「金正恩 偉大な金日成、金正日同志の党の偉業は必勝不敗である 朝鮮労働党創建70周年に際し」:金正恩の「労作」、新鮮味がない、「革命の挫折」は中国か、式典での演説は? (2015年10月6日 「労働新聞」)
6日の『労働新聞』に「党創建70周年」に際して金正恩が発表した「労作」が掲載された。一読してみたが、これからの指針においてほとんど新鮮さがなく、基本的には「これまでの路線の堅持」に終わっている。金日成、金正日の業績を振り返り、「金日成-金正日愛国主義」を強調するのは毎度のことであるが、前指導者達の業績を賛美した後、「金正恩カラー」を出していた。しかし、今回はそれが見当たらない。
「労作」の前半の部分では、前指導者の業績を賛美した上で、「革命的党は、本質において首領の思想と偉業を実現するという首領の党であり、党建設での基本は、首領の思想と領導の唯一性を保障し、その継承性を実現することである」とした上で、「歴史は首領の正しい領導の下で革命を成功裏に進めてきた党であっても、首領の思想と領導を正しく継承できなければ、党が変質し、結局、革命の挫折をもたらすことになるという骨に浸みる教訓を残した」が、「偉大な金日成同志と金正日同志は、千里慧眼の叡智で、遠い未来を見据えながら、革命偉業を継承していく領導者の組織思想的基礎固め、領導体系を打ち立て、首領の思想と領導が代を継いで輝くよう継承させるようにさせた」としている。
つまり、金日成から金正日、そして金正日から自分(金正恩)への継承は成功しており、だからこそ「党が変質」することもなく、「革命の挫折」もないということである。
「党が変質し、結局、革命の挫折」というのは、社会主義体制が崩壊した東欧の社会主義国を言っているのか、「社会主義市場経済」中国のことを言っているのか分からないが、金正恩が中国で「革命の挫折」としてこれを言っているのであれば興味深い。
しかしながら、「継承は成功」した北朝鮮にも少なからず思想的問題はあるようで、「全党を偉大な金日成-金正日主義で一色化させた信念の結晶体としにしなければならない。全ての幹部と党員が、我が党の革命思想の他には如何なる思想も知らないという絶対不変の信念を抱き、異色的な思想潮流に反対する非妥協的な闘争を展開し、党の思想的純潔性を確固として保障しなければならない」としている。金正恩時代の「異色的な思想潮流に反対する非妥協的な闘争」の象徴は張成沢粛清であるが、少なからず「異色的な思想潮流」が流れ込んでおり、それは断固として排撃すべきだということであろう。
そして、「我々の社会主義制度を内部から崩壊させようという敵共のあらゆる策動を鋭利に見分け、覚醒を持って対応しながら、者会主義花園に資本主義の毒草の小さな芽も絶対に出させないようにしなければならない」とも述べており、上述した「革命の挫折」を狙った「敵共のあらゆる策動」が少なからず存在するという認識を示している。「内部から崩壊」と言っているところに、ある種の危機意識が込められている。
現実的な問題にも言及しており、「全党的に権威主義と官僚主義、不正腐敗行為に反対する闘争を高い強度で展開し、主体革命的党、母なる党の本来の姿を固守し、人民大衆の要求と利益を徹底して擁護しなければならない」と述べている。「権威主義と官僚主義、不正腐敗」は、「朝鮮芸術映画」や「テレビドラマ」の中でもしばしば取り扱われる問題であるが、依然としてその克服が労働党内や政府で大きな問題となっているということであろう。社会主義体制の中で、「権威主義と官僚主義、不正腐敗」をなくすことができれば、「元帥様」は本当の「偉人」になれる。
政府のあり方については、「我々人民政権と社会主義制度をさらに強固で、人民先見が人民大衆の自主的権利の代表者、創造者的能力の組織者、人民生活に対する責任を持つ戸主、人民大衆の自主的で創造的な生活の保護者としての責任と役割を完遂するようにしなければならない。現実発展の要求に合わせ、人民政権の事業体系と方法を改善し、社会に対する国家の統一的指導と経済組織者的機能を強化し、強盛国家建設を力強く主導しなければならない」と述べている。ここに書かれていることは、「現実発展の要求に合わせ」てより分権化するのではなく、「国家の統一的指導と経済組織的機能を強化」することで中央集権化の強化を図ることなのか、政府が経済問題についてきちんと責任を持つことなのか、どちらを言っているのであろうか。国家が「責任を持つ」のは基本的に良いことではあるが、そこからくる非効率と無責任が問題になっていることは、これもしばしば「朝鮮芸術映画」などの題材として取り上げられている。大体、その間に入って問題を解決するのも「朝鮮労働党の幹部」ではあるのだが。
これと関連し、経済問題については「我が党が提示した革命的経済路線と政策を堅持し、人民経済の先行部門を強化することに力を集中させながら、経済強国建設目標を段階的に実現するための闘争を力強く展開しなければならない」と述べている。しかし、「ムジゲ号」が「人民生活の先行部門」かというと首をかしげてしまう。象徴的な「ムジゲ号」の意味は十分に理解できるが、特に平壌以外の「人民生活の先行部門」における「闘争」をもっと「力強く展開」して欲しいものである。
いつもは、教育・体育・文化について熱く語る「元帥様」であるが、今回は実にシンプルに「教育と保健、体育、文化芸術をはじめとした全ての文化分野を社会主義文明国の高さにし、21世紀の新たな文明開花期を切り開いていかない」とだけ述べている。もう少し「義務教育12年制実施」に触れてもよさそうなものだが、どうしたのだろうか。文化については、「功勲国家合唱団とモランボン楽団の合同公演」、「もう一つの国宝的楽団である青峰楽団」の公演があるから、人民はそれで納得して下さいということなのかもししれない。だとすると、これらの公演で「21世紀の新たな文明開化」がどのように展開されるのかが見物である。
「新鮮味がない」と冒頭でケチを付けたが、それなりに書くことはあった。
『労働新聞』、「김 정 은 위대한 김일성,김정일동지 당의 위업은 필승불패이다 조선로동당창건 70돐에 즈음하여 주체104(2015)년 10월 4일」、http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2015-10-06-0001
<追記>
6日夜「朝鮮中央TV」で放送された「今日の報道の中から」を見ていたら、「青年強国」というのは「新しい時代語」と言っていた。気にはなったが、「新しく」ないと思い書かなかったが、そういうことのようだ。
「労作」の前半の部分では、前指導者の業績を賛美した上で、「革命的党は、本質において首領の思想と偉業を実現するという首領の党であり、党建設での基本は、首領の思想と領導の唯一性を保障し、その継承性を実現することである」とした上で、「歴史は首領の正しい領導の下で革命を成功裏に進めてきた党であっても、首領の思想と領導を正しく継承できなければ、党が変質し、結局、革命の挫折をもたらすことになるという骨に浸みる教訓を残した」が、「偉大な金日成同志と金正日同志は、千里慧眼の叡智で、遠い未来を見据えながら、革命偉業を継承していく領導者の組織思想的基礎固め、領導体系を打ち立て、首領の思想と領導が代を継いで輝くよう継承させるようにさせた」としている。
つまり、金日成から金正日、そして金正日から自分(金正恩)への継承は成功しており、だからこそ「党が変質」することもなく、「革命の挫折」もないということである。
「党が変質し、結局、革命の挫折」というのは、社会主義体制が崩壊した東欧の社会主義国を言っているのか、「社会主義市場経済」中国のことを言っているのか分からないが、金正恩が中国で「革命の挫折」としてこれを言っているのであれば興味深い。
しかしながら、「継承は成功」した北朝鮮にも少なからず思想的問題はあるようで、「全党を偉大な金日成-金正日主義で一色化させた信念の結晶体としにしなければならない。全ての幹部と党員が、我が党の革命思想の他には如何なる思想も知らないという絶対不変の信念を抱き、異色的な思想潮流に反対する非妥協的な闘争を展開し、党の思想的純潔性を確固として保障しなければならない」としている。金正恩時代の「異色的な思想潮流に反対する非妥協的な闘争」の象徴は張成沢粛清であるが、少なからず「異色的な思想潮流」が流れ込んでおり、それは断固として排撃すべきだということであろう。
そして、「我々の社会主義制度を内部から崩壊させようという敵共のあらゆる策動を鋭利に見分け、覚醒を持って対応しながら、者会主義花園に資本主義の毒草の小さな芽も絶対に出させないようにしなければならない」とも述べており、上述した「革命の挫折」を狙った「敵共のあらゆる策動」が少なからず存在するという認識を示している。「内部から崩壊」と言っているところに、ある種の危機意識が込められている。
現実的な問題にも言及しており、「全党的に権威主義と官僚主義、不正腐敗行為に反対する闘争を高い強度で展開し、主体革命的党、母なる党の本来の姿を固守し、人民大衆の要求と利益を徹底して擁護しなければならない」と述べている。「権威主義と官僚主義、不正腐敗」は、「朝鮮芸術映画」や「テレビドラマ」の中でもしばしば取り扱われる問題であるが、依然としてその克服が労働党内や政府で大きな問題となっているということであろう。社会主義体制の中で、「権威主義と官僚主義、不正腐敗」をなくすことができれば、「元帥様」は本当の「偉人」になれる。
政府のあり方については、「我々人民政権と社会主義制度をさらに強固で、人民先見が人民大衆の自主的権利の代表者、創造者的能力の組織者、人民生活に対する責任を持つ戸主、人民大衆の自主的で創造的な生活の保護者としての責任と役割を完遂するようにしなければならない。現実発展の要求に合わせ、人民政権の事業体系と方法を改善し、社会に対する国家の統一的指導と経済組織者的機能を強化し、強盛国家建設を力強く主導しなければならない」と述べている。ここに書かれていることは、「現実発展の要求に合わせ」てより分権化するのではなく、「国家の統一的指導と経済組織的機能を強化」することで中央集権化の強化を図ることなのか、政府が経済問題についてきちんと責任を持つことなのか、どちらを言っているのであろうか。国家が「責任を持つ」のは基本的に良いことではあるが、そこからくる非効率と無責任が問題になっていることは、これもしばしば「朝鮮芸術映画」などの題材として取り上げられている。大体、その間に入って問題を解決するのも「朝鮮労働党の幹部」ではあるのだが。
これと関連し、経済問題については「我が党が提示した革命的経済路線と政策を堅持し、人民経済の先行部門を強化することに力を集中させながら、経済強国建設目標を段階的に実現するための闘争を力強く展開しなければならない」と述べている。しかし、「ムジゲ号」が「人民生活の先行部門」かというと首をかしげてしまう。象徴的な「ムジゲ号」の意味は十分に理解できるが、特に平壌以外の「人民生活の先行部門」における「闘争」をもっと「力強く展開」して欲しいものである。
いつもは、教育・体育・文化について熱く語る「元帥様」であるが、今回は実にシンプルに「教育と保健、体育、文化芸術をはじめとした全ての文化分野を社会主義文明国の高さにし、21世紀の新たな文明開花期を切り開いていかない」とだけ述べている。もう少し「義務教育12年制実施」に触れてもよさそうなものだが、どうしたのだろうか。文化については、「功勲国家合唱団とモランボン楽団の合同公演」、「もう一つの国宝的楽団である青峰楽団」の公演があるから、人民はそれで納得して下さいということなのかもししれない。だとすると、これらの公演で「21世紀の新たな文明開化」がどのように展開されるのかが見物である。
「新鮮味がない」と冒頭でケチを付けたが、それなりに書くことはあった。
『労働新聞』、「김 정 은 위대한 김일성,김정일동지 당의 위업은 필승불패이다 조선로동당창건 70돐에 즈음하여 주체104(2015)년 10월 4일」、http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2015-10-06-0001
<追記>
6日夜「朝鮮中央TV」で放送された「今日の報道の中から」を見ていたら、「青年強国」というのは「新しい時代語」と言っていた。気にはなったが、「新しく」ないと思い書かなかったが、そういうことのようだ。