「米国人学生ウァムビア北朝鮮で懲役15年」:スローガンを外しただけで (2016年3月16日 「新華社通信」)
<追記>
17日の「朝鮮中央TV」を見ていたら、裁判は3月16日に開催されたと報じた。ただし、刑がいつから執行されていたのかについては依然として不明。
ニュースに日本語字幕を付けてYouTubeにアップロードしておいた。

Source: YouTube, dprknow channel, https://youtu.be/fzayyZ7qENs
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16日の「新華社通信」によると、米国人学生ウァムビアが15年の「労働教化刑」を北朝鮮の最高裁で宣告され、抗告は認められず、刑が確定した。
Xinhua, American student Warmbier sentenced to 15 years of hard labor in DPRK, http://news.xinhuanet.com/english/2016-03/16/c_135194093.htm
北朝鮮の裁判所に連行されたウァムビア

Source: Xinhua, American student Warmbier sentenced to 15 years of hard labor in DPRK, http://news.xinhuanet.com/english/2016-03/16/c_135194093.htm
過去記事にも書いたし、YouTubeにもウァムビアの記者会見の動画をアップロードしておいたが、彼が行ったのは、羊角島ホテルの従業員エリアにスローガンボードを盗む目的で侵入、スローガンが大きすぎたことと、発覚が怖くなりスローガンを壁から外して床に置いたままその場を立ち去った、これだけである。これがスローガンではなく、1億円の金塊であったとしても犯罪としては窃盗未遂。北朝鮮の窃盗罪とその未遂の場合の減刑措置については、過去記事に書いたとおりである。
ところが、窃盗罪ではなく「国家転覆陰謀罪」が適用されたのは、ウァムビアが「敵対勢力の指示を受け、朝鮮人民の団結を阻害し、北朝鮮の体制を転覆させようとした」と自白したからということのようだ。
では、今回適用された「国家転覆陰謀罪」とは、どのような罪なのか北朝鮮の『法典』で確認する。
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第13章 反国家及び反民族犯罪
第1節
第60条(国家転覆陰謀罪)
反国家目的で政変、暴動、デモ、襲撃に参加したり、陰謀に加担した者は、5年以上の労働教化刑に処す。情状が特に重い場合は、無期労働教化刑または死刑及び財産没収刑に処す。
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北朝鮮刑法が2013年12月以降改定されていないのであれば、張成沢に適用された「第60条」と同じ条項になり、張成沢の場合は、「情状が特に重い」とされ、死刑判決が出され、即刻死刑が執行された。
ウァムビアの場合、「5年以上の労働教化刑」の中でも死刑に近い重い刑期の宣告を受けたと思われる。それにしても、ウァムビアの自白どおり目的が不純であったとしても、スローガンを外しただけで「国家転覆陰謀罪」が適用され、「労働教化刑15年」を宣告されるというのは、どう考えても重すぎる。前にも書いたと思うが、「米帝と傀儡共が合同軍事訓練でどれだけ悪辣に策動しても、眉をピクリとも動かさない朝鮮人民」が、「敵対組織の下手人がスローガンを外した」程度、何でもないはずである。窃盗未遂ならば、従業員エリアの床の雑巾がけでもさせて反省させればよい。
ウァムビアが侵入したとされる2階ではないが、5階に侵入した米国人学生が撮影した写真や動画が下のサイトにある。
http://monsoondiaries.com/2011/08/23/piso-cinco/
エレベータに2階と5階のボタンがないというのはおもしろいが、壁に掛けられている宣伝画類に特別なものはなく、街中や「朝鮮中央TV」で普通に見られるものばかりである。
ウァムビアは最悪のタイミングで、軽率な行動をしたために、「労働教化刑15年」となったのであろう。「新華社」によると「労働教化刑は2月4日から執行されている」と書かれているので、彼が記者会見をした時点で、ほぼ1ヶ月間「労働教化刑」を受けていたことになる。刑が確定する前から刑が執行されるというのは変に感じるが、「新華社」の記事によると、「水曜日(3月16日)に最高裁が発表した」とあるので、2月4日の時点で刑が確定していたのかもしれない。
しかし、だとうするとタイムラインでおかしなことがある。ウァムビアは「朝鮮中央TV」で3月1日に放送された「記者会見」で、「高級なホテルクラスの宿所で暮らしており、1日3食よい食事を食べ、1日に1時間外の散歩も許されている」と発言している。そうだとすると、一つ間違えば死刑に値する大罪を犯した人間に対しては、世界で最も人道主義的な対応とでも言えるほど、よい待遇を受けていることになる。また、この時点で彼は、「労働教化刑」の実態については発言していない。
「新華社」の記事を私が読み間違っていなければ、上記のようにタイムラインで奇妙なことが起こっていることになる。
「朝鮮中央通信」等、北朝鮮メディアは、ウァムビアに対する判決に関する報道はしていない。
16日に米国務省定例記者会見でもこの話題が出され、国務省報道官は「米国政府と米国務省は、米国市民に北朝鮮旅行をしないことを勧告する」と2回くり返しながら発言している。ウァムビアについては、スウェーデン大使館担当者との接触が許され、裁判も同大使館員が傍聴したとしている。また、同大使館員からの情報として、ウァムビアの健康状態は良好だという。米国は、北朝鮮に対しウァムビアを特別な恩赦を与え、即時釈放することを求めているという。
U.S. Department of State, Daily Press Briefing, http://www.state.gov/r/pa/prs/dpb/2016/03/254764.htm#NORTHKOREA
米国としては、北朝鮮に利用されないようウァムビア問題を必要以上に大きく取り上げず、北朝鮮に外貨を落とす米国市民の旅行を自粛させるという方針なのであろう。
17日の「朝鮮中央TV」を見ていたら、裁判は3月16日に開催されたと報じた。ただし、刑がいつから執行されていたのかについては依然として不明。
ニュースに日本語字幕を付けてYouTubeにアップロードしておいた。

Source: YouTube, dprknow channel, https://youtu.be/fzayyZ7qENs
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16日の「新華社通信」によると、米国人学生ウァムビアが15年の「労働教化刑」を北朝鮮の最高裁で宣告され、抗告は認められず、刑が確定した。
Xinhua, American student Warmbier sentenced to 15 years of hard labor in DPRK, http://news.xinhuanet.com/english/2016-03/16/c_135194093.htm
北朝鮮の裁判所に連行されたウァムビア

Source: Xinhua, American student Warmbier sentenced to 15 years of hard labor in DPRK, http://news.xinhuanet.com/english/2016-03/16/c_135194093.htm
過去記事にも書いたし、YouTubeにもウァムビアの記者会見の動画をアップロードしておいたが、彼が行ったのは、羊角島ホテルの従業員エリアにスローガンボードを盗む目的で侵入、スローガンが大きすぎたことと、発覚が怖くなりスローガンを壁から外して床に置いたままその場を立ち去った、これだけである。これがスローガンではなく、1億円の金塊であったとしても犯罪としては窃盗未遂。北朝鮮の窃盗罪とその未遂の場合の減刑措置については、過去記事に書いたとおりである。
ところが、窃盗罪ではなく「国家転覆陰謀罪」が適用されたのは、ウァムビアが「敵対勢力の指示を受け、朝鮮人民の団結を阻害し、北朝鮮の体制を転覆させようとした」と自白したからということのようだ。
では、今回適用された「国家転覆陰謀罪」とは、どのような罪なのか北朝鮮の『法典』で確認する。
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第13章 反国家及び反民族犯罪
第1節
第60条(国家転覆陰謀罪)
反国家目的で政変、暴動、デモ、襲撃に参加したり、陰謀に加担した者は、5年以上の労働教化刑に処す。情状が特に重い場合は、無期労働教化刑または死刑及び財産没収刑に処す。
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北朝鮮刑法が2013年12月以降改定されていないのであれば、張成沢に適用された「第60条」と同じ条項になり、張成沢の場合は、「情状が特に重い」とされ、死刑判決が出され、即刻死刑が執行された。
ウァムビアの場合、「5年以上の労働教化刑」の中でも死刑に近い重い刑期の宣告を受けたと思われる。それにしても、ウァムビアの自白どおり目的が不純であったとしても、スローガンを外しただけで「国家転覆陰謀罪」が適用され、「労働教化刑15年」を宣告されるというのは、どう考えても重すぎる。前にも書いたと思うが、「米帝と傀儡共が合同軍事訓練でどれだけ悪辣に策動しても、眉をピクリとも動かさない朝鮮人民」が、「敵対組織の下手人がスローガンを外した」程度、何でもないはずである。窃盗未遂ならば、従業員エリアの床の雑巾がけでもさせて反省させればよい。
ウァムビアが侵入したとされる2階ではないが、5階に侵入した米国人学生が撮影した写真や動画が下のサイトにある。
http://monsoondiaries.com/2011/08/23/piso-cinco/
エレベータに2階と5階のボタンがないというのはおもしろいが、壁に掛けられている宣伝画類に特別なものはなく、街中や「朝鮮中央TV」で普通に見られるものばかりである。
ウァムビアは最悪のタイミングで、軽率な行動をしたために、「労働教化刑15年」となったのであろう。「新華社」によると「労働教化刑は2月4日から執行されている」と書かれているので、彼が記者会見をした時点で、ほぼ1ヶ月間「労働教化刑」を受けていたことになる。刑が確定する前から刑が執行されるというのは変に感じるが、「新華社」の記事によると、「水曜日(3月16日)に最高裁が発表した」とあるので、2月4日の時点で刑が確定していたのかもしれない。
しかし、だとうするとタイムラインでおかしなことがある。ウァムビアは「朝鮮中央TV」で3月1日に放送された「記者会見」で、「高級なホテルクラスの宿所で暮らしており、1日3食よい食事を食べ、1日に1時間外の散歩も許されている」と発言している。そうだとすると、一つ間違えば死刑に値する大罪を犯した人間に対しては、世界で最も人道主義的な対応とでも言えるほど、よい待遇を受けていることになる。また、この時点で彼は、「労働教化刑」の実態については発言していない。
「新華社」の記事を私が読み間違っていなければ、上記のようにタイムラインで奇妙なことが起こっていることになる。
「朝鮮中央通信」等、北朝鮮メディアは、ウァムビアに対する判決に関する報道はしていない。
16日に米国務省定例記者会見でもこの話題が出され、国務省報道官は「米国政府と米国務省は、米国市民に北朝鮮旅行をしないことを勧告する」と2回くり返しながら発言している。ウァムビアについては、スウェーデン大使館担当者との接触が許され、裁判も同大使館員が傍聴したとしている。また、同大使館員からの情報として、ウァムビアの健康状態は良好だという。米国は、北朝鮮に対しウァムビアを特別な恩赦を与え、即時釈放することを求めているという。
U.S. Department of State, Daily Press Briefing, http://www.state.gov/r/pa/prs/dpb/2016/03/254764.htm#NORTHKOREA
米国としては、北朝鮮に利用されないようウァムビア問題を必要以上に大きく取り上げず、北朝鮮に外貨を落とす米国市民の旅行を自粛させるという方針なのであろう。