「Dennis Rodman: Kim Jong Un Wants President Obama to ‘Call Him’」:ロッドマン帰国後のインタビュー (2013年3月3日 「abc NEWS」)
abc NEWSのサイトでロッドマンさんの帰国後のインタビューが見られる。番組の冒頭では、「朝鮮中央TV」が放映した彼の訪朝を伝える画像と共に、ロッドマンさんに同行した米カメラマンが撮影したと思われる金・ロッドマンが談笑する動画なども見せている(こちらの動画には、「朝鮮中央TV」のロゴが入っていない)。いずれ、ドキュメンタリーの形で公開されるのであろうが、興味深い。
そもそもバスケットボールに何の興味もない私は、今回の事態に至るまでロッドマンという人物も名前も知らなかった。今回の事態を受けて、若干のリサーチをしてみたが、なかなか話題に尽きない人物のようである。しかし、彼の米国バスケットボール界での立場というのが今一つ分からない。私が子供の頃は、相撲と言えば大鵬、野球と言えば王・長島という名前がすぐに出てきたのだが、米国でバスケットボールといえばロッドマンと言われるほどの人物でもないようだがどうなのだろうか。
そうだとして、金正恩さんがロッドマンを指名してきた背景は、単に彼がロッドマンファンだということだけなのか、あるいはそれ以上にロッドマンのしゃべりに期待したのかということは、今後、今回のロッドマン訪朝を分析していく上で重要なポイントとなろう。
また、過去記事には、「金正恩と会うことは予期していなかった」というようなことを書いたが、彼のインタビューからは、予期していないどころか「金正恩に会いに行った」ような印象を受けた。もしそうであるとすると、「朝鮮中央TV」が報じるまで米国務省も定例記者会見で報道官が話しているように「子供とバスケットボールをしにいっただけ」という程度の情報しか持っていなかったとすれば、これは米国にとっても痛手である。もしかすると、記者につつかれてベントレル報道官が「今回の訪朝について、全くロッドマンとのコンタクトはない」と言っているのも、それを意味しているのかもしれない。さらに、ロッドマンがふらっと1人で行ったわけではなく、番組制作会社VICEのスタッフや現役プレーヤーも連れて行っており、彼らも金正恩さんと握手をしたり話をしたりしている。ロッドマンさんが事前にどれほど予定を知らせれた上で訪朝したのかもいずれ明らかになって来るであろうが、興味深いところである。
さて、番組で話しているロッドマンさんは一言で北朝鮮のことなど全く分かっていない様子である。もしかすると、彼は北朝鮮の核実験や人権侵害にについては、全く事前の知識がないままバスケットボールをしに北朝鮮に行ったのかもしれない。インタビューの中で、キャスターが「北朝鮮は米国を攻撃すると言ってるがどう思うのか」と質問しても、それ何のことというような受け答えしかしていない。また、「金正恩は北朝鮮の収容所に2万人以上を収容している」と言っても、「米国だって同じことをやっている。それが政治だ」と答えている。何回も言われるので、「(金正恩が)悪いことをしたのは嫌だが」と逃げている。
おもしろいのは、金正恩は父や祖父(金正日や金日成)とは違うと何度も言っていることである。核実験も権力や統制が好きなことも全て父や祖父のせいだと言わんばかりである。果たして、ロッドマンさんは金日成や金正日という名前や彼らがどういう人々であるのかということを知っていたのであろうか。もし金正恩さんの父や祖父を知らなかったとすると、「父や祖父とは違う」という言葉は誰かから聞いた言葉の可能性がある。金正恩さんがそう言ったのであればこれはニュースであるが、もしかすると父や祖父に関して知識のある放送制作会社のスタッフが言った言葉を受け売りにしているだけかもしれない。そうだとしても、金正恩さんと対面した多少なりとも北朝鮮に関する知識があるスタッフがそう思ったのであれば、これもニュースである。
また、今回のロッドマン訪朝で、金正恩さんの年齢が確定したのではないだろうか。ロッドマンさんは金正恩さんのことを「28才の子供(kid)」と繰り返し言っている。ロッドマンさんのキャラクターからすると、何も気にせず金正恩さんに年齢を尋ね、本人が「28才だ」と答えたのかもしれない。もしそうだとすると、これもニュースである。西側のメディアや米国務長官ですら上品に「young man」と言っているのに、「kid」呼ばわりするのも実にロッドマンさんらしい。ま、彼の年齢からすれば確かに金正恩さんなど、kidであるわけだが。私も去年の今頃か、拙ブログに職場にいる若者と金正恩さんなどさほど年齢も変わらないのに、金さんのほうがしっかりとしているというようなことを書いた覚えがある。
キャスターはさらに「あなたの友人(金正恩)は、人殺しという人もいるが」とたたみかけると、ロッドマンさんは、「それははもう過ぎたことだ」と答えている。続けて、それは米国でも同じことだと述べ「ビル・クリントンは秘書とオフィスでセックスをしたのにまだ権力がある」とあまり比較にはならないが面白い例を挙げている。クリントンさんのご婦人が現国務長官でなかったのは幸いだ。
そして、再び収容所について聞かれると、「それはそれ、友達は友達、分けて考えるべきだ」と答えている。そして、また北朝鮮を訪問予定だと答えている。さて、調理人・藤本さんは金正恩さんと抱擁し、帰国後メディアで色々話をしたためか、北京まで出かけたものの入国を許されなかった(事前に駄目だといわずに、わざわざ北京の北朝鮮大使館まで出向かせて駄目だというのは、北朝鮮の懲罰であろう)。藤本さんのメディアでの発言を全て聞いたわけではないが、金正恩さんについてそんなに悪いことは言っていなかったはずだ。それにもかかわらず駄目だとなったのだから、金正恩さんを「友人だが、28才の子供」呼ばわりをしたロッドマンさんを北朝鮮が再び入国させるのか、見物である。
北朝鮮にとって米国と日本の重みは全く違うので、kid呼ばわりぐらいは許されるのかもしれない。しかも、金正恩さんは抜け目なくロッドマンさんにオバマさんに対する「電話を掛けてくれ」というメッセージを託している。それに米国がどのように反応するのか、北朝鮮は注視しているはずである。そして、「戦争はやりたくない」と語ったとも言っている。「戦争はやりたくない」という言葉は実に意味深い言葉である。つまり、単に米国にラブコールを送るのであれば、「関係を改善したい」とでも言えばよい。敢えてそう言わずに、「戦争はやりたくない」と言ったのは「関係を改善したい」ということともに「このままで行けばどんどん状況は悪化する。核実験も続けるし、韓国に対する攻撃もするかもしれない」という威嚇も忘れていない。また、「戦争はやりたくない」ということばは、ロッドマンさんのような人には実に理解されやすいメッセージでもある。これ、金正恩さんの口から自然に出た言葉なのか、事前に考えておいた「文句」なのかは分からないが、実に面白い点でもある。
米国務省定例記者会見は日本時間の今夜開かれるであろうが、そこでのやりとりが楽しみだ。
abc NEWS, "Dennis Rodman: Kim Jong Un Wants President Obama to ‘Call Him’",
http://abcnews.go.com/blogs/politics/2013/03/dennis-rodman-kim-jong-un-wants-president-obama-to-call-him/
<追記>
上記について、米国務省定例記者会見で質疑があった。記者は、執拗に「なぜ国務省側からロッドマンにコンタクトをしないのか」と質問しているが、ベントレル報道官は「彼から電話があれば受けるが、こちらかはしない」としている。また、金正恩さんが「オバマ大統領からの電話が欲しい」と言ったことに関し、「米朝間には通常の対話のチャンネルがある」と、要件があるのならばそちらを使えばよいとし、対話をしたいのであれば、スポーツイベントに金を費やすのではなく、その金で人民を食べさせ、さらに国際的な義務を履行してからだと述べている。
中ロの反対で安保理決議の内容もなかなか決められない状況の中で、ロッドマンを使った金正恩の揺さぶりにはそう簡単に乗ってたまるかということであろう。
U.S. Department of State, "Daily Press Briefing",
http://www.state.gov/r/pa/prs/dpb/2013/03/205621.htm#DPRK
そもそもバスケットボールに何の興味もない私は、今回の事態に至るまでロッドマンという人物も名前も知らなかった。今回の事態を受けて、若干のリサーチをしてみたが、なかなか話題に尽きない人物のようである。しかし、彼の米国バスケットボール界での立場というのが今一つ分からない。私が子供の頃は、相撲と言えば大鵬、野球と言えば王・長島という名前がすぐに出てきたのだが、米国でバスケットボールといえばロッドマンと言われるほどの人物でもないようだがどうなのだろうか。
そうだとして、金正恩さんがロッドマンを指名してきた背景は、単に彼がロッドマンファンだということだけなのか、あるいはそれ以上にロッドマンのしゃべりに期待したのかということは、今後、今回のロッドマン訪朝を分析していく上で重要なポイントとなろう。
また、過去記事には、「金正恩と会うことは予期していなかった」というようなことを書いたが、彼のインタビューからは、予期していないどころか「金正恩に会いに行った」ような印象を受けた。もしそうであるとすると、「朝鮮中央TV」が報じるまで米国務省も定例記者会見で報道官が話しているように「子供とバスケットボールをしにいっただけ」という程度の情報しか持っていなかったとすれば、これは米国にとっても痛手である。もしかすると、記者につつかれてベントレル報道官が「今回の訪朝について、全くロッドマンとのコンタクトはない」と言っているのも、それを意味しているのかもしれない。さらに、ロッドマンがふらっと1人で行ったわけではなく、番組制作会社VICEのスタッフや現役プレーヤーも連れて行っており、彼らも金正恩さんと握手をしたり話をしたりしている。ロッドマンさんが事前にどれほど予定を知らせれた上で訪朝したのかもいずれ明らかになって来るであろうが、興味深いところである。
さて、番組で話しているロッドマンさんは一言で北朝鮮のことなど全く分かっていない様子である。もしかすると、彼は北朝鮮の核実験や人権侵害にについては、全く事前の知識がないままバスケットボールをしに北朝鮮に行ったのかもしれない。インタビューの中で、キャスターが「北朝鮮は米国を攻撃すると言ってるがどう思うのか」と質問しても、それ何のことというような受け答えしかしていない。また、「金正恩は北朝鮮の収容所に2万人以上を収容している」と言っても、「米国だって同じことをやっている。それが政治だ」と答えている。何回も言われるので、「(金正恩が)悪いことをしたのは嫌だが」と逃げている。
おもしろいのは、金正恩は父や祖父(金正日や金日成)とは違うと何度も言っていることである。核実験も権力や統制が好きなことも全て父や祖父のせいだと言わんばかりである。果たして、ロッドマンさんは金日成や金正日という名前や彼らがどういう人々であるのかということを知っていたのであろうか。もし金正恩さんの父や祖父を知らなかったとすると、「父や祖父とは違う」という言葉は誰かから聞いた言葉の可能性がある。金正恩さんがそう言ったのであればこれはニュースであるが、もしかすると父や祖父に関して知識のある放送制作会社のスタッフが言った言葉を受け売りにしているだけかもしれない。そうだとしても、金正恩さんと対面した多少なりとも北朝鮮に関する知識があるスタッフがそう思ったのであれば、これもニュースである。
また、今回のロッドマン訪朝で、金正恩さんの年齢が確定したのではないだろうか。ロッドマンさんは金正恩さんのことを「28才の子供(kid)」と繰り返し言っている。ロッドマンさんのキャラクターからすると、何も気にせず金正恩さんに年齢を尋ね、本人が「28才だ」と答えたのかもしれない。もしそうだとすると、これもニュースである。西側のメディアや米国務長官ですら上品に「young man」と言っているのに、「kid」呼ばわりするのも実にロッドマンさんらしい。ま、彼の年齢からすれば確かに金正恩さんなど、kidであるわけだが。私も去年の今頃か、拙ブログに職場にいる若者と金正恩さんなどさほど年齢も変わらないのに、金さんのほうがしっかりとしているというようなことを書いた覚えがある。
キャスターはさらに「あなたの友人(金正恩)は、人殺しという人もいるが」とたたみかけると、ロッドマンさんは、「それははもう過ぎたことだ」と答えている。続けて、それは米国でも同じことだと述べ「ビル・クリントンは秘書とオフィスでセックスをしたのにまだ権力がある」とあまり比較にはならないが面白い例を挙げている。クリントンさんのご婦人が現国務長官でなかったのは幸いだ。
そして、再び収容所について聞かれると、「それはそれ、友達は友達、分けて考えるべきだ」と答えている。そして、また北朝鮮を訪問予定だと答えている。さて、調理人・藤本さんは金正恩さんと抱擁し、帰国後メディアで色々話をしたためか、北京まで出かけたものの入国を許されなかった(事前に駄目だといわずに、わざわざ北京の北朝鮮大使館まで出向かせて駄目だというのは、北朝鮮の懲罰であろう)。藤本さんのメディアでの発言を全て聞いたわけではないが、金正恩さんについてそんなに悪いことは言っていなかったはずだ。それにもかかわらず駄目だとなったのだから、金正恩さんを「友人だが、28才の子供」呼ばわりをしたロッドマンさんを北朝鮮が再び入国させるのか、見物である。
北朝鮮にとって米国と日本の重みは全く違うので、kid呼ばわりぐらいは許されるのかもしれない。しかも、金正恩さんは抜け目なくロッドマンさんにオバマさんに対する「電話を掛けてくれ」というメッセージを託している。それに米国がどのように反応するのか、北朝鮮は注視しているはずである。そして、「戦争はやりたくない」と語ったとも言っている。「戦争はやりたくない」という言葉は実に意味深い言葉である。つまり、単に米国にラブコールを送るのであれば、「関係を改善したい」とでも言えばよい。敢えてそう言わずに、「戦争はやりたくない」と言ったのは「関係を改善したい」ということともに「このままで行けばどんどん状況は悪化する。核実験も続けるし、韓国に対する攻撃もするかもしれない」という威嚇も忘れていない。また、「戦争はやりたくない」ということばは、ロッドマンさんのような人には実に理解されやすいメッセージでもある。これ、金正恩さんの口から自然に出た言葉なのか、事前に考えておいた「文句」なのかは分からないが、実に面白い点でもある。
米国務省定例記者会見は日本時間の今夜開かれるであろうが、そこでのやりとりが楽しみだ。
abc NEWS, "Dennis Rodman: Kim Jong Un Wants President Obama to ‘Call Him’",
http://abcnews.go.com/blogs/politics/2013/03/dennis-rodman-kim-jong-un-wants-president-obama-to-call-him/
<追記>
上記について、米国務省定例記者会見で質疑があった。記者は、執拗に「なぜ国務省側からロッドマンにコンタクトをしないのか」と質問しているが、ベントレル報道官は「彼から電話があれば受けるが、こちらかはしない」としている。また、金正恩さんが「オバマ大統領からの電話が欲しい」と言ったことに関し、「米朝間には通常の対話のチャンネルがある」と、要件があるのならばそちらを使えばよいとし、対話をしたいのであれば、スポーツイベントに金を費やすのではなく、その金で人民を食べさせ、さらに国際的な義務を履行してからだと述べている。
中ロの反対で安保理決議の内容もなかなか決められない状況の中で、ロッドマンを使った金正恩の揺さぶりにはそう簡単に乗ってたまるかということであろう。
U.S. Department of State, "Daily Press Briefing",
http://www.state.gov/r/pa/prs/dpb/2013/03/205621.htm#DPRK