「朝鮮民主主義人民共和国黄金坪、威化島経済地帯法」(2012年3月17日「朝鮮中央通信」)
この法律と「朝鮮民主主義人民共和国羅先経済貿易地帯法」の全文が「朝鮮中央通信」で公開された。
いずれの法律も2011年12月3日の最高人民会議常任委員会で採択(「黄金坪、威化島経済地帯法」、修正補充(「羅先経済貿易地帯法」)されているので、金正日時代である。これらの法律をこのタイミングで公表したのは、党代表者会後に出される新たな経済政策の前触れではないだろうか。ここでは、新たに制定された「黄金坪、威化島経済地帯法」をみていくことにする。
제5조(경제활동조건의 보장)
투자가는 경제지대에서 회사, 지사, 사무소 같은것을 설립하고 기업활동을 자유롭게 할수 있다.
국가는 토지리용, 로력채용, 세금납부, 시장진출 같은 분야에서 투자가에게 특혜적인 경제활동조건을 보장하도록 한다.
第5条(経済活動条件の保障)
投資家は、経済地帯で会社、支社、事務所などを設立し、企業活動を自由に行うことができる。政府は、土地利用、労働力採用、税金納付、市場進出などの分野で投資家に特恵的な経済活動条件を保障する。
としている。特に「労働力採用」において投資家に「特恵的な経済活動条件を保障する」としているが、どこまでそれを保障するのであろうか。
제6조(투자장려 및 금지, 제한부문)
국가는 경제지대에서 하부구조건설부문과 첨단과학기술부문, 국제시장에서 경쟁력이 높은 상품을 생산하는 부문의 투자를 특별히 장려한다.
第6条(投資奨励および禁止、制限部門)
政府は、経済地帯でインフラ建設部門と先端科学技術部門、国際市場で競争力が高い商品を生産する部門の投資を特別に奨励する。
としており、投資対象地域のインフラ開発から外国企業にやらせようとしている。ここでいう「インフラ建設」が一体どこまでのレベルを指しているのか分からないが、ある程度のインフラが構築されていなければ、外国企業が投資先として選択するのには障害となる。ただし、中国のゼネコンの資金と資材で朝鮮人労働力を使いながら、インフラ開発を進めるという可能性はある。
제7조(경제지대관리운영의 담당자, 관리위원회사업에 대한 관여금지원칙)
경제지대의 관리운영은 중앙특수경제지대지도기관과 평안북도인민위원회의 지도와 방조밑에 관리위원회가 맡아한다.
이 법에서 규정한 경우를 제외하고 다른 기관은 관리위원회의 사업에 관여할수 없다.
第7条(経済地帯管理運営の担当者、管理委員会事業に対する関与禁止原則)
経済地帯の管理運営は中央特殊経済地帯指導機関と平安北道人民委員会の指導と協力の下に管理委員会が担当する。
この法に規定した場合を除き、他の機関は管理委員会の事業に関与することはできない。
この条文では、「他の機関は管理委員会の事業に関与することはできない」としているが、これはこれまでも問題になっていた北朝鮮の複数の機関が重層的に投資企業の経営に干渉しようとするという問題を排除することを目的とするのであろうか。「管理委員会」に実際にどれだけの権限が与えられるのかは分からないが、この部分の交通整理がきちんとできるとすれば、投資企業にとっては相対的に随分「楽な」投資環境となるといえよう。
제22조(경제지대의 관리원칙)
경제지대의 관리원칙은 다음과 같다.
법규의 엄격한 준수와 집행
관리위원회와 기업의 독자성보장
무역과 투자활동에 대한 특혜제공
경제발전의 객관적법칙과 시장원리의 준수
第22条(経済地帯の管理原則)
経済地帯の管理原則は次のとおりである。
法規の厳格な遵守と執行
管理委員会と企業の独自性保障
貿易と投資活動に対する特恵提供
経済発展の客観的法則と市場原理の遵守
上の事項とも関連し、法治主義と「管理委員会」の独立性を強調している。「経済発展の客観的法則」とは具体的に何を示しているのか分からないが、後に続く「市場原理の遵守」という文言から判断すると、少なくとも「経済地帯」内では、「経済発展は、市場原理に基づいてなされるということが、客観的法則」であることを認めているようにも読める。
제34조(기업의 권리)
경제지대에서 기업은 규약에 따라 경영 및 관리질서와 생산계획, 판매계획, 재정계획을 세울 권리, 로력채용, 로임기준과 지불형식, 생산물의 가격, 리윤의 분배방안을 독자적으로 결정할 권리를 가진다.
기업의 경영활동에 대한 비법적인 간섭은 할수 없으며 법규에 정해지지 않은 비용을 징수하거나 의무를 지울수 없다.
第34条(企業の権利)
経済地帯で企業は、規約により経営および管理秩序と生産計画、販売計画、財政計画を立てる権利、労働力採用、労働賃金基準と支払い形式、生産物の価格、利潤の分配方法を独自的に決定する権利を持つ。企業の経営活動に対する不法な干渉を行うことはできず、法規に定められていない費用を徴収したり義務を課すことはできない。
「労働賃金の支払い形式」を企業が決定する権利を持つというのは、注目すべき点である。はたして、「経済地帯」内の企業は直接朝鮮人民に対して賃金を支払うことが認められるのであろうか。また、「企業の経営活動に対する不法な干渉」を禁じているのは、これまで北朝鮮の個人や諸機関が機会がある毎に投資企業に「賄賂」を要求してきたことを暗に認め、それを排除するための規定であろう。
제39조(상품, 봉사의 가격)
경제지대에서 기업들사이에 거래되는 상품과 봉사가격, 경제지대안의 기업과 지대밖의 우리 나라 기관, 기업소, 단체사이에 거래되는 상품의 가격은 국제시장가격에 준하여 당사자들이 협의하여 정한다.
第39条(商品、サービスの価格)
経済地帯において企業間で取引される商品とサービスの価格、経済地帯内の企業と地帯外の我が国機関、企業所、団体との間で取引される商品の価格は、国際市場価格に準じ当事者の合意により決定される。
上の「市場原理」とも関連し、価格は経済地帯内のみならず北朝鮮国内の企業との取引についても「市場価格」とするとしている。そうなると、北朝鮮国内の企業に対しても徐々に「市場価格」が浸透していくことになるはずである。
제42조(기업의 회계)
경제지대에서는 기업의 회계계산과 결산을 국제적으로 통용되는 회계기준을 적용하여 하도록 한다.
第42条(企業の会計)
経済地帯では、企業の会計計算と決算に国際的に通用する会計基準を適用する。
読んで字のごとく、「国際会計基準」を「経済地帯」に適用するということであろう。
제46조(류통화페와 결제화페)
경제지대에서는 정해진 화페를 류통시킨다.
류통화페와 결제화페는 조선원 또는 정해진 화페로 한다
경제지대에서 외화교환, 환률과 관련한 절차는 규정으로 정한다.
第46条(流通通貨と決済通貨)
経済地帯では、定められた通貨を流通させる。
流通通貨と決済通貨は、朝鮮ウォンまたは定められた通貨とする。
経済地帯で外貨交換、為替レートと関連した手続きは規定により定める。
「経済地帯」では、朝鮮ウォンが流通するとしている。したがって、朝鮮人民に投資企業により支払われる賃金も朝鮮ウォンになるのであろうか。開城工業団地では、韓国企業は北朝鮮側に「ドル」で賃金を支払い、それを北朝鮮当局が朝鮮人民に対して朝鮮ウォンで賃金として支払うという方式をとっている(もちろん、全額ではない)。経済地帯で原則、朝鮮ウォンを流通させるという方式にしておけば、元であれドルであれ「定められた為替レート」で朝鮮ウォンに交換されることになるので、北朝鮮の外貨獲得には当面障害とはならないであろう。ただ、「定められた為替レート」なるものが適正でないと、投資企業にとって経済地帯で朝鮮人労働者を雇用するメリットが激減することはいうまでもない。
제57조(통신수단의 리용)
경제지대에서는 우편, 전화, 팍스 같은 통신수단을 자유롭게 리용할수 있다.
第57条(通信手段の利用)
経済地帯では、郵便、電話、ファックスなど、通信手段を銃に利用することができる。
とあるが、インターネットについては規定されていない。郵便は言うに及ばず、電話・ファックスなどというのは一世代以上前の通信手段であり、インターネットの利用を認めないというのは「経済地帯」内の企業にとってはマイナスである。
제67조(경제지대의 출입)
경제지대로 출입하는 외국인과 운수수단은 려권 또는 그를 대신하는 출입증명서를 가지고 지정된 통로로 사증없이 출입할수 있다.
第67条(経済地帯の出入り)
経済地帯に出入りする外国人と運送手段は、旅券またはそれに代わる出入証明書を持ち、指定された通路で査証なく出入りすることができる。
とし、ノービザでの入国を認めている。条文には「外国人」と書かれているが、これが国交のない、例えば日本人にまで適用されるのかは分からない。
부 칙
제2조(법의 해석권)
이 법의 해석은 최고인민회의 상임위원회가 한다.
付則
第2条(法の解釈権)
この法の解釈は、最高人民会議常任委員会が行う。
としている。法解釈は裁判所が行うべきだと思うが、この法律については「最高人民会議常任委員会」としている。これは、この法律による運用面での問題が出てきた場合や国際情勢の変化により「法律の解釈」を変えなければならない状況に対応できるようにという猶予措置であろう。北朝鮮にとっては都合の良い措置ではあるが、投資企業にとっては大きな不安材料となることは間違いない。
いずれの法律も2011年12月3日の最高人民会議常任委員会で採択(「黄金坪、威化島経済地帯法」、修正補充(「羅先経済貿易地帯法」)されているので、金正日時代である。これらの法律をこのタイミングで公表したのは、党代表者会後に出される新たな経済政策の前触れではないだろうか。ここでは、新たに制定された「黄金坪、威化島経済地帯法」をみていくことにする。
제5조(경제활동조건의 보장)
투자가는 경제지대에서 회사, 지사, 사무소 같은것을 설립하고 기업활동을 자유롭게 할수 있다.
국가는 토지리용, 로력채용, 세금납부, 시장진출 같은 분야에서 투자가에게 특혜적인 경제활동조건을 보장하도록 한다.
第5条(経済活動条件の保障)
投資家は、経済地帯で会社、支社、事務所などを設立し、企業活動を自由に行うことができる。政府は、土地利用、労働力採用、税金納付、市場進出などの分野で投資家に特恵的な経済活動条件を保障する。
としている。特に「労働力採用」において投資家に「特恵的な経済活動条件を保障する」としているが、どこまでそれを保障するのであろうか。
제6조(투자장려 및 금지, 제한부문)
국가는 경제지대에서 하부구조건설부문과 첨단과학기술부문, 국제시장에서 경쟁력이 높은 상품을 생산하는 부문의 투자를 특별히 장려한다.
第6条(投資奨励および禁止、制限部門)
政府は、経済地帯でインフラ建設部門と先端科学技術部門、国際市場で競争力が高い商品を生産する部門の投資を特別に奨励する。
としており、投資対象地域のインフラ開発から外国企業にやらせようとしている。ここでいう「インフラ建設」が一体どこまでのレベルを指しているのか分からないが、ある程度のインフラが構築されていなければ、外国企業が投資先として選択するのには障害となる。ただし、中国のゼネコンの資金と資材で朝鮮人労働力を使いながら、インフラ開発を進めるという可能性はある。
제7조(경제지대관리운영의 담당자, 관리위원회사업에 대한 관여금지원칙)
경제지대의 관리운영은 중앙특수경제지대지도기관과 평안북도인민위원회의 지도와 방조밑에 관리위원회가 맡아한다.
이 법에서 규정한 경우를 제외하고 다른 기관은 관리위원회의 사업에 관여할수 없다.
第7条(経済地帯管理運営の担当者、管理委員会事業に対する関与禁止原則)
経済地帯の管理運営は中央特殊経済地帯指導機関と平安北道人民委員会の指導と協力の下に管理委員会が担当する。
この法に規定した場合を除き、他の機関は管理委員会の事業に関与することはできない。
この条文では、「他の機関は管理委員会の事業に関与することはできない」としているが、これはこれまでも問題になっていた北朝鮮の複数の機関が重層的に投資企業の経営に干渉しようとするという問題を排除することを目的とするのであろうか。「管理委員会」に実際にどれだけの権限が与えられるのかは分からないが、この部分の交通整理がきちんとできるとすれば、投資企業にとっては相対的に随分「楽な」投資環境となるといえよう。
제22조(경제지대의 관리원칙)
경제지대의 관리원칙은 다음과 같다.
법규의 엄격한 준수와 집행
관리위원회와 기업의 독자성보장
무역과 투자활동에 대한 특혜제공
경제발전의 객관적법칙과 시장원리의 준수
第22条(経済地帯の管理原則)
経済地帯の管理原則は次のとおりである。
法規の厳格な遵守と執行
管理委員会と企業の独自性保障
貿易と投資活動に対する特恵提供
経済発展の客観的法則と市場原理の遵守
上の事項とも関連し、法治主義と「管理委員会」の独立性を強調している。「経済発展の客観的法則」とは具体的に何を示しているのか分からないが、後に続く「市場原理の遵守」という文言から判断すると、少なくとも「経済地帯」内では、「経済発展は、市場原理に基づいてなされるということが、客観的法則」であることを認めているようにも読める。
제34조(기업의 권리)
경제지대에서 기업은 규약에 따라 경영 및 관리질서와 생산계획, 판매계획, 재정계획을 세울 권리, 로력채용, 로임기준과 지불형식, 생산물의 가격, 리윤의 분배방안을 독자적으로 결정할 권리를 가진다.
기업의 경영활동에 대한 비법적인 간섭은 할수 없으며 법규에 정해지지 않은 비용을 징수하거나 의무를 지울수 없다.
第34条(企業の権利)
経済地帯で企業は、規約により経営および管理秩序と生産計画、販売計画、財政計画を立てる権利、労働力採用、労働賃金基準と支払い形式、生産物の価格、利潤の分配方法を独自的に決定する権利を持つ。企業の経営活動に対する不法な干渉を行うことはできず、法規に定められていない費用を徴収したり義務を課すことはできない。
「労働賃金の支払い形式」を企業が決定する権利を持つというのは、注目すべき点である。はたして、「経済地帯」内の企業は直接朝鮮人民に対して賃金を支払うことが認められるのであろうか。また、「企業の経営活動に対する不法な干渉」を禁じているのは、これまで北朝鮮の個人や諸機関が機会がある毎に投資企業に「賄賂」を要求してきたことを暗に認め、それを排除するための規定であろう。
제39조(상품, 봉사의 가격)
경제지대에서 기업들사이에 거래되는 상품과 봉사가격, 경제지대안의 기업과 지대밖의 우리 나라 기관, 기업소, 단체사이에 거래되는 상품의 가격은 국제시장가격에 준하여 당사자들이 협의하여 정한다.
第39条(商品、サービスの価格)
経済地帯において企業間で取引される商品とサービスの価格、経済地帯内の企業と地帯外の我が国機関、企業所、団体との間で取引される商品の価格は、国際市場価格に準じ当事者の合意により決定される。
上の「市場原理」とも関連し、価格は経済地帯内のみならず北朝鮮国内の企業との取引についても「市場価格」とするとしている。そうなると、北朝鮮国内の企業に対しても徐々に「市場価格」が浸透していくことになるはずである。
제42조(기업의 회계)
경제지대에서는 기업의 회계계산과 결산을 국제적으로 통용되는 회계기준을 적용하여 하도록 한다.
第42条(企業の会計)
経済地帯では、企業の会計計算と決算に国際的に通用する会計基準を適用する。
読んで字のごとく、「国際会計基準」を「経済地帯」に適用するということであろう。
제46조(류통화페와 결제화페)
경제지대에서는 정해진 화페를 류통시킨다.
류통화페와 결제화페는 조선원 또는 정해진 화페로 한다
경제지대에서 외화교환, 환률과 관련한 절차는 규정으로 정한다.
第46条(流通通貨と決済通貨)
経済地帯では、定められた通貨を流通させる。
流通通貨と決済通貨は、朝鮮ウォンまたは定められた通貨とする。
経済地帯で外貨交換、為替レートと関連した手続きは規定により定める。
「経済地帯」では、朝鮮ウォンが流通するとしている。したがって、朝鮮人民に投資企業により支払われる賃金も朝鮮ウォンになるのであろうか。開城工業団地では、韓国企業は北朝鮮側に「ドル」で賃金を支払い、それを北朝鮮当局が朝鮮人民に対して朝鮮ウォンで賃金として支払うという方式をとっている(もちろん、全額ではない)。経済地帯で原則、朝鮮ウォンを流通させるという方式にしておけば、元であれドルであれ「定められた為替レート」で朝鮮ウォンに交換されることになるので、北朝鮮の外貨獲得には当面障害とはならないであろう。ただ、「定められた為替レート」なるものが適正でないと、投資企業にとって経済地帯で朝鮮人労働者を雇用するメリットが激減することはいうまでもない。
제57조(통신수단의 리용)
경제지대에서는 우편, 전화, 팍스 같은 통신수단을 자유롭게 리용할수 있다.
第57条(通信手段の利用)
経済地帯では、郵便、電話、ファックスなど、通信手段を銃に利用することができる。
とあるが、インターネットについては規定されていない。郵便は言うに及ばず、電話・ファックスなどというのは一世代以上前の通信手段であり、インターネットの利用を認めないというのは「経済地帯」内の企業にとってはマイナスである。
제67조(경제지대의 출입)
경제지대로 출입하는 외국인과 운수수단은 려권 또는 그를 대신하는 출입증명서를 가지고 지정된 통로로 사증없이 출입할수 있다.
第67条(経済地帯の出入り)
経済地帯に出入りする外国人と運送手段は、旅券またはそれに代わる出入証明書を持ち、指定された通路で査証なく出入りすることができる。
とし、ノービザでの入国を認めている。条文には「外国人」と書かれているが、これが国交のない、例えば日本人にまで適用されるのかは分からない。
부 칙
제2조(법의 해석권)
이 법의 해석은 최고인민회의 상임위원회가 한다.
付則
第2条(法の解釈権)
この法の解釈は、最高人民会議常任委員会が行う。
としている。法解釈は裁判所が行うべきだと思うが、この法律については「最高人民会議常任委員会」としている。これは、この法律による運用面での問題が出てきた場合や国際情勢の変化により「法律の解釈」を変えなければならない状況に対応できるようにという猶予措置であろう。北朝鮮にとっては都合の良い措置ではあるが、投資企業にとっては大きな不安材料となることは間違いない。