の銀行は政府の強い統制下にあり、中国政府が北朝鮮との取引を止めるように指示すれば一斉に止めるし、止めるなといえば止めることはできない。資本主義国日本の銀行ですら、21世紀の入り口頃までは政府の強い統制を受けていたことと比較しても、中国の銀行の自己裁量の狭さは容易に想像できる。
では、中国政府はどうするのかというと、北朝鮮との取引を規制する可能性は低い。過去記事でも、石炭を満載した北朝鮮貨物船が依然として中朝間を行き来している様子を北朝鮮貨物船の航行データを追跡しながら示したが、それを中国政府が許しているのは、その石炭売却で得られた資金は｢人民生活」に使われているという認識を、表面上だけにせよ持っているからである。これは、最新版の安保理制裁の内容にも抵触しない（安保理制裁は、当該国に資金の流れを徹底的に追跡することは求めていない）。だとすると、中国の銀行を通して「人民生活」と関わる資金が動くことは十分にあるし、場合によってはそれが米国の銀行の口座を通過するかもしれない。国際金融システムは大変複雑でよく分からないが、恐らくそういうこともあるのだろう。
では、米国は中国の銀行、これは上述の通り個別の銀行ではなく「中国版護送船団方式」で動く中国全ての銀行を、今回の措置に違反していることを理由に取引停止にできるのかといえば、そんなことは絶対にできない。世界経済に占める中国の位置を考えれば、当たり前のことである。北朝鮮ごとしで、世界経済を大混乱に陥れることなどするはずがない。
こうした点からして、今回の措置は、経済規模が小さい小国の銀行に対しては実効力があったとしても、北朝鮮の多くの資金が流れている中国の銀行に対する実効力は乏しく、トータルでは象徴的な措置となるのではないだろうか。北朝鮮もBDAで痛い目に遭っているので、そうした事態を回避するよう資金ルートを分散させるなどの対策を講じているはずである。
それで、「国家調整委員会スポークスマン」は何を言っているのかというと、主要部分は以下。
**********
米国が我が国に「核伝播国」、「人権蹂躙国」など、各種各様のレッテルを貼り付けるだけでは足りず、「資金洗浄国」の帽子をかぶせることも常套手段にすぎないので、我々は少しも驚かない。
미국이 우리 나라에 《핵전파국》,《인권유린국》 등 별의별 딱지를 다 붙이다못해 《자금세척국》모자를 씌워보려는데 대해서도 상투적인 수법에 불과하므로 우리는 조금도 놀라지 않는다.
国際的な資金洗浄及びテロ資金支援防止分野で我が国と国際金融監督機構との協力がきちんと行われていることに反して、このような低質な騒ぎを起こしている米国の卑劣な策動に対して、世界はよく知らなければならず、注意深く対処しなければならない。
국제적인 자금세척 및 테로자금지원방지분야에서 우리 나라와 국제금융감독기구와의 협력이 잘되고있는것과 상반되게 이런 너절한 놀음을 벌려놓고있는 미국의 비렬한 책동에 대하여 세계는 잘 알아야 하며 각성있게 대하여야 한다.
我々は、資金洗浄及びテロ資金支援に反対する一貫した立場から、国際的基準に適合するよう資金洗浄防止のための金融監督局と金融情報局を設立するなど、国家的な整然とした体系を樹立し、資金洗浄及びテロ資金支援反対法を採択しており、テロに対する財政支援を抑制することに関する国際協約にも加入するなど、機構との協力を継続して緊密に行ってきた。
우리는 자금세척 및 테로자금지원을 반대하는 일관한 립장으로부터 국제적기준에 부합되게 자금세척방지를 위하여 금융감독국과 금융정보국을 내오는 등 국가적인 정연한 체계를 수립하고 자금세척 및 테로자금지원반대법을 채택하였으며 테로에 대한 재정지원을 억제할데 대한 국제협약에도 가입하는 등 기구와의 협력을 계속 긴밀히 해오고있다.
米国が今回の指定騒ぎで彼らの不純な政治的目的を実現できると考えるのなら、それほど大きな誤算はない。
미국이 이번 지정놀음으로 저들의 불순한 정치적목적을 실현할수 있다고 생각한다면 그보다 더 큰 오산은 없다.
米国が、いくら悪辣な行動を取っても、固く培ってきた軍力と不屈の自力自強の精神で社会主義強国を建設している我々の前途を遮ることはできない。
미국이 제아무리 갖은 발악을 다해도 억척으로 다져온 군력과 불굴의 자력자강의 정신으로 사회주의강국을 건설하고있는 우리의 앞길을 가로막지 못할것이다.
朝鮮民主主義人民共和国資金洗浄及びテロ資金支援防止のための国家調整委員会スポークスマン談話
조선민주주의인민공화국 자금세척 및 테로자금지원방지를 위한 국가조정위원회 대변인담화
**************
「朝鮮中央TV」だったのか「uriminzokkiri-TV」動画だったのか忘れてしまったが、「米国と追従勢力がいくら制裁を加えても、中国やロシアなど、友好国と経済関係が維持されているから問題ない」というテロップかナレーションがあった番組がある。ここまで核心を突いた表現をよくぞ使ったと思いながら見ていたのだが、後から記事か字幕を付けてYouTubeにアップロードしようと思っていたところ、見つけることができなくなってしまった。
李洙墉訪中では、このようなことも話題になったのであろうが、「米国と追従勢力」が対北朝鮮制裁を強めすぎた結果、北朝鮮の対中依存度が高まり、北朝鮮制裁の実効性の鍵を完全に中国に握られる形になってしまった。そんな中、北朝鮮はクリミア・ウクライナ問題で西側との関係が悪化したロシアとの関係も強化し、保険を掛けることにも成功した。南シナ海問題を巡り、米中関係の悪化こそ予想されても好転の可能性が低い中、米国にとってはますます扱いにくい問題になっているはずである。THAAD配備による中露に対する嫌がらせも、それが両国をして北朝鮮への圧力を高める方向で作用するのではなく、単に米国に対する反発を強めるだけになっている。
国際関係に対する読みは、お父さん（「将軍様｣）の時代同様、息子さん（「元帥様」）の時代に至っても、米国よりは一枚上手のようだ。
米財務省の「調査結果」は以下にあるが、とても長くて読んでいると疲れてしまう。
U.S. Department of the Treasury, https://s3.amazonaws.com/public-inspection.federalregister.gov/2016-13038.pdf
「米国愛国法第311条」 というのは、米財務省が米国内の金融機関等を対象に、「主なマネーロンダリング対象」に対する「特別措置」を求めるもので、北朝鮮については、米国の金融機関等が北朝鮮と取引をするための口座の開設やその維持を禁止し、他国の金融機関等が北朝鮮との取引のために米国内の金融機関の口座を使うことも禁止している。
この措置は、北朝鮮による偽造米100ドル札製造事件を受け、2005年にマカオの Banco Delta Asia (BDA)に対して適用されたが、今回はそれを北朝鮮と取引がある国内外の全ての銀行に拡大したものである。ただし、6月1日に出されたものは「調査結果」であり、最終決定には至っていない。
今回の措置は、北朝鮮と事実上の金融取引関係を持っている中国の銀行をターゲットとしたものであろうが、この措置が中国の銀行にどのような影響を与えるかは、不透明である。というのは、中国の銀行は政府の強い統制下にあり、中国政府が北朝鮮との取引を止めるように指示すれば一斉に止めるし、止めるなといえば止めることはできない。資本主義国日本の銀行ですら、21世紀の入り口頃までは政府の強い統制を受けていたことと比較しても、中国の銀行の自己裁量の狭さは容易に想像できる。
では、中国政府はどうするのかというと、北朝鮮との取引を規制する可能性は低い。過去記事でも、石炭を満載した北朝鮮貨物船が依然として中朝間を行き来している様子を北朝鮮貨物船の航行データを追跡しながら示したが、それを中国政府が許しているのは、その石炭売却で得られた資金は｢人民生活」に使われているという認識を、表面上だけにせよ持っているからである。これは、最新版の安保理制裁の内容にも抵触しない（安保理制裁は、当該国に資金の流れを徹底的に追跡することは求めていない）。だとすると、中国の銀行を通して「人民生活」と関わる資金が動くことは十分にあるし、場合によってはそれが米国の銀行の口座を通過するかもしれない。国際金融システムは大変複雑でよく分からないが、恐らくそういうこともあるのだろう。
では、米国は中国の銀行、これは上述の通り個別の銀行ではなく「中国版護送船団方式」で動く中国全ての銀行を、今回の措置に違反していることを理由に取引停止にできるのかといえば、そんなことは絶対にできない。世界経済に占める中国の位置を考えれば、当たり前のことである。北朝鮮ごとしで、世界経済を大混乱に陥れることなどするはずがない。
こうした点からして、今回の措置は、経済規模が小さい小国の銀行に対しては実効力があったとしても、北朝鮮の多くの資金が流れている中国の銀行に対する実効力は乏しく、トータルでは象徴的な措置となるのではないだろうか。北朝鮮もBDAで痛い目に遭っているので、そうした事態を回避するよう資金ルートを分散させるなどの対策を講じているはずである。
それで、「国家調整委員会スポークスマン」は何を言っているのかというと、主要部分は以下。
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米国が我が国に「核伝播国」、「人権蹂躙国」など、各種各様のレッテルを貼り付けるだけでは足りず、「資金洗浄国」の帽子をかぶせることも常套手段にすぎないので、我々は少しも驚かない。
미국이 우리 나라에 《핵전파국》,《인권유린국》 등 별의별 딱지를 다 붙이다못해 《자금세척국》모자를 씌워보려는데 대해서도 상투적인 수법에 불과하므로 우리는 조금도 놀라지 않는다.
国際的な資金洗浄及びテロ資金支援防止分野で我が国と国際金融監督機構との協力がきちんと行われていることに反して、このような低質な騒ぎを起こしている米国の卑劣な策動に対して、世界はよく知らなければならず、注意深く対処しなければならない。
국제적인 자금세척 및 테로자금지원방지분야에서 우리 나라와 국제금융감독기구와의 협력이 잘되고있는것과 상반되게 이런 너절한 놀음을 벌려놓고있는 미국의 비렬한 책동에 대하여 세계는 잘 알아야 하며 각성있게 대하여야 한다.
我々は、資金洗浄及びテロ資金支援に反対する一貫した立場から、国際的基準に適合するよう資金洗浄防止のための金融監督局と金融情報局を設立するなど、国家的な整然とした体系を樹立し、資金洗浄及びテロ資金支援反対法を採択しており、テロに対する財政支援を抑制することに関する国際協約にも加入するなど、機構との協力を継続して緊密に行ってきた。
우리는 자금세척 및 테로자금지원을 반대하는 일관한 립장으로부터 국제적기준에 부합되게 자금세척방지를 위하여 금융감독국과 금융정보국을 내오는 등 국가적인 정연한 체계를 수립하고 자금세척 및 테로자금지원반대법을 채택하였으며 테로에 대한 재정지원을 억제할데 대한 국제협약에도 가입하는 등 기구와의 협력을 계속 긴밀히 해오고있다.
米国が今回の指定騒ぎで彼らの不純な政治的目的を実現できると考えるのなら、それほど大きな誤算はない。
미국이 이번 지정놀음으로 저들의 불순한 정치적목적을 실현할수 있다고 생각한다면 그보다 더 큰 오산은 없다.
米国が、いくら悪辣な行動を取っても、固く培ってきた軍力と不屈の自力自強の精神で社会主義強国を建設している我々の前途を遮ることはできない。
미국이 제아무리 갖은 발악을 다해도 억척으로 다져온 군력과 불굴의 자력자강의 정신으로 사회주의강국을 건설하고있는 우리의 앞길을 가로막지 못할것이다.
朝鮮民主主義人民共和国資金洗浄及びテロ資金支援防止のための国家調整委員会スポークスマン談話
조선민주주의인민공화국 자금세척 및 테로자금지원방지를 위한 국가조정위원회 대변인담화
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「朝鮮中央TV」だったのか「uriminzokkiri-TV」動画だったのか忘れてしまったが、「米国と追従勢力がいくら制裁を加えても、中国やロシアなど、友好国と経済関係が維持されているから問題ない」というテロップかナレーションがあった番組がある。ここまで核心を突いた表現をよくぞ使ったと思いながら見ていたのだが、後から記事か字幕を付けてYouTubeにアップロードしようと思っていたところ、見つけることができなくなってしまった。
李洙墉訪中では、このようなことも話題になったのであろうが、「米国と追従勢力」が対北朝鮮制裁を強めすぎた結果、北朝鮮の対中依存度が高まり、北朝鮮制裁の実効性の鍵を完全に中国に握られる形になってしまった。そんな中、北朝鮮はクリミア・ウクライナ問題で西側との関係が悪化したロシアとの関係も強化し、保険を掛けることにも成功した。南シナ海問題を巡り、米中関係の悪化こそ予想されても好転の可能性が低い中、米国にとってはますます扱いにくい問題になっているはずである。THAAD配備による中露に対する嫌がらせも、それが両国をして北朝鮮への圧力を高める方向で作用するのではなく、単に米国に対する反発を強めるだけになっている。
国際関係に対する読みは、お父さん（「将軍様｣）の時代同様、息子さん（「元帥様」）の時代に至っても、米国よりは一枚上手のようだ。
