北朝鮮「試験水素弾」実験:国連の反応、核実験サイトGoogle Earth、日本の対応、中国との関係、公演キャンセルのタイミング (2016年1月6日 「United Nations News Centre」)
国連では、6日(現地時間)、非公開の安保理事会が開催された。「非公開」なので、注目した中露の発言は分からない。
しかし、安保理は「北朝鮮を強く非難」し、「追加制裁を検討」という報道がある。
Channel News Asia, UN Security Council to consider new North Korea sanctions, http://www.channelnewsasia.com/news/world/un-security-council-to/2404674.html
国連の潘基文事務総長は、「深刻な問題」であり、「厳しい対応」を検討すると述べた。
UN News Centre, UN deplores ‘deeply troubling’ hydrogen bomb test announced by DPR Korea, UN deplores ‘deeply troubling’ hydrogen bomb test announced by DPR Korea, http://www.un.org/apps/news/story.asp?NewsID=52945#.Vo2l5k9rU-J
CTBTOが地震波を捉えたのは北朝鮮が「試験水素弾」実験を実施したとする10:00(PST)と同じ01:30(GMT)。爆発があったのは、2013年2月12日と同様の北朝鮮の核実験サイトとしている。

Source: CTBTO, https://www.ctbto.org/the-treaty/developments-after-1996/2016-dprk-announced-nuclear-test/
CTBTOが2013年2月のテストサイトとする地点を現在最新のGoogle Earthでみると、山が削られたような跡と建物のようなものが確認できる。撮影は2015年11月。

Source Google Earth (ピンは著者)

Source Google Earth (ピンは著者)
安倍政権は、制裁再開や制裁強化を検討しているという。
『時事通信』、「政府、北朝鮮に抗議=制裁復活も検討―国際社会との連携急ぐ」、http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160107-00000000-jij-pol
国際社会と足並みを合わせるのなら制裁再開や制裁強化をすればよいが、そうすれば、北朝鮮は「日本の約束違反」を理由に拉致被害者調査中止を言ってくる可能性が高い。そもそも、拉致被害者調査をどれほど真剣にやっているのか、日本政府と水面下でどのような話がされているのかが見えてこないが、昨年末、北朝鮮政府高官が「来年初めには、情報を出せる。ただし、日本政府に聞く耳があれば」と言ったとの報道が思い出される。あの時点では、「我々が水爆実験をやっても聞く耳があれば」ということまでは北朝鮮も想定していなかったであろうが、今となってはそれが現実となっている。
日本政府として、拉致問題解決に期待を託すのであれば、制裁のレベルは、今後、国連安保理で採択される追加制裁の水準に合わせておくのが順当であろう。日本政府の制裁を一部解除した状態であっても、安保理の新制裁よりも強い制裁を日本は北朝鮮に課しているからである(もちろん、新制裁が発表されるまでは確言できないが)。
いずれにせよ、制裁の実効力は中国がどう出るのか、そして北朝鮮との関係を深めているロシアがどう出るのかにかかっている。中国が「事前通告はなかった」としていることを「怒り・当惑」ととらえる分析もあるが、私は責任逃れではないかとみている。前の記事にも書いたように、中朝間では、今回の実験に関し、10月の劉雲山訪朝の頃から話があったのではなかろうか。
劉雲山訪朝:10月19日~12日(朝鮮労働党創建70周年関連行事参加)
「功勲国家合唱団とモランボン楽団」訪中公演発表:12月9日「朝鮮中央通信」報道
「功勲とモランボン楽団」、丹東到着:12月9日China Daily報道
金正恩「平川革命史跡地」にて「水素弾の巨大な爆音」発言:12月10日「朝鮮中央通信」報道、ただし、11月28日の『労働新聞』の記事「民族繁栄の未来をもたらす偉大な先軍霊将」中で「水素弾」は韓国が言い出したと言及
北朝鮮、「功勲とモランボン」絶賛キャンペーン:12月10日「朝鮮中央通信」、『労働新聞』等
「モランボン楽団」公演をキャンセルし急遽帰国:12月12日、中国メディア等
金正恩、「水素弾」実験命令下達:12月15日
金正恩、「新年の辞」:1月1日、「10月の慶祝広場で繰り広げられた激情的なエピソードは、核爆弾を爆発させ、人工地球衛星を打ち上げることよりも大きな威力で我々を震撼させ」と発言
金正恩、「水素弾」実験実施命令に署名:1月3日
表面的には北朝鮮楽団公演のキャンセル騒ぎであったが、実は、この時、中国側と北朝鮮側は核実験を巡り確執があったのかもしれない。中国に対しては、「南朝鮮との関係は改善している」が、米国が対話に乗ってこないから、いざとなった核実験をやるというような話をしたのかもしれない。
そして、北朝鮮は、どうせ「水素弾」と言ったのだから、もともと実施しようとしていた「原子弾」実験を「水素弾」と名前を変えて行ったということではなかろうか。
核実験は、南北関係改善努力を見せておきながら、「停戦協定を平和協定に」と12月中旬から末にかけて米国に対話を求めるキャンペーンを展開するも、米国の「戦略的忍耐」政策で無視され、それではということで核実験を実施した可能性もある。
1月8日の金正恩誕生日祝賀説は、今年のカレンダーが赤字でないことからも、あまり関係ないような気がする。
もう一つは、「青峰楽団」公演再放送突然取り消しのように、金正恩が保守派と改革派の間で揺れていて、「新年の辞」で核は止めたような話をしておきながら、その数日後に核実験を実施するというつじつまの合わぬ行動をしている可能性もある。
上に書いたことは、相互矛盾することもたくさん含まれているが、思いつくところを並べてみた。
<追記>
延辺大学の先生に地震を感じたか問い合わせたところ、揺れは感じたとの返信があった。また、ある中学では運動場に亀裂ができたそうである。
米国務省報道官は、ホワイトハウス報道官の言葉を引用しながら、「今のところ、北朝鮮が使用したのは核爆弾と思われ、水素爆弾ではない。しかし、引き続き調査中である」とコメントしている。また、今回の実験が「驚きではない」とホワイトハウス報道官が述べたことについて「実験の兆候を確認をできていたから『驚きではない』のか、あるいは北朝鮮はもう何回も核実験をやっているから『驚きではない』のか」との質問に対し、「軍事情報に関わる問題」を理由に明確な回とを示していない。
軍事オプションについては、「在韓米軍は命令が出れば今夜にでも出動できる」としつつも、米国の単独行動はせず、あくまでも国連安保理の場で今後の対応を話し合っていくという立場を表明している。
さらに、中国が「迅速な非難声明」を出したことを歓迎し、「中国の役割は大きい」と間接的に中国が北朝鮮に対してより厳しい対応を取ることを求めている。
まだ、続きがあるが、これからそこは読む。
U.S. Department of State, Daily Press Conference, http://www.state.gov/r/pa/prs/dpb/2016/01/251001.htm
しかし、安保理は「北朝鮮を強く非難」し、「追加制裁を検討」という報道がある。
Channel News Asia, UN Security Council to consider new North Korea sanctions, http://www.channelnewsasia.com/news/world/un-security-council-to/2404674.html
国連の潘基文事務総長は、「深刻な問題」であり、「厳しい対応」を検討すると述べた。
UN News Centre, UN deplores ‘deeply troubling’ hydrogen bomb test announced by DPR Korea, UN deplores ‘deeply troubling’ hydrogen bomb test announced by DPR Korea, http://www.un.org/apps/news/story.asp?NewsID=52945#.Vo2l5k9rU-J
CTBTOが地震波を捉えたのは北朝鮮が「試験水素弾」実験を実施したとする10:00(PST)と同じ01:30(GMT)。爆発があったのは、2013年2月12日と同様の北朝鮮の核実験サイトとしている。

Source: CTBTO, https://www.ctbto.org/the-treaty/developments-after-1996/2016-dprk-announced-nuclear-test/
CTBTOが2013年2月のテストサイトとする地点を現在最新のGoogle Earthでみると、山が削られたような跡と建物のようなものが確認できる。撮影は2015年11月。

Source Google Earth (ピンは著者)

Source Google Earth (ピンは著者)
安倍政権は、制裁再開や制裁強化を検討しているという。
『時事通信』、「政府、北朝鮮に抗議=制裁復活も検討―国際社会との連携急ぐ」、http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160107-00000000-jij-pol
国際社会と足並みを合わせるのなら制裁再開や制裁強化をすればよいが、そうすれば、北朝鮮は「日本の約束違反」を理由に拉致被害者調査中止を言ってくる可能性が高い。そもそも、拉致被害者調査をどれほど真剣にやっているのか、日本政府と水面下でどのような話がされているのかが見えてこないが、昨年末、北朝鮮政府高官が「来年初めには、情報を出せる。ただし、日本政府に聞く耳があれば」と言ったとの報道が思い出される。あの時点では、「我々が水爆実験をやっても聞く耳があれば」ということまでは北朝鮮も想定していなかったであろうが、今となってはそれが現実となっている。
日本政府として、拉致問題解決に期待を託すのであれば、制裁のレベルは、今後、国連安保理で採択される追加制裁の水準に合わせておくのが順当であろう。日本政府の制裁を一部解除した状態であっても、安保理の新制裁よりも強い制裁を日本は北朝鮮に課しているからである(もちろん、新制裁が発表されるまでは確言できないが)。
いずれにせよ、制裁の実効力は中国がどう出るのか、そして北朝鮮との関係を深めているロシアがどう出るのかにかかっている。中国が「事前通告はなかった」としていることを「怒り・当惑」ととらえる分析もあるが、私は責任逃れではないかとみている。前の記事にも書いたように、中朝間では、今回の実験に関し、10月の劉雲山訪朝の頃から話があったのではなかろうか。
劉雲山訪朝:10月19日~12日(朝鮮労働党創建70周年関連行事参加)
「功勲国家合唱団とモランボン楽団」訪中公演発表:12月9日「朝鮮中央通信」報道
「功勲とモランボン楽団」、丹東到着:12月9日China Daily報道
金正恩「平川革命史跡地」にて「水素弾の巨大な爆音」発言:12月10日「朝鮮中央通信」報道、ただし、11月28日の『労働新聞』の記事「民族繁栄の未来をもたらす偉大な先軍霊将」中で「水素弾」は韓国が言い出したと言及
北朝鮮、「功勲とモランボン」絶賛キャンペーン:12月10日「朝鮮中央通信」、『労働新聞』等
「モランボン楽団」公演をキャンセルし急遽帰国:12月12日、中国メディア等
金正恩、「水素弾」実験命令下達:12月15日
金正恩、「新年の辞」:1月1日、「10月の慶祝広場で繰り広げられた激情的なエピソードは、核爆弾を爆発させ、人工地球衛星を打ち上げることよりも大きな威力で我々を震撼させ」と発言
金正恩、「水素弾」実験実施命令に署名:1月3日
表面的には北朝鮮楽団公演のキャンセル騒ぎであったが、実は、この時、中国側と北朝鮮側は核実験を巡り確執があったのかもしれない。中国に対しては、「南朝鮮との関係は改善している」が、米国が対話に乗ってこないから、いざとなった核実験をやるというような話をしたのかもしれない。
そして、北朝鮮は、どうせ「水素弾」と言ったのだから、もともと実施しようとしていた「原子弾」実験を「水素弾」と名前を変えて行ったということではなかろうか。
核実験は、南北関係改善努力を見せておきながら、「停戦協定を平和協定に」と12月中旬から末にかけて米国に対話を求めるキャンペーンを展開するも、米国の「戦略的忍耐」政策で無視され、それではということで核実験を実施した可能性もある。
1月8日の金正恩誕生日祝賀説は、今年のカレンダーが赤字でないことからも、あまり関係ないような気がする。
もう一つは、「青峰楽団」公演再放送突然取り消しのように、金正恩が保守派と改革派の間で揺れていて、「新年の辞」で核は止めたような話をしておきながら、その数日後に核実験を実施するというつじつまの合わぬ行動をしている可能性もある。
上に書いたことは、相互矛盾することもたくさん含まれているが、思いつくところを並べてみた。
<追記>
延辺大学の先生に地震を感じたか問い合わせたところ、揺れは感じたとの返信があった。また、ある中学では運動場に亀裂ができたそうである。
米国務省報道官は、ホワイトハウス報道官の言葉を引用しながら、「今のところ、北朝鮮が使用したのは核爆弾と思われ、水素爆弾ではない。しかし、引き続き調査中である」とコメントしている。また、今回の実験が「驚きではない」とホワイトハウス報道官が述べたことについて「実験の兆候を確認をできていたから『驚きではない』のか、あるいは北朝鮮はもう何回も核実験をやっているから『驚きではない』のか」との質問に対し、「軍事情報に関わる問題」を理由に明確な回とを示していない。
軍事オプションについては、「在韓米軍は命令が出れば今夜にでも出動できる」としつつも、米国の単独行動はせず、あくまでも国連安保理の場で今後の対応を話し合っていくという立場を表明している。
さらに、中国が「迅速な非難声明」を出したことを歓迎し、「中国の役割は大きい」と間接的に中国が北朝鮮に対してより厳しい対応を取ることを求めている。
まだ、続きがあるが、これからそこは読む。
U.S. Department of State, Daily Press Conference, http://www.state.gov/r/pa/prs/dpb/2016/01/251001.htm