「ケリー、王共同記者会見」:中米の問題に対する温度差 (2016年1月27日 「米国務省」)
北京で行われた米中外相会談後の共同記者会見のプレスリリースが米国務省HPに掲載されていた。ケリー国務長官は、北朝鮮問題を巡る発言について関係者と協議するために王毅中国外交部長を待たたことについて、発言の冒頭で謝罪をしている。それほど、米国にとって北朝鮮核問題は重要であったにもかかわらず、王毅外交部長の発言順序は以下のとおりで、北朝鮮核問題は回の扱いとなっており、英語に翻訳された単語数で数えると39%となっている。
王毅中国外交部長:
発言内容の順:
1.中米関係一般
2.米中戦略経済対話(S&ED)
3.米中二国間投資協定(BIT)
4.気候変動枠組み条約(COP21)
5.台湾問題
6.南シナ海問題
7.北朝鮮核問題(424words/1101words, 39% of total words)
8.国際関係における米中協力
北朝鮮の核問題に関する発言は、以下のとおり。
1.中国は大国であり、この問題に関する立場は透明性が保たれており、広範囲に及ぶ。中国の立場は一貫しており、それが堅持されている。また、この立場は特定の事件や一時的な雰囲気によって揺らぐものではない。
2.中国の基本的な立場は次の3つに要約される。①朝鮮半島の非核化実現に関与している、②朝鮮半島の平和と安定に関与している、③この問題を全ての対話と協議を通じて解決することに関与している。これら3点は相互に連関しており、どの一つを欠くこともできない。最終ゴールは、朝鮮半島の平和と安定であり、そのためには非核化を進める必要がある。さもなければ、この地域の平静( tranquility)は保てない。
3.非核化を実現するためには、対話と交渉の道を歩まなければならない。制裁は、それ自体が目的ではない。問題を本質的に解決することが重要である。中国は長年、これら3つの関与を懸命に行ってきた。中国は責任と義務を果たしている。最近、北朝鮮は国連決議に反する核実験を行い、この核実験はNPT体制を崩壊させた。したがって、中国は(核実験に)明確な反対を表明し、安保理がさらなる行動に出て、新たな決議を採択することで合意した。中国は、十分な調整の上、米国をはじめとした関係国と共に、責任のある総合的かつより深い貢献ができる行動をすることとする。
4.当面、新たな決議は状況に新たな緊張をもたらし、朝鮮半島を不安定化させるものではあってはならない。それよりも、朝鮮半島非核化問題を交渉のトラックに戻すことを目的としなければならない。私とケリー長官は、前向きで深度のある生産的な話し合いを行い、相互理解を深め、共通認識の幅を広げることができた。中国と米国はこの問題について、全体として同じ目的(the same overall goal)を共有していることを強調したい。これまで、両国は継続的な調整と協力を行ってきており、今後もその方向に向かい進む準備が整っている。中国のこの問題に対する立場は明確かつ一貫しており、また責任があり公開されている。したがって、中国は、中国の立場に関する根拠のない憶測や歪曲には反対する。
上記の発言からすると、中国は北朝鮮の核実験に反対し、安保理の新たな決議には賛成するものの、その内容が北朝鮮を追い込むことのない(したがって、より厳しい制裁を伴わない)ものとなることを求めていることが分かる。また、米国に対しては、制裁ではなく「対話と交渉」で問題を解決することを要求している。
一方、ケリー米国務長官は、その発言の大部分を北朝鮮核問題に使っている。発言順位も高く、安保理決議関連も含めた北朝鮮の核問題に関する言及は、59%となっており、王毅発言と対照的である(中国側は、英語通訳を介している点を考慮する必要はあるが)。
ケリー国務長官:
発言内容の順序:
1.米中関係一般
2.国際関係における米中協力(除く、北朝鮮)
3.台湾問題
4.北朝鮮核問題(1015words/1837total words, 55%)
5.南シナ海・東シナ海問題
6.米中二国間問題
7.北朝鮮核問題に関する安保理決議(71words/1837total words, 4%)
8.国際関係における米中協力の状況(イラン核問題、気象変動等)
ケリー米国務長官の北朝鮮核問題関連発言は以下のとおり。
1.(王毅外交部長との会談で)最も重要で最も多くの時間を費やしたのが、北朝鮮の核問題である。ここで私は次のことを明言しておく。金正恩の行動は無謀かつ危険である。彼が水爆実験に成功してもしなくても、状況は変わらない。国際社会により制裁と決議により禁止された行動をしようとし、それをしたがっているのは、彼(金正恩)である。結果として、北朝鮮は世界の明確な脅威、宣言された脅威、となっており、水爆を開発する意志があると宣言している。
2.加えて、北朝鮮は核弾頭搭載可能な大陸間弾道ミサイルを開発する意志を明確にしている。これは世界各国への脅威であるが、とりわけ米国はその目的を理解しているので、米国にとってその脅威が極めて重大であるととらえている。米国は米国と同盟国の人々をを守るための必要な手段を講じる。
3.全ての国、とりわけ世界のリーダーとなろうとする国は、共同戦線でこうした挑戦に対する基礎的な責任を共有しなければならない。我々は統一的にイランの核開発に反対し、結果としてイランを交渉のテーブルに着かせることに成功した。その過程では、イランに強力かつインパクトがある制裁が加えられた。イランは北朝鮮のように核兵器を保有していないにもかかわらずである。そしてイランには、中国、ロシア、英国、フランス、ドイツと協力しながら、安保理決議を履行するように合意させた。
か
4.米国と中国をはじめとした各国や国際機関は、北朝鮮の核実験を適切、迅速、協力に非難した。核実験は安保理決議に対する露骨な違反であり、安保理常任理事国である米国と中国、そしてその他の国々には迅速に行動をする義務がある。そして、今日二国が協議し合意したことであるが、強力な安保理決議が必要であるという認識を共有したことは肝要である。しかし、その中身については、今後詰める必要がある。
5.しかし、米国が今日、強調したことの一つは、北朝鮮について多くのことが過去に話し合われてきたということである。今こそ、北朝鮮を交渉のテーブルに戻す行動に出るべき時である。私は、制裁の中に目的があるという点で、外交部長に賛成である。それは、交渉に繋げることである。我々は、交渉で核計画を中断させることが目的であることを明確にする必要がある。
6.米国と中国は北朝鮮の核計画に反対であることを強調し、朝鮮半島の非核化実現が喫緊の課題であるという点で合意した。これは、王部長が中国を代表して先ほど述べたことである。この点で合意が得られたことは良いことであるが、目的についての合意だけでは不十分である。米国は、目的、つまり非核化するための交渉を行うことを実現するため意味のあるステップについて合意することが必要である。
7.米国は、今日、中国が合意した、北朝鮮の核開発とミサイル開発計画進展を防げるような新たな方策を導入できる強力な国連決議と国連の強力な関与に向け、両国代表が協力することに期待する。
8.2013年1月22日に採択された安保理決議の第19項には、北朝鮮がさらなる発射や核実験を行う場合、重大な行動を取ると記されている。これこそが、我々が求める適切かつ重大な行動であり、それにより交渉が実現するという点で合意した。
9.米国は、中国の北朝鮮に対する特別な役割と関係により、北朝鮮の挑発を止めることができるということを強く確信しており、これは秘密でも何でもない。米国は米国市民を守り、同盟国の安全を保障する必要な行動にである。しかし、米国は軍事的緊張を高める意図がなく、安保理決議によらない追加的な行動に出ないことは明確にし、交渉、我々は目標を達成するためのあらゆる選択肢を排除するつもりはない。
10.オバマ政権発足以来、米国の政策は北朝鮮を核保有国としては認めず、中国がこの点について合意し、結論において統一的であることを歓迎する。両国外相は、棒の反対側があることについても合意している。つまり、制裁の反対側もあり、米国は、平壌が他の道を選ぶのであれば、制裁解除、経済協力、エネルギー・食料援助、そしてより直接的な人道援助、そしてあらゆる可能性のドアーを開けることができるということを再び公言しておく。
上記、ケリー発言からは、米国が北朝鮮の核・ミサイルを脅威に感じていること、中国が北朝鮮との特殊な関係を通じて影響力を行使することを求める一方で、9と10からも分かるように、安保理決議以上の行動(単独の軍事行動)に出ることはなく、北朝鮮との交渉の準備があることにも触れている。いつもの問題ではあるが、「目標を達成する」のと「平壌が他の道を選ぶ」の内容である。それぞれが、ステップであることは間違いないが、どれほどのステップかという点において、米朝はすれ違っており、そのために進展がみられない。
U.S. Department of State, Press Availability With Chinese Foreign Minister Wang Yi,
Press Availability
John Kerry
Secretary of State
Ministry of Foreign Affairs
Beijing, China
January 27, 2016
http://www.state.gov/secretary/remarks/2016/01/251708.htm
王毅中国外交部長:
発言内容の順:
1.中米関係一般
2.米中戦略経済対話(S&ED)
3.米中二国間投資協定(BIT)
4.気候変動枠組み条約(COP21)
5.台湾問題
6.南シナ海問題
7.北朝鮮核問題(424words/1101words, 39% of total words)
8.国際関係における米中協力
北朝鮮の核問題に関する発言は、以下のとおり。
1.中国は大国であり、この問題に関する立場は透明性が保たれており、広範囲に及ぶ。中国の立場は一貫しており、それが堅持されている。また、この立場は特定の事件や一時的な雰囲気によって揺らぐものではない。
2.中国の基本的な立場は次の3つに要約される。①朝鮮半島の非核化実現に関与している、②朝鮮半島の平和と安定に関与している、③この問題を全ての対話と協議を通じて解決することに関与している。これら3点は相互に連関しており、どの一つを欠くこともできない。最終ゴールは、朝鮮半島の平和と安定であり、そのためには非核化を進める必要がある。さもなければ、この地域の平静( tranquility)は保てない。
3.非核化を実現するためには、対話と交渉の道を歩まなければならない。制裁は、それ自体が目的ではない。問題を本質的に解決することが重要である。中国は長年、これら3つの関与を懸命に行ってきた。中国は責任と義務を果たしている。最近、北朝鮮は国連決議に反する核実験を行い、この核実験はNPT体制を崩壊させた。したがって、中国は(核実験に)明確な反対を表明し、安保理がさらなる行動に出て、新たな決議を採択することで合意した。中国は、十分な調整の上、米国をはじめとした関係国と共に、責任のある総合的かつより深い貢献ができる行動をすることとする。
4.当面、新たな決議は状況に新たな緊張をもたらし、朝鮮半島を不安定化させるものではあってはならない。それよりも、朝鮮半島非核化問題を交渉のトラックに戻すことを目的としなければならない。私とケリー長官は、前向きで深度のある生産的な話し合いを行い、相互理解を深め、共通認識の幅を広げることができた。中国と米国はこの問題について、全体として同じ目的(the same overall goal)を共有していることを強調したい。これまで、両国は継続的な調整と協力を行ってきており、今後もその方向に向かい進む準備が整っている。中国のこの問題に対する立場は明確かつ一貫しており、また責任があり公開されている。したがって、中国は、中国の立場に関する根拠のない憶測や歪曲には反対する。
上記の発言からすると、中国は北朝鮮の核実験に反対し、安保理の新たな決議には賛成するものの、その内容が北朝鮮を追い込むことのない(したがって、より厳しい制裁を伴わない)ものとなることを求めていることが分かる。また、米国に対しては、制裁ではなく「対話と交渉」で問題を解決することを要求している。
一方、ケリー米国務長官は、その発言の大部分を北朝鮮核問題に使っている。発言順位も高く、安保理決議関連も含めた北朝鮮の核問題に関する言及は、59%となっており、王毅発言と対照的である(中国側は、英語通訳を介している点を考慮する必要はあるが)。
ケリー国務長官:
発言内容の順序:
1.米中関係一般
2.国際関係における米中協力(除く、北朝鮮)
3.台湾問題
4.北朝鮮核問題(1015words/1837total words, 55%)
5.南シナ海・東シナ海問題
6.米中二国間問題
7.北朝鮮核問題に関する安保理決議(71words/1837total words, 4%)
8.国際関係における米中協力の状況(イラン核問題、気象変動等)
ケリー米国務長官の北朝鮮核問題関連発言は以下のとおり。
1.(王毅外交部長との会談で)最も重要で最も多くの時間を費やしたのが、北朝鮮の核問題である。ここで私は次のことを明言しておく。金正恩の行動は無謀かつ危険である。彼が水爆実験に成功してもしなくても、状況は変わらない。国際社会により制裁と決議により禁止された行動をしようとし、それをしたがっているのは、彼(金正恩)である。結果として、北朝鮮は世界の明確な脅威、宣言された脅威、となっており、水爆を開発する意志があると宣言している。
2.加えて、北朝鮮は核弾頭搭載可能な大陸間弾道ミサイルを開発する意志を明確にしている。これは世界各国への脅威であるが、とりわけ米国はその目的を理解しているので、米国にとってその脅威が極めて重大であるととらえている。米国は米国と同盟国の人々をを守るための必要な手段を講じる。
3.全ての国、とりわけ世界のリーダーとなろうとする国は、共同戦線でこうした挑戦に対する基礎的な責任を共有しなければならない。我々は統一的にイランの核開発に反対し、結果としてイランを交渉のテーブルに着かせることに成功した。その過程では、イランに強力かつインパクトがある制裁が加えられた。イランは北朝鮮のように核兵器を保有していないにもかかわらずである。そしてイランには、中国、ロシア、英国、フランス、ドイツと協力しながら、安保理決議を履行するように合意させた。
か
4.米国と中国をはじめとした各国や国際機関は、北朝鮮の核実験を適切、迅速、協力に非難した。核実験は安保理決議に対する露骨な違反であり、安保理常任理事国である米国と中国、そしてその他の国々には迅速に行動をする義務がある。そして、今日二国が協議し合意したことであるが、強力な安保理決議が必要であるという認識を共有したことは肝要である。しかし、その中身については、今後詰める必要がある。
5.しかし、米国が今日、強調したことの一つは、北朝鮮について多くのことが過去に話し合われてきたということである。今こそ、北朝鮮を交渉のテーブルに戻す行動に出るべき時である。私は、制裁の中に目的があるという点で、外交部長に賛成である。それは、交渉に繋げることである。我々は、交渉で核計画を中断させることが目的であることを明確にする必要がある。
6.米国と中国は北朝鮮の核計画に反対であることを強調し、朝鮮半島の非核化実現が喫緊の課題であるという点で合意した。これは、王部長が中国を代表して先ほど述べたことである。この点で合意が得られたことは良いことであるが、目的についての合意だけでは不十分である。米国は、目的、つまり非核化するための交渉を行うことを実現するため意味のあるステップについて合意することが必要である。
7.米国は、今日、中国が合意した、北朝鮮の核開発とミサイル開発計画進展を防げるような新たな方策を導入できる強力な国連決議と国連の強力な関与に向け、両国代表が協力することに期待する。
8.2013年1月22日に採択された安保理決議の第19項には、北朝鮮がさらなる発射や核実験を行う場合、重大な行動を取ると記されている。これこそが、我々が求める適切かつ重大な行動であり、それにより交渉が実現するという点で合意した。
9.米国は、中国の北朝鮮に対する特別な役割と関係により、北朝鮮の挑発を止めることができるということを強く確信しており、これは秘密でも何でもない。米国は米国市民を守り、同盟国の安全を保障する必要な行動にである。しかし、米国は軍事的緊張を高める意図がなく、安保理決議によらない追加的な行動に出ないことは明確にし、交渉、我々は目標を達成するためのあらゆる選択肢を排除するつもりはない。
10.オバマ政権発足以来、米国の政策は北朝鮮を核保有国としては認めず、中国がこの点について合意し、結論において統一的であることを歓迎する。両国外相は、棒の反対側があることについても合意している。つまり、制裁の反対側もあり、米国は、平壌が他の道を選ぶのであれば、制裁解除、経済協力、エネルギー・食料援助、そしてより直接的な人道援助、そしてあらゆる可能性のドアーを開けることができるということを再び公言しておく。
上記、ケリー発言からは、米国が北朝鮮の核・ミサイルを脅威に感じていること、中国が北朝鮮との特殊な関係を通じて影響力を行使することを求める一方で、9と10からも分かるように、安保理決議以上の行動(単独の軍事行動)に出ることはなく、北朝鮮との交渉の準備があることにも触れている。いつもの問題ではあるが、「目標を達成する」のと「平壌が他の道を選ぶ」の内容である。それぞれが、ステップであることは間違いないが、どれほどのステップかという点において、米朝はすれ違っており、そのために進展がみられない。
U.S. Department of State, Press Availability With Chinese Foreign Minister Wang Yi,
Press Availability
John Kerry
Secretary of State
Ministry of Foreign Affairs
Beijing, China
January 27, 2016
http://www.state.gov/secretary/remarks/2016/01/251708.htm