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    「北南高位級接触開催」:中朝国境の様子、「共同報道文」、南北関係はどうなるのか (2015年8月24日 「朝鮮中央通信」)

    25日午前1時少し前に中国から帰ってきた。今年も羅先を訪問する予定であったが、事情があり訪問することができなかった。その代わりに、中朝国境を東端の防川から西端の丹東まで車で移動してみた。図們や丹東から北朝鮮は何回か眺めたが、今回は、両江道や慈江道を眺めた。これについては、別途記事にしようと思う。

    中国に滞在していた期間、南北関係は緊張していた。「朝鮮人民軍最高司令部緊急報道」が『労働新聞』に掲載された21日には、恵山市対岸にある長白市にいたが、鴨緑江越しに眺めた限りでは、緊張した感じはなかった。人民軍兵士が歌っていると思われる歌が聞こえていたが、歌だということが分かる程度で、何の歌なのかは分からなかった。毎朝歌っているのか、「準戦時体制」の時に歌う歌なのかは分からない。

    「朝鮮中央通信」は、24日付けの報道「北南高位級接触開催」で、「共同報道文」を報じている。この「共同報道文」は、25日付けの『労働新聞』にも掲載されているが、同日が「先軍節」だということもあり、金正日関連の記事が多い中、4面に比較的小さく掲載されている。「共同報道文」を全訳しておく。

    ***************
    北南高位級接触開催 共同報道文

    (2015年8月24日 朝鮮中央通信)
    内外の耳目が集中された中、22日、板門店で連日で開催された北南高位級緊急接触が24日に終わった。

    接触では、我々の側から朝鮮労働党中央委員会政治局常務委員会委員であり、朝鮮民主主義人民共和国国防委員会副委員長であり、朝鮮人民軍総政治局長である朝鮮人民軍次帥黄炳瑞同志と朝鮮労働党中央委員会政治局委員であり、党中央委員会秘書である金養建同志が、南側から金寛鎮青瓦台国家安保室室長と洪容杓統一部長官統一部長官が参加した。

    北と南は、接触で軍事的対決と衝突を防ぎ、関係発展を図る上で発生する原則的問題を真摯に合意し、共同報道文を発表した。

    共同報道文は、次のとおりである。

    北南高位級接触共同報道文

    北南高位級接触が2015年8月22日から24日まで板門店で開催された。

    接触には、北側から黄炳瑞朝鮮人民軍総政治局長と金寛鎮党中央委員会秘書、南側から金寛鎮青瓦台国家安保室室長と洪容杓統一部長阿寒が参加した。

    双方は、接触で最近、北南間で高まった先鋭な軍事的緊張状態を解消し、北南関係を発展させるための問題を協議し、次の通り号した。

    1.北と南は、北南関係を改善するための当局会談を平壌あるいはソウルで早い時期に開催し、今後、様々な分野で対話と交渉を開催していくことにした。

    2.北側は、最近、軍事分解線非武装地帯南側地域で発生した地雷爆発により南側軍人が負傷したことについて、遺憾の意を表明した。

    3.南側は、非正常的な事態が発生しない限り、軍事分解線一帯で全ての拡声器放送を8月25日12時から中断する。

    4.北側は、同時に準戦時体制を解除することにした。

    5.北と南は、今年、秋夕(旧盆)契機に離散家族、親戚訪問を行い、今後、継続することとし、このための赤十字実務接触を9月初めに持つこととした。

    6.北と南は、多様な分野での民間交流を活性化することとした。

    2015年8月24日 板門店

    **************************************

    uriminzokkiriが報じた「北南高位級接触」の様子
    20150825 sn talk at pmjflv_000008342
    Source: uriminzokkiri, http://www.uriminzokkiri.com/itv/index.php?ppt=news&st=true&no=28392

    上記のとおり、北側から黄炳瑞、南側からは金寛鎮が出席しているので、重大な決定がなされている。それぞれ、金正恩と朴槿恵の命を受けての決定であろう。特に、1で「当局者会談を平壌またはソウルで開催」とあるように、「会談」のために南北の「当局者」が南北いずれかの首都で「会談」をするというのは、金正恩時代になってから初めてのことである。2014年10月、第17回アジア大会の閉幕式に黄炳瑞一行は参加しているが、公式的には閉幕式に参加しただけで、「会談」とはされていない。韓国報道では、何らかの話し合いが行われたとしているが、北側からの公式発表はなかった。

    一方、今回の事件の発端となった「地雷」を誰がどのように設置したのか、北側が「我々は一発も発射していない」と主張している銃撃事件については、「共同報道文」では一切触れられていない。北朝鮮が「遺憾の意」を表しているが、なぜ「遺憾」なのかはよく分からない。今回の「高位級接触」では、こうした問題がネックになっていたはずであるが、曖昧にしたまま乗り越えたというのは、外交的な成果といえよう。もちろん、南北関係が再び悪化すれば、北朝鮮は「遺憾」の意味を色々と説明することになるはずである。

    興味深いことは、「朝鮮中央通信」の8月22日付けの報道「北南高位級緊急接触が開催される」で南側からの参加者を「大韓民国青瓦台国家安保室金寛鎮室長」と紹介していることである。北朝鮮は「<韓国>」と括弧付きで正式国名を表記することはあるが、「大韓民国」と括弧なしで表記することはまれである(初めてかどうかは分からない。韓国大統領が訪朝した際、正式国名を使って報道した可能性はある)。しかし、この「報道」は「朝鮮中央通信」に留まり、ざっと見た限り『労働新聞』には掲載されていないようだ。『労働新聞』に掲載されていないとすると、やはり南側に配慮しながら南北関係改善に努力をしているという対外的なメッセージであった可能性が高い。なお、同記事の英語や日本語バージョンでも、「Republic of Korea」、「大韓民国」という正式国名が使われている。

    では、今後、南北関係はどのように進展するのだろうか。今日も「先軍節」関連の番組を「朝鮮中央TV」は放送しており、少し前は「元帥様」不参加の「中央報告会」の「録画実況」を流していた。人民武力部長の演説を聞きながら本記事を書いていたが、今回の事案に関する特段の発言はなかった。その後の番組でも、「先軍節」の敵は「米帝」であり、「南朝鮮傀儡」ではないので、反米番組が放送されている。「先軍節」は無事乗り越えることになりそうだ。

    次は9月9日の「建国節」であるが、こちらも節目の年ではないので、軽く「中央報告会」が開催されるだけで終わるのではないだろうか。こちらには「元帥様」の出席があるかもしれない。今年の「秋夕」は、9月26~29日になるので、その前に「赤十字実務接触」が行われれば、離散家族訪問が実現する可能性が高い。「当局者会談」は、恐らく、この「赤十字実務接触」の結果を見た上で行われるのではないだろうか。

    問題は、10月10日の労働党創党70周年記念日である。一連の記念行事だけならばよいが、北朝鮮が記念のロケット発射か核実験を行うと、南北関係の進展は止まってしまう。北朝鮮が上記のいずれかを実施し、国連安保理が非難決議、韓国は当然それに乗るので、「当局者接触」が行われないまま今回の関係改善の雰囲気は霧散してしまうという悪い予感がする。北朝鮮側もそれは十分承知しているはずで、南北関係改善をどれほど真剣に考えているのかは、この辺りで判断できる。もちろん、南側には「南北関係」と「国際関係」を分けて考えるよう要求するであろうが、今回の関係改善を歓迎している米国も、さすがに認めないであろう。

    地雷爆発が発端となった今回の事件だが、北朝鮮としては、「準戦時体制を命令」した「最高司令官同志」の「ベッチャン(勇猛果敢さ)」を朝鮮人民に示し、「南朝鮮」に拡声器による放送を止めさせる「成果」を得て、このような「危険千万」な最中に「新年の辞」で述べた南北関係改善の手を差し出したということになるのであろう。韓国世論の反応については確認していないが、今回の「共同報道文」を韓国側が妥協しすぎたとして朴槿恵政権を非難するのか、南北関係改善への道ができたと評価するのかは、しばらくすれば分かるであろう。

    いずれにせよ、「外交」が緊張緩和に繋がったという点は重要である。「背景には米軍の存在がある」、「『米韓共同局地挑発作戦計画』に基づいて、米軍は初めて韓国軍と共同で北朝鮮の軍事挑発に対処」、「金正恩(キム・ジョンウン)第1書記から対話姿勢を引き出す要因」となったなどと米韓同盟強化を強調する報道もあるが、米軍の存在の影響は否定しないものの、やはり両国の指導者の意を汲んだ高官が直接話し合ったという点を評価すべきである。意識しすぎなのかもしれないが、「集団的自衛権」や「安保関連法案」という文字が行間に見え隠れしているような気がしてならない。

    『産経新聞』、「米韓、挑発に共同対処 新作戦計画、北へ大きな圧力」、http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150824-00000064-san-kr

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    軍事衝突回避歓迎!

    一気に戦争ムードを高めたかと思った矢先に対話とは、北朝鮮もなかなか面白い対応するものだと思いました(状況は全然笑える状態じゃなかったが
    今回は韓国がやり過ぎに感じます
    地雷の話も詳しい検証をしたようには見えませんし、拡声器再開も北朝鮮住民に対して人道的ではありません。
    砲撃も二回としか書かずそれに20発も応戦するという韓国の対応はまずい結果を産み出しそうでしたね。
    北朝鮮も軍が暴走しそうになっていましたが総政治局長を即座に対話に向かわせ何十時間にも及ぶ対話で平和を勝ち取りました。
    やはり平和的手段で問題を解決する方が万倍いいです。
    戦争が再開してしまったら「戦争の3年間」の意味はなんだったのかと思いました。
    ここから関係改善、南北首脳会談までいってもらいたいです

    Re: 軍事衝突回避歓迎!

    コメントありがとうございます。中国に滞在中の出来事だったので、十分フォローできていなかったのですが、宿泊したホテルが北朝鮮が経営するホテルだったので、朝鮮中央テレビは時間があるときに見ていました。

    「緊急接触」に黄炳瑞を出した時点で本気だなと思いましたが、締めくくりとなる報告も「最高司令部本部」で行っているので、今回の「合意」はかなり重みのあるものだと思います。

    南北間での小規模なものも含む軍事的衝突はこれでしばらくは回避できるでしょうが、記事にも書いたとおり、10月10日を契機に核・ミサイルをやってしまうと、流れてしまう可能性が濃厚ですね。今回の事態に大きく関わった「最高司令官同志」が、このまま和解の流れを維持してくれるとよいのですが。

    > 一気に戦争ムードを高めたかと思った矢先に対話とは、北朝鮮もなかなか面白い対応するものだと思いました(状況は全然笑える状態じゃなかったが
    > 今回は韓国がやり過ぎに感じます
    > 地雷の話も詳しい検証をしたようには見えませんし、拡声器再開も北朝鮮住民に対して人道的ではありません。
    > 砲撃も二回としか書かずそれに20発も応戦するという韓国の対応はまずい結果を産み出しそうでしたね。
    > 北朝鮮も軍が暴走しそうになっていましたが総政治局長を即座に対話に向かわせ何十時間にも及ぶ対話で平和を勝ち取りました。
    > やはり平和的手段で問題を解決する方が万倍いいです。
    > 戦争が再開してしまったら「戦争の3年間」の意味はなんだったのかと思いました。
    > ここから関係改善、南北首脳会談までいってもらいたいです
    プロフィール

    川口智彦

    Author:川口智彦
    「크는 아바이(成長するオッサン)」

    ブログの基本用語:
    「元帥様」=金正恩朝鮮労働党委員長(上の絵の人物)、2016年12月20日から「最高領導者同志」とも呼ばれる
    2021年1月11日から「総秘書同志」
    「首領様」=金日成主席
    「将軍様」=金正日総書記
    「政治局員候補」=金ヨジョン(「元帥様」の妹)、2018年2月11日から「第1副部長同志」とも
    「白頭の血統」=金一族
    「大元帥様達」=「首領様」と「将軍様」
    「女史」=李雪主夫人(2018.07.26より「同志」に)

    우 그림은 충정 담아 아이가 그린 경애하는 김정은원수님이십니다.


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