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    「朝鮮民主主義人民共和国 外務省 スポークスマン談話」(2012年3月23日「朝鮮中央通信」)

    「朝鮮中央通信」に光明星発射に関する次のような外務相談話が出た。これまでは、宇宙空間技術委員会や朝鮮中央通信の声明や論評であったが、一段階レベルアップしている。

    内容は、まず「衛星発射は、2.29米朝合意とは別個の問題である」とし、「既に3回の朝米高位級会談で終始一貫して衛星発射は長距離ミサイル発射に含まれないことを明らかにした」としている。これは、2月29日以前の会談からこの問題が取り上げられていたことを米朝双方が認めたことになる。米国は、ヌーランド国務省報道官が昨日の定例記者会見で、衛星と弾道ミサイルの扱いに関する話を北朝鮮としたことを認めている。

    http://www.state.gov/r/pa/prs/dpb/2012/03/186654.htm#DPRK

    これは、前国務省職員であるEvans RevereのBrookings Institutionへの投稿で明らかになったものである。

    http://www.brookings.edu/opinions/2012/0320_north_korea_revere.aspx

    ただ、米国の主張との大きなくいちがいは、米国側が「北朝鮮が衛星発射も米朝合意違反であることを、我々(米国)の警告を受け認識していたようだ」としているのに対し、北朝鮮側は「別個の問題」としている点である。

    北朝鮮はこの外務省談話で「朝米合意を誠実に履行しようとする我々の立場には変化がない」とし、「ウラニウム濃縮活動の臨時中止を確認する手続きを話し合うために、IAEAの代表団を招請し、米国側との合意履行のための意思疎通も誠意を持って行っている」としている。現時点では、北朝鮮はIAEAによる査察の受け入れという立場を崩していないようである。

    しかし、米国が北朝鮮の衛星発射を問題視することは、「朝米合意の自主権尊重と平等の精神に反するものなので、合意履行に障害をもたらす」と主張し、「我々の自主的で合法的な権利を剥奪し、不当なダブル・スタンダードを適用しようとする不純な意図がはっきりすれば、不可避的に対応措置をとらざるをえない」とし、衛星発射に反対しないよう求めるのと同時に、衛星発射許容と核活動の中断をリンクさせている。

    北朝鮮の言うところの「不純な意図」が具体的に何を指しているのか分からない。仮に、4月中旬に北朝鮮が衛星を発射し、その結果、米国の栄養援助が取り消され、さらに国連での非難決議などがなされることになれば、間違いなく「不純な意図」と北朝鮮はとらえるであろう。そうなれば、ウラニウム濃縮臨時中止どころか、次の核実験へと事態は悪化する可能性が極めて高い。

    現時点で北朝鮮の内部状況を読むのは非常に難しい。過去記事にも書いたように、衛星発射まで読み込み済みで米朝合意をしたのであれば、金正恩体制は比較的安定しているし、内部の大きな勢力対立はないと判断できるであろう。上記のEvans Revere投稿記事の通りであれば、衛星発射は金正日さんの遺訓であり、金正恩さんはそれをひっくり返すことは「したくても」できないはずである。ただ、その遺訓の「発射時期」を調整することぐらいは可能であろう。米朝関係が好転し、北朝鮮が核に関する合意を履行していけば、いずれかの段階で正々堂々と「衛星発射」をすることができるはずである。それはまさに、北朝鮮が主張するとおり、「国際社会の総意が反映された宇宙条約をはじめとした、宇宙の平和利用に関する普遍的国際法」が適用されるからである。

    北朝鮮は、宇宙条約などの国際法は「安保理決議より上位」としているが、この点について、私は今判断できない。「安保理決議」という政治的判断による拘束力と国際法の拘束力の上下・優劣関係について、職場の国際法専門家に聞いてみる必要がありそうだ。

    <追記:2012年3月27日 10:27>
    「国際法の拘束力の上下・優劣関係について」職場の専門家に質問をしておいたところ、下記のような回答をいただけた。

    「まず、一般論として、安保理決議によって国際条約のルール等を部分的に覆すことは、十分に可能です。国連安保理は、国連憲章に定められた手続きにしたがって、まず特定の事態が「平和に対する脅威」を構成すると認定し、次いで拘束力のある決議を採択することで、その事態に関する限り、国際法のルールに優位する個別的な義務を関係国に課すことができるのです。そのためには、5大国がいずれも拒否権を行使しないこと(最悪でも棄権すること)と、非常任理事国10国を含めて15分の9以上の国が賛成を確保することが、必要になります。

    宇宙条約は、宇宙利用の自由や天体の軍事利用の禁止などを定めています。宇宙条約の大部分は、条約当事国以外にも通用する「一般国際法」のルールを法典化したもの、と考えられております。ちなみに、北朝鮮はこの条約の当事国になっていないようです。日米韓中ロは加盟しています。

    なお、理論的には、安保理といえども覆すことのできない国際法の上位のルール(例えば集団殺害の禁止や非人道的兵器の使用禁止など)が存在すると考えられていますが、今回のケースでは問題にならないようです。(宇宙利用自由はそれに当たらない。)」

    どうやら、人権などに関わる一部のルールを除いては、安保理決議は絶対であるようだ。それにしても、改めて「常任理事国」の国際関係に与える強大なパワーを感る。70年前の戦争の結果を未だに引きずっているということは、ある意味大変なことである。

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    Author:川口智彦
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    「元帥様」=金正恩朝鮮労働党委員長(上の絵の人物)、2016年12月20日から「最高領導者同志」とも呼ばれる
    2021年1月11日から「総秘書同志」
    「首領様」=金日成主席
    「将軍様」=金正日総書記
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