「衛星発射、朝米合意に抵触しない-朝鮮中央通信社論評」(2012年3月20日「朝鮮中央通信」)
「衛星発射」は「弾道ミサイル発射」ではないという、朝鮮中央通信の論評が出た。なお、同様の発言は、北朝鮮外務次官李ヨンホさんが、北京で6か国協議の議長を務める中国の武大偉特別代表との会談後、記者団に語っているようである。
http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/jnn?a=20120320-00000011-jnn-int
「中央通信社」の論評は、基本的には李明博政権を批判する形式を取っている。つまり、米朝関係が好転するのを嫌い、それを妨害するために「弾道ミサイル発射」を騒ぎ立てているというのだ。なお、この論評で米国は一切非難していない。
論評では、「我々は実のある会談が進む期間、核実験と長距離ミサイル発射、ヨンビョンのウラニウム濃縮活動を臨時に中止し、ウラニウム濃縮活動の臨時中止についての国際原子力機構の監視を許可することにした」と米朝合意を確認した上で、「宇宙空間の平和的利用に関する全ての国の合法的権利に基づき、発射計画を公開し、国際的規定と手続きに従い国際機関に必要な情報を通報した」と別の論評でした主張を繰り返し、「実用衛星発射と長距離ミサイル発射は、別の問題である」と結論づけている。
そして、2002年10月に北朝鮮がウラニウム濃縮計画を認めた時を回顧しながら、「過去、敵対勢力がありもしない<ウラニウム濃縮疑惑>説を持ち出し、朝米対話を破綻させ、情勢を極度に悪化させ、結局、我々を核保有に走らせた歴史の教訓を繰り返さない方がよい」と述べている。これは、前記事でも指摘したように、北朝鮮が衛星発射とウラニウム濃縮停止をリンクさせ、衛星発射を許さなければ、ウラニウム濃縮を再開し、核爆弾への第二のパス(ウラニウム型核爆弾の製造)を推し進めるという威嚇であろう。
米国に対する直接的な避難は慎重に避けている点で、米朝関係の破綻はもたらしたくないのであろう。そうだとすると、やはり今回の衛星発射予告は、国内問題、特に軍部との関係と外交の葛藤の表出なのであろうか。上の「TBS」記事にあるように、中国との会談後にも「衛星発射実施」を主張していることからして、中国が北朝鮮の衛星発射に理解を示したのでなければ、説得には失敗したのであろう。
前後するが、3月18日にやはり「朝鮮中央通信」が衛星発射についての論評を出している。こちらでは、「米国、日本、南朝鮮をはじめとした敵対勢力が・・・暴言を」と米国も非難の対象にしている。そして、「人工地球衛星の製作と発射問題でのダブルスタンダードを絶対に認めることはできない」としている。
過去記事にも書いたが、今回、北朝鮮が衛星発射に踏み切れば、「厳密な意味ではじめて」安保理決議の「弾道ミサイル技術を使った発射の中止要求」に反することになる。また、2月29日の米朝合意に関しても、会議の途中で北朝鮮側とどのようなやりとりがあったにせよ、米朝双方がそれぞれ発表した声明には「弾道ミサイル」としか記されていない。北朝鮮側はさておき、米国側は光明星2号発射の経験から安保理決議1874の記述を「弾道ミサイル技術を使った発射」と改めたのであれば、なぜこの合意でも注意深い表記をしなかったのであろうか。
さらに、「弾道ミサイル技術を使った発射」の定義自体も曖昧である。というのは、日本の新聞報道によると、北朝鮮は2011年12月19日と2012年1月11日に「短距離弾道ミサイル」を日本海に向けて発射しているという。
「産経新聞」:
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120113/plc12011301380000-n1.htm
だとすれば、「短距離」だとはいえ「弾道ミサイル技術を使った発射」となる「はず」なので、こちらも安保理決議1874違反ということになるが、この時、国際社会は北朝鮮を非難しなかった。日本政府もまた、上の「産経新聞」の記事によれば、「今回のミサイル発射の意図を慎重に分析するとともに、防衛省・自衛隊がさらなる挑発行為に出てこないか警戒を強め」ただけのようである。
北朝鮮の主張する「ダブルスタンダード」は、「韓国(やそのほかの国)の衛星発射を許しておきながら、なぜ我々には許さないのか」ということであるが、実はもう一つのダブルスタンダード「短距離はいいが、長距離は駄目」というものが存在するような気がしてならない。日本を含む東アジアの周辺諸国に到達するノドンミサイル(中距離?)は完成しているが、米国に到達する長距離の実験は阻止するという意味であろうか。
「核」と「ミサイル」はセットで実戦力となる。同時に排除することがもちろん理想ではあるが、それができなければどちらか片方からでも着手することが重要である。北朝鮮の主張どおり、今回もまた米朝対話を破綻させてしまえば、「ウラニウム・パス」は間違いなく推進されてしまうであろう。衛星発射を自制させる国際的な説得は続けつつも、「発射後」の青写真をきちんと描いておく必要がある。
別記事にしても良いのだが、ついでにこちらに書いておくと、「朝鮮中央通信」の国際社会の反応に対する論評は、「労働新聞」や「朝鮮中央TV」で一切紹介されていない。実は、この記事を書くのを「論評」についての記事を書くのを保留したのも、そこに理由がある。1日の猶予をおいて、今朝(3月20日版)の「労働新聞」を確認したが、「朝鮮中央通信」の「論評」も含め「衛星打ち上げ」に関する記事は一切出ていない(見落としはないと思う)。前の記事にも書いたが、国内に対する「宣伝」を控えているのかもしれない。特に、万が一、発射を中止するにしても、「国際社会に非難されて中止」などということは絶対にいえないので、国内的には「天候不良」か「技術的問題」を理由に中止(延期)することになるであろう。
北朝鮮がこのタイミングで発射を発表した意図についてずっと考えているが、未だに明快な答えに至っていない。
ちなみに、金正恩さんの動向がここ数日伝えられていないのも気になるところである。
http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/jnn?a=20120320-00000011-jnn-int
「中央通信社」の論評は、基本的には李明博政権を批判する形式を取っている。つまり、米朝関係が好転するのを嫌い、それを妨害するために「弾道ミサイル発射」を騒ぎ立てているというのだ。なお、この論評で米国は一切非難していない。
論評では、「我々は実のある会談が進む期間、核実験と長距離ミサイル発射、ヨンビョンのウラニウム濃縮活動を臨時に中止し、ウラニウム濃縮活動の臨時中止についての国際原子力機構の監視を許可することにした」と米朝合意を確認した上で、「宇宙空間の平和的利用に関する全ての国の合法的権利に基づき、発射計画を公開し、国際的規定と手続きに従い国際機関に必要な情報を通報した」と別の論評でした主張を繰り返し、「実用衛星発射と長距離ミサイル発射は、別の問題である」と結論づけている。
そして、2002年10月に北朝鮮がウラニウム濃縮計画を認めた時を回顧しながら、「過去、敵対勢力がありもしない<ウラニウム濃縮疑惑>説を持ち出し、朝米対話を破綻させ、情勢を極度に悪化させ、結局、我々を核保有に走らせた歴史の教訓を繰り返さない方がよい」と述べている。これは、前記事でも指摘したように、北朝鮮が衛星発射とウラニウム濃縮停止をリンクさせ、衛星発射を許さなければ、ウラニウム濃縮を再開し、核爆弾への第二のパス(ウラニウム型核爆弾の製造)を推し進めるという威嚇であろう。
米国に対する直接的な避難は慎重に避けている点で、米朝関係の破綻はもたらしたくないのであろう。そうだとすると、やはり今回の衛星発射予告は、国内問題、特に軍部との関係と外交の葛藤の表出なのであろうか。上の「TBS」記事にあるように、中国との会談後にも「衛星発射実施」を主張していることからして、中国が北朝鮮の衛星発射に理解を示したのでなければ、説得には失敗したのであろう。
前後するが、3月18日にやはり「朝鮮中央通信」が衛星発射についての論評を出している。こちらでは、「米国、日本、南朝鮮をはじめとした敵対勢力が・・・暴言を」と米国も非難の対象にしている。そして、「人工地球衛星の製作と発射問題でのダブルスタンダードを絶対に認めることはできない」としている。
過去記事にも書いたが、今回、北朝鮮が衛星発射に踏み切れば、「厳密な意味ではじめて」安保理決議の「弾道ミサイル技術を使った発射の中止要求」に反することになる。また、2月29日の米朝合意に関しても、会議の途中で北朝鮮側とどのようなやりとりがあったにせよ、米朝双方がそれぞれ発表した声明には「弾道ミサイル」としか記されていない。北朝鮮側はさておき、米国側は光明星2号発射の経験から安保理決議1874の記述を「弾道ミサイル技術を使った発射」と改めたのであれば、なぜこの合意でも注意深い表記をしなかったのであろうか。
さらに、「弾道ミサイル技術を使った発射」の定義自体も曖昧である。というのは、日本の新聞報道によると、北朝鮮は2011年12月19日と2012年1月11日に「短距離弾道ミサイル」を日本海に向けて発射しているという。
「産経新聞」:
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120113/plc12011301380000-n1.htm
だとすれば、「短距離」だとはいえ「弾道ミサイル技術を使った発射」となる「はず」なので、こちらも安保理決議1874違反ということになるが、この時、国際社会は北朝鮮を非難しなかった。日本政府もまた、上の「産経新聞」の記事によれば、「今回のミサイル発射の意図を慎重に分析するとともに、防衛省・自衛隊がさらなる挑発行為に出てこないか警戒を強め」ただけのようである。
北朝鮮の主張する「ダブルスタンダード」は、「韓国(やそのほかの国)の衛星発射を許しておきながら、なぜ我々には許さないのか」ということであるが、実はもう一つのダブルスタンダード「短距離はいいが、長距離は駄目」というものが存在するような気がしてならない。日本を含む東アジアの周辺諸国に到達するノドンミサイル(中距離?)は完成しているが、米国に到達する長距離の実験は阻止するという意味であろうか。
「核」と「ミサイル」はセットで実戦力となる。同時に排除することがもちろん理想ではあるが、それができなければどちらか片方からでも着手することが重要である。北朝鮮の主張どおり、今回もまた米朝対話を破綻させてしまえば、「ウラニウム・パス」は間違いなく推進されてしまうであろう。衛星発射を自制させる国際的な説得は続けつつも、「発射後」の青写真をきちんと描いておく必要がある。
別記事にしても良いのだが、ついでにこちらに書いておくと、「朝鮮中央通信」の国際社会の反応に対する論評は、「労働新聞」や「朝鮮中央TV」で一切紹介されていない。実は、この記事を書くのを「論評」についての記事を書くのを保留したのも、そこに理由がある。1日の猶予をおいて、今朝(3月20日版)の「労働新聞」を確認したが、「朝鮮中央通信」の「論評」も含め「衛星打ち上げ」に関する記事は一切出ていない(見落としはないと思う)。前の記事にも書いたが、国内に対する「宣伝」を控えているのかもしれない。特に、万が一、発射を中止するにしても、「国際社会に非難されて中止」などということは絶対にいえないので、国内的には「天候不良」か「技術的問題」を理由に中止(延期)することになるであろう。
北朝鮮がこのタイミングで発射を発表した意図についてずっと考えているが、未だに明快な答えに至っていない。
ちなみに、金正恩さんの動向がここ数日伝えられていないのも気になるところである。