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    「North Korean Announcement of Missile Launch」(2012年3月17日 「US Department of State」)

    北朝鮮の衛星発射報道を受け、米国時間の午前4時に米国務省のノーランド報道官はこの声明を出した。

    http://www.state.gov/r/pa/prs/ps/2012/03/185910.htm

    米国時間の早朝ということもあり、同じ声明が国務長官と報道官の名前で出されるなど、若干混乱もあったようである。ノーランド報道官は、この混乱についてウェブサーバーの技術的問題としている。ともあれ、北朝鮮のこのような決定が「想定外」であったので、相当に慌てた様子がうかがわれる。

    声明では、北朝鮮の「ミサイル」発射が「国際的な履行義務に対する直接的な違反であり、挑発的である」と非難し、その理由として、国連安保理制裁決議1718と1874が禁じている「弾道ミサイル技術を使った発射」であるとしている。そして、「ミサイル」発射は、「最近の長距離ミサイル発射の自制という合意に反する」とし、北朝鮮に対し「国連安保理決議を含む国際的履行義務を遵守」することを求めている。その上で米国は、「関連国と次のステップについて緊密に協議する」としている。

    まず、ノーランド声明では「ミサイル」という用語を使っている。この点については、後述するのでここでは確認だけにとどめておく。念のために、国連安保理決議1718と1874の「ミサイル」に関する部分の記述を確認しておく。

    国連安保理決議1718(2006.10.14)

    http://www.mofa.go.jp/policy/un/resolution1718.pdf

    2. Demands that the DPRK not conduct any further nuclear test or launch of
    a ballistic missile
    ;

    (朝鮮民主主義人民共和国に対し、今後、核実験や弾道ミサイルの発射を行わないことを要求する)

    国連安保理決議1874(2009.6.12)

    http://www.un.org/News/Press/docs/2009/sc9679.doc.htm

    2.Demands that the DPRK not conduct any further nuclear test or any launch using ballistic missile technology;

    (朝鮮民主主義人民共和国に対し、今後、核実験や弾道ミサイル技術を使った発射を行わないことを要求する)

    となっており、2度目の「飛翔体」発射も北朝鮮が「人工衛星の発射」と主張したことに対し、今後そのような主張ができないように釘を刺している。つまり、一度目の発射について、厳密には、北朝鮮は違反していたと確定できないことを暗に安保理決議の中で認めているのである。それは、安保理決議1718で禁じたのは「弾道ミサイルの発射」であり、人工衛星打ち上げロケットは禁止されていなかったからである。そこで、弾道ミサイルにも衛星打ち上げロケットにも用いられる「弾道ミサイルに使われる技術」という表現に切り替えている。したがって、4月に光明星3号が打ち上げられることになれば、一応、「弾道ミサイルに使われる技術」を使った発射になるわけで、安保理決議1874には違反することになろう。ともあれ、この点については、まだ曖昧な点がある。

    ノーランド報道官は、国務省定例記者会見で多くの時間を北朝鮮の問題にさいている。

    http://www.state.gov/r/pa/prs/dpb/2012/03/185935.htm

    記者会見の中での「ミサイル」と「人工衛星打ち上げロケット」を巡る米国の立場を見ていくことにする。

    ノーランドさんは、記者に国務省報道官声明の中では「ミサイル」と言っておきながら、記者会見では「衛星打ち上げ」と言っている点について質問され、北朝鮮の主張するように衛星打ち上げであったとしても「ミサイル技術を使うので、国連安保理決議1874に対する明確な違反」であるとしている。ただ、上で指摘したとおり、安保理決議1718に対する違反であるとは、意図的にであるかどうかは分からないが、言っていない。

    では、2月29日の米朝合意に対する見解はどうか。ノーランドさんは「北朝鮮側に衛星発射の扱いについて米朝協議で伝えられていたのか」という記者の質問に答え、「米国は北朝鮮側に衛星発射もこの合意に反するものであると明確に伝え、その場にいた北朝鮮側の代表は理解していた」としている。このとおりだとすると、前の記事にも書いたように、北朝鮮側で、特に軍と外務省の調整がうまくできていなかった可能性が出てくる。

    ただ、ノーランドさんの栄養援助やIAEAによる核査察についてのコメントを見ると、北朝鮮は「衛星発射」を読み込み済みで米朝合意に至った可能性も大いにある。

    栄養援助についてノーランドさんは、「米国は人道援助とその他の政策をリンクさせないことを原則としている」としながらも、合意を破るような政権が、モニタリングなど栄養援助を必要としている人々への配給を保障できるかどうかについて疑問を呈し、さらに衛星発射がもたらす緊張状態がそれをさらに難しくするであろうと述べている。しかしながら、衛星が発射されれば栄養援助は「非常に困難になる」としつつも、「行わない」とは、注意深く明言していない。

    さらに、ノーランドさんは、「衛星発射」よりも「ウラン濃縮停止」の方に力点を置いているようにも思われる。ノーランドさんは記者に「IAEAが北朝鮮の地で査察を行うことが米国政府にとって重要なのではないのか」という質問を受け、「よい指摘だ。我々はこれからこの問題への対応としてどのようなオプションがあるかを再検討しなければならないと思う」と答えている。

    もし、「衛星発射」で今回の合意全てを水に流してしまうのであれば、振り出しに戻るだけである。米国が「衛星発射」か「核開発」という選択を迫られれば、「核開発」により重点を置くはずである。確かに米国に到達する長距離ミサイルを北朝鮮が保有することは米国にとっては脅威である。北朝鮮が既に保有しているといわれる生物化学兵器まで念頭に入れれば、核爆弾以上に深刻であるのは間違いない。しかし、現在のテポドン2号の「失敗」からして、北朝鮮の長距離ミサイル技術は直接的かつ短期的な脅威になるとは米国は考えていないはずである。一方、北朝鮮の核開発はミサイル以上に進んでおり、特に第二のパスであるウラン型核爆弾の製造はなんとしても中断させたいであろう。そのためには、IAEAの査察を受け入れさせ、NPTに復帰させることは非常に重要である。

    先に北朝鮮は「読み込み済み」と書いたが、米国が栄養援助中止などという誤った判断をしなければ、北朝鮮はIAEAの査察に関する約束は履行するのではないだろうか。もちろん、前記事にも書いたように、米朝がそれぞれ出したステートメントの内容には若干の相違があるので、そこで摩擦が起こる可能性も十分にある。ともあれ、金日成さんの誕生日にロケットを打ち上げ、しかも米国から栄養援助を取り付けることに成功すれば、金正恩さんにとっては外交的にも、そして対内的、特に軍部に対しても大きな功績となることは間違いない。

    ノーランドさんの会見からも分かるように、米国はまだ席を蹴っていない。オバマ政権が、この時期に席を蹴るのが難しい状況であるということも北朝鮮は見抜いているに違いない。米国は栄養援助を段階的に進めていくといっているので、モニタリングの保障、IAEAの査察受け入れなどを巡り、これからも交渉は続けられるであろう。その動きを注視したい。

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    川口智彦

    Author:川口智彦
    「크는 아바이(成長するオッサン)」

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    「元帥様」=金正恩朝鮮労働党委員長(上の絵の人物)、2016年12月20日から「最高領導者同志」とも呼ばれる
    2021年1月11日から「総秘書同志」
    「首領様」=金日成主席
    「将軍様」=金正日総書記
    「政治局員候補」=金ヨジョン(「元帥様」の妹)、2018年2月11日から「第1副部長同志」とも
    「白頭の血統」=金一族
    「大元帥様達」=「首領様」と「将軍様」
    「女史」=李雪主夫人(2018.07.26より「同志」に)

    우 그림은 충정 담아 아이가 그린 경애하는 김정은원수님이십니다.


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