「朝鮮宇宙空間技術委員会スポークスマン談話」(2012年3月16日「朝鮮中央通信」)
北朝鮮が人工衛星「光明星3号」の打ち上げ計画を発表した。「朝鮮中央通信」によると「今回、打ち上げられる光明星3号は、極軌道を飛行する地球観測衛星で運搬ロケット銀河3で平安北道チョルサン郡の西海衛星発射上から南方に向け4月12日から16日の間に発射される」としている。そして、「衛星発射過程で発生する運搬ロケットの残骸が周辺国家に影響を与えないように飛行軌道を安全に設定した」とし、「我々は、平和的な科学技術衛星発射と関連する国際的規定と慣例を円満に守り、透明性を最大限保障し、宇宙科学研究と衛星発射分野において国際的信頼を増進し、協力を強化することに役立てる」としている。
これと関連し「先軍朝鮮の国力を誇る衛星発射」という記事も配信し、朝鮮人民の「我が国を核保有国、衛星製作および発射国として世界の中心に持ち上げたそのお方(金正日)の賢明な指導があったので、我々の宇宙科学技術は、より高い水準に達した」などという話を伝えている。
2月末の米朝協議の合意には「長距離ミサイルの発射中止」が盛り込まれている。ただ、今回発射するロケットは衛星打ち上げようであるので、この合意に反するものではないというのが北朝鮮の立場であろう。これを米朝間でどのように処理するのか。以前、航空宇宙技術者のHPで宇宙ロケットとミサイルの違いについて読んだことがあるが、明確に区別をするのは難しいと書かれていた。北朝鮮がいう「透明性を最大限に保障」するということは、何を示しているのか。打ち上げに外部の人間を立ち会わせるということであろうか。北朝鮮の宇宙開発を認める国際的な枠組みも必要ではないのか。
<追記: 2012年3月17日 09:37>
昨日書こうかと思ったのだが、もう少し確認をしてからと思い、今朝、昨日夜北朝鮮で放映された「20時報道」と今日の「労働新聞」を見るまで保留しておいたことがある。
それはなにかというと、今回の人工衛星発射計画に金正恩さんの直接的にコミットしているというような記述がほとんどないという点である。現時点で確認した限りでは、
「朝鮮中央通信」で、
「朝鮮宇宙空間技術委員会談話」
「人工地球衛星製作国、発射国の威厳を再び誇るであろう」
「朝鮮の教授たち光明星3号の成果的発射を確信」
「光明星3号の発射は、金日成民族、金正日朝鮮の大慶事」
「朝鮮の科学者たち強盛国家建設が決して絵空事ではないと強調」
「朝鮮宇宙空間技術委員会スポークスマン談話を聞いた金日成総合大学教職員、学生たち」
http://www.kcna.kp/
「労働新聞」で、
「朝鮮宇宙空間技術委員会談話」
「我々はこうして宇宙を征服する」
「光明星3号を発射するというニュースを聞いた鉄道省幹部の顔に民族的誇りと自負心が溢れている」
「世界を見下ろす強盛復興へ」
「最先端突破の歓声宇宙へ震撼させる」
http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2012-03-17-0002&chAction=L
http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2012-03-17-0004&chAction=L
http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2012-03-17-0006&chAction=L
http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2012-03-17-0005&chAction=L
http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2012-03-17-0007&chAction=L
「朝鮮中央TV」で、
「朝鮮宇宙空間技術委員会談話」
「20時報道」
http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=8825
http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=8841
がある。しかし、いずれの報道でもこれが金正恩さんの実績であるかのような説明がないばかりか、彼の名前もほとんど出てこない。「労働新聞」のいくつかの記事で出てくるものの、最後の数行の枕詞として「党と金正恩同志の下に堅く団結し」という程度である。そして、今回の衛星発射に直接的に貢献したのは、金正日さんであるというような発言や記述が多くされていることも特徴的である。
また、報道では、朝鮮の科学技術の発展を強調している点も特徴的である。今回発射する「飛翔体」が弾道ミサイルではなく、人工衛星運搬ロケットであるということを強調するためかもしれないが、「労働新聞」の光明星3号関連の記事も全て「文化」のカテゴリーに分類されている。
さて、これをどのように解釈すべきであろうか。第一の解釈としては、今回の「飛翔体」は「宇宙科学ロケット」であるので、朝鮮人民軍最高司令官であり朝鮮労働党軍事委員会副委員長の金正恩さんは、直接的に関係していないということを強調しようとしているという解釈である。4月中旬の党代表者会で「総秘書」に「推戴」された後で、金正恩同志の指導で朝鮮の「科学技術」が発展したと称賛するパターンである。
第2の解釈は、米国との「2月29日合意」への影響に一定の猶予を持たせているという解釈である。つまり、今回の衛星発射について金正恩さんは「直接的にコミット」していないので、場合によっては、対米関係を考慮し「延期」するという決断を下せるようにしているのではないのか。最高司令官が下した「衛星発射決断」を米国に言われて引き下げるというのは、国内的、特に軍に対しては弱腰と思われてしまう。
第3の解釈は、北朝鮮国内で何らかの路線対立が発生しているという解釈である。つまり、米国との協調路線に反対する勢力が、敢えてこのタイミングで「衛星発射」を金正恩さんに迫ったという解釈である。外面的には、金正恩政権は現在のところ安定しているように見えるので、この可能性はあまり高いとはいえないが、完全に排除することもできない。
第4の解釈は、米国との「取引材料」として出したというものであるが、これについては米国務省ノーランド報道官の記者会見の発言を引用しながら別記事に書こうと思う。
<追記2: 2012年3月18日 07:18>
第5の解釈を考えついた。それは、万が一、衛星発射が失敗したときに、金正恩さんが責任回避をできるよう、彼を前面に出していないんではという解釈である。運搬ロケットは、リフトオフして空の彼方に消えていけば、朝鮮人民「大衆」にとっては大成功である。それが、途中で爆発しようがどこかに落っこちようが「目で見えない」ところであれば関係ない。その後は、米国NORADに追跡され、そこが発表したデータを基に海外メディアが「事実」を伝えるであろうが、朝鮮人民「大衆」にはそれが伝わりようもない。ただ、リフトオフの段階で爆発したり落っこちたりしたりしたら、朝鮮人民の目にも「失敗」は明らかである。この失敗が金正恩さんに直結してしまうのは、いかにもまずい。過去2回の衛星打ち上げでリフトオフは成功しているので、この部分での失敗の可能性は低いと思われるが、米国のスペースシャトルでも失敗することがあるのだから、可能性は排除できない。
3月18日付けの「労働新聞」にさらに光明星3号関連の記事が出ていたので確認してみた。
記事「宇宙強国の尊厳を高く持ち上げるであろう」内の金正恩さん関連記述:
「実に、今回発表された朝鮮宇宙空間技術委員会スポークスマン談話は、千万軍民の心臓にまた一人の天が生んだ名将である敬愛する金正恩同志を革命の陣頭に高く掲げ、太陽民族の尊厳を再び心に深く刻ませてくれる激動的なニュースである」
記事「最先端突破の朗報」同、
なし
前者には、金正恩さんの名前が出てくるものの、衛星ロケット打ち上げが金正恩さんの業績であると言うことは書かれていないだけではなく、昨日紹介した記事同様、金正日さんの業績としている。後者に至っては、「科学技術の発展と人民生活の向上」を強調する記事で、誰それという話は出てこない。
あと一つ、写真記事がある。これらの記事は、全て「社会面」の記事であった。
これと関連し「先軍朝鮮の国力を誇る衛星発射」という記事も配信し、朝鮮人民の「我が国を核保有国、衛星製作および発射国として世界の中心に持ち上げたそのお方(金正日)の賢明な指導があったので、我々の宇宙科学技術は、より高い水準に達した」などという話を伝えている。
2月末の米朝協議の合意には「長距離ミサイルの発射中止」が盛り込まれている。ただ、今回発射するロケットは衛星打ち上げようであるので、この合意に反するものではないというのが北朝鮮の立場であろう。これを米朝間でどのように処理するのか。以前、航空宇宙技術者のHPで宇宙ロケットとミサイルの違いについて読んだことがあるが、明確に区別をするのは難しいと書かれていた。北朝鮮がいう「透明性を最大限に保障」するということは、何を示しているのか。打ち上げに外部の人間を立ち会わせるということであろうか。北朝鮮の宇宙開発を認める国際的な枠組みも必要ではないのか。
<追記: 2012年3月17日 09:37>
昨日書こうかと思ったのだが、もう少し確認をしてからと思い、今朝、昨日夜北朝鮮で放映された「20時報道」と今日の「労働新聞」を見るまで保留しておいたことがある。
それはなにかというと、今回の人工衛星発射計画に金正恩さんの直接的にコミットしているというような記述がほとんどないという点である。現時点で確認した限りでは、
「朝鮮中央通信」で、
「朝鮮宇宙空間技術委員会談話」
「人工地球衛星製作国、発射国の威厳を再び誇るであろう」
「朝鮮の教授たち光明星3号の成果的発射を確信」
「光明星3号の発射は、金日成民族、金正日朝鮮の大慶事」
「朝鮮の科学者たち強盛国家建設が決して絵空事ではないと強調」
「朝鮮宇宙空間技術委員会スポークスマン談話を聞いた金日成総合大学教職員、学生たち」
http://www.kcna.kp/
「労働新聞」で、
「朝鮮宇宙空間技術委員会談話」
「我々はこうして宇宙を征服する」
「光明星3号を発射するというニュースを聞いた鉄道省幹部の顔に民族的誇りと自負心が溢れている」
「世界を見下ろす強盛復興へ」
「最先端突破の歓声宇宙へ震撼させる」
http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2012-03-17-0002&chAction=L
http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2012-03-17-0004&chAction=L
http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2012-03-17-0006&chAction=L
http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2012-03-17-0005&chAction=L
http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2012-03-17-0007&chAction=L
「朝鮮中央TV」で、
「朝鮮宇宙空間技術委員会談話」
「20時報道」
http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=8825
http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=8841
がある。しかし、いずれの報道でもこれが金正恩さんの実績であるかのような説明がないばかりか、彼の名前もほとんど出てこない。「労働新聞」のいくつかの記事で出てくるものの、最後の数行の枕詞として「党と金正恩同志の下に堅く団結し」という程度である。そして、今回の衛星発射に直接的に貢献したのは、金正日さんであるというような発言や記述が多くされていることも特徴的である。
また、報道では、朝鮮の科学技術の発展を強調している点も特徴的である。今回発射する「飛翔体」が弾道ミサイルではなく、人工衛星運搬ロケットであるということを強調するためかもしれないが、「労働新聞」の光明星3号関連の記事も全て「文化」のカテゴリーに分類されている。
さて、これをどのように解釈すべきであろうか。第一の解釈としては、今回の「飛翔体」は「宇宙科学ロケット」であるので、朝鮮人民軍最高司令官であり朝鮮労働党軍事委員会副委員長の金正恩さんは、直接的に関係していないということを強調しようとしているという解釈である。4月中旬の党代表者会で「総秘書」に「推戴」された後で、金正恩同志の指導で朝鮮の「科学技術」が発展したと称賛するパターンである。
第2の解釈は、米国との「2月29日合意」への影響に一定の猶予を持たせているという解釈である。つまり、今回の衛星発射について金正恩さんは「直接的にコミット」していないので、場合によっては、対米関係を考慮し「延期」するという決断を下せるようにしているのではないのか。最高司令官が下した「衛星発射決断」を米国に言われて引き下げるというのは、国内的、特に軍に対しては弱腰と思われてしまう。
第3の解釈は、北朝鮮国内で何らかの路線対立が発生しているという解釈である。つまり、米国との協調路線に反対する勢力が、敢えてこのタイミングで「衛星発射」を金正恩さんに迫ったという解釈である。外面的には、金正恩政権は現在のところ安定しているように見えるので、この可能性はあまり高いとはいえないが、完全に排除することもできない。
第4の解釈は、米国との「取引材料」として出したというものであるが、これについては米国務省ノーランド報道官の記者会見の発言を引用しながら別記事に書こうと思う。
<追記2: 2012年3月18日 07:18>
第5の解釈を考えついた。それは、万が一、衛星発射が失敗したときに、金正恩さんが責任回避をできるよう、彼を前面に出していないんではという解釈である。運搬ロケットは、リフトオフして空の彼方に消えていけば、朝鮮人民「大衆」にとっては大成功である。それが、途中で爆発しようがどこかに落っこちようが「目で見えない」ところであれば関係ない。その後は、米国NORADに追跡され、そこが発表したデータを基に海外メディアが「事実」を伝えるであろうが、朝鮮人民「大衆」にはそれが伝わりようもない。ただ、リフトオフの段階で爆発したり落っこちたりしたりしたら、朝鮮人民の目にも「失敗」は明らかである。この失敗が金正恩さんに直結してしまうのは、いかにもまずい。過去2回の衛星打ち上げでリフトオフは成功しているので、この部分での失敗の可能性は低いと思われるが、米国のスペースシャトルでも失敗することがあるのだから、可能性は排除できない。
3月18日付けの「労働新聞」にさらに光明星3号関連の記事が出ていたので確認してみた。
記事「宇宙強国の尊厳を高く持ち上げるであろう」内の金正恩さん関連記述:
「実に、今回発表された朝鮮宇宙空間技術委員会スポークスマン談話は、千万軍民の心臓にまた一人の天が生んだ名将である敬愛する金正恩同志を革命の陣頭に高く掲げ、太陽民族の尊厳を再び心に深く刻ませてくれる激動的なニュースである」
記事「最先端突破の朗報」同、
なし
前者には、金正恩さんの名前が出てくるものの、衛星ロケット打ち上げが金正恩さんの業績であると言うことは書かれていないだけではなく、昨日紹介した記事同様、金正日さんの業績としている。後者に至っては、「科学技術の発展と人民生活の向上」を強調する記事で、誰それという話は出てこない。
あと一つ、写真記事がある。これらの記事は、全て「社会面」の記事であった。