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    「朝鮮民主主義人民共和国最高人民会議常任委員会決定 第87号 最高人民会議を招集することについて」(2012年3月24日「労働新聞」)

    「労働新聞」にこのような記事が出た。また、同会議の「公示」もでている。

    http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2012-03-24-0002

    これまでは、「朝鮮労働党代表者会」だけが招集されていたが、金正日死去後100日を期して最高人民会議が招集された。最高人民会議で金正恩さんが、金正日さんが持っていた国防委員長、党総秘書、党軍事委員会委員長のうちどの肩書きを得るかが注目されている。

    過去記事(http://dprknow.blog.fc2.com/blog-entry-90.html)でも検討したとおり、「労働党規約」によれば、金正恩さんは労働党大会で「推戴」されることで総秘書になれる。労働党大会は、開催6ヶ月前にその日時を発表しなければならないので、この時点では開催される予定はない。ただし、4月には代表者会開催が宣言されているので、金正日さんがそうであったように、「党代表者会は、朝鮮労働党最高指導機関を選挙したり党規約を修正補充することができる。」という「労働党規約」第30条を援用して、代表者会で総秘書に推戴される可能性も十分にある。労働党総秘書と党軍事委員会委員長は兼職である(同22条)ので、こちらで同時に2つの肩書きは得られる。

    国防委員長は、朝鮮民主主義人民共和国憲法第91条「最高人民会議は次の権限を持つ。」とその第5項「朝鮮民主主義人民共和国国防委員会委員長を選挙または召還する。」により、最高人民会議で「選挙または召還」されることになる。金正日さんはこちらでも「推戴」されているので、金正恩さんも同じ形式を取る可能性がある。

    党代表者会や最高人民会が開催されるからといって、必ずしも金正恩さんがすべての肩書きを得ることになるかどうかは依然として不透明である。金日成死去に際して「主席」を永遠の主席として空席にするような措置が、「国防委員長」か「総書記」に対しても行われる可能性はある。金日成さんのケースでは、「主席」と「主体思想」を結びつけることで遺訓統治の理念的規範としたが、今回も「国防委員長」と「先軍政治」を結びつけて、第二の遺訓統治の理念とする可能性もある。「国防委員長」を「永遠の空席」とするためには、憲法改正も必要になる。ただ、国防委員長を「永遠の空席」とする措置は、表面的には「遺訓」を装いつつ、事実上の「先軍」との決別の宣言と理解することもできる。実際に、金正日さんも「主体思想」を標榜しつつ、「先軍」を主体思想と並立させた。そうだとして、金正恩さんは何を打ち出すのか。

    今日の「労働新聞」トップに「朝鮮中央通信社報道 党の指導に従い山のように高まった千万軍民の荘厳な歴史的大進軍 首領永世偉業実現と偉大な遺訓貫徹に満ちた崇厳な追慕の100日」という記事が出ている。

    この記事は、追悼期間からの総集編のような記事で、これまで報じられてきた金正日死去を悲しむ朝鮮人民の様子(例えば、「延べ2億6000万人が将軍様に弔意を表した」)、金正恩さんの軍隊視察(例えば、ソウル柳京洙第105タンク師団視察)、そして金日成・金正日騎馬像建設などの記念碑的建造物建立の話、科学技術が発達したという話とともに、軽工業部門を中心に達成された実績を企業別に具体的に伝えている。この記事が結局達成できなかった「強盛富強」国家建設を誤魔化すためのものであるという判断もあり得るが、「先軽工業政治」(Light Industry First Policy)へのシフトの可能性を予告するものであるという判断もできる。

    すると、この状況での衛星発射はどう判断した良いのであろうか。過去記事にも書いたように、北朝鮮は衛星発射に対する諸外国の反応を朝鮮人民には伝えてこなかった。しかし、とうとう今日の「労働新聞」(と、昨夜の朝鮮中央TV報道など)で「外務省スポークスマン談話」として、朝鮮人民に2.29米朝合意の「ウラニウム濃縮臨時中止やIAEA招致」など具体的内容と「米国が衛星発射を問題している」という米国の反対を明確に伝えている。これまでは、気象条件等、やむを得ぬ理由を付けて衛星発射を見送ることは対朝鮮人民的にはまだ可能であったが、こうした事実を公開してしまった現時点では相当に難しくなったといわざるを得ない。

    光明星3号発射が「3段式弾道ミサイルの発射実験」であるという側面があることは否定できないが、対内的には朝鮮人民に軍事力ではなく「朝鮮の科学技術の進歩」を金日成生誕100周年と金正恩「総書記」就任のタイミングで誇示したいのではないだろうか。北朝鮮は繰り返し、「核保有国になることで、軍事的には強盛大国になった」と主張してきた。

    米国は中国に北朝鮮の衛星発射を思いとどまらせるよう説得するよう圧力をかけている。ただ、中国は「経済援助の停止」まで掲げて北朝鮮に迫るとは考えられない。中国は、北朝鮮の次の核実験を思いとどまらせるために「援助停止」カードは温存しておく必要がある。中国による「援助停止」カードこそが、北朝鮮に対する最強のカードであるとすれば、これは「衛星発射」ぐらいで出すべきではない。やはりここは、騙されることを覚悟で、衛星発射と核活動停止を切り分けて進めるしかないのではないだろうか。

    「朝鮮中央通信」は北部の2つの「経済地帯法」と関連し「朝鮮の合営投資関係者、国家の投資環境について説明」という動画付きの記事を配信している。その中で「自立的民族経済の土台をたゆまず強化する基礎の上で、他国との経済協力関係を拡大発展していくということは、我が政府の終始一貫した政策である」と合営投資委員会副局長の言葉として伝えている。2つの「経済地帯」における法制の整備を公表しているのは、ある意味、中国の改革・開放の初期段階への経路に北朝鮮が突入する意欲を示していると理解はできるのではないだろうか。

    今回の衛星発射は、国際社会にとっても金正恩体制にとっても、今後の東北アジアの安定と平和の方向性を左右する試金石となっていると言わざるを得ない。

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    川口智彦

    Author:川口智彦
    「크는 아바이(成長するオッサン)」

    ブログの基本用語:
    「元帥様」=金正恩朝鮮労働党委員長(上の絵の人物)、2016年12月20日から「最高領導者同志」とも呼ばれる
    2021年1月11日から「総秘書同志」
    「首領様」=金日成主席
    「将軍様」=金正日総書記
    「政治局員候補」=金ヨジョン(「元帥様」の妹)、2018年2月11日から「第1副部長同志」とも
    「白頭の血統」=金一族
    「大元帥様達」=「首領様」と「将軍様」
    「女史」=李雪主夫人(2018.07.26より「同志」に)

    우 그림은 충정 담아 아이가 그린 경애하는 김정은원수님이십니다.


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